説明

センサ装置

【課題】使用者がロータあるいはそれを内蔵したマウスピース等の部品の交換時期を簡便に知るための手段を備えたピークフローメータを提供する。
【解決手段】磁石を備えたシャフトおよびそこから延びるブレードを有するロータ、空気流が該ブレードに当る事によって該シャフトが回転した時にコイルに発生するパルス信号を検知するコイルとを備え、呼吸の空気流に応答してコイルに出力信号を発生し、該出力信号が患者によって吐き出された空気の体積および吐き出された速度に関する情報を提供するセンサ装置において、該コイルに一定時間交流電圧を印加すると共に該磁石に対して一定の回転トルクを与えて回転させた後に通電を停止する通電制御手段を備え、通電停止後、該コイルに発生するパルス信号を基に該ロータの回転停止までの時間を計測する演算手段を備えることを特徴とするセンサ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人間の肺機能を測定するセンサ装置に関する。更に詳細には、風車式ピークフローメータを長期間にわたって使用した場合のロータの軸磨耗を簡便に検出し、測定性能を確保したセンサ装置を提供する。
【背景技術】
【0002】
喘息患者の気道閉塞の日常管理として簡易なピークフローメータが用いられている。ピークフローとは、充分に息を吸い込んだ状態から思い切り早く空気を吐き出した時の最大呼気流速(Peak Expiratory Flow Rate, PEFR)である。喘息発作が起きた時には、気管収縮や粘膜浮腫、分泌物増加に伴いピークフロー値が低下する。ピークフローの変化は非常に感度がよく、自覚症状のない喘息発作でも変化が現れることから喘息のコントロール指標として自己管理に使用されている。
【0003】
ピークフローメータには機械的に最大流速値を指示するものや、ロータの回転速度から最大流速を演算するものなど各種の機械が臨床の場で使用に供されている。このピークフローメータの中でも、風車式ピークフローメータは、回転軸であるシャフトおよびそれから伸びるブレードを備えたロータの回転速度が風速に一致する事を利用し、マウスピース中にもうけられたロータに呼気をあてることで回転させ、その回転速度から最大呼気流速であるピークフローを測定する装置である(特許文献1、2)。
【0004】
【特許文献1】特表平10−509891号公報
【特許文献2】特表平10−500598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
風車式ピークフローメータは、検出手段であるロータが呼気により高速で回転することから、長期の使用により回転軸の磨耗が生じる。ロータのシャフトの先端は回転トルクの低減のため先細の構造をとっているが、長期使用に伴うシャフト先端部の磨耗により、ロータの回転軸の摩擦トルクが上昇することから、その影響は特に低流速での測定精度が悪くなるという形で現れ、ピークフローが低下した患者への影響が問題となる。
【0006】
従来の装置では軸磨耗を検出する手段は無く、一定期間使用後にマウスピースを交換することで対応するしか術はない。しかしピークフローメータの使用者によって磨耗の程度は異なるため、ある患者の場合には磨耗速度が著しく進行して誤差を生じ、またある患者が使用するピークフローメータでは、磨耗していないマウスピースを無駄に廃棄するという課題が生じている。
【0007】
本発明は、かかる課題を解決する手段として、使用者がロータあるいはそれを内蔵したマウスピース等の部品の交換時期を簡便に知るための手段を備えたピークフローメータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、回転軸を形成するシャフトおよびそこから延びるブレードを有し、該シャフトの第1および第2の先端で保持され、空気流が回転を引き起こしたときにコイルにパルスを発生する磁界を提供する磁石を該シャフトに備えたロータと、パルス信号を検知するコイルとを備え、呼吸の空気流に応答してコイルの出力信号を発生し、該出力信号が患者によって吐き出された空気の体積および吐き出された速度に関する情報を提供するセンサ装置において、該コイルに、一定時間交流電圧を印加すると共に、該磁石に対して一定の回転トルクを与えて回転させた後に通電を停止する通電制御手段を備え、通電停止後、該コイルに発生するパルス信号を基に該ロータの回転停止までの時間を計測する演算手段を備えることを特徴とするセンサ装置を提供する。
