説明

センサおよびその調整方法

【課題】感度の高低やダイナミックレンジの広狭などのセンサの特性を測定中であっても変更設定することが可能な、磁気センサ、電流センサ、応力センサ、歪センサなどのセンサ、およびこれらの設定方法を提供する。
【解決手段】磁気センサ1は、外部磁界が印加される磁性体2と、磁性体2の磁気光学カー効果に基づいて外部磁界を検出するための検出手段3とを備え、磁性体2に直流磁界を印加する永久磁石6,6と、永久磁石6,6を再着磁するためのコイル7,7とを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサ、電流センサ、応力センサ、歪センサなどの磁気効果に基づいて測定を行うセンサ、およびその調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話や電気自動車、測定器など電気機器には、磁性膜が利用された磁界センサや電流センサ(以下、センサともいう)が多用されている。センサの感度は、磁性膜の透磁率に依存するため、微量な磁界あるいは電流を検出するためには、透磁率を高くする必要がある。一方、磁性膜(材料)には、ある磁界以上で磁化が飽和する、すなわち透磁率が空気と同じ1になってしまう測定限界がある。この測定限界により測定のダイナミックレンジが決まる。透磁率の高い磁性膜を用いると、センサの感度は高くなるが、その測定限界(ダイナミックレンジ)は小さくなってしまう。ダイナミックレンジ(検出範囲)を広くするためには、透磁率の低い磁性膜を用いる必要がある。しかしながら、透磁率を低くすると感度が低くなってしまう。このように、センサの感度とダイナミックレンジはトレードオフの関係にある。ゆえに、高感度かつ大きなダイナミックレンジをもつセンサは一般的には存在しない。
【0003】
例えば特許文献1に、一軸異方性を有する磁性膜の磁化困難軸方向へ測定すべき磁界を与え、磁界が与えられている磁性膜に直線偏光の検出光を照射し、磁性膜を経た検出光の偏光面の回転角を検出することにより磁界強度を測定する磁場測定装置および方法が記載されている。この装置等では、外部磁界が印加された磁性膜で生じるファラデー効果または磁気光学カー(Kerr)効果を利用して、磁界強度を測定している。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された磁場測定装置および方法では、磁性膜を飽和させる磁界強度およびそのときの飽和磁化はその材質によって一定の値に決まる。したがって、測定の感度およびダイナミックレンジは特定の値や範囲であり、これらを測定中に調整(変更設定)することはできない。
【0005】
非特許文献1には、光学磁気カー効果を利用した電流センサが記載されている。この電流センサでも、センサの感度やダイナミックレンジを測定中に調整することはできない。
【0006】
また、応力や歪の測定を行う応力センサや歪センサ(以下、センサともいう)が、測定器以外にも、自動車のブレーキ制御システムや、ロボットアームの触圧検出部など多様な機械・機器に用いられている。応力や歪を磁性体に印加し、逆磁歪効果や磁気抵抗効果などの磁気効果に基づいて測定を行うセンサの場合にも、感度やダイナミックレンジもトレードオフの関係にある。
【0007】
非特許文献2には、光学磁気カー効果および逆磁歪効果を利用した歪センサが記載されている。この歪センサでは、歪の印加される磁性体として、Fe/Mn−Ir交換結合磁性膜が用いられている。非特許文献2には、交換結合磁性膜の強磁性層膜厚を変更することでセンシング感度およびセンシング範囲(ダイナミックレンジ)を調整できることが記載されている。しかしながら、交換結合磁性膜の膜厚は成膜時にしか調整できないので、センサの感度やダイナミックレンジを測定中に調整することはできない。
【0008】
非特許文献3には、磁気抵抗効果素子を用いて歪み量を電気信号で検出する歪センサが記載されている。しかしながら、感度やダイナミックレンジを測定中に調整することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−54452号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】論文名:「Fundamental Study of Optical Probe Current Sensor using Kerr Effectof Single Magnetic Domain Film」、著者名:曽根原誠,佐藤敏郎 他、発行者:IEEE-INST ELECTRICAL ELECTRONICSENGINEERS INC、刊行物名:Proceedings of the 18th IEEEConference on Sensors(IEEE Sensors 2009 Conference)、頁:1232-1237、発行年月:2009年10月
【非特許文献2】論文名:「Strain sensor usingstress-magnetoresistance effect of Ni-Fe/Mn-Ir exchange-coupled magnetic film」、著者名:曽根原誠,佐藤敏郎 他、発行者:AmericanInstitute of Physics、刊行物名:Journal of Applied Physics 107(9)、頁:09E718-1-09E718-3、発行年月:2010年5月
【非特許文献3】論文名:「Fe/Mn-Ir交換結合単磁区磁性薄膜の磁気Kerr効果を用いた光信号式歪センサの基礎検討」、著者名:曽根原誠,佐藤敏郎 他、発行者: 日本磁気学会、刊行物名:Journal of the Magnetics Society of Japan,34(6)、頁:593-598、発行年月:2010年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、感度の高低やダイナミックレンジの広狭などのセンサの特性を測定中であっても変更設定することが可能な、磁気センサ、電流センサ、応力センサ、歪センサなどのセンサ、およびこれらの設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載されたセンサは、検出対象が印加される磁性体を備えるセンサであって、該磁性体に直流磁界を印加する永久磁石と、該永久磁石を再着磁するためのコイルとを備えることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載されたセンサは、請求項1に記載のものであり、前記コイルに再着磁用の電流を供給する電源部と、該電源部を制御して前記直流磁界が所定の磁界強度となるように前記永久磁石を再着磁する着磁制御部とを備えることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載されたセンサは、請求項2に記載のものであり、前記着磁制御部は、測定の感度またはダイナミックレンジを設定するために入力される設定信号に基づいて、該感度または該ダイナミックレンジに対応する前記所定の磁界強度に前記永久磁石を再着磁することを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載されたセンサは、請求項2または3に記載のものであり、前記着磁制御部は、所定周期毎に、前記所定の磁界強度に前記永久磁石を再着磁することを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載されたセンサは、請求項2から4のいずれかに記載のものであり、前記着磁制御部には、該永久磁石の温度を検出する温度センサが接続されており、該着磁制御部は、該温度センサの検出する温度に対応する前記所定の磁界強度に前記永久磁石を再着磁することを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載されたセンサは、請求項2から5のいずれかに記載のものであり、前記着磁制御部には、前記直流磁界の磁界強度を検出する磁界強度センサが接続されており、前記着磁制御部は、前記磁界強度センサの検出する前記磁界強度が前記所望の磁界強度の許容範囲内でないときに、前記永久磁石を再着磁することを特徴とする。
【0018】
請求項7に記載されたセンサは、請求項1から6のいずれかに記載のものであり、前記磁性体が、一対の前記永久磁石で挟み込まれていることを特徴とする。
【0019】
請求項8に記載されたセンサは、請求項1から7のいずれかに記載のものであり、前記磁性体が、一軸磁気異方性を有しており、その磁化容易軸の方向に、前記永久磁石が前記直流磁界を印加することを特徴とする。
【0020】
請求項9に記載されたセンサは、請求項1から8のいずれかに記載のものであり、前記検出対象が外部磁界である磁界センサ、前記検出対象が電流によって生じる外部磁界である電流センサ、前記検出対象が応力である応力センサ、前記検出対象が歪である歪センサ、前記検知対象が振動で生じる応力である振動センサ、前記検知対象が加速で生じる応力である加速度センサ、または、前記検知対象が加速で生じる応力である加加速度センサであることを特徴とする。
【0021】
請求項10に記載されたセンサの調整方法は、検出対象が印加される磁性体を備えるセンサの調整方法であって、磁性体に直流磁界を印加する永久磁石を、測定の感度またはダイナミックレンジに対応する所定の磁界強度の該直流磁界になるように再着磁することを特徴とする。
【0022】
請求項11に記載されたセンサの調整方法は、請求項10に記載のものであり、所定周期毎に、前記所定の磁界強度に前記永久磁石を再着磁することを特徴とする。
【0023】
請求項12に記載されたセンサの調整方法は、請求項10または11に記載のものであり、前記所定の磁界強度が温度に対応するように、前記永久磁石を前記再着磁することを特徴とする。
【0024】
請求項13に記載されたセンサの調整方法は、請求項10から12のいずれかに記載のものであり、前記所定の磁界強度が許容範囲内にないときに、前記永久磁石を前記再着磁することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明のセンサ、およびその調整方法によれば、検出対象が印加される磁性体に直流磁界を印加する永久磁石と、永久磁石を再着磁するためのコイルとを備えることにより、このコイルに再着磁用の電流を供給し、永久磁石の磁界強度を適宜設定することで、感度およびダイナミックレンジなどのセンサの特性を適宜調整することができる。永久磁石の再着磁は、電気的に短時間で行うことができるので、所望の特性に、簡便かつ迅速に設定することができる。さらに、永久磁石の再着磁は短時間に行うことができるので、電力の消費量が少なく、省エネルギーである。
【0026】
コイルに再着磁用の電流を供給する電源部、および電源部を制御する着磁制御部を備える場合、電源部が再着磁用の電流をコイルに供給して、センサの特性を調整することができる。電源部や着磁制御部は、センサと一体的に配置されていてもよく、センサが接続される機器の電気回路内に配置されていてもよい。
【0027】
着磁制御部が、測定の感度またはダイナミックレンジを設定するために入力される設定信号に基づいて永久磁石を再着磁する場合、設定信号を入力するだけで感度等を簡便に設定することができる。
【0028】
着磁制御部が、所定周期毎に、所定の磁界強度に永久磁石を再着磁することにより、永久磁石の直流磁界が所定時間毎にリフレッシュされるので、永久磁石の直流磁界が経時変化で弱くならず一定の強度になるため、感度およびダイナミックレンジが時間経過とともにずれることが防止され、安定した性能を維持できる。
【0029】
着磁制御部が温度に基づいて永久磁石を再着磁する場合、温度変動によるセンサの特性のずれを調整することができる。
【0030】
着磁制御部が永久磁石の磁界強度が許容範囲にないときに永久磁石を再着磁する場合、経時変化などによるセンサの特性のずれを調整することができる。
【0031】
磁性体が、一対の永久磁石で挟み込まれている場合、磁性体に均一に直流磁界が印加されるため、センサの特性を安定して精度良く調整することができる。
【0032】
磁性体が、一軸磁気異方性を有しており、その磁化容易軸の方向に、永久磁石が直流磁界を印加する場合、磁気モーメントが磁化容易軸方向にそろっているので、磁壁の影響がごくわずかあるものの磁気モーメントの方向のばらつきが少ないため、高い測定精度を有するセンサとすることができると共に、センサの特性を高精度に調整することができる。さらに、一方向磁気異方性を有していれば、磁壁の影響が無くなるため一層望ましい。
【0033】
検出対象が外部磁界である磁界センサ、検出対象が電流によって生じる外部磁界である電流センサ、検出対象が応力である応力センサ、または、検出対象が歪である歪センサである場合、これら用途のセンサの特性を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明を適用するセンサ(磁気センサ、電流センサ)の使用状態を模式的に示す概要構成図である。
【図2】従来のセンサの感度、ダイナミックレンジの特性図である。
【図3】本発明を適用するセンサの感度、ダイナミックレンジの特性図である。
【図4】本発明を適用するセンサの原理を説明する磁化曲線である。
【図5】本発明を適用するセンサにおける感度、ダイナミックレンジの設定方法を説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明を適用するセンサにおける温度変化に対応する設定方法を説明するためのフローチャートである。
【図7】本発明を適用するセンサにおける磁界強度低下に対応する設定方法を説明するためのフローチャートである。
【図8】図1に示すセンサの変形例の要部を模式的に示す概要構成図である。
