説明

センサの固相表面への脂質の固定化方法、センサによる測定方法及び脂質膜固定化センサ

【課題】 センサの固相表面に簡便に脂質を固定化する方法及びセンサを提供し、更に、このセンサを使用した測定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 固相表面を検出部とする生体物質間の相互作用を検出するためのセンサの前記固相表面に認識物質である脂質を固定化する方法であって、前記固相表面に疎水性の接着層を設け、脂質を有機溶媒に溶解させた溶液を前記接着層表面に接触させるとともに乾燥させて、前記固相表面に前記脂質を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脂質と生体物質との相互作用を測定に関するもので、詳細には表面プラズモンセンサや水晶振動子センサ等への脂質の固定化及び脂質が固定化されたセンサによる測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、生体分子というのは、核酸、mRNAなどのRNA、アミノ酸、ジペプチド、トリペプチドなどのオリゴペプチド、タンパク質などのポリペプチド、単糖、2単糖やオリゴ糖、多糖類などの糖類、ステロイドなどのホルモン類、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンなどの神経伝達物質、そのほか内分泌攪乱剤、各種薬剤、カリウム、ナトリウム、塩化物イオン、水素イオン、また、近年様々な用途に応用される高分子ポリマーなど生命現象にかかわる物質一般を指す。このように生化学物質は多種多様なものがあり、それらの性質も多種多様である。生化学研究の分野は、物質ごとに色々な分離法や検出法に支えられて発展してきた。生命の構成要素を成分ごとに分離し、それらの特性を明らかにすることで、生命現象全体が再構築できると考えられていたからである。一方で、近年のゲノム研究をはじめとするオーミクス研究では、生体の構成要因は遺伝子だけでも数万に及び、それ以外に、ゲノム情報によらずに関係し合う化学物質や物質間の相互作用は膨大な数にのぼることが明らかになりつつある。このため、生命現象は物質の複雑な相互作用の結果であるという古典的な解釈が再浮上している。
【0003】
生体物質の相互作用を検出する方法としては、溶液系の反応場で検出する方法と固相表面を反応場として測定する方法がある。
前者の方法として、分子間が相互作用した際に生じる熱量を測定する等温滴定カロリメトリー法、核磁気共鳴法(NMR)によって分子の構造変化をモニターする方法、蛍光共鳴エネルギー転移法が挙げられる。
【0004】
後者の方法として、表面プラズモン共鳴法や水晶振動子を利用した方法が挙げられる。表面プラズモン共鳴センサは、金属薄膜に全反射する光を入射した際に生じる微弱なエネルギー波(エバネッセント波)が誘電体と接触している金属表面における粗密波(表面プラズモン)と共鳴する事で全反射光が減衰する現象(SPR現象)を応用する。生体物質間の相互作用により生じる金属薄膜表面の誘電率変化をSPR現象の減衰ピークの角度変化として検出する。水晶振動子は、水晶板の圧電効果を利用し、水晶板に一定の電圧を印加することで一定の周波数で発振する素子を用いる。水晶板表面に負荷される質量や粘性及び弾性の変化によって周波数が変化し、生体分子が相互作用した際に生じる質量負荷の変化を周波数として検出することができる。この他に、表面の屈折率を計測するエリプソメーター、二面編波式干渉法、表面弾性波を利用した方法がある。
【0005】
また、脂質に対する相互作用を測定する場合には、溶液系の反応場で検出する方法では、リポソームにした脂質を用いてそれと相互作用物質との相互作用を解析する。しかし、リポソームにサイズのコントロールや、ユニラメラかマルチラメラといった状態も均一にするには非常に厳密な操作が要求される。また、リポソームになるような物質ではよいが、例えば、酸性脂質のようにヘッドグループの極性が偏っているものではリポソームの状態をコントロールすることは困難である。また、これらを計測する手法である核磁気共鳴法(NMR)や蛍光共鳴エネルギー転移法では、同位体標識や蛍光標識が必須である。
【0006】
このため、サンプルが無標識で測定することができる固相表面を検出場とする方法が多く採用されている。
脂質をセンサ固相表面に固定化する方法としては、アビジンビオチン相互作用や化学的な結合を利用し、リポソーム中にこれらの反応物もしくは官能基を導入したものを用意してリポソームの状態で固定化する方法(非特許文献1)、センサ固相表面に脂質の単層や二重層として固定化する方法(非特許文献2)が提案されている。
