説明

センサ用電極体、それを用いたセンサ及びセンシングシステム、並びにセンサ用電極体の製造方法

【課題】目的物質を高感度かつ高精度に検知しうるセンサ用電極体、それを用いたセンサ及びセンシングシステム、並びにセンサ用電極体の製造方法を提供する。詳しくは、単なる微粒子ではなく超微粒子を用いて物質吸着薄膜層を形成し、そこへの特定の物質の吸着を電気的に制御して検知しうる優れたセンサ用電極体及びセンシングシステム、並びにセンサ用電極体の製造方法を提供する。
【解決手段】保護配位子を有するプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を含有させた分散液により形成した物質吸着薄膜層を、導電性構造体に設けたセンサ用電極体であって、前記導電性構造体に電圧を印加して前記電極体を電気的に制御し、前記物質吸着薄膜層の表面に目的物質が吸着したときの選択的な電気特性変化を測定することにより、その目的物質を検知しうるセンサ用電極体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は目的とする物質を検知するセンサ用電極体、それを用いたセンサ及びセンシングシステム、並びにセンサ用電極体の製造方法に関する。また、本発明は、プルシアンブルー型金属錯体超微粒子の分散液により形成した薄膜層を有するセンサ用電極体、それを用いたセンサ及びセンシングシステム、並びにセンサ用電極体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
目的の物質を検知するセンサの用途は多岐にわたり、気体を検知するガス検知器や、水に溶解した各種分子を検知するセンサなど様々な態様があげられる。その中でも、過酸化水素センサは、主に食品業界、医療業界等で必要とされており重要である。
【0003】
食品業界では過酸化水素が消毒に利用されているが、最終製品である食物には過酸化水素が含まれないことが好ましい。そのため過酸化水素の有無を高精度で検知できるセンサが望まれている。
医療業界では、グルコースセンサ等の一部として過酸化水素センサが必要とされている。グルコースはグルコース酸化酵素により酸化されるとき、副生成物として過酸化水素を発生する。この過酸化水素を検知することによりグルコースの有無を検知することができる。したがって、過酸化水素のセンシング精度を向上させれば、グルコースの検知精度も向上する。
【0004】
高精度の過酸化水素センサとして有望視されているものに、プルシアンブルー電解析出電極を用いた電気化学式センサがある。プルシアンブルーで被膜した電極で酸化還元反応を測定すると、電解質中の過酸化水素の濃度により電気化学特性が劇的に変化する。このときの電流を測定することにより、非常に高性能な過酸化水素センサとして機能させうる。ここでプルシアンブルー型金属錯体について説明すると(図20参照)、プルシアンブルーの結晶構造220を基本構造とし、場合によっては、遷移金属及びシアノ基の置換や欠陥が存在したり、空隙に各種イオンや、水が侵入したりしたものである。さらに詳しくは、NaCl型格子を組んだ2種類の金属原子M、金属原子M(それぞれ図中の金属原子221及び、金属原子224)の間が、炭素原子222及び窒素原子223からなるシアノ基により三次元的に架橋された構造をとっている。
【0005】
現在、報告されているプルシアンブルー電解析出電極を用いたセンサで、極めて高い精度のセンシング機能を有しているものは0.003ppm程度の検知能力をもつ(非特許文献1)。一方、現在広く市販されている過酸化水素センサは、よう素電量滴定法、イオン移動スペクトロメトリ法などを利用するものであるが、いずれも1ppm程度の検知性能である。プルシアンブルーのセンシング感度がいかに高いかが分かる。
そのほかにも、プルシアンブルーを用いた過酸化水素センサの利点として、アスコルビン酸には反応しないという分子選択性が挙げられる。医療目的や、食品用途に用いる場合、アスコルビン酸が同時に存在している場合が多く、過酸化水素のみを検知できるセンサが必要であり、プルシアンブルー型錯体はこの点においても有望視されている。
【0006】
一方、近年センサを微細化し、しかも様々な形状に加工する技術が求められている。例えば、μ−TASでは、マイクロメートルないしナノメートルレベルの細い流路に材料を流すことにより化学反応を行わせ、目的とする生成物を得る。そのような微小流路中で反応物質・生成物質を検知するには、極めて微細に加工されたセンサが必要となる。また、流路に沿って複数のセンサを状況に応じて設置することなども求められ、微細化のニーズはますます高まっている。
【0007】
これに対し、上記のような電解析出電極では、精密な微細加工は難しい。そのためマイクロ流路等の微細空間に電解析出電極によるセンサを適用することは困難であり、もし微細加工したとしても費用や時間がかかりすぎる。
【0008】
この解決を試みるものとして、非特許文献2では、プルシアンブルー結晶を利用した分子センサを試作している。このセンサは、センシング性能は高いが、プルシアンブルー層の上に高分子の層を積層するという極めて煩雑な工程を要する。そのため製造に5日以上かかり、また微細化は難しい。しかも、その粒子は水にしか分散しないため、利用範囲や採用しうる製法が限られる。また、高分子化合物がセンシングの阻害となる場合もある。
【0009】
また、プルシアンブルー型錯体は通常アルカリに弱い。そのため強アルカリ中でセンシングを行うと、プルシアンブルー結晶が分解してしまい、数十回程度でセンサ性能が失われるということもある。食品や、医療目的でセンサを使用する場合、検査対象がアルカリ性である場合もあり、センサのアルカリ耐久性の向上が望まれる。使い捨てセンサとしてしまうなら別段、現実的に繰り返し使う形式のセンサとするにはこの問題は解決されなければならない。これについて、絶縁性のポリマーとプルシアンブルー型錯体の混合物を調製してセンサの耐久性を上げることが試みられている(非特許文献3)。しかし、この方法もまた、プルシアンブルー層の上に高分子層を積層する手法を取っており、製造工程が極めて煩雑であり微細加工は困難である。また高分子化合物がセンシングを阻害することがあることは上記と同様である。
【0010】
最近、低分子量化合物により被覆したプルシアンブルー型金属錯体を微粒子として得る方法が検討されている(非特許文献4〜8参照)。ここでは、微粒子の合成方法や基本物性が概略的に述べられており、その粒子サイズや磁性等が開示されているが、これを用いてセンサを作製することの記載はない。
【0011】
【特許文献1】特開2004−275168号公報
【特許文献2】特開2003−274976号公報
【非特許文献1】Arkady A. Karyakinら、アナリィティカルケミストリー(Analytical Chemistry)、2004,76、p474
【非特許文献2】ピー.エイ.フィオリト(P.A.Fiorito)ら,ケミカルコミュニケーション(Chem.Commun.),2005,366−368
【非特許文献3】エフ.リッシ(F.Ricci)ら、バイオセンサ・アンド・バイオエレクトロニクス21(2005)389−407
【非特許文献4】山田真美ら、ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(J.Am.Chem.Soc)、126(2004)pp.9482−9483
【非特許文献5】栗原正人「錯体化学とその実用化の接点を追い求める」,日本化学会東北支部主催(第22回 無機・分析化学コロキウム)平成17年7月1日・2日,予稿集
【非特許文献6】山田真美「逆ミセル法を用いたプルシアンブルー型Fe/Cr−CN−Co錯体ナノ微粒子の合成と物性挙動」,本科研費総括班主催,日本化学会後援(第3回『分子スピン』シンポジウム)平成17年1月8日・9日,予稿集,32・33頁
【非特許文献7】N.Bagkarら、ジャーナル.オブ.マテリアルズ.ケミストリー(Journal of Materials Chemistry)、2004,14,p1430
【非特許文献8】川本徹「金属錯体超微粒子:その多様な外場誘起現象」第5回分子スピンシンポウジム(2005年12月23日)予稿集
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、目的物質を高感度かつ高精度に検知しうるセンサ用電極体、それを用いたセンサ及びセンシングシステム、並びにセンサ用電極体の製造方法の提供を目的とする。詳しくは、単なる微粒子ではなく超微粒子を用いて物質吸着薄膜層を形成し、そこへの特定の物質の吸着を電気的に制御して検知しうる優れたセンサ用電極体、それを用いたセンサ及びセンシングシステム、並びにセンサ用電極体の製造方法の提供を目的とする。また、多大な時間や工数を要する製法によらず、精密薄膜化・超微細加工を行うことができ、微細かつ複雑な形状の空間であっても微量物質を検出しうるセンサ用電極体、それを用いたセンサ及びセンシングシステム、並びにセンサ用電極体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)保護配位子を有するプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を含有させた分散液により形成した物質吸着薄膜層を、導電性構造体に設けたセンサ用電極体であって、前記導電性構造体に電圧を印加して前記電極体を電気的に制御し、前記物質吸着薄膜層の表面に目的物質が吸着したときの選択的な電気特性変化を測定することにより、その目的物質を検知しうることを特徴とするセンサ用電極体。
