説明

セルロース系裏地

【課題】これまでの平組織の欠点が改善された、可縫性と防透け性の優れたセルロース系の裏地を提供する。
【解決手段】沸水処理後の伸縮伸長率(SB)が4%以上である高捲縮性セルロース系繊維を、平組織からなる織物裏地を構成する経糸か緯糸のいずれか一方に使用して、可縫性と防透け性の優れたセルロース系の裏地を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏地を構成する経糸か緯糸の少なくとも一方に沸水処理後の伸縮伸長率(SB)が4%以上ある高捲縮性セルロース系繊維を用いてなるセルロース系の裏地に関する。更に詳しくは、針ヒケ性能や歪み(バイアス変形)等の可縫性に優れ、且つ、防透け性能にも優れる平織り組織からなるセルロース系裏地に関係する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系繊維フィラメントを用いた裏地は、従来からセルロース特有の性質である吸放湿性や制電性能の良さに加え、優れた発色性や独特の風合いを有するため婦人や紳士用衣料の副資材として幅広く供されている。これらの裏地はセルロース系繊維をそのままの生糸で使用したり撚糸したりして織物を製織しているため、極めてプレーンな仕上がりになる。裏地用途に於いてはこの平滑性に由来した滑り性の良さや光沢の良さ、更には、接触冷温感の良さなどがセルロース系裏地の特徴として挙げられるが、反面これらの特徴が可縫性上の欠点となったり、用途・商品アイテムによっては短所になるケースがある。 特に、婦人分野では軽衣料に裏地が使用されることが多いため平組織の裏地が圧倒的に使用されているが、織物密度によってはせん断変形を起こし易くなり裁断や縫製が難しくなったり、縫製時の針ヒケが目立ったり、更には平滑性と光沢の良さが相まって透け易くなることが問題視されていた。これらの欠点のうち、可縫性に関してはこれまで織設計(織組織・密度)や仕上げ加工からの改善が検討されてきた。
【0003】
一方、防透け性については酸化チタン等を原糸に練り込み光りの反射率を高めて改善する試みが成されてきた。このように従来技術においては、1つの手段で可縫性と防透け性を達成するような技術は無かったのが実情である。以下にこの手段に関する先行文献を挙げる。
伸張捲縮率(沸水捲縮率と定義は同一)が4%以上の高い捲縮性能を有する加工糸が開示されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。これらの文献には、これらの高捲縮糸の用途が記載されているが、編物が主体であり織物についての具体的な開示は無い。
また、伸張捲縮率が4%以上の高い捲縮性能を有する加工糸を用いた編織物が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。すなわち、この文献では高捲縮仮撚加工糸の嵩高性を活かして布帛として軽量感や保温性、洗濯耐久性を付与する内容が記載されている。同時に、この明細書には裏地用織物に適用できる内容の記載があり、これらの加工糸を使った織物の特徴として膨らみ感や接触時の冷り感のない暖かみがあり、かつ生地変形が少なく縫い目滑脱や寸法変化の改善効果もあるとの記載がある。
【0004】
しかしながら、実施例にはツイル組織の織物が開示されているもののこれらの特性に関する定量的な開示は全くない。また、特に4%以上の高い伸張捲縮率の嵩高性を活かすには布帛中の該加工糸の自由度が高いことが必須条件になるため、特に編物に有効なことが明細書に記載されているが、通常、織物の場合、経糸と緯糸の拘束が編物に比べ遥かに大きいため、高い伸張捲縮性を活かすためには織密度を甘く織る必要があるが、それらに関する内容についても何ら記載が無く、また透け防止効果や針ヒケ性能向上に関する記載も全く無い。特に、ツイル組織の場合、経糸密度が混んでおり織物表面を経糸が全面に覆っているため、伸張捲縮率の低い糸でも防透け性は問題とならない。
すなわち、この文献で高捲縮仮撚加工糸の嵩高性を活かして平織物組織の裏地として、透け防止効果や針ヒケ性能向上を示唆するものない(例えば、特許文献4参照。)。
【特許文献1】特開2002−504044号公報
【特許文献2】特開2002−327343号公報
【特許文献3】特開2004−76235号公報