しかし、これらの方法においても脂質に様々な官能基を導入したり、リポソームを作成する必要がある。また、表面に脂質の単層や2重層を構成する方法では、その脂質の安定性だけではなく、非特許文献3に提案されているように、センサ表面のコントロールが重要であり、均一な状態を作るには厳密な条件下での調整が求められる。更に安定な物質を固定化する際にはこれらの方法でも十分可能ではあるが、酸化されやすい脂質やポリマーではリポソームを作成する段階で物性が変わってしまう可能性もあり、センサの固相表面に脂質を固定化するより簡便な方法が望まれている。
【0007】
【非特許文献1】Biochemistry 38,15659-15665(1999)
【非特許文献2】Biochimica et Biophysica Acta 1462,89-108(1999)
【非特許文献3】Langmuir 20,7526-7531(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、センサの固相表面に簡便に脂質を固定化する方法及びセンサを提供し、更に、このセンサを使用した測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者等は鋭意検討の結果下記の解決手段を見いだした。
即ち、本発明のセンサの固相表面への脂質の固定化方法は、請求項1に記載の通り、固相表面を検出部とする生体物質間の相互作用を検出するためのセンサの前記固相表面に認識物質である脂質を固定化する方法であって、前記固相表面にその表面が疎水性となるように接着層を設け、脂質を有機溶媒に溶解させた溶液を前記接着層表面に接触させるとともに乾燥させて、前記固相表面に前記脂質を設けたことを特徴とする。
また、請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載のセンサの固相表面への脂質の固定化方法において、前記接着層は有機膜により構成されることを特徴とする。
また、本発明の固相表面を検出部とする生体物質間の相互作用を検出するためのセンサの前記固相表面に認識物質である脂質を固定化したセンサの使用方法は、請求項3に記載の通り、固相表面を検出部とする生体物質間の相互作用を検出するためのセンサの前記固相表面に認識物質である脂質を固定化したセンサの使用方法であって、前記固相表面にその表面が疎水性となるように接着層を設け、脂質を有機溶媒に溶解させた溶液を前記接着層表面に接触させるとともに乾燥させて、前記固相表面に前記脂質を設け、前記センサを前記脂質の相転移温度以上の温度の水溶液内に浸漬した後、標的物質との測定を行うことを特徴とする。
また、本発明の脂質膜固定化センサは、請求項4に記載の通り、固相表面を検出部とする生体物質間の相互作用を検出するためのセンサであって、前記固相表面にその表面が疎水性となるように接着層を設け、前記接着層に有機溶媒に認識物質である脂質を溶解させた溶液を接触させるとともに乾燥させることにより、前記接着層上に前記認識物質である脂質を設けたことを特徴とする。
また、請求項5に記載の本発明は、請求項4に記載の脂質膜固定化センサにおいて、前記接着層は有機膜により構成され、前記固相表面が疎水性になっていることを特徴とする。
また、請求項6に記載の本発明は、前記生体物質間の相互作用を検出するセンサが水晶振動子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リポソームの調整をせずにセンサの固相表面に容易に脂質を固定化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のセンサの固相表面への脂質の固定化方法において使用できるセンサは、固相(本明細書において、固相あるいは固相に設けられた電極を含む。)を検出部とし、標的物質と認識物質との生体物質間の相互作用により生じる固相の物理的特性を測定することができるセンサであればよく、水晶振動子、表面プラズモン、エリプソメトリー、二面編波式干渉法および表面弾性波を利用したセンサを使用することができる。
尚、本明細書における認識物質は生体物質とする。そして、この認識物質に結合し得る物質を標的物質とする。
【0012】
上記センサの固相表面にその表面が疎水性となるように接着層を設け、脂質を有機溶媒に溶解させた溶液を接着層表面に接触させるとともに乾燥させることにより、前記固相表面に前記脂質を固定化する。このように固相表面に疎水性の接着層を設けることにより、水溶液中で脂質の安定性に寄与する疎水性もしくは親水性の相互作用を制御できることになり脂質を安定に固定化できるようになる。また、リポソームの調整などの認識物質の処理を必要としない。前記接着層は好ましくは有機膜により構成する。表面を修飾し疎水性表面にする方法は、有機物質を用いた従来の方法で行うことが容易であるからである。
【0013】
