説明

セルロース分解能を有する微生物のスクリーニング方法、及び微生物スクリーニングキット

【課題】様々な条件下においても、高い培養効率及びセルロース分解効率を達成し得る微生物を簡便にスクリーニングし得る方法、及び当該方法に好適な微生物スクリーニングキットの提供。
【解決手段】(a)試料を、セルロース含有固体と接触させた状態で培養する工程と、(b)前記セルロース含有固体が分解されているか否かを検出する工程と、を有することを特徴とするセルロース分解能を有する微生物のスクリーニング方法、及び、セルロース含有固体と、培養用容器とを有し、セルロース分解能を有する微生物のスクリーニングに用いることを特徴とする、微生物スクリーニングキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌等の環境試料から、セルロース分解能を有する微生物を簡便にスクリーニングするための方法、及び当該方法に用いられる微生物スクリーニングキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温暖化対策の一環として、植物性バイオマスからバイオエタノールを効率よく産生するための方法の開発が盛んに行われている。特に、食糧と競合しないセルロース系バイオマス等のバイオマスを原料としてバイオエタノールを産生する技術が期待されている。セルロース系バイオマスをバイオエタノールの原料として用いるためには、その分解を効率的に行う工程が必要となる。
【0003】
セルロース系バイオマスの分解効率を向上させるために、様々な手法が試みられている。例えば特許文献1には、バイオマスの分解に有効な酵素をスクリーニングする方法として、バイオマスを含有する固相体からなる複数個の評価領域を準備し、複数個の評価領域に、当該バイオマスの分解活性を奏する可能性のある組み合わせを構成する2種類以上の被験タンパク質をそれぞれ供給し、所定条件下での複数の評価領域における前記2種類以上の被験タンパク質によるバイオマスの分解活性を検出する、分解酵素のスクリーニング方法が開示されている。当該方法により、バイオマスを相乗作用により分解する酵素等の組み合わせを効率的に取得することができる。
【0004】
また、酵素に代えて、セルロース系バイオマスの分解能を有する微生物を利用し、当該微生物をバイオマス中で培養することにより、バイオマスを分解することが可能となる。酵素は高価であり、かつ、量産が困難である場合が多い。これに対して微生物は、適当な培養条件で培養することにより、簡便に増産することが可能である。したがって、例えばバイオエタノールの産生を工業的に行う場合には、バイオマス分解能を有する微生物を利用することにより、同様の機能を有するバイオマス分解酵素を用いる場合よりも、より簡便かつ効率よくバイオエタノールを産生することが可能となる。
【0005】
よりバイオマス分解能に優れた微生物をスクリーニングする方法として、例えば特許文献2には、昆虫の糞をリグニン系物質及び/又は芳香族化合物を炭素源として含有する培地で培養し、該培養で優先的に増殖する微生物を集積培養し、該微生物を培地から回収することを特徴とする、難分解性物質分解能を有する昆虫共生微生物の分離方法が開示されている。当該方法では、M9培地等の汎用されている培養培地からグルコースが除去されている培地に、リグニン系物質及び/又は芳香族化合物を炭素源として含有させたものを培養培地として用いており、昆虫の糞をこの培養培地中で常法により培養することにより、リグニン系物質等の分解能を有する微生物をスクリーニングしている。
【0006】
また、サンプル中の好気性細菌を検出する方法に係る発明も幾つか開示されている。例えば特許文献3には、ヘッドスペースを備えた密閉型のサンプル容器に、微生物が含まれている可能性のあるサンプルを入れて、好気体の微生物の繁殖を検出するための方法において、成長媒質を含浸させた無毒性の挿入物とヘッドスペースとを備えた密閉型のサンプルの容器を用い、前記密閉型のサンプルの容器の中の前記挿入物にサンプルを接種し、容器内における微生物の存在に基づく代謝作用をモニターして、サンプル中の微生物を検出する方法が開示されている。当該無毒性の挿入物としては、例えば、スポンジ、綿、ガラスビーズ等が挙げられている。
【0007】
一方で、一般的に、微生物の培養効率は培養条件に依存するため、より培養に適した容器等の開発もなされている。例えば特許文献4には、ゲル等によって囲まれた孔中(局所)に細胞等を集約又は位置的に限定させて培養する培養容器及び培養方法が開示されている。当該ゲルとして、寒天、アガロース、セルロース誘導体等が挙げられている。
