説明

セルロース誘導体、及びセルロース誘導体の製造方法

【課題】良好な熱可塑性と耐熱性を有するセルロース誘導体を簡便に合成することができる。
【解決手段】(A)炭化水素基、(B)アシル基:−CO−RB1とアルキレンオキシ基:−RB2−O−とを含む基(RB1は炭化水素基を表し、RB2はアルキレン基を表す)、及び、(C)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す)、を置換基として有し、下記式を満たすセルロース誘導体の製造方法であって、DS(A)=0〜2.2、MS(B)=0.1〜1.9、DS(C)=0.5〜1.7[上記式中、DS(A)及びDS(C)はそれぞれ置換基(A)、(C)の置換度、MS(B)は置換基(B)のモル置換度を表す。]
(1)セルロースに、前記セルロースの無水グルコース単位あたり少なくとも2.0モル当量の塩基を反応させてアルカリセルロースを得る第一工程、
(2)前記アルカリセルロースに、前記セルロースの無水グルコース単位あたり少なくとも2.0モル当量のハロゲン化炭化水素及び少なくとも0.1モル当量のアルキレンオキシドを反応させることにより、セルロースエーテルを得る第二工程、並びに、
(3)前記セルロースエーテルにエステル化を行う第三工程、を備えたことを特徴とするセルロース誘導体の製造方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なセルロース誘導体、及びセルロース誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コピー機、プリンター等の電気・電子機器を構成する部材には、その部材に求められる特性、機能等を考慮して、各種の素材が使用されている。例えば、電気・電子機器の駆動機等を収納し、当該駆動機を保護する役割を果たす部材(筺体)にはPC(Polycarbonate)樹脂、ABS(Acrylonitrile−butadiene−styrene)樹脂、PC/ABS等が一般的に多量に使用されている(特許文献1)。これらの樹脂は、石油を原料とする化合物から合成されている。
【0003】
石油等の化石資源は、長年、地中深くに固定されてきた炭素を主成分とするものである。このような化石資源を原料とする製品が焼却され、二酸化炭素が大気中に放出された場合、本来は大気中に現存しなかった炭素が二酸化炭素として急激に放出されることになり、地球温暖化の一因となる。したがって、PC樹脂、ABS樹脂等は、電気・電子機器用部材の素材としては優れた特性を有するが、化石資源を原料とするため、地球温暖化の観点からは好ましくない。
【0004】
対して、植物は、大気中の二酸化炭素と水とを原料として光合成により生成される。そのため、たとえ植物から得られる樹脂が焼却され二酸化炭素が発生しても、その二酸化炭素は元々大気中にあった二酸化炭素に相当するため、大気中の二酸化炭素の総量は増減しないと考えることができる。この考えから、植物由来の樹脂は、いわゆる「カーボンニュートラル」な材料と称されている。現在、石油由来の樹脂に代わって、植物由来の樹脂を用いることが、地球温暖化を防止する上で急務となっている。
【0005】
例えば、PC樹脂において、その原料の一部にデンプン等の植物由来資源を使用することにより石油の使用量を低減する方法が提案されている(特許文献2)。しかし、この方法では低減量は不十分であり、石油の使用量を低減する樹脂の開発がより一層求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56−55425号公報
【特許文献2】特開2008−24919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らはカーボンニュートラルな樹脂として、セルロースを使用することに着目した。しかしながら、セルロースは一般的に熱可塑性を持たないため、加熱等により成形することが困難であるため、成形加工に適さない。また、たとえ熱可塑性を付与できたとしても、耐熱性に劣るといった問題がある。
また、セルロースを原料として、合成反応をさせて新たなセルロース誘導体へと加工する場合、合成反応ごとにその反応条件を大幅に変更する必要がある。通常セルロースは反応しにくい樹脂として知られているからである。したがって、複数の工程を経る際には、その工程ごとにセルロース反応物を取り出し、次いで、異なる反応系に容器を変えて反応工程を行うことが必要である。例えば、セルロースのエーテル化とエステル化とでは、それぞれ塩基、酸性下で行うことが工業製法として一般的である。一方の反応系を行った後は一旦反応物を取り出し、異なる反応系(例えば、塩基溶媒の反応系から酸性溶媒の反応系)での反応を行う必要がある。このため、セルロースの加工は、手間がかかり、設備も大きくなり、工業的に不利である。
本発明の目的は、良好な熱可塑性及び耐熱性を有し、成形加工に適したセルロース誘導体を簡便に製造する製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は以下の手段により達成することができる。
<1>(A)炭化水素基、(B)アシル基:−CO−RB1とアルキレンオキシ基:−RB2−O−とを含む基(RB1は炭化水素基を表し、RB2はアルキレン基を表す)、及び、(C)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す)、を置換基として有し、下記式を満たすセルロース誘導体の製造方法であって、
DS(A)=0〜2.2、MS(B)=0.1〜1.9、DS(C)=0.5〜1.7
[上記式中、DS(A)及びDS(C)はそれぞれ置換基(A)、(C)の置換度、MS(B)は置換基(B)のモル置換度を表す]
(1)セルロースに、前記セルロースの無水グルコース単位あたり少なくとも2.0モル当量の塩基を反応させてアルカリセルロースを得る第一工程、
(2)前記アルカリセルロースに、前記セルロースの無水グルコース単位あたり少なくとも2.0モル当量のハロゲン化炭化水素及び少なくとも0.1モル当量のアルキレンオキシドを反応させることにより、セルロースエーテルを得る第二工程、並びに
(3)前記セルロースエーテルにエステル化を行う第三工程、を備えたことを特徴とするセルロース誘導体の製造方法。
<2>前記第二工程の後に、セルロースエーテルを反応容器から取り出さずに第三工程を行うことを特徴とする<1>に記載のセルロース誘導体の製造方法。
<3>前記第一工程で用いられる塩基が強塩基であることを特徴とする<1>又は<2>に記載のセルロース誘導体の製造方法。
<4>DS(A)=1.2〜2.2、MS(B)=0.1〜1.0、DS(C)=0.5〜1.7である<1>に記載のセルロース誘導体の製造方法。
<5>DS(A)=1.2〜2.2、MS(B)=0.1〜0.6、DS(C)=0.7〜1.7である<1>に記載のセルロース誘導体の製造方法。
<6>DS(A)=1.2〜1.6、MS(B)=0.1〜0.3、DS(C)=1.0〜1.7である<1>に記載のセルロース誘導体の製造方法。
<7>前記(B)RB2の炭素数が2〜4であることを特徴とする<1>〜<6>のいずれか1項に記載のセルロース誘導体の製造方法。
<8>前記(A)炭化水素基の炭素数が1〜3であることを特徴とする<1>〜<7>のいずれか1項に記載のセルロース誘導体の製造方法。
<9>前記(C)Rの炭素数が1〜4であることを特徴とする<1>〜<8>のいずれか1項に記載のセルロース誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセルロース誘導体の製造方法では、良好な成形片外観と剛性を有するセルロース誘導体を簡便に合成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明のセルロース誘導体の製造方法及び該製造方法により製造されるセルロース誘導体について詳細に説明する。
【0011】
<セルロース誘導体の製造方法>
【0012】
本発明のセルロース誘導体の製造方法は、セルロースに、前記セルロースの無水グルコース単位あたり少なくとも2.0モル当量の塩基を反応させてアルカリセルロースを得る第一工程を含む。第一工程で得られたアルカリセルロースに、前記セルロースの無水グルコース単位あたり少なくとも2.0モル当量のハロゲン化炭化水素及び少なくとも0.1モル当量のアルキレンオキシドを反応させることにより、セルロースエーテルを得る第二工程を含む。アルカリ化を行う第一工程と、過剰のハロゲン化炭化水素及びアルキレンオキシドによりエーテル化反応する第二工程を経ることで、その後のエステル化を、反応容器から取り出さずに行うことができる。本発明では、セルロースの反応を活性化させることにより、良好な耐熱性等を有するセルロース誘導体を、反応容器から反応系を取り出すことなく製造することができる。
【0013】
[第一工程]
本発明の第一工程は、セルロースに、前記セルロースの無水グルコース単位あたり少なくとも2.0モル当量の塩基を反応させることにより、アルカリセルロースを得る工程である。
【0014】
本発明のセルロース誘導体の製造方法は、セルロースを原料とし、セルロースを反応容器から取り出さずにエーテル化及びエステル化することが出来るため好適に本発明のセルロース誘導体を製造することができる。セルロースの原料としては限定的でなく、例えば、綿、リンター(例えばコットンリンター)、パルプ(例えば木材パルプ)等が挙げられる。
【0015】
本発明のセルロース誘導体をアルカリセルロースにアルカリ化する工程では、塩基を用いる。塩基は公知の弱塩基、及び強塩基のいずれも用いることができるが、強塩基を用いることが好ましい。
【0016】
強塩基としては例えば水酸化アルカリが用いられる。水酸化アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が用いられるが、水酸化ナトリウムが好ましい。また、水酸化アルカリは水溶液として用いられるが、その濃度は、10重量%以上が好ましく、更に好ましくは20〜80重量%である。
【0017】
アルカリ化する塩基の添加量としては、過剰の塩基を添加する。後述のエーテル化後に反応容器から取り出すことなくエステル化を行うためである。アルカリ化する塩基の添加量としては、反応させるセルロースの無水グルコース単位あたり2.0モル当量以上の塩基を添加することが必要である。添加する塩基の量としてより具体的には、2.0〜10.0モル当量が好ましく、3.0〜10.0モル当量が更に好ましく、6.0〜10.0モル当量が最も好ましい。
【0018】
第一工程の反応温度は、セルロースの反応溶液の、粘性と反応速度の観点から5〜70℃であることが好ましく、20〜50℃であることが反応性の観点から更に好ましい。
【0019】
第一工程の反応時間は、0.5〜2時間であることが好ましく、副生成物の発生を抑えるために、0.5〜1時間であることが好ましい。
【0020】
本発明における第一工程は、本発明の製造方法において1回のみ行ってもよいし、複数回行ってもよい。複数回処理を行う場合は、全ての第一工程が終了したあとで、目的のアルカリセルロースが得られていればよい。
【0021】
本発明における第一工程の溶媒としては、限定的でないが、水が好ましい。第一工程と第二工程は、後述する第二工程の溶媒と水/有機溶媒の二相系を形成した反応系で行われることが好ましい。
【0022】
本発明における圧力としては、限定的でないが、密閉又は過熱して自然上昇する程度であることが好ましく、具体的には0.1〜5.0MPaが好ましく、0.1〜3.5MPaがより好ましく、0.1〜2.5MPaが更に好ましい。
【0023】
