説明

セルロースエステル系複合糸及びその製造方法、並びにその織編物

【課題】セルロースエステル系繊維特有のドライタッチ感や光沢感と、膨らみ感を有するシルキー調の布帛を得ることのできる、セルロースエステル系複合糸とその製造方法並びにその複合糸を使った織編物を提供する。
【解決手段】複合糸は、セルロースエステル系フィラメント捲縮糸と他のフィラメント糸とからなる。その主に外層部を形成する少なくとも1本の糸条が、残留伸度25%以上40%以上であり、且つ捲縮率が3%以上であるセルロースエステル系フィラメント捲縮糸(1a)である。他のフィラメント糸(2) の少なくとも1本は上記セルロースエステル系フィラメント捲縮糸(1a)より3%以上高い熱水収縮率を有する熱可塑性フィラメント糸を含んでいる。複合糸の長手方向には3mm以上25mm以下の間隔で交絡部を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドライタッチ感や光沢感と、膨らみ感を有するシルキー調のセルロースエステル系複合糸及びその製造方法並びにその織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロースエステル系繊維、特にアセテート系繊維は独特のドライタッチ感や優れた発色性、光沢感を有し、種々の織編物に提供されている。また、近年では膨らみ感やストレッチ性を付与する目的で仮撚加工や他繊維との複合糸、或いはそれらの複合織編物が提案されている。
【0003】
一般的に多く用いられているセルロースエステル系フィラメント糸の代表的な繊維としては、アセチル基を置換したセルロースアセテートからなるアセテート系繊維がある。
従来のアセテート繊維は他の熱可塑性繊維に比べ繊維の強度が弱いため、単独での糸加工や織編物への利用範囲が制限されるものであるが、ポリエステル繊維などに代表される熱可塑性繊維との複合手段を用いて糸条としての強度を増すことで、より広範囲の衣料へ応用する提案がなされている。しかし、これらの熱可塑性繊維との複合は、その複合手段である混繊交絡や仮撚などの糸加工、或いは準備工程、製編織工程などにおけるアセテート繊維に対する外力を大幅に減少させるものではない。強度が低いアセテート繊維の断糸や、熱特性の違いによる熱可塑性繊維との間における糸割れが生じるなど取り扱いが煩雑であり、工程管理や品位安定化は未だ不十分である。
【0004】
こうしたアセテート繊維と熱可塑性繊維との複合技術は、例えば、特許第3288287号公報(特許文献1)及び特開2004−332164号公報(特許文献2)などによる提案がなされている。これらの文献による提案の概要は、アセテート繊維と熱可塑性繊維を混繊後、仮撚加工を施すことで織編物に膨らみ感を与えるものである。しかし、混繊交絡工程でアセテート繊維に損傷を与え、更に仮撚工程における加撚及び熱処理の作用によりアセテート繊維への損傷が倍化することで毛羽の発生や断糸が生じやすい。また、仮撚における加撚、解撚工程ではアセテート繊維への損傷と共に混繊交絡度合いを低下させ、アセテート繊維と熱可塑性繊維との糸割れを生じさせる。このことがその後の準備工程や製編織工程でのトラブルの原因となる。
【0005】
また、例えば特開2007−321297号公報(特許文献3)では特定のアセテート繊維を用いることで前述のアセテート繊維への損傷を抑制する提案がなされている。この提案において、アセテート繊維の毛羽、断糸は低減されるものの、加撚、解撚作用により混繊交絡度合いを低下させ、且つ熱処理により熱収縮特性の異なるアセテート繊維と熱可塑性繊維との糸割れが生じる。このように、従来のアセテート繊維と熱可塑性繊維との複合手段では、準備工程や製編織工程などでの工程通過性の問題を十分に解決しているとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3288287号公報
【特許文献2】特開2004−332164号公報