(2)前記目的物質が分子であることを特徴とする(1)記載のセンサ用電極体。
(3)前記目的物質が過酸化水素であることを特徴とする(1)又は(2)記載のセンサ用電極体。
(4)前記物質吸着薄膜層に電気化学特性制御剤を含有させたことを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
(5)前記物質吸着薄膜層が、前記分散液により形成した薄膜層と、電気化学特性制御剤を含有させた薄膜層とを少なくとも有する多層薄膜層であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
(6)前記超微粒子が、下記金属原子Mと金属原子Mとを有するプルシアンブルー型金属錯体結晶に、ピリジル基もしくはアミノ基を含有する化合物を保護配位子として1種または2種以上配位させた、平均粒子径200nm以下の超微粒子であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
[金属原子M:バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、ロジウム、オスミウム、イリジウム、パラジウム、および銅から選ばれる少なくとも1つの金属原子。]
[金属原子M:バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、およびカルシウムから選ばれる少なくとも1つの金属原子。]
(7)前記保護配位子とする化合物の炭素原子数が4以上100以下であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
(8)前記保護配位子とする化合物が下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表されることを特徴とする(1〜7のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素原子数8以上のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基を表す。)
【化2】

(式中、Rは炭素原子数8以上のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基を表す。)
【化3】

(式中、Rは炭素原子数6以上のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基を表し、Rはアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基を表す。)
(9)前記置換基R〜Rがアルケニル基であることを特徴とする(8)記載のセンサ用電極体。
(10)前記物質吸着薄膜層中に、前記保護配位子化合物を質量比でプルシアンブルー型金属錯体の10倍以下の範囲で含有させ、アルカリ耐性を高めたことを特徴とする(1)〜(9)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
(11)前記物質吸着薄膜層が、前記分散液を、スピンコート製膜法、ラングミュアブロジェット製膜法、スプレー製膜法、レイヤーバイレイヤー製膜法、及び印刷法のいずれかにより塗布製膜した、高表面積吸着面を有する液体製膜層であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
(12)前記分散液が撹拌抽出法により調製したプルシアンブルー型金属錯体超微粒子の分散液であることを特徴とする(1)〜(11)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
(13)前記物質吸着薄膜層の製膜時及び/またはその後、加熱処理及び/又は洗浄処理を施し、前記保護配位子を除去したことを特徴とする(1)〜(12)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
(14)(1)〜(13)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体を備えたセンサ。
(15)(14)に記載のセンサであって、食物中の微量の過酸化水素を検知することを特徴とする食品検査用センサ。
(16)(14)に記載のセンサであって、生体物質を検知することを特徴とするバイオセンサ。
(17)(1)〜(13)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体、対極電極、及び参照電極を組み合わせて、液相で目的物質を検知することを特徴とするセンシングシステム。
(18)(1)〜(13)のいずれか1項に記載の電極体を製造するに当り、撹拌抽出法もしくは逆ミセル法により保護配位子を有するプルシアンブルー型金属錯体の超微粒子を分散させた分散液を調製し、導電性構造体の片側に前記分散液により物質吸着薄膜層を形成することを特徴とするセンサ用電極体の製造方法。
(19)前記保護配位子をアミノ基もしくはピリジル基を含有する化合物とし、スピンコート製膜法、ラングミュアブロジェット製膜法、レイヤーバイレイヤーディップ製膜法、及び印刷法から選ばれる製膜法により前記分散液を塗布して物質吸着薄膜層を形成することを特徴とする(18)記載のセンサ用電極体の製造方法。
(20)前記物質吸着薄膜層の製膜時及び/又はその後、洗浄処理及び/又は加熱処理を施して前記保護配位子を除去することを特徴とする(18)又は(19)記載のセンサ用電極体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のセンサ用電極体は、電気的に制御することにより、物質吸着薄膜層表面への物質の吸着を感度及び精度よく検知することができ、その性能は従来のものより格段に優れる。
本発明のセンサ用電極体は、保護配位子を有するプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を含有する分散液により薄膜を形成したため、加工時間や工数が著しく低減され、簡便かつ精度よく精密薄膜加工や超微細加工などを施すことができるという優れた効果を奏する。また、本発明のセンサ用電極体においては、前記超微粒子を水や各種有機溶媒にナノサイズでありながら均一かつ安定に分散させた分散液を用いたため、精度の高い高表面積の均質薄膜層が実現され、複雑な微細空間であっても、高性能センサとして適用することができる。
さらにまた、本発明のセンサ用電極体においては、超微粒子に配位させた保護配位子は製膜時及び/又は製膜後に適宜に除去して電気化学応答性等を調節することができるという利点を有する。さらに、製膜時の製造品質とセンサ性能に関する製品品質とを両立して実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明のセンサ用電極体について、その好ましい態様を図1の断面図に模式的に示す。図1のセンサ用電極体は、導電性構造体2の片側に物質吸着薄膜層1を設けたものである。本発明において導電性構造体とは、基板などの絶縁体に導電性膜を設けたもののみならず、絶縁体を用いず導電性材料のみからなる導電体もしくは導電層のみのものを含む意味に用いる。導電性構造体2に用いられる導電性材料は特に限定されないが、白金、銅、アルミニウム、鉄、グラファイト、酸化インジウム錫(ITO)などの導電性を示す物質を利用することができる。物質吸着薄膜層1はナノ微粒子(ナノメートルオーダーの粒子)を含有する分散液により形成した薄膜層である。このナノ微粒子及び物質吸着薄膜層の詳細については後述する。なお、本発明のセンサ用電極体においては、導電性構造体と物質吸着薄膜層以外にも必要に応じて機能性層を設けてもよく、例えばグルコースを検知するバイオセンサとするとき、グルコース酸化酵素含有層といった層を設けてもよい。本発明のセンサ用電極体はそれ自身をセンサとして用いることができ、必要に応じて対極電極および参照電極と組み合わせてセンシングシステムとしてもよく、また、そのほか通常のセンサの構造に作製加工して用いてもよい。
本発明のセンサ用電極体は微細加工性に優れるため、マイクロ流路等に微細加工して用いる場合には、マイクロ流路の底面や壁面に導電層を付して導電性構造体とし、その上に物質吸着薄膜層を設けて、路面塗布型のセンサとすることができる。このときマイクロ流路の路面自体が導電性を有し、導電性構造体として機能するなら、その上に所望の形状の超微粒子分散液の塗布膜層を設けるだけで本発明のセンサとすることができる。
本発明のセンサ用電極体は図1に示したような片側に物質吸着薄膜層を設けた層状電極体に限られず、平板状導電性構造体の両側に物質吸着薄膜層を設けたものでもよい。そのほか、導電性構造体を針状の構造体として、その外表面全体に物質吸着薄膜層を設けた針状電極体としてもよく、また、針状構造体の先端部に物質吸着薄膜層を設けた電極体であってもよい。
【0016】
本発明のセンサ用電極体の形状は上述のとおり特に限定されず、目的に応じた形状に成形して作製することができる。所望の形状のセンサとするときに、物質吸着薄膜層を所望の形状としてセンシング領域を作製してもよく、物質吸着薄膜層自体は広範に作製し導電性構造体(あるいは導電性膜)を所望の形状としてセンシング領域を限定するようにしてもよい。
