センサ診断方法およびセンサ診断装置
【課題】本発明の目的は、異常の種類を区別可能なセンサ診断方法および装置を提供することである。
【解決手段】本発明は、あらかじめ設定した正常データから異常状態のデータ分布を推定して異常データを作成しておき、入力した複数の前記診断データが前記正常データと前記異常データのいずれの分布に近いか判定するとともに、前記診断データの状態を判定し、前記診断データの状態と過去の診断データの状態に基づき、センサの異常の種類を判定することを特徴とする。
【解決手段】本発明は、あらかじめ設定した正常データから異常状態のデータ分布を推定して異常データを作成しておき、入力した複数の前記診断データが前記正常データと前記異常データのいずれの分布に近いか判定するとともに、前記診断データの状態を判定し、前記診断データの状態と過去の診断データの状態に基づき、センサの異常の種類を判定することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ診断方法およびセンサ診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントにおけるセンサ,回転機,弁などの機器は、一定期間ごとに保守作業が行われている。保守作業は主に定期検査において行われる。定期検査における機器の校正,分解点検,取替えなどによる作業量は、膨大なものとなっている。
【0003】
プラントを安全かつ効率的に稼動させることを目的として、これまでの一定期間ごとに保守作業を行う時間保全に代わり、機器の状態を監視して必要な時期に保守作業を行う状態監視保全が検討されている。また、機器の状態監視は、保守作業を効率的にするために、異常の有無を診断するだけではなく、異常の箇所や種類を特定することが求められている。
【0004】
機器の状態監視は、主に各機器に取り付けられた温度や振動などのセンサによって行われる。そして、異常の箇所や種類を特定するには、最初に、計測しているセンサ自体の診断をしなければならない。すなわち、センサを通して計測したプロセス値に何らかの異常が認められた場合に、計測対象は正常でありセンサが異常なのか、センサは正常であり計測対象が異常なのかを区別する必要がある。
【0005】
特許文献1は、プラント運転中のセンサの状態監視を開示する。特許文献1は、複数のセンサのプロセス値からニューラルネットを用いてドリフトのない真値を推定し、この真値と計測値の差からドリフトの有無を診断する方法である。
【0006】
また、特許文献2には、ニューラルネットを用いた異常の区別方法として、正常データから異常データを模擬的に作成する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−207373号公報
【特許文献2】特開平8−320251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の手法は、異常の種類を考慮していない。そのため、図4のようにセンサが故障して出力値が振り切れた場合でも、特許文献1の手法では大きなドリフトが発生したと判断し、ドリフトと故障を区別できない可能性がある。
【0009】
また、特許文献2の方法では過去の異常の事例から異常を推定して作成する。但し、特許文献2による推定方法が適切でない場合、異常の区別精度が十分でない可能性がある。また、この方法では、異常の発生過程における状態の変化については考慮していない。例えば、センサのドリフトは徐々に発生するが、故障であれば突発的に発生することが多い。このような異常の発生過程の特徴を用いれば、異常を高い精度で区別できるが、このような方法はこれら特許文献には記載されていない。
【0010】
本発明の目的は、異常の発生過程における状態の変化を考慮することにより異常の種類を区別可能なセンサ診断方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、あらかじめ設定した正常データから異常状態のデータ分布を推定して異常データを作成しておき、入力した複数の前記診断データが前記正常データと前記異常データのいずれの分布に近いか判定するとともに、前記診断データの状態を判定し、前記診断データの状態と過去の診断データの状態に基づき、センサの異常の種類を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、上記手段により構成されるため、複数のプロセス値を用いたセンサ診断において、異常の発生過程における状態の変化を考慮することにより異常の種類を区別できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1のセンサ診断方法および装置の構成図である。
【図2】実施例1の手順を示すフローチャートである。
【図3】正常データと異常データの説明図である。
【図4】実施例1における異常時のプロセス値変化の説明図である。
【図5】正常データの例である。
【図6】実施例1における異常Aの異常データの例である。
