説明

センサーアレイ集積型電気化学チップ、その形成方法及び電極被覆

【課題】
【解決手段】 複数の電極を備えるセンサーアレイ集積型電気化学チップを提供する。複数の電極は開口部を有するカバープレートと結合したベースプレート上に形成されてよい。その開口部は窓又はくぼみである。これらのプレートは、複数の電極が内部に配置されるキャビティを形成するように隣接している。複数の電極を電気化学機器に接続する複数の導電線は、電極が形成されているベースプレートの表面と同じ表面上に形成されてよい。該電極のうち少なくとも一つの電極はフェロセン化合物でドープされた被膜により被覆されてよい。この被膜は、ベンゾイルフェロセンドープ脂質二重膜であってよい。ドープしたフェロセン化合物は、酸化されてよい。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサーアレイ集積型電気化学チップ、その形成方法及び電極被覆に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学センサーは、流動体中の目標化学物質又は生化学物質の存在を検出する、或いはその濃度を測定するのに有用である。
【0003】
典型的な電気化学センサーは、検出電極(作用電極又は測定電極としても知られる)と、対向電極(補助電極としても知られる)及び参照電極のうちの一つ又は両方とを備える。これらの電極は、動作中は、目標物質を含有する流動体に浸漬されている。電気化学反応における重要な工程は、作用電極表面と界面領域における(又は、流動体における若しくは電極表面に固定化された)分子との間を電子が移動する工程である。作用電極が目標物質に触れると、電気信号が検出される。この電気信号は、電極の電位の変化又は電極を通る電子の流れ(電流)により生じる。この電位の変化又は電子の流れは、電極表面で起こるレドックス反応として知られる酸化還元反応の結果として、電極に与えられる電圧信号に応じて生成される。
【0004】
センサーが備える電極は、そのセンサーの特性、選択性及び検出感度を制御する被膜により被覆されていてもよい。例えば、電極と流動体との界面における電気抵抗を制御することが望ましいこともある。界面における抵抗は、電極の電流応答に影響を与える。なぜなら、界面における抵抗は、電極に触れる電解質の透水性に影響を及ぼし、その結果としてS/N比に影響を及ぼすからである。この点に関して、脂質二重膜(s−BLM))に支持される金属が電極への被覆として用いられてきた。例えば、Tien et al., "Supported Bilayer Lipid Membranes as Ion and Molecular Probes", Analytical Sciences, (1998), vol. 14, p. 3.を参照されたい。しかしながら、公知のs−BLM被膜では、電気抵抗が限定的に増加するのみである。更に、公知のs−BLM被膜では、被覆材料の抵抗が制御しにくく、且つ形成された被膜が実験室レベルでの厳しい取り扱いによって損傷を受けてしまうために、安定した比抵抗を得ることが難しい。
【0005】
センサーアレイ集積デバイスは、小型であり、且つ同じ成分を異なる測定点で同時に分析する又は一のサンプルの異なる成分を同時に分析するのに用いることができるため、有用である。電気化学センサーアレイ集積デバイスを形成するために、多くの技術が用いられてきた。例えば、Nisch等の米国特許6,315,940は、ベースプレートとカバープレートを備えたマイクロ素子デバイスであって、該カバープレートは複数の微小なキュベットを有しており、カバープレートの微小なキュベット内に形成された、ベースプレートの表面上に形成された、又はカバープレートとベースプレートに挟まれた第3のプレート中に形成された検出電極を微小なキュベットの夫々が含んでいるマイクロ素子デバイスを開示している。しかしながら、これらの既存の技術には、集積デバイスの加工工程が比較的複雑であるという短所がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、電極の被覆を改良し、電極及びセンサーアレイ集積型電気化学チップを形成する手法を改良する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
