説明

センサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグを用いたレール締結装置のリアルタイム緩み検査システム

【課題】レールの振動を安価な検出手段且つ検査車両又は運行中の列車にて検査することができると共に車両外からも検査することができる、レール締結装置のリアルタイム緩み検査システムを得る。
【解決手段】レール締結装置に、レールの振動を検出するための磁気平衡型加速度センサと、レール締結装置の緩み量及び振動量の測定並びにリーダーとの無線通信により測定値データを伝送するためのセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグから成る検出手段を設置し、レール沿いの一定間隔箇所又は車両(検査車両又は運行中の列車)に、前記検出手段から送信される測定値データ及び当該各検出手段に予め設定された固有IDデータを取得するためのリーダーを複数箇所に設置すると共に、該リーダーより取得したデータをリアルタイムに演算解析してレールの振動量を求めるためのデータ処理装置を前記リーダーに接続して構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道のレールを枕木に締結固定するレール締結装置の緩み及び当該緩みにより発生するレールの振動並びに通常時におけるレールの振動をリアルタイムに検査することができる、センサ入力機能付きバッテリーレス型RFID(Radio Frequency Identification)タグを用いたレール締結装置の緩み検査システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道のレールを枕木に締結固定するレール締結装置の緩みを検査する方法として、作業員がレール沿いを歩行しながら緩み状態を目視で判断する目視検査や、該レール締結装置をハンマーで叩いた時の衝撃音で緩み状態を判断する聴診検査により行っていた。
【0003】
上記方法は作業員の経験と勘に頼る部分が多いため、作業効率が悪かったり検査精度にばらつきがあったりと多くの問題点があった。このため、近年においては前記問題点を解決すべく、レール上を走行する検査車両に緩み検査装置を搭載し、該検査車両を走行させながら各レール締結装置の緩みを連続的に自動測定する方法が採られている。また、特許文献においても、特開平06−241927号公報の『レール締結装置の緩み検出装置』では、レール締結装置に圧力センサを設けたタグを設置し、検査車両に搭載したコントローラと前記タグ間とにおいて無線通信を行い、各タグの圧力データ及びアドレス情報を読み取ってデータベースに蓄積すると共に解析処理を行い、検査車両を走行させながら自動検査を行うことができる検出装置について記載され、特開2000−230208号公報の『レール締結装置の緩み検査装置』では、検査車両に光反射型の変位センサを複数設置すると共に一定間隔の枕木にIDタグを設置し、予め判っているIDタグ間の枕木の本数とレール締結装置の特定部分(例えばボルト頭部)のカウント値により枕木の位置即ちレール締結装置の位置を特定して当該位置の緩み量の自動検査を行うことができる検査装置について記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平06−241927
【特許文献2】特開2000−230208
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記公報のうち特開平06−241927号公報においては、レール締結装置の緩みを検出するためのセンサとして圧力センサを使用し、検査車両に搭載したコントローラにて前記圧力センサより得られる圧力データと基準値とを比較することにより緩みの有無を検出する装置であるため、緩みにより発生するレールの振動をリアルタイムに検出することができないという問題点があった。また、タグと称する装置において電力供給はコントローラから送信されるキャリア信号を整流することにより得ているものの、回路ブロックとして一般的なCPU,メモリ,A/Dコンバータ,送受信回路及び周辺回路を組み合わせた無線装置であり、近年普及が著しい負荷変調方式により通信を行う安価なRFIDタグに比べ製品価格が高価であり、膨大な数のレール締結装置に設置するには莫大な設備投資費が必要になってしまうという問題点があった。
【0006】
また、特開2000−230208号公報においても、タグと称する装置において電力供給はコントローラから送信されるキャリア信号を整流することにより得ているものの、回路ブロックとしては上記と略同様であり、近年普及が著しい負荷変調方式により通信を行う安価なRFIDタグに比べ製品価格が高価になってしまうという問題点があった。更には検査車両にレール締結装置の特定部分との距離を検出するための光反射型の変位センサを複数設置したり、走行距離を検出するためのエンコーダを設置するなど多数のセンサ信号処理を行うため、装置及び処理が複雑化してしまい、上記と同様に緩み量をリアルタイムに検査することができないという問題点があった。また、枕木の本数を数えることにより枕木の位置即ちレール締結装置の位置を特定する方法のため、枕木の位置と緩み量を完全に一致させることができないという問題点があった。