【図7】実施例1における異常Aの状態履歴データの例である。
【図8】実施例1における異常Bの状態履歴データの例である。
【図9】実施例2における異常時のプロセス値変化の説明図である。
【図10】実施例2における異常Aの異常データの例である。
【図11】実施例2における異常Aの状態履歴データの例である。
【図12】実施例2における異常Bの状態履歴データの例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、各実施例を説明する。
【実施例1】
【0015】
本実施例のセンサ診断により検出される異常の種類は、センサのドリフトを示す異常A、ドリフト以外のセンサ故障を示す異常Bとする。そして、これらの異常を区別する例について説明する。図4は、センサのドリフト発生と故障によって計測されるプロセス値の変化の例を示す。縦軸はプロセス値を示し、横軸に時間を示す。
【0016】
図1は、本実施例のセンサ診断方法および装置の全体構成である。本実施例のセンサ診断装置は、データ入力手段1,正常状態データベース2,異常データ作成手段3,異常状態データベース4,類似状態判定手段5,状態履歴データベース6,異常種類判定手段7,診断結果出力手段8を備える。
【0017】
データ入力手段1は、複数の流量計,温度計,圧力計,レベル計,振動計が計測したプロセス値を、診断データとしてコンピュータに入力する。これら複数のプロセス値は、プラント運転によってプロセス値が変化する際に、互いに相関をもって変化する組み合わせである。例えば、冗長化されたセンサを組み合わせる。
【0018】
正常状態データベース2には、あらかじめ用意された正常データが格納されている。図5は、各センサで計測したプロセス値の時系列データであり、正常データを示す。
【0019】
異常データ作成手段3は、正常状態データベース2に格納された正常データから、異常状態のデータ分布を推定して、複数の異常データを作成する。作成した異常データは異常状態データベース4に格納される。
【0020】
異常状態データベース4は、異常データ作成手段3で作成された異常データが格納されている。異常状態データベース4の例を図6に示す。
【0021】
類似状態判定手段5は、データ入力手段1で入力した診断データが、正常状態データベース2から読み込んだ正常データと、異常状態データベース4から読み込んだ複数の異常データのうち、どの分布に近い状態にあるか判定する。
【0022】
状態履歴データベース6は、類似状態判定手段5で判定された診断データの状態、及び、正常又は異常の判定結果が格納されている。図7および図8に状態履歴データベース6の例を示す。
【0023】
異常種類判定手段7は、類似状態判定手段5で判定された診断データの状態と、状態履歴データベース6に格納された過去の診断データの状態をもとに、異常の種類を判定する。
【0024】
診断結果出力手段8は、異常種類判定手段7で診断した結果をディスプレイなどに表示する。また、同手段は、異常と診断された場合に警報を鳴らす機能を備える。
【0025】
図2は本実施例によるセンサ診断の手順を示すフローチャートである。
【0026】
ステップ101では、異常データ作成手段3により、あらかじめ用意した正常データから異常データを作成する。この正常データは、例えば、プラント運転サイクルの初期に計測したデータである。
【0027】
図3は、データ分布の例を示す。図3の横軸はプロセス値1を示し、縦軸はプロセス値2を示す。センサが計測するプロセス値1にドリフト(異常A)が発生する場合、正常時のデータ分布に比べてプロセス値1が増加(または減少)する。したがって、正常データをもとに異常Aのデータ分布を推定できる。図5の正常データをもとに、プロセス値1に0.5%のドリフトが発生した場合の異常データを作成すると、図6の異常データが得られる。この異常データは、例えば、プロセス値1について−0.5%から+0.5%まで0.1%ステップで作成しておく。本実施例では、ドリフトがプロセス値1に発生した場合
のみについて説明する。但し、同様にプロセス値2,プロセス値3にドリフトが発生した場合についても異常データを作成してもよい。
【0028】
ステップ102は、データ入力手段1が類似状態判定手段5に診断データを入力する。
【0029】
ステップ103〜105は類似状態判定手段5により実施される。
【0030】
ステップ103は、類似状態判定手段5が正常状態データベース2から正常データを読み込み、異常状態データベース4から異常データを読み込み、診断データと正常データとの距離,診断データと各異常データとの距離を計算する。距離の計算方法は、マハラノビス距離を用いることができる。一般に、多変数ベクトルx=(x1,…,xn)Tの平均をμ=(μ1,…,μn)T、共分散行列Σとすると、マハラノビス距離Dは次の式で計算できる。具体的には、nはセンサの組み合わせ数、xi(i=1〜n)はi番目のセンサのプロセス値である。なお、Tは転置行列を示す記号である。
【0031】
【数1】
【0032】
