説明

セルロース系成形製品の製造方法、セルロース系成形製品およびその使用

本発明は、非極性有機化合物および混合物の安定化された包含物を微細分散させたセルロース系成形製品を乾式−湿式押出製法により製造する方法に関する。本方法により製造された成形製品は、未変性のセルロース繊維と比較して、熱および/または非極性活性物質に対する貯蔵容量が大きく増加している。これらの製品は、とれわけ衣類、工業用織物、レジャー、医薬および化粧品用の織物に好適である。この機能的効果により、熱貯蔵に関連する、および/または非極性活性物質および植物抽出物を成形製品の繊維の内側に貯蔵し、そこから一様に、正確に計量放出することができる物理的効果が得られる。この製法により、非極性部分の適切な選択により、液体または気体状非極性物質を吸収できる繊維も製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一種の非極性有機化合物の包含物を含むセルロース系成形製品を乾式−湿式押出製法により製造する方法、セルロース系成形製品およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
織物繊維および成形製品の熱貯蔵容量は、成形重合体を、融解/固化転移、配座転移または脱配向(deorientation)/結晶化によりエネルギーを周囲の区域と交換できる有機相変化材料と組み合わせた場合に、増加できることが分かっている。エネルギー交換の程度および有効温度範囲は、化学構造、物理的エンタルピーの変化、および相変化材料の濃度と相関している。繊維中のエネルギー交換効果は、成形製品中または上における相変化材料の分子近配向(molecular near−orientation)の結果として保持されることが主として不可欠である。下記の解決策が公知である。
【0003】
第一に、相変化材料を有機重合体層でカプセル封入し、次いでそれらのカプセルを重合体繊維中に配合するか、または繊維に付ける(例えば、欧州特許1658395=米国特許公開公報US2006/0279017)。また、WO2005/017247の例示において、マイクロカプセル封入された相変化材料が、Lyocell製法による温度調節特性を有するセルロース繊維の製造に使用されている。ここで、相変化材料のカプセル封入を、成形または加工と別に行うことは不利であることが立証されている。必然的に、材料に関して入手できるカプセルバッチと、成形工程に対する適性との間のバランスが必要である。乾式−湿式押出製法の場合、とりわけ、細かさおよび粒子径分布、機械的および化学的安定性、相変化材料の使用分野に対する適性、入手可能性およびコストのような必要条件がマイクロカプセルに課せられる。
【0004】
さらに、相変化材料は、ポリオレフィンマトリックスまたは重合体懸濁液中に配合することができる。例えば、融点が15〜65℃の相変化材料を含むメルト−スパンポリオレフィン繊維の製造が公知である(米国特許US5855475)。
【0005】
中空繊維中へ直接、相変化材料(例えば、ポリエチレングリコール)を配合することが、米国特許US4908238に記載されている。しかし、この文献では、成形製品中の相変化材料の安定化が省略されている。構造の観点から、これはマイクロサンドイッチ構造に類似している。簡単なサンドイッチ構造は、例えば米国特許公開公報US2003/124278に開示されている。
【0006】
WO03/027365(=欧州特許EP1430169)における特別な実施態様によれば、セルロース繊維の製造中にPCMを原料中に混合できるはずである。しかし、この実施態様では、PCMはマトリックス材料(セルロース)に永久的な結合ができず、PCMと溶解セルロースとの混合物から繊維を紡糸することも不可能である。
【0007】
織布またはセルロース繊維から活性成分を放出させることが注目されている。カプセル封入された活性成分含有材料を繊維表面上に固定すること(WO01/73188)、またはその中に配合すること(WO2006/066291)も公知である。香料および活性成分をマイクロカプセルとして製造できることが、例えば欧州特許EP1243326に記載されている。やはり、入手可能性が制限されているため、マイクロカプセルはカプセル封入を成形とは別に行うので、工業的用途には不利であることが立証されている。
【0008】
原料(溶媒、セルロース、非極性有機化合物および混合物、増粘剤および相強化剤(phase promoter))を紡糸溶液に加え、続いて一工程で成形することにより、永久的非極性有機微小包含物を、親水性網目形成重合体、例えばセルロース中に形成する方法は文献には開示されていない。これまで、非極性有機化合物および混合物中に溶解または分散させることができる有機化合物を、親水性網目形成重合体(例えばセルロース)中に、永久的非極性有機微小包含物として配合する場合、これらの有機化合物を、変性剤(例えば融点を下げることにより、相変化材料の融解範囲を変える)または放出可能な活性成分として使用できることも記載されていない。