【特許文献4】特開2004−131890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上述した現状に鑑み、これまでの平組織の裏地の欠点が改善された裏地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者はこれまでの裏地の欠点を解決するために種々検討してきた結果、織物を構成する経糸か緯糸の少なくとも一方に沸水処理後の伸縮伸長率(SB)が4%以上である高捲縮性セルロース系繊維を用い、しかも、織組織と糸使いと織物密度を特定化することによって、針ヒケ性能やバイアス変形等の可縫性や夏場問題となる防透け性能等の改善効果が定量的に具現化できることを見出し、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の構成要件から構成される。
(1)経糸か緯糸の少なくとも一方に沸水処理後の伸縮伸長率(SB)が4%以上である高捲縮性セルロース系繊維を用いてなる裏地に於いて、
(2)織組織が平組織であり、
(3)それらを構成する経糸繊度が56〜110デシテックス、緯糸繊度が56〜134デシテックス、かかる織物密度が経90〜160本/吋、緯70〜110本/吋の範囲にあることを特徴とする
(4)可縫性や防透け性に優れたセルロース系裏地。
ここで可縫性とは、延反・裁断の取り扱い性に関与する歪値(後述の評価法の項に記載したところのバイアス変形量)や織ネーム縫いや三つ巻き縫いを行った時の経糸の針ヒケ性等を意味し、当然ながら、バイアス変形が少なくや針ヒケ性能が良好な裏地ほど可縫性が高い裏地といえる。また、防透け性とは、分光光度計で明度Lを測定する際に「裏地+白色板」のL値と「裏地+黒色板」のL値の差(ΔL値)で定義され、裏地の裏側が透けて見え易いか否かの指標となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の構成上の第一の特徴は、経糸か緯糸の少なくとも一方に沸水処理後の伸縮伸長率(SB)が4%以上である高捲縮性セルロース系繊維を用いることにある。
すなわち、本発明は、沸水処理後の伸縮伸長率(SB)が4%以上、好ましくは7%以上、特に好ましくは10%以上、50%以下のセルロース系繊維を経糸か緯糸の少なくとも一方に用いることが最大の特徴であり、SBが4%以上であると織物となした時に充分な嵩高性と軽量感以外に優れた可縫性や防透け性が得られる。SBが4%以下の場合、嵩高性が低いため充分な防透け性や可縫性が得られない。一方、SBが大きすぎると、嵩高性は大きいものの、凹凸感のある極端に滑り性の劣る織物となり裏地に向かない。なお、伸縮伸長率はJIS−L−1090伸縮性試験法(A法)に準じて測定した。
【0009】
セルロース系繊維としては、綿、麻等の天然繊維、ビスコースレーヨン、キュプラアンモニウムレーヨン、ポリノジックレーヨン、精製セルロース繊維(テンセル、リヨセル)などの人造セルロース繊維があり、これらの一種又は二種以上を混用したものをいう。セルロース系繊維のトータル繊度は所望により適宜選定すれば良いが、通常56〜134デシテックス程度のものが好ましく用いられる。また、人造セルロース繊維の場合、単糸繊度としては0.5〜6dtex、フィラメント数20〜120本のものが好適に用いられる。
繊維の形態は、長繊維でも短繊維でもよく、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよい。また、断面形状においても丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、偏平(扁平度1.3〜4程度のもので、W型、I型、ブ−メラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある)、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。
さらに織物に供給される糸条形態としては、リング紡績糸、オープンエンド紡績糸、エアジェット精紡糸等の紡績糸、マルチフィラメント原糸、甘撚糸〜強撚糸、仮撚加工糸、空気噴射加工糸、押し込み加工糸、ニットデニット加工糸等がある。
【0010】
