説明

セルロースアセテート混繊糸の製造方法

【課題】ジアセテート繊維とトリアセテート繊維の両素材を紡糸時に混繊することで嵩高性と風合いに優れたセルロースアセテート混繊糸を効率的に製造する。
【解決手段】ジアセテート繊維とトリアセテート繊維を同時に紡出し、混繊するセルロースアセテート混繊糸の製造方法において、下記の(1)〜(3)を満たす製造方法。
(1)0.15<Vf/Vja<0.50、且つ、1200<Vja<1650
(2)0.15<Vf/Vjb<1.20、且つ、200<Vjb<1650
(3)300≦Vf≦700
式中、Vfは紡出時の引き取り速度(m/分)、Vjaは、ジアセテート繊維の紡糸原液の紡糸ノズルからの吐出線速度(m/分)、Vjbは、トリアセテート繊維の紡糸原液の紡糸ノズルからの吐出線速度(m/分)を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嵩高性と風合いに優れた特徴を有する、セルロースアセテート混繊糸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアセテート繊維は主原料が天然パルプであり、半合成繊維といわれ天然繊維の特徴も併せ持つ特徴的な繊維である。即ち、セルロースアセテート繊維は優雅な光沢、深みのある色調、発色性、ドライ感、更には適度な吸湿性等の衣料用繊維として数多くの優れた特性を有することから、他の合成繊維とは異なった高級衣料用素材として位置付けられてきた。
一方で、特許文献1には、皺になりにくくふっくらとした嵩高・軽量感が付与されたセルロースアセテート繊維素材を提供することを目的として、後加工での熱水処理時にセルロースアセテート繊維を伸長させる方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−115329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された実施例においては伸長率(BWS)が5%未満であり、嵩高性及びソフトな風合いという点では効果が少なく、消費者ニーズの多様化に合わせた、極度な嵩高性やソフト差の表現は困難であった。
また、伸長性の異なる他繊維との混繊加工によって得られるものであり、紡糸工程で巻き取られた繊維束がそのまま効果を発揮するものではなかった。従って、後加工工程の手間や工程中での不良発生などのリスクがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は、ジアセテート繊維とトリアセテート繊維からなる混繊糸であり具体的には下記(1)〜(3)を満たす条件にてジアセテート繊維とトリアセテート繊維を同時に紡出し、捲き取る混繊糸の製造方法にある。
(1)0.15<Vf/Vja<0.50、且つ、1200<Vja<1650
(2)0.15<Vf/Vjb<1.20、且つ、200<Vjb<1650
(3)300≦Vf≦700
(収縮率が負の値とは、伸長していることを示す。)
式中、Vfは紡出時の引き取り速度(m/分)、Vjaは、ジアセテート繊維の紡糸原液の紡糸ノズルからの吐出線速度(m/分)、Vjbは、トリアセテート繊維の紡糸原液の紡糸ノズルからの吐出線速度(m/分)を示す。
【発明の効果】
【0006】
本発明の混繊糸は、ジアセテート繊維とトリアセテート繊維の両素材を紡糸時に混繊することで嵩高性と風合いに優れたセルロースアセテート混繊糸を効率的に混繊できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のセルロースアセテート混繊糸は、ジアセテート繊維とトリアセテート繊維は下記(1)〜(3)を満たす条件にて製造することが必要である。
(1)0.15<Vf/Vja<0.50、且つ、1200<Vja<1650
(2)0.15<Vf/Vjb<1.20、且つ、200<Vjb<1650
(3)300≦Vf≦700
式中、Vfは紡出時の引き取り速度(m/分)、Vjaは、ジアセテート繊維の紡糸原液の紡糸ノズルからの吐出線速度(m/分)、Vjbは、トリアセテート繊維の紡糸原液の紡糸ノズルからの吐出線速度(m/分)を示す。
【0008】
本発明を実施するに当たり、Vf/Vjaが0.15以下の場合、及びVf/Vjaが0.50以上の場合、引き取り速度に乾燥挙動が追いつかず、連続紡糸が不安定となり好ましくない。
また、Vjaが1200以下の場合、繊維軸方向への十分な乾燥歪が形成されず、目標とする伸長率が得られない。更に、Vjaが1650以上の場合、吐出方向に乱れを生じ、連続紡糸が不安定となり好ましくない。
【0009】
一方、Vf/Vjbが0.15以下の場合、及びVf/Vjbが1.20以上の場合もジアセテート繊維と同様の問題が生じ、好ましくない。
また、Vjbが200以下の場合、原料の送液量が減少し、吐出量が不安定となり好ましくない。更に、Vjbが1650以上の場合、吐出方向に乱れを生じ、連続紡糸が不安定となり好ましくない。
【0010】
また、Vfが300より小さい場合、生産性が低くなり、Vfが700を超える場合、2成分の交絡付与性が劣り、十分な異収縮特性を発揮できない。
【0011】
本発明は、混繊糸を構成するジアセテート繊維とトリアセテート繊維はジアセテート繊維の伸長率が5%以上、且つ、トリアセテート繊維の収縮率が0%以上であることが好ましい。