【特許文献3】特開2007−321297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はセルロースエステル系繊維特有のドライタッチ感や光沢感と、膨らみ感を有するシルキー調の布帛を得ることのできる、セルロースエステル系複合糸及びその製造方法と同複合糸を使った織編物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の基本構成は、残留伸度25%以上40%以下、捲縮率3%以上であるセルロースエステル系フィラメント捲縮糸と他のフィラメント糸とからなり、前記セルロースエステル系フィラメント捲縮糸が主に外層部を形成されてなるセルロース系複合糸であって、長手方向に3mm以上25mm以下の間隔で交絡部を有するセルロースエステル系複合糸にある。
他のフィラメント糸はセルロースエステル系フィラメント捲縮糸より3%以上高い熱水収縮率を有する熱可塑性フィラメント糸であることが好ましい。
【0009】
また本発明の第2の基本構成は、アセチル基の平均置換度が2.22以上3.00以下で35%以上の破断伸度を有するセルロースアセテートフィラメント糸に仮撚加工を施し、残留伸度25%以上40%以下で且つ捲縮率が3%以上であるセルロースエステル系フィラメント捲縮糸とし、セルロースエステル系フィラメント捲縮糸と他のフィラメント糸に緩和率1%以上10%以下の緩和状態において、インターレースノズル又は流体撹乱ノズルを用いて混繊交絡を施すセルロースエステル系複合糸の製造方法にある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の複合糸を得るための装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面及び表を参照しながら具体的に説明する。
既述のとおり、本発明のセルロースエステル系複合糸(以下、単に複合糸と標記する。)はセルロースエステル系フィラメント捲縮糸の残留伸度が25%以上40%以下であることが好ましい。残留伸度が25%より小さい場合には、他のフィラメント糸との複合混繊工程や撚糸工程、製編織工程での外部応力により毛羽の発現・脱落や断糸の発生が著しく、これを布帛とした時にはスパン調の風合いは得られるものの、シルキー調の膨らみ感は得られない。残留伸度が40%を越えると混繊斑や前述の各工程中の外部応力によりループの飛び出しなどが発現し、均一な品位のシルキー調の布帛を得ることができない。
【0012】
主に複合糸の外層部を形成するセルロースエステル系フィラメント糸が捲縮糸であることで布帛に適度な膨らみ感を与えるものであり、このための捲縮率は3%以上であることが好ましい。3%未満では撚糸による撚拘束や製編織による糸同士の拘束により、布帛に膨らみ感を与える捲縮の発現が阻害されることとなり、本発明の布帛を得られない。また過度に高い捲縮率は布帛にカサツキや粗硬感を与えると共に、仮撚加工での毛羽の発現を生じるため、捲縮率は3%以上35%以下がより好ましい。
【0013】
本発明の複合糸には3mm以上25mm以下の間隔で交絡部を有することが必要である。交絡部の間隔は、セルローエステル系フィラメント捲縮糸と他のフィラメント糸とが開繊されている交絡部と交絡部との間の間隔であり、この部分での捲縮発現が布帛に膨らみ感をもたらすものである。従って、この交絡部間の間隔が3mmより短いと膨らみ感をもたらすための捲縮発現が不十分であると共に、交絡部が多いため、これを用いた布帛は硬い感触となる。また交絡部間の間隔が25mmを越えるとセルロースエステル系捲縮糸と他のフィラメント糸とが乖離しやすいため、準備工程、製編織工程での糸割れを誘発し、工程通過性や布帛表面に不要なループの飛び出し、イラツキの発生による品位低下などの問題が生じる。交絡部間の間隔が上記数値範囲を外れると、共に本発明の複合糸によるシルキー調の布帛を得ることはできない。
【0014】
本発明の複合糸に供するセルロースエステル系フィラメント捲縮糸はセルロースエステル系フィラメント糸に通常の仮撚法により捲縮付与されるものである。一般的な仮撚の施撚手段にはピンタイプ、フリクションディスクタイプ、ベルトニップタイプなどがあるが、フリクションディスクやベルトなどの摩擦により毛羽の発生や弱糸化のため、本発明の複合糸を得ることは難しい。従って、ピンタイプでの仮撚捲縮付与が好ましい。
