説明

セル電圧低下検出装置

【課題】燃料電池スタックのセル電圧の低下を精度よく検出できる、安価なセル電圧低下検出装置を提供する。
【解決手段】複数の単セルを備える燃料電池スタックにおける単セルの電圧の低下を検出するセル電圧低下検出装置であって、複数の単セルに対応させて設けられた複数の発光素子と、発光素子からの発光を検出して、検出結果を出力する光センサと、を備え、発光素子は、単セルの起電圧が正常運転時とは逆になったときに発光するように単セルに接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の単セルを積層して構成される燃料電池スタックを備える燃料電池システムにおいて、従来、各単セルのセル電圧を監視するセル電圧監視装置を備え、その監視結果に基づいて、燃料電池スタックの劣化を抑制する制御を実施している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−345622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、単セルのセル電圧に基づいて燃料電池スタックの劣化を抑制する制御を実施する装置において、検出精度の低下を抑制しつつコストを低減することが望まれていた。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、燃料電池スタックのセル電圧の低下を精度よく検出できる、安価なセル電圧低下検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1] 複数の単セルを備える燃料電池スタックにおける前記単セルの電圧の低下を検出するセル電圧低下検出装置であって、
前記複数の単セルに対応させて設けられた複数の発光素子と、
前記発光素子からの発光を検出して、検出結果を出力する光センサと、
を備え、
前記発光素子は、前記単セルの起電圧が正常運転時とは逆になったときに発光するように前記単セルに接続された、セル電圧低下検出装置。
【0008】
このようにすると、燃料電池が正常に発電している時は、発光素子は点灯せず、いずれかの単セルにおいて負電圧(異常)が生じて、発光素子の点灯電圧を超えると、電圧低下が生じている単セルに接続された発光素子が点灯する。光センサによって、発光素子からの発光を検出することによって、燃料電池スタックのいずれかの単セルの電圧低下の発生を検出することができる。このセル電圧低下検出装置は、主に、発光素子と光センサによって構成されるため、燃料電池スタックの劣化を抑制する制御を実施する装置を安価に構成することができる。また、発光素子が、複数の単セルに対応して設けられるため、セル電圧の低下を精度よく検出することができる。
【0009】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、上記セル電圧低下検出装置を備える燃料電池システム、その燃料電池システムを備える車両等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例としてのセル電圧低下検出装置を備える燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。
【図2】セル電圧低下検出装置200の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A.実施例:
図1は、本発明の一実施例としてのセル電圧低下検出装置200を備える燃料電池システム500の概略構成を示す説明図である。本実施例において、燃料電池システム500は、車両に搭載されている。燃料電池システム500は、燃料電池スタック100と、セル電圧低下検出装置200と、負荷装置300と、制御装置400と、アノードガス給排系(図示しない)と、カソードガス給排系(図示しない)と、を主に備える。
【0012】
燃料電池スタック100は、比較的小型で発電効率に優れる固体高分子型燃料電池の単セル12が、数百セル積層された構成を有し、アノードガスとしての水素と、カソードガスとしての空気中の酸素が、各電極において電気化学反応を起こすことによって起電力を得るものである。なお、単セルの積層枚数は、燃料電池スタック100に要求される出力に応じて任意に設定可能である。
【0013】
アノードガス給排系は、水素タンクと、アノードガス供給路と、アノード排ガス排出路と、を主に備える。水素タンクから放出された水素ガスはアノードガス供給路を通って燃料電池スタック100のアノードに供給される。燃料電池スタック100のアノードから排出されたアノード排ガスは、アノード排ガス排出路を介して外部に排出される。なお、アノード排ガスの一部は、水素循環ポンプによってアノードガス供給路に戻されて、再度、燃料電池スタック100に供給してもよい。水素循環ポンプは、制御装置400によって制御される。