また、かかる演算手段が、該ロータの回転停止までの時間と、予め決定した停止時間との差からシャフトの先端の軸磨耗を判定する手段であるセンサ装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセンサ装置は、呼吸気流により回転するロータの回転数によりピークフローを測定するセンサ装置自身に、一定回転トルクを与えたときのロータの回転停止時間に基づくシャクフト先端の軸磨耗の自己判定機能を備えることで、外部装置として一定風量を発生させるための別な装置を設ける必要は無く、使用者あるいは医師などが簡便に機器性能を評価することができる。装置の交換時期の適正化、機器性能の信頼性を向上させ、喘息患者の健康管理に利する機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本願発明のセンサ装置の実施態様例を、以下の風車式ピークフローメータを用いて説明する。図1は複数のブレードを有したロータに対して、マウスピースを介して患者の呼気を吹き付け、回転させることで、ロータのシャフトに設けた磁石が発生する磁界をコイルによってパルス波として検知することで風速を検知するピークフローメータ(商品名:エアウォッチ/Lifchat.com社製)である。(A)は上面、(B)は下面の概観を示す。
【0011】
患者の呼気を吹き付けるマウスピース部、マウスピース部に続く円筒状チャンバ部を備えたセンサチャンバーと、センサの出力値を元にピークフロー値を演算する演算部および結果を表示する表示部50を備えたハウジングとが一体となったセンサ装置である。
【0012】
図2はセンサチャンバー70の上面(A)、底面(B)を示し、円筒状チャンバ部の断面は円形断面を有し、円筒状部の上面中央には軸コネクタ76を形成し、軸コネクタ76を中心として径方向に変位してハウジング内にマウスピース部74の収納、取出しが可能となる。また上面、底面部に組になった通気口が円筒状チャンバ部の外周に沿って配置される。
【0013】
かかる装置は、呼吸の空気流に応答してコイル69の出力信号を発生し、該出力信号が患者によって吐き出された空気の体積および吐き出された速度に関する情報を提供するセンサ装置である。
【0014】
図3にセンサチャンバー70の断面図で示すように、所定の体積、上および底内部面および患者から空気流を受けるマウスピース開口を有し、その上面には上カップ80+が形成されかつ底面には底カップ80bが形成されるチャンバと、その内部には、シャフト84およびそこから延びる垂直羽根88を備えたブレード86を有し、該シャフト84は第1および第2の先端で終端し、第1先端90+は上カップ内に合わされかつ第2先端90bは底カップ内に合わされてシャフト84が回転軸に沿って配向しているロータ82を形成している。シャフト部分には円筒状の棒磁石92が回転軸に対して垂直に埋め込まれており、空気流が前記ロータ82の回転を引き起こしたときに磁界によって、コイル69にパルス電流を発生させる。
【0015】
患者が吐き出す呼気の風速に基づいてロータの回転数が変化し、それに伴ってシャフト部分に埋め込まれた磁石が回転することで生じる磁界が変化する。この磁界変化をコイルにより電圧に変換し、風速を検出演算し、演算結果を表示部50に表示する。
【0016】
ピークフローメータの長期の使用により、シャフトの先端部には磨耗が発生する。回転軸であるシャフトの先端部の磨耗は、回転トルクの上昇を生み、ロータの回転速度と患者の呼気風速との差が一定以上乖離すると測定精度に問題が生じる。これを検出するには装置の出荷前に一定風速での回転速度を記録し、使用後に同じ一定速度の風速での回転速度を測定して比較することができれば判定することは可能である。
【0017】
センサ装置の製造時には、シリンダとモータによって構成された専用の擬似呼吸発生装置を用いることで一定風速を出すことは可能であるが、使用者側でこのような「一定の風速」を出す装置を設ける事は現実問題として不可能である。
【0018】