【0015】
本発明の複合糸に供するセルロースエステル系フィラメント糸にはセルロースの有する水酸基の一部又は全部がアセチル基に置換されたセルロース誘導体からなり、その平均置換度に応じて、一般的に平均置換度が2.76以上3.00以下のセルローストリアセテートや、平均置換度が2.22以上2.60未満のセルロースジアセテートなどの最も汎用的に使用されているセルロースアセテートが挙げられる。或いは平均置換度が2.3〜3.0のセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレートなどのセルロースエステルも挙げられる。
【0016】
最も汎用的に使用されているセルロースアセテート糸の仮撚加工は、通常、数%程度の緊張下で加撚、熱処理、解撚の工程を経て捲縮付与されるものである。従って、本発明の25%以上40%以下の伸度を有するセルロースエステル系フィラメント捲縮糸を得るには、少なくとも仮撚時のアンダーフィード量を加味した破断伸度を有したセルロースエステル系フィラメント糸でなければならない。即ち、35%以上の破断伸度を有することが必要である。
【0017】
該セルロースエステル系フィラメント糸を得る製造方法として乾式紡糸法や溶融紡糸法などの公知の紡糸方法が挙げられるが、ここでは最も工業的、汎用的に使用されている乾式紡糸法によるセルロースアセテートを用いた場合について説明する。35%以上の破断伸度を有するセルロースアセテートフィラメント糸を得る乾式紡糸法においては以下の条件(1)(2)を満たすことが必要である。
(1)紡糸ドラフトVdは、0.45以上0.65以下であり、
(2)吐出線速度Vjは、950(m/min)以下である。
ここで、紡糸ドラフトVd=紡出糸の捲取速度Vf(m/min)/紡糸ノズルからの吐出線速度Vj(m/min)の関係にある。
【0018】
紡糸ドラフトが0.45未満では製糸性が不安定で糸切れの発生や品質低下、更には繊維側面にうねりを有するヒダや繊維長さ方向に直交する方向に微細な凹凸が発現しセルロースエステル系フィラメント糸特有の光沢感が低下する。紡糸ドラフトVdが0.65を超えると破断伸度が35%以上のフィラメント糸を得られない。また、紡糸ノズルからの吐出線速度Vjが950m/minを超えると、前述の繊維側面にうねりを有するヒダや繊維長さ方向に直交する方向に微細な凹凸の発現などによりセルロースエステル系フィラメント糸特有の光沢感が低下する。なお、上記ドラフトを採用することにより、繊維構造がルーズになるため濃染化効果も得ることができる。
【0019】
また、他の紡糸方法である溶融紡糸法においても、例えば特開2005−248341号公報や特開2005−256184号公報などの特許文献に開示されている手段により、35%以上の伸度を有するセルロースエステル系フィラメント糸を得ることができる。
【0020】
本発明の複合糸はセルロースエステル系フィラメント捲縮糸と他のフィラメント糸とからなる複合糸であり、他のフィラメント糸が前記のセルロースエステル系フィラメント捲縮糸であっても、本発明の複合糸を得ることができる。しかし布帛に一層の膨らみ感、ハリコシや布帛強度などを付与するためには他のフィラメント糸として熱可塑性繊維を用いるのが好ましい。
【0021】
該熱可塑性繊維はセルロースエステル系フィラメント捲縮糸より、3%以上の熱水収縮率差を有することが好ましい。熱水収縮率差が3%未満の場合、染色などの熱処理工程に於いてセルロースエステル系フィラメント捲縮糸が複合糸の外層部を形成し難く、布帛の膨らみ感が得難い。しかし過度の熱水収縮率差は硬い風合いの布帛となり好ましくなく、熱水収縮率差は3%以上20%以下であることがより好ましい。他のフィラメント糸として供される熱可塑性繊維には、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系の繊維が一般的で好ましいが、繊維の断面形状、糸長手方向における繊度斑や異染性、分散染料可染性やカチオン染料可染性、常圧可染性、コンジュゲート糸など種々の特性を有し、コスト優位性のあるポリエチレンテレフタレート繊維が工業的に更に好ましい。
