説明

セルロース混合エステルおよびその製造方法

【課題】置換度分布や置換基分布が制御されたセルロース混合エステルを効率よく製造する方法、およびその製造方法により得られる熱流動性や溶剤溶解性に優れたセルロース混合エステルを提供する。
【解決手段】セルロースとイオン液体からなる混合物へ2種以上のエステル化剤を添加することを特徴とするセルロース混合エステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース混合エステルの製造方法、およびその製造方法により得られるセルロース混合エステルに関するものである。より詳しくは、置換度分布や置換基分布が制御されたセルロース混合エステルを効率よく製造する方法、およびその製造方法により得られる熱流動性や溶剤溶解性に優れたセルロース混合エステルに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、地球上で最も大量に生産されるバイオマスであり、自然環境下にて生分解可能であるため、古くからセルロース系材料への活用が進められている。なかでも、セルロースアセテートに代表されるセルロースエステルは、繊維、フィルム、プラスチック、たばこフィルターなど幅広い分野で使用されている。セルロースを2種以上のエステル化剤で誘導体化したセルロース混合エステルもまた繊維、フィルム、プラスチックなどの分野で使用されている。
【0003】
セルロースエステルは、セルロースのグルコースユニットに存在する3個の水酸基(2位、3位および6位)をエステル化することで得られる。3個の水酸基はエステル化における反応性が異なり、1級水酸基である6位の反応性の方が、2級水酸基である2位および3位の反応性より高い。セルロースエステルの物性は、3個の水酸基へ導入されたエステル基の置換度分布や置換基分布によって大きく変化するため、これらの分布を制御することによってセルロースエステルの熱流動性や溶剤溶解性を制御することが可能となる。
【0004】
一般に、セルロースエステルは、酢酸溶媒中で硫酸触媒によるセルロースとエステル化剤とのエステル化反応によって工業的に合成されている(非特許文献1)。セルロースは溶媒である酢酸に溶解しないため、反応初期は固液不均一系で反応が進行する。反応の進行とともに置換度が3のセルロースエステルになると酢酸に溶解するため、反応途中から均一系で反応が進行するようになる。セルロースエステルの置換度を下げるためには、エステル化の後に加水分解を行う必要があり、加水分解における反応性はエステル化の場合と同様に、1級水酸基である6位の反応性の方が、2級水酸基である2位および3位の反応性より高い。
【0005】
このようにセルロースのグルコースユニットに存在する3個の水酸基はエステル化および加水分解に対する反応性が異なるため、置換度分布や置換基分布を制御することは困難である。また、2種以上のエステル化剤を用いるセルロース混合エステルの場合、置換度分布や置換基分布の制御はさらに複雑となる。
【0006】
一般に、不均一系反応と比べて、均一系反応の方が反応を制御しやすいため、セルロースを溶解する溶媒についても種々の提案が行われている。セルロースは、水酸基によって分子内や分子間で強固な水素結合を形成するため、水や一般的な有機溶媒に不溶である。セルロースを溶解する溶媒としては、銅アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム/二硫化炭素、塩化リチウム/ジメチルアセトアミド、ホルムアルデヒド/ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。しかしながら、これらの溶媒は、毒性の高いものや爆発性に富むものなどその取り扱いに注意を要したり、セルロースを誘導体化して溶解させているため、その利用は限定されるものであった。
【0007】
近年、セルロースを溶解する新しい溶媒として、イオン液体が提案されている(特許文献1)。イオン液体は不揮発性であるため取り扱いやすく、またセルロースを誘導体化することなくイオン液体に溶解させることが可能である。特許文献2では、イオン液体中でのセルロースのエステル化について提案されているが、置換度分布や置換基分布の制御はなされていない。
【0008】
このように、置換度分布や置換基分布が制御されたセルロース混合エステルを効率よく製造する方法、および熱流動性や溶剤溶解性に優れたセルロース混合エステルについては従来提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2005−506401号公報
【特許文献2】特開2008−303319号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「醋酸繊維−その製造と利用−」昭和28年5月10日丸善株式会社発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決し、置換度分布や置換基分布が制御されたセルロース混合エステルを効率よく製造する方法、およびその製造方法により得られる熱流動性や溶剤溶解性に優れたセルロース混合エステルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の本発明の課題は、セルロースとイオン液体からなる混合物へ2種以上のエステル化剤を添加することで解決することができる。
【0013】
また、2種以上のエステル化剤を逐次添加することが好ましく、逐次添加において、炭素数3以上のアシル化剤を添加した後に、炭素数2のアセチル化剤を添加することが好ましい。
【0014】
さらには、イオン液体を構成するカチオンが、イミダゾリウムカチオンまたはピリジニウムカチオンのいずれかであることが好適に採用できる。
【0015】