【図9】本発明を適用する他のセンサ(応力センサ、歪センサ)を模式的に示す概要構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0036】
図1に本発明を適用するセンサの一例として、磁気センサ1(電流センサ)を示す。磁気センサ1は、検出対象として外部磁界の強度を検出するものである。なお、磁気センサ1が、被測定導体100を流れる電流Iによって生じる磁界を外部磁界として検出して、検出した外部磁界から電流Iを測定するためのものであれば、磁気センサ1は電流センサになる。
【0037】
磁気センサ1は、外部磁界が印加される磁性体2と、磁性体2の磁気効果に基づき外部磁界の磁界強度を検出する検出手段3とを備えており、さらに、磁性体2に直流磁界を印加する永久磁石6,6と、永久磁石6,6を再着磁するためのコイル7,7とを備えるものである。また、磁気センサ1は、必要性に応じて、コイル7,7に再着磁用の電流を供給する電源部8と、電源部8を制御して直流磁界が所定の磁界強度となるように永久磁石6,6を再着磁する着磁制御部9と、直流磁界の磁界強度を検出する磁界強度センサ21と、永久磁石の温度を検出する温度センサ22とを備えている。磁気センサ1(電流センサ)は、その検出手段3が例えば磁気測定装置(電流測定装置)の測定部40に接続されて使用される。測定部40が磁気センサ1に含まれていてもよい。同図では、磁性体2、永久磁石6,6、コイル7,7を平面図で図示している。
【0038】
磁性体2は、Fe,Co,Ni,Gdのうちの少なくとも一種を含む軟磁性体であり、例えばイットリウム−鉄−ガーネット(YIG:Yttrium-Iron-Garnet)フェライト単結晶である。磁性体2は、一例として四角形状の薄板に形成されている。磁性体2は、磁気光学カー効果の大きなものであることが好ましい。磁性体2は、例えばセラミック製などの基板上に膜状に形成されていてもよい。磁性体2は、等方性であってもよく、一軸磁気異方性、多軸磁気異方性であってもよいが、一軸磁気異方性である場合がより好ましく、さらに一方向磁気異方性である場合が一層好ましい。等方性等であってもよい理由は、磁気異方性を有していなくても後述する永久磁石6による磁界強度により一方向磁気異方性が生じるためである。磁性体2が一軸磁気異方性である場合、後述する永久磁石6の磁界方向が磁化容易軸(同図のy軸)になっていて、永久磁石6の磁界方向に直交する面方向が磁化困難軸(同図のx軸)になっていることが好ましい。磁気センサ1が電流センサとして用いられるときには、一例として被測定導体100は、磁性体2の裏面側(紙面の裏側)に、磁化容易軸y方向に沿って配置される。
【0039】
検出手段3は、磁性体2の磁気効果の一例である磁気光学カー効果に基づいて磁性体2に印加される外部磁界の磁界強度を検出するものである。検出手段3は、レーザー光源31、偏光子32、1/4波長板33、偏光ビームスプリッタ34、および受光素子35,36を備えている。レーザー光源31は、例えば、He−Ne半導体レーザーであり、レーザー光L0を出射する。偏光子32は、例えば、グラントムソン偏光プリズムやグランテーラー偏光プリズムであり、ランダムに偏光しているレーザー光L0の中から直線偏光している検出光L1を通過させる。直線偏光の方向は、同図に示すように、磁化容易軸y方向とする。検出光L1が磁性体2で反射して、磁気光学カー効果により、偏光面の回転した反射光L2になる。1/4波長板33は、反射光L2の偏光方向を微調整するために設けてある。偏光ビームスプリッタ34は、反射光L2をP波成分LpとS波成分Lsとに分離する。P波成分Lpは受光素子35によって受光され、S波成分Lsは受光素子36によって受光される。受光素子35,36は、例えば、フォトダイオード、フォトトランジスタ、またはCCDセンサである、受光素子35,36は、測定部40に光電変換した信号を出力する。
【0040】
測定部40は、受光素子35,36で光電変換されて電気的に出力されるP波成分LpとS波成分Lsとのレベル差、および、後述する設定信号が示す感度またはダイナミックレンジから、磁性体2に印加される磁界強度を演算する。磁気センサ1を電流センサとして用いるときは、測定部40は、磁界強度を求め、さらにその磁界強度を発生する電流Iを演算する。
【0041】
永久磁石6は、Fe,Co,Ni,Gdのうちの少なくとも一種を含む硬磁性体であり、例えば一般的なフェライト磁石である。一対の永久磁石6,6は、磁化容易軸y方向から磁性体2を挟み込むように、磁性体2に所定間隔で近接または密着して配置されている。永久磁石6は、一例として、四角形状の薄板に形成されており、その磁性体2に近接または密着する側端面が、磁性体2の側端面とほぼ同一形状に形成されている。永久磁石6,6は、磁性体2の磁化容易軸yと同方向に磁化されている。この永久磁石6,6は、同じ向きの磁界を磁性体2に印加する方向で、つまり、永久磁石6,6が互いに磁力で引き付き合う方向で、磁性体2に配置されている。なお、永久磁石6は、例えばセラミック製などの基板上に膜状に形成されていてもよいし、磁性体2の磁化容易軸y側の対向し合う側端面に膜状に形成されていてもよい。
【0042】
コイル7は、永久磁石6を再着磁するためのものであり、コイル7の軸が永久磁石6の磁界方向と一致するように、永久磁石6に配置されている。この場合、コイル7は、永久磁石6に直接、巻回されている。コイル7,7は、対応する永久磁石6,6に同じ向きの磁界を印加する方向で、つまり、各々の巻き方向が同方向となるように、永久磁石6,6に巻回されていて、一例として電気的に直列接続されている。なお、永久磁石6を、基板上に膜状に形成した場合、コイル7を、基板上の永久磁石6を巻くようにパターンで形成してもよい。コイル7は、永久磁石6に直接、または永久磁石6の近傍の位置に配置することが磁界を掛ける観点から好ましいが、永久磁石6に再着磁用の磁界を掛けることができる位置であれば、永久磁石6から離れた位置に配置してもよい。コイル7は、永久磁石6に着磁することができれば、形状および配置を問わない。
【0043】
電源部8は、コイル7,7に再着磁用の電流を供給するものであり、コイル7,7に正方向の直流電流を供給する直流電流源11、コイル7,7に逆方向の直流電流を供給する直流電流源12、及び、コイル7,7に接続する直流電流源11,12を切換えるための切換スイッチ13を備えている。電源部8は、コイル7の近くにコイル7等と一体的に配置されていてもよいし、コイル7と離れた位置の例えば測定部40の近くまたは測定部40の内部に配置されてコイル7,7に電気ケーブルで接続されていてもよい。
【0044】
直流電流源11、12は、出力する直流電流値を電気的な制御で各々調整可能な可変直流定電流源であり、着磁制御部9によって制御される。直流電流源11、12は、公知の直流電源や電流制御回路を用いてもよく、また、コンデンサに電流値に対応する電荷を充電させ、その電荷を瞬間的に放電させるようにしたコンデンサ式の放電回路を用いてもよい。
【0045】
