説明

セントルの測量方法

【課題】セントル設置位置の修正量を定量的に把握するとともに、セントルをトンネル線形の適正な位置に設置し、且つセントルの建込み作業を簡略化したセントルの測量方法を提供する。
【解決手段】少なくともトンネル線形情報及びトンネル断面情報が記憶されたコンピュータ1と、トンネル坑内に設置されたトータルステーション5と、セントル9の中心位置及び周方向位置に複数取り付けられた視準ターゲット14…と、前記コンピュータ1による演算結果をモニタ表示可能な携帯情報通信端末4とから構成され、前記セントル9に設けた各視準ターゲット14をトータルステーション5で視準し、それらの三次元座標を計測することにより、セントル9の位置座標を特定し、前記コンピュータ1において前記トンネル線形情報及びトンネル断面情報に基づき、セントル9の位置座標の測量値と設計値との差を前記携帯情報通信端末4のモニタに表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に山岳トンネル施工において、トンネルの覆工を精度良くかつ高効率に行うためのセントルの測量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、トンネルの覆工において、断面アーチ形からなる型枠を有する移動式のセントルが用いられている。このセントルを用いたトンネルの覆工方法は、地山を掘削した後、この掘削部分にトンネル内空断面より小さな断面形状を有するセントルを配設し、セントルに設けられたコンクリート打設口からトンネル内壁面とセントルとの間にコンクリートを打設し、順次セントルを移動してコンクリートを覆工していくというものである。
【0003】
このように、セントルの設置位置は、トンネルの覆工厚さを決定する重要な要素となるため、その設置位置を測量するために種々の技術が開発されている。このセントルの設置位置の測量方法としては、従来より、覆工コンクリートの継ぎ目位置付近において、予めトンネル断面の中心点を測量しておき、トンネル天端や床面に釘などの目印を明示しておき、セントルの中心をその目印に合わせる方法が用いられている。また近年では、下記特許文献1に示されるように、レーザー発生器を作動させて、セントルの建込み位置をトンネルの内壁面に照射表示することによって、セントルの建込み位置を決定する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2000−88572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1記載の方法では、トンネルの内壁面にセントルの適正位置が表示されるため、セントルの設置位置と表示位置との間にズレが生じた場合、その表示位置に従ってセントルの建込み位置を修正すれば良いことになるが、現状の設置位置から適正位置までの修正量が定量的に把握できないため、修正作業が面倒であった。また、セントルがトンネル断面に対して、水平軸周りの回転(ピッチ)や垂直軸周りの回転(ヨー)が生じた状態、すなわちトンネル線形の適正な位置に設置されなくても、セントル端面の偏倚量としては極めて小さいため、目視では認識しにくいという問題があった。
【0005】
また、セントルを配設する前に予めトンネル中心を測量しておく前述の方法では、セントルを建て込む前の事前測量に多大な手間が掛かるという欠点があった。さらに、その事前測量の際に坑内車両を通行させなければならない場合があり、交通の確保などの手間がかかるとともに、測量を行うための作業員を坑内に常駐させておく必要があるなどの欠点もあった。
【0006】
一方、従来より、打設するコンクリート量の管理には、セントルに設けられた検査窓や妻部における検測の結果に基づいて行われていた。ところが、トンネル掘削後の内空断面は、場所によってアタリや余掘が発生しているため、コンクリート量が不足したり、余ったりすることがあり、コンクリート打設量の管理が困難であった。
【0007】
そこで、本発明の主たる課題は、セントル設置位置の修正量を定量的に把握するとともに、セントルをトンネル線形の適正な位置に設置し、且つセントルの建込み作業を簡略化したセントルの測量方法を提供することにある。また、打設するコンクリート量を精度良く管理できるセントルの測量方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、少なくともトンネル線形情報及びトンネル断面情報が記憶されたコンピュータと、トンネル坑内に設置された測距及び測角が可能な測量機器と、セントルの中心位置及び周方向位置に複数取り付けられた視準ターゲットと、前記コンピュータによる演算結果をモニタ表示可能な携帯情報通信端末とから構成され、