本発明の別の課題は、前述の製造方法によって製造され、セルロースのグルコースユニットの2位、3位、6位におけるエステル基の置換度をそれぞれDS(2)、DS(3)、DS(6)としたときに、下記式(I)を満たすことを特徴とするセルロース混合エステルによって解決することができる。
【0016】
(I)DS(6)×2>DS(2)+DS(3)
また、セルロースのグルコースユニットの6位における炭素数3以上のアシル基の置換度をDS(6)acy、炭素数2のアセチル基の置換度をDS(6)aceとしたときに、下記式(II)を満たすセルロース混合エステルであることが好ましい。
【0017】
(II)DS(6)acy≧DS(6)ace
さらには、セルロース混合エステルが、セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートのいずれかであることが好適に採用できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、置換度分布や置換基分布が制御されたセルロース混合エステルを効率よく製造する方法、およびその製造方法により得られる熱流動性や溶剤溶解性に優れたセルロース混合エステルを提供することができる。本発明により得られるセルロース混合エステルは、繊維、フィルム、プラスチックなど幅広い分野において好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明におけるセルロースは、木材、綿、麻、亜麻、ラミー、ジュート、ケナフなどの植物由来、ホヤ類などの動物由来、海藻などの藻類由来、酢酸菌などの微生物由来などいずれを起源とするものであってもよい。なかでも、精製パルプ、再生セルロース、綿由来のコットンリンターおよびコットンリント、酢酸菌由来のバクテリアセルロースは、セルロース純度が高いため好適に採用できる。セルロース純度の指標であるαセルロース含有率は、90重量%以上であることが好ましい。αセルロース含有率が90重量%以上であれば、セルロースのエステル化における副反応を抑制することができ、得られるセルロース混合エステルの色調が良好になるため好ましい。αセルロース含有率は92重量%以上であることがより好ましく、95重量%以上であることが更に好ましい。
【0020】
本発明におけるセルロースは、形態に関して特に制限がなく、粉状、粒状、綿状、糸状、布状、紙状、シート状、フィルム状などいずれでもよい。また、粉砕処理などの処理を施したセルロースを用いてもよい。粉砕処理の方法としては、ボールミルなどの乾式粉砕器が挙げられる。粉砕処理によって、セルロースの表面積が増加すると、イオン液体へ溶解しやすくなるため好ましい。
【0021】
本発明におけるイオン液体は、セルロースを均一に溶解させることができる化合物であれば、特に限定されない。また、イオン液体は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。
【0022】
本発明におけるイオン液体は、カチオンとアニオンからなる化合物である。
【0023】
イオン液体を構成するカチオンとしては、イミダゾール、ピリジン、アンモニア、ピロリン、ピラゾール、カルバゾール、インドール、ルチジン、ピロール、ピラゾール、ピペリジン、ピロリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネンなどの窒素原子にプロトンまたはアルキル基などが結合した化合物が挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、イミダゾールまたはピリジンを骨格に有するイミダゾリウムカチオンまたはピリジニウムカチオンが、セルロースの溶解性に優れることから好適に採用できる。
【0024】
カチオンの具体例としては、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム、1−デシル−3−メチルイミダゾリウム、1−テトラデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキサデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクタデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチルピリジニウム、1−ブチルピリジニウム、1−ヘキシルピリジニウム、1−ブチル−4−メチルピリジニウム、1−ブチル−3−メチルピリジニウム、1−ヘキシル−4−メチルピリジニウム、1−ヘキシル−3−メチルピリジニウム、4−メチル−オクチルピリジニウム、3−メチル−オクチルピリジニウム、3,4−ジメチル−ブチルピリジニウム、3,5−ジメチル−ブチルピリジニウム、トリメチルプロピルアンモニウム、メチルプロピルピペリジニウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
イオン液体を構成するアニオンとしては、ハロゲンアニオン、擬ハロゲンアニオン、カルボン酸アニオン、超強酸アニオン、スルホン酸アニオン、リン酸アニオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、ハロゲンアニオン、カルボン酸アニオン、リン酸アニオンが、セルロースの溶解性に優れることから好適に採用できる。
【0026】
ハロゲンアニオンとしては、フッ素アニオン、塩素アニオン、臭素アニオン、ヨウ素アニオンなどが挙げられる。
【0027】
擬ハロゲンアニオンとしては、シアンアニオン、チオシアネートアニオン、シアネートアニオン、フルミネートアニオン、アジドアニオンなどが挙げられる。
【0028】
カルボン酸アニオンとしては、炭素数1〜18のモノカルボン酸アニオンまたはジカルボン酸アニオンなどが挙げられる。具体例としては、ギ酸アニオン、酢酸アニオン、フマル酸アニオン、シュウ酸アニオン、乳酸アニオン、ピルビン酸アニオンなどが挙げられる。
【0029】