電極のアレイを備えるセンサーアレイ集積型電気化学チップを提供する。該電極のアレイのうちの少なくとも一つの電極は、フェロセン化合物でドープされた被膜により被覆されてよい。電極のアレイは、カバープレートと結合したベースプレート上に形成されてよい。このカバープレートは、ベースプレートとカバープレートとにより形成されるキャビティ内に電極のアレイが存在するように、開口部を有している。複数の電極を電気化学機器に接続する複数の導電線は、複数の電極が形成されているベースプレートの同じ表面に形成されてよい。
【0008】
本発明の一の態様によれば、電極のアレイを備え、該電極のアレイのうち少なくとも一つの電極はフェロセン化合物でドープされた被膜により被覆されているセンサーアレイ集積型電気化学チップが提供される。
【0009】
本発明の他の態様によれば、導電層を第1支持体に蒸着させ、且つ導電層をエッチングして電極のアレイを形成することにより、第1プレートを形成する第1プレート形成工程と、第2支持体の開口部をエッチングすることにより、第2プレートを形成する第2プレート形成工程と、電極のアレイが内部に配置されるキャビティを第1プレートと第2プレートとが形成するように、第2プレートを第1プレートに結合させる結合工程とを備える電気化学チップの形成方法が提供される。開口部は窓又はくぼみであってよい。この方法は、電極のアレイのうち少なくとも一つの電極を、フェロセン化合物でドープされた被膜で被覆する被覆工程を更に備えてよい。この方法は、フェロセン化合物を酸化する酸化工程と更に備えてよい。
【0010】
本発明のさらに他の態様によれば、金属アレイを形成する金属アレイ形成工程と、金属アレイの少なくともいくつかの要素を、フェロセン化合物でドープされた脂質二重膜で被覆する被覆工程とを備える電気化学チップの形成方法が提供される。
【0011】
本発明のさらに他の態様によれば、電極被膜においてフェロセン化合物をドーパントとして用いるフェロセン化合物の使用法が提供される。
【0012】
本発明のさらに他の態様によれば、電極のアレイを備える第1プレートと、開口部を有しており、且つ電極のアレイが内部に配置されるキャビティを第1プレートと共に形成するように第1プレートに結合される第2プレートとを備えるセンサーアレイ集積型電気化学チップが提供される。開口部は窓又はくぼみであってよい。第1プレートは、電極のアレイが形成された第1プレートの同じ表面上に、夫々が複電極のアレイのうちの一の電極から電極のアレイの周縁部をこえて外側に伸びている複数の導電線を備えていてもよい。
【0013】
本発明におけるその他の態様と特徴と利益とは、添付図面と併せて次の本発明の具体的な実施形態の説明を検討する際に、当該技術分野の当業者に明白となるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
ここで用いられる際、
●「電極アレイ」は、任意のパターンで形成された少なくとも二つの電極を意味する。これらの電極は相互接続されるか、独立に配線されてよい。
【0015】
●「センサーアレイ」は、同一又は異なるセンサーからなるセンサーの配列を意味する。
【0016】
●「結合される」は、化学的に又は機械的に、或いは別の方法で、ともに保持されることを意味する。
【0017】
●「フェロセン化合物」は、フェロセン基を含む化学化合物を意味する。フェロセン基は化学式CFeC−を有する。フェロセン化合物の例には、フェロセン(CFeC)やベンゾイルフェロセン(CFeCCOC)が含まれる。
【0018】
概要を示すと、センサーアレイ集積型電気化学チップは電極アレイを備えていてよい。電極のアレイのうちの少なくとも一つの電極は、ベンゾイルフェロセンでドープされた脂質二重膜(s−BLM)等のフェロセン化合物でドープされた被膜により被覆されてよい。これらの電極はベースプレート上に形成してよい。そのベースプレートはカバープレートに結合されてよい。ベースプレートは、ベースプレートとカバープレートとにより形成されるキャビティ内に電極のアレイが配置されるように、開口部を有する。カバープレートの開口部は、窓又はくぼみであってよい。これらの電極は相互接続されるか、独立に配線されてよい。電極と接続線は、ベースプレートの同じ表面上に形成してよい。
【0019】
フェロセンドープ被膜は、電気抵抗が高い。よって、フェロセンドープ被膜で被覆された電極の抵抗は、被覆されていない電極又は従来の非ドープs−BLMで被覆された電極の電気抵抗と比べて高い。電極を被覆する被膜の電極抵抗の増加は、ドープ濃度及びフェロセン化合物の酸化の度合いにより制御することができる。この点に関して、ドープフェロセン化合物を酸化すると抵抗が増すことが分かっている。適切な抵抗に関しては、センサーのS/N比を増加することができる。
【0020】