【0008】
微生物を用いてセルロース系バイオマスを分解する場合には、分解反応の条件において、用いる微生物が良好に培養し、かつセルロース分解能を発揮し得ることを要する。このため、セルロース系バイオマスからバイオエタノールを工業上量産するためには、より低コストで調製及び維持管理が可能な条件で、高い培養効率及びセルロース分解効率を達成し得る微生物を用いることが好ましい。
【0009】
また、バイオエタノールは、主に酵母等によるアルコール発酵により産生されるため、微生物によるセルロース分解反応の反応条件と、酵母等によるアルコール発酵の反応条件とが、近似した条件であるほうが、バイオエタノールの産生に係る一連の工程を効率よく実施し得ることが期待できる。
【0010】
これに対して、特許文献2等の記載の方法では、セルロース系バイオマス分解能を有する微生物を単離することができると考えられる。しかしながら、スクリーニングの際に、人工的な微生物培養用培地を用いているため、当該方法により得られた微生物は、スクリーニングに用いた人工的な環境下では所望の分解能を示すものの、その他の環境では適応することができず、培養が困難であったり、セルロース系バイオマスを十分に分解することができない場合が多い。
【0011】
一方、特許文献3及び4には、微生物の培養に綿等のセルロース系素材を多孔質部材として用いる方法は開示されているものの、セルロース分解能を有する微生物を検出又は培養する方法については、一切記載も示唆もなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−72102号公報
【特許文献2】特開2001−346572号公報
【特許文献3】特表平9−511391号公報
【特許文献4】特開2004−141110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、様々な条件下においても、高い培養効率及びセルロース分解効率を達成し得る微生物を簡便にスクリーニングし得る方法、及び当該方法に好適な微生物スクリーニングキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、綿布等の綿含有繊維自体のみを培養のための栄養源とすることにより、当該綿繊維を分解可能な微生物を簡便にスクリーニングすることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、
(1) (a)試料を、水分含有量が30%以下であるセルロース含有固体と接触させた状態で培養する工程と、(b)前記セルロース含有固体が分解されているか否かを検出する工程と、を有することを特徴とするセルロース分解能を有する微生物のスクリーニング方法、
(2) 前記セルロース含有固体が、綿繊維含有固体であることを特徴とする前記(1)記載のセルロース分解能を有する微生物のスクリーニング方法、
(3) 前記綿繊維含有固体の綿繊維含有量が20重量%以上であることを特徴とする前記(2)記載のセルロース分解能を有する微生物のスクリーニング方法、
(4) 前記セルロース含有固体に前記試料を塗布することにより、前記試料と前記セルロース含有固体とを接触させることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載のセルロース分解能を有する微生物のスクリーニング方法、
(5) 前記試料が土壌であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか記載のセルロース分解能を有する微生物のスクリーニング方法、
(6) 前記工程(b)の後、さらに、(c)前記工程(b)において分解が検出されたセルロース含有固体に接触している試料を、結晶性セルロース含有培地に接種して培養し、結晶性セルロースの分解を検出する工程と、を有することを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか記載のセルロース分解能を有する微生物のスクリーニング方法、
(7) 水分含有量が30%以下であるセルロース含有固体と、培養用容器とを備え、セルロース分解能を有する微生物のスクリーニングに用いることを特徴とする、微生物スクリーニングキット、
(8) 前記セルロース含有固体が、綿繊維含有布であることを特徴とする前記(7)記載の微生物スクリーニングキット、