超強酸アニオンとしては、ホウフッ素酸アニオン、四フッ化ホウ素酸アニオン、過塩素酸アニオン、六フッ化リン酸アニオン、六フッ化アンチモン酸アニオン、六フッ化ヒ素酸アニオンなどが挙げられる。
【0030】
スルホン酸アニオンとしては、炭素数1〜26のスルホン酸などが挙げられる。具体例としては、メタンスルホン酸アニオン、p−トルエンスルホン酸アニオン、オクチルベンゼンスルホン酸アニオン、ドデシルベンゼンスルホン酸アニオン、ラウリルベンゼンスルホン酸アニオン、オクタデシルベンゼンスルホン酸アニオン、エイコシルベンゼンスルホン酸アニオン、オクタンスルホン酸アニオン、ドデカンスルホン酸アニオン、エイコサンスルホン酸アニオンなどが挙げられる。
【0031】
リン酸アニオンとしては、リン酸アニオン、炭素数1〜40のリン酸エステルアニオンなどが挙げられる。具体例としては、リン酸アニオン、メチルリン酸モノエステルアニオン、オクチルリン酸モノエステルアニオン、オクチルリン酸ジエステルアニオン、ラウリルリン酸モノエステルアニオン、ラウリルリン酸ジエステルアニオン、ステアリルリン酸モノエステルアニオン、ステアリルリン酸ジエステルアニオン、エイコシルリン酸モノエステルアニオン、エイコシルリン酸ジエステルアニオンなどが挙げられる。
【0032】
これらカチオンとアニオンの組み合わせにより、様々なイオン液体を作製することができる。イオン液体の具体例として、1,3−ジメチルイミダゾリウムメチルサルフェート、1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムブロマイド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメタンスルホネート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−テトラデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルフォネート、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−エチルピリジニウムブロマイド、1−ブチルピリジニウムブロマイド、1−ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−ヘキシルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−4−メチルピリジニウムテトラフルオロボレート、3,5−ジメチルブチルピリジニウムクロライド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラクロロアルミネート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルフォネート、1−ブチルピリジニウムニトレート、ジメチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、ジメチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、トリメチルプロピルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、メチルプロピルピペリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
イオン液体の融点に関して特に制限はないが、100℃以下であることが好ましい。イオン液体の融点が100℃以下であれば、イオン液体へセルロースを溶解させる際にセルロースの分子量低下を抑制できるため好ましい。イオン液体の融点は80℃以下であることがより好ましく、70℃以下であることが更に好ましい。
【0034】
本発明におけるエステル化剤は、酸ハロゲン化物、酸無水物、カルボン酸から2種以上の化合物を選択して使用する。
【0035】
酸ハロゲン化物としては、酸フッ化物、酸塩化物、酸臭化物、酸ヨウ化物が挙げられる。具体例としては、フッ化アセチル、塩化アセチル、臭化アセチル、ヨウ化アセチル、フッ化プロピオニル、塩化プロピオニル、臭化プロピオニル、ヨウ化プロピオニル、フッ化ブチリル、塩化ブチリル、臭化ブチリル、ヨウ化ブチリル、フッ化ベンゾイル、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイルなどが挙げられる。なかでも、酸塩化物は反応性と取り扱い性の点から好適に採用できる。
【0036】
酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水吉草酸、無水カプロン酸、無水エナント酸、無水カプリル酸、無水ペラルゴン酸、無水カプリン酸、無水ラウリン酸、無水ミリスチン酸、無水パルミチン酸、無水ステアリン酸、無水安息香酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸などが挙げられる。なかでも、無水プロピオン酸、無水酪酸は反応性が高いため好適に採用できる。
【0037】
カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸、フタル酸、マレイン酸、コハク酸などが挙げられる。
【0038】
本発明における炭素数2のアセチル化剤とは、セルロースに結合したエステル基の炭素数が2となるエステル化剤のことである。炭素数2のアセチル化剤の具体例として、塩化アセチル、無水酢酸、酢酸などが挙げられる。また、炭素数3以上のアシル化剤とは、セルロースに結合したエステル基の炭素数が3以上となるエステル化剤のことである。例えば、炭素数3のアシル化剤の具体例として、塩化プロピオニル、無水プロピオン酸、プロピオン酸が挙げられる。
【0039】
炭素数4以下のエステル化剤を用いる場合には酸無水物を使用することが好ましく、炭素数5以上のエステル化剤を用いる場合には酸ハロゲン化物を使用することが好ましい。
【0040】