図1及び図2は、ベースプレート12とカバープレート14とを備えた電気化学チップ10を模式的に示している。複数の電極16のアレイは、ベースプレート12上に形成される。カバープレート14は開口部、即ち窓17を有する。ベースプレート12とカバープレート14とは、共にキャビティ、即ち反応室18を、電極16のアレイが反応室18内にあるように規定する。
【0021】
適宜、一又は複数のカンチレバー20を、外部の対向及び参照電極の少なくとも一方のような不図示の外部電極の支持体として、カバープレート14上に備えることができる。各外部電極を、カンチレバー20の開口部22に挿入し、反応室18に伸ばしてもよい。
【0022】
電極16は、すべて作用電極であってよい。或いは、一又は複数の対極及び一又は複数の参照電極の少なくとも一つを含んでいてよい。各電極16は、プリント配線板(PCB)26上の複数のコンタクトホール24を介して、個々に電気的に制御されてよい。PCB26は、外部の電気機器及び電子機器の少なくとも一方に対して、電気的な入出力接続を提供する。当該技術分野の当業者により理解されるように、電極とコンタクトホール24との接続には、ボンディングパッドと導電線(「ランナー」としても知られる)が通常用いられる。外部機器は、コンタクトホール24を介して電極に接続してもよい。或いは、ボンディングパッドと導電線は、電極を外部装置に直接接続してもよい。ボンディングパッドと導電線は、ベースプレート12上に形成することもできる。しかしながら、分かりやすくするために、電極16をコンタクトホール24に接続するボンディングパッドと導電線は、図1に図示しない(但し、図7には図示している)。
【0023】
電気化学チップ10は、特定用途に適した様々な大きさ及び形状であってよい。例えば、電気化学チップ10は、1×1cmから2×2.25cmの間で変動するチップサイズであってよく、6×6mmから2×44mmの間で変動するチャンバーエリアを備える。
【0024】
5×5のパターンの電極のアレイを図1に示すが、電極16のアレイは、その用途に応じて、あらゆる適当な電極のパターン又は電極数を有してよい。電極16は、正方形、長方形、円形、卵形等の各種形状であってよい。また電極16は様々な大きさであってよく、長さ及び幅が90μmより小さくなるぐらいに非常に小さく作ることができる。直径10μmから90μmをテストすることで、これらの大きさが適当であることが分かった。通常、各作用電極は、1×10−7から1×10−4cm又はそれ以下の表面積を有してよい。生化学的用途においては、大きさが小さいほど好ましい場合が多い。電極16は、その用途に応じて、様々な電極間距離のスペースが均一に又は不均一に空けられている。例えば、10から100μmの範囲の電極間距離が、例となる電気化学チップにおいて適切であることが分かった。チップ10のピクセルサイズも異なっていてよい。0.25mmの長さのピクセルが、典型的な電気化学チップに適切であることが分かった。
【0025】
図2に示すように、ベースプレート12は、結合材38によりカバープレート14と結合してよい。
【0026】
ベースプレート12は、ベースウェハ30、第1絶縁層32、導電層34及び第2絶縁層36を含む。ベースウェハ30は、シリコン、又はガラス、プラスチック、ポリマーシート、セラミック及び半導体材料等のその他の適切な材料で作られてよい。第1絶縁層32及び第2絶縁層36は、同じ材料で作られていてもよいし、又は異なる材料で作られていてもよい。第1絶縁層32及び第2絶縁層36に適した材料として、二酸化ケイ素、窒化ケイ素並びにその他の適切な有機材料及び無機材料が挙げられる。生化学的用途で使用するためには、露出している材料(ウェハ44並びに第1絶縁層32及び第2絶縁層36のうちの覆われていない部分)が、所望の電解質、及び生物学的テスト溶液又は生化学的テスト溶液と適合するべきである。第1絶縁層32及び第2絶縁層36は、十分に絶縁できる程度の厚さがあるべきである。第1絶縁層32及び第2絶縁層36の夫々は、0.1から5μmの厚さがあってよい。導電層34は、Cr、Au及びTi等の適切な導電材料から構成されてよく、それ自体が層状になっていてよい。例えば、導電層34は、Cr又はTi層の上にAu層を設けて形成されてよい。電極アレイ16は、導電層34から形成される。前述した電極を外部装置に接続するための導電線も、導電層34から形成されてよい。少なくとも一つの電極16は、ベンゾイルフェロセンでドープされた脂質二重膜(s−BLM)等の、フェロセン化合物でドープされた被膜28で被覆されてよい。必要ならば、複数の電極16の幾つか又はすべてが、フェロセンでドープされた被膜で被覆されてよい。