尚、本発明の目的を損なわない範囲内で通常50質量%以下の範囲内で、セルロース系繊維以外の他の天然及び又は合成繊維、例えば、沸水処理後の伸縮伸長率(SB)が4%未満のセルロース系繊維に加えて羊毛、絹等の天然繊維、アセテート(ジ、トリ)、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66等ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリウレタン系等の弾性繊維等の各種人造繊維、さらにはこれらの共重合タイプや、同種又は異種ポリマー使いの複合繊維(サイドバイサイド型、偏芯鞘芯型等)等の合成繊維の一種又は二種以上を混紡(混綿、フリース混紡、スライバー混紡、コアヤーン、サイロスパン、サイロフィル、ホロースピンドル等)、混繊(沸水収縮率3〜10%程度の低収縮糸、沸水収縮率15〜30%程度の高収縮糸さらには異収縮混繊糸との混繊を含む)、交撚、諸撚糸、意匠撚糸、カバリング(シングル、ダブル)、複合仮撚(同時仮撚、先撚仮撚(先撚同方向仮撚や先撚異方向仮撚)、位相差仮撚、仮撚加工後に後混繊)、2フィード(同時フィードやフィード差をつけた)空気噴射加工等の手段で混用してもよい。
【0011】
このような沸水処理後の伸縮伸長率(SB)が4%以上のセルロース系繊維は、例えば、特開2002−54044号公報、特開2002−327343号公報、特開2004−131890号公報に開示されている方法によって製造することが出来る。
好ましい製法例としては、セルロース系繊維を高圧水蒸気処理後に高圧熱水処理方法がある。この方法はセルロース系繊維が仮撚加工糸、1000T/m以上の有撚糸に適用するとより効果的に製造することができ、具体的な製造条件としては、絶対圧力0.41〜1.23MPa、温度160〜210℃、処理時間300〜1800秒が好ましい。高圧水蒸気処理は、チーズ状あるいはビーム状で処理できれば良く、従来公知の高圧釜装置を備えている装置、例えば、特開平9−31830号公報に記載されている高圧釜等で充分である。高圧熱水処理の場合、従来公知の高圧釜装置を備えていて、チーズ染色あるいはビーム染色などができる装置で有れば良い。熱水処理においては、縦型処理機が好ましく、予め、処理糸を装着し、その中に水を投入したのち、染色ビームの内側から、外側に向かって液循環させながら、所定の処理を行われる装置であればどのような装置でも良い。
【0012】
高圧水蒸気処理、高圧熱水処理する時の糸形態は、巻密度0.30〜0.45g/cmにしたチーズ形態で処理することが好ましい。
また、他の好ましい製法例としては、セルロース系繊維のフィラメント糸を仮撚加工するに際し、仮撚加工前の供給糸に水分を付与し、加撚時にヒーター温度180℃以上の高温で処理をすることにより製造される。付与する水分は、水のみ、または、水に浸透剤等の界面活性剤、あるいは目的に応じて各種の機能を付与するための加工剤を添加しても良い。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルフェニルエーテル系活性剤等の非イオン系活性剤やジアルキルサクシネート、ジオクチルスルホサクシネートなどのアニオン系活性剤等を使用する。使用量としては、好ましくは0.1〜20g/リットル、より好ましくは0.5〜10g/リットルである。また、水と共にグリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピリングリコール等のポリアルキレングリコールなどの添加剤と混合して使用してもかまわない。これらの添加剤は極性と沸点が高いため、より効率的な捲縮効果が得られ、また、仮撚加工糸の強度低下を防止することができる。これらの付与に際する温度は、常温でも高温でもかまわないが、一般的には15〜25℃が好ましい。水分の付与は、仮撚加工する前、即ち、クリール仕掛けをする前に別工程で付与しても良く、又、仮撚加工工程での第1ヒーター前でも良い。
【0013】
また、セルロース系繊維のフィラメント原糸製造工程における乾燥工程に仮撚機構を組み入れ、一次乾燥時に仮撚工程を組み入れて製造しても良い。水分を付与する方法は、供給糸を水中に走行させる浸漬法、水をノズルから噴出させて付与するノズル法、水で濡れたローラー表面に糸を接触させる単純ローラー法、また、ローラーの前で糸を水に浸漬させるデイップローラー法、走行中の糸に水をシャワーする噴霧法等、何れの方法でも良い。付与する水分量は、第1ヒーターに入る前の供給糸の絶乾水分率を20〜130%にするのが好ましく、更に好ましくは30〜100%である。尚、水単独の場合は、絶乾水分率は(株)ケット科学研究所製の赤外線水分計(FD−240)を用いて測定することができる。混合系の場合は、重量法で計測することができる。