ステップ104は、診断データまでのマハラノビス距離が最小となる正常データまたは異常データを特定する。この結果から、診断データのドリフト量を得ることができ、このドリフト量を診断データの状態量とする。例えば、t=104hの診断データが最も近いのは正常データであるので、状態量は0%となる。また、t=105hの診断データが最も近いのはドリフト0.1%の異常データであるので、状態量は0.1%となる。
【0033】
ステップ105は、診断データが正常であるか異常であるかを判定する。ステップ104により、診断データとのマハラノビス距離が最小となるデータは異常データであり、かつ、診断データの状態量が、あらかじめ設定されたしきい値以上の状態にある場合、その診断データは異常と診断される。例えば、異常Aの検出しきい値を状態量0.4%と設定した場合、状態量0.4%以上にあれば異常と判定する。正常と判定された場合は、ステップ102に戻り次の診断データを入力し、異常と判定された場合にはステップ106へ進む。
【0034】
図7,図8は、ステップ105の判定結果を示す。図7は、図4においてドリフト発生の場合の判定結果であり、図8は、故障の場合の判定結果である。
【0035】
ステップ106〜109は異常種類判定手段7により実施される。
【0036】
ステップ106は、異常が発生した時刻から過去の状態を調べる。図4のように、ドリフトは徐々に増加(減少)していくので、診断データの状態量は連続的な変化として観測される。ドリフトの状態量は単調に増加(減少)するとは限らないが、例えば状態量0.4%に到達するまでに必ず中間状態である状態量0.2%を経由しているはずである。中間状態とは、正常状態から異常状態へ変化する途中の状態であり、正常状態にあった時刻から異常状態になった時刻までの間の任意の時刻に現れる。例えば、t=104hで正常状態の状態量が0%であり、t=108hで異常状態の状態量が0.4%であるとすると、これらの中間値である0.2%を中間状態の状態量と定義し、t=105〜107hのある時刻にこの中間状態にあると考えられる。なお、中間状態の状態量は0.1%,0.3%など、正常状態と異常状態の間の任意の値に定義してもよい。
【0037】
一方、故障の場合、状態量の変化が急激であり、1h間隔の計測では不連続に変化し、中間状態を見つけることはできない。この間隔は計測対象に応じてあらかじめ設定しておく。例えば、ドリフトは数ヶ月かけて発生するが、故障の場合1h以下で発生することが多いので計測を1h間隔とすればよい。
【0038】
一方、故障の場合、状態量の変化が急激であり、計測している時間間隔において不連続である。なお、この時間間隔は計測対象に応じてあらかじめ設定しておく。
【0039】
ステップ107は、このような異常発生過程で、診断データの状態量が中間状態を経由したかどうかを判定する。診断データが中間状態を経由した場合は異常A(ステップ108)、経由しない場合は異常Bと判定する(ステップ109)。
【0040】
図7の例では、t=108hで状態量0.4%を検出して異常と判定される。また、それ以前のt=106hにおいて中間状態である状態量0.2%の状態を経由している。そのため、図7の診断データは、異常Aと判定する。一方、図8の例では、t=105hで異常と判定される。但し、t=105h以前に中間状態(例えば状態量−5%)を経由していないので、図8の診断データは故障である異常Bと判定する。したがって、異常Aと異常Bを区別できる。異常種類が判定された診断データは、診断結果出力手段8に送信される。
【0041】
ステップ110は、診断結果出力手段8により診断結果を出力する。
【0042】
上記実施例により、複数のプロセス値を用いたセンサ診断において、センサの異常の種類としてドリフトとドリフト以外の故障とを区別できる。
【実施例2】
【0043】
本実施例では、センサ診断により検出される異常について、プラント運転によりプロセス値が正常データの範囲外まで変化した場合を異常A、センサ故障を異常Bとして、異常を区別する例について説明する。図9にプラント運転によるプロセス値の変化と故障によるプロセス値の変化の例を示す。
【0044】
本実施例は実施例1と同様、図2のフローチャートの手順によって行う。
【0045】
ステップ101では、異常データ作成手段3により、あらかじめ用意した正常データから推定可能な異常データを作成する。
【0046】
図3にデータ分布の例を示す。プラント運転条件などの変化により、プロセス値そのものが変化する場合、各プロセス値は一定の関係(多くは線形)で同時に変化するので、図のように正常時のデータ分布から外挿して異常Aのデータ分布を推定できる。図5の正常データ(出力8〜12%)をもとに、プロセス値が出力15〜16%の領域まで変化した場合の異常データを作成すると、図10の異常データが得られる。この異常データは、例えば、出力値について13%から20%まで1%ステップで作成しておく。
【0047】
ステップ102〜104は、実施例1と同様である。
【0048】