第一工程で得られるアルカリセルロースとは、セルロースの水酸基が解離した状態(例えば、水酸化ナトリウムと使用した場合には、セルロースナトリウムアルコラート)である。
【0024】
[第二工程]
第二工程とは、第一工程で得られたアルカリセルロースに、前記セルロースの無水グルコース単位あたり少なくとも2.0モル当量のハロゲン化炭化水素及び少なくとも0.1モル当量のアルキレンオキシドを反応させることによりセルロースエーテルを得る工程のことをいう。
【0025】
第一工程で得られたアルカリセルロースをエーテル化する工程では、ハロゲン化炭化水素及びアルキレンオキシドを用いる。第一工程の後に第二工程を行うが、第一工程の後に適宜他の工程を入れても良い。他の工程とは、例えば冷却をする工程であってもよいし、他の置換基を導入するような反応であってもよい。
【0026】
セルロースをエーテル化するためにハロゲン化炭化水素を用いることができる。具体的なハロゲン化炭化水素としては、C2n+1−X(Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン)で表されるハロゲン化炭化水素又はその誘導体が好ましい。具体的には、nは1〜4が好ましく、1〜3が更に好ましく、1〜2が最も好ましい。
【0027】
第二工程で用いるハロゲン化炭化水素の添加量としては、原料のセルロースに対して過剰のハロゲン化炭化水素を用いる。後述のエーテル化後に反応容器から取り出すことなくエステル化を行うためである。ハロゲン化炭化水素の添加量としては、反応させる無水グルコース単位あたり2.0モル当量以上のハロゲン化炭化水素を添加することが必要である。添加するハロゲン化炭化水素の量としてより具体的には、2.0〜10モル当量が好ましく、3.0〜10モル当量が更に好ましく、6.0〜9.0モル当量が最も好ましい。
【0028】
セルロースをエーテル化するために、アルキレンオキシドを用いる。アルキレンオキシドの炭素数は、例えば1〜7であり、より具体的には、1〜5が好ましく、1〜4が更に好ましい。アルキレンオキシドの例としては、酸化エチレン、酸化プロピレン、酸化ブチレンなどが用いられる。
【0029】
第二工程で用いるアルキレンオキシドの添加量としては、反応させる無水グルコース単位あたり0.1モル当量以上のアルキレンオキシドを添加することが必要である。添加するアルキレンオキシドの量としてより具体的には、0.1〜8.0モル当量が好ましく、0.2〜5.0モル当量が更に好ましく、0.3〜3.0モル当量が最も好ましい。
【0030】
第二工程の反応温度は、40〜130℃であることが好ましく、50〜120℃であることが更に好ましい。40℃以上であるとエーテル化剤の拡散速度が速くなり、反応性の観点で好ましい。130℃以下であると反応系の内圧の観点から、副反応が抑制されるので好ましい。
【0031】
第二工程の反応時間は、総時間として4〜10時間であることが好ましく、6〜8時間であることが更に好ましい。第三工程の反応時間は3〜12時間であることが好ましく、4〜8時間であることが更に好ましい。
【0032】
本発明における第二工程は、本発明の製造方法において1回のみ行ってもよいし、複数回行ってもよい。複数回処理を行う場合は、全ての第二工程が終了したあとで、目的のセルロースエーテルが得られていればよい。
【0033】
第二工程の溶媒は、ベンゼン又はトルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒が用いられる。エーテル化時のハロゲン化炭化水素の蒸気圧を下げる観点から、特にトルエンが好ましく用いられる。第二工程の溶媒は、1種又は2種であってもよいが、二相系を形成していることが好ましい。
【0034】
第二工程で得られる化合物は、例えば、セルロースに含まれる水酸基の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で置換されたセルロースエーテル又はヒドロキシアルキルセルロース等が得られる。
具体的には、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ブチルセルロース、アリルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0035】
第二工程における未反応のアルキレンオキシドは、ポリオールの形で存在していてもよい。
【0036】
[第三工程]
第三工程とは、第二工程で得られたセルロースエーテルにエステル化を行う工程のことをいう。
第二工程で得られたセルロースエーテルは、反応容器から取り出すことなく第三工程でエステル化する。エステル化工程には、塩基と酸無水物が用いられる。第二工程の後に第三工程を行うが、第二工程の後に適宜他の工程を入れても良い。
【0037】
セルロースをエステル化するための塩基としては、例えば、ピリジン、ルチジン、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ジエチルブチルアミン、ジアザビシクロウンデセンなどのアミン類、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、トリエチルアミン等を使用することができる。中でも、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン等のアミン類が好ましい。
【0038】
セルロースをエステル化するための塩基の添加量としては、好ましくは、第二工程で得られたセルロースエーテルに対して2.0〜10.0モル当量である。
【0039】
酸無水物としては、例えば、炭素数4〜18のカルボン酸からなるカルボン酸無水物を用いることができる。このようなカルボン酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、酪酸無水物、吉草酸無水物、ヘキサン酸無水物、ヘプタン酸無水物、オクタン酸無水物、2−エチルヘキサン酸無水物、ノナン酸無水物、デカン酸無水物、ラウリン酸無水物、ミリスチン酸無水物、パルミチン酸無水物、ステアリン酸無水物、無水プロピオン酸等が挙げられる。特に好ましくは、酢酸無水物、酪酸無水物、無水プロピオン酸等である。