【0027】
カバープレート14は、ウェハ44とマスク層40、42、46及び48とを含む。ウェハ44は、ウェハ30のように、シリコン又はその他の適切な材料で作られてよい。マスク層40、42、46及び48は、ウェハ44上に蒸着されて、エッチングの間にウェハ44をマスキングする。ウェハ44が、湿式化学法でエッチングされるべきならば、図2に示すように、二つのマスク層がウェハ44の両側に蒸着されてよい。内側のマスク層42及び46は熱酸化物層であってよく、外側のマスク層40及び48は、低圧CVDにより蒸着された窒化ケイ素層であってよい。マスク層42及び46は0.03から1μmの厚さであってよい。マスク層40及び48は、0.1から2μmの厚さであってよい。ウェハ44を、乾式化学法でエッチングするべきならば、夫々の側に単一のマスク層があれば十分である。この単一マスク層は、フォトレジスト、酸化ケイ素、窒化ケイ素及びその他のドライエッチングに適切な物質等の材料で形成されてよい。一又は複数のマスク層40、42、46及び48は、エッチング後に取り除いてよい。しかしながら、加工工程を簡単にするために、マスク層をそのまま保持してよい。
【0028】
ベースプレート12及びカバープレート14を形成する手法の例を、図3Aから3C及び図4Aから4Dに示す。
【0029】
図3Aを参照すると、第1絶縁層32をシリコンウェハ30に蒸着し、支持体を形成する。次に導電層34を第1絶縁層32の上に蒸着する。任意の適切な蒸着技術を用いることができる。
【0030】
図3Bを参照すると、次に、導電層34のパターン化及びエッチングを行い、電極アレイ16、複数のボンディングパッド、各電極を一のボンディングパッドに接続する回路線を形成する。リソグラフィー技術等の標準的な半導体マイクロ加工技術を用いてよい。
【0031】
図3Cを参照すると、次に、第2絶縁層36を導電層34の上に蒸着する。次に、第2絶縁層36をエッチングし、電極アレイ16及びボンディングパッドを露出させる。二つの結合するプレートが接触する部分となる電極アレイ16の周縁付近の領域では、第2絶縁層36をエッチングで除去されない。図2に示すように、カバープレート14と境界を接する残された絶縁層36で、カバープレート14がベースプレート12と結合する。
【0032】
図4Aを参照すると、マスク層42及び46、次にマスク層40及び48をウェハ44の両側に順次蒸着することにより、カバープレート14を形成するための支持体を形成する。ウェハ44はシリコンで作られてよい。絶縁層は、低圧CVD技術により形成されてよい。
【0033】
図4Bを参照すると、リソグラフィー技術等の標準的な半導体マイクロ加工技術を用いて、マスク層40、42、46及び48から、反応室18用の窓エリアと、ボンディングパッド用のエリアと、カンチレバー20用のエリアとが、エッチングにより除去され、これらのエリアにおいてウェハ44が露出する。
【0034】
図4Cを参照すると、カバープレート14をベースプレート12に結合する際にベースプレート12から離れて対向する前面側(図における上部側)から、ウェハ44をエッチングする。開口領域内では、ウェハ44を10μmよりも厚くエッチングしてよい。図4Dを参照すると、次に、カバープレート14がベースプレート12に結合する際にベースプレート12に対向する後ろ側(図の底部側)から、ウェハ44をエッチングする。ウェハ44の側面の外部側もエッチングを行い、ボンディングパッドを露出させてよい。ウェハ44をエッチングするために、KOH湿式化学エッチング又はシリコンドライエッチング等の技術を用いてよい。
【0035】
前述のように、一又は複数のマスク層40、42、46及び48をエッチング後に取り除いてよい。
【0036】
図2に戻って、次に、2003年1月7日に発行されたChen et al.の米国特許6,503,847(「Chen」)により教示されるような技術を用いて、カバープレート14の窓17を電極アレイ16の上側にして、ベースプレート12とカバープレート14を結合させることができる。この米国特許の内容は、参照することにより本明細書に組み込まれる。特に、Chenで教示されるように、希釈されたポリジメチルシロキサン(PDMS)溶液を用いてもよい。次に、マスク層40の表面(或いは、マスク層40及び42を取り除いた場合はウェハ44の後ろ側)を、PDMSでスピンコートする。PDMS被膜は、1から400μmの厚さがあってよい。被覆工程の間、ウェハ44の前面側は、PDMSにより被覆されることを防ぐために、ポリマーフィルムでラミネート加工されてよい。PDMSを半硬化するまで予め硬化させた後に、カバープレート14の位置をベースプレート12に合わせ、PDMSが完全に硬化するまで、これらの二つのプレートを互いに向かって押し付けてよい。理解できるように、図2には(明確にするために)図示しないが、カバープレート14の後ろ側と窓17の内面は、結合後にPDMS層で被覆される。都合のよいことに、PDMS層は生体適合性材料であるので、ウェハ30とマスク層とが生体適合性を有していなくても、チップ10は生体適合性を有することとなる。
