説明

ゼラチン粒子の製造方法

【課題】目的とする粒径の粒子が高収率で得られ、かつ分級操作を必須としないゼラチン粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】疎水性溶媒中に浸かった状態で、ノズルの先端からゼラチン水溶液を疎水性溶媒中に吐出する工程と、吐出後にノズルを疎水性溶媒から引き上げる工程を有することを特徴とするゼラチン粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝臓癌、腎臓癌、脾臓癌、子宮筋腫などの塞栓治療や動脈出血の止血、手術前の塞栓症の治療などに使用されるゼラチン塞栓粒子の製造方法に関し、簡単な装置、手段をもって粒子径の制御が可能で収率の高い生産に適した製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、肝臓癌や子宮筋腫、腎癌などの治療法において、経動脈的塞栓治療法がある。該治療法は、マイクロカテーテルを用いて抗癌剤を癌(筋腫)組織に注入し、続いて非イオン性造影剤を用いて塞栓物質により癌(筋腫)組織に通じる血管を塞栓して、癌(筋腫)への栄養を遮断し壊死させるものである。該治療法は、組織選択的治療法であり、正常細胞の壊死という副作用を最小限に抑えることができる。近年の医療技術の進歩に伴い、標的部位にできるだけ近い部分で血管を塞栓し、かつ、健常な部分に悪影響を与えないように血管の大きさに応じて使い分けができるという目的から、小さい粒子で40μm、大きい粒子で2000μmの、粒径が均一で且つ形状も均一である塞栓物質が求められている。
【0003】
特許文献1には、液中分散方法による粒子製造方法が開示されている。すなわち、まず、生体適合性物質を良溶媒に溶解した溶液を該生体適合性物質に対する貧溶媒中に投入して攪拌することでエマルジョンを形成する。次に、得られたエマルジョンを生体適合性物質のゲル化温度以下に冷却してゲル粒子を作製する。このようにして得られたゲル粒子から生体適合性物質の粒子を得るというものである。また、特許文献2には、液中滴下法による真球ゼラチン粒の製造方法が記載されている。すなわち、ノズルを疎水性溶媒に漬けたままで、ノズル口を水平方向に往復(振子)運動させつつ、ゲル化温度以上の疎水性溶媒にノズル筒からゼラチン溶液を圧吐出するというものである。
【0004】
ゼラチン粒子を製造する方法として、従来から用いられてきた液中分散法を図1に示す。液中分散法は、(a)油などの疎水性溶媒12を入れた疎水性溶媒槽(以下、滴下槽)16中にゼラチン水溶液11を投入し、(b)攪拌翼13で攪拌または分散してゼラチン水溶液液滴14を形成し、その後、(c)滴下槽16を冷却水15などで冷却するというものである。液中分散法は簡便ではあるが、得られる粒子の粒度分布が約数μmから約数千μmと非常に広いため、所望する粒径のゼラチン粒子の収率が非常に悪くなる。しかも、物質同士の凝集が生じるため、分級操作を経ても完全に分級することができないなど、顆粒等の微小粒子の製造には適していなかった。
【0005】
一方、特許文献2記載の液中滴下方法は、疎水性溶媒中でのゼラチン溶液の切断手段が必要とされた従来の液中滴下方法における課題を改良するものである。しかしながら、特許文献2記載のノズルを水平運動させる方式では、ノズルから吐出された液滴の切れが悪く、40〜2000μmのゼラチン粒子を安定に製造するには十分ではなかった。
【0006】
【特許文献1】特許第3879018号公報
【特許文献2】特公平1−17376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、狙い通りの微小な粒径の粒子が高収率で得られ、分級操作を必要としないゼラチン粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)ディスペンサーのノズル先端の吐出口を疎水性溶媒に浸漬し、前記吐出口端から所定量のゼラチン水溶液を疎水性溶媒中に吐出する工程と、吐出工程につづき、吐出口を疎水性溶媒から引き上げる工程と、疎水性溶媒中に形成されたゼラチン水溶液液滴中の水分を脱水溶媒にて脱水する工程と、脱水されたゼラチン粒子をゼラチン粒子の貧溶媒で洗浄する工程と、回収したゼラチン粒子を乾燥する工程と、乾燥させたゼラチン粒子を加熱架橋する工程とからなり、吐出する工程で形成されたゼラチン水溶液液滴を、引き上げる工程で吐出口から離脱させることを特徴とするゼラチン粒子の製造方法。