本発明においては、セルロースのエステル化を促進するために触媒を使用してもよい。触媒としては、硫酸、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、次亜塩素酸、硝酸、塩化亜鉛などが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、硫酸は反応性の点から好適に採用できる。これら触媒は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。
【0041】
本発明のセルロースとイオン液体からなる混合物は、セルロースにイオン液体を添加してもよく、イオン液体にセルロースを添加してもよい。また、イオン液体が室温で固体の場合、固体のままセルロースと混合してもよく、一旦加熱融解した後にセルロースと混合してもよい。
【0042】
本発明のセルロースおよびイオン液体は、あらかじめ真空乾燥または加熱乾燥により低水分率としておくことが好ましく、水分率を3重量%以下としておくことが好ましい。水分率が3重量%以下であれば、セルロースの加水分解による分子量低下やエステル化剤の加水分解によるエステル化剤の消費を抑制することができるため好ましい。水分率は2重量%以下であることがより好ましく、1重量%以下であることが更に好ましい。
【0043】
イオン液体の重量に対するセルロースの重量は、イオン液体の種類に応じてセルロースの溶解性が異なるため適宜選択することができるが、1〜40重量%であることが好ましい。イオン液体の重量に対するセルロースの重量が1重量%以上であれば、セルロースを均一に溶解させることができるため好ましい。イオン液体の重量に対するセルロースの重量は3重量%以上であることがより好ましく、5重量%以上であることが更に好ましい。一方、イオン液体の重量に対するセルロースの重量が40重量%以下であれば、イオン液体へセルロースを溶解した後に高粘度になり過ぎないため好ましい。イオン液体の重量に対するセルロースの重量は30重量%以下であることがより好ましく、20重量%以下であることが更に好ましい。
【0044】
イオン液体とセルロースからなる混合物の加熱温度は、イオン液体の融点やイオン液体へのセルロースの添加量などに応じて適宜選択することができるが、50〜100℃であることが好ましい。加熱温度が50℃以上であれば、セルロースの溶解を促進することができるため好ましい。加熱温度は60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることが更に好ましい。一方、加熱温度が100℃以下であれば、セルロースの分子量低下を抑制することができるため好ましい。加熱温度は90℃以下であることがより好ましく、80℃以下であることが更に好ましい。
【0045】
イオン液体とセルロースからなる混合物の加熱時間は、加熱温度やイオン液体の種類、イオン液体へのセルロースの添加量などに応じて適宜選択することができるが、0.5〜10時間であることが好ましい。加熱時間が0.5時間以上であれば、セルロースを均一に溶解させることができるため好ましい。加熱時間は1時間以上であることがより好ましく、2時間以上であることが更に好ましい。一方、加熱時間が10時間以下であれば、セルロースの分子量低下を抑制することができるため好ましい。加熱時間は8時間以下であることがより好ましく、5時間以下であることが更に好ましい。
【0046】
イオン液体とセルロースからなる混合物の加熱手段は、公知の方法に従い、水浴や油浴による加熱、オーブンによる加熱、マイクロウェーブによる加熱などの一般的な加熱手段が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
イオン液体とセルロースからなる混合物の加熱においては、セルロースの溶解を促進するために、撹拌することが好ましい。撹拌手段は公知の方法に従い、撹拌子や撹拌羽根による機械的撹拌、容器の振盪による撹拌、超音波照射による撹拌などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
セルロースをイオン液体に溶解させて得られた溶液中に未溶解物や不溶解物が残存している場合には、濾過により未溶解物や不溶解物を除去してからエステル化剤を添加してもよい。
【0049】
本発明のセルロース混合エステルは、セルロースとイオン液体からなる混合物へ2種以上のエステル化剤を添加することで得られる。従来の不均一系反応によるセルロース混合エステルの製造方法では、セルロース混合エステルの置換度を一旦3まで上げた後、加水分解によって目的の置換度に下げる必要がある。本発明においては、イオン液体中へセルロースが均一に溶解するため、セルロースとエステル化剤との反応は均一系反応であり、セルロース混合エステルの置換度を一旦3まで上げることなく、目的の置換度に制御することができる。
【0050】
また、エステル化剤の添加において、2種以上のエステル化剤を逐次添加することが好ましい。セルロースのグルコースユニットに存在する3個の水酸基(2位、3位および6位)はエステル化に対する反応性が異なり、1級水酸基である6位の反応性は、2級水酸基である2位および3位の反応性より高いため、2位、3位の置換度に比べて、6位の置換度を高くすることができるため好ましい。2種以上のエステル化剤を逐次添加することによって、セルロース混合エステルの置換度分布や置換基分布を制御するとともに、セルロース混合エステルの熱流動性や溶剤溶解性を制御することができるため好ましい。
【0051】
エステル化剤の逐次添加において、炭素数3以上のアシル化剤を添加した後に、炭素数2のアセチル化剤を添加することが好ましい。従来の不均一系反応によるセルロース混合エステルの製造方法では、不均一系反応であるため炭素数3以上のアシル化剤と炭素数2のアセチル化剤が混在した状態でエステル化反応を行う必要があり、また、セルロースの水酸基に対する反応性は炭素数3以上のアシル化剤よりも炭素数2のアセチル化剤の方が高いためアセチル化剤によるセルロースのエステル化反応が優先的に進行する。本発明においては、炭素数3以上のアシル化剤を先に添加することで、炭素数3以上のアシル化剤によるセルロースのエステル化反応を優先的に進行させることができるため好ましい。