【0022】
本発明の複合糸は3mm以上25mm以下の間隔で交絡部を有するものである。この交絡構造を得る手法としてインターレースや流体撹乱による混繊交絡法が一般的であり工業的に好ましく、特に本発明のシルキー調の膨らみ感を得るにはアーチ状のループを形成するインターレースがより好ましい。
【0023】
セルロースエステル系フィラメント捲縮糸と他のフィラメント糸を混繊交絡するとき、その緩和率は1%以上10%以下であることが好ましい。緩和率が1%以下では3mm以上25mm未満の間隔の交絡部が得られない。緩和率が10%を超えると、インターレースでは、ネップや毛羽の発生など均質な複合糸が得られない。また、流体撹乱では3mm未満の交絡部の間隔が多くなると共にアーチ状ではない閉ループが多くなり、シルキー調の膨らみ感は得られず、ファスナー現象による工程通過性の問題も生じ、共に工業的な安定生産が困難であり好ましくない。
【0024】
また、混繊交絡ノズルに供給量格差を設けることで、より膨らみ感を有する本発明の複合糸を得ることができる。この場合、他のフィラメント糸に対しセルロースエステル系捲縮糸の供給量を多くすることが好ましく、その供給量差は7%以下であることが好ましい。7%を超えると前述のネップ、毛羽の発生や閉ループの増加による工程通過性の問題などが生じるため好ましくない。
【0025】
混繊交絡ノズルに供給するエアー圧力は特に規定されるものではないが、過小のエアー圧力では3mm以上25mm以下の間隔の交絡部が得られず、過大のエアー圧力では毛羽や糸切れが生じる。従い、混繊交絡ノズルに供給するエアー圧力は0.1Mpa以上0.5Mpa以下が好ましい。
【0026】
図1は、本発明の複合糸を得るための装置の一例を示す模式図である。その製造工程の概略を図中の符号に従って説明する。
図中の符号1はセルロースエステル系フィラメント糸であり、供給ローラ3、ヒータ4、仮撚スピンドル5、第1引取りローラ6を経て、セルロースエステル系捲縮糸1aとなる。他のフィラメント糸2は、最初に第1引取りローラ6に供給されるため、該ローラ6からはセルロースエステル系捲縮糸1aと他のフィラメント糸2とが引き揃えられて排出される。第1引取りローラ6とから引き揃えられて排出されるセルロースエステル系捲縮糸1a及び他のフィラメント糸2は、次いで第2引取りローラ8との間に設けられた混繊交絡ノズル7に供給されて所定の交絡処理の施された複合糸10となり、第2引取りローラ8を介して巻き取りローラ9によって巻き取られる。
【0027】
なお、図1に示す装置では、通常の仮撚機に混繊交絡ノズルを設け、セルロースエステル系フィラメント糸1をセルロースエステル系捲縮糸1aとするとともに、引き続いて他のフィラメント糸2を引き揃えて混繊交絡処理を施し、1ステップで複合糸10を得るものであるが、セルロースエステル系捲縮糸1aを一旦チーズ、ボビンなどに巻き取り、その後に他のフィラメント糸2と混繊交絡処理を施す2ステップの手法を用いても本発明の複合糸10を得ることができる。前述の手法により得られた複合糸は毛羽、ファスナー現象を生じることがないため、追撚をすることなくシルキー調の織編物の布帛とすることができる。また通常の追撚や他の繊維との合撚或いは交編織の手法により、織編物の用途、アイテムに合わせたハリコシ感やドレープ性、ストレッチ性など布帛性能の向上を図ることができる。
【実施例】
【0028】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。
「交絡部の間隔」
交絡部の間隔はROTHSCHILD社製エンタングルメントテスタ R−2071/72型測定器を用い、測定速度1.2m/minの条件で10回測定し、その平均値(mm)を交絡部の間隔とした。
「伸度」
ORIENTEC製 TENSILON UCT−1T型を用い、試長20cm、伸長速度20cm/minの条件で10回測定し、その破断伸度の平均値を捲縮糸の残留伸度(若しくはフィラメント糸の破断伸度)とした。
【0029】
(実施例1)