【0007】
また、何れの公報においても検査車両に搭載したデータ処理装置による各レール締結装置の個々の緩み量を測定する方法であり、レール全体の緩み及び当該緩みにより発生するレール全体の振動を測定することができないという問題点があった。更には検査車両外から検査を行うことができないという問題点や、実際に運行中の列車による検査を行うことができないという問題点もあった。
【0008】
本発明は、以上述べたような問題点を解決するために成されたものであり、鉄道のレールを枕木に締結固定するレール締結装置の緩み及び当該緩みにより発生するレールの振動並びに通常時におけるレールの振動を安価なRFIDタグ及びセンサにより正確且つリアルタイムに検査することができると共に検査車両による検査のみならず運行中の列車による検査も行え、更にはレール沿いにリーダー及びデータ処理装置を設置して車両外からも検査が行えることによりメンテナンスが容易に行えると共に地震,水害,山崩れ等の災害によるレールの異常を列車の運行又は非運行に関わらず常時検出することができる、センサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグを用いたレール締結装置のリアルタイム緩み検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグを用いたレール締結装置のリアルタイム緩み検査システムは、レールを枕木に締結固定するレール締結装置にあっては、該レール締結装置の緩み及び当該緩みにより発生するレールの振動並びに通常時におけるレールの振動を検出するための磁気平衡型加速度センサと、該磁気平衡型加速度センサより出力されるセンサ信号を処理してレール締結装置の緩み量及び振動量の測定並びにリーダーとの無線通信により測定データを伝送するためのセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグから成る検出手段を設置し、
レール沿いの一定間隔箇所又は車両(検査車両又は運行中の列車)にあっては、前記検出手段から送信される測定データ及び当該各検出手段に予め設定された固有IDデータを取得するためのリーダーを複数箇所に設置すると共に該リーダーより取得したデータをリアルタイムに演算解析してレール締結装置の緩み量及び当該緩みにより発生するレールの振動量並びに通常時におけるレールの振動量を求めるためのデータ処理装置を前記リーダーに接続して設置し、
前記レール沿いの一定間隔箇所に設置したデータ処理装置又は車両(検査車両又は運行中の車両)に設置したデータ処理装置が複数ある場合、各複数のデータ処理装置をLAN等のネットワークに接続すると共に専用サーバーに接続し、各レール締結装置の固有IDデータに関連付けられた測定データの一括演算処理をリアルタイムに行うようにして構成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグを用いたレール締結装置のリアルタイム緩み検査システムによれば、鉄道のレールを枕木に締結固定するレール締結装置の緩み及び当該緩みにより発生するレールの振動並びに通常時におけるレールの振動を安価なセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグ及び磁気平衡型加速度センサにより、レール締結装置と測定データとを完全に一致させて正確且つリアルタイムに検査することができると共に検査車両による検査のみならず運行中の列車による検査が行えるという絶大なる効果を奏する。更にはレール沿いにリーダー及びデータ処理装置を設置して車両外からも検査が行えることによりメンテナンスが容易に行えると共に地震,水害,山崩れ等の災害によるレールの異常を列車の運行又は非運行に関わらず常時検出することができるという効果を奏する。また、レール全体の緩み及び当該緩みにより発生するレールの振動を測定することができるという効果も奏する。そして、異常検出時において警報信号を列車に通報することにより事故防止を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施するための最良の形態を図を用いて説明する。
【0012】
図1は本発明のセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグを用いたレール締結装置のリアルタイム緩み検査システムの一実施例によるシステム構成図であり、図2は検査車両及びレールの側面図である。該図に示すように、レール3を枕木4に締結固定するレール締結装置に、該レール締結装置の緩み及び当該緩みにより発生するレール3の振動並びに通常時におけるレールの振動を検出するための磁気平衡型加速度センサ12と、該磁気平衡型加速度センサ12より出力されるセンサ信号を処理してレール締結装置の緩み量及び振動量の測定並びにリーダー28との無線通信により測定データを伝送するためのセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグ9から成る検出手段を設置する。