前記セントルに設けた各視準ターゲットを前記測量機器で視準し、それらの三次元座標を計測することにより、セントルの位置座標を特定し、前記コンピュータにおいて前記トンネル線形情報及びトンネル断面情報に基づき、セントルの位置座標の測量値と設計値との差を前記携帯情報通信端末のモニタに表示するようにしたことを特徴とするセントルの測量方法が提供される。
【0009】
上記請求項1記載の発明は、セントルに設けた各視準ターゲットを前記測量機器で視準し、それらの三次元座標を計測することにより、セントルの位置座標を特定し、コンピュータにおいてトンネル線形情報及びトンネル断面情報に基づき、セントルの位置座標の測量値と設計値との差を携帯情報通信端末のモニタに表示するようにしたため、セントル設置位置の修正量を定量的に把握することができるようになり、これによりセントルの位置座標を高精度に把握できるため、セントルをトンネル線形の適正な位置に設置することができるようになる。さらに、セントルを建て込む前にトンネル中心を測量するなどの事前測量の必要が無くなり、セントルの建込み作業が大幅に簡略化できる。
【0010】
請求項2に係る本発明として、セントル設置前に、前記測量機器によりトンネル掘削断面形状の測量を行っておき、前記トンネル掘削断面形状とセントル型枠形状とに基づき、コンクリート打設区間を対象とする所定スパン毎の計画コンクリート量を算出し、前記携帯情報通信端末のモニタに表示するようにしてある請求項1記載のセントルの測量方法が提供される。
【0011】
上記請求項2記載の発明では、コンクリート打設区間を対象とする所定スパン(区間)毎に、トンネル掘削断面とセントル型枠形状(計画断面)との差から、予め計画コンクリート量を算出しておくようにしてあるため、トンネル掘削断面のアタリや余掘を考慮した正確なコンクリート量が把握でき、打設するコンクリート量を精度良く管理することができるようになる。
【0012】
請求項3に係る本発明として、前記所定スパンにおけるコンクリート打設完了数量の入力によって、コンクリート打設残量を前記携帯情報通信端末のモニタに表示するようにしてある請求項2記載のセントルの測量方法が提供される。
【0013】
上記請求項3記載の発明では、打設が完了したコンクリート量を入力することによって、コンクリート打設残量が把握できるようにしてあるため、打設するコンクリート残数量を精度良く管理することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上詳説のとおり本発明によれば、セントル設置位置の修正量が定量的に把握できるとともに、セントルをトンネル線形の適正な位置に設置でき、且つセントルの建込み作業が簡略化できる。また、打設するコンクリート量を精度良く管理できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0016】
本トンネル坑内における測量システムでは、例えば図1に示されるように、現場事務所H内に管理用コンピュータ1が設備されるとともに、トンネル坑内に通信基地局2を固定配置し、前記管理用コンピュータ1と通信基地局2とが情報伝送可能なように通信ケーブル3により接続されている。前記管理用コンピュータ1には、予め少なくともトンネル線形情報およびトンネル断面情報が入力されている。
【0017】
一方、切羽S付近で掘削作業を行っている坑内作業員等が携帯情報通信端末4を常時携帯し、前記無線通信基地局2と双方向に無線通信可能となっており、前記情報通信端末4から発信された情報が前記無線通信基地局2を経由して前記管理コンピュータ1に伝送されるようになっている。なお、本例では前記管理コンピュータ1と無線通信基地局2との間の通信を有線通信、無線通信基地局2と携帯情報通信端末4との間の通信を無線通信としたが、各間の通信は無線または有線のいずれであってもよい。
【0018】
一方、切羽後方には測距及び測角の基本機能の他、レーザー照射、自動視準機能、視準の追尾機能、自動整準補正機能を備えるトータルステーション5が配置され、コントロールボックス6を介して前記通信基地局2と接続されている。前記コントロールボックス6は、携帯情報通信端末4との通信機能の他、トータルステーション5との通信機能、トータルステーション5の水平角、仰角制御機能を備えるものである。