【0009】
粉末形態にあるナノスケール活性成分および/またはカーボンナノチューブの配合のみが公知である(WO2004/081267)。この文献からは、極性セルロース溶液中への親油性物質の配合に関する開示は推論できない。
【発明の概要】
【0010】
そこで、WO2006/066291に記載されている先行技術を起点とした、本発明の目的は、非極性有機化合物および混合物の直接配合を利用し、これらの非極性有機化合物および混合物の包含物を含むセルロース系成形製品を直接製造する方法を開発することである。適切であれば、これらの非極性有機化合物の包含物を含むセルロース系成形製品は、包含物の表面に、または表面近くに特に集中する別の機能性添加剤を有するべきである。
【0011】
さらに、活性成分を、セルロース系成形製品中に溶解させる、および/または貯蔵することができ、長期にわたって制御された様式で周囲区域に放出できる方法を開示することも目的の範囲内である。
【0012】
本発明により、この目的は、
セルロースを溶媒に溶解させた溶液中で、少なくとも一種の非極性有機化合物を含むエマルジョンを調製し、少なくとも一種の疎水性粘度増加剤を加えることにより、安定化させること、および/または、
ナノスケールの、シート状の、および/または細長い、疎水性が付与された粒子、例えばシートケイ酸塩、ナノチューブまたはナノフィラメント、を前記エマルジョンに加えて、これらの粒子が、非極性有機化合物の滴状包含物を取り囲んだ懸濁液を形成すること、および、
前記セルロースを再結晶させ、前記非極性有機化合物が分散形態で配合されているセルロースマトリックスを含む成形製品を形成すること、
により達成される。
【0013】
上記の方法においては、セルロースを好適な溶媒中に溶解させることにより調製されるセルロース系成形溶液および紡糸溶液を、非極性有機材料と混合し、非極性材料がセルロース溶液中に乳化し得るように、非極性材料の粘度を増加させ、非極性材料の分散相を安定化させる。紡糸材料中で剥脱(exfoliated)される、シート状の、および/または細長い、ナノスケール粒子(例えば、疎水性が付与されたシート鉱物、シートケイ酸塩およびベントナイト)を加える場合、分散相は、これらのナノ粒子の層により取り囲まれる。
【0014】
セルロースの代わりに、またはそれに加えて、天然または合成された形態にある所望のいかなる多糖および/または多糖の混合物でも使用することができる。例は、木材セルロース、デンプン、ジュート、亜麻、コットンリンター、キトサンまたはそれらの混合物である。
【0015】
好適な溶媒としては、例えば、N−メチルモルホリンN−オキシド等の第三級アミンオキシドの水溶液、およびイオン性液体、好ましくはエチルメチルイミダゾリウムアセテートである。他のイオン性液体、例えば、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(BMIMCI)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(EMIMCI)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート(BMIMAc)および1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート(BMIMAc)、N,N−ジメチルアセトアミドリチウムクロリド、1−アルキル−3−メチルイミダゾリウム塩、もこの製法に溶媒として好適であることが分かった。
【0016】
本発明の方法においては、セルロースの物理的溶液の製造および紡糸を、その誘導体化を行わずに行い、セルロースをN−メチルモルホリンN−オキシドの溶液またはイオン性液体中に少なくとも一種の非極性有機化合物を含むエマルジョンを調製し、そのエマルジョンを、疎水性粘度増加剤(増粘剤)を加えることにより安定化させて、懸濁液を形成し、セルロースを再結晶させ、非極性有機化合物が分散形態で配合されたセルロースマトリックスを含む成形製品を形成する。適切であれば、ナノスケールの、シート状および/または細長い、疎水性が付与された粒子をエマルジョンに加えることができ、これらの粒子は配合された非極性有機化合物の滴を取り囲み、非極性材料をさらに安定化させる。
【0017】
イオン性液体で作業する場合、紡糸ドープが、セルロース/アミンオキシド溶液と対照的に、固化せず、従って、室温から120℃の比較的広い温度範囲で成形可能であるため、好適なセルロース/塩溶液を90℃未満の温度で加工するのが特に重要である。従って、例えば蒸気圧が非常に高い非極性材料を90℃で加工することができる。
【0018】