(2)吐出する工程が、ディスペンサーのバルブに収容されたゼラチン水溶液を、エアー圧により、吐出口から疎水性溶媒中に吐出する工程であり、ゼラチン粒子の粒径を、エアー圧、ピストン・ニードルの移動量、吐出時間、またはノズル吐出口径により調整することができる上記(1)のゼラチン粒子の製造方法。
(3)吐出する工程において、疎水性溶媒中に吐出口が0.2mm〜3mm漬かっていることを特徴とする上記(1)のゼラチン粒子の製造方法。
(4)吐出する工程において、ノズルの上下動の振幅が、1〜5mmであり、上下動の回数が1分当たり1000回以下である上記(1)のゼラチン粒子の製造方法。
(5)疎水性溶媒を攪拌することを特徴とする上記(1)のゼラチン粒子の製造方法。
(6)吐出する工程において、ゼラチン水溶液を吐出口から疎水性溶媒中へ吐出させるときの圧力が0.001MPa以上である上記(1)のゼラチン粒子の製造方法。
(7)ゼラチン水溶液の濃度が2重量%〜20重量%の範囲である上記(1)のゼラチン粒子の製造方法。
(8)吐出する工程が、ゼラチン水溶液を調整する容器と、容器からゼラチン水溶液をディスペンサーのバルブへ輸送する配管と、ゼラチン水溶液を疎水性溶媒中に吐出するノズルを有するディスペンサーと、疎水性溶媒を収容する槽を用いて行われ、各装置はゼラチン水溶液の温度を維持するための保温が可能である上記(1)のゼラチン粒子の製造方法。
(9)疎水性溶媒が、動物油、植物油、鉱物油、シリコン油、脂肪酸、脂肪酸エステル、有機溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種類である上記(1)記載のゼラチン粒子の製造方法。
(10)脱水溶媒並びに洗浄溶媒が、アセトン、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、トルエン、酢酸エチル、ヘキサン、ハロゲン系有機溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種類若しくは2種類以上である上記(1)のゼラチン粒子の製造方法。
(11)ゼラチン粒子の洗浄方法が、篩過、遠心分離からなる群から選ばれる少なくとも1手段である上記(1)のゼラチン粒子の製造方法。
(12)脱水したゼラチン粒子の乾燥方法が、通風乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥からなる群から選ばれる少なくとも1手段である上記(1)のゼラチン粒子の製造方法。
(13)加熱架橋工程において、加熱温度が80℃〜250℃、加熱時間が0.5時間〜120時間である上記(1)のゼラチン粒子の製造方法。
(14)ゼラチン粒子の形状が球形である上記(1)のゼラチン粒子の製造方法。
(15)加熱架橋後のゼラチン粒子の粒径が2000μm以下である上記(1)のゼラチン粒子の製造方法。
(16)吐出する工程において、ノズルの先端は20℃以上に加温され、疎水性溶媒は0℃〜60℃に温度調整可能であることを特徴とする上記(1)のゼラチン粒子の製造方法。
(17)記吐出する工程と引き上げる工程とを交互に複数回繰り返すことにより複数個のゼラチン水溶液液滴を製造する、上記(1)のゼラチン粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ディスペンサーを用いて、簡単に任意の粒径の物質を高収率で得ることができる製造方法を提供することができる。特に、40μm〜2000μmのゼラチン粒子を安定に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の1実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、図1と同じ要素には同一の符号を付して説明を簡略化する。