水酸基の97%が酢酸化されているセルローストリアセテートを塩化メチレン/メタノールの混合溶剤に溶解した紡糸原液を丸型孔を有する紡糸口金より、吐出線速度Vjが652m/minで吐出し、紡糸ドラフトVdを0.46、捲取速度Vfが300m/minで巻き取り、破断伸度44%、84デシテックス/20フィラメントのセルローストリアセテート繊維を得た。
【0030】
ここで得られたセルローストリアセテート繊維に、三菱重工製LS−6型仮撚機を用いて仮撚加工を施し、残留伸度は37%、捲縮率が5.4%、熱水収縮率は1.2%のセルローストリアセテート捲縮糸を得た。引き続き、他のフィラメントとして、熱水収縮率が7.5%、11デシテックス/4フィラメントのポリエステルフィラメント糸と引き揃えてインターレースノズルで混繊処理を施し、交絡部の間隔が5.6mmの98デシテックス/24フィラメントの複合糸を得た。このときの糸加工速度は100(m/min)、仮撚数2000T/M(Z)、仮撚温度160℃、混繊交絡の緩和率は+4%、空気圧力0.2Mpaであった。
【0031】
次いで、この複合糸を24ゲージの筒編機を用いて編地を作成し、120℃、20分の高圧染色処理を施して乾燥後に編地の風合い評価を行った。この編地はセルローストリアセテート繊維の光沢感と仮撚捲縮による従来にない膨らみ感を有するシルキー調の風合いであった。
【0032】
(実施例2)
実施例1で得られたセルローストリアセテート捲縮糸と、他のフィラメントとして、熱水収縮率が17%、33デシテックス/24フィラメントのポリエステルフィラメント糸を用い、実施例1と同様の手法により、交絡部の間隔が5.8mmの120デシテックス/44フィラメントの複合糸を得た。この複合糸を用い実施例1と同様に編地を評価した。この編地は実施例1で得られた編地同様にセルローストリアセテート繊維の光沢感と共に膨らみ感とハリ感に優れた風合いであった。
【0033】
(実施例3)
水酸基の97%が酢酸化されているセルローストリアセテートを塩化メチレン/メタノールの混合溶剤に溶解した紡糸原液を丸型孔を有する紡糸口金より、吐出線速度Vjが870m/minで吐出し、紡糸ドラフトVdを0.46、捲取速度Vfが400m/minで巻き取り、84デシテックス/27フィラメント、破断伸度39.6%のセルローストリアセテート繊維を得た。
【0034】
ここで得られたセルローストリアセテート繊維に三菱重工製LS−6型仮撚機を用いて仮撚加工を施し、残留伸度35.6%、捲縮率11.8%、熱水収縮率1.2%のセルローストリアセテート捲縮糸を得た。引き続き、他のフィラメントとして、熱水収縮率が12%、33デシテックス/12フィラメントのポリエステルコンジュゲートフィラメント糸とを引き揃えて、実施例1と同様の手法により、交絡部の間隔が4.3mmの120デシテックス/39フィラメントの複合糸を得た。このときの糸加工速度は100m/min、仮撚数2500T/M(Z)、仮撚温度160℃、混繊交絡の緩和率は+4%、空気圧力0.15Mpaであった。
この複合糸を用いて実施例1と同様に編地を作成し風合い評価をした。この編地は光沢感、膨らみ感と共に反撥感とストレッチ性に優れた風合いであった。
【0035】
(比較例1)
実施例1で得られた、84デシテックス/20フィラメント、破断伸度44%、熱水収縮率0.8%のセルローストリアセテート繊維に捲縮加工を施すことなく、他のフィラメントとして、熱水収縮率が17%、33デシテックス/24フィラメントのポリエステルフィラメント糸とを引き揃えて実施例1と同様の手法により、交絡部の間隔が4.4mmの120デシテックス/44フィラメントの複合糸を得た。
次いで、実施例1と同様に編地を作成し、風合い評価をした。この編地は、光沢感はあるものの、膨らみ感に乏しい風合いであった。
【0036】
(比較例2)