非極性有機化合物は、好ましくは、炭化水素、ワックス、みつろう、オイル、脂肪酸、脂肪酸エステル、無水ステアリン酸、長鎖アルコール、またはそれらのいずれかの所望の混合物である。非極性有機化合物は、一般的に融点が100℃未満であり、好ましくは0〜40℃である。これは混合物にもあてはまる。
【0019】
好ましい疎水性粘度増加剤の一種は、疎水性が付与されたナノスケールヒュームシリカである。この材料は、非極性有機化合物の粘度を、非極性有機化合物をセルロース系成形および紡糸溶液中に乳化できる程度に増加する。
【0020】
他の好適な増粘剤は、オレフィン系および芳香族部分を含む重合体、例えばスチレン−ブタジエンブロック共重合体または短鎖ポリエチレン型もしくはリン含有エステルである。これらの材料は、難燃性をさらに付与する主として二環式のリン含有エステルである。疎水性が付与された、ナノスケールシート状および/または細長い粒子は、増粘剤としても使用することができる。驚くべきことに、増粘剤画分を、セルロースの重量に対して1〜50重量%、好ましくは5〜20重量%とすれば、セルロース系成形および紡糸溶液中に入れた炭化水素のエマルジョンの密度および粘度と、水中の炭化水素エマルジョンの密度および粘度との大きな差を埋めるのに十分である。ナノスケールヒュームシリカは、一般的に平均直径が30〜200nm、好ましくは40〜100nmである粒子からなる。
【0021】
本発明の方法に好適な疎水性が付与されたナノスケールヒュームシリカは公知である。先行技術では、これらの材料は、溶液の増粘(欧州特許EP0745372)、およびヒュームシリカを、油/水界面に配置することにより、油中水型または水中油型エマルジョンにおける分散相の分離に対する安定化に役立つ(独国特許DE102004014704)。これらの材料は、「徐放」系に使用することができる。
【0022】
ナノスケール、シート状、疎水性が付与された粒子は、一般的に、それぞれの場合に、同様にセルロースの重量に対して1〜50重量%、好ましくは2〜20重量%、特に好ましくは5〜12重量%の画分で使用される。これらの材料は、好ましくは変性されたシート状ケイ酸塩、例えば疎水性が付与されたベントナイトである。粒子は、一般的に約200〜1000nmの長さおよび幅、および約1〜4nmの厚さを有する。長さおよび幅と厚さの比(縦横比)は、好ましくは約150〜1000、好ましくは200〜500である。疎水性が付与された細長いナノスケール粒子、例えばカーボンナノチューブまたはカーボンナノフィラメントも同様に使用できる。ナノチューブは、一般的に直径が1〜30nm、ナノフィラメントは約150〜300nmである。長さは数ミリメートルまでである。
【0023】
ナノスケール粒子は、有機材料の微小相をナノ分散構造の層で取り囲む。これらの粒子は、成形の際にはエマルジョンを安定化させ、次いでセルロースマトリックスと内包された非極性有機化合物との間の相強化剤として作用するという驚くべき特性を有する。
【0024】
本発明に関して、「ナノスケール」は、工業標準ISO/TS 27687で説明されているように、少なくとも一つの次元で1〜100nmのサイズを有する物体を意味する。
【0025】
内包される非極性有機化合物は活性成分を含んでいてもよい。これらの成分は非極性活性成分であり、非極性有機化合物とともに、溶液または懸濁液を形成する。活性成分は、好ましくは植物性物質(例えば、ホホバ油、マノイ油、イブニングプリムローズ油、アボカド油、ココアバター、エーテル性植物抽出物)もしくは非極性植物抽出物、脂肪可溶性ビタミン(例えば、ビタミンA、DおよびE)、または殺虫剤(例えば、ピレスロイド、具体的にはペルメトリン)もしくは忌避剤である。活性成分の濃度は、成形製品1kgあたり0.001〜500g、好ましくは50〜150gでよい。活性成分は、周囲区域に長期間にわたって制御された様式で放出することができる。この効果は、例えば機能性繊維の洗濯堅牢度により立証することができる。
【0026】
セルロース系成形製品中の疎水性が付与されたナノスケール粒子も同様に、非極性および他の有機または無機物質を含めることができる。そのような有機または無機物質としては、例えば、染料、顔料、難燃剤、可塑剤、発光物質、UV吸収剤、電気的または磁気的伝導性物質、ツヤ消し剤、香料、抗細菌活性成分、殺真菌剤および他の機能性添加剤が挙げられる。分子間相互作用が弱いために、これらの分子は可逆的に吸着される。過剰のナノスケール粒子が、成形製品の表面に、および/または包含物の表面近くに優先的に集中することが分かっている。これによって、成形製品に追加の機能的特性を付与するさらなる道が開ける。セルロースには膨潤する能力があるので、成形製品は、製造工程の後に、非極性および弱極性の材料を、水相からナノ粒子表面に移行させ、そこで可逆的に吸着結合させることにより、非極性および弱極性の材料を含めることができる。この方法は、気相を経由して効果を発揮する物質(例えば、昆虫に対する忌避剤)、あらゆる種類の香料または医薬的活性物質に特に好適である。成形物体における他の添加剤は、染料、UV安定剤、殺細菌物質、難燃剤、帯電防止剤、架橋剤、可塑剤、触媒であってよい。