本発明のセンサ用電極体の大きさは特に限定されないが、超微細センサとするときには、例えば、1.0×10−18〜1.0×10−1とすることが好ましく、1.0×10−8程度とすることが好ましい。また、後述するように物質吸着薄膜層を高表面積の液体製膜層とすることができ、大型センサであっても、超微細化センサであっても、高感度で安定した物質検出を可能なものとすることができる。さらに例えば、上述のように少なくとも物質吸着薄膜層をμ−Tasの微細流路等にあわせて作製し、必要な場所に各種目的に相応した形状の微細加工センサを多数設けることもできる。
【0017】
本発明のセンサ用電極体で検知しうる物質は、センサ用電極体の物質吸着薄膜層に吸着してその電気特性が変化するものであれば特に限定されないが、検知対象物質としては、例えば、過酸化水素、NO、S2−、SO2−、ヒドラジン、ドーパミン等が挙げられ、分子の検知を行うことが好ましく、中でも医療・食品用途を考慮すると過酸化水素の検知を行うことがより好ましい。また、後述するグルコースの検知のように、上記検知対象物質の検知を通じて、その反応に関与する物質を間接的に検出・検知することも好ましい。検知方法は、導電性構造体に電圧を印加してその制御下に電気的変化を測定し検知対象物質を検知する方法であれば特に限定されないが、物質吸着時の電気化学活性を測定する方法が好ましく、対象物質が物質吸着薄膜層に化学吸着したときの電位もしくは電流変化を測定することがより好ましい。
【0018】
検知測定条件は特に限定されず、気相でも液相でもよいが、液相で検知することが好ましい。検知対象物質の測定サンプル中の濃度は特に限定されないが、例えば過酸化水素水でいうと、0.002〜20質量%であることが好ましく、超微量検知の場合でいうと、検知対象物質が2×10−8〜20質量%であることが好ましい。本発明のセンサ用電極体によれば、このような超微量検出も可能である。
【0019】
本発明のセンサ用電極体によれば上述のように過酸化水素を高感度に検知することができ、これを利用して医療用のバイオセンサとして用いることができる。先にも述べたとおりグルコース等の生体物質が分解するときなどに過酸化水素等を発生する。このような微量副生物であっても、本発明のセンサ用電極体を用いたセンサであれば検出可能であり、例えば、グルコース、コレステロール、リシン等をセンシングする優れたバイオセンサとして用いることができる。
【0020】
本発明のセンサ用電極体はナノ粒子を含有させたナノ粒子分散液により形成した物質吸着薄膜層を有する。ナノ粒子としては、電気化学応答性を有するプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を用いる。
本発明のセンサ用電極体に用いることができるプルシアンブルー型金属錯体超微粒子は、図2により模式的に説明することができる。すなわち、この超微粒子20においては、プルシアンブルー型金属錯体微結晶21の表面に配位子L(22)が配位している。ただし同図は、超微粒子の結晶及び配位子について、その大きさの関係を示すものではない。また、配位子は図に示したように結晶表面に直立していても、倒れこんでいても、あるいはその他の状態であってもよい。
超微粒子作製時の配位子Lの配位量は特に限定されず、超微粒子の粒子径や粒子形状にもよるが、例えば、プルシアンブルー型金属錯体の結晶の中の金属原子(金属原子M及びMの総量)に対して、モル比で5〜30%程度であることが好ましい(物質吸着薄膜層中の配位子量については後述する。)。このようにすることで、プルシアンブルー型金属錯体のナノ粒子を含有する安定な分散液(液体製膜用インク)とすることができ、液体製膜による精度の高い物質吸着薄膜層を作製することができる。
プルシアンブルー型金属錯体21は、上述のように、その結晶格子中に欠陥・空孔を有していてもよく、例えば鉄原子の位置に空孔が入りその周りのシアノ基が水に置換されていてもよい。このように空孔の量や配置を調節して電気化学特性を制御することも好ましい。
【0021】
本発明において、「超微粒子」とはナノ粒子(ナノメートルオーダーに超微細化された粒子)であり、かつ、多種の溶媒にナノ粒子状態で分散、単離・再分散しうる粒子、すなわちディスクリートな粒子をいう(分散体もしくは分散液から単離できないものや、単離・再分散できないものは含まない)。その平均粒子径は200nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。
本発明において、粒子径とは、特に断らない限り、保護配位子を含まない一次粒子の直径をいい、その円相当直径(電子顕微鏡観察により得た超微粒子の画像より、各粒子の投影面積に相当する円の直径として算出した値)をいう。平均粒子径については、特に断らない限り、少なくとも30個の超微粒子の粒子径を上記のようにして測定した、その平均値をいう。あるいは、超微粒子の粉体の粉末X線回折(XRD)測定から、そのシグナルの半値幅より算出した平均径より見積もってもよい。
ただし、溶媒に分散させた状態では、複数のナノ粒子が集団で二次粒子として運動し、測定法によってはより大きな平均粒子径が観測される場合もある。分散状態で超微粒子が2次粒子となっているとき、その平均粒径は200nm以下であることが好ましい。なお、超微粒子膜として製膜した後の処理などにより、保護配位子が外れるなどしてさらに大きな凝集粒子となっていてもよく、それにより本発明が限定して解釈されるものではない。
【0022】
プルシアンブルー型金属錯体超微粒子の製造方法としては、撹拌抽出法、逆ミセル法、フェリチンなどをテンプレートとして用いる方法が挙げられる。以下に、本発明において好ましく採用される撹拌抽出法と逆ミセル法について詳しく説明する。ただし、本発明はそれらにより限定されるものではない。
【0023】
<撹拌抽出法>
撹拌抽出法は、後述する逆ミセル法に用いられるような特殊な化合物によらずに、多様な保護配位子を表面に配位させた超微粒子を簡便に大量合成できる点で好ましい。その具体的な手順を示すと、例えば、金属原子Mを中心金属とする金属シアノ錯体(陰イオン)の溶液と、金属原子Mを中心金属とする金属陽イオン溶液とを混合し、金属原子M及び金属原子Mから成るプルシアンブルー型金属錯体の結晶を析出させ、次いで保護配位子Lを溶解させた溶媒に前記プルシアンブルー型錯体結晶を加え、撹拌し、溶媒を除去することにより、例えば粒子径50nm以下の固体粉末超微粒子集合体を得ることができる。
【0024】
撹拌抽出法についてさらに具体的に説明すると、本発明のセンサ用電極体に用いることができるプルシアンブルー型金属錯体超微粒子分散液は、下記(A)及び(B)を含む工程で製造され、その超微粒子は下記(A)〜(C)を含む工程で得られる。さらに、その好ましい態様として、有機溶媒分散型超微粒子を製造する際には工程(B)を工程(B1)とし、水分散型超微粒子を製造する際には工程(B)を工程(B2)とする。以下、それぞれの工程について詳しく説明する。
【0025】
工程(A)は、金属原子Mを中心金属とする金属シアノ錯体(陰イオン)を含有する水溶液と、金属原子Mの金属陽イオンを含有する水溶液とを混合し、金属原子M及び金属原子Mを有するプルシアンブルー型金属錯体の結晶を析出させる工程である。
【0026】
金属原子Mとしては、バナジウム(V)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、銅(Cu)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)等が挙げられ、少なくともそれらのいずれか1つであることが好ましい。
【0027】
金属原子Mとしてはバナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ランタン(La)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ルテチウム(Lu)、バリウム(Ba)、ストロチウム(Sr)、カルシウム(Ca)等を挙げることができ、少なくともそれらのいずれか1つであることが好ましい。
【0028】
中でも金属原子Mとしては鉄、クロム、もしくはコバルトが好ましく、鉄が特に好ましい。金属原子Mとしては鉄、コバルト、ニッケル、バナジウム、銅、マンガン、もしくは亜鉛が好ましく、鉄、コバルト、もしくはニッケルがより好ましい。
【0029】
金属原子Mを中心金属とする陰イオン性金属シアノ錯体の水溶液中での対イオンは特に限定されないが、カリウムイオン、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン等が挙げられる。金属原子Mの金属陽イオンの水溶液中での対イオンは特に限定されないが、Cl、NO、SO2−等が挙げられる。
【0030】
金属原子MもしくはMとして2種以上の金属を組み合わせてもよい。2種類の金属の組み合わせについていうと、金属原子Mについては、鉄とクロムとの組み合わせ、鉄とコバルトとの組み合わせ、クロムとコバルトとの組み合わせが好ましく、鉄とクロムとの組み合わせがより好ましい。金属原子Mについては、鉄とニッケルとの組み合わせ、鉄とコバルトとの組み合わせ、ニッケルとコバルトとの組み合わせが好ましく、鉄とニッケルとの組み合わせがより好ましい。このとき、組み合わせた金属の組成を調節して、得られるプルシアンブルー型金属錯体超微粒子の物性を制御することが好ましく、その電気化学特性を制御することがより好ましい。