切換スイッチ13は、切換え動作を電気的に制御可能なリレーまたは半導体スイッチであり、着磁制御部9に制御される。切換スイッチ13は、中間ポイント付きの双方向の切換スイッチであり、中心電極13a、および切換電極13b、13cを有している。この切換スイッチ13は、中心電極13aを、切換電極13bに接続、切換電極13cに接続、または開放のいずれかの切換制御が可能になっている。切換スイッチ13の中心電極13aには、直列接続されたコイル7,7の一端が接続されている。切換スイッチ13の切換電極13bには、直流電流源11の正極が接続されている。また、切換スイッチ13の切換電極13cには、直流電流源12の負極が接続されている。直流電流源11の負極、および直流電流源12の正極は、直列接続されたコイル7,7の他端に接続されている。
【0046】
着磁制御部9は、電源部8を制御して、永久磁石6が磁性体2に印加する直流磁界が所定の磁界強度となるように、永久磁石6を再着磁するものである。着磁制御部9は、一例として、CPU、フラッシュROM、RAM、A/D変換器、および入出力インタフェース回路(いずれも図示せず)などを備え、ROMに記憶されたプログラムにしたがって動作する。なお、着磁制御部9は、論理回路を組み合わせて構成したものであってもよい。着磁制御部9には、前述した直流電流源11,12および切換スイッチ13の他に、磁界強度センサ21および温度センサ22が接続されている。また、着磁制御部9には、磁気センサ1の測定の感度またはダイナミックレンジを設定するための設定信号が入力される。着磁制御部9は、コイル7の近くにコイル7等と一体的に配置されていてもよいし、コイル7と離れた位置の例えば測定部40の近くまたは測定部40の内部に配置されてコイル7に電気ケーブルで接続されていてもよい。また、着磁制御部9は、測定部40の制御回路(図示せず)と兼用されていてもよい。兼用されている場合には、内部的(または外部的)に発生する設定信号を使用する。
【0047】
磁界強度センサ21は、例えば、ホール素子、磁気抵抗効果素子、磁気インピーダンス素子、ファラデー素子、直交フラックスゲート磁気センサなどである。磁界強度センサ21は、永久磁石6に近接する位置に配置されて、永久磁石6が磁性体2に印加する直流磁界の磁界強度を検出して、着磁制御部9に出力する。温度センサ22は、例えば、熱電対、白金測温抵抗体などであり、永久磁石6に直接または近接させて配置されて、永久磁石6の温度を検出して、着磁制御部9に出力する。
【0048】
次に、磁気センサ1の動作原理について説明する。
【0049】
先ず、比較のために、磁性体2に永久磁石6が配置されていない場合、つまり特許文献1に記載された磁気測定装置のような場合について説明する。磁性体2に印加される測定対象となる外部磁界は、電流Iが流れることによって被測定導体100を中心とする円方向になる。したがって、外部磁界Hは、磁化困難軸xの方向に印加される。図2に示すように、磁性体2に印加される外部磁界Hの強さが磁性体2の異方性磁界Hk以下である場合、磁性体2に印加される磁界Hの強さと、磁性体2の磁化Mの大きさとが比例する。また、磁界Hk以上となると、磁性体2は飽和磁化Msとなり一定の値となる。つまり磁界Hk以下の範囲では、外部磁界Hの大きさと、磁性体2の磁化Mの大きさとが比例する。センサの感度は、磁界Hに対する磁化Mの傾きによって決まり、測定のダイナミックレンジは−HkからHkとなる。
【0050】
磁性体2の磁化Mの大きさは、直線偏光のレーザー光L1が、磁性体2で反射する際に回転した反射光L2の偏光面の回転角(カー回転角)θに比例する。具体的には、磁性体2に外部磁界Hが印加されていない場合、磁気モーメントMpは磁化容易軸y方向を向いているので、横カー効果が発生し、回転角θは0である。磁性体2に外部磁界Hが印加されると、磁気モーメントMpは磁化困難軸x方向に回転するので、縦カー効果が発生して、回転角θは外部磁界Hに比例して増加する。この反射光L2の回転角θは、受光素子35,36が検出するP波成分LpとS波成分Lsとを検出することでそれらの差から求められる。したがって、回転角θを測定することで、それに比例する外部磁界Hの磁界強度を求めることができる。
【0051】
次に、本発明の磁気センサ1のように、磁性体2に永久磁石6が配置されている場合について説明する。図3に、磁性体2に印加する永久磁石6の直流磁界の強度を変化させた場合の、外部磁界Hに対する磁性体2の磁化Mの大きさを図示する。なお、図2と図3とでは、見やすいように特性(グラフ)の傾きを変えて図示している。永久磁石6が一軸磁気異方性を有する磁性体2に直流磁界を印加すると、磁化の復元力に当たる異方性磁界が増加するため、磁性体2の透磁率が減少する。永久磁石6の直流磁界(磁力)が強いほど磁性体2の透磁率は小さくなり、逆に永久磁石6の直流磁界が弱いほど透磁率は大きくなる。例えば、図3に示す特性S1は永久磁石6の直流磁界が弱い場合であり、特性S3は永久磁石6の直流磁界が強い場合であり、特性S2は直流磁界が中間程度の場合である。特性S1の場合、僅かに外部磁界Hが変化しただけで磁化Mが大きく変化するため測定の感度が高くなるが、外部磁界Hk1で磁化飽和するので外部磁界Hに対する測定のダイナミックレンジは狭くなる。一方、特性S3の場合、感度は低いが、外部磁化Hk3で磁化飽和するのでダイナミックレンジが広くなる。特性S2の場合、感度、ダイナミックレンジ共に特性S1,S3の中間程度である。このように、永久磁石6の直流磁界の強さを変化させると、磁気センサ1の感度やダイナミックレンジが変化する。
【0052】
図4に、永久磁石6の磁化曲線(BHカーブ)を示す。この磁化曲線は、一般的なものであり、例えば永久磁石6に正方向の大きな磁場HM0を掛けると、永久磁石6が磁気飽和して、磁化曲線のa点になる。この状態から磁場HMを弱くして0にすると、磁化曲線はb点を通り、さらに逆方向に磁場HMを強くしていくと磁化曲線はc点を通って、磁場HMrのときに逆方向に磁気飽和してd点になる。この状態から、磁場HMを正方向に強くしていくと、磁化曲線はe点(逆方向の残留磁束密度Br)→f点→a点となる。このように磁化曲線はヒステリシスカーブを描く。永久磁石6を製造するときには、残留磁束密度Bが0の磁化前の磁石母材に、磁界HM0以上の磁場を掛けて磁化させている。
【0053】
発明者は、永久磁石6に逆方向の磁場HMrを掛け、続いて磁場HM1を掛けてから磁場を0に戻すと、同図に示すように磁化曲線はd点→e点→s1点→s2点になり、永久磁石6が残留磁束密度Bに再着磁されることに気がついた。また同様のことを磁場H2で行うと、磁化曲線はd点→e点→t1点→t2点になり、永久磁石6が残留磁束密度B2に再着磁される。つまり、永久磁石6に逆方向の磁場HMrを掛けて一度リセットしてから、磁場HM0、HM1、HM2等の所定の強度の磁場を掛けることで、永久磁石6の残留磁束密度をB0、B1、B2のように所望の大きさに自在に設定することが可能であることが解った。この原理を利用することで、永久磁石6の直流磁界Hの強さを適宜変更・調整し、磁性体2の透磁率μの値を調整することで、磁気センサ1の感度またはダイナミックレンジを変更設定することを可能とした。しかも、永久磁石6の再着磁は短時間に電気的な制御で行うことができるので、感度等の変更や設定を、短時間で迅速、簡便に行うことが可能である。