【0014】
カソードガス給排系は、エアコンプレッサと、カソードガス供給路と、カソード排ガス路と、を主に備える。エアコンプレッサは、外部から取り込んだ空気を加圧して、この加圧空気をカソードガスとして、カソードガス供給路を介して燃料電池スタック100のカソードに供給する。カソードから排出されたカソード排ガスは、カソード排ガス路を介して外部に排出される。エアコンプレッサは、制御装置400によって制御される。
【0015】
セル電圧低下検出装置200は、燃料電池スタック100を構成する複数の単セル12のうち、いずれかにおいて電圧低下が生じていることを検出する装置である。セル電圧低下検出装置200は、単セル12の枚数と同数(数百個)の発光ダイオード22と、1個の光センサ24と、を備える。発光ダイオード22は、燃料電池スタック100を構成する単セル12の1枚に対して1つずつ設けられている。なお、発光ダイオード22の個数は、単セル12の枚数と同数であればよい。
【0016】
また、セル電圧低下検出装置200では、発光ダイオード22の陰極が、対応する単セル12のカソードに接続され、発光ダイオード22の陽極が、対応する単セル12のアノードに接続されている。そのため、単セル12が正常に発電を行っている場合には、発光ダイオード22にとっては逆の電圧が印加されることになり、発光ダイオード22は点灯しない。一方、単セル12に何らかの異常が生じ、負電圧が発生した場合には、発光ダイオード22にとって正の電圧が印加されることになる。そのため、単セル12において発生する負電圧の大きさが発光ダイオード22の点灯電圧を超えると、対応する発光ダイオード22が点灯する。
【0017】
すなわち、燃料電池スタック100を構成する複数の単セル12のいずれにも異常がない場合には、発光ダイオード22は1つも点灯せず、燃料電池スタック100を構成する複数の単セル12のいずれかにおいて電圧低下が生じた場合には、対応する発光ダイオード22が点灯する。
【0018】
本実施例では、発光ダイオード22として、可視光を発光するものを用いているが、例えば、赤外線、紫外線等の可視光外の光を発光する発光ダイオードを用いてもよい。
【0019】
光センサ24は、発光ダイオード22の光を検出して、検出信号を制御装置400に出力する。すなわち、燃料電池スタック100を構成する複数の単セル12のいずれかにおいて電圧低下が生じた場合には、光センサ24から制御装置400に検出信号が入力される。
【0020】
本実施例では、光センサ24としてフォトダイオードを用いているが、その他の光起電力効果を利用した光センサ(例えば、フォトトランジスタ、フォトIC、太陽電池等)を用いてもよい。また、CdS(硫化カドミウム)セル、CdSe(セレン化カドミウム)セル、PbS(硫化鉛)セル等の光導電効果を利用した光センサや、光導管、光電子倍増管(フォトマル)等の光電子放出効果を利用した光センサを用いてもよい。
【0021】
燃料電池スタック100において、単セル12が正常に発電している場合には、セル電圧が正(すなわち、カソードの電圧の方がアノードの電圧よりも高い)である。一方、例えば、単セル12内において電解質膜および触媒層の乾燥(ドライアップ)や、水詰まり(フラッディング)が生じると、アノードの電圧が高くなり、セル電圧が負(異常)になる場合がある。このように、セル電圧が負(異常)になると、電極触媒層の劣化(カーボン担体の酸化等)や電解質膜の劣化(電解質膜中のフッ素の腐食等)が生じるおそれがある。すなわち、セル電圧低下検出装置200によって、光が検出された場合には、単セル12内においてドライアップ、フラッディング、ガス不足、過負荷等が生じていることが予測できる。そのため、後述するように制御装置400によって、セル電圧低下検出装置200による検出結果に基づいて、ドライアップ、フラッッディング、ガス不足、過負荷等を抑制するための制御を行うことにより、電極触媒層や電解質膜の劣化を抑制することができる。
【0022】
図2は、セル電圧低下検出装置200の概略構成を示す斜視図である。本実施例において、1枚の単セル12に対して1つずつ設けられた発光ダイオード22は、図示するように整列されて樹脂にて固定され、発光部220を構成している。また、セル電圧低下検出装置200は、発光ダイオード22による発光を光センサ24に伝送する光伝送部26を備える。光伝送部26は、発光ダイオード22の個数と同数以上の光ファイバ26fを備える。光ファイバ26fは、一端が各発光ダイオード22に対応するように整列して配置され、他端は、光センサ24に集光するように略円形状にまとめられて、樹脂にて固定されている。光伝送部26は、一端が、燃料電池スタック100に設けられた発光部220に嵌め合わせ可能に形成され、多端が光センサ24に嵌め合わせ可能に形成されている。