【0031】
このとき、金属シアノ錯体と金属陽イオンとの混合比は特に限定されないが、モル比で「M:M」が1:1〜1:1.5となるように混合することが好ましい。
【0032】
工程(B)は、保護配位子Lを溶媒に溶解させた溶液と、工程(A)で調製したプルシアンブルー型金属錯体結晶とを混合する工程である。
保護配位子としては、ピリジル基もしくはアミノ基を結晶粒子との結合部位としてもつ化合物の1種もしくは2種以上を用いることが好ましく、なかでも炭素原子数4以上100以下の化合物(質量平均分子量でいうと2000以下の化合物が好ましく、50以上1000以下の化合物がより好ましい)を用いることがより好ましく、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物の1種もしくは2種以上を用いることが特に好ましい。
【0033】
【化4】

【0034】
一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子または炭素原子数8以上(好ましくは炭素原子数12〜18)のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基を表す。R、Rはアルケニル基であることが好ましく、その炭素―炭素二重結合の数に上限は特にないが、2以下であることが好ましい。アルケニル基を有する配位子Lを用いると、極性溶媒(配位子が脱離する場合があるメタノール、アセトンを除く、例えばクロロホルム)以外の溶媒に分散しにくい場合でも、その分散性を向上させることができる。具体的には、アルケニル基を有する配位子を用いることで、配位子が脱離しなければ無極性溶媒(例えば、ヘキサン)にも良好に分散しうる。このことはR及びRにおいても同様である。
一般式(1)で表される化合物の中でも、4−ジ−オクタデシルアミノピリジン、4−オクタデシルアミノピリジン等が好ましい。
【0035】
【化5】

【0036】
一般式(2)中、Rは炭素原子数8以上(好ましくは炭素原子数12〜18)のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基を表わす。Rはアルケニル基であることが好ましく、その炭素−炭素二重結合の数に上限は特にないが、2以下であることが好ましい。一般式(2)で表される化合物の中で、アルケニル基を有する配位子としてはオレイルアミンが好ましく、アルキル基を有する配位子としてはステアリルアミンが好ましい。
【0037】
【化6】

【0038】
一般式(3)中、Rは炭素原子数6以上(好ましくは炭素原子数12〜18)のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基であり、Rは(好ましくは炭素原子数1〜60の)アルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基である。Rはアルケニル基であることが好ましく、その炭素−炭素二重結合の数に上限は特にないが、2以下であることが好ましい。
なお、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物は、本発明の効果を妨げなければ置換基を有していてもよい。
【0039】
このとき保護配位子Lを溶解する溶媒は配位子Lとの組合せ等により決めることが好ましく、配位子Lを溶媒に十分に溶かすものを選ぶことがより好ましい。溶媒として有機溶媒を用いるとき、トルエン、ジクロロメタン、クロロホルム、ヘキサン、エーテル、酢酸ブチル等が好ましい。2−アミノエタノール等の水に溶解する配位子を用いるときには、溶媒として水を使用することもでき、水分散性のプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を得ることもできる。また、このとき溶媒としてアルコールを用いることも好ましい。
【0040】
このとき用いる溶媒の量は特に限定されないが、例えば、質量比で「配位子L:溶媒」を1:5〜1:50とすることが好ましい。また混合する際に撹拌することが好ましく、それによりプルシアンブルー型金属錯体の超微粒子が有機溶媒中に十分に分散した分散液が得られる。
【0041】
配位子Lの添加量は、工程(A)で作製したプルシアンブルー型金属錯体の微結晶に含まれる金属イオン(金属原子M及びMの総量)に対して、モル比で「(M+M):L」が1:0.2〜1:2程度であることが好ましい。
【0042】
工程(B1)は、有機溶媒分散型の超微粒子を調製するに当り、配位子Lを有機溶媒に溶解させた有機溶液と、工程(A)で調製したプルシアンブルー型金属錯体結晶とを混合する工程である。なお、プルシアンブルー型金属錯体超微粒子の生成速度を高めることができる点で、この工程において水を加えることが好ましく、その添加量は質量比で「溶媒:水」が1:0.01〜1:0.1であることが好ましい。
【0043】
工程(B2)は、水分散型の超微粒子を調製するに当り、水溶性の配位子Lをアルコール(アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールが挙げられ、メタノールが好ましい。)及び/又は水からなる溶媒に溶解させた溶液と、工程(A)で調製したプルシアンブルー型金属錯体結晶とを混合する工程である。
ここでアルコール分離後に得られる固体物に水を加えると、プルシアンブルー型金属錯体の超微粒子を水中に分散した水分散液とすることができる。また、配位子Lの水溶液に直接、工程(A)で調製したプルシアンブルー型金属錯体結晶を加え、撹拌することによっても、プルシアンブルー型金属錯体の超微粒子を水中に分散させた分散液を得ることができる。ただし、得られるプルシアンブルー型金属錯体超微粒子の安定性及び収率の点からアルコール溶媒を用いることが好ましい。
【0044】
工程(C)はプルシアンブルーを溶媒から分離する工程であり、例えば、プルシアンブルー型金属錯体の超微粒子がその溶媒に分散している場合は溶媒を減圧留去して分離することができ、分散していない状態として濾過や遠心分離により溶媒を除去してもよい。このとき、工程(B1)を経て混合液を得た場合には、有機溶媒を除去することにより超微粒子集合体の固体粉末が得られる。工程(B2)を経て混合液を得た場合は、アルコール及び/又は水からなる溶媒を除去分離して水分散性の超微粒子集合体を固体粉末として得ることができる。
【0045】
また、本発明のセンサ用電極体に用いることができるプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を製造するに際し、適宜添加剤を加えてもよく、添加剤の作用によりプルシアンブルー型金属錯体超微粒子に異なる物性を付与することもできる。例えば、アンモニア、ピリジン、それらを組み合わせたものなどを結晶物性調整剤としてプルシアンブルー型金属錯体超微粒子の製造時に添加して、その添加の有無や量により生成物の特性を制御することが好ましい。このとき、工程(A)において結晶物性調整剤を添加することが好ましい。結晶物性調整剤の添加量は特に限定されないが、金属原子Mに対して、モル比で10〜200%となるよう添加することが好ましい。
【0046】
さらにまた、先にも述べたとおり、金属原子MもしくはMとして複数の種類の金属を組み合わせて用いることができるが、その金属の組成を調節することでプルシアンブルー型金属錯体超微粒子の物性を制御することができる。具体的には、例えば(Fe1−xNi[Fe(CN)として金属原子Mに鉄とニッケルを組み合わせて用い、その組成(式中の「x」)を調節して制御することが好ましい。
このとき工程(A)において目的の金属を含有する原料化合物を、混合比を変えて加えることで、目的の金属組成を有するプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を得ることができる。なお、撹拌抽出法については、特願2006−030481号明細書、国際特許出願第PCT/JP2006−302135号明細書などを参考にすることもできる。撹拌抽出法により得られたプルシアンブルー型金属錯体は、各種の溶媒に(本発明において「溶媒」とは「分散媒」を含む意味に用いる。)、優れた分散安定性を示し(例えば、数ヶ月以上経っても安定な分散状態を保つことができる。)、薄膜化に適し、優れたセンサを作製することができる。
【0047】
<逆ミセル法>
逆ミセル法は、アルキル保護剤で覆われた錯体超微粒子を調製する方法であり、以下に示す3工程からなる。
(i)金属原子Mを中心金属とする金属シアノ錯体(陰イオン)を含む第一逆ミセル溶液と、金属原子Mを中心金属とする金属錯陽イオンを含む第二逆ミセル溶液とをそれぞれ調製する工程。
(ii)第一逆ミセル溶液と第二逆ミセル溶液とを混合する工程。
(iii)工程(ii)で得られた混合液に長鎖アルキル保護剤Lを添加し、得られたナノ結晶を単離する工程。
【0048】
逆ミセル法で用いることができる金属原子M、金属原子M、対イオン、及び保護配位子Lは、それぞれ撹拌抽出法で説明したものと同じであり、その好ましいものも同じであるが、以下に上記各工程についてさらに具体的に説明する。
【0049】
工程(i)
この工程では、金属原子Mを中心金属とする金属錯陰イオンを含む第一逆ミセル溶液と、金属原子Mの陽イオンを含む第二逆ミセル溶液とをそれぞれ調製する。
【0050】