ジアセテート繊維の伸長率が5%未満であると、従来知られた嵩高性やソフト感のままであり、消費者ニーズの多様化に合わせた、極度な嵩高性やソフト差の表現は困難である。
一方、トリアセテート繊維の収縮率が0%未満となる場合も極度な嵩高性やソフト差の表現は困難である。
【0012】
また、ジアセテート繊維とトリアセテート繊維の繊度比がジアセテート繊維/トリアセテート繊維<0.5であると、ジアセテート繊維の伸長特性が得られる混繊糸の風合いに寄与されにくくなり、ジアセテート繊維の単繊維繊度が6dtex以上であると風合いは硬くなり好ましくない。
本発明を実施するに当たってはセルローストリアセテートの紡糸原液とセルロースジアセテート紡糸原液を夫々別の紡糸口金より、両口金間に所定の距離を設け同時に紡糸する。紡糸に当たっては各紡糸錘の間隔を予め定めて設定する。各紡糸錘から吐出され乾式紡糸された糸条はエアー交絡し混繊糸となる。
【0013】
本発明の混繊糸を含む織編物は、他の繊維と交織・交編または交撚等により複合しているが、これらの場合、本発明の混繊糸が20質量%以上含まれていることが好ましい。20質量%未満になると膨らみ感の効果が得られにくい。
【0014】
以下、実施例をあげて本発明を説明する。なお、各評価は以下の方法に従った。
【0015】
〔熱水収縮率〕
1dtexあたり1/27gの張力下で試長1mの10回捲き綛を準備し、1dtexあたり2/2.7gの荷重を負荷して初期綛長(L0)を測定する。前記綛を無荷重状態で120℃の熱水中に30分間浸漬した後、再び荷重をかけて測定綛長(L1)を測定し、次式より算出する。
熱水収縮率(%)=(L0−L1)/L0×100
〔強伸度の測定〕
JIS−L1013−8.5(引っ張り強さ及び伸び率)に準拠して求めた。測定は、強伸度測定器(オリエンテック社製、製品名:RTA−500)を用いて測定した。
〔嵩高性〕
嵩高性は、JIS−L1018法により測定した。
【実施例】
【0016】
(実施例1〜8)
水酸基の97%が酢酸化されているセルローストリアセテートを塩化メチレン/メタノールの混合溶剤に溶解した紡糸原液と、水酸基の80.3%が酢酸化されているセルロースジアセテートを塩化メチレン/メタノールの混合溶剤に溶解した紡糸原液とを隣り合う紡糸錘の間隔を15cmとして、それぞれ下記表1及び表2記載の条件にて乾式紡糸を行い、引き続き糸条に対して垂直な方向から圧縮空気流を作用させるインターレース・ノズルを用いて、35個/mの交絡を与えて、セルローストリアセテート繊維とセルロースジアセテート繊維からなる混繊糸を得た。
得られた混繊糸を30ゲージで編成した8cm巾の筒編地とし、120℃で30分間の熱水処理をしたところ、編地は膨らみ感の強い風合いを有していた。
【0017】
(比較例1)
実施例2と同様に、下記表1及び表2記載の比較例1に記した条件にて乾式紡糸を行い、糸条に対して垂直な方向から圧縮空気流を作用させるインターレース・ノズルを用いて、35個/mの交絡を与えて、40dtexのセルローストリアセテート繊維と40dtexのセルロースジアセテート繊維からなる混繊糸を得た。
得られた混繊糸を30ゲージで編成した8cm巾の筒編地とし、120℃の熱水処理をしたところ、編地は膨らみ感の弱い風合いのものであった。
【0018】
(比較例2)
実施例1〜8と同様に、下記表1及び表2記載の比較例3に記した条件にて乾式紡糸を行い、エアー交絡にて絡みを与えて、80dtexのセルローストリアセテート繊維と25dtexのセルロースジアセテート繊維からなる混繊糸を得た。
得られた混繊糸を筒編とし、120℃の熱水処理をしたところ、編地は膨らみ感の弱い風合いのものであった。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
(実施例9)
実施例2で得られたセルロースアセテート混繊糸と、33dtex12fで熱水処理時の収縮差により自己捲縮発現性を有するポリエステル繊維とをエアー混繊し、113dtex35fのフィラメント混繊糸を製造、平織物(経:174本/吋、緯:97本/吋)を作成し、染色後、170℃で1分の乾熱処理を実施した。得られた織物(経:190本/吋、緯:98本/吋)は嵩高性に優れ、膨らみ感のあるソフトな風合を有していた。この織物の嵩高性は、3.6cm3 /gであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアセテート繊維とトリアセテート繊維を同時に紡出し、混繊するセルロースアセテート混繊糸の製造方法において、下記の(1)〜(3)を満たす製造方法。
(1)0.15<Vf/Vja<0.50、且つ、1200<Vja<1650
(2)0.15<Vf/Vjb<1.20、且つ、200<Vjb<1650
(3)300≦Vf≦700
式中、Vfは紡出時の引き取り速度(m/分)、Vjaは、ジアセテート繊維の紡糸原液の紡糸ノズルからの吐出線速度(m/分)、Vjbは、トリアセテート繊維の紡糸原液の紡糸ノズルからの吐出線速度(m/分)を示す。

【公開番号】特開2009−256830(P2009−256830A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107152(P2008−107152)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】