【0037】
理解できるように、ベースプレート及びカバープレートの複数対を、二つのウェハから同時に形成することができる。複数対を形成する場合、ダイシング等により、PDMSを完全に硬化させた後に個々の対を切り離すことができる。その後、各対はPCBにワイヤーボンディングされてよい。
【0038】
前述のように、ベンゾイルフェロセンでドープされたs−BLM等のフェロセン化合物ドープ被膜で、一又は複数の電極16を被覆する。被膜は、各種の方法を用いて電極16上に蒸着されてもよい。ベンゾイルフェロセンをドープしたs−BLMで電極16を被覆する典型的な手順は、以下の通りである。
【0039】
ベンゾイルフェロセンとジミリストイルL−α−ホスファチジルコリン(DMPC)を分析用クロロホルムに溶解し、ベンゾイルフェロセンとDMPCの濃度が0.1から10mg/mlの範囲内にある脂質溶液を作成する。例えば、夫々の濃度が、1mg/mlと2mg/mlであってよい。
【0040】
電気化学チップ10を洗浄する。例えば、チップ10を、アルコールと脱イオン水中で夫々5分間続けて超音波分解し、その後チップ10を風乾する。
【0041】
マイクロシリンジで脂質溶液を20μlずつ滴下するなどして、少量の脂質溶液を電極表面に塗る。
【0042】
電極上のクロロホルムを、空気中室温で徐々に蒸発させる。
【0043】
リン酸緩衝液(PBS)1mlを脂質で被覆された電極16上に移す。但し、リン酸緩衝液は8g/l NaCl、0.2g/l KCl、1.44g/l NaHPO、及び0.24g/l KHPOを含有し、pH値は7.4である。リン酸緩衝液は、脂質二重膜が安定する任意の適切な中性水溶液であってよい。
【0044】
吸収ドープ方法及び拡散ドープ方法等の、その他の適切なドープ工程を採用してもよい。しかしながら、ドープ工程がs−BLMの特性に悪影響を与えるべきではないことが理解できるであろう。
【0045】
理解できるように、ベンゾイルフェロセンドープs−BLMは、電極上のPBS溶液中において、(分子自己集合により)自然に形成されるであろう。
【0046】
実験により、s−BLM被膜の電気抵抗は、ベンゾイルフェロセンでドープされる場合には、ドープされない場合よりも高くなることが分かった。また、ドープベンゾイルフェロセンを酸化させると電気抵抗を更に増加させることができることも分かった。
【0047】
還元反応を被膜上で起こすようなフェリシアン化カリウム(K[Fe(CN)])を含むPBS等の電解質溶液中に電極16が浸漬される際に、例えば−0.3から+0.8Vまでサイクリック電位変化(cyclic potential change)を電極16が受けることにより、被覆したs−BLMにおけるベンゾイルフェロセンを酸化できる。
【0048】
被膜中のベンゾイルフェロセンが酸化されたか否かは、還元反応に対する電極の電流応答を調べることで、容易に検査できる。電流応答が小さい場合は、酸化されている。電流応答が大きい場合は、完全には酸化されていない。
【0049】
都合のよいことに、電極16における電気抵抗は、s−BLM被膜におけるベンゾイルフェロセンの酸化の度合いを制御することで制御可能である。更に、ベンゾイルフェロセンの酸化は不可逆であることが実験により分かった。即ち、一度酸化すると、ベンゾイルフェロセンは酸化されたままであり、従って、電極界面において安定した電気抵抗が生じることとなる。(しかしながら、ベンゾイルフェロセンが完全に酸化していない場合、電極に印加される電位が酸化電位よりも高いと、ベンゾイルフェロセンは更に酸化される)。
【0050】
被膜の抵抗はまた、ドーパント濃度を調整することで制御可能である。
【0051】
その他のフェロセン化合物を用いてs−BLM被膜をドープしてもよい。例えば、フェロセン(CFeC)、又は1,1’[(4,4’−ビピペリジン)−1,1’−ジイルジカルボニル]−ビス[1’−(メトキシカルボニル)フェロセン]を用いてよい。