ステップ105では、診断データが正常であるか異常であるかを判定する。なお、本実施例では、診断データの状態量として、プラントの出力値を使用する。例えば、異常Aの検出しきい値を出力16%と設定した場合、16%以上の状態にあれば異常と判定する。
正常と判定された場合は、ステップ102に戻り次の診断データを入力し、異常と判定された場合にはステップ106へ進む。
【0049】
プラント運転によるプロセス値の変化を判定した結果を図11に、故障の場合の判定結果を図12に示す。
【0050】
ステップ106では、異常が発生した時刻から過去の状態を調べる。図9のようにプロセス変化は、連続的な変化として観測され、例えば出力12%から変化して出力16%に到達するまでに必ず中間状態である14%を経由しているはずである。一方、故障の場合は変化が急激であり、計測している時間間隔において不連続である。なお、この時間間隔は計測対象に応じてあらかじめ設定しておく。
【0051】
ステップ107では、このような異常発生過程で中間状態を経由したかどうかを判定し、中間状態を経由した場合は異常A(ステップ108)、経由しない場合は異常Bと判定する(ステップ109)。
【0052】
図11の例では、t=108hで出力16%を検出して異常と判定され、それ以前のt=106hにおいて中間状態である出力14%の状態を経由しているので、異常Aと判定する。一方、図12の例では、t=105hで異常と判定されるが、それ以前に中間状態(例えば出力4%)を経由していないので、故障である異常Bと判定する。したがって、異常Aと異常Bを区別できる。
【0053】
ステップ110では、診断結果出力手段8により診断結果を出力する。
【0054】
上記実施例により、複数のプロセス値を用いたセンサ診断において、センサの異常ではなくプロセスの変化であるか、センサの故障であるかを区別できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
複数のプロセス値を用いたセンサ診断において、センサ自体の異常の有無がわかるので、異常の箇所を特定するのに役立つ。また、センサの異常の種類を区別することにより保守作業の必要性を知ることができる。その結果、保守作業量およびコストを削減できる。
【符号の説明】
【0056】
1 データ入力手段
2 正常状態データベース
3 異常データ作成手段
4 異常状態データベース
5 類似状態判定手段
6 状態履歴データベース
7 異常種類判定手段
8 診断結果出力手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ診断方法およびセンサ診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントにおけるセンサ,回転機,弁などの機器は、一定期間ごとに保守作業が行われている。保守作業は主に定期検査において行われる。定期検査における機器の校正,分解点検,取替えなどによる作業量は、膨大なものとなっている。
【0003】
プラントを安全かつ効率的に稼動させることを目的として、これまでの一定期間ごとに保守作業を行う時間保全に代わり、機器の状態を監視して必要な時期に保守作業を行う状態監視保全が検討されている。また、機器の状態監視は、保守作業を効率的にするために、異常の有無を診断するだけではなく、異常の箇所や種類を特定することが求められている。
【0004】
機器の状態監視は、主に各機器に取り付けられた温度や振動などのセンサによって行われる。そして、異常の箇所や種類を特定するには、最初に、計測しているセンサ自体の診断をしなければならない。すなわち、センサを通して計測したプロセス値に何らかの異常が認められた場合に、計測対象は正常でありセンサが異常なのか、センサは正常であり計測対象が異常なのかを区別する必要がある。
【0005】
特許文献1は、プラント運転中のセンサの状態監視を開示する。特許文献1は、複数のセンサのプロセス値からニューラルネットを用いてドリフトのない真値を推定し、この真値と計測値の差からドリフトの有無を診断する方法である。
【0006】
また、特許文献2には、ニューラルネットを用いた異常の区別方法として、正常データから異常データを模擬的に作成する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−207373号公報
【特許文献2】特開平8−320251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の手法は、異常の種類を考慮していない。そのため、図4のようにセンサが故障して出力値が振り切れた場合でも、特許文献1の手法では大きなドリフトが発生したと判断し、ドリフトと故障を区別できない可能性がある。
【0009】
また、特許文献2の方法では過去の異常の事例から異常を推定して作成する。但し、特許文献2による推定方法が適切でない場合、異常の区別精度が十分でない可能性がある。また、この方法では、異常の発生過程における状態の変化については考慮していない。例えば、センサのドリフトは徐々に発生するが、故障であれば突発的に発生することが多い。このような異常の発生過程の特徴を用いれば、異常を高い精度で区別できるが、このような方法はこれら特許文献には記載されていない。