【0014】
仮撚加工温度は、例えば、加工速度60〜100m/分、接触式ヒーターゾーンの通過時間が0.69〜1.15秒の場合、第1ヒーター温度は180〜260℃が好ましく、更に好ましくは220〜260℃である。
尚、第1ヒーター通過直後の糸の絶乾水分率は0〜15%、特に5〜12%が更に好ましい。又、第2ヒーターを使用した2ヒーター仮撚加工糸にしても良い。
仮撚加工は、ピン、ニップベルト、ディスク等によって撚をかける仮撚方式により加工することが好ましく、なかでも均一な捲縮を得るためにはピン仮撚方式が好ましい。他の好ましい仮撚加工条件は、
仮撚数=(24000/D1/2+590)×(0.6〜1.1)
式中、Dは供給糸の繊度(dtex)を表す。
第1フィード率は−3〜10%、テイクアップ(TU)フィード率は1〜8%、加撚張力は0.05〜0.29cN/dtex、解撚張力は、(加撚張力)×(3.0〜8.0)倍である。
仮撚加工に供給するセルロース系繊維のフィラメント糸は、無撚糸でも甘撚糸でもインターレース交絡した糸でも良く、また、ポリエステル系繊維に代表される合成繊維とのインターレース交絡等による複合糸でも良い。
【0015】
本発明の裏地に於いて、かかる高捲縮性セルロース系繊維は織物を構成する1)経糸と緯糸の双方に用いても構わないし、2)経糸か緯糸の一方に用いても構わない。また、3)経糸か緯糸あるいは双方に一本交互等の複合使用しても何ら差し支えない。
本発明に使用することのできる高捲縮性セルロース系繊維以外の繊維としては、綿、麻、毛、絹等の天然繊維、キュプラ、レーヨン、ポリノジック、精製セルロース等の再生セルロース繊維、アセテート、プロミックス等の半合成繊維、ナイロン、エステル、アクリル、アラミド、ビニロン、ポリウレタン等の合成繊維等が挙げられる。これらを供給する糸形態は生糸、加工糸、撚糸や複合糸等いずれの形態で用いてもかまわない。
【0016】
本発明の構成上の第二の特徴は、織物組織が平織物であり、かかる織物密度が経90〜160本/吋、緯70〜110本/吋、また、経糸繊度が56〜110デシテックス、緯糸繊度が56〜134デシテックスである点にある。すなわち、裏地織物の場合、表地に対して薄くて適度な柔軟性が必要となる為、糸使いや織物密度が重要となる。特に、平織物はプレーンで裏地用途に適するものの透け感が出すぎたり生地が変形し易いので取り扱い難い等の問題があった。本発明のセルロース系裏地に於いては、第一の構成上の特徴である高捲縮性セルロース系繊維を用いることにより、平織物でも透け感が抑制でき、針ヒケに対する改善効果が大きくなる。プレーンな裏地の基本要件を満たし、かつ、これらの特徴を発現させるためには糸使いが重要な決め手となる。
【0017】
本願発明に於いては、繊度は経糸で56〜110デシテックス、緯糸で56〜134デシテックスの範囲のものが適する。特に好ましくは67〜110デシテックスの範囲が望ましい。56デシテックス未満の糸を経糸や緯糸に用いた場合は、引裂強度等の力学的特性が弱くなるので実用性能上好ましくない。一方、経糸に110デシテックス、緯糸に134デシテックスより太い糸を使用した場合、織物自体に地厚感や重量感が出すぎるので裏地には適さなくなる。
【0018】
本発明の裏地織物を製造するに当たっては、通常の製織条件(製織機、織密度など)で製織することができる。本発明に適用される織物組織としては、平組織およびその変形組織が好ましい。織密度に関しては、経糸密度90〜160本/吋、緯糸密度70〜110本/吋の範囲で、使用する糸の素材、繊度に応じて適宜選定すればよい。織物特性値であるカバーファクター(CF)は、1100≦CF≦3300の範囲が好ましく、1400〜2600の範囲が特に好ましい。また、裏地の目付けは、特に制限はないが30〜120g/mの範囲であれば特に問題はない。裏地として特に好ましくは40〜90g/mの範囲である。30g/m未満では防目ズレ性に劣る傾向が見られ、120g/m以上では重量感が前面にでるので好ましくない。
【0019】
本発明の裏地を製織する方法としては、普通織機、レピア織機、エアージェットルーム、ウオータージェットルーム、グリッパー織機、多相織機等が代表的に挙げられるが、単にこれらに限定されるものではない。