第一逆ミセル溶液として予めMを中心金属とする金属錯陰イオンを含む第一溶液を調製することが好ましく、この第一溶液は上記の金属錯陰イオンを水に溶解させることによって得られる。第一溶液の濃度(溶液の全量に対する金属原子のモル数)は、0.1〜1mol/Lであることが好ましい。次いで、第一溶液と逆ミセル化剤の溶解した有機溶媒(シクロヘキサン、ヘキサン、イソオクタン等)とを混合することによって第一逆ミセル溶液が得られる。逆ミセル化剤の種類としては、AOT(ジ−2−エチルヘキシルスルホサクシネート ナトリウム塩)または、NP−5(ポリエチレン グリコール モノ4−ノニルフェニルエーテル)が挙げられる。逆ミセル化剤の使用量は第一溶液が逆ミセルとして可溶化するような濃度とすればよいが、一般的には水と逆ミセル剤とのモル比(w = [Water]/[AOT or NP−5])を5〜50とすることが好ましい。
【0051】
第二逆ミセル溶液の場合は、金属原子Mの陽イオンを含む第二溶液を第一溶液のときと同様に調製し、これと逆ミセル化剤の溶解した有機溶媒とを混合することによって第二逆ミセル溶液を得ることができる。第二溶液は、金属原子Mを含む金属塩(CoCl、Fe(NO等)の水溶液であることが好ましい。第二溶液の濃度(溶液全量に対する金属原子のモル数)、逆ミセル化剤の種類・使用量、有機溶媒の好ましい範囲は、第一逆ミセル溶液の場合と同様である。有機溶媒の体積は特に限定されないが、10〜100ml程度が好ましい。
【0052】
工程(ii)
この工程では、第一逆ミセル溶液と第二逆ミセル溶液とを混合する。この混合によって金属錯体ナノ結晶が形成される。ナノ結晶の生成速度は、上記溶液の濃度、逆ミセル化剤の濃度等によって調節することができる。混合方法は特に限定されず、通常の混合装置を使用できる。両者の混合割合は、モル比で金属錯陰イオン:金属陽イオン=1:0.7〜1.3程度となるようにすることが好ましい。
【0053】
工程(iii)
この工程では、工程(ii)で得られた混合液に保護配位子化合物を添加する。保護配位子については撹拌抽出法において詳しく述べたとおりである。
【0054】
これらの超微粒子合成法により、所定の保護配位子によって保護されたナノメートルスケールの金属錯体の超微粒子を作製できる。
【0055】
さらに、本発明のセンサ用電極体の物質吸着薄膜層について、詳しく説明する。
本発明のセンサ用電極体において、物質吸着薄膜層は上記のような超微粒子を含有するナノ粒子分散液により形成した薄膜層であり、それに加熱処理・洗浄処理等を施してもよい。薄膜内で個別の超微粒子がその形状を維持している必要はなく、配位子Lについては除去されていてもかまわない。また、電気化学特性向上のために別種材料を含有させてもよく、例えば、フェロセン、ナフィオン等の電気化学特性制御剤を含有させても、この電気化学特性制御剤を含有させた層とナノ微粒子を含有させた層とから少なくともなる多層薄膜層としてもよい。なお、物質吸着薄膜層には高分子化合物を含まないことが好ましい。
【0056】
物質吸着薄膜層の製膜法は特に限定されないが、上記プルシアンブルー型金属錯体超微粒子を含有させた分散液(インク)を塗布製膜した液体製膜薄膜層とすることが好ましい。塗布製膜法として具体的には、スピンコート製膜法、ラングミュアブロジェット製膜法、スプレー製膜法、レイヤーバイレイヤー(LbL)ディップ法、及び印刷法(インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、転写法、凸版印刷法、ソフトリソグラフィー印刷法等)などの製膜法が挙げられる。これにより、高精度な微細加工膜の作製が可能となる。例えば、製膜時に膜厚を単微粒子のサイズで制御する場合は、ラングミュアブロジェット製膜法を利用することが好ましい。空間的に複数種類のセンサを設置する場合は、インクジェット印刷など、複数のインクを用いた印刷製膜法を利用することが好ましい。
その他、積層型化学結合製膜法を用いることも好ましい。ここで積層型化学結合製膜法とは、超微粒子を一層もしくは数層ごとに製膜し、これを繰り返し行うに際し、基板と超微粒子とをあるいは超微粒子どうしを配位結合などの化学結合により結合させ、膜構造を強固なものにする製膜法である。
【0057】
物質吸着薄膜層の厚さは特に限定されないが、1×10−9〜1×10−6mであることが好ましく、3×10−9〜5×10−7mであることがより好ましい。さらに、物質吸着薄膜層は目的物質の吸着に適した高表面積膜であることが好ましい。このようにすることで超高感度の安定な検出が可能となる。このとき導電性構造体として表面に凹凸を有するものを用いて、物質吸着面を高表面積化することもできる。
【0058】
本発明のセンサ用電極体においては、プルシアンブルー型金属錯体超微粒子を含有させた分散液により物質吸着薄膜層を形成したとき及び/又はその後、例えば、アセトンなどの処理剤による洗浄処理、加熱処理(好ましくは100〜150℃の加熱処理)などを施すことが好ましい。このような処理により、保護配位子を除去して、例えば、物質検出における電気化学応答性を向上させることができる。したがって、製膜時には相当量の保護配位子を用いて溶媒に超微粒子を安定に分散させて良好な製膜性を確保し、製膜後にはセンサを高性能化(例えば、応答速度や繰り返し耐性等の向上)するために配位子Lを除去調節することができる。これにより、製造品質の向上と製品品質の向上とを両立して実現することができる。
【0059】
本発明のセンサ用電極体においては、検知対象となるサンプル中に、酢酸などの酸やアルカリ性物質が含まれているようなときにも、その耐久性を維持して目的物質のセンシングが可能である。とくにアルカリに対してプルシアンブルーの耐性が低いのは、水酸基(OH)が材料内に侵入し、Feと反応してFe(OH)を生成し、材料から溶出するためと考えられる。よって、水酸基の侵入を軽減することによってアルカリ耐性を向上させることが可能である。すなわち本発明のセンサ用電極体においては、プルシアンブルー型金属錯体を所望の保護配位子(被覆分子)で覆うことができるため、その被覆分子を水酸基が透過できないものにすることにより、アルカリ耐性を向上させることができる。例えば、被覆分子として負に帯電した部位をもつ化合物を用いれば、陰イオンである水酸基の侵入が阻害されうる。
【0060】
物質吸着薄膜層に、プルシアンブルー型金属錯体超微粒子を含有させたとき、同層に含まれる保護配位子Lは、プルシアンブルー型金属錯体に配位していても、その配位結合がはずれた自由分子であってもよい。物質吸着薄膜層に含まれる保護配位子Lの量は特に限定されず、製膜時及び/又はその後に上述の加熱・洗浄処理により調節除去されてもよい。多すぎるときには例えば、保護配位子の含有量をプルシアンブルー型金属錯体に対して10倍(モル比)以下とすることが好ましく、より減量して素子性能を制御するときには上記含有量を1倍以下(モル比)とすることがより好ましく、1/10以下(モル比)とすることが特に好ましい。
上述したアルカリ耐性を向上させるために所望の保護配位子を含有させるとき、物質吸着薄膜層中の保護配位子の含有量は保護配位子の種類やアルカリ化合物等により適宜調節すればよいが、質量比でプルシアンブルー型金属錯体超微粒子の例えば0.1倍以上10倍以下の保護配位子化合部を含有させることが好ましい。
なお保護配位子Lの含有量に下限は特にないが、例えば上記加熱・洗浄処理等により除去したときに不可避的に(例えば、上記モル比で1/100程度)残留していてもよい。
【0061】
本発明のセンサ用電極体においては、スピンコートなどの安価であり、かつ超微細加工に適した製膜法が利用できるため、センサの製造コストの改善、品質の向上、検出感度や精度の向上が見込める。さらには、簡便なプロセスでのセンサ製造が可能なため、センサの大量生産にも適している。また、センシング材料として超微粒子を用いたため、屈曲可能なフレキシブルセンサとしたり、複雑な形状のセンサとしたりすることができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定して解釈されるものではない。
【0063】
(調製例1)
(A)プルシアンブルーバルク体の合成
(NH[Fe(CN)] 1.0gを水に溶解した水溶液と、Fe(NO・9HO 1.4gを水に溶解した水溶液とを混合し、プルシアンブルーの微結晶を析出させた。遠心分離により、水に不溶性のプルシアンブルー微結晶を分離し、これを水で3回、続いてメタノールで2回洗浄し、減圧下で乾燥した。
【0064】
作製したプルシアンブルーバルク体を粉末X線回折装置で解析した結果を図3(II)のチャート31に示す。これは標準試料データベースから検索されるプルシアンブルーのピークと一致した(図3の(I)に示したピーク図参照)。また、FT−IR測定においても、2070cm−1付近にFe−CN伸縮振動に起因するピークが現れており(図4のスペクトル41参照)、この固形物がプルシアンブルーであることを示している。
【0065】
(B1)有機溶媒分散型プルシアンブルー超微粒子の調製