本発明の装置では、ロータに対して一定の回転トルクを与える方法を見出し、これを新たな手段を用いる事で実現する。具体的にはロータの回転数の検出に用いているコイルに対して交流電圧を印加することにより、ロータに一定の回転トルクを与えて、回転させる。回転用コイルとして検出用コイルとは別に設けることも可能であるが、検出用として用いているコイルをそのまま回転用に援用することが可能であり、部品点数の削減の面からも好ましい。一定トルクで回転後、ロータが慣性で回転している間にコイルを回転駆動回路から測定回路に戻し、その回転が停止するまでの時間を測定する。
【0019】
ピークフローの測定は、マウスピースに呼気を吐出することによりロータが回転し、ロータのシャフトに埋め込まれた円筒状の棒磁石92によって発生する磁界の変化をコイル69で検知する。図4に示すようにコイル69は磁石92が1回転することにより2パルスを生成し、このパルスは、増幅、フィルタリング処理され、マイクロコントローラ40によりデジタル演算処理され、ピークフロー値が計算され、RAM42に格納され、液晶表示装置50に表示される。
【0020】
これに対して、軸磨耗の検出は、コイル69に一定時間、交流電圧を印加し、回転磁界を形成する事で、ロータ82のシャフトに埋め込まれた磁石92に一定の回転トルクを与え、回転させる。一定の回転後に通電を停止し、ロータの回転が停止するまでの時間を計測し、あらかじめ決めておいた停止時間までの差をみる事で軸の磨耗を判定する。
【0021】
製造時、あらかじめ測定していた停止までの時間と使用者がチェックしたときのこの時間を比較し、あらかじめ決められた範囲外であれば不合格としてマウスピースの交換を促すサインを測定器に表示する。これらの切替はマイコンによって制御されるソフトウェアによって行う。
【0022】
図5に風車型のピークフローメータ(商品名:エアウォッチ/Lifchat.com社製)を用い、0.55Lの1秒量を吐出した際の擬似波形に相当する3Vの電圧をコイル69にかけた場合の、正常品(1)及び軸磨耗を起こした低下品(2)および、更に磨耗が進行しピークフロー表示が出来なくなった低下品(3)のロータの回転数の経時変化を示す。
【0023】
3Vの電圧を0.6秒間印加し、ロータに回転トルクを与え、正常品で37rpsの回転数を示した時点で通電を止め、その後の回転数の変化を検知する。RAM42に記憶した正常品(1)と比較し、切替後所定時間経過後(0.5秒経過後の1.1秒)の回転数に対して、低下品(2)のように、回転数が所定下限閾値を外れた場合に軸磨耗異常と判断する。低下品(3)のように、更に磨耗が進行すると、印加電圧に対して測定可能な回転数まで回転しない状態になる。
【0024】
検知方法は、上記のように所定時間経過後の回転数で演算する方法の他、所定回転数まで回転させた後、基準回転数まで回転数が低下するまでの時間により演算する方法も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のセンサ装置の外観図。
【図2】センサチャンバーの外観図。
【図3】センサチャンバーの断面図。
【図4】本発明のセンサ装置の軸磨耗測定システムのブロック図。
【図5】ピークフローメータのロータ回転数の経時変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を形成するシャフトおよびそこから延びるブレードを有し、該シャフトの第1および第2の先端で保持され、空気流が該ブレードに当る事によって該シャフトが回転を引き起こしたときにコイルにパルスを発生させる磁界を提供する磁石を該シャフトに備えたロータと、該パルス信号を検知するコイルとを備え、呼吸の空気流に応答してコイルに出力信号を発生し、該出力信号が患者によって吐き出された空気の体積および吐き出された速度に関する情報を提供するセンサ装置において、
該コイルに一定時間交流電圧を印加すると共に該磁石に対して一定の回転トルクを与えて回転させた後に通電を停止する通電制御手段を備え、通電停止後、該コイルに発生するパルス信号を基に該ロータの回転停止までの時間を計測する演算手段を備えることを特徴とするセンサ装置。
【請求項2】
該演算手段が、通電停止後、該ロータの回転停止までの時間と、予め決定した停止時間との差から該シャフトの先端の軸磨耗を判定する手段である、請求項1記載のセンサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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