【0023】
このように、セル電圧低下検出装置200では、光ファイバ26fを用いて各発光ダイオード22による発光を光センサ24に伝送しているため、光センサ24と発光ダイオード22との距離の違いに関わらず、全ての発光ダイオード22について1つの光センサ24によって感度良く光を検出することができる。
【0024】
負荷装置300は、高圧DC/DCコンバータ、2次電池、トラクションモーターインバータ、補機インバータ、トラクションモータ(車両駆動用モータ)、補機モータ等を備える(図示しない)。負荷装置300は、制御装置400によって制御される。
【0025】
高圧DC/DCコンバータは、燃料電池スタック100の出力電圧を制御する。また、燃料電池スタック100で発電された直流電力の一部は、高圧DC/DCコンバータによって昇降圧され、2次電池に充電される。
【0026】
補機モータは、各種補機類を駆動するためのモータであり、例えば、燃料電池スタック100にカソードガスとしての空気を供給するためのエアコンプレッサを駆動するモータ、アノードガスとしての水素を循環させるための水素循環ポンプを駆動するモータ、燃料電池スタック100を冷却する冷却装置を駆動するモータアクチュエーター、燃料電池スタック100に供給されるガスを加湿するための加湿装置を制御するアクチュエーター等を含む。
【0027】
トラクションモーターインバータおよび補機インバータは、燃料電池スタック100または2次電池から出力される直流電力を三相交流電力に変換してトラクションモータおよび補機モータへ供給する。
【0028】
制御装置400は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成されている。詳しくは、予め設定された制御プログラムに従って所定の演算などを実行するCPU(図示しない)と、CPUで各種演算処理を実行するのに必要な制御プログラムや制御データ等が予め格納されたROM(図示しない)と、同じくCPUで各種演算処理をするのに必要な各種データが一時的に読み書きされるRAM(図示しない)と、各種の信号を入出力する入出力ポート(図示しない)等を備える。
【0029】
この制御装置400は、入力される各センサ信号に基づき、燃料電池システム500の各部を統合的に制御する。例えば、制御装置400は、セル電圧低下検出装置200が備える光センサ24からの検出信号に基づいて、負荷装置300を制御する。具体的には、制御装置400は、セル電圧低下検出装置200が備える光センサ24からの検出信号の入力がない場合(すなわち、燃料電池スタック100に異常がない場合)には、負荷要求に基づいて、負荷装置300(高圧DC/DCコンバータ、トラクションモーターインバータ、補機インバータ等)を制御している。これにより、負荷要求に応じた電力が燃料電池スタック100から取り出される。
【0030】
一方、セル電圧低下検出装置200が備える光センサ24から、制御装置400に対して検出信号の入力があった場合(すなわち、燃料電池スタック100のいずれかのセルに電圧低下が発生した場合)には、制御装置400は、燃料電池スタック100に対する負荷要求に関わらず、単セル12の電圧低下を抑制するように負荷装置300(高圧DC/DCコンバータ、トラクションモーターインバータ、補機インバータ等)、反応ガスの供給、加湿装置、冷却装置等を制御して、単セル12のセル電圧の低下を回避する。
【0031】
以上説明したように、本実施例における燃料電池システム500によれば、セル電圧低下検出装置200によってセル電圧の低下が検出されると、制御装置400によって負荷装置300、ガス供給装置、加湿装置、冷却装置等が制御され、セル電圧の低下が回避される。したがって、単セル12のセル電圧の低下によるカーボン担体の酸化、電解質膜中のフッ素の腐食等を抑制することができる。その結果、燃料電池スタック100の破損を回避することができる。
【0032】
本実施例におけるセル電圧低下検出装置200は、主に、燃料電池スタック100を構成する単セルに対応して設けられた複数の発光ダイオード22と、1つの光センサ24と、発光ダイオード22による発光を伝送する光伝送部26とによって構成される。そのため、セル電圧低下検出装置200を用いると、1枚の単セルに対して、ADコンバータ、コンパレータ、マルチプレクサ、フォトMOS等を用いてセル電圧を監視する電圧監視装置(従来の構成)を用いる場合に比べて、部品点数を低減することができる。したがって、安価にセル電圧の低下を検出する装置を構成することができる。また、セル電圧低下検出装置200は、上記のとおり、従来の電圧監視装置に比べて、部品点数が低減されるため、配線で接続する手間等を軽減することができる。