【0027】
非極性有機化合物および混合物を、紡糸溶液中に溶解させたセルロースの重量に対して200%(w/w)未満の濃度で添加した結果、成形製品は、66%(w/w)未満の非極性有機化合物または混合物を含む。
【0028】
本発明の方法によれば、未変性のセルロース繊維と比較して、熱および/または非極性活性物質に対する貯蔵容量が大きく増加したセルロース系成形製品が得られ、それらの非極性物質の効果は、他の官能基と組み合わせることができる。
【0029】
さらに、相変化材料の融点は、他の有機化合物と混合することにより下げることができ、従って、それぞれの場合に所望される値に調節することができる。非極性有機化合物は、非極性有機活性成分用の溶媒および/または貯蔵媒体としても好適である。活性成分は、セルロース系成形製品中の包含物から制御された様式で放出させることができる。非極性有機物質の包含物を含む繊維が、気体状および/または液体非極性化合物(有害物質)を吸収する逆効果を利用することもできる。
【0030】
官能性効果は、熱貯蔵の物理的効果、および/または、非極性活性成分、植物抽出物等を繊維の内側から一様に正確に供給できる貯蔵および放出能力、に基づく。非極性画分を適切に選択することにより、液体または気体状非極性物質用の吸収媒体として作用し得る繊維を、この方法により製造することもできる。作用の他の機能的様式は、特定の官能性増粘剤および/または官能性活性成分を内包したシート状ナノスケール添加剤の選択により達成することができる。
【0031】
本発明の方法を使用することにより、バルク材料を処理することができ、従来のカプセル封入およびマイクロカプセルの配合が省略されるため、上記した効果、例えば熱貯蔵容量の増加や「制御された放出」機能を有するセルロース系成形製品を、遙かに効率的かつ安価に製造することができる。本発明の方法は改変することができる。すなわち、例えば、工業的な標準的相変化材料を、予め決められた使用温度に正確に適合させる、および/または融解/固化範囲を拡げるために、混合物の融点低下を活用することができる。
【0032】
本発明の成形製品は、とりわけ繊維の形態で加工され、衣類工業で工業的織物として、およびレジャー業界で使用される織物を形成することができる。具体的には、非極性活性成分を備えた成形製品は、医薬または化粧品目的にも使用できる。成形製品は、活性成分を装填した特殊な紙またはフィルムの製造にも使用できる。
【0033】
本発明のセルロース系成形製品は、セルロースマトリックスおよびその中に分散した包含物を有し、それらの包含物は、疎水性増粘剤で安定化させた一種以上の非極性有機化合物を含む。
【0034】
非極性有機化合物は、好ましくは、それぞれの場合に融点が100℃未満である、炭化水素、ワックス、みつろう、油、脂肪酸、脂肪酸エステル、無水ステアリン酸および長鎖アルコールを含んでなる群から選択する。非極性有機化合物の画分は、セルロースの重量に対して、10重量%を超え、好ましくは30重量%を超え、特に好ましくは40重量%を超える。
【0035】
疎水性増粘剤の一種は、ナノスケール粒子、好ましくは疎水性が付与されたナノスケールヒュームシリカからなり、セルロースの重量に対して1〜50重量%の量で存在する。
【0036】
さらに、包含物は、植物性物質、ホホバ油、マノイ油、イブニングプリムローズ油、アボカド油、ココアバター、エーテル性植物抽出物、非極性植物抽出物、脂肪可溶性ビタミン、ビタミンA、DおよびE、殺虫剤(例えばピレスロイド)、具体的にはペルメトリン、および忌避剤を含んでなる群から選択される一種以上の活性成分を含んでいてもよい。活性成分は、セルロース系成形製品の重量に対して1〜50重量%の量で存在する。
【0037】
特別な実施態様では、セルロース系成形製品は、ナノスケールの層状粒子および/またはナノスケールの細長い粒子から製造されたバリア材料を含んでなり、そのバリア材料により、非極性有機化合物が包含物の中に保持され、活性成分が制御された様式で放出される。バリア材料の画分は、セルロースの重量に対して1〜50重量%である。
【0038】
バリア材料に関連する本発明の別の実施態様は、請求項25〜29に記載されている。
【0039】
別の実施態様では、セルロース系成形製品は、15〜45℃の温度範囲内で、20J/gを超える、好ましくは30J/gを超える、特に好ましくは50J/gを超える特定の潜熱を有する。
【0040】
以下に、本発明を2種類の図面を参照しながら、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】セルロース繊維を図式的に示す図であり、