【0040】
酸無水物の添加量としては、好ましくは2.0〜10.0モル当量である。
【0041】
第三工程の反応温度は、20〜70℃であることが好ましく、30〜60℃であることが更に好ましい。20度以上であるとエステル化剤の拡散速度が速くなり、反応性の観点で好ましい。70℃以下であると副反応が抑制されるので好ましい。
【0042】
本発明における第三工程は、本発明の製造方法において1回のみ行ってもよいし、複数回行ってもよい。複数回処理を行う場合は、全ての第三工程が終了したあとで、目的のセルロース誘導体が得られていればよい。
【0043】
[セルロース誘導体]
本発明の製造方法によって得られるセルロース誘導体は、
A)炭化水素基、
B)アシル基:−CO−RB1とアルキレンオキシ基:−RB2−O−とを含む基(Rは炭化水素基を表す。)、及び
C)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す。)
を有する。
すなわち、本発明におけるセルロース誘導体は、セルロース{(C10}に含まれる水酸基の水素原子の少なくとも一部が、前記A)炭化水素基、前記B)アシル基(−CO−R)とアルキレンオキシ基(−RB2−O−)とを含む基、及び前記C)アシル基(−CO−R)により置換されている。
より詳細には、本発明におけるセルロース誘導体は、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有する。
【0044】
一般式(2)
【化1】

【0045】
上記式において、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、A)炭化水素基、B)アシル基(−CO−R)とアルキレンオキシ基(−RB2−O−)とを含む基、及びC)アシル基(−CO−R)を表す。R及びRは、炭化水素基を表す。但し、R、R、及びRの少なくとも一部が炭化水素基を表し、R、R、及びRの少なくとも一部がアシル基(−CO−R)とアルキレンオキシ基(−RB2−O−)とを含む基を表し、R、R、及びRの少なくとも一部がアシル基(−CO−R)を表す。これらの有機基は、置換又は無置換であってもよい。
【0046】
本発明のセルロース誘導体は、上記のようにβ−グルコース環の水酸基の少なくとも一部がA)炭化水素基、B)アシル基(−CO−R)とアルキレンオキシ基(−RB2−O−)とを含む基、及びC)アシル基(−CO−R)によってエーテル化及びエステル化されていることにより、熱可塑性を発現することができ、成形加工に適したものとすることができる。
また、このセルロース誘導体は、成形体としても優れた強度及び耐熱性を発現することができ、特に熱成形材料として有用である。更には、セルロースは完全な植物由来成分であるため、カーボンニュートラルであり、環境に対する負荷を大幅に低減することができる。
【0047】
なお、本発明にいう「セルロース」とは、多数のグルコースがβ−1,4−グリコシド結合によって結合した高分子化合物であって、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基が無置換であるものを意味する。また、「セルロースに含まれる水酸基」とは、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基を指す。
【0048】
前記セルロース誘導体は、その全体のいずれかの部分に前記A)炭化水素基、B)アシル基(−CO−R)とアルキレンオキシ基(−RB2−O−)とを含む基、及びC)アシル基(−CO−R)を含んでいればよく、同一の繰り返し単位からなるものであってもよいし、複数の種類の繰り返し単位からなるものであってもよい。また、前記セルロース誘導体は、ひとつの繰り返し単位において前記A)〜C)の置換基をすべて含有する必要はない。
より具体的な態様としては、例えばセルロース誘導体が有するアルキレンオキシ基が2種である場合、以下の態様が挙げられる。
(1)R、R及びRの一部が、
A)炭化水素基で置換されている繰り返し単位と、
、R及びRの一部が、B)アシル基(−CO−R)とアルキレンオキシ基(−RB2−O−)とを含む基で置換されている繰り返し単位と、
、R及びRの一部が、C)アシル基(−CO−R)で置換されている繰り返し単位と、
から構成されるセルロース誘導体。
(2)ひとつの繰り返し単位のR、R及びRのいずれかが、
A)炭化水素基、
B)アシル基(−CO−R)とアルキレンオキシ基(−RB2−O−)とを含む基、及び、
C)アシル基(−CO−R
で置換されている(すなわち、ひとつの繰り返し単位中に前記A)〜C)の置換基をすべて有する)同種の繰り返し単位から構成されるセルロース誘導体。
(3)置換位置や置換基の種類が異なる繰り返し単位が、ランダムに結合しているセルロース誘導体。
また、セルロース誘導体の一部には、無置換の繰り返し単位(すなわち、前記一般式(1)において、R、R及びRすべてが水素原子である繰り返し単位)を含んでいてもよい。
【0049】
前記A)としての炭化水素基は、脂肪族基及び芳香族基のいずれでもよい。脂肪族基である場合は、直鎖、分岐及び環状のいずれでもよく、不飽和結合を持っていてもよい。脂肪族基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基等が挙げられる。
前記A)としての炭化水素基は、脂肪族基が好ましく、より好ましくはアルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜4のアルキル基(低級アルキル基)である。具体的には、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、更に好ましくはメチル基、エチル基、最も好ましくはメチル基である。