【0010】
本発明の目的は、異常の発生過程における状態の変化を考慮することにより異常の種類を区別可能なセンサ診断方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、あらかじめ設定した正常データから異常状態のデータ分布を推定して異常データを作成しておき、入力した複数の前記診断データが前記正常データと前記異常データのいずれの分布に近いか判定するとともに、前記診断データの状態を判定し、前記診断データの状態と過去の診断データの状態に基づき、センサの異常の種類を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、上記手段により構成されるため、複数のプロセス値を用いたセンサ診断において、異常の発生過程における状態の変化を考慮することにより異常の種類を区別できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1のセンサ診断方法および装置の構成図である。
【図2】実施例1の手順を示すフローチャートである。
【図3】正常データと異常データの説明図である。
【図4】実施例1における異常時のプロセス値変化の説明図である。
【図5】正常データの例である。
【図6】実施例1における異常Aの異常データの例である。
【図7】実施例1における異常Aの状態履歴データの例である。
【図8】実施例1における異常Bの状態履歴データの例である。
【図9】実施例2における異常時のプロセス値変化の説明図である。
【図10】実施例2における異常Aの異常データの例である。
【図11】実施例2における異常Aの状態履歴データの例である。
【図12】実施例2における異常Bの状態履歴データの例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、各実施例を説明する。
【実施例1】
【0015】
本実施例のセンサ診断により検出される異常の種類は、センサのドリフトを示す異常A、ドリフト以外のセンサ故障を示す異常Bとする。そして、これらの異常を区別する例について説明する。図4は、センサのドリフト発生と故障によって計測されるプロセス値の変化の例を示す。縦軸はプロセス値を示し、横軸に時間を示す。
【0016】
図1は、本実施例のセンサ診断方法および装置の全体構成である。本実施例のセンサ診断装置は、データ入力手段1,正常状態データベース2,異常データ作成手段3,異常状態データベース4,類似状態判定手段5,状態履歴データベース6,異常種類判定手段7,診断結果出力手段8を備える。
【0017】
データ入力手段1は、複数の流量計,温度計,圧力計,レベル計,振動計が計測したプロセス値を、診断データとしてコンピュータに入力する。これら複数のプロセス値は、プラント運転によってプロセス値が変化する際に、互いに相関をもって変化する組み合わせである。例えば、冗長化されたセンサを組み合わせる。
【0018】
正常状態データベース2には、あらかじめ用意された正常データが格納されている。図5は、各センサで計測したプロセス値の時系列データであり、正常データを示す。
【0019】
異常データ作成手段3は、正常状態データベース2に格納された正常データから、異常状態のデータ分布を推定して、複数の異常データを作成する。作成した異常データは異常状態データベース4に格納される。
【0020】
異常状態データベース4は、異常データ作成手段3で作成された異常データが格納されている。異常状態データベース4の例を図6に示す。
【0021】
類似状態判定手段5は、データ入力手段1で入力した診断データが、正常状態データベース2から読み込んだ正常データと、異常状態データベース4から読み込んだ複数の異常データのうち、どの分布に近い状態にあるか判定する。
【0022】
状態履歴データベース6は、類似状態判定手段5で判定された診断データの状態、及び、正常又は異常の判定結果が格納されている。図7および図8に状態履歴データベース6の例を示す。
【0023】
異常種類判定手段7は、類似状態判定手段5で判定された診断データの状態と、状態履歴データベース6に格納された過去の診断データの状態をもとに、異常の種類を判定する。
【0024】
診断結果出力手段8は、異常種類判定手段7で診断した結果をディスプレイなどに表示する。また、同手段は、異常と診断された場合に警報を鳴らす機能を備える。
【0025】
図2は本実施例によるセンサ診断の手順を示すフローチャートである。
【0026】
ステップ101では、異常データ作成手段3により、あらかじめ用意した正常データから異常データを作成する。この正常データは、例えば、プラント運転サイクルの初期に計測したデータである。
【0027】