水酸基の97%が酢酸化されているセルローストリアセテートを塩化メチレン/メタノールの混合溶剤に溶解した紡糸原液を用い、吐出線速度(Vj)960m/min 、紡糸ドラフト(Vd)0.78、捲取速度(Vf)750m/min で巻き取る、定法の乾式紡糸法により得られた、破断伸度28%、84デシテックス/20フィラメントのセルローストリアセテート繊維を用いて、実施例1と同様の手法により、残留伸度22%、捲縮率6%、熱水収縮率0.8%のセルローストリアセテート捲縮糸を得た。引き続き、他のフィラメントとして熱水収縮率が7.5%、11デシテックス/4フィラメントのポリエステルフィラメント糸と引き揃えて、実施例1と同様の手法により、交絡部の間隔が19.3mmの120デシテックス/24フィラメントの複合糸を得た。
この複合糸の表面には多数の毛羽があり、またインターレースノズル周辺に風綿が堆積し、工業生産は困難と思われる。この複合糸の編地は複合糸表面の毛羽により、光沢感と膨らみ感が乏しい、スパン調の風合いであった。
【0037】
(比較例3)
実施例1のセルローストリアセテート捲縮糸と他のフィラメントとして、熱水収縮率が7.5%、11デシテックス/4フィラメントのポリエステルフィラメント糸とを引き揃え、緩和率を0%として混繊処理を施し、95デシテックス/24フィラメントの複合糸を得た。この複合糸には交絡部が殆どないため、次いで行った編地作成時には、糸道ガイドによる糸割れが発生し、糸溜り現象や糸切れが発生した。この編地の風合いは、光沢感はあるものの膨らみ感に乏しく、更に編地表面は糸溜りによるネップやセルローストリアセテート捲縮糸の糸切れによる虫食い現象が見られ、品位の劣る編地であった。
【0038】
実施例1〜3及び比較例1〜3の結果を表1に示す。
編地評価は光沢感、膨らみ感をそれぞれ官能検査により、3段階で評価した。
同表において、○は良い、△はやや悪い、×は悪いを示している。
【0039】
【表1】

【0040】
以上の説明から明らかなように、本発明は特定の残留伸度を有するセルロースエステル系捲縮糸と他のフィラメント糸との混繊交絡複合糸であり、従来にない均質な交絡性を有する複合糸が得られるものである。この複合糸を用いれば、光沢感、膨らみ感に優れるシルキー調の風合いを有する織編物を提供することができるものである。
【符号の説明】
【0041】
1 セルロースエステル系フィラメント糸
1a セルロースエステル系捲縮糸
2 他のフィラメント糸
3 供給ローラ
4 ヒータ
5 仮撚スピンドル
6 第1引取りローラ
7 混繊交絡ノズル
8 第2引取りローラ
9 巻き取りローラ
10 複合糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
残留伸度25%以上40%以下、捲縮率3%以上であるセルロースエステル系フィラメント捲縮糸と他のフィラメント糸とからなり、前記セルロースエステル系フィラメント捲縮糸が主に外層部を形成されてなるセルロース系複合糸であって、長手方向に3mm以上25mm以下の間隔で交絡部を有するセルロースエステル系複合糸。
【請求項2】
他のフィラメント糸がセルロースエステル系フィラメント捲縮糸より3%以上高い熱水収縮率を有する熱可塑性フィラメント糸である、請求項1記載のセルロースエステル系複合糸。
【請求項3】
アセチル基の平均置換度が2.22以上3.00以下で35%以上の破断伸度を有するセルロースアセテートフィラメント糸に仮撚加工を施し、残留伸度25%以上40%以下で且つ捲縮率が3%以上であるセルロースエステル系フィラメント捲縮糸とし、セルロースエステル系フィラメント捲縮糸と他のフィラメント糸に緩和率1%以上10%以下の緩和状態において、インターレースノズル又は流体撹乱ノズルを用いて混繊交絡を施すセルロースエステル系複合糸の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のセルロースエステル系複合糸を含む織編物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−137264(P2011−137264A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299044(P2009−299044)
【出願日】平成21年12月29日(2009.12.29)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】