本発明の裏地は、製織された生機を常法の精錬、染色、仕上げ加工で処理することで得ることができる。たとえば、精錬はオープンソーパー型連続精錬機、ソフサー精錬機、液流型染色機、浴中懸垂型連続精錬機などを用いて行うことができる。また、染色加工は、コールドパッドバッチ法、パッドスチーム法、パッドロール法、ジッガー法、液流染色法、ウインス法、ビーム法など織物構成に合わせて染料と共に適宜選択すればよい。引き続く樹脂加工は通常のセルロース系繊維の収縮や湿摩擦堅牢度を損ねない程度の加工を施せばよく、特に限定されない。樹脂加工剤以外に必要に応じて仕上げ剤として帯電防止剤、撥水剤、柔軟剤、スリップ防止剤、吸汗剤、紫外線吸収剤、光触媒等を付与してもかまわない。また、織物表面の光沢、平滑性、風合い等を改善するために、カレンダー処理を施しても構わない。
【実施例】
【0020】
以下、実施例で本発明の実施の態様を示す。なお、物性・性能評価は、下記の方法で行った。
(1)伸縮伸長率
沸水処理前の伸縮伸長率(S0)は、試料を20℃、65%RHの恒温恒湿の室内に約1週間放置した後、検尺機にて2cN/糸以下の張力で解舒して綛を作り、1昼夜リラックスさせた状態で調湿し、JIS−L−1090伸縮性試験法(A法)に準じて測定を行い、5回の平均値で算出した。
沸水処理後の伸縮伸長率(SB)は、沸水処理前と同様に検尺機にて作った綛を1昼夜リラックスさせた後、綛の状態でガーゼに包み、JIS−L−1013フィラメント収縮率(B法)に準じて、沸騰水中に30分間浸漬させた後、綛を取り出して手で挟んで軽く水を切り、ガーゼを外した後、吊り干しの状態で20℃、65%RHの標準状態の室内にて乾燥及び調湿した後にJIS−L−1090伸縮性試験法(A法)に準じて測定を行い、5回の平均値で算出した。
【0021】
(2)セルロースIV型結晶成分の混在比率
X線回析装置(Rigaku−RINT2000広角ゴニオメーター)を使用して、X線源CuK−ALPHAI/40kv/200mA、発散スリット1deg、散乱スリット1deg、受光スリット0.15mm、スキャンスピード2°/min、スキャンステップ0.02°、走査範囲5°〜45°の条件にて強度分布を作成し、分布図よりセルロースIV型結晶成分の混在比率を算出した。
セルロースIV型の混在比率(%)={(16°ピークの面積)/〔(16°ピークの面積)+(12°ピークの面積)〕}×100
【0022】
(3)絶乾水分率
(株)ケット科学研究所製の赤外線水分計(FD−240)を用いて測定した。絶乾水分率は、設定温度90℃で、水分率変化が1分間当たり0.1%以内となる時間を恒量時とし、この時の質量を絶乾質量値とし、下記の式にて求めた。
絶乾水分率(%)={(湿潤質量−絶乾質量)/絶乾質量}×100
【0023】
(4)針ヒケ性能:ミシン針10番普通針、ミシン糸60番、運針数5個/cmの条件で緯方向に三巻縫い(縫い代1cm)し、肉眼判定する。評価基準はヒケ長とその輪郭の明確さから、下記に示す5水準で判定した。
◎ :全く問題なし、○:ヒケは存在するが気にならない、○〜△:少しヒケは気になるが製品としては問題なし(大手アパレルでも合格レベル)、△:ヒケが目立ち裏地品位を損ねる、×:ヒケが目立ち過ぎ商品品位を損ねる。
【0024】
(5)バイアス変形:5cm×25cmのサイズの短冊をバイアス(45度)方向にカットしサンプリングする。20℃×65%RHの環境に24時間放置後、自社法の計測板にセットし、巫女振り10回後の長さ(L1)とバイアス方向に動きが無くなるまで戻した時の長さ(L0)を計測する。バイアス変形値は、L1−L0(mm)で表わされる。
【0025】
(6)寸法変化率(%):JIS1096洗濯C法で寸法変化率を評価した。
(7)防透け性(ΔL):分光光度計(マクベスCE−3000)を用いて、白色板に裏地を重ね測色したL値と黒色板に裏地を重ねて測色したL値の差(ΔL値)を算出した。
(8)引裂強度(N):JIS1096ペンジュラム法で評価した。
(9)カバーファクター(CF):CF=経糸本数×√経糸繊度(dtex)+緯糸本数×√緯糸繊度(dtex)で表わされる。
【0026】
以下に、本願発明に用いる沸水処理後の伸縮伸長率(SB)が4%以上のセルロース系繊維の製法と比較製造法を開示する。
(製造例1)