図2、図3A、3Bに示すように、ゼラチン水溶液調合タンク20中のゼラチン水溶液11は、配管21を経由してディスペンサーのバルブ23に送られる。バルブ23には加圧エアー22が連結されている。バルブ23内のゼラチン水溶液11は、バルブコントロー27に連結された加圧エアー22により加圧され、バルブ23下部の液吐出機構30に連結されたノズル24先端のニードル25の吐出口26から、滴下槽16に収容された疎水性溶媒12中に吐出される。吐出時に重要なことは、必ず吐出口26が疎水性溶媒12に漬かっている状態で、ゼラチン水溶液が疎水性溶媒12中に吐出され、その後、吐出口26が疎水性溶媒12外に出るように、ノズル24を上下運動させることである。なお、図3A、3Bでは、少量滴下に適したニードルノズルを用いて説明している。例えば、ポリプロピレン製ニードルノズル(GPニードルノズル30G、32G、(株)サンエイテック製)。ただし、ノズルの形状はニードルノズルに限定されるわけではない。
【0011】
このように吐出口26が疎水性溶媒12に漬かった状態で、ゼラチン水溶液11が吐出され、その後、吐出口26が疎水性溶媒12外に出るように、ノズル24を引き上げることにより、吐出されたゼラチン水溶液11をニードル25から離脱させることができる。また、吐出口26がゼラチン水溶液を吐出する際は必ず疎水性溶媒12に浸漬された状態にしておくことにより、吐出されたゼラチン水溶液液滴14が、疎水性溶媒12の表面に滴下する際の衝撃をなくすことができる。これにより、ゼラチン粒子の変形や、液滴の破裂に起因する飛沫による微粒子の発生を抑制することができる。上記の効果を得るために、吐出口26は、疎水性溶媒12中に0.5〜3mmの深さで浸漬していることが望ましい。0.5mm未満になると、確実な浸漬状態が得られない場合があり好ましくない。また浸漬深さが大きくても構わないが、通常3mmを超える上下動は、不必要に大きな上下振幅となり好ましくない。また、吐出口26を疎水性溶媒12の表面から引き上げる際の液面からの引き上げ距離は特に限定されるものではないが、1〜5mmの高さで引き上げられていることが好ましい。引き上げ距離が液面から1mm未満になると引き上げの確実性が低下する場合がある。また、不必要に大きな上下動の振幅は、好ましくないので、引き上げ距離は5mmを越えないことが好ましい。さらに、攪拌翼13を用いて疎水性溶媒12を攪拌することにより、形成されたゼラチン水溶液液滴14同士が癒着することを抑制することができる。
【0012】
通常、ノズルから吐出されるゼラチン水溶液を受ける疎水性溶媒の温度は、ゼラチンのゲル化温度である20℃以上に保つことが必要である。疎水性溶媒の温度がゼラチンのゲル化温度以下になると、ノズルの先端でゼラチン水溶液がゲル化してしまい、ノズルが詰まるという問題が生じ、ゼラチン水溶液の定量吐出ができなくなるとともに、ノズル先端でゼラチン水溶液が離脱されないため粒径ばらつきが起きてしまうことが多い。そこで、本発明の1実施形態では、ノズル温調器(図示せず)を取り付けて、吐出口も含むノズルの先端を加温している。このように、ノズル先端をゼラチン水溶液のゲル化温度以上に加温することにより、疎水性溶媒の温度がゲル化温度以下であっても、ノズル先端でのゼラチン水溶液のゲル化を抑制することができるため、ノズルの詰まりや、ゼラチン粒子の粒径ばらつきの発生をなくすことができる。
【0013】
一方、疎水性溶媒をゼラチンのゲル化温度以下にすると、ゼラチン水溶液が固化することによりゼラチン粒子同士の癒着を防止できる。したがって、本発明の1実施形態のように、疎水性溶媒の温度をゲル化温度以下に保ち、かつ、ノズル先端をゼラチン水溶液のゲル化温度以上に加温することで、ノズルのつまりや、ゼラチン粒子の粒径ばらつきをなくすことができると同時に、ゼラチン粒子同士の癒着も防止できるという優れた効果を得ることができる。すなわち、本発明の製造方法により、ゼラチン粒子の製造工程を減らすことができるとともに、所望の粒径の粒子を高い収率で得ることができる。
【0014】
本発明の製造方法が適用できるゼラチンの種類は、特に限定されない。例えば、牛骨由来、牛皮由来、豚骨由来、豚皮由来などのゼラチンの粒子を製造することができる。
【0015】