【0050】
前記B)におけるアシル基(−CO−RB1)において、RB1は炭化水素基を表す。RB1は、脂肪族基及び芳香族基のいずれでもよい。脂肪族基である場合は、直鎖、分岐及び環状のいずれでもよく、不飽和結合を持っていてもよい。脂肪族基及び芳香族基としては、前記のものが挙げられる。
B1としては、具体的にはアルキル基又はアリール基である。アルキル基又はアリール基としては、具体的には炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基であり、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基であり、より好ましくは炭素数2〜4のアルキル基であり、最も好ましくは炭素数3のアルキル基(すなわち、プロピル基)である。
具体的には、RB1としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、tert−ブチル基、イソヘプチル基等が挙げられる。好ましくは、Rはエチル基、プロピル基であり、最も好ましくはプロピル基である。
【0051】
前記B)としてのアシル基(−CO−RB1)とアルキレンオキシ基(−RB2−O−)とを含む基は、下記一般式(1)で表される構造を含む基であることが好ましい。
【0052】
一般式(1)
【化2】

【0053】
式中、RB2はアルキレン基を表し、アルキレンオキシ基(−RB2−O−)として複数含んでいてもよいし、1つだけ含むものであってもよい。xは1〜10の整数を表し、x=1〜5が好ましく、x=1〜3がより好ましい。
【0054】
前期B)の基は、より具体的には下記一般式(1’)又は一般式(1”)で表すことができる。式中、nは独立に2〜4の整数を表し、好ましくは2〜3の整数を表す。mは、独立に1〜4の整数を表し、好ましくは1〜3の整数を表す。
【0055】
一般式(1’)
【化3】

【0056】
[式中、xは1〜5の整数、好ましくは1〜3の整数を表す。]
【0057】
一般式(1”)
【0058】
【化4】

【0059】
[式中、xは1〜5の整数、好ましくは1〜3の整数を表す。]
【0060】
式中、RB1は前記と同義であり、好ましい範囲も同様である。nの上限は特に限定されず、アルキレンオキシ基の導入量等により変わるが、例えば10程度である。
本発明のセルロース誘導体において、アルキレンオキシ基を1つだけ含む前記B)の基(上記式一般式(1’)においてnが1である基)と、アルキレンオキシ基を2以上含む前記B)の基(上記式一般式(1’)においてnが2以上である基)とが混合して含まれていてもよい。
【0061】
前期C)としてのアシル基(−CO−R)において、Rは炭化水素基を表す。Rが表す炭化水素基としては、前記RB1で挙げたものと同様のものを適用することができる。Rの好ましい範囲も前記RB1と同様である。
【0062】
前記A)としての炭化水素基、前記RB1及び前記Rが表す炭化水素基、並びにアルキレン基は、さらなる置換基を有していてもよいし無置換でもよいが、無置換であることが好ましい。
特に、RB1及びRがさらなる置換基を有する場合、水溶性を付与するような置換基、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基などを含まないことが好ましい。これらの基を含まないことにより、水に不溶なセルロース誘導体及びそれらからなる成形材料が得られる。
【0063】
前記A)としての炭化水素基、RB1、R、及びアルキレン基がさらなる置換基を有する場合、さらなる置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(アルキル基部分の炭素数は好ましくは1〜5)、アルケニル基等が挙げられる。なお、前記Rがアルキル基以外である場合は、アルキル基(好ましくは炭素数1〜5)を置換基として有することもできる。
【0064】
また、本発明におけるセルロース誘導体を成形材料として用いる場合は、水不溶性であることが好ましいため、カルボキシル基等の水溶性の置換基を実質的に有さないことが好ましい。セルロース誘導体がカルボキシル基を実質的に有さないことにより水不溶性とすることができ、より成形加工に適したものとなる。
ここで「カルボキシル基を実質的に有さない」とは、本発明におけるセルロース誘導体が全くカルボキシル基を有さない場合のみならず、本発明におけるセルロース誘導体が水に不溶な範囲で微量のカルボキシル基を有する場合を包含するものとする。例えば、原料であるセルロースにカルボキシル基が含まれる場合があり、これを用いて前記A)〜C)の置換基を導入したセルロース誘導体はカルボキシル基が含まれる場合があるが、これは「カルボキシル基を実質的に有さないセルロース誘導体」に含まれるものとする。
また、「水不溶性である」とは、25℃の水100質量部への溶解度が5質量部以下であることを意味する。
【0065】
セルロース誘導体中のA)炭化水素基、B)アシル基(−CO−RB1)とアルキレンオキシ基(−C2n−O−)とを含む基、及びC)アシル基(−CO−R)の置換位置、並びにβ−グルコース環単位当たりの各置換基の数(置換度)は、DS(A)=0〜2.2、MS(B)=0.1〜1.9、DS(C)=0.5〜1.7である。
【0066】
例えば、A)炭化水素基の置換度DS(A)(繰り返し単位中、β−グルコース環の2位、3位及び6位の水酸基に対するA)炭化水素基の数)は、0〜2.2であることが好ましく、1.2〜2.2であることがより好ましく、1.2〜1.6であることが最も好ましい。