配位子Lとして、長鎖アルキル基を含む配位子オレイルアミンを溶解させたトルエン溶液5mlに水0.5mlを加えた。(A)で合成したプルシアンブルーのバルク体0.2gを上記の溶液に加えた。一日撹拌するとプルシアンブルーの微結晶がすべてトルエン相に分散した濃青色の分散液が得られた。水とトルエン相を分離し、濃青色のトルエン相を濾過すると、プルシアンブルー微粒子の分散液が得られた(このときのFT−IR測定の結果を図4のチャート43に示す。)。この分散液の紫外可視吸収スペクトル測定結果を図5のスペクトル51に示す。680nm付近のピークはプルシアンブルーのFe−Fe間電荷移動吸収として知られており、この微粒子分散液がプルシアンブルーを含んでいることがわかる。また、この保護配位子としてオレイルアミンを有するプルシアンブルー超微粒子の分散液を透過型電子顕微鏡で観察した結果を図6に示す。これより、平均粒子径10〜15nm程度の超微粒子が合成されていることを確認した。このときプルシアンブルーのバルク体は、水には残らず、ほぼすべてトルエン相に超微粒子として抽出できた。
【0066】
(C1)プルシアンブルー超微粒子集合体の固体粉末の分離、再分散
(B1)で得られた分散液のトルエンを減圧乾固することで、固体粉末をほぼ定量的に得た。得られた固体粉末は、ジクロロメタン、クロロホルム、もしくはトルエンといった有機溶媒に簡単に再分散し、濃青色の透明な分散液となった。
得られたプルシアンブルー超微粒子固体粉末を粉末X線回折装置で解析した結果、標準試料データベースに含まれるプルシアンブルーのピーク位置と一致した(図3のチャート33参照)。なお低角側のピークは過剰に含まれたオレイルアミンによるブロードなバックグラウンドである。
【0067】
(調製例2)
(A)プルシアンブルーバルク体の合成
調製例1と同様にしてプルシアンブルーバルク体を合成した。
(B2)水分散型プルシアンブルー超微粒子の調製
配位子Lとして、2−アミノエタノールを溶解させたメタノール溶液5mlに、(A)で合成したプルシアンブルーのバルク体0.2gを加え3時間程度撹拌してプルシアンブルー型金属錯体超微粒子の分散液を調製した。この超微粒子は、撹拌後もメタノールに溶解することなく固体物として存在していた。このときのFT−IR測定の結果を図4のチャート42に示す。
【0068】
(C2)プルシアンブルー超微粒子集合体の固体粉末の分離、再分散
上記分散液のメタノールを除去して固体粉末αを分離して得た。その固体粉末αに水を加えるとすべて分散し、濃青色透明な分散液βとなった。
【0069】
得られた保護配位子として2−アミノエタノールを有するプルシアンブルー超微粒子の分散液β(溶媒は水)を透過型電子顕微鏡で観察した結果を図7に示す。これより、平均粒子径10〜15nm程度の超微粒子が合成されていることを確認した。また、この分散液の紫外可視吸収スペクトル測定においても、有機溶媒超微粒子分散液の場合と同様680nmにプルシアンブルーを示すピークが観測された(図5のスペクトル52参照)。これらの測定結果より、プルシアンブルー超微粒子の水分散液が得られたことが分かる。
【0070】
固体粉末αを、粉末X線回折装置で解析した結果(図3のスペクトル32参照)からプルシアンブルーのピークが確認された。ピーク半値幅解析の結果、結晶の平均粒子径は約10nm〜20nmであった。このことより、固体粉末αはプルシアンブルーナノ粒子の集合体であることが分かる。
【0071】
(調製例3)
フェリシアン酸カリウム、K[Fe(CN)] 0.329g(0.999mmol)の水溶液1.5mlにアンモニア水NH(28.0%、14.8N)0.1mlを加え、そこに硝酸コバルトCo(NO・6HO 0.437g(1.50mmol)の水溶液1.0mlを加え、3分程度撹拌した。その後、遠心分離によって赤色の沈殿物としてプルシアンブルー型金属錯体結晶を得た。この結晶沈殿物を水で3回、メタノールで1回洗浄した。収量は0.631gであり、収率は105%であった(100%を超えているのは、乾燥が不十分で、水を含んでいるための誤差だと考えられる。)。
オレイルアミン0.443g(1.66mmol、総金属量の100%(モル比))のトルエン溶液3.0mlに、先の合成で得られたプルシアンブルー型金属錯体結晶(コバルト鉄シアノ錯体結晶)の凝集体0.204g(0.340mmol)を加え、1日程度撹拌した。こうしてプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を分散液中に得た。このアンモニアを添加した条件で得たものを分散液試料γとした。
【0072】
次いで分散液試料γ中のトルエンを減圧乾固して除去することにより、プルシアンブルー型金属錯体超微粒子を凝集固体として分離して得た。
上記の分散液試料γに対して、遠心分離を行い、上澄みを一部取り出し、トルエンで希釈してUV−vis光学測定を行った。この試料の可視域における吸収極大値は480nmに存在し(図8参照)、これはアンモニアを添加しないで得たものの極大位置520nmと異なった。この結果より、アンモニアの添加によって、物性の異なるプルシアンブルー型金属錯体超微粒子が得られることが分かる。
【0073】
(調製例4)
((Fe0.2Ni0.8[Fe(CN)の合成)
[Fe(CN)](0.658g(2.00×10−3mol))の水溶液(2ml)を、FeSO・7HO(0.167g(6.00×10−4mol))の水溶液(0.4ml)とNi(NO・6HO(0.698g(2.40×10−3mol))の水溶液(1.6ml)の混合溶液に撹拌しながら加えた。沈殿物を蒸留水で3回遠心洗浄し、メタノールで1回遠心洗浄後、風乾させて目的の金属組成を有するプルシアンブルー型金属錯体結晶を得た。
【0074】
(Fe0.4Ni0.6[Fe(CN)の合成)
[Fe(CN)](0.658g(2.00×10−3mol))の水溶液(2ml)を、FeSO・7HO(0.334g(1.20×10−3mol))の水溶液(0.8ml)とNi(NO・6HO(0.523g(1.80×10−3mol))の水溶液(1.2ml)の混合溶液に撹拌しながら加えた。沈殿物を蒸留水で3回遠心洗浄し、メタノールで1回遠心洗浄後、風乾させて、目的の金属組成を有するプルシアンブルー型金属錯体結晶を得た。
【0075】
((Fe0.6Ni0.4[Fe(CN)の合成)
[Fe(CN)](0.658g(2.00×10−3mol))の水溶液(2ml)を、FeSO・7HO(0.500g(1.80×10−3mol))の水溶液(1.2ml)とNi(NO・6HO(0.349g(1.20×10−3mol))の水溶液(0.8ml)の混合溶液に撹拌しながら加えた。沈殿物を蒸留水で3回遠心洗浄し、メタノールで1回遠心洗浄後、風乾させて、目的の金属組成を有するプルシアンブルー型金属錯体結晶を得た。
【0076】
((Fe0.8Ni0.2[Fe(CN)の合成)
[Fe(CN)](0.658g(2.00×10−3mol))の水溶液(2ml)を、FeSO・7HO(0.667g(2.40×10−3mol))の水溶液(1.6ml)とNi(NO・6HO(0.174g(5.98×10−4mol))の水溶液(0.4ml)の混合溶液に撹拌しながら加えた。沈殿物を蒸留水で3回遠心洗浄し、メタノールで1回遠心洗浄後、風乾させて、目的の金属組成を有するプルシアンブルー型金属錯体結晶を得た。
【0077】
合成した4種の(Fe1−xNi[Fe(CN) 0.10gに、それぞれ水0.2mlを加え、オレイルアミン0.090g(3.4×10−4mol)のトルエン溶液2mlと混ぜ、一日撹拌して本発明のプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を分散液中に得た。
遠心分離を行い、トルエン層を分離して、目的の金属組成を有する超微粒子を分離して得た。得られたプルシアンブルー型金属錯体超微粒子について、それぞれ、その吸収スペクトルを測定した。
図9にその結果を示す。図9中、曲線91は上記化学構造式においてx=0.8のプルシアンブルー型金属錯体超微粒子の結果を示し、曲線92はx=0.6のものの結果を示し、曲線93はx=0.4のものの結果を示し、曲線94はx=0.2のものの結果を示す。
【0078】
この紫外可視吸収スペクトルから、Niの含有量に依存してFe−Fe間電荷移動吸収帯の波長が系統的に長波長側にシフトしていることが分かる。また、400nm付近にFe−CN−Niに由来する吸収帯の強度が系統的に増大した。この結果から、一つのナノ結晶(超微粒子)中に、NiとFeが均一に分布していることを示している(得られた超微粒子(の粉体)に対して、NiとFeが不均一に一つの結晶内に分布している場合や、あるいは、それが、Ni[Fe(CN)とFe[Fe(CN)の超微粒子のそれぞれの単なる混合物である場合では、上記のFe−Fe間電荷移動吸収帯の波長が系統的なシフトは観測されない。)。
【0079】
(調製例5)
次に金属原子M、M、配位子L、分散媒を下表のとおりに代えた以外、試料1〜16については調製例1と同様にして、試料17〜19については調製例2と同様してプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を作製し、表中に記載した分散媒に分散させた分散液を得た。なお、試料20は調製例3で得た超微粒子、試料21は調製例4で得た超微粒子、試料22は調製例1のオレイルアミンを酢酸ブチルに代えた以外同様にして調製した超微粒子分散液を示す。この結果が示すとおり、多様なプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を製造することができることが分かる。
【0080】
【表1】

【0081】
表中のすべての製造例において、工程(A)で合成した錯体結晶は、ほぼすべて錯体微粒子に転換された。すなわち、錯体結晶を合成するための材料を過不足ないよう仕込み比を調整すれば超微粒子の収率をほぼ100%とすることができる。