【0054】
図1に示すように、磁性体2を一対の永久磁石6,6で挟み込むと、一つの永久磁石6しか配置しない場合よりも、磁性体2に均一に直流磁界が印加されるため、磁性体2の透磁率μが全体的に安定して変化するため、磁気センサ1の感度やダイナミックレンジを安定して精度良く変更することができる。さらに、磁性体2を一対の永久磁石6,6で挟み込むと、一つの永久磁石6しか配置しない場合よりも、磁性体2に印加される直流磁界Hの磁界強度の可変幅を大きくすることができる。したがって、磁性体2の透磁率μの可変幅を大きくすることができるので、磁気センサ1の感度等の調整幅を大きくすることができる。なお、必要性に応じて、永久磁石6を磁性体2に1つだけ配置してもよい。
【0055】
永久磁石6の残留磁束密度の大きさを設定するためには、磁場HMの大きさを制御する必要があるので、磁化曲線のf点からa点までの傾きがなだらか(傾きが小)であることが好ましい。これは磁化曲線の傾きが急(傾きが大)であると、僅かに磁場HMを変化させただけで残留磁束密度Bが大きく変わってしまうので、磁場HMを精密に制御する必要があるためである。強力なネオジム永久磁石やサマリウムコバルト永久磁石は、磁化曲線の傾きが急であるので、磁場HMを精密に制御する必要がある。ストロンチウム−フェライト永久磁石やバリウム−フェライト永久磁石は、磁化曲線の傾きがなだらかであるので、磁場HMの制御が容易であり、好ましい。
【0056】
次に、磁気センサ1の使用方法について説明する。
【0057】
先ず、磁気センサ1の使用前の準備について説明する。
【0058】
使用する前に予め、設定すべき磁気センサ1の感度およびダイナミックレンジに対応させて、永久磁石6,6の残留磁束密度を設定するために直流電流源11に出力させる電流値(以下、設定電流値という)、永久磁石6,6をリセットするために直流電流源12に出力させる電流値(以下、リセット電流値という)、及び、所望の感度およびダイナミックレンジに設定されたときの永久磁石6の磁界強度の許容範囲を、着磁制御部9に記憶させておく。さらに、磁気センサ1の感度およびダイナミックレンジに温度変動がある場合又は必要性に応じて、感度等を再設定する温度閾値、並びに各温度において最適な上記の直流電流源11,12の電流値及び磁界強度の許容範囲を、各感度等及び各温度閾値に対応させて、着磁制御部9に記憶させておく。なお、永久磁石6をリセットするためのリセット電流値は、逆方向に飽和させればよいので、各条件で共通の値を1つだけ記憶させておいてもよい。
【0059】
これら予め記憶させておく電流値等は、コイル7に流す着磁用の設定電流値等や温度をパラメータとして変化させて、磁気センサ1の感度およびダイナミックレンジの変化特性を測定することで求められる。着磁制御部9に記憶させておく直流電流源11の設定電流値、および直流電流源12のリセット電流値は、設定すべき感度およびダイナミックレンジに対応させて、さらに必要であれば温度に対応させて、対応表形式で記憶させておいてもよいし、計算式形式で記憶させておいてもよい。また、このように得られた設定電流値等を、製造した複数の磁気センサ1に共通して適用してもよいし、個々の磁気センサ1ごとに特性を取得して、磁気センサ1ごとに最適な値を適用してもよい。個々の磁気センサ1ごとに最適な電流値等を適用する場合には、個々の製造ばらつきを無くすことができる。
【0060】
また、測定部40には、磁気センサ1の感度およびダイナミックレンジを変化させたときの、外部磁界の磁界強度に対するP波成分LpおよびS波成分Lsの変化特性を記憶させておく。以上で、使用前の準備が終了する。
【0061】
次に、磁気センサ1の感度またはダイナミックレンジの設定方法について、図1、図5を参照して説明する。
【0062】
図1に示す磁気センサ1は、一例として、磁気測定装置の測定部40に接続されて使用される。測定者が磁気測定装置の操作部(図示せず)を操作して、感度またはダイナミックレンジの設定を行うと、操作部から、感度またはダイナミックレンジの設定信号が測定部40および着磁制御部9に出力される。感度とダイナミックレンジとは、図3を用いて説明したようにトレードオフの関係にあるので、感度を決めればダイナミックレンジが決まり、逆にダイナミックレンジを決めれば感度が決まる。そのため、設定信号は、感度を示す情報であってもよいし、ダイナミックレンジを示す情報であってもよい。
【0063】
図5のフローチャートに示すように、着磁制御部9は、設定信号が入力されたときに(ステップS11)、直流電流源12を制御して、設定信号で示された感度(設定感度)またはダイナミックレンジ(設定ダイナミックレンジ)に対応するリセット電流値で電流を出力させると共に、これに連動させて切換スイッチ13を制御して、中心電極13aと切換電極13cとを所定時間(例えば10μsec)だけ接にする(ステップS12)。これにより、コイル7が永久磁石6の磁界方向とは逆方向の磁場HMr(図4参照)を発生し、この磁場HMrが永久磁石6に所定時間掛かり、永久磁石6が逆方向に磁気飽和後、残留磁束密度Brになって残留磁束密度がリセットされる。
【0064】
続いて、着磁制御部9は、直流電流源11を制御して、感度またはダイナミックレンジに対応する設定電流値で電流を出力させると共に、これに連動させて切換スイッチ13を制御して中心電極13aと切換電極13bとを所定時間(例えば10μsec)だけ接にする(ステップS13)。これにより、コイル7が永久磁石6を再着磁する磁界方向と同方向の例えば磁場HM1(図4参照)を発生し、この磁場HM1が永久磁石6に所定時間掛かり、永久磁石6が感度等に対応する例えば残留磁束密度B1(図4参照)に再着磁する。
【0065】
ステップS12,S13でコイル7に電流を流す所定時間は、永久磁石6を磁化させるために必要な時間であるが、通常短時間でよい。したがって、電力の消費がほとんどなく省エネルギーである。
【0066】
続いて、着磁制御部9は、磁界強度センサ21が検出した磁界強度を読み込んで(ステップS14)、着磁制御部9に予め記憶されている磁界強度の許容範囲内であるか否か判別する(ステップS15)。許容範囲内であれば設定動作を終了し、許容範囲内でなければステップS12に戻り、再度、永久磁石6を着磁する。許容範囲内でない場合、許容範囲内に入るように、設定電流値を増減させてステップS13を行わせてもよい。
【0067】
以上で、設定動作が終了し、磁気センサ1が所望の感度またはダイナミックレンジに設定される。測定者が、感度またはダイナミックレンジを変更したときには、それに対応する設定信号が磁気センサ1に出力されて、再度設定動作が行われ、磁気センサ1の感度等が再設定される。なお、必要であれば、着磁制御部9は、ステップS12を行う前に、温度センサ22が検出した周囲温度を読み込んで、その温度及び感度等に対応したリセット電流値及び設定電流値でステップS12,S13を行ってもよい。また、磁界強度を検出する必要がない場合、同図中に破線で示すように、ステップS13を行った後、終了してもよい。