次に、より具体的に固相表面に接着層を設ける方法を説明する。
表面プラズモン共鳴センサや水晶振動子のセンサの場合は、固相表面は金属により構成される。この場合は、金属表面をオゾンプラズマやピランハ溶液(30% 過酸化水素水と濃硫酸の混合溶液)等により洗浄した後に、1-Octanethiolやn-Octadecanethiol等を1mM以上に調製した有機溶媒溶液に暴露することでアルキルチオールの単分子膜が形成される。これは、自己組織化膜と呼ばれ非常に安定している。1-Octanethiolやn-Octadecanethiolの自己組織化膜ではメチル基が表面に配置されるため、接着層の表面は疎水性になっている。
【0014】
表面弾性波を利用したセンサの場合は、固相表面は酸化ケイ素により構成される。この場合は、アルキルシランやフルオロアルキルシランのシランカップリング剤を用いることによって疎水性表面を形成することが可能となる。
この他に、様々な表面に応用できる方法として、ポリイミドやポリ尿素などのポリマーを被覆することにより表面を疎水性にすることも可能である。
【0015】
次に、接着層上に脂質を設ける方法について説明する。
脂質としては、例えば、Dimyristoyl phosphatidylcholineやDimyristoyl phosphatidylglycerol等が挙げられる。これを有機溶媒に溶解され接着層上に滴下、塗布等する。その際、脂質の厚みを均一とするために、スピンコーター等の回転子に少なくとも固相表面を保持させて回転させることが好ましい。尚、有機溶媒としては、クロロホルムやエタノール等を使用することができる。
次に、有機溶媒を取り除くために乾燥をする。乾燥は、有機溶媒を除去できる方法であれば特に制限はないが、例えば、真空乾燥や凍結乾燥を行うことができる。また、溶媒をより完全に取り除くためには凍結乾燥することが好ましい。
更に、酸化によって変性し易い脂質の場合においては、窒素のような不活性ガス雰囲気下において、上記脂質を設けることが望ましい。
【0016】
脂質を固定化した後、センサを測定水溶液に浸漬し、前記脂質の相転移温度以上の温度とすることにより脂質の流動性が高くなり多重膜として配向させることができる。尚、相転移温度以上とする時間については、特に制限はないが1時間以上とすることが好ましい。
【0017】
上記方法によって検出部である固相表面に固定化された脂質を認識物質とこれに相互作用する標的物質を反応させることによってその親和性や速度論的解析を行うだけではなく、どのような反応を示すのか具体的には脂質内部に入り込むのかもしくは脂質の表面上で相互作用するのか等を理解することができる。
【実施例】
【0018】
次に、図1を参照してより具体的に脂質の固定化方法について説明する。
図1は、センサの固相表面に脂質を設けるための装置(a)と固定化する工程の模式図(b)を示す。センサ107は回転子106に保持されている。この機構が内蔵されているチャンバー101内は固定化する物質の変性を防ぐための窒素などの不活性ガスを導入する機構102とロータリーポンプ103によって排気される構造になっている。チャンバーの開閉は蓋104によって行い、有機溶媒に溶解した脂質溶液を分注ピペット108にてセンサ107へキャストする。
【0019】
センサ107は、27MHzを基本振動数とするATカット水晶板の両面に金電極を設けることにより構成される水晶振動子センサ107を使用し、この固相(金電極)表面にDimyristoyl phosphatidylcholine(以下DMPCと省略)を固定化する。
まず、センサ表面を疎水性にするため、ピランハ溶液で10分間処理した後、オゾンプラズマで20秒間洗浄を行う。このセンサ表面を10 mMのn-Octadecanethiolのトルエン溶液に室温で1時間浸し、n-Octadecanethiolの自己組織化膜110を作成することで表面が疎水性の接着層が形成される。このセンサ107を回転子106に保持させ、蓋104は開いた状態でチャンバー101内に窒素を導入しておく。n-Octadecanethiolの自己組織化膜110が表面に設けてあるセンサ107を保持している回転子106を回転させておき、150 mg/mLのDMPCのクロロホルム溶液109を分注ピペット108にて10 μLキャストする。4000 rpmで10秒間スピンコートし、チャンバーの蓋104を閉め、ロータリーポンプ103によって排気を開始する。10 Pa以下の真空度で1時間以上排気することでクロロホルムは蒸発し、DMPCの膜111が形成され固定化することができる。
【0020】
(実施例1)