(9) さらに、試料調製用チューブと、結晶性セルロース含有培地とを備えることを特徴とする前記(7)又は(8)記載の微生物スクリーニングキット、
(10) 科学教材用として用いられることを特徴とする、前記(7)〜(9)のいずれか記載の微生物スクリーニングキット、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のスクリーニング方法により、土壌等の微生物が含有されていることが期待される試料から、セルロース分解能を有する微生物を簡便にスクリーニングすることができる。特に、本発明のスクリーニング方法では、栄養源として綿繊維等のセルロース含有固体のみを用いているため、セルロース系バイオマスを含む多種多様な培養条件で、高い培養効率及びセルロース分解効率を達成し得る微生物をスクリーニングし得る。
また、本発明の微生物スクリーニングキットを用いることにより、微生物が含有されていることが期待される試料を用意するだけで、本発明のスクリーニング方法を簡便に実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のスクリーニング方法は、セルロース分解能を有する微生物のスクリーニング方法であって、
(a)試料を、セルロース含有固体と接触させた状態で培養する工程と、
(b)前記セルロース含有固体が分解されているか否かを検出する工程と、
を有することを特徴とする。
【0018】
本発明において用いられるセルロース含有固体は、セルロースが含有されている限り、その含有量は特に限定されるものではない。セルロース含有量が多いほど、次の工程(b)において分解の有無を検出し易くなる。このため、本発明において用いるセルロース含有固体は、セルロース含有量が20重量%以上であることが好ましく、35重量%以上であることがより好ましく、50重量%以上であることがさらに好ましく、100重量%であることが特に好ましい。
【0019】
本発明において用いられるセルロース含有固体は、水分含有量が30%以下である。つまり、微生物の培養に汎用されている寒天培地等は、本発明において用いられるセルロース含有固体には含まれない。
【0020】
本発明において用いるセルロース含有固体の形態は特に限定されるものではない。例えば、スポンジ状、フィルム状、シート状、織布状、編布状、網状、繊維状、チップ状、小塊状、大塊状、粉末状、粒子状等の任意の形状とすることができる。中でも、後述するように、工程(b)において分解の有無を形状の変化を指標として観察することが可能であることから、フィルム状、シート状、又は織布状といった、孔のない面状であることが好ましい。
【0021】
本発明において用いられるセルロース含有固体は、セルロース成分として、綿、麻、ジュート等の植物性繊維を含むものであることが好ましく、綿繊維を含有する固体(綿繊維含有固体)であることがより好ましい。綿繊維の主な構成成分はセルロースであり、したがって、綿繊維の分解の有無を、セルロース分解能を有する微生物の検出の指標とすることができる。綿繊維含有固体は、綿のような塊状であってもよく、繊維状であってもよいが、織布であることがより好ましい。
【0022】
セルロース含有固体として用いる綿繊維を含む織布(綿繊維含有布)は、綿繊維のみから織られた布であってもよく、ポリエステルやウール等の綿繊維以外の繊維も含有する布であってもよい。本発明において用いる綿繊維含有布の繊維含有量は20重量%以上であることが好ましく、35重量%以上であることがより好ましく、50重量%以上であることがさらに好ましく、100重量%であることが特に好ましい。
【0023】
例えば、綿繊維含有布として、古着を適当な大きさに切断したものを用いることができる。当該古着は、綿を含有する繊維で織られた布から製造されたものであればよく、撥水処理等の一般的に衣類になされる加工が施された布であってもよい。
【0024】
本発明のスクリーニング方法に供される試料は、微生物が含有されていることが期待される試料であれば特に限定されるものではなく、土壌、湖沼や海等から採取された泥炭等が挙げられる。中でも、土壌であることが好ましい。
【0025】
まず、工程(a)として、試料を、水分含有量が30%以下であるセルロース含有固体と接触させた状態で培養する。試料をセルロース含有固体と接触させる方法は特に限定されるものではない。例えば、セルロース含有固体がスポンジ状、フィルム状、シート状、織布状、編布状、又は網状といったものである場合には、当該セルロース含有固体上に試料を載せた状態で培養してもよく、当該セルロース含有固体に試料を塗布したものを培養してもよい。セルロース含有固体がチップ状、小塊状、大塊状、粉末状、又は粒子状といったものである場合には、当該セルロース含有固体と試料とを混合した状態で培養してもよい。なお、コンタミネーションを防止するため、セルロース含有固体は予めオートクレーブ処理等の滅菌処理を施しておくことが好ましい。