【0068】
着磁制御部9は、この設定動作を、所定周期毎に行うことが好ましい。所定周期は、永久磁石6の残留磁束密度が経時変化で許容値よりも弱くなる時間間隔よりも短い時間間隔に設定する。
【0069】
測定部40は、設定動作の終了後、レーザー光源31にレーザー光L0を出射させ、受光素子35,36が受光したP波成分Lp,S波成分Lsの強度の差を測定し、設定信号が示す感度またはダイナミックレンジに対応させて、磁界強度を測定する。また、磁気センサ1を電流センサとして用いる場合、測定部40は、測定した磁界強度から電流値を算出する。
【0070】
次に、温度変化に対応する感度やダイナミックレンジの設定方法について図1、図6を参照して説明する。
【0071】
磁気センサ1は温度変動で感度およびダイナミックレンジが変動して設定感度および設定ダイナミックレンジからずれる場合がある。以下、このようなずれを元に戻す動作について説明する。
【0072】
図6のフローチャートに示すように、着磁制御部9は、温度センサ22(図1参照)の検出した温度を常時または間欠的に読み込んで(ステップS21)、予め記憶された温度閾値を超えるか否か判別する(ステップS22)。この温度閾値は、感度やダイナミックレンジのずれが許容できなくなる温度に予め設定されている。温度閾値は、段階的に複数設定されていてもよい。また、温度閾値は、温度が上昇する場合と低下する場合とで異なる値であってもよい。温度閾値よりも高温側、および低温側の各々に対応する設定電流値、リセット電流値、および磁界強度の許容範囲が着磁制御部9に予め記憶されている。
【0073】
ステップS22で、温度閾値を超えたと判別されたときには、着磁制御部9は、直流電流源12を制御して、その検出温度(かつそのときの設定感度または設定ダイナミックレンジ)に対応するリセット電流値で電流を出力させると共に、切換スイッチ13を制御して中心電極13aと切換電極13cとを所定時間だけ接にする(ステップS23)。これにより、既に説明したステップS12と同様に永久磁石6がリセットされる。
【0074】
続いて、着磁制御部9は、直流電流源11を制御して、予め記憶されたその検出温度に対応する設定電流値、つまりその検出温度で感度やダイナミックレンジを正しく設定できる設定電流値で電流を出力させると共に、切換スイッチ13を制御して中心電極13aと切換電極13bとを所定時間だけ接にする(ステップS24)。これにより、永久磁石6がその温度に対応する残留磁束密度Bに再着磁する。
【0075】
続いて、着磁制御部9は、既に説明したステップS14,S15と同様にして、ステップS25、S26を行い、磁界強度センサ21が検出した磁界強度を確認し、磁界強度がその温度での許容範囲内にあるか確認し、必要であれば再設定して、ステップS21に戻る。
【0076】
以上で、温度変化に対応する設定動作が終了し、温度変動でずれた磁気センサ1の感度やダイナミックレンジが元に戻る。温度が検出閾値を超えて上昇した場合、および検出閾値を超えて低下した場合に、感度等が再設定される。なお、磁界強度を確認する必要がない場合、同図中に破線で示すように、ステップS24を行った後、ステップS21に戻ってもよい。
【0077】
次に、磁界強度低下に対応する感度およびダイナミックレンジの再設定方法について図1、図7を参照して説明する。
【0078】
永久磁石6の磁界強度は、その材質の種類により変化の度合いは異なるが、着磁してから時間が経過すると低下する。以下、このような磁界強度の低下による感度およびダイナミックレンジのずれを元に戻す動作について説明する。
【0079】
図7のフローチャートに示すように、着磁制御部9は、磁界強度センサ21(図1参照)の検出した磁界強度を常時または間欠的に読み込んで(ステップS31)、設定感度や設定ダイナミックレンジ(及び温度)に対応する磁界強度の許容範囲内であるか否か判別する(ステップS32)。許容範囲内であればステップS31に戻る。
【0080】
ステップS32で、許容範囲内でないと判別されたときには、着磁制御部9は、直流電流源12を制御して、設定感度や設定ダイナミックレンジ(及び温度)に対応するリセット電流値で電流を出力させると共に、切換スイッチ13を制御して中心電極13aと切換電極13cとを所定時間だけ接にする(ステップS33)。これにより、既に説明したステップS12と同様に永久磁石6がリセットされる。
【0081】
続いて、着磁制御部9は、直流電流源11を制御して設定感度や設定ダイナミックレンジ(及び温度)に対応する設定電流値で電流を出力させると共に、切換スイッチ13を制御して中心電極13aと切換電極13bとを所定時間だけ接にする(ステップS34)。これにより、既に説明したステップS13と同様に、永久磁石6がその設定感度等に対応する残留磁束密度Bに着磁してステップS31に戻る。
【0082】
以上で、磁界強度低下に対応する感度やダイナミックレンジの再設定動作が終了し、磁気センサ1の感度等が設定感度等に戻る。
【0083】
図5の感度およびダイナミックレンジの設定方法、図6の温度変化に対応する再設定方法、図7の磁界強度低下に対応する再設定方法は、全て行ってもよいし、必要性に応じていずれか選択して行ってもよい。温度を検出しない場合、温度センサ22は不要になり、磁界強度を検出しない場合、磁界強度センサ21は不要になる。
【0084】
次に、本発明を適用する磁気センサ1の変形例について説明する。
【0085】
図8に、図1に示した磁気センサ1の変形例の要部を示す。図8に側面図で示す磁性体2は、図1の磁性体2と同様のものである。この変形例では、板状(膜状)の磁性体2の下面側(図の下側)に永久磁石6が配置されている。永久磁石6は、磁性体2の磁化容易軸y方向に直流磁界を印加する向きで配置されている。永久磁石6の両極側には、一対のコイル7,7が配置されている。コイル7,7は、永久磁石6の磁界と同方向の磁界を発生する向きで配置されている。このコイル7,7には、電源部8(図1参照)が接続され、電源部8には、着磁制御部9(図1参照)が接続されている。
【0086】
このように、磁性体2の一面(下面)側に永久磁石6を配置した場合であっても、永久磁石6の直流磁界が磁性体2に掛かるため、直流磁界を変化させると誘電率μが変化する。また、永久磁石6の両極にコイル7,7を配置しても、永久磁石6を再着磁することができる。したがって、永久磁石6を再着磁して残留磁束密度を変化させることで、磁気センサ1の感度およびダイナミックレンジを設定することができる。
【0087】
図8に示す磁気センサ1を電流センサとして用いる場合には、磁性体2の上面側(図の上側)に検出光L1が照射されるため、電流Iが流れる被測定導体100(図1参照)を、磁性体2と永久磁石6との間、または、永久磁石6の下側に配置することが好ましく、実用上の観点から、永久磁石6の下側に配置することが一層好ましい。