27 MHzのATカット水晶振動子とその両面に電極を設けることにより構成し、表面をn-Octadecanethiolの接着層を形成し疎水性とした後にDMPCを固定化して実施例1のセンサとした。尚、ATカット水晶振動子は、表面への質量付加によって発振周波数が減少するもので、その感度は0.64 ng/cm2である。センサは特開2004−150879号公報に記載されるように液体が注入される容量600 μLの試料室底面に水晶振動子を配置した構成とした。
【0021】
(実施例2)
実施例1と同様に疎水性表面とした後にDimyristoyl phosphatidylglycerol(以下DMPGと省略)を固定化して実施例2のセンサとした。
【0022】
次に、成長ホルモン放出抑制因子(ソマトスタチン-14、以下SS-14と略す)のDMPC及びDMPGに対する相互作用解析を行った例を示す。
【0023】
実施例1のDMPC膜固定化センサを備えたセル内に10 mM Tris, 150 mM NaCl緩衝液(pH7.4)を500 μL注入し、60℃で1時間水和し多重膜とする。更に上記緩衝液を入れ替え発振させる。周波数が安定した後、SS-14を5 μMとなるように添加し、その周波数変化を測定した。
図2は5 μMのSS-14を繰り返した場合の実施例1のDMPC膜固定化センサによる測定結果を示すグラフ(a)とその解析結果の模式図(b)である。
【0024】
センサ上に固定化されている認識物質(A)とそれと相互作用する標的物質(B)は結合し、複合体(C)を形成する過程はA+B⇔Cで従う平衡であり、その親和性は数1で定義される結合(解離)定数: Ka (Kd)で定量化することができる(ここで、[A]、[B]、[C]はそれぞれのモル濃度を示す)。
【数1】

センサ上に固定化されている認識物質(A)の標的物質(B)との結合複合体形成率をθ(=[C]/[A])とすると、数2が導出される([A]は認識物質の初期濃度を表す)。
【数2】

数2はLangmuirの式と呼ばれ固相表面−液相間相互作用の平衡モデル式である。水晶振動子センサでは結合した質量変化が周波数ΔFとして計測できるため、全ての認識物質が標的物質と結合した際の周波数変化量ΔFmaxを用いてθはΔF/ΔFMAXのように置き換えることができる。この関係から数2を変形すると、以下の数3及び数4が導き出される。
【数3】

【数4】

【0025】
図2(a)において、▼202で示す5 μMのSS-14を加えた時点から周波数が減少し始め、一定時間後に周波数が安定し相互作用が飽和することが分かる。
また、各SS-14濃度対してSS-14濃度を周波数変化量ΔFで割った値をプロット(同図(b))し、◇203で示すプロットの回帰曲線204から、数4における[B]をSS-14濃度とし、結合(解離)定数Ka(Kd)とDMPCに対する最大結合量ΔFmaxを求めることができる。
【0026】
同様に実施例2のDMPG固定化センサを用いて10 mM Tris, 150 mM NaCl緩衝液中で1 μMのSS-14を繰り返し添加した際の周波数変化から、DMPG膜に対するSS-14の結合定数Kaを求めた。この結果、DMPC膜よりも高い結合定数Ka値が得られた。酸性に電荷が偏っているDMPG脂質においてはSS-14との静電的な相互作用が存在し、DMPCに比べ親和性が高いということが示唆される。SS-14はpHが7.5で正電荷を持つペプチドであることからこの結果は妥当であることが分かる。
【0027】
このように、本発明を用いることで生体物質間の相互作用における分子反応機構の知見を容易な固定化手段によって得ることが可能となる。
尚、本実施例では数4を用いた回帰直線から結合(解離)定数Ka(Kd)を求めたが、周波数変化量を濃度に対しプロットし、数3に従う飽和曲線を求めることで同様の結果を得ることもできる。
【0028】
(実施例3)
表面プラズモン共鳴センサの金属表面に実施例1と同様にn-Octadecanethiolの自己組織化膜の接着層を形成した後、DMPCを固定化し、60℃で1時間水和したものを実施例3のセンサとした。
これを用いて、カテキン類の一種である(-)-epicatechin(以下ECと省略)との相互作用を測定し、動力学解析を行った。表面プラズモン共鳴センサは表面の屈折率を反射光が最小となる角度で検出し、0.1 ng/cm2の変化を1 RU(リゾナンスユニット)という単位で示し、流路系での測定を行った。
【0029】
図3は10 mM PBS(pH 7.5), 150 mM NaCl中でECを0.2, 0.4, 0.6, 0.8 μMの異なる濃度で相互作用させた際の測定結果を示すグラフ(a)とその解析結果を示す模式図(b)である。
【0030】
実施例1で記述したように、固相センサ表面に固定化されている認識物質(A)と標的物質(B)が相互作用し、複合体(C)を形成する過程はA+B⇔Cで従う平衡であり、その結合(解離)定数: Ka (Kd)は数1で定義される。この結合(解離)定数は、結合速度定数k+と解離速度定数k-を用いると数5で与えられる。