【0033】
本実施例におけるセル電圧低下検出装置200によれば、燃料電池スタック100を構成する全ての単セルに対して発光ダイオード22が設けられており、発光ダイオード22からの発光を1つの光センサ24によって検出している。そのため、電圧監視装置のコスト低減を図るために従来の電圧監視装置にて監視する単セルの枚数を減らしたり、燃料電池スタック100の総電圧を用いて電圧を監視する場合に比べて、セル電圧の低下を精度よく検出することができる。
【0034】
また、セル電圧低下検出装置200では、光を利用してセル電圧の低下を検出しているため、高電圧を出力する燃料電池スタック100と電気的に絶縁される。したがって、燃料電池スタック100と電気的に絶縁するために別個の部品を設けることなく、安全にセル電圧の低下を検出することができる。
【0035】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0036】
(1)上記実施例において、発光ダイオード22による発光を光ファイバ26fを用いて伝送することによって、光センサ24に集光しているが、光ファイバ26fに代えてプリズムや鏡を用いてもよい。また、集光する手段を用いない(上記実施例において、光伝送部26を備えない)構成にしてもよい。このようにしても、光センサ24は発光ダイオード22による発光を検出することができる。
【0037】
(2)光センサ24として、光の明るさを検出可能な光センサを用いてもよい。このようにすると、単セル12の電圧低下の程度(単セルに生じる負電圧の大きさ)、電圧低下が生じている単セルの数等、燃料電池スタック100の不調の程度を判別することができる。
【0038】
(3)上記実施例において、セル電圧低下検出装置200は1つの光センサ24を備える構成を例示したが、光センサ24を複数備える構成にしてもよい。例えば、各単セルに対応させて単セルの個数と同数の光センサ24を備える構成にすれば、電圧低下が生じている単セルを特定することができる。また、燃料電池スタック100を構成する複数の単セルをいくつかのブロックに分けて、各ブロックごとに1つずつ光センサ24を設ける構成にしてもよい。このようにすると、電圧低下が生じている単セルのブロックを特定することができる。
【0039】
(4)上記実施例のセル電圧低下検出装置200において、発光ダイオード22をツェナーダイオードと並列に接続して電圧クリップ回路を形成し、単セル12に接続する構成にしてもよい。このようにすると、光センサ24に印加される電圧が制御され、光センサ24の破損を回避することができる。
【0040】
(5)上記実施例において、発光素子として発光ダイオードを用いる構成を例示したが、発光ダイオードに代えて、有機ELや電球等を用いてもよい。整流作用のない光源を用いる場合には、ダイオードを組み合わせて正常発電時には発光しないようにすればよい。
【0041】
(6)上記実施例において、単セルの枚数と、発光ダイオードの個数とが等しい構成を例示したが、発光ダイオードの個数は、単セルの枚数よりも少なくてもよい。例えば、燃料電池スタック100の端の単セルには発光ダイオードを設けない構成にしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
12…単セル
22…発光ダイオード
24…光センサ
26…光伝送部
26f…光ファイバ
100…燃料電池スタック
200…セル電圧低下検出装置
220…発光部
300…負荷装置
400…制御装置
500…燃料電池システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単セルを備える燃料電池スタックにおける前記単セルの電圧の低下を検出するセル電圧低下検出装置であって、
前記複数の単セルに対応させて設けられた複数の発光素子と、
前記発光素子からの発光を検出して、検出結果を出力する光センサと、
を備え、
前記発光素子は、前記単セルの起電圧が正常運転時とは逆になったときに発光するように前記単セルに接続された、セル電圧低下検出装置。

【図1】
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【図2】
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