【0088】
なお、磁気光学カー効果に基づいて磁界強度を測定する磁気センサ1について説明したが、ファラデー効果(磁気効果の他の一例)に基づいて、磁性体を透過する光の偏光面の回転角(ファラデー回転角)を測定して、偏光面の回転角度から磁界強度を測定する磁気センサに本発明を適用してもよい。この場合も、磁性体に直流磁界を印加する永久磁石および再着磁用のコイルを配置して、永久磁石を再着磁して直流磁界の磁界強度を設定することで、磁性体の透磁率を変化させる。ファラデー回転角は透磁率に依存して変化するので、感度およびダイナミックレンジを設定することができる。磁気光学カー効果やファラデー効果に基づいて磁界強度を測定する磁気センサ1の構成は、公知の種々の構成を採用することができる。例えば、特許文献1に記載された磁場測定装置の構成や、非特許文献1に記載された電流センサの構成を採用してもよい。
【0089】
また、外部磁界が印加される磁性体を有する磁気センサ(電流センサ)であれば、どのようなセンサであっても、外部磁界が大きくなると磁性体2が磁気飽和すると共に、感度の傾きは磁性体2の透磁率μに依存する。そのため、本発明を適用して、永久磁石6の直流磁界を適宜調整して磁性体の透磁率μを変化させることで、感度やダイナミックレンジを設定することができる。したがって、例えば、磁性体を用いているフラックスゲート、磁気抵抗効果素子、磁気インピーダンス効果素子、カレントトランス(変流器)などの公知の種々の磁気センサに本発明を適用することができる。また、外部磁界を加えると磁界の方向に形状変化(歪み)を生じる磁歪効果素子(磁性体の一例)を用いて、この磁歪効果素子の形状変化を、レーザー測距装置などの光学的測定器、ゲージなどの機械的測定器、または電気ゲージやスイッチなどの電気的測定器といった検出手段で測定する磁気センサに本発明を適用してもよい。
【0090】
次に、本発明を適用するセンサの他の例として、応力センサ50(歪センサ)について説明する。
【0091】
図9に示す応力センサ50は、磁性体51に印加される応力F(検出対象の他の一例)を、磁気光学カー効果および逆磁歪効果に基づいて測定可能なものである。なお、応力Fによって発生した磁性体51の歪(検出対象のさらに他の一例)を測定する場合、応力センサ50は歪センサとなる。同図では、既に説明した構成と同様の構成については、同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0092】
磁性体51は、Fe,Co,Ni,Gdのうちの少なくとも一種を含む軟磁性体であり、例えばイットリウム−鉄−ガーネット(YIG:Yttrium-Iron-Garnet)フェライト単結晶である。磁性体51は、磁気効果の内、磁気光学カー効果および逆磁歪効果の大きなものであることが好ましい。磁性体51は、一例として四角形状の薄板に形成されている。磁性体51は、例えばセラミック製などの基板上に膜状に形成されていてもよい。歪センサとして使用する場合、磁性体51は可撓性を有するフィルム上に膜状に形成されていてもよいし、歪を測定する被測定対象物に直接成膜して形成されていてもよい。磁性体51は、等方性であってもよく、一軸磁気異方性、多軸磁気異方性であってもよいが、一軸磁気異方性である場合がより好ましく、さらに一方向磁気異方性である場合が一層好ましい。磁性体51が一軸磁気異方性である場合、同図に示すように、磁化容易軸x´が、照射面における光L1,L2の進行方向に沿う方向となるように配置する。磁化困難軸y´は、照射面における光L1,L2の進行方向に直交する方向である。
【0093】
一対の永久磁石6,6は、磁化容易軸x´方向から磁性体51を挟み込むように、磁性体51に所定間隔で近接または密着して配置されている。コイル7は、永久磁石6を再着磁するためのものであり、コイル7の軸が永久磁石6の磁界方向と一致するように、永久磁石6に配置されている。
【0094】
応力F=0の場合、磁性体51の磁気モーメントMの方向は磁化容易軸x´の方向を向いており、縦カー効果が発生している。このため、反射光L2の偏光面が回転し、反射光L2の回転角θは最大になっている。磁性体51に応力Fを加えると、逆磁歪効果により、応力Fに比例した回転角θで磁気モーメントMpが回転し、磁化困難軸y´の方向を向く。この場合、横カー効果が発生しているので、反射光L2の回転角θは減少する。したがって、反射光L2の回転角θを測定することで、応力Fを測定することができる。
【0095】
磁性体51に印加する永久磁石6の直流磁界の強度を変化させると、磁性体51の透磁率μが変化する。磁気光学カー効果および逆磁歪効果は透磁率μに依存する。したがって、直流磁界の強度を適宜設定することで、応力センサ50の感度およびダイナミックレンジを適宜設定することができる。永久磁石6の直流磁界の磁界強度は、磁気センサ1における説明と同様に、着磁制御部9および電源部8が、コイル7に再着磁用の電流をパルス的に流すことで設定できる。
【0096】
この応力センサ50は、一例として、応力測定装置の測定部52に接続されて使用される。測定部52は、回転角θおよび感度(ダイナミックレンジ)から応力Fを算出する。なお、応力センサ50を歪センサとして使用する場合、測定部52は、算出した応力Fから歪を算出する。応力センサ50の詳細な使用方法は、測定対象が異なるだけで、図5,6,7を用いて説明した磁気センサ1の使用方法とほぼ同様であるので説明を省略する。
【0097】
なお、応力センサ50の磁性体51に換えて、非特許文献3に記載されたような、Feなどの強磁性体の膜と、Mn−Irなどの半強磁性体の膜とを重ね合わせた強磁性体/反強磁性体結合薄膜(磁性体の他の一例)を用いてもよい。この場合、強磁性体と反強磁性体との界面では交換結合エネルギーによって強磁性体中に交換バイアス磁界が発生し、磁気モーメントが一方向にそろい単磁区化する。このため、一軸磁気異方性かつ一方向磁気異方性となるので、磁壁の影響が無くなるため、永久磁石の磁気光学カー効果が顕著に表れて測定精度を高くすることができると共に、磁気モーメントが一方向にそろっているので、永久磁石の直流磁界の大きさに対して一つの大きな磁気モーメントがリニア(線形)に回転するため、高精度にセンサの特性を調整することができる。
【0098】
また、磁気光学カー効果および逆磁歪効果に基づいて応力F(歪)を測定する応力センサ50について説明したが、ファラデー効果および逆磁歪効果に基づいて応力Fを測定する応力センサ(歪センサ)に本発明を適用してもよい。また、逆磁歪効果で変化する逆磁歪効果素子(磁性体51)の特性を、光学的にではなく電気的に検出する応力センサに本発明を適用してもよい。また、非特許文献2に記載されたような応力Fの大きさで抵抗が変化する磁気抵抗効果素子(磁性体の他の一例)を用いた応力センサや、磁気インピーダンス効果素子(磁性体のさらに他の一例)を用いた応力センサに、本発明を適用してもよい。このように、磁性体を用いて応力(歪)を検出する公知の種々の応力センサに本発明を適用することができる。