【0052】
セルロースのグルコース単位に対する2種以上のエステル化剤の当量の合計は、エステル化剤の種類やセルロース混合エステルの置換度分布や置換基分布などに応じて適宜選択することができるが、3〜9当量であることが好ましい。セルロースのグルコース単位に対する2種以上のエステル化剤の当量の合計が3当量以上であれば、セルロースとエステル化剤が十分に反応するため好ましい。セルロースのグルコース単位に対する2種以上のエステル化剤の当量の合計は、3.2当量以上であることがより好ましく、3.5当量以上であることが更に好ましい。一方、セルロースのグルコース単位に対する2種以上のエステル化剤の当量の合計が9当量以下であれば、反応液中のセルロース濃度を高くすることができるため好ましい。セルロースのグルコース単位に対する2種以上のエステル化剤の当量の合計は8当量以下であることがより好ましく、7当量以下であることが更に好ましい。
【0053】
エステル化反応を促進するために触媒を添加する場合、セルロースの重量に対する触媒の重量は、1〜15重量%であることが好ましい。セルロースの重量に対する触媒の重量が1重量%以上であれば、セルロースのエステル化反応を促進することができるため好ましい。セルロースの重量に対する触媒の重量は3重量%以上であることがより好ましく、5重量%以上であることが更に好ましい。一方、セルロースの重量に対する触媒の重量が15重量%以下であれば、セルロースの分子量低下を抑制することができるため好ましい。セルロースの重量に対する触媒の重量は10重量%以下であることがより好ましく、7重量%以下であることが更に好ましい。
【0054】
セルロースとエステル化剤との反応温度は、エステル化剤の種類や添加量、触媒の種類や添加量などの反応条件に応じて適宜選択することができるが、50〜100℃であることが好ましい。反応温度が50℃以上であれば、セルロースのエステル化反応を促進することができるため好ましい。反応温度は60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることが更に好ましい。一方、反応温度が100℃以下であれば、セルロースの分子量低下を抑制することができるため好ましい。反応温度は90℃以下であることがより好ましく、80℃以下であることが更に好ましい。
【0055】
セルロースとエステル化剤との反応時間は、反応温度やエステル化剤の種類や添加量、触媒の種類や添加量などの反応条件に応じて適宜選択することができるが、0.5〜10時間であることが好ましい。反応時間が0.5時間以上であれば、セルロースのエステル化反応が進行するため好ましい。反応時間は1時間以上であることがより好ましく、2時間以上であることが更に好ましい。一方、反応時間が10時間以下であれば、セルロースの分子量低下を抑制することができるため好ましい。反応時間は8時間以下であることがより好ましく、5時間以下であることが更に好ましい。
【0056】
セルロースとエステル化剤との反応における加熱手段は、公知の方法に従い、水浴や油浴による加熱、オーブンによる加熱、マイクロウェーブによる加熱などの一般的な加熱手段が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
セルロースとエステル化剤との反応においては、エステル化反応を促進するために、撹拌することが好ましい。撹拌手段は公知の方法に従い、撹拌子や撹拌羽根による機械的撹拌、容器の振盪による撹拌、超音波照射による撹拌などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
セルロースとエステル化剤との反応は、メタノールやエタノールなどのアルコールや水などの反応停止剤により停止することができる。反応停止剤は、セルロースとのエステル化反応に関与しなかった過剰量のエステル化剤を加水分解するとともに、セルロース混合エステルを不溶化して沈殿させる。反応液へ反応停止剤を添加してもよいし、反応停止剤へ反応液を添加してもよい。
【0059】
沈殿したセルロース混合エステルは、公知の方法に従い、濾過または遠心分離などにより分離することができる。分離したセルロース混合エステルは、メタノールやエタノールなどのアルコールや水などによって1回または複数回洗浄した後、必要に応じて真空乾燥または加熱乾燥してもよい。
【0060】
次に、本発明のセルロース混合エステルの製造方法により得られるセルロース混合エステルについて説明する。
【0061】
本発明により得られるセルロース混合エステルの全置換度は、使用目的に応じて適宜選択することができるが、2.0〜3.0であることが好ましい。なお、全置換度とはセルロースのグルコースユニットの2位、3位、6位の水酸基に結合しているエステル基の置換度の合計である。セルロース混合エステルの全置換度が2.0以上であれば、熱流動性が良好であるため好ましい。セルロース混合エステルの全置換度は2.2以上であることがより好ましく、2.4以上であることが更に好ましい。一方、セルロース混合エステルの全置換度が3.0以下であれば、溶剤溶解性が良好であるため好ましい。セルロース混合エステルの全置換度は2.8以下であることがより好ましく、2.6以下であることが更に好ましい。
【0062】
本発明により得られるセルロース混合エステルは、セルロースのグルコースユニットの2位、3位、6位の炭素原子に結合しているエステル基の置換度をそれぞれDS(2)、DS(3)、DS(6)としたときに、下記式(I)を満たすことが好ましい。
(I)DS(6)×2>DS(2)+DS(3)
本発明により得られるセルロース混合エステルは、セルロースのグルコースユニットの6位の炭素原子に結合している炭素数3以上のアシル基の置換度をDS(6)acy、炭素数2のアセチル基の置換度をDS(6)aceとしたときに、下記式(II)を満たすことが好ましい。