図3は、データ分布の例を示す。図3の横軸はプロセス値1を示し、縦軸はプロセス値2を示す。センサが計測するプロセス値1にドリフト(異常A)が発生する場合、正常時のデータ分布に比べてプロセス値1が増加(または減少)する。したがって、正常データをもとに異常Aのデータ分布を推定できる。図5の正常データをもとに、プロセス値1に0.5%のドリフトが発生した場合の異常データを作成すると、図6の異常データが得られる。この異常データは、例えば、プロセス値1について−0.5%から+0.5%まで0.1%ステップで作成しておく。本実施例では、ドリフトがプロセス値1に発生した場合
のみについて説明する。但し、同様にプロセス値2,プロセス値3にドリフトが発生した場合についても異常データを作成してもよい。
【0028】
ステップ102は、データ入力手段1が類似状態判定手段5に診断データを入力する。
【0029】
ステップ103〜105は類似状態判定手段5により実施される。
【0030】
ステップ103は、類似状態判定手段5が正常状態データベース2から正常データを読み込み、異常状態データベース4から異常データを読み込み、診断データと正常データとの距離,診断データと各異常データとの距離を計算する。距離の計算方法は、マハラノビス距離を用いることができる。一般に、多変数ベクトルx=(x1,…,xn)Tの平均をμ=(μ1,…,μn)T、共分散行列Σとすると、マハラノビス距離Dは次の式で計算できる。具体的には、nはセンサの組み合わせ数、xi(i=1〜n)はi番目のセンサのプロセス値である。なお、Tは転置行列を示す記号である。
【0031】
【数1】
【0032】
ステップ104は、診断データまでのマハラノビス距離が最小となる正常データまたは異常データを特定する。この結果から、診断データのドリフト量を得ることができ、このドリフト量を診断データの状態量とする。例えば、t=104hの診断データが最も近いのは正常データであるので、状態量は0%となる。また、t=105hの診断データが最も近いのはドリフト0.1%の異常データであるので、状態量は0.1%となる。
【0033】
ステップ105は、診断データが正常であるか異常であるかを判定する。ステップ104により、診断データとのマハラノビス距離が最小となるデータは異常データであり、かつ、診断データの状態量が、あらかじめ設定されたしきい値以上の状態にある場合、その診断データは異常と診断される。例えば、異常Aの検出しきい値を状態量0.4%と設定した場合、状態量0.4%以上にあれば異常と判定する。正常と判定された場合は、ステップ102に戻り次の診断データを入力し、異常と判定された場合にはステップ106へ進む。
【0034】
図7,図8は、ステップ105の判定結果を示す。図7は、図4においてドリフト発生の場合の判定結果であり、図8は、故障の場合の判定結果である。
【0035】
ステップ106〜109は異常種類判定手段7により実施される。
【0036】
ステップ106は、異常が発生した時刻から過去の状態を調べる。図4のように、ドリフトは徐々に増加(減少)していくので、診断データの状態量は連続的な変化として観測される。ドリフトの状態量は単調に増加(減少)するとは限らないが、例えば状態量0.4%に到達するまでに必ず中間状態である状態量0.2%を経由しているはずである。中間状態とは、正常状態から異常状態へ変化する途中の状態であり、正常状態にあった時刻から異常状態になった時刻までの間の任意の時刻に現れる。例えば、t=104hで正常状態の状態量が0%であり、t=108hで異常状態の状態量が0.4%であるとすると、これらの中間値である0.2%を中間状態の状態量と定義し、t=105〜107hのある時刻にこの中間状態にあると考えられる。なお、中間状態の状態量は0.1%,0.3%など、正常状態と異常状態の間の任意の値に定義してもよい。
【0037】
一方、故障の場合、状態量の変化が急激であり、1h間隔の計測では不連続に変化し、中間状態を見つけることはできない。この間隔は計測対象に応じてあらかじめ設定しておく。例えば、ドリフトは数ヶ月かけて発生するが、故障の場合1h以下で発生することが多いので計測を1h間隔とすればよい。
【0038】
一方、故障の場合、状態量の変化が急激であり、計測している時間間隔において不連続である。なお、この時間間隔は計測対象に応じてあらかじめ設定しておく。
【0039】
ステップ107は、このような異常発生過程で、診断データの状態量が中間状態を経由したかどうかを判定する。診断データが中間状態を経由した場合は異常A(ステップ108)、経由しない場合は異常Bと判定する(ステップ109)。
【0040】
図7の例では、t=108hで状態量0.4%を検出して異常と判定される。また、それ以前のt=106hにおいて中間状態である状態量0.2%の状態を経由している。そのため、図7の診断データは、異常Aと判定する。一方、図8の例では、t=105hで異常と判定される。但し、t=105h以前に中間状態(例えば状態量−5%)を経由していないので、図8の診断データは故障である異常Bと判定する。したがって、異常Aと異常Bを区別できる。異常種類が判定された診断データは、診断結果出力手段8に送信される。
【0041】
ステップ110は、診断結果出力手段8により診断結果を出力する。