【0013】
図3は図2におけるレールのA−A断面図であり、上記レール締結装置は、両先端部が所定の間隔を維持するように帯板を曲折して形成した板バネ部材5と、該板バネ部材5を貫通して枕木4に螺合する固定ボルト7を有して構成され、レール3の基部を左右対称に挟むように設置される。なお、板バネ部材5の横ずれ防止のため、当該板バネ部材5と枕木4との間に受け部材8が設置される。ここで、上記磁気平衡型加速度センサ12及びセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグ9から成る検出手段は、ワッシャ6を挟んで固定ボルト7により板バネ部材5に固定される。
【0014】
また、上記検出手段から送信される測定データ及び当該各検出手段に予め設定された固有IDデータを取得するためのリーダー28をレール3沿いの一定間隔箇所又は車両1の複数箇所に設置し、該リーダー28より取得したデータをリアルタイムに演算解析してレール締結装置の緩み量及び当該緩みにより発生するレール3の振動量並びに通常時におけるレールの振動量を求めるためのデータ処理装置30を前記リーダー28に接続して設置する。なお、前記車両1は、検査車両又は実際に運行中の列車の何れであっても構わない。また、データ処理装置30は、専用装置又はアプリケーションソフトをインストールした汎用パソコン等の何れであっても構わない。
【0015】
また、図1に示すように、レール3沿いの一定間隔箇所にデータ処理装置30が複数設置され、各データ処理装置30から得られる測定データを集計して総合的な解析結果を得る場合には、各データ処理装置30をLAN31等のネットワークに接続すると共に専用サーバー(図示せず)に接続し、各レール締結装置の固有IDデータに関連付けられた測定データの一括演算処理をリアルタイムに行う。また、図2に示すように、車両1にデータ処理装置30を設置する場合には、車輪2付近にリーダー28を設置して前記データ処理装置30にて測定データの演算処理を行う。また、データ処理装置30が複数設置され、各データ処理装置30から得られる測定データを集計して総合的な解析結果を得る場合には、前記と同様に各データ処理装置30をネットワーク接続すると共に専用サーバー(図示せず)に接続し、各レール締結装置の固有IDデータに関連付けられた測定データの一括演算処理をリアルタイムに行う。
【0016】
次に、図5は本発明で用いる磁気平衡型加速度センサの構成図であり、該磁気平衡型加速度センサ12は、水平方向の加速度を検出するための磁気平衡型加速度センサエレメント12aと垂直方向の加速度を検出するための磁気平衡型加速度センサエレメント12b,12cをX軸及びY軸方向に直交するように配設して構成する。各磁気平衡型加速度センサエレメント12a,12b,12cには、それぞれコイル13a,13b,13cが巻かれている。該図は磁気平衡型加速度センサ12の基本構成を示したものであり、実際には5mm角程度のハウジングケースに収容して成形し、後述のセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグ9に接続するものである。なお、磁気平衡型加速度センサエレメント12aにて水平方向の加速度を常時検出し、磁気平衡型加速度センサエレメント12bにて垂直方向の加速度を常時検出し、磁気平衡型加速度センサエレメント12cにてレール締結装置の緩みを検出する。
【0017】
図6は本発明で用いる磁気平衡型加速度センサの構造図及び出力電圧波形図であり、磁気平衡型加速度センサ12を構成する各磁気平衡型加速度センサエレメント12a,12b,12cは、シリンダ14の内部に可動マグネット15を収容すると共に当該シリンダ14の両端部に可動マグネット15の極性と同一極性が対向するように固定マグネット17,17を固設し、シリンダ14内部の軸方向に振動可能に可動マグネット15を平衡配置する。更に、可動マグネット15の両端部に硬球16,16を配設すると共に当該可動マグネット15の一先端部分のシリンダ14外面に誘導起電力を発生させるためのコイル13を巻く。なお、硬球16,16はシリンダ14の内部を可動マグネット15が振動する際にシリンダ14の内面と硬球16,16が点接触することにより滑り摩擦による影響を減少させるためのものであるが、影響が無視できるものであればなくても構わない。
【0018】
ここで、磁気平衡型加速度センサエレメント12a,12b,12cが図中矢印方向に1周期だけ振動した場合、コイル13からはV1で示す1サイクルの交流電圧が発生する。該振動の強さにより誘導起電力の電圧値が変化するため、電圧値の大きさ及び変動時間を計測することによりレール締結装置の緩み及び当該緩みにより発生するレールの振動並びに通常時におけるレールの振動が検知可能になる。従って、バイアス電源が無くとも振動に応じたセンサ信号を出力することができる。また、交流電圧の極性を判断することにより振動方向の判別が可能になる。
【0019】