【0052】
更に、s−BLMを、電極16の表面で変形、固定化又は自己集合可能であり、フェロセン含有化合物をドープ可能な、任意の適切な有機ポリマー又は膜等のその他の物質に置換してよい。有利なことに、ドープ脂質膜は、酵素の存在下でその生体適合性微環境を保持する。従って、センサーが生化学的用途に適したものとなる。
【0053】
被膜は、採用される検出機構の種類によって、透過性を有していてもよいし、又は不透性を有していてもよい。例えば、透過性被膜を、アンペロメトリ型センサーに用いてもよく、一方、不透性被膜を、抵抗又はインピーダンス型センサーに用いてもよい。
【0054】
異なる複数の電極16を、異なる材料又は異なる酸化状態を有する類似の材料を含む被膜のような異なる複数の被膜で被覆することもできる。
【0055】
動作の際、電気化学チップ10は、コンタクトホール24を介して、外部制御機器及びデータ取込機器に配線される。反応室18は液体で満たされている。流動体中で特定の還元反応が起こっているか、及び/又はどのくらい早く起こっているかを判断するための電気信号を検出できるように、電気化学センサー又はセンサーアレイに典型的な方法で、電極にバイアスをかける。よって、一又は複数の特定目標物質が流動体中に存在するかどうか、又はその物質の濃度が判断される。必要であれば、カンチレバー20により支持される外部対向電極及び外部参照電極のうちの一方又は両方を用いてよい。電極16のすべてを作用電極として用いてよい。或いは、電極16のうちの一又は複数の電極を、対向電極又は参照電極として用いてよい。
【0056】
理解できるように、電気化学チップ10は加工しやすい。二枚板構造が、電極アレイ16の形成を容易にする。導電層34を平らな表面上にに設け、その後エッチングして個々の電極を形成できるからである。同様に、ボンディングパッドや接続線等の、その他の金属化合物が容易に形成される。反応室18を広くすることも可能であり、ウェハ44の厚さと同じくらい深くできる。二つのウェハを用いているので、単一のウェハチップ上に取り付けるよりも多くの電子デバイスを電気化学チップ10の上に取り付けてよい。
【0057】
都合のよいことに、作用電極、対向電極及び参照電極を含むすべての電極を、同じ導電層34上の同じ材料で形成できる。とはいえ、異なる材料で作られた任意の対向及び参照電極を設けて、カンチレバー20で支持してよい。
【0058】
電極16のすべてが一つの反応室18に設置されているので、同時検出又はテストが可能である。これにより、サンプルの使用量と分析時間を減少させることができる。同じサンプルの他成分を同時にテストすることができる。或いは、複数の電極から得られるデータを組み合わせて、より正確な又は信頼できる結果を得ることができる。
【0059】
理解できるように、電極をフェロセン化合物でドープされた被膜で被覆しなくても、加工工程は簡単で安価であるため、ここで教示するように電気化学チップを形成することは有利である。
【0060】
電気化学チップ10は、電気化学検出以外の用途で用いてもよい。例えば、AC又はDC電気測定に複数の電極を用いることができる。
【0061】
上記に明記しなかった本発明におけるその他の態様と特徴と利益は、この実施例の説明と添付図面から、当該技術分野の当業者により理解されうる。
【0062】
当該技術分野の当業者により理解されうるように、ここに記載の典型的な実施例に対して多くの変形が可能である。例えば、導電層34(ゆえに複数の電極16)は、Au、Pt、Agインジウムスズ酸化物(ITO)等の任意の適切な金属又は合金、或いは導電ポリマー等で作られてよい。層38用の結合材は、任意の適切な生体適合性材料及び化学的抵抗物質であってよい。
【0063】
ベースプレート12及びカバープレート14は、化学的に結合している必要はない。反応室18からの漏れがないように、ベースプレート12及びカバープレート14を単に積み重ねて、機械的に保持してもよい。その場合、結合層38を省略してよい。
【0064】
更に、カバープレート14は、図2及び図4A−4Dに示したものとは異なる窓形状を有していてもよい。例えば、カバープレート上の窓は、前面側からみた場合に、正方形以外の形状であってよい。更に、カバープレート上の窓は、完全に開かれている必要はない。例えば、図5は、別のセンサーアレイ集積型電気化学チップ10’を示す。ここで、カバープレート14’の開口部を片側だけエッチングすることで、くぼみが形成される。カバープレート14及びベースプレート12’を結合して、キャビティ、即ち反応室18’を形成する。サンプル液体は、カバープレート14’のチャネル50を通って、反応室18’の中と外へ流れることができる。カバープレート14’の後ろ側すべてと反応室18’の側壁は、PDMS等の生体適合性材料38’で被覆してよい。