【数5】

認識物質と標的物質の結合複合体(C)の生成濃度は、数6で表される。
【数6】

【0031】
数6において、[C](t→∞)は標的物質濃度が[B]の時に平衡に達した複合体Cの濃度である。複合体は時間に対し緩和時定数1/τを持つ一次の指数関数に従って形成されることが分かる。この1/τは標的物質濃度[B]に依存する。ここで、[C]/[C](t→∞)のは表面プラズモン共鳴の信号変化ΔRUのΔRU/ΔU(t→∞)と置き換えることができるため数6における認識物質と標的物質の複合体Cの濃度は周波数変化ΔFとして書くことができる。
【0032】
図3(a)の測定結果から、ECの濃度によって周波数が平衡に達するまでの時間が異なることが分かる。この信号変化を数6でフィットし、各EC濃度の緩和時定数1/τを求める。1/τは数6で示す通り、標的物質(ここではEC)濃度に依存した値を示すので、EC濃度に対して1/τをプロットする(図3(b))。この回帰直線からDMPCとECとの結合速度定数、解離速度定数及び結合(解離)定数が算出される。
【0033】
前記した方法と同様に、カテキン類でありECにガレート基が付加された(-)-epicatechin gallate(以下ECgと省略)のDMPC膜に対する結合速度定数、解離速度定数及び結合(解離)定数を求めた。この結果、ECに比べECgは結合速度定数が大きく解離速度定数が小さい値を示し、数5にしたがって、結合定数も高い値をとることが分かる。このことから、Ecgのガレート基がDMPC膜に対してコンタクトしやすい役割とDMPCとの結合体を安定化する役割を果たしていることが分かる。このように、速度論解析を行うことにより、認識物質と標的物質との親和性を測定することができる。尚、本実施例のように、速度論解析を、結合(解離)乗数の値だけでなく、結合速度定数や解離速度定数の値を比較することが好ましい。これにより、生体物質間の相互作用における分子反応機構に関するより詳細な知見に得ることができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】(a)本発明の方法の実施に使用する装置例の説明図(b)同方法の説明のための模式図
【図2】(a)実施例1の測定結果を示すグラフ(b)その解析結果の模式図
【図3】(a)実施例3の測定結果を示すグラフ(b)その解析結果の模式図
【符号の説明】
【0035】
101 チャンバー
102 不活性ガス導入機構
103 ロータリーポンプ
104 蓋
107 センサ
108 分注ピペット
111 脂質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相表面を検出部とする生体物質間の相互作用を検出するためのセンサの前記固相表面に認識物質である脂質を固定化する方法であって、前記固相表面にその表面が疎水性となるように接着層を設け、脂質を有機溶媒に溶解させた溶液を前記接着層表面に接触させるとともに乾燥させて、前記固相表面に前記脂質を形成したことを特徴とするセンサの固相表面への脂質の固定化方法。
【請求項2】
前記接着層は有機膜により構成されることを特徴とする請求項1に記載のセンサの固相表面への脂質の固定化方法。
【請求項3】
固相表面を検出部とする生体物質間の相互作用を検出するためのセンサの前記固相表面に認識物質である脂質を固定化したセンサによる測定方法であって、前記固相表面にその表面が疎水性となるように接着層を設け、脂質を有機溶媒に溶解させた溶液を前記接着層表面に接触させるとともに乾燥させて、前記固相表面に前記脂質を設け、前記センサを前記脂質の相転移温度以上の温度の水溶液内に浸漬した後、標的物質との測定を行うことを特徴とする脂質膜固定化センサによる測定方法。
【請求項4】
固相表面を検出部とする生体物質間の相互作用を検出するためのセンサであって、前記固相表面にその表面が疎水性となるように接着層を設け、前記接着層に有機溶媒に認識物質である脂質を溶解させた溶液を接触させるとともに乾燥させることにより、前記接着層上に前記認識物質である脂質を設けたことを特徴とする脂質膜固定化センサ。
【請求項5】
前記接着層は有機膜により構成され、前記固相表面が疎水性になっていることを特徴とする請求項4に記載の脂質膜固定化センサ。
【請求項6】
前記生体物質間の相互作用を検出するセンサが水晶振動子であることを特徴とする請求項4に記載の脂質膜固定化センサ。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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