【0026】
試料は、セルロース含有固体と接触させ易くなるように、予め水や適当なバッファー等に懸濁させておき、調製された懸濁液をセルロース含有固体に塗布等してもよい。試料の前処理に用いる水やバッファー等は、予め滅菌処理を施したものを用いることが好ましい。
【0027】
培養条件は特に限定されるものではないが、比較的緩やかな条件で培養することが好ましい。具体的には、培養温度は、37℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましく、室温程度であることがさらに好ましい。また、恒温培養器内のように、温度制御下で行ってもよいが、温度非制御下で行ってもよい。さらに、コンタミネーション等を防止するために、セルロース含有固体は、蓋のついた培養用容器に入れた状態で培養することが好ましい。このような培養用容器としては、プラスチック製容器等の当該分野で汎用されている容器を適宜用いることができる。
【0028】
本発明においては、土壌等を塗布したセルロース含有固体を、室温で静置して培養することが好ましい。この際、当該セルロース含有固体を、水分を含ませたスポンジとともに、蓋を培養用容器内に入れて湿度を調整してもよく、水分を含ませたスポンジなしで湿度を調整することなく培養してもよい。このように、栄養源としてセルロース含有固体のみを用い、かつ十分な水分もない環境で培養することにより、苛酷な環境でも綿繊維等のセルロースの固体糖化発酵を行い得る微生物を効率よくスクリーニングすることができる。そして、このようにしてスクリーニングされた微生物は、綿繊維が存在する様々な環境で、綿繊維を分解し得ることが期待できる。
【0029】
次いで、工程(b)として、試料を接触させた状態で培養したセルロース含有固体が分解されているか否かを検出する。例えば、培養開始後から一日毎や一週間毎等、定期的に分解の有無を調べることが好ましい。
【0030】
セルロース含有固体の分解の有無を検出する方法は、特に限定されるものではない。例えば、試料を接着させたセルロース含有固体の重量を測定し、培養開始前の重量と比較することにより、分解の有無を検出することができる。具体的には、培養開始前の重量よりも減少していた場合には、当該セルロース含有固体が分解されていることが検出できる。
【0031】
また、セルロース含有固体がフィルム状、シート状、又は織布状といった、孔のない面状であって、試料を塗布したセルロース含有固体を培養した場合には、当該セルロース含有固体が分解されると、分解された部分に孔が開く。このため、当該セルロース含有固体に孔が開いているか否かを調べることにより、分解の有無を検出することができる。孔の有無は、目視で観察してもよく、顕微鏡等を用いて観察してもよい。
【0032】
セルロース含有固体に分解が検出された場合には、当該セルロース含有固体に接着させた試料中には、セルロース分解能を有する微生物が含まれており、この微生物が培養されたことが分かる。このセルロース分解能を有する微生物は、分解が確認されたセルロース含有固体から、常法により単離・同定することができる。例えば、試料が付着した状態のセルロース含有固体からDNAを抽出し、得られたDNAを鋳型としてPCRを行うことにより、微生物のribosomal RNA(rRNA)をコードするrDNAの塩基配列を解析し、当該微生物の菌種等を同定することができる。なお、分解が確認されたセルロース含有固体には、複数の微生物が培養されている可能性がある。そこで、DNAを抽出する前に、常法により単一コロニーを得た後、このコロニーからDNAを抽出してもよい。
【0033】
本発明のスクリーニング方法においては、工程(b)の後、さらに、工程(c)として、分解が検出されたセルロース含有固体に接触している試料を、結晶性セルロース含有培地に接種して培養し、結晶性セルロースの分解を検出する工程を有していてもよい。分解されたセルロース含有固体に付着している微生物を、さらに結晶性セルロース含有培地において培養することにより、セルロース分解能を有する微生物をより精度よくスクリーニングすることができる。
【0034】