【0065】
カンチレバーがないその他の代替カバープレート14’’を図6に示す。カバープレート14’’のシリコンウェハは、上部又は底部からエッチングしてよい。
【0066】
必要であれば、複数の電極16は、反応室18の側壁に形成されてもよい。
【0067】
図7に示すように、電極16’を平行に相互接続し、二以上のグループにグループ化してもよく、電極の各グループを、複数の接続線54を介して通常のボンディングパッドに接続してよい。図に示すように、接続線の夫々は、一の電極から電極アレイの周縁部をこえて外側に伸びている。
【0068】
ベースプレートとカバープレートが、生体適合性のない結合材で結合されている場合、生体適合性があり化学的に不活性な材料の層を、該層をベースプレートに結合させる前に、カバープレートにおける窓の側壁に設けてよい。これにより、生体適合性のある内面を反応室に設けることができる。
【0069】
本発明は、請求の範囲で規定されるように、その範囲内でこのようなすべての変形を包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
本発明の典型的実施例を例示する図面は次の通りである。
【図1】センサーアレイ集積型電気化学チップの模式的斜視図である。
【図2】図1の電気化学チップの模式的部分断面図である。
【図3】図1のベースプレートを形成する手法を模式的に例示する図である。
【図4】図1のカバープレートを形成する手法を模式的に例示する図である。
【図5】他のセンサーアレイ集積型電気化学チップの模式的部分断面図である。
【図6】カバープレートの模式的部分断面図である。
【図7】ベースプレート上の電極アレイの部分平面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極のアレイを備え、該電極のアレイのうち少なくとも一つの電極はフェロセン化合物でドープされた被膜により被覆されていることを特徴とするセンサーアレイ集積型電気化学チップ。
【請求項2】
前記被膜は、前記フェロセン化合物でドープされた脂質二重膜であることを特徴とする請求項1に記載のセンサーアレイ集積型電気化学チップ。
【請求項3】
前記フェロセン化合物はベンゾイルフェロセンであることを特徴とする請求項2に記載のセンサーアレイ集積型電気化学チップ。
【請求項4】
前記フェロセン化合物は酸化されていることを特徴とする請求項1に記載のセンサーアレイ集積型電気化学チップ。
【請求項5】
前記電極のアレイを備える第1プレートと、
開口部を有しており、且つ前記電極のアレイが内部に配置されるキャビティを前記第1プレートと共に形成するように前記第1プレートに結合される第2プレートと
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のセンサーアレイ集積型電気化学チップ。
【請求項6】
前記開口部は窓であることを特徴とする請求項5に記載のセンサーアレイ集積型電気化学チップ。
【請求項7】
前記開口部はくぼみであることを特徴とする請求項5に記載のセンサーアレイ集積型電気化学チップ。
【請求項8】
前記電極のアレイは、複数の作用電極のアレイを備えることを特徴とする請求項5に記載のセンサーアレイ集積型電気化学チップ。
【請求項9】
前記複数の作用電極の夫々は、フェロセン化合物でドープされた脂質二重膜により被覆されることを特徴とする請求項8に記載のセンサーアレイ集積型電気化学チップ。
【請求項10】
前記電極のアレイは、対向電極及び参照電極のうち少なくとも一方を更に備えることを特徴とする請求項8に記載のセンサーアレイ集積型電気化学チップ。
【請求項11】
前記第2プレートは、前記窓内へ伸びる少なくとも一つのカンチレバー型の電極を備えることを特徴とする請求項5に記載のセンサーアレイ集積型電気化学チップ。
【請求項12】
前記少なくとも一つのカンチレバー型の電極は、カンチレバー型の参照電極及びカンチレバー型の対向電極のうちの少なくとも一方を備えることを特徴とする請求項11に記載のセンサーアレイ集積型電気化学チップ。
【請求項13】
前記第2プレートに接している前記第1プレート中の層は、絶縁層であることを特徴とする請求項5に記載のセンサーアレイ集積型電気化学チップ。
【請求項14】