また、図7は本発明で用いるセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグのブロック図である。該図に示すように、センサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグ9は、RFIDチップ10及びアンテナ11にて構成される。該アンテナ11はリーダー28と電磁波による無線通信を行うため、RFIDチップ10内又は一部RFIDチップ10外の同調キャパシタ(図示せず)から成る同調回路19に接続し、本システムで使用するキャリア周波数として例えば13.56MHzや950MHz帯に同調させて共振回路を構成する。
【0020】
上記同調回路19の後段には、リーダー28のアンテナ29から送信された電磁波が当該センサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグ9のアンテナ11を通過した時に発生する誘導起電力の電圧波形を検波したり、該誘導起電力を半波又は全波整流して直流電圧を取り出すための整流回路20を接続する。
【0021】
次に、上記整流回路20の後段には、検波したキャリアを分周してシステム用のクロックを生成するためのクロック生成回路21と、信号受信時においてキャリアから信号を取り出す復調動作を行ったり信号送信時においてスイッチング素子(図示せず)により変調動作を行うための変復調回路22と、上記直流電圧を安定化して回路電源を供給したり、充電用コンデンサ24に充電電圧を供給するための電源回路23を接続する。該充電用コンデンサ24は一般的にはセラミックコンデンサであり、電力を必要とする場合には大容量型の電気二重層コンデンサ等が好適であるが、特に限定するものではない。
【0022】
次に、上記変復調回路22の後段には、該変復調回路22の制御や不揮発性メモリであるFRAM(Ferroelectric RAM:米国Ramtron社の登録商標)26に対する当該RFIDチップ10の固有IDデータや振動データ等のデータの書込み又は読出し制御を行うためのロジック回路25を接続する。また、磁気平衡型加速度センサ12の各磁気平衡型加速度センサエレメント12a,12b,12cより出力されるセンサ信号を振動データに変換するためのA/D変換回路27を前記ロジック回路25とFRAM26に接続する。前記磁気平衡型加速度センサエレメント12cは、レール締結装置の緩みを検出するためのものであり、圧力検知スイッチ18を中継してセンサ信号をA/D変換回路27に入力する。なお、図1において各検出手段からの測定データ及び固有IDデータをデータ処理装置30にケーブルにて直接入力することも可能である。この場合には、前記変復調回路22及びロジック回路25の信号線を引き出し、外部通信ポートとして設けておく。
【0023】
なお、上記FRAM26は強誘電体型の不揮発性メモリであり、回路電源がOFFになっても当該RFIDチップ10の固有IDデータや振動データ等のデータは消失することはない。また、データの書込み電圧は、EEPROMやフラッシュメモリのように高圧に昇圧する必要がないため、昇圧回路が簡略化される。また、書込み又は読出し速度はDRAMと同等であり、EEPROMやフラッシュメモリよりはるかに高速であるという特徴を持つものである。このように、不揮発性メモリとしてはFRAM26が好適であるが他のメモリを使用しても構わない。
【実施例】
【0024】
本発明の実施例を図を用いて説明する。
【0025】
まず、図1に示すように、レール3を枕木4に締結固定する各レール締結装置に、磁気平衡型加速度センサ12及びセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグ9から成る検出手段を設置する。また、車両1(検査車両又は運行中の列車)によるレール締結装置の緩み及び当該緩みにより発生するレール3の振動並びに通常時におけるレール3の振動を測定する場合において、レール3沿いの一定間隔箇所にリーダー28を複数箇所に設置し、該リーダー28より取得したデータをリアルタイムに演算解析してレール締結装置の緩み量及び当該緩みにより発生するレール3の振動量並びに通常時におけるレール3の振動量を求めるためのデータ処理装置30を、前記各リーダー28に接続する。
【0026】
上記リーダー28と検出手段を構成するセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグ9との通信距離は、本システムで使用するRFID通信のキャリア周波数が例えば950MHz帯であれば、最大5〜9m程度となる。従って、リーダー28の通信距離に応じた通信範囲を設定し、該通信範囲毎にリーダー28を設置する。該リーダー28の設置位置として、レール3の片側又は両側若しくはレール3の中間などリーダー28の通信能力に応じた位置及び高さで任意に設置して構わない。
【0027】
また、上記データ処理装置30が複数あり、各データ処理装置30から得られる測定データを集計して総合的な解析結果を得る場合には、各データ処理装置30をLAN31等のネットワークに接続すると共に専用サーバー(図示せず)に接続し、各レール締結装置の固有IDデータに関連付けられた測定データの一括演算処理をリアルタイムに行うようにする。
【0028】