【0019】
切羽S近傍では、ホイールジャンボ7、吹付け機8、ホイールローダ等のトンネル施工用重機が配置され、図示される例では、上半及び下半の一括の併行作業により掘削を行うミニベンチ工法により、上半及び下半のそれぞれにおいてロックボルト削孔および装薬孔・装薬を併行して行った後、上半及び下半を一気に切り崩し、その後ズリ出し→当り取り→一次吹付け→セントル9の建込み→二次覆工コンクリートの打設の手順にて掘削作業が1サイクル毎に行われる。
【0020】
前記セントル9は、前記トンネル施工用重機の後方に設置され、図2に示されるように、トンネルTの内壁面T1との間に隙間を形成するように配設される型枠部材10と、この型枠部材10を支持する支持フレーム11と、この支持フレーム11が走行可能でトンネルTの下面に敷設される走行レール12とから主に構成される。
【0021】
前記型枠部材10は、トンネルTの内壁面に沿って設けられ、その外面は平滑に形成されるとともに、コンクリートとの剥離性に優れる材質で構成されている。また、前記型枠部材10は、トンネルTの周方向に対して複数個のパーツに分割して設けられ、各パーツが連結して構成されている。さらに、前記型枠部材10上部の坑口側近傍には、コンクリートを打設するためのコンクリート打設口13が設けられている。
【0022】
前記型枠部材10は、図2及び図3に示されるように、前記支持フレーム11に、油圧シリンダ11Aなどの連結部材を介して、トンネルTの断面に対して左右方向及び上下方向に移動自在に取り付けられている。また、この移動量は、前述の測量システムによって自動的に、又は作業員が手動で、適宜調整できるようになっている。さらに、セントル9の中心位置及び周方向位置に複数の視準ターゲット14、14…が設置されている。図示例では、前記型枠部材10の切羽S側の端面内周に沿って、5個の視準ターゲット14、14…が設置されている。
【0023】
前記支持フレーム11は、略門型の鉄骨材などからなる門型フレーム11Bと、前記型枠部材10が取り付けられる前記油圧シリンダ11Aなどの連結部材とから構成されている。
【0024】
前記走行レール12は、前記門型フレーム11Bを走行可能に支持し、トンネルTの下面に長手方向に沿って2本敷設されている。
【0025】
次に、上記測量システムを用いてセントル9の設置位置を測量する方法について説明する。
【0026】
前述の通り掘削後の一次吹付けが終了したら、既設の二次覆工コンクリートの継ぎ目と一部重なるようにセントル9を設置する。このとき、セントル9に設けた各視準ターゲット14…をトータルステーション5で視準し、それらの三次元座標を計測することにより、セントル9の位置座標を特定する。計測データは、コンピュータ1に送られた後、コンピュータ1において前記トンネル線形情報及びトンネル断面情報に基づき、セントル9の位置座標の測量値と設計値との差を携帯情報通信端末4のモニタに表示する。
【0027】
携帯情報通信端末4では、図4に示される表示形式によって「セントル位置出しガイダンス」と題した端末画面4Aがモニタ表示される。
【0028】
前記端末画面4Aでは、上側にトンネルの断面図20が表示されるとともに、該断面図20内に、視準ターゲット14の設置位置に対応する位置に○印が表示されている。また、前記○印の近傍には夫々表示ボックス21…が表示され、各視準ターゲット14の位置の測定値と設計値(図3中に一点鎖線で示されるトンネルの計画断面に対応する位置)との差が数値表示されるようになっている。さらに、視準ターゲット14の位置の測定値と設計値との差がマイナスの場合、すなわち視準ターゲット14の測定位置が設計位置よりトンネル中心側に位置する場合には、当該視準ターゲット14の設置位置と対応する位置に表示された丸印は、●(赤丸)で表示されるようになっている。
【0029】
また、前記端末画面4Aでは、下側に情報表示枠22が表示され、その枠内にはアーチコンクリートの識別番号、妻部における掘進距離TD(Total Distance)、計画天端高、計画のトンネル高さ方向基準線SLの高さが表示されるようになっている。
【0030】
このように、端末画面4Aに表示された計測結果に基づいて、セントル9の修正量が決定される。
【0031】