【0082】
工程(A)のプルシアンブルー型金属錯体結晶を製造する工程においては、上記のものに限らず、別の原料化合物を用いることができる。例えばプルシアンブルーの場合、(NH[Fe(CN)]とFe(NO・9HOとの混合に限らず、K[Fe(CN)] 1.0gを水に溶解した水溶液とFeSO・7HO 0.84gを水に溶解した水溶液との混合や、Na[Fe(CN)]・10HO 1.0gを水に溶解した水溶液とFe(NO・9HO 0.83gを水に溶解した水溶液とを混合することによっても同様に目的とするプルシアンブルー型金属錯体超微粒子が得られる。また、これまで示したとおり金属原子M及びMはFeに限定されず、図10には[Fe(CN)3−とCo2+とから製造したコバルト鉄シアノ錯体超微粒子の透過型電子顕微鏡画像を示した。
【0083】
調製例1で調製したプルシアンブルー型金属錯体超微粒子分散液(FeHCF−OA)及び表1の試料No.16のプルシアンブルー型金属錯体超微粒子分散液(NiHCF−OA)について、それぞれ粒度分布測定(日機装マイクロトラックUPA−EX150使用)を行った結果を図11に示す。粒径のピークは30〜40nmに存在し、電子顕微鏡等で得られる粒径より大きい。これは、溶媒中で複数の粒子が凝集して運動しているためであり、二次粒子の粒径を示している。
【0084】
(実施例1)
表1の試料No.6の分散液、詳しくはFeHCF−OA超微粒子(M=Fe、M=Fe、L=オレイルアミンからなるプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を、以下「FeHCF−OA超微粒子」という。)の粉末104mgをトルエン4mgに分散させた分散液を調製した。その分散液を、スピンコート法を用いてITO被膜したガラス基板(縦25mm、横25mm、厚さ1mmの矩形ガラス基板)上に室温で製膜して物質吸着薄膜層とし、本発明のセンサ用電極体を作製した。このときスピンコートは、基板上に分散液を滴下後、30秒間、回転速度400rpmで回転させ、引き続き10秒間1000rpmで回転させて行った。
触針式膜厚測定機を用いてこの物質吸着薄膜層の膜厚測定を行った。図12の距離d<250μmの部分は物質吸着薄膜層が存在する部分であり、d>250μmの部分が薄膜層を除去した部分である。これより、薄膜層の膜厚は約250nmであり、その膜厚の場所依存性は10〜20nmにとどまっており、良好な薄膜層が得られたことが分かる。
【0085】
(実施例2)
表1の試料14のプルシアンブルー型金属錯体超微粒子(M=Fe、M=Co)の粉末10mgをクロロホルム20mlに分散させた分散液(インク)を用い、化学結合製膜法により、室温にてITO被膜したガラス基板(縦10mm、横40mm、厚さ1mmの矩形ガラス基板)上に物質吸着薄膜層を製膜して、本発明のセンサ用電極体を作製した。詳しくは、濃度3質量%の3−(2−アミノエチルアミノプロピル)−トリメトキシシラン/エタノール溶液に上記ITO基板を15分浸漬し、その後エタノールで洗浄し、加熱炉にて110℃で15分加熱し、次いで乾燥した。得られた基板を上記分散液(インク)に6時間浸漬後、クロロホルムにて洗浄した。
【0086】
次に、図13の構成のセンシングシステムを作製して検知対象物質のセンシングを行った。詳しくは、上記センサ用電極体133(ガラス基板133a、ITO導電性膜133b、物質吸着薄膜層133c)を用い、過酸化水素の有無に対する電気化学特性の変化を測定した。このとき、参照電極134はAg/AgClを用い、対極138には白金電極を用い、電解質液131はリン酸緩衝水溶液(0.05Mリン酸二水和カリウム、0.05Mリン酸水素二カリウム、及び0.10M硝酸カリウム)を用いて、容器132内で行った。なお、各電極は、サイクリックボルタンメトリ測定を行うよう端子により接続した。検知対象物質としては3mM Hを用いた。
図14にそのサイクリックボルタンメトリ測定の結果を示す。化学結合製膜法で製膜したセンサ用電極体のサイクリックボルタンメトリ144では、E0’(FeII/FeIII)=0.44V(1M KCl中)を示し、電極固定種の電気化学反応として、ピーク電流値が掃引速度に比例した。
このセンサ用電極体は、過酸化水素の酸化還元反応に対し電気化学活性を示した(図中のサイクリックボルタンメトリ141)。過酸化水素3mMを加えた場合、ポテンシャル1V時の電流値は過酸化水素未添加時に対して約70倍の増強が観測された。
【0087】
一方、物質吸着薄膜層を設けなかったITO電極基板についても同様に、H未添加のサイクリックボルタンメトリ143及びHを添加したときのサイクリックボルタンメトリ142を測定を行ったが、Hを検出することはできなかった。
【0088】
(実施例3)
表1の試料14に代えて、試料6(プルシアンブルー型金属錯体超微粒子(M=Fe、M=Fe))を用いた以外、実施例2と同様にして本発明のセンサ用電極体及びセンシングシステムを作製し、電気化学特性の変化を測定した。結果を図15に示す。
このセンサ用電極体は、過酸化水素の酸化還元反応に対し電気化学活性を示した(図中のサイクリックボルタンメトリ151)。過酸化水素3mMを加えた場合、ポテンシャル−0.3V時の電流値は過酸化水素未添加時(図中のサイクリックボルタンメトリ152)に対して約400倍の増強が観測された。
【0089】
(実施例4)
表1の試料No.1の分散液、詳しくはFeHCF−OA超微粒子粉末104mgをトルエン4mgに分散させ分散液を調製した。次いで、直径約8mmの円に内接する程度の大きさのハート形の凸型ゴム製支持体に、上記で調製した分散液を塗布し、ITO被膜したガラス基板上に押下接着した。図16に示すとおり、基板上に支持体と同じ形状の物質吸着薄膜層を作製することができた。これにより、所望の形状の物質吸着薄膜層を有するセンサ用電極体を凸版製膜法により簡便に作製することができることが分かる。
【0090】
(実施例5)
原料として塩化鉄6水和物、フェロシアン化ナトリウム10水和物を用いて、調製例1と同様の撹拌抽出法によりFeHCF−OA超微粒子を合成し、その超微粒子0.0676gをトルエン1mlに分散させて超微粒子分散液を得た。その超微粒子分散液を用いて、実施例1と同様にしてITOガラス基板上にスピンコート(500rpm10秒後、1000rpm30秒)して物質吸着薄膜層を形成し、本発明のセンサ用電極体を作製した。これを10分間アセトン中に静置し洗浄処理を施した。
【0091】
このときの超微粒子の状態を確認するため、KBrペレットに上記のFeHCF−OA微粒子を滴下したものについて、アセトン洗浄処理の前後で赤外分光測定を行った。その結果を図17に示す。このとき4000cm−1の測定値に原点を修正後、CN伸縮に起因するピークで規格化を行った。2900cm−1付近のピークは保護分子であるオレイルアミンのCH伸縮に帰属されるものであり、2080cm−1付近のピークはプルシアンブルーのCN伸縮に帰属される。オレイルアミンのCH伸縮のピーク強度が、プルシアンブルーのCN伸縮のピーク強度に比べてアセトン洗浄処理によって減少していることがわかる。
【0092】
上記アセトン洗浄処理した超微粒子を有する透明電極側部材について、サイクリックボルタンメトリ測定を行った。その結果、処理前のものは−1.0V以下の電圧では電気化学応答性をほとんど示さなかったが、アセトン処理を施したものは電気化学応答を示した(図18参照)。この結果より、アセトン洗浄処理がセンサの電気化学応答性を向上させることが分かる。
【0093】
(実施例6)
原料として塩化鉄6水和物、フェロシアン化ナトリウム10水和物を用いて、調製例1と同様の撹拌抽出法によりFeHCF−OA超微粒子を合成し、その超微粒子0.0676gをトルエン1mlに分散させて超微粒子分散液を得た。その超微粒子分散液を用いて、実施例1と同様にしてITOガラス基板にスピンコート(500rpm10秒後、1000rpm30秒)して物質吸着薄膜層を形成し、本発明のセンサ用電極体を作製した。このセンサ用電極体を2時間高温下(50℃、100℃、150℃)に静置し加熱処理を施した。
【0094】
このときの超微粒子の状態を確認するため、実施例5と同様にして作製したKBr試料を100℃もしくは150℃で加熱処理をし、それぞれ、赤外線分光測定を行った。このときの結果を図17に併せて示している。アセトン処理のとき以上に、オレイルアミンのCH伸縮の相対的ピーク強度が減少していることが分かる。
上記の透明電極側部材を用い、サイクリックボルタンメトリ測定を行った結果を図19に示す。150℃に静置したものについては、電気化学応答性が明確に向上した(図中の実線)。100℃で処理したものにおいても電気化学応答性が向上した(図中の破線)。これに対し、50℃で処理したものでは電気化学応答性は向上しなかった(図中、一点鎖線)。この結果より、所定温度による加熱処理を施すことにより、センサの電気化学的応答性を向上させることができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明のセンサ用電極体の好ましい態様の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明のセンサ用電極体に用いられるプルシアンブルー型金属錯体超微粒子の構造を模式的に示す説明図である。
【図3】プルシアンブルー結晶及びその超微粒子の粉末X線回折の結果を示す図であり、(I)は標準試料のピーク位置を示し、(II)は得られた超微粒子の測定結果を示す。