B)アシル基(−CO−R)とアルキレンオキシ基(−C2n−O−)とを含む基の置換度DS(B)(繰り返し単位中、β−グルコース環のセルロース構造の2位、3位及び6位の水酸基に対するB)アシル基とエチレンオキシ基を含む基の数)は、0<DS(B)であることが好ましい。0<DS(B)であることにより、溶融開始温度を低くできるので、熱成形をより容易に行うことができる。
C)アシル基(−CO−R)の置換度DS(C)(繰り返し単位中、β−グルコース環のセルロース構造の2位、3位及び6位の水酸基に対するC)アシル基の数)は、0.1<DS(C)である。具体的には、0.5〜1.7が好ましく、0.7〜1.7が更に好ましく、1.0〜1.7が最も好ましい。
【0067】
また、セルロース誘導体中に存在する無置換の水酸基の数も特に限定されない。水素原子の置換度DSh(重合単位中、2位、3位及び6位の水酸基が無置換である割合)は0〜1.5の範囲とすることができ、好ましくは0〜0.6とすることができる。DShを0.6以下とすることにより、熱成形材料の流動性を向上させたり、熱分解の加速・成形時の熱成形材料の吸水による発泡等を抑制させたりできる。
【0068】
また、本発明におけるセルロース誘導体は、前記A)炭化水素基、B)アシル基(−CO−R)とアルキレンオキシ基(−C2n−O−)とを含む基、及びC)アシル基(−CO−R)以外の置換基を有しても良い。有してもよい置換基の例としては、例えばヒドロキシエチル基、ヒドロキシエトキシエチル基、ヒドロキシエトキシエトキシエチル基が挙げられる。よって、セルロース誘導体が有するすべての置換基の各置換度の総和は3であるが、(DS(A)+DS(B)+DS(C)+DS)は3以下である。
【0069】
また、前記B)の基におけるアルキレンオキシ基(−C2n−O−)の導入量はモル置換度(MS:グルコース残基あたりの置換基の導入モル数)で表される(セルロース学会編集、セルロース辞典P142)。アルキレンオキシ基のモル置換度MS(B)は、0<MS(B)であることが好ましく、0.1〜1.9であることがより好ましく、0.1〜1.0であることが更に好ましく、0.1〜0.6であることが最も好ましい。
【0070】
セルロース誘導体の分子量は、数平均分子量(Mn)が5×10〜1000×10の範囲が好ましく、10×10〜800×10の範囲が更に好ましく、10×10〜500×10の範囲が最も好ましい。また、重量平均分子量(Mw)は、7×10〜10000×10の範囲が好ましく、100×10〜5000×10の範囲が更に好ましく、500×10〜5000×10の範囲が最も好ましい。この範囲の平均分子量とすることにより、成形体の成形性、力学強度等を向上させることができる。
分子量分布(MWD)は1.1〜10.0の範囲が好ましく、2.0〜8.0の範囲が更に好ましい。この範囲の分子量分布とすることにより、成形性等を向上させることができる。
本発明における、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(MWD)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて行うことができる。具体的には、N−メチルピロリドンを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めることができる。
【0071】
本発明で得られるセルロース誘導体の用途は、とくに限定されるものではないが、例えば、成形体として、電気電子機器(家電、OA・メディア関連機器、光学用機器及び通信機器等)の内装又は外装部品、自動車、機械部品、住宅・建築用材料等が挙げられる。これらの中でも、優れた耐熱性を有しており、環境への負荷が小さい観点から、例えば、コピー機、プリンター、パソコン、テレビ等といった電気電子機器用の外装部品(特に筐体)として好適に使用することができる。
上記成形体は、必要に応じて、フィラー、難燃剤、その他のポリマー、可塑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、離型剤、帯電防止剤、難燃助剤、加工助剤、ドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤、染料若しくは顔料を含む着色剤等の種々の添加剤を含有していてもよい。
【実施例】
【0072】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0073】
<合成例1:P−1の合成>
オートクレーブ(耐圧硝子工業製、簡易型オートクレーブTEM−D3000M)に解砕パルプ100g、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム148g/水150mL、セルロースの無水グルコース単位あたり6.1モル当量)を量り取り、窒素雰囲気下、45℃で1時間攪拌した(第一工程)。放冷後、ドライアイス/メタノールバスで−40℃に冷却し、更に、トルエン150mL、クロロメタン186g(セルロースの無水グルコース単位あたり6モル当量)、酸化プロピレン20g(セルロースの無水グルコース単位あたり0.6モル当量)を加えて、60℃で1時間、90℃で6時間攪拌した(第二工程)。室温に戻した後、系内の残存ガスを排気し、更に、無水酢酸300mL、トリエチルアミン150mLを加えて、50℃で6時間攪拌した。室温に戻した後、水6Lへ激しく攪拌しながら投入することで褐色固体を得た(第三工程)。得られた褐色固体を熱水6Lで洗浄する操作を3回、更にメタノール2L/水6L混合溶媒で洗浄する操作を3回繰り返すことで灰白色固体を得た。得られた灰白色固体を吸引濾過によりろ別し、100℃で6時間真空乾燥することにより目的のセルロース誘導体(P−1、置換度、分子量は表1に記載)を灰白色粉体として得た(収量145g)。
【0074】
<合成例2:P−2の合成>