(II)DS(6)acy≧DS(6)ace
本発明により得られるセルロース混合エステルの重量平均分子量は、5〜25万であることが好ましい。セルロース混合エステルの重量平均分子量が5万以上であれば、セルロースエステルの機械的特性を活かした分野に用いることができるため好ましい。セルロース混合エステルの重量平均分子量は6万以上であることがより好ましく、8万以上であることが更に好ましい。一方、セルロース混合エステルの重量平均分子量が25万以下であれば、粘性が高くなり過ぎず、取り扱いやすいため好ましい。セルロース混合エステルの重量平均分子量は22万以下であることがより好ましく、20万以下であることが更に好ましい。
【0063】
本発明により得られるセルロース混合エステルは、使用するエステル化剤の組み合わせによって、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートバレレート、セルロースアセテートカプロエート、セルロースブチレートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートプロピオネートなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
本発明により得られるセルロース混合エステルは、副次的添加物を加えて種々の改質を行ってもよい。副次的添加剤の具体例として、可塑剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、離型剤、抗菌剤、核形成剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色防止剤、調整剤、艶消し剤、消泡剤、防腐剤、ゲル化剤、ラテックス、フィラー、インク、着色料、染料、顔料、香料などが挙げられるが、これらに限定されない。これら副次的添加物を単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。また、本発明で得られるセルロース混合エステルに残存する水酸基に対して、他の化合物を反応させて使用してもよい。
【0065】
本発明により得られるセルロース混合エステルは、従来のセルロース混合エステルと異なり、置換度分布や置換基分布が制御されており、特に熱流動性や溶剤溶解性に優れているため幅広い分野に利用できる。例えば、繊維、ロープ、網、織編物、フェルト、フリース、繊維複合材料、フロック、詰綿などの繊維分野、偏光板保護フィルム、光学フィルムなどのフィルム分野、医療用器具、電子部品材料、包装材料、眼鏡枠、パイプ、棒、工具類、食器類、玩具などのプラスチック分野などに利用できる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、実施例中の各特性値は、以下の方法で求めたものである。
【0067】
A.置換度分布
セルロースエステルの濃度が8重量%となるように重ジメチルスルホキシドに完全に溶解させ、NMR測定用試料とした。この試料を用い、以下の条件にてBruker社製DRX−500で13C−NMR測定を行い、55〜110ppmに検出されたピークから置換度分布を算出した。なお、置換度分布の算出には、Polym.J.17,1065(1985)を参考にした。
共鳴周波数 :125.8MHz
内部標準 :テトラメチルシラン(0ppm)
積算回数 :19896回
測定温度 :100℃(373K)
表1〜4のDS(2)、DS(3)、DS(6)はそれぞれ2位、3位、6位におけるエステル置換度を表す。
【0068】
B.置換基分布
セルロースエステルの濃度が5重量%となるように重クロロホルムに完全に溶解させ、NMR測定用試料とした。この試料を用い、以下の条件にてBruker社製DRX−500で13C−NMR測定を行い、160〜180ppmに検出されたピークから置換基分布を算出した。なお、置換基分布の算出には、Carbohydr.Res.273,83(1995)を参考にした。
共鳴周波数 :125.8MHz
内部標準 :テトラメチルシラン(0ppm)
積算回数 :31215回
測定温度 :40℃(313K)
表1〜4のDS(2)ace、DS(3)ace、DS(6)aceはそれぞれ2位、3位、6位におけるアセチル置換度を表し、DS(2)acy、DS(3)acy、DS(6)acyはそれぞれ2位、3位、6位における炭素数3以上のアシル置換度を表す。
【0069】
C.重量平均分子量(Mw)
セルロースエステルの濃度が0.15重量%となるようにテトラヒドロフランに完全に溶解させ、GPC測定用試料とした。この試料を用い、以下の条件にてWaters2690でGPC測定を行い、ポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)を算出した。なお、測定は1試料につき3回行い、その平均値を重量平均分子量(Mw)とした。
【0070】
カラム :東ソー製TSK gel GMHHR−Hを2本連結
検出器 :Waters2410 示差屈折計RI
移動層溶媒 :テトラヒドロフラン
流速 :1.0ml/分
注入量 :200μl
D.熱流動性
80℃で4時間真空乾燥したセルロース混合エステル1gをプレス圧2MPa、240℃で1分間 熱圧プレスし、シート状フィルムを作製した。シート状フィルムの直径(cm)を測定し、「7cm以上」を◎、「6cm以上7cm未満」を○、「5cm以上6cm未満」を△、「5cm未満」を×とし、「6cm以上7cm未満」の○以上を合格とした。
【0071】
E.溶剤溶解性
80℃で4時間真空乾燥したセルロース混合エステル1gをクロロホルム100mlに溶解した後、不溶物を10ミクロンの濾紙を用いて濾別した。セルロース混合エステル1g中の不溶物の割合(重量%)を算出し、「0.2重量%未満」を◎、「0.2重量%以上0.5重量%未満」を○、「0.5重量%以上1.0重量%未満」を△、「1.0重量%以上」を×とし、「0.2重量%以上0.5重量%未満」の○以上を合格とした。