【図4】プルシアンブルー結晶及びその超微粒子のFT−IR測定結果を示す図である。
【図5】プルシアンブルー超微粒子分散液の紫外可視吸収スペクトルである。
【図6】有機溶媒分散型プルシアンブルー超微粒子の透過型電子顕微鏡像の図面代用写真である。
【図7】水分散型プルシアンブルー超微粒子の透過型電子顕微鏡像の図面代用写真である。
【図8】コバルト鉄シアノ錯体超微粒子(溶媒:トルエン)のUV−visスペクトルである。
【図9】金属原子Mの組成(鉄―ニッケル組成)を変化させて得たプルシアンブルー型金属錯体超微粒子の吸収スペクトルである。
【図10】コバルト鉄シアノ錯体超微粒子の透過型電子顕微鏡像の図面代用写真である。
【図11】分散液中のプルシアンブルー型金属錯体超微粒子の粒度分布測定結果を示すグラフである。
【図12】本発明のセンサ用電極体の物質吸着薄膜層の膜厚測定結果を示すグラフである。
【図13】本発明のセンサ用電極体を備えたセンシングシステムの態様を模式的に示す断面図である。
【図14】本発明のセンサ用電極体における過酸化水素のセンサ応答を示すサイクリックボルタンメトリの測定結果である。
【図15】本発明の別のセンサ用電極体における過酸化水素のセンサ応答を示すサイクリックボルタンメトリの測定結果である。
【図16】ハート型にプルシアンブルー型金属錯体超微粒子薄膜を凸版製膜した本発明のセンサ用電極体を示す図面代用写真である。
【図17】KBrペレットにFeHCF−OA微粒子分散液を滴下した試料に加熱・洗浄処理を施したときの赤外分光スペクトルである。
【図18】本発明のセンサ用電極体に洗浄処理を施したときのサイクリックボルタンメトリの変化を測定した結果である。
【図19】本発明のセンサ用電極体に加熱処理を施したときのサイクリックボルタンメトリの変化を測定した結果である。
【図20】プルシアンブルー型金属錯体の結晶構造を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0096】
1 物質吸着薄膜層
2 導電性構造体
21 プルシアンブルー型金属錯体(微結晶)
22 配位子L
31 プルシアンブルー結晶のX線回折測定結果
32 水分散型プルシアンブルー超微粒子のX線回折測定結果
33 有機溶媒分散型プルシアンブルー超微粒子のX線回折測定結果
41 プルシアンブルー結晶の赤外線吸収スペクトル
42 水分散型プルシアンブルー超微粒子の赤外線吸収スペクトル
43 有機溶媒分散型プルシアンブルー超微粒子の赤外線吸収スペクトル
51 プルシアンブルー超微粒子(トルエン分散液)の紫外可視吸収スペクトル
52 プルシアンブルー超微粒子(水分散液)の紫外可視吸収スペクトル
220 プルシアンブルー型金属錯体
221 金属原子M
222 炭素原子
223 窒素原子
224 金属原子M

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護配位子を有するプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を含有させた分散液により形成した物質吸着薄膜層を、導電性構造体に設けたセンサ用電極体であって、前記導電性構造体に電圧を印加して前記電極体を電気的に制御し、前記物質吸着薄膜層の表面に目的物質が吸着したときの選択的な電気特性変化を測定することにより、その目的物質を検知しうることを特徴とするセンサ用電極体。
【請求項2】
前記目的物質が分子であることを特徴とする請求項1記載のセンサ用電極体。
【請求項3】
前記目的物質が過酸化水素であることを特徴とする請求項1又は2記載のセンサ用電極体。
【請求項4】
前記物質吸着薄膜層に電気化学特性制御剤を含有させたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
【請求項5】
前記物質吸着薄膜層が、前記分散液により形成した薄膜層と、電気化学特性制御剤を含有させた薄膜層とを少なくとも有する多層薄膜層であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
【請求項6】
前記超微粒子が、下記金属原子Mと金属原子Mとを有するプルシアンブルー型金属錯体結晶に、ピリジル基もしくはアミノ基を含有する化合物を保護配位子として1種または2種以上配位させた、平均粒子径200nm以下の超微粒子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
[金属原子M:バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、ロジウム、オスミウム、イリジウム、パラジウム、および銅から選ばれる少なくとも1つの金属原子。]
[金属原子M:バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、およびカルシウムから選ばれる少なくとも1つの金属原子。]
【請求項7】
前記保護配位子とする化合物の炭素原子数が4以上100以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
【請求項8】
前記保護配位子とする化合物が下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素原子数8以上のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基を表す。)
【化2】

(式中、Rは炭素原子数8以上のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基を表す。)
【化3】

(式中、Rは炭素原子数6以上のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基を表し、Rはアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基を表す。)
【請求項9】
前記置換基R〜Rがアルケニル基であることを特徴とする請求項8記載のセンサ用電極体。
【請求項10】
前記物質吸着薄膜層中に、前記保護配位子化合物を質量比でプルシアンブルー型金属錯体の10倍以下の範囲で含有させ、アルカリ耐性を高めたことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
【請求項11】
前記物質吸着薄膜層が、前記分散液を、スピンコート製膜法、ラングミュアブロジェット製膜法、スプレー製膜法、レイヤーバイレイヤー製膜法、及び印刷法のいずれかにより塗布製膜した、高表面積吸着面を有する液体製膜層であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
【請求項12】
前記分散液が撹拌抽出法により調製したプルシアンブルー型金属錯体超微粒子の分散液であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
【請求項13】
前記物質吸着薄膜層の製膜時及び/又はその後、加熱処理及び/又は洗浄処理を施すことにより、前記保護配位子を除去したことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のセンサ用電極体を備えたセンサ。
【請求項15】
請求項14に記載のセンサであって、食物中の微量の過酸化水素を検知することを特徴とする食品検査用センサ。
【請求項16】
請求項14に記載のセンサであって、生体物質を検知することを特徴とするバイオセンサ。
【請求項17】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のセンサ用電極体、対極電極、及び参照電極を組み合わせて、液相で目的物質を検知することを特徴とするセンシングシステム。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の電極体を製造するに当り、撹拌抽出法もしくは逆ミセル法により保護配位子を有するプルシアンブルー型金属錯体の超微粒子を分散させた分散液を調製し、導電性構造体に前記分散液により物質吸着薄膜層を形成することを特徴とするセンサ用電極体の製造方法。
【請求項19】
前記保護配位子をアミノ基もしくはピリジル基を含有する化合物とし、スピンコート製膜法、ラングミュアブロジェット製膜法、レイヤーバイレイヤーディップ製膜法、及び印刷法から選ばれる製膜法により前記分散液を塗布して物質吸着薄膜層を形成することを特徴とする請求項18記載のセンサ用電極体の製造方法。
【請求項20】
前記物質吸着薄膜層の製膜時及び/又はその後、洗浄処理及び/又は加熱処理を施して前記保護配位子を除去することを特徴とする請求項18又は19記載のセンサ用電極体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図10】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2008−46001(P2008−46001A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222081(P2006−222081)
【出願日】平成18年8月16日(2006.8.16)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)