合成例1において第二工程の反応温度を60℃で1時間、100℃で6時間に変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−2、置換度、分子量は表1に記載)を灰白色粉体として得た(収量138g)。
【0075】
<合成例3:P−3の合成>
合成例2において第一工程で用いる水酸化ナトリウムを222g(セルロースの無水グルコース単位あたり9.1モル当量)、第二工程で用いるクロロメタンを278g(セルロースの無水グルコース単位あたり6.1モル当量)、酸化プロピレンを25g(セルロースの無水グルコース単位あたり0.7モル当量)に変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−3、置換度、分子量は表1に記載)を灰白色粉体として得た(135g)。
【0076】
<合成例4:P−4の合成>
合成例1において第二工程で用いるクロロメタンをクロロエタン235g(セルロースの無水グルコース単位あたり6モル当量)に変更し、反応温度を60℃で1時間、120℃で6時間に変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−4、置換度、分子量は表1に記載)を灰白色粉体として得た(148g)。
【0077】
<合成例5:P−5の合成>
合成例1において第二工程で用いるクロロメタンをブロモプロパン450g(セルロースの無水グルコース単位あたり6モル当量)に変更し、反応温度を60℃で1時間、100℃で6時間に変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−5、置換度、分子量は表1に記載)を黒褐色粉体として得た(163g)。
【0078】
<合成例6:P−6の合成>
合成例4において第三工程で用いる無水酢酸を無水プロピオン酸に変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−6、置換度、分子量は表1に記載)を灰白色粉体として得た(155g)。
【0079】
<合成例7:P−7の合成>
合成例3において第二工程で用いるクロロメタンをクロロエタン355g(セルロースの無水グルコース単位あたり9モル当量)に、酸化プロピレンを酸化ブチレン20g(セルロースの無水グルコース単位あたり0.5モル当量)に変更し、反応温度を60℃で1時間、120℃で6時間に変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−7、置換度、分子量は表1に記載)を灰白色粉体として得た(128g)。
【0080】
<合成例8:P−8の合成>
合成例3において第二工程で用いるクロロメタンをクロロエタン235g(セルロースの無水グルコース単位あたり6モル当量)に、酸化プロピレンの量を60g(セルロースの無水グルコース単位あたり1.7モル当量)に変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−8、置換度、分子量は表1に記載)を灰白色固体として得た(156g)。
【0081】
<比較化合物の合成例1:H−1の合成>
合成例1において第一工程で用いる水酸化ナトリウムを40g(セルロースの無水グルコース単位あたり1.6モル当量)、第二工程で用いるクロロメタンを45g(セルロースの無水グルコース単位あたり1.5モル当量)、酸化プロピレンを300g(セルロースの無水グルコース単位あたり8.5モル当量)に変更し、反応温度を60℃1時間、80℃3時間、100℃3時間に変更した以外は同様にして比較化合物(H−1、置換度、分子量は表1に記載)を黄白色無定形固体として得た(230g)。
【0082】
<比較化合物の合成例2:H−2の合成>
合成例1において第一工程で用いる水酸化ナトリウムを40g(セルロースの無水グルコース単位あたり1.6モル当量)、酸化プロピレンを290g(セルロースの無水グルコース単位あたり8.2モル当量に、クロロメタンをクロロエタン60g(セルロースの無水グルコース単位あたり1.5モル当量)に変更し、反応温度を60℃1時間、80℃3時間、120℃3時間に変更した以外は同様にして比較化合物(H−2、置換度、分子量は表1に記載)を灰褐色無定形固体として得た(183g)。
【0083】
<比較化合物の合成例3:H−4の合成>
オートクレーブ(耐圧硝子工業製、簡易型オートクレーブTEM−D3000M)に解砕パルプ100g、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム45g/水150mL、セルロースの無水グルコース単位あたり1.8モル)を量り取り、窒素雰囲気下、45℃で1時間攪拌した(第一工程)。放冷後、ドライアイス/メタノールバスで−40℃に冷却し、更に、トルエン150mL、クロロエタン70g(セルロースの無水グルコース単位あたり1.8モル)、酸化プロピレン20g(セルロースの無水グルコース単位あたり0.6モル)を加えて、60℃で1時間、90℃で6時間攪拌した(第二工程)。室温に戻した後、系内の残存ガスを排気し、内容物を熱水5Lに激しく攪拌しながら投入することで、ゲル状固体を得た。得られたゲル状固体を熱時濾過した後、更に熱水5Lで3回洗浄し、100℃で6時間乾燥することにより白色固体を110g得た。得られた白色固体を5Lの三口フラスコに移し、ピリジン2Lを加えて室温で溶解させた。更に、無水酢酸0.5Lを加えて、50℃で6時間反応させた。室温に戻した後、反応混合物をメタノール10Lに激しく攪拌しながら投入することで、黄白色固体を得た。得られた黄白色固体を濾過した後、更にメタノール/水=2L/2L混合溶媒で洗浄する操作を3回繰り返し、得られた黄白色固体を吸引濾過によりろ別し、80℃で6時間真空乾燥することにより目的の比較化合物(H−4、置換度、分子量は表1に記載)を黄白色粉体として得た(収量140g)。
【0084】