次に、上記システムが構築されたレール3上を車両1(検査車両又は運行中の列車)が走行する場合において、レール締結装置の緩み及び振動を検出する原理を図4の緩みの発生した板バネ部材の状態図に基づいて説明する。
【0029】
該図において、板バネ部材5を貫通して枕木4に螺合した固定ボルト7が緩むと、レール3の基部を挟んでいた板バネ部材5の両先端は前記レール3の基部より図中点線で示したように固定ボルト7と共に跳ね上がる。該状態において当該箇所のレール3上を車両1(検査車両や運行中の列車)が走行すると、図中矢印Bで示すようにレール3の振動と共に板バネ部材5も水平方向に振動し、また図中矢印Cで示すようにレール3の振動と共に板バネ部材5も垂直方向に振動する。
【0030】
このため、ワッシャ6を挟んで固定ボルト7により板バネ部材5に固定されていた検出手段を構成する磁気平衡型加速度センサ12も同様に振動し、磁気平衡型加速度センサエレメント12aにて水平方向の加速度を検出し、磁気平衡型加速度センサエレメント12bにて垂直方向の加速度を検出することができる。
【0031】
上記磁気平衡型加速度センサ12の磁気平衡型加速度センサエレメント12a,12bから出力されるセンサ信号は、検出手段を構成するセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグ9のRFIDチップ10内のA/D変換回路27に入力され、測定データとして工業値変換される。
【0032】
また、板バネ部材5又はワッシャ6に係着させて上記固定ボルト7の緩みによりOFFとなる圧力検知スイッチ18(図示せず)の接点を中継して磁気平衡型加速度センサエレメント12cをRFIDチップ10内のA/D変換回路27に接続しておけば、上記固定ボルト7の緩みが発生した時において磁気平衡型加速度センサエレメント12cのセンサ信号がA/D変換回路27に入力されなくなり、測定データが“0”となる。従って、該状態を検出することにより、磁気平衡型加速度センサエレメント12a,12bから得られる測定データが、緩みにより発生した振動データであることが判る。また、固定ボルト7の緩みがない場合には磁気平衡型加速度センサエレメント12a,12b及び磁気平衡型加速度センサエレメント12cの全ての振動データが得られるため、該状態を検出することにより、磁気平衡型加速度センサエレメント12a,12bから得られる測定データが、緩みに起因しない通常時における振動データであることが判る。
【0033】
上記検出手段から送信される測定データ及び当該各検出手段に予め設定された固有IDデータは、レール3沿いの一定間隔箇所に設置したリーダー28との無線通信により取得される。そして、データ処理装置30により、前記リーダー28より取得したデータをリアルタイムに演算解析してレール締結装置の緩み量及び当該緩みにより発生するレール3の振動量並びに通常時におけるレール3の振動量を求めることができる。なお、上記説明ではレール締結装置の緩み及び当該緩みにより発生するレール3の振動並びに通常時におけるレール3の振動を車両1外より測定する方法を述べたが、図2に示すように、車両1(検査車両又は運行中の列車)にデータ処理装置30を設置して検査を行う方法も略同様となる。
【0034】
以上のようにして、レール締結装置の緩み及び当該緩みにより発生するレール3の振動並びに通常時におけるレール3の振動を安価なセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグ9及び磁気平衡型加速度センサ12により、レール締結装置と測定データとを完全に一致させて正確且つリアルタイムに検査することができる。また、検査車両による検査のみならず運行中の列車による検査が行える。また、各レール締結装置の個々の緩みのみならずレール3全体の緩み及び当該緩みにより発生するレール3全体の振動を測定することができる。更にはレール3沿いにリーダー28及びデータ処理装置30を設置して車両1(検査車両又は運行中の列車)外からも検査が行えることによりメンテナンスが容易に行えることになる。また、地震,水害,山崩れ等の災害により路肩が陥没するなどの異常が発生した場合においてはレール3の振動量が通常とは異なるため、前記災害によるレール3の異常も列車の運行又は非運行に関わらず常時検出することができることになる。また、異常検出時において警報信号を列車に通報することにより事故防止を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグを用いたレール締結装置のリアルタイム緩み検査システムの一実施例によるシステム構成図である。
【図2】検査車両及びレールの側面図である。
【図3】図2におけるレールのA−A断面図である。
【図4】緩みの発生した板バネ部材の状態図である。
【図5】本発明で用いる磁気平衡型加速度センサの構成図である。
【図6】本発明で用いる磁気平衡型加速度センサの構造図及び出力電圧波形図である。
【図7】本発明で用いるセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグのブロック図である。
【符号の説明】
【0036】
1 車両
2 車輪