【0042】
上記実施例により、複数のプロセス値を用いたセンサ診断において、センサの異常の種類としてドリフトとドリフト以外の故障とを区別できる。
【実施例2】
【0043】
本実施例では、センサ診断により検出される異常について、プラント運転によりプロセス値が正常データの範囲外まで変化した場合を異常A、センサ故障を異常Bとして、異常を区別する例について説明する。図9にプラント運転によるプロセス値の変化と故障によるプロセス値の変化の例を示す。
【0044】
本実施例は実施例1と同様、図2のフローチャートの手順によって行う。
【0045】
ステップ101では、異常データ作成手段3により、あらかじめ用意した正常データから推定可能な異常データを作成する。
【0046】
図3にデータ分布の例を示す。プラント運転条件などの変化により、プロセス値そのものが変化する場合、各プロセス値は一定の関係(多くは線形)で同時に変化するので、図のように正常時のデータ分布から外挿して異常Aのデータ分布を推定できる。図5の正常データ(出力8〜12%)をもとに、プロセス値が出力15〜16%の領域まで変化した場合の異常データを作成すると、図10の異常データが得られる。この異常データは、例えば、出力値について13%から20%まで1%ステップで作成しておく。
【0047】
ステップ102〜104は、実施例1と同様である。
【0048】
ステップ105では、診断データが正常であるか異常であるかを判定する。なお、本実施例では、診断データの状態量として、プラントの出力値を使用する。例えば、異常Aの検出しきい値を出力16%と設定した場合、16%以上の状態にあれば異常と判定する。
正常と判定された場合は、ステップ102に戻り次の診断データを入力し、異常と判定された場合にはステップ106へ進む。
【0049】
プラント運転によるプロセス値の変化を判定した結果を図11に、故障の場合の判定結果を図12に示す。
【0050】
ステップ106では、異常が発生した時刻から過去の状態を調べる。図9のようにプロセス変化は、連続的な変化として観測され、例えば出力12%から変化して出力16%に到達するまでに必ず中間状態である14%を経由しているはずである。一方、故障の場合は変化が急激であり、計測している時間間隔において不連続である。なお、この時間間隔は計測対象に応じてあらかじめ設定しておく。
【0051】
ステップ107では、このような異常発生過程で中間状態を経由したかどうかを判定し、中間状態を経由した場合は異常A(ステップ108)、経由しない場合は異常Bと判定する(ステップ109)。
【0052】
図11の例では、t=108hで出力16%を検出して異常と判定され、それ以前のt=106hにおいて中間状態である出力14%の状態を経由しているので、異常Aと判定する。一方、図12の例では、t=105hで異常と判定されるが、それ以前に中間状態(例えば出力4%)を経由していないので、故障である異常Bと判定する。したがって、異常Aと異常Bを区別できる。
【0053】
ステップ110では、診断結果出力手段8により診断結果を出力する。
【0054】
上記実施例により、複数のプロセス値を用いたセンサ診断において、センサの異常ではなくプロセスの変化であるか、センサの故障であるかを区別できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
複数のプロセス値を用いたセンサ診断において、センサ自体の異常の有無がわかるので、異常の箇所を特定するのに役立つ。また、センサの異常の種類を区別することにより保守作業の必要性を知ることができる。その結果、保守作業量およびコストを削減できる。
【符号の説明】
【0056】
1 データ入力手段
2 正常状態データベース
3 異常データ作成手段
4 異常状態データベース
5 類似状態判定手段
6 状態履歴データベース
7 異常種類判定手段
8 診断結果出力手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプロセス値である診断データからセンサの状態を診断するセンサ診断方法において、
あらかじめ設定した正常データから異常状態のデータ分布を推定して異常データを作成しておき、入力した複数の前記診断データが前記正常データと前記異常データのいずれの分布に近いか判定するとともに、前記診断データの状態を判定し、前記診断データの状態と過去の診断データの状態に基づき、センサの異常の種類を判定することを特徴とするセンサ診断方法。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサ診断方法において、前記プロセス値は、流量,温度,圧力,レベル,振動の変位であることを特徴とするセンサ診断方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のセンサ診断方法において、前記異常状態は、1つまたは複数のセンサに生じるドリフトにより、センサ出力値が正しい値からずれた状態であることを特徴とするセンサ診断方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のセンサ診断方法において、前記異常状態は、1つまたは複数のセンサ出力値が、センサ診断のために用いる正常データの範囲外にある状態であることを特徴とするセンサ診断方法。