なお、以上で得られた化合物について、セルロースに含まれる水酸基(R、R及びR)に置換された官能基の種類、並びにDS及びMSは、Cellulose Communication 6,73−79(1999)及びChrality 12(9),670−674に記載の方法を利用して、H−NMRあるいは13C−NMRにより、観測及び決定した結果を表1に記載した。
【0085】
<セルロース誘導体の物性測定>
得られたセルロース誘導体について、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を表1に示す。なお、これらの測定方法は以下の通りである。
[分子量]
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いた。具体的には、Nメチルピロリドンを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めた。GPC装置は、HLC−8220GPC(東ソー社製)を使用した。
【0086】
<実施例1:セルロース誘導体からなる成形体の作製>
[試験片作製]
上記で得られたセルロース誘導体(P−1)を射出成形機((株)井元製作所製、半自動射出成形機)に供給して表1に記載の成形温度(シリンダー温度)、金型温度60℃、射出圧力1.5kgf/cmにて4×10×80mmの多目的試験片(曲げ試験片)を成形した。
【0087】
<実施例2〜8、比較例1〜4>
実施例1と同様にして、セルロース誘導体(P−2)〜(P−8)、比較化合物(H−1)〜(H−2)、(H−4)ヒドロキシプロピルメチルセルロース(H−3、松本油脂製90MP4000)を用いて、表1の成形条件に従って成形し試験片を作製した。
【0088】
<試験片の物性測定>
得られた試験片について、下記の方法にしたがって曲げ弾性率及び成型片外観を測定した。結果を表1に示す。
[曲げ弾性率(剛性)]
JISK7171に準拠して曲げ試験機によって曲げ弾性率を測定した。
[成型片外観]
得られた試験片について、成形片外観を下記のとおり官能評価した。
A:均一透明である。
B:半透明である。
C:白濁している。
A〜Bが実用に問題のない範囲である。
【0089】
【表1】

【0090】
表1の結果から明らかなように、本発明の製造方法を行うことによって、良好な成形片外観と高い剛性(曲げ弾性率)が付与されたセルロース誘導体を、反応容器から反応系の取り出しを行わずに、簡便に製造可能な方法を提供することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)炭化水素基、
(B)アシル基:−CO−RB1とアルキレンオキシ基:−RB2−O−とを含む基(RB1は炭化水素基を表し、RB2はアルキレン基を表す)、及び、
(C)アシル基:−CO−R(Rは炭化水素基を表す)、
を置換基として有し、下記式を満たすセルロース誘導体の製造方法であって、
DS(A)=0〜2.2、
MS(B)=0.1〜1.9、
DS(C)=0.5〜1.7
[上記式中、DS(A)及びDS(C)はそれぞれ置換基(A)、(C)の置換度、MS(B)は置換基(B)のモル置換度を表す]
(1)セルロースに、前記セルロースの無水グルコース単位あたり少なくとも2.0モル当量の塩基を反応させてアルカリセルロースを得る第一工程、
(2)前記アルカリセルロースに、前記セルロースの無水グルコース単位あたり少なくとも2.0モル当量のハロゲン化炭化水素及び少なくとも0.1モル当量のアルキレンオキシドを反応させることにより、セルロースエーテルを得る第二工程、並びに、
(3)前記セルロースエーテルにエステル化を行う第三工程、を備えたことを特徴とするセルロース誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記第二工程の後に、セルロースエーテルを反応容器から取り出さずに第三工程を行うことを特徴とする請求項1に記載のセルロース誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記第一工程で用いられる塩基が強塩基であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロース誘導体の製造方法。
【請求項4】
DS(A)=1.2〜2.2、MS(B)=0.1〜1.0、DS(C)=0.5〜1.7である請求項1に記載のセルロース誘導体の製造方法。
【請求項5】
DS(A)=1.2〜2.2、MS(B)=0.1〜0.6、DS(C)=0.7〜1.7である請求項1に記載のセルロース誘導体の製造方法。
【請求項6】
DS(A)=1.2〜1.6、MS(B)=0.1〜0.3、DS(C)=1.0〜1.7である請求項1に記載のセルロース誘導体の製造方法。
【請求項7】
前記(B)RB2の炭素数が2〜4であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルロース誘導体の製造方法。
【請求項8】
前記(A)炭化水素基の炭素数が1〜3であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のセルロース誘導体の製造方法。
【請求項9】
前記(C)Rの炭素数が1〜4であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のセルロース誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2011−195788(P2011−195788A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67070(P2010−67070)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】