【0072】
実施例1
90℃で12時間真空乾燥したイオン液体(1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、アルドリッチ社製)100重量部へ、90℃で12時間真空乾燥したセルロース(日本製紙社製溶解パルプ、重合度約750、約3mm角シート状)5重量部を加え、窒素雰囲気下80℃で2時間撹拌してイオン液体へセルロースを溶解させた。エステル化剤として無水酢酸を1.8当量および無水プロピオン酸を1.8当量加えて、窒素雰囲気下80℃で2時間撹拌した。その後、反応液を水1500重量部に投入し、セルロースアセテートプロピオネートを析出させた。析出したセルロースアセテートプロピオネートを濾別し、水100重量部を用いた水洗および濾別を3回繰り返した後、80℃で4時間真空乾燥した。
【0073】
得られたセルロースアセテートプロピオネートの置換度分布、置換基分布、重量平均分子量(Mw)、熱流動性および溶剤溶解性の評価結果を表1に示す。得られたセルロースアセテートプロピオネートは、熱流動性、溶剤溶解性ともに合格レベルであった。
【0074】
実施例2
90℃で12時間真空乾燥したイオン液体(1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、アルドリッチ社製)100重量部へ、90℃で12時間真空乾燥したセルロース(日本製紙社製溶解パルプ、重合度約750、約3mm角シート状)5重量部を加え、窒素雰囲気下80℃で2時間撹拌してイオン液体へセルロースを溶解させた。エステル化剤1として無水プロピオン酸を1.8当量加えて、窒素雰囲気下80℃で1時間撹拌した後、エステル化剤2として無水酢酸を1.8当量加えて、窒素雰囲気下80℃で1時間撹拌した。その後、反応液を水1500重量部に投入し、セルロースアセテートプロピオネートを析出させた。析出したセルロースアセテートプロピオネートを濾別し、水100重量部を用いた水洗および濾別を3回繰り返した後、80℃で4時間真空乾燥した。
【0075】
得られたセルロースアセテートプロピオネートの置換度分布、置換基分布、重量平均分子量(Mw)、熱流動性および溶剤溶解性の評価結果を表1に示した。エステル化剤の逐次添加によって、セルロースと無水酢酸との反応に優先して、セルロースと無水プロピオン酸との反応を行ったため、1級水酸基である6位にはアセチル基よりプロピオニル基が多く導入されていた。また、得られたセルロースアセテートプロピオネートは、熱流動性、溶剤溶解性ともに極めて優れていた。
【0076】
実施例3〜6
エステル化剤1、2をそれぞれ表1に示した化合物および当量に変更した以外は、実施例2と同様にセルロース混合エステルを調製した。
【0077】
得られたセルロース混合エステルの置換度分布、置換基分布、重量平均分子量(Mw)、熱流動性および溶剤溶解性の評価結果を表1に示す。エステル化剤の種類や当量に関わらず、いずれのセルロース混合エステルも、1級水酸基である6位には、セルロースと優先的に反応を行ったエステル化剤1由来のエステル基が多く導入されていた。また、いずれのセルロース混合エステルも、熱流動性、溶剤溶解性ともに合格レベルであった。
【0078】
実施例7〜10
イオン液体の種類、セルロース溶解温度およびエステル化温度をそれぞれ表2に示した通り変更した以外は、実施例2と同様にセルロースアセテートプロピオネートを調製した。なお、実施例7〜9ではアルドリッチ社製、実施例10では関東化学社製のイオン液体を用いた。
【0079】
得られたセルロースアセテートプロピオネートの置換度分布、置換基分布、重量平均分子量(Mw)、熱流動性および溶剤溶解性の評価結果を表2に示す。イオン液体の種類、セルロース溶解温度およびエステル化温度に関わらず、いずれのセルロースアセテートプロピオネートも、1級水酸基である6位には、セルロースと優先的に反応を行った無水プロピオン酸由来のプロピオニル基が多く導入されていた。また、いずれのセルロースアセテートプロピオネートも、熱流動性、溶剤溶解性ともに合格レベルであった。
【0080】
実施例11、12
イオン液体の重量に対するセルロースの重量をそれぞれ表3に示した値に変更した以外は、実施例2と同様にセルロースアセテートプロピオネートを調製した。
【0081】
得られたセルロースアセテートプロピオネートの置換度分布、置換基分布、重量平均分子量(Mw)、熱流動性および溶剤溶解性の評価結果を表3に示す。イオン液体の重量に対するセルロースの重量に関わらず、いずれのセルロースアセテートプロピオネートも、1級水酸基である6位には、セルロースと優先的に反応を行った無水プロピオン酸由来のプロピオニル基が多く導入されていた。また、いずれのセルロースアセテートプロピオネートも、熱流動性、溶剤溶解性ともに合格レベルであった。
【0082】
実施例13、14
セルロース溶解時間およびエステル化時間をそれぞれ表3に示した通り変更した以外は、実施例2と同様にセルロースアセテートプロピオネートを調製した。エステル化剤1として無水プロピオン酸を1.8当量加えて、窒素雰囲気下80℃で実施例13では15分間撹拌し、実施例14では3時間撹拌した。その後、エステル化剤2として無水酢酸を1.8当量加えて、窒素雰囲気下80℃で実施例13では15分間撹拌し、実施例14では3時間撹拌した。
【0083】
得られたセルロースアセテートプロピオネートの置換度分布、置換基分布、重量平均分子量(Mw)、熱流動性および溶剤溶解性の評価結果を表3に示す。セルロース溶解時間およびエステル化時間に関わらず、いずれのセルロースアセテートプロピオネートも、1級水酸基である6位には、セルロースと優先的に反応を行った無水プロピオン酸由来のプロピオニル基が多く導入されていた。また、いずれのセルロースアセテートプロピオネートも、熱流動性、溶剤溶解性ともに合格レベルであった。