次に、携帯情報通信端末4の操作により、図5に示される表示形式によって「コンクリート量打設管理システム」と題した端末画面4Bがモニタ表示されるようになっている。この端末画面4Bには、指定された所定のスパン毎に、計画コンクリート量が算出され、「1スパン計画コンクリート量」が情報表示枠25に表示されるようになっている。この計画コンクリート量の算出には、先ずセントル9を設置する前に、トータルステーション5によって予めトンネル内空断面の形状、すなわち余掘及びアタリの量を計測しておく。これにより、セントル9を設置したときのセントル9とトンネル内壁面との間隔を精度良く把握でき、そこに覆工するコンクリートの量を高精度に算出できるようになる。
【0032】
前記端末画面4Bでは、アーチコンクリートの識別番号、1スパン当たりの計画コンクリート量及び平均覆工厚が表示されるようになっている。これにより、コンクリート量の数量管理が可能になる。
【0033】
さらに前記端末画面4Bの下側には、これまでの実績値として、生コン車の累計台数、アーチコンクリートの識別番号毎の現在までの打設量の履歴の一覧が表示されるとともに、これらの合計である累計コンクリート量が表示されるようになっている。
【0034】
また、コンクリート打設完了数量の入力によって、コンクリート打設残量を携帯情報通信端末4のモニタに表示するようにしてもよい。前述の通り1スパンの計画コンクリート量が予め算出されるようになっているため、打設が完了したコンクリート量を入力することによって、容易にコンクリート打設残量が把握できる。
【0035】
〔他の形態例〕
(1)上記形態例では、トンネルの覆工においてセントルを設置する場合についてのものであったが、インバートコンクリート打設のために、スライディングフォームなどを設置する場合にも同様にして適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】坑内測量のシステム図である。
【図2】セントル9の設置位置の測量システムを示す斜視図である。
【図3】セントル9の切羽S側の端面図である。
【図4】携帯情報通信端末4におけるセントル位置出しガイダンスを示す端末画面4Aである。
【図5】携帯情報通信端末4におけるコンクリート量打設管理システムを示す端末画面4Bである。
【符号の説明】
【0037】
1…管理コンピュータ、2…無線通信基地局、3…通信ケーブル、4…携帯情報通信端末、4A・4B…端末画面、5…光波測距儀、6…コントローラ、7…ホイールジャンボ、8…吹付け機、9…セントル、10…型枠部材、11…支持フレーム、12…走行レール、13…コンクリート打設口、14…視準ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともトンネル線形情報及びトンネル断面情報が記憶されたコンピュータと、トンネル坑内に設置された測距及び測角が可能な測量機器と、セントルの中心位置及び周方向位置に複数取り付けられた視準ターゲットと、前記コンピュータによる演算結果をモニタ表示可能な携帯情報通信端末とから構成され、
前記セントルに設けた各視準ターゲットを前記測量機器で視準し、それらの三次元座標を計測することにより、セントルの位置座標を特定し、前記コンピュータにおいて前記トンネル線形情報及びトンネル断面情報に基づき、セントルの位置座標の測量値と設計値との差を前記携帯情報通信端末のモニタに表示するようにしたことを特徴とするセントルの測量方法。
【請求項2】
セントル設置前に、前記測量機器によりトンネル掘削断面形状の測量を行っておき、前記トンネル掘削断面形状とセントル型枠形状とに基づき、コンクリート打設区間を対象とする所定スパン毎の計画コンクリート量を算出し、前記携帯情報通信端末のモニタに表示するようにしてある請求項1記載のセントルの測量方法。
【請求項3】
前記所定スパンにおけるコンクリート打設完了数量の入力によって、コンクリート打設残量を前記携帯情報通信端末のモニタに表示するようにしてある請求項2記載のセントルの測量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−186184(P2009−186184A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22954(P2008−22954)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(591284601)株式会社演算工房 (22)