【0099】
さらに、検出対象が、外部磁界(電流)、応力(歪)である例について説明したが、検出対象が印加される磁性体を少なくとも備えるセンサであれば、永久磁石および再着磁用のコイルを備えることで、本発明を適用することができる。例えば、応力センサ(歪センサ)を応用した振動センサ、重量センサ、加速度センサ、加加速度センサなどに本発明を適用してもよい。これらセンサは、応力を検出対象とし、検出した応力から振動等を測定するためのセンサである。
【0100】
つまり、外部磁界または応力などの検出対象の印加によって磁性体の磁気モーメントが回転し、その回転量をセンシングするセンサ全般に、本発明を適用することができる。
【0101】
磁気モーメントの回転量をセンシングするための検出手段の構成は、公知の種々のセンサの検出手段を採用することができ、例えば、電磁誘導コイルであってもよいし、既に説明したような磁気光学カー効果、ファラデー効果、磁気抵抗効果、磁気インピーダンス効果、磁歪効果、や逆磁歪効果を利用したものであってもよい。なお、検出手段は、磁気モーメントの回転量に対応する電気的信号、光学的信号、または機械的信号(機械的動き)などの検出信号を少なくとも発生可能なものであればよい。
【0102】
なお、電源部8が直流電流源11,12を有していて、永久磁石6を再着磁させる電流(設定電流、リセット電流)が直流電流である例について説明したが、設定電流やリセット電流は、瞬間的なパルス電流であってもよいし、sin波、台形波、ノコギリ波のような交流電流であってもよい。交流電流の場合、正の波高値が設定電流値に対応し、負の波高値がリセット電流値に対応して、電源部8は、負(リセット電流)から正(設定電流)の1周期(または整数周期)分の交流電流を出力する。
【符号の説明】
【0103】
1は磁界センサ(電流センサ)、2は磁性体、3は検出手段、6は永久磁石、7はコイル、8は電源部、9は着磁制御部、11,12は直流電流源、13は切換スイッチ、13aは中心電極、13b,13cは切換電極、21は磁界強度センサ、22は温度センサ、31はレーザー光源、32は偏光子、33は1/4波長板、34は偏光ビームスプリッタ、35,36は受光素子、40は測定部、50は応力センサ(歪センサ)、51は磁性体、52は測定部、100は被測定導体、Fは応力、I,Isは電流、L0はレーザー光、L1は検出光、L2は反射光、LpはP波成分、LsはS波成分、Mpは磁気モーメント、S1,S2,S3は特性、x,y´は磁化困難軸、y,x´は磁化容易軸である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象が印加される磁性体を備えるセンサであって、
該磁性体に直流磁界を印加する永久磁石と、該永久磁石を再着磁するためのコイルとを備えることを特徴とするセンサ。
【請求項2】
前記コイルに再着磁用の電流を供給する電源部と、該電源部を制御して前記直流磁界が所定の磁界強度となるように前記永久磁石を再着磁する着磁制御部とを備えることを特徴とする請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記着磁制御部は、測定の感度またはダイナミックレンジを設定するために入力される設定信号に基づいて、該感度または該ダイナミックレンジに対応する前記所定の磁界強度に前記永久磁石を再着磁することを特徴とする請求項2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記着磁制御部は、所定周期毎に、前記所定の磁界強度に前記永久磁石を再着磁することを特徴とする請求項2または3に記載のセンサ。
【請求項5】
前記着磁制御部には、該永久磁石の温度を検出する温度センサが接続されており、該着磁制御部は、該温度センサの検出する温度に対応する前記所定の磁界強度に前記永久磁石を再着磁することを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載のセンサ。
【請求項6】
前記着磁制御部には、前記直流磁界の磁界強度を検出する磁界強度センサが接続されており、前記着磁制御部は、前記磁界強度センサの検出する前記磁界強度が前記所望の磁界強度の許容範囲内でないときに、前記永久磁石を再着磁することを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載のセンサ。
【請求項7】
前記磁性体が、一対の前記永久磁石で挟み込まれていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のセンサ。
【請求項8】
前記磁性体が、一軸磁気異方性を有しており、その磁化容易軸の方向に、前記永久磁石が前記直流磁界を印加することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のセンサ。
【請求項9】
前記検出対象が外部磁界である磁界センサ、前記検出対象が電流によって生じる外部磁界である電流センサ、前記検出対象が応力である応力センサ、前記検出対象が歪である歪センサ、前記検知対象が振動で生じる応力である振動センサ、前記検知対象が加速で生じる応力である加速度センサ、または、前記検知対象が加速で生じる応力である加加速度センサであることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のセンサ。
【請求項10】
検出対象が印加される磁性体を備えるセンサの調整方法であって、
磁性体に直流磁界を印加する永久磁石を、測定の感度またはダイナミックレンジに対応する所定の磁界強度の該直流磁界になるように再着磁することを特徴とするセンサの調整方法。
【請求項11】
所定周期毎に、前記所定の磁界強度に前記永久磁石を再着磁することを特徴とする請求項10に記載のセンサの調整方法。
【請求項12】
前記所定の磁界強度が温度に対応するように、前記永久磁石を前記再着磁することを特徴とする請求項10または11に記載のセンサの調整方法。
【請求項13】
前記所定の磁界強度が許容範囲内にないときに、前記永久磁石を前記再着磁することを特徴とする請求項10から12のいずれかに記載のセンサの調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−193981(P2012−193981A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56473(P2011−56473)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年3月5日 社団法人電気学会発行の「平成23年電気学会全国大会 講演論文集(DVD−ROM)」に発表
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】