【0084】
比較例1
セルロース(日本製紙社製溶解パルプ、重合度約750、約3mm角シート状)100重量部に、酢酸250重量部を加え、窒素雰囲気下50℃で4時間混合してセルロースを膨潤させた。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸1.8当量と無水プロピオン酸1.8当量をエステル化剤として、硫酸4重量部をエステル化触媒として加えて、窒素雰囲気下35℃で2時間撹拌してエステル化反応を行った。
【0085】
その後、反応停止剤として酢酸100重量部と水33重量部の混合溶液を20分間かけて添加した後、60℃で1時間撹拌して過剰の無水酢酸および無水プロピオン酸を加水分解した。さらに、酢酸333重量部と水100重量部を添加した後、60℃で4時間撹拌して熟成反応を行い、セルロースアセテートプロピオネートのエステル基を加水分解して置換度を低下させた。反応終了後、酢酸マグネシウム6重量部を含む25重量%水溶液を添加して、セルロースアセテートプロピオネートを析出させた。析出したセルロースアセテートプロピオネートを濾別し、水500重量部を用いた水洗および濾別を3回繰り返した後、80℃で4時間真空乾燥した。
【0086】
得られたセルロースアセテートプロピオネートの置換度分布、置換基分布、重量平均分子量(Mw)、熱流動性および溶剤溶解性の評価結果を表4に示す。熟成反応では、2級水酸基である2位、3位に結合したエステル基に優先して、1級水酸基である6位に結合したエステル基が加水分解によって脱離するため、得られたセルロースアセテートプロピオネートは2位、3位の置換度に比べて、6位の置換度が低いものであった。また、得られたセルロースアセテートプロピオネートは、熱流動性、溶剤溶解性ともに極めて劣っていた。
【0087】
比較例2
セルロース(日本製紙社製溶解パルプ、重合度約750、約3mm角シート状)100重量部に、酢酸250重量部を加え、窒素雰囲気下50℃で4時間混合してセルロースを膨潤させた。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸1.8当量と無水プロピオン酸1.8当量をエステル化剤として、硫酸4重量部をエステル化触媒として加えて、窒素雰囲気下35℃で2時間撹拌してエステル化反応を行った。
【0088】
その後、反応停止剤として酢酸433重量部と水133重量部の混合溶液を20分間かけて添加した後、60℃で1時間撹拌して過剰の無水酢酸および無水プロピオン酸を加水分解した。さらに、酢酸マグネシウム6重量部を含む25重量%水溶液を添加して、セルロースアセテートプロピオネートを析出させた。析出したセルロースアセテートプロピオネートを濾別し、水500重量部を用いた水洗および濾別を3回繰り返した後、80℃で4時間真空乾燥した。
【0089】
得られたセルロースアセテートプロピオネートの置換度分布、置換基分布、重量平均分子量(Mw)、熱流動性および溶剤溶解性の評価結果を表4に示す。エステル化剤として、無水酢酸および無水プロピオン酸を同時に添加したため、1級水酸基である6位には、無水プロピオン酸より反応性が高い無水酢酸由来のアセチル基が多く導入されていた。また、得られたセルロースアセテートプロピオネートは、熱流動性、溶剤溶解性ともに合格レベルではなかった。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のセルロース混合エステルは、置換度分布や置換基分布が制御されており、熱流動性や溶剤溶解性に優れている。そのため、繊維、フィルム、プラスチックなど幅広い分野において好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースとイオン液体からなる混合物へ2種以上のエステル化剤を添加することを特徴とするセルロース混合エステルの製造方法。
【請求項2】
2種以上のエステル化剤を逐次添加することを特徴とする請求項1記載のセルロース混合エステルの製造方法。
【請求項3】
エステル化剤の逐次添加において、炭素数3以上のアシル化剤を添加した後に、炭素数2のアセチル化剤を添加することを特徴とする請求項1または2記載のセルロース混合エステルの製造方法。
【請求項4】
イオン液体を構成するカチオンが、イミダゾリウムカチオンまたはピリジニウムカチオンのいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のセルロース混合エステルの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載の製造方法により製造されたセルロース混合エステルにおいて、セルロースのグルコースユニットの2位、3位、6位におけるエステル基の置換度をそれぞれDS(2)、DS(3)、DS(6)としたときに、下記式(I)を満たすことを特徴とするセルロース混合エステル。
(I)DS(6)×2>DS(2)+DS(3)
【請求項6】
セルロースのグルコースユニットの6位における炭素数3以上のアシル基の置換度をDS(6)acy、炭素数2のアセチル基の置換度をDS(6)aceとしたときに、下記式(II)を満たすことを特徴とする請求項5記載のセルロース混合エステル。
(II)DS(6)acy≧DS(6)ace
【請求項7】
セルロース混合エステルが、セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートのいずれかであることを特徴とする請求項5または6記載のセルロース混合エステル。

【公開番号】特開2011−74113(P2011−74113A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224176(P2009−224176)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】