【図2】図1による繊維における、個々の包含物およびその周囲区域を通して見た断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
図1は、セルロースマトリックス2およびその中に分散させた包含物3を含む繊維1を示す。包含物3は、少なくとも一種の疎水性増粘剤で安定化させた一種以上の非極性有機化合物を含む。
【0043】
包含物3およびそれを取り囲むセルロースマトリックスの詳細を図2に図式的に示す。ナノスケール層状粒子のバリア材料4がセルロースマトリックス2の中に分散されている。特に、層状粒子は、セルロースマトリックス2の中で個別に存在するか、または剥脱されている。包含物3の周囲では、バリア材料4の密度が、セルロースマトリックス2中の平均密度より高くなっている。従って、包含物3は、バリア材料の区域により取り囲まれており、その区域を通して、その中に存在する非極性有機化合物および所望により活性成分は、曲がりくねった経路を経由してのみ、セルロースマトリックス2の中に入ることができる。バリア材料4の適切な選択および配合量により、活性成分に対する透過性を、目標とする様式(「徐放系」)に調節することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種の非極性有機化合物の包含物を含むセルロース系成形製品を乾式−湿式押出製法により製造する方法であって、
セルロースを溶媒に溶解させた溶液中で、少なくとも一種の非極性有機化合物を含むエマルジョンを調製し、少なくとも一種の疎水性粘度増加剤を加えることにより、安定化させること、および/または、
ナノスケールの、シート状の、および/または細長い、疎水性が付与された粒子、例えばシートケイ酸塩、ナノチューブまたはナノフィラメント、を前記エマルジョンに加えて、これらの粒子が、非極性有機化合物の滴状包含物を取り囲んだ懸濁液を形成すること、および、
前記セルロースを再結晶させ、前記非極性有機化合物が分散形態で配合されているセルロースマトリックスを含む成形製品を形成すること、を特徴とする、方法。
【請求項2】
前記疎水性粘度増加剤の一種としてナノスケール粒子が使用され、前記シート状の疎水性が付与された製品において、変性されたシート状ケイ酸塩が好ましく、前記細長い粒子からは、ナノチューブまたはナノフィラメントが好ましい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ナノスケール構造化されたヒュームシリカ、オレフィン系および芳香族部分を含む重合体、好ましくはスチレン−ブタジエンブロック重合体、またはリン含有エステルが疎水性試剤として使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第三級アミンオキシドまたはイオン性液体が溶媒として使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記疎水性試剤が、前記セルロースの重量に対して1〜50重量%、好ましくは1〜30重量%の画分で使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
疎水性が付与されたベントナイトが、変性されたシートケイ酸塩として使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
染料、UV安定剤、殺細菌物質、難燃剤、帯電防止剤、架橋剤、可塑剤および/または触媒が、前記疎水性試剤および前記シート状ナノスケール粒子の両方に添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
融点が100℃未満である、炭化水素、ワックス、みつろう、オイル、脂肪酸、脂肪酸エステル、無水ステアリン酸、長鎖アルコールまたはそれらの混合物が、非極性有機化合物として使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記非極性有機化合物が、前記非極性有機化合物の融点を下げる他の有機物質と混合される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記非極性有機化合物の前記包含物が、活性成分の、好ましくは非極性活性成分を非極性有機溶媒に溶解させた溶液または懸濁液から得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
植物性物質、例えば、ホホバ油、マノイ油、イブニングプリムローズ油、アボカド油、ココアバター、エーテル性植物抽出物または非極性植物抽出物、脂肪可溶性ビタミン、例えばビタミンA、DおよびE、ならびに殺虫剤、ピレスロイド、好ましくはペルメトリン、または忌避剤、が活性成分として使用される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