導電層を第1支持体に蒸着させ、且つ前記導電層をエッチングして電極のアレイを形成することにより、第1プレートを形成する第1プレート形成工程と、
第2支持体の開口部をエッチングすることにより、第2プレートを形成する第2プレート形成工程と、
前記電極のアレイが内部に配置されるキャビティを前記第1プレートと前記第2プレートとが形成するように前記第2プレートを前記第1プレートに結合させる結合工程と
を備えることを特徴とする電気化学チップの形成方法。
【請求項15】
前記開口部は窓であることを特徴とする請求項14に記載の電気化学チップの形成方法。
【請求項16】
前記開口部はくぼみであることを特徴とする請求項14に記載の電気化学チップの形成方法。
【請求項17】
前記電極のアレイのうち少なくとも一つの電極を、フェロセン化合物でドープされた被膜で被覆する被覆工程を更に備えることを特徴とする請求項14に記載の電気化学チップの形成方法。
【請求項18】
前記フェロセン化合物を酸化する酸化工程を更に備えることを特徴とする請求項17に記載の電気化学チップの形成方法。
【請求項19】
前記被膜は、前記フェロセン化合物でドープされた脂質二重膜であることを特徴とする請求項14に記載の電気化学チップの形成方法。
【請求項20】
前記フェロセン化合物はベンゾイルフェロセンであることを特徴とする請求項14に記載の電気化学チップの形成方法。
【請求項21】
夫々が前記電極のアレイのうちの一の電極から前記電極のアレイの周縁部をこえて外側に伸びている複数の導電線を形成するために前記導電層をエッチングするエッチング工程を更に備えることを特徴とする請求項14に記載の電気化学チップの形成方法。
【請求項22】
絶縁層をシリコンウェハ上に蒸着させることにより、前記第1支持体を形成する第1支持体形成工程を更に備えることを特徴とする請求項14に記載の電気化学チップの形成方法。
【請求項23】
前記電極のアレイの周縁部の周囲で、前記導電層を覆う絶縁層を蒸着する蒸着工程を更に備え、
前記第2プレートは前記導電層を覆う絶縁層で前記第1プレートと結合することを特徴とする請求項22に記載の電気化学チップの形成方法。
【請求項24】
前記第2支持体はシリコンウェハを備えることを特徴とする請求項14に記載の電気化学チップの形成方法。
【請求項25】
金属アレイを形成する金属アレイ形成工程と、
前記金属アレイの少なくともいくつかの要素を、フェロセン化合物でドープされた脂質二重膜で被覆する被覆工程と、
を備えることを特徴とする電気化学チップの形成方法。
【請求項26】
電極被膜においてフェロセン化合物をドーパントとして用いるフェロセン化合物の使用法。
【請求項27】
電極のアレイを備える第1プレートと、
開口部を有しており、且つ前記複数の電極が内部に配置されるキャビティを前記第1プレートと共に形成するように前記第1プレートに結合される第2プレートと
を備えることを特徴とするセンサーアレイ集積型電気化学チップ。
【請求項28】
前記開口部は窓であることを特徴とする請求項27に記載のセンサーアレイ集積型電気化学チップ。
【請求項29】
前記開口部はくぼみであることを特徴とする請求項27に記載のセンサーアレイ集積型電気化学チップ。
【請求項30】
前記第1プレートは、前記電極のアレイが形成された前記第1プレートの同じ表面上に、夫々が前記電極のアレイのうちの一の電極から前記電極のアレイの周縁部をこえて外側に伸びている複数の導電線を備えることを特徴とする請求項27に記載のセンサーアレイ集積型電気化学チップ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2007−506968(P2007−506968A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527947(P2006−527947)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【国際出願番号】PCT/SG2004/000293
【国際公開番号】WO2005/031333
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【出願人】(506009947)ナショナル ユニヴァーシティ オブ シンガポール (3)
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL UNIVERSITY OF SINGAPORE
【住所又は居所原語表記】10 Kent Ridge Crescent, Singapore 119260