結晶性セルロース含有培地は、結晶性セルロースが含有されている培地であれば特に限定されるものではないが、微生物の培養に必要な微量ミネラル成分及び結晶性セルロース、並びに、必要に応じてアガロース等のゲル化剤のみを含有する培地を用いることが好ましい。栄養源として結晶性セルロースのみを含む培地で培養することにより、セルロース分解能が高い微生物をスクリーニングすることができる。
【0035】
なお、結晶性セルロース含有培地への試料の接種は常法により行うことができる。また、接取後の結晶性セルロース含有培地の培養及び分解の検出は、工程(a)における培養又は工程(b)における検出と同様にして行うことができる。
【0036】
本発明のスクリーニング方法に用いる試薬等をキット化することにより、本発明のスクリーニング方法をより簡便に行うことができる。例えば、水分含有量が30%以下であるセルロース含有固体と、試料を接触させた当該セルロース含有固体を入れて培養するための培養用容器とを備える微生物スクリーニングキットを用いることにより、単に試料を用意するだけで、本発明のスクリーニング方法を行うことができる。また、微生物スクリーニングキットには、その他、試料の採取や前処理に用いるための試料調製用チューブや結晶性セルロース含有培地等を備えていてもよい。試料調製用チューブとしては、プラスチック製の培養用チューブや遠沈管等の当該分野で汎用されている容器を適宜用いることができる。
【0037】
本発明のスクリーニング方法は、特別な技術を要する操作等を要さないため、誰でも簡便に行うことができる。このため、例えば、児童や学生の科学実験としても好適である。同様に、本発明のスクリーニング方法に用いる微生物スクリーニングキットは、科学教材用としても好適である。
【0038】
アルコール発酵を行う酵母等は、一般的に37℃までの環境下において培養し、アルコール発酵を行う。ここで、例えば現在までに、トリコデルマ(Trichoderma)菌等において綿繊維分解能を有することが確認されているが、これらの菌ではいずれも高温で分解活性が高まるため、アルコール発酵を行う酵母等と共存させた形でのバイオエタノール生産を考えた時には不向きである。これに対して、本発明のスクリーニング方法において工程(a)における培養を37℃以下で行うことにより、酵母が成育可能な比較的低温環境においても、高いセルロース分解能を有する微生物を効率よくスクリーニングすることができる。
【0039】
本発明のスクリーニング方法によりスクリーニングされた微生物は、綿繊維等のセルロースが存在する様々な環境で、セルロースを分解し得る。このため、スクリーニングにより得られた微生物を、セルロース系バイオマスに接触させ、所定時間培養することにより、セルロース系バイオマスを効率よく分解することができる。なお、セルロース系バイオマスと微生物との培養は、バイオエタノール製造において行われるいずれの手法を用いて行ってもよい。
【0040】
セルロース系バイオマスとしては、植物、木材等の建築廃材、古着等のセルロースを多く含有するバイオマスを用いることが好ましい。中でも、古着は、食糧と競合せず、好ましいバイオマスである。古着をバイオマスとして用いる場合に好適な微生物をスクリーニ
【実施例】
【0041】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
綿繊維含有布として、市販の綿100%のT−シャツ(ユニクロ製)を10cm×10cmに裁断し、オートクレーブにより滅菌処理した綿布を用い、試料として、4箇所の異なる場所で採取された土壌(サンプル1〜4)を用いて、本発明のスクリーニング方法を行い、セルロース分解能を有する微生物のスクリーニングを行った。
まず、プラスチック容器に滅菌処理をした綿布を入れ、その上に土壌を塗布した。その後、プラスチック容器に蓋をして、37℃に設定したインキュベーター(SANYO製)に入れて培養した。1週間おきに、綿布に孔が開いたかどうかを目視により観察した。綿布に孔が確認された場合に、当該綿布が土壌に含まれていた微生物により分解されたと判断した。
【0043】
この結果、4週間培養したところ、4サンプル全てにおいて、孔の形成が確認された。ただし、サンプルによって、孔が確認されるまでの培養時間が異なった。各サンプルにおいて各観測時点において確認された孔の孔径を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