【請求項5】
複数のプロセス値である診断データからセンサの状態を診断するセンサ診断装置において、
あらかじめ設定した正常データを格納する正常状態データベースと、
前記正常データから異常状態のデータ分布を推定して異常データを作成する異常データ作成手段と、
前記異常データ作成手段で作成した前記異常データを格納する異常状態データベースと、
入力された複数の前記診断データが正常であるか異常であるか判定するとともに、前記診断データの状態を判定する類似状態判定手段と、
前記類似状態判定手段で判定した状態を格納する状態履歴データベースと、
前記診断データの状態と過去の診断データの状態に基づき、前記センサの異常の種類を判定する異常種類判定手段とを備えることを特徴とするセンサ診断装置。
【請求項6】
請求項5に記載のセンサ診断装置において、前記プロセス値は、流量,温度,圧力,レベル,振動の変位であることを特徴とするセンサ診断装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のセンサ診断装置において、前記異常状態は、1つまたは複数のセンサに生じるドリフトにより、センサ出力値が正しい値からずれた状態であることを特徴とするセンサ診断装置。
【請求項8】
請求項5または請求項6に記載のセンサ診断装置において、前記異常状態は、1つまたは複数のセンサ出力値が、センサ診断のために用いる正常データの範囲外にある状態であることを特徴とするセンサ診断装置。
【請求項1】
複数のプロセス値である診断データからセンサの状態を診断するセンサ診断方法において、
あらかじめ設定した正常データから異常状態のデータ分布を推定して異常データを作成しておき、入力した複数の前記診断データが前記正常データと前記異常データのいずれの分布に近いか判定するとともに、前記診断データの状態を判定し、前記診断データの状態と過去の診断データの状態に基づき、センサの異常の種類を判定することを特徴とするセンサ診断方法。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサ診断方法において、前記プロセス値は、流量,温度,圧力,レベル,振動の変位であることを特徴とするセンサ診断方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のセンサ診断方法において、前記異常状態は、1つまたは複数のセンサに生じるドリフトにより、センサ出力値が正しい値からずれた状態であることを特徴とするセンサ診断方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のセンサ診断方法において、前記異常状態は、1つまたは複数のセンサ出力値が、センサ診断のために用いる正常データの範囲外にある状態であることを特徴とするセンサ診断方法。
【請求項5】
複数のプロセス値である診断データからセンサの状態を診断するセンサ診断装置において、
あらかじめ設定した正常データを格納する正常状態データベースと、
前記正常データから異常状態のデータ分布を推定して異常データを作成する異常データ作成手段と、
前記異常データ作成手段で作成した前記異常データを格納する異常状態データベースと、
入力された複数の前記診断データが正常であるか異常であるか判定するとともに、前記診断データの状態を判定する類似状態判定手段と、
前記類似状態判定手段で判定した状態を格納する状態履歴データベースと、
前記診断データの状態と過去の診断データの状態に基づき、前記センサの異常の種類を判定する異常種類判定手段とを備えることを特徴とするセンサ診断装置。
【請求項6】
請求項5に記載のセンサ診断装置において、前記プロセス値は、流量,温度,圧力,レベル,振動の変位であることを特徴とするセンサ診断装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のセンサ診断装置において、前記異常状態は、1つまたは複数のセンサに生じるドリフトにより、センサ出力値が正しい値からずれた状態であることを特徴とするセンサ診断装置。
【請求項8】
請求項5または請求項6に記載のセンサ診断装置において、前記異常状態は、1つまたは複数のセンサ出力値が、センサ診断のために用いる正常データの範囲外にある状態であることを特徴とするセンサ診断装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−276339(P2010−276339A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125951(P2009−125951)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]