「110dtex/60fキュプラアンモニウムレーヨン糸(旭化成せんい社製:商標ベンベルグ:引張強さ23.2cN/tex、引張り伸度8.9%、沸水収縮率4.3%)を用い、ピン仮撚機を用いて、仮撚温度200℃、フィード率1%、仮撚数1500T/mで仮撚加工を行った。続いて、該仮撚糸を染色ボビンに巻き密度0.30g/cmで巻き上げ、スペーサーで固定し、縦型高圧釜にセットした。
続いて、減圧後、圧力0.97MPaで180℃で5分間高圧スチーム処理した。次に水を投入し、加圧により脱泡した後、染色ボビンの内側から外側に向けて、液循環させながら、圧力0.97MPaで180℃で10分間高圧熱水処理し、加圧脱水後、80℃で60分間乾燥した。得られた仮撚加工糸は、SB=11.5%、(SB/S0)=1.10、セルロースIV型の混在比率24%であった。
【0027】
(製造例2;比較)
製造例1において、高圧熱水処理しない以外は製造例1同様に処理した。
得られた仮撚加工糸は、SB=2.5%、(SB/S0)=0.48、セルロースIV型の混在比率0%であった。ちなみに製造例1および2に用いた原糸のSBは0%(SB/SO=1であった。
【0028】
以下に実施例と比較例を開示する。
〔実施例1〜3、比較例1〜2〕
前記、製造例1および2で得た仮撚加工糸、及び、製造例1に用いた原糸を用いて、表1に示すような経糸(84dtex)、緯糸(84dtex)構成の平組織織物を経糸密度121本/吋、緯糸密度82本/吋で作成した。なお、緯糸はエアージェットルーム織機で織機回転数500rpmで緯入れしたが、特に問題はなく織れた。得られた生機を常法で精錬・染色・仕上げ加工を施し裏地織物を得た。それらの裏地の評価結果を表−1に示す。
表1から明らかなようにバイアス変形は本発明裏地の歪値は小さく延反・裁断時の取り扱い性が極端に改良されていることが判る。また、フォーマル分野で基準の厳しい針ヒケ性能もこれまでの糸使いに対して充分改善されていることが判る。更に、本発明裏地は形態安定性の高い糸を用いているので寸法変化率は極めての少ない特徴を有する。特に婦人用途で問題にされる防透け性能はΔL値で2前後の差は明らかに優位差が認められる。
【0029】
〔実施例4、比較例3〕
表2に示すように経糸に56/24および84/36鞘芯型ポリエステル制電糸を用い、緯糸に、前記、製造例1で得た仮撚加工糸、及び、製造例2に用いた原糸を用いて、平組織織物を作成した。織物密度は表中に列記した。なお、緯糸はエアージェットルーム織機で織機回転数550rpmで緯入れしたが、特に問題はなく織れた。得られた生機を常法で精錬・染色(2浴染め)・仕上げ加工を施し裏地織物を得た。それらの裏地の評価結果を表2に示す。
表2から明らかなようにバイアス変形は本発明裏地の歪値は小さく延反・裁断時の取り扱い性が極端に改良されていることが判る。また、針ヒケ性能もこれまでの糸使いに対して改善されていることが判る。更に、本発明裏地は形態安定性の高い糸を用いているので寸法変化率は極めての少ない特徴を有することは明らかである。特に婦人用途で問題にされる防透け性能はΔL値で2前後の差があり明らかに優位性が認められる。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の裏地は、従来の単なるセルロース系裏地の用途以外に特定商品アイテムである冬場用途(保温性)や夏場用途(防透け性)にも展開可能で、かつ、物作りで最も重要となる可縫性も良好な裏地を提供することができる。従い、例えば、こればで夏場の表地白物に必須な防透け裏地に関してはこれまでの原糸を製造する際、酸化チタンを混合して製造していたがその必要がなくなる等のメリットがでる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸か緯糸の少なくとも一方に沸水処理後の伸縮伸長率(SB)が4%以上である高捲縮性セルロース系繊維を用いてなる裏地に於いて、織組織が平組織であり、それらを構成する経糸繊度が56〜110デシテックス、緯糸繊度が56〜134デシテックス、かかる織物密度が経90〜160本/吋、緯70〜110本/吋の範囲にあることを特徴とする可縫性や防透け性に優れたセルロース系裏地。

【公開番号】特開2006−138030(P2006−138030A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327661(P2004−327661)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】