3 レール
4 枕木
5 板バネ部材
6 ワッシャ
7 固定ボルト
8 受け部材
9 RFIDタグ
10 RFIDチップ
11 アンテナ
12 磁気平衡型加速度センサ
13 コイル
14 シリンダ
15 永久磁石
16 硬球
17 永久磁石
18 圧力検知スイッチ
19 同調回路
20 整流回路
21 クロック生成回路
22 変復調回路
23 電源回路
24 充電用コンデンサ
25 ロジック回路
26 FRAM
27 A/D変換回路
28 リーダー
29 アンテナ
30 データ処理装置
31 LAN

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールを枕木に締結固定するレール締結装置にあっては、該レール締結装置の緩み及び当該緩みにより発生するレールの振動並びに通常時におけるレールの振動を検出するための磁気平衡型加速度センサと、該磁気平衡型加速度センサより出力されるセンサ信号を処理してレール締結装置の緩み量及び振動量の測定並びにリーダーとの無線通信により測定値データを伝送するためのセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグから成る検出手段を設置し、
レール沿いの一定間隔箇所又は車両(検査車両又は運行中の列車)にあっては、前記検出手段から送信される測定データ及び当該各検出手段に予め設定された固有IDデータを取得するためのリーダーを複数箇所に設置すると共に該リーダーより取得したデータをリアルタイムに演算解析してレール締結装置の緩み量及び当該緩みにより発生するレールの振動量並びに通常時におけるレールの振動量を求めるためのデータ処理装置を前記リーダーに接続して設置することを特徴とした、センサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグを用いたレール締結装置のリアルタイム緩み検査システム。
【請求項2】
レール沿いの一定間隔箇所に設置したデータ処理装置又は車両(検査車両又は運行中の車両)に設置したデータ処理装置が複数ある場合、各複数のデータ処理装置をLAN等のネットワークに接続すると共に専用サーバーに接続し、各レール締結装置の固有IDデータに関連付けられた測定データの一括演算処理をリアルタイムに行うようにしたことを特徴とする、請求項1に記載のセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグを用いたレール締結装置のリアルタイム緩み検査システム。
【請求項3】
複数のデータ処理装置をLAN等のネットワークに接続すると共に専用サーバーに接続し、各レール締結装置の固有IDデータに関連付けられた測定データの一括演算処理をリアルタイムに行うことにより、各レール締結装置の個々の緩みのみならずレール全体の振動を測定することができ、異常検出時において警報信号を列車に通報することにより事故防止を図ることができることを特徴とした、請求項2に記載のセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグを用いたレール締結装置のリアルタイム緩み検査システム。
【請求項4】
板バネ部材又はワッシャに係着させ、固定ボルトの緩みによりOFFとなる圧力検知スイッチの接点を中継して磁気平衡型加速度センサエレメントをRFIDチップ内のA/D変換回路に接続することにより、水平方向及び垂直方向の測定データが、緩みにより発生した振動データであるのか又は緩みに起因しない通常時における振動データであるのかを判断して検出することができることを特徴とした、請求項1から3の何れかに記載のセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグを用いたレール締結装置のリアルタイム緩み検査システム。
【請求項5】
レール沿いの一定間隔箇所にデータ処理装置を複数設置し、各複数のデータ処理装置をLAN等のネットワークに接続すると共に専用サーバーに接続し、各レール締結装置の固有IDデータに関連付けられた測定データの一括演算処理をリアルタイムに行うことにより地震,水害,山崩れ等の災害によるレールの異常を列車の運行又は非運行に関わらず常時検出することができ、異常検出時において警報信号を列車に通報することにより事故防止を図ることができることを特徴とした、請求項1から4の何れかに記載のセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグを用いたレール締結装置のリアルタイム緩み検査システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−147412(P2007−147412A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341294(P2005−341294)
【出願日】平成17年11月27日(2005.11.27)
【出願人】(394007610)株式会社テルヤ (30)
【出願人】(301046617)ペガサスネット株式会社 (34)
【出願人】(501360979)
【Fターム(参考)】