4週間培養後、綿布に接触させた各サンプルをそれぞれ、表2記載の組成を有する結晶性セルロース含有平板培地に塗布し、さらに37℃に設定したインキュベーターに入れて培養した。なお、結晶性セルロースは、Avicell(Merck社)を用いた。1週間おきに、結晶性セルロース含有平板培地が分解されているか否かを目視により観察したところ、2週間培養後には、全てのサンプルにおいて分解が確認された。これらの結晶性セルロース含有平板培地に培養されている微生物からDNAを抽出し、PCRによって16S rRNAの一部領域を増幅し、増幅サンプルのDNA配列を解析したところ、いずれのサンプルにおいても、複数種類の微生物が共生していることが確認された。
【0046】
【表2】

【0047】
つまり、当該結晶性セルロース含有平板培地には、37℃において良好なセルロース分解能を有する微生物が培養されていることが確認された。これらの結果から、本発明のスクリーニング方法により、セルロース分解能を有する微生物を簡便にスクリーニングできることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のスクリーニング方法を用いることにより、セルロース系バイオマスからバイオエタノールを産生する際に用いる微生物として好適なセルロース分解能を有する微生物を、土壌等の試料から簡便にスクリーニングすることができるため、主にバイオエタノール産生やセルロース系バイオマスのリサイクルの分野で利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)試料を、水分含有量が30%以下であるセルロース含有固体と接触させた状態で培養する工程と、
(b)前記セルロース含有固体が分解されているか否かを検出する工程と、
を有することを特徴とするセルロース分解能を有する微生物のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記セルロース含有固体が、綿繊維含有固体であることを特徴とする請求項1記載のセルロース分解能を有する微生物のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記綿繊維含有固体の綿繊維含有量が20重量%以上であることを特徴とする請求項2記載のセルロース分解能を有する微生物のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記セルロース含有固体に前記試料を塗布することにより、前記試料と前記セルロース含有固体とを接触させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のセルロース分解能を有する微生物のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記試料が土壌であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のセルロース分解能を有する微生物のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記工程(b)の後、さらに
(c)前記工程(b)において分解が検出されたセルロース含有固体に接触している試料を、結晶性セルロース含有培地に接種して培養し、結晶性セルロースの分解を検出する工程と、
を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のセルロース分解能を有する微生物のスクリーニング方法。
【請求項7】
水分含有量が30%以下であるセルロース含有固体と、培養用容器とを備え、
セルロース分解能を有する微生物のスクリーニングに用いることを特徴とする、微生物スクリーニングキット。
【請求項8】
前記セルロース含有固体が、綿繊維含有布であることを特徴とする請求項7記載の微生物スクリーニングキット。
【請求項9】
さらに、試料調製用チューブと、結晶性セルロース含有培地とを備えることを特徴とする請求項7又は8記載の微生物スクリーニングキット。
【請求項10】
科学教材用として用いられることを特徴とする、請求項7〜9のいずれか記載の微生物スクリーニングキット。

【公開番号】特開2011−72277(P2011−72277A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229027(P2009−229027)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(508194892)日本環境設計株式会社 (10)
【Fターム(参考)】