活性成分の濃度が、成形製品1kgあたり0.001g〜500gである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
セルロースマトリックスおよび、前記セルロースマトリックス中に分散した、非極性有機化合物の包含物を含むセルロース系成形製品であって、少なくとも一種の疎水性粘度増加剤を含んでなる、および/または前記包含物が、バリア材料として、ナノスケールシート状および/または細長い疎水性が付与された粒子により取り囲まれている、セルロース系成形製品。
【請求項14】
前記非極性有機化合物が、融点が100℃未満である、炭化水素、ワックス、みつろう、オイル、脂肪酸、脂肪酸エステル、無水ステアリン酸および長鎖アルコールから選択される、請求項13に記載のセルロース系成形製品。
【請求項15】
前記非極性有機化合物の画分が、前記セルロースの重量に対して10重量%を超える、好ましくは30重量%を超える、特に好ましくは40重量%を超える、請求項13に記載のセルロース系成形製品。
【請求項16】
前記包含物が、植物性物質、例えばホホバ油、マノイ油、イブニングプリムローズ油、アボカド油、ココアバター、エーテル性植物抽出物、非極性植物抽出物、脂肪可溶性ビタミン、ビタミンA、DおよびE、殺虫剤、ピレスロイド、ペルメトリンおよび忌避剤を含んでなる群から選択された一種以上の活性成分を含む、請求項13に記載のセルロース系成形製品。
【請求項17】
前記活性成分が、前記セルロース系成形製品の重量に対して、50重量%までの量で存在する、請求項16に記載のセルロース系成形製品。
【請求項18】
前記疎水性試剤の画分が、前記セルロースの重量に対して1〜50重量%である、請求項13に記載のセルロース系成形製品。
【請求項19】
前記ナノスケール粒子が、疎水性が付与されたナノスケールヒュームシリカからなる、請求項13に記載のセルロース系成形製品。
【請求項20】
前記セルロース系成形製品が、前記非極性有機化合物を保持し、前記活性成分を徐放するための、ナノスケール粒子から製造されたバリア材料を含んでなる、請求項13および16に記載のセルロース系成形製品。
【請求項21】
前記バリア材料の画分が、前記セルロースの重量に対して1〜50重量%である、請求項20に記載のセルロース系成形製品。
【請求項22】
前記バリア材料が疎水性である、請求項20に記載のセルロース系成形製品。
【請求項23】
前記バリア材料が、ナノスケール疎水性が付与されたシートケイ酸塩、ナノスケール疎水性が付与されたベントナイトまたはナノチューブもしくはナノフィラメントを含んでなる、請求項20に記載のセルロース系成形製品。
【請求項24】
前記包含物が、前記バリア材料の密度が高い区域により取り囲まれている、請求項13に記載のセルロース系成形製品。
【請求項25】
前記セルロース系成形製品が繊維であり、DIN EN 26330 (1993)に準拠した試験により、一種以上の非極性有機化合物の、20回洗浄後の損失が、前記繊維中に本来存在するそれぞれの有機化合物の量に対して、20重量%未満である、請求項13に記載のセルロース系成形製品。
【請求項26】
前記セルロース系成形製品が、15〜45℃の温度範囲内で、20J/gを超える、好ましくは30J/gを超える、特に好ましくは50J/gを超える比潜熱を有する、請求項13に記載のセルロース系成形製品。
【請求項27】
前記セルロース系成形製品が、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法により製造される、請求項13に記載のセルロース系成形製品。
【請求項28】
前記セルロース系成形製品が、疎水性粘度増加剤として、難燃剤が内包されているリン含有エステルおよび/または疎水性が付与されたナノスケール粒子を含んでなり、それによって、防炎仕上げが施されている、請求項13に記載のセルロース系成形製品。
【請求項29】
請求項13に記載のセルロース系成形製品の、織物シート材料における、特殊な紙を製造するために、またはフィルム、特に活性成分を内包したフィルムを製造するために、所望により他の織物繊維とブレンドする、使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−503382(P2011−503382A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533482(P2010−533482)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009497
【国際公開番号】WO2009/062657
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(502451568)
【Fターム(参考)】