ゼラチン水溶液の濃度は、2重量%〜20重量%が好ましく、5重量%〜15重量%が特に好ましい。2重量%未満の水溶液の場合には球形の粒子を作製することが困難であり、一方、20重量%を超えると、水溶液が高粘度となり、吐出が困難となる。
【0016】
ゼラチン粒子の形状は、不定形ではなく、できる限り球形であることが好ましい。血管内にゼラチン粒子を注入して塞栓したとき、球形にすることで、より標的部位に近い部分で血管を塞栓することができ、かつ患者に与える痛みも軽減できる。
【0017】
ゼラチン粒子の粒径は、標的部位にできるだけ近い部分で血管を塞栓するという目的に加えて、健常な部分に悪影響を与えないように血管の大きさに応じて使い分けができるという目的から、40〜100μm、150〜300μm、および400〜800μmの3種類が適している。40μm未満の小径粒子は目的とする部位以外の血管を塞栓するので好ましくない。本発明の製造方法により、上記3種の粒径範囲のゼラチン粒子を簡便に製造できるとともに、各粒径範囲で、全粒子が、目的とする中心粒径に対して±25%以内に収まるような、シャープな粒度分布を実現することができる。
【0018】
本発明の製造方法で作製されるゼラチン粒子径は、加圧エアーの圧力(すなわち吐出圧)、ピストン・ニードルの移動量、ノズルの形状、ノズルの吐出口の口径、上下動の振幅、吐出時間などを調整することにより、その粒子径を調整することができる。また、ノズルの形状および吐出口の口径が同一であっても、ノズルの上下動の速度(すなわち、1分当たりの上下動の回数)と吐出圧を調整することによって、ゼラチン粒子径を調整することができる。図3Bに示すように、ピストン・ニードル28とは、液吐出機構30の中央に設けられた上下方向に可動の軸状ピストンである。ピストン・ニードル28が上昇すると、液供給口29から供給されたゼラチン水溶液11が、ピストン・ニードル28の周囲の円筒状通路に所定量取り込まれ、ピストン・ニードル28が下降すると取り込まれた所定量のゼラチン水溶液11が吐出口26から吐出される。このとき、ゼラチン水溶液をノズル先端から疎水性溶媒中へ吐出させるときの圧力は0.001MPa以上であることが好ましい。0.001MPa未満では、ノズルからのゼラチン水溶液の吐出が困難である。
【0019】
ゼラチン水溶液の吐出量の最適な範囲は、求められるゼラチン粒子の粒径に依存するとともに、ゼラチン水溶液の濃度に依存する。例えば、5重量%のゼラチン水溶液を用いて、50μmの粒子を得る場合には、吐出量を約0.001mlにすることが適している。200μmおよび500μmの粒子を得る場合には、吐出量はそれぞれ約0.08mlと約1.30mlが適している。
【0020】
次に、本発明の1実施形態について、工程ごとに図4のフローチャートに沿って具体的に説明する。
【0021】
本発明の1実施形態のゼラチン粒子製造方法において、ゼラチン水溶液11を調整するには、まずゼラチンを0℃程度の水中で膨潤させる。次に、スターラー、攪拌翼または振とう器などを用いて約0.5時間〜約1.5時間攪拌することで、約40℃〜60℃の温水にゼラチンを完全に溶解させる。このような処理手順により、短時間にかつ完全にゼラチンを溶解することができる。
【0022】
ゼラチン水溶液をバルブ23に供給する工程S1では、タンク20、配管21およびディスペンサーのバルブ23を約40℃〜60℃に加温することが好ましい。このように加温することにより、装置内でのゲル化を防ぐことができて、ゼラチン水溶液の安定な吐出が可能となる。
【0023】
次の、ゼラチン水溶液11の疎水性溶媒中12への吐出工程S2では、ノズル24を約40℃〜60℃に加温することが好ましい。このように加温することにより、ゼラチン水溶液11のゲル化を防いで、一定量のゼラチン水溶液を連続かつ長時間吐出することができる。
【0024】
吐出口26の引き上げ工程S3では、疎水性溶媒12中に浸かっていた吐出口26を疎水性溶媒12から引き上げる。吐出工程では、吐出口26の先端に吐出されたゼラチン水溶液が付着した状態である。ゼラチン水溶液が付着した吐出口26を引き上げると、疎水性溶媒12と空気との界面を通過するため、吐出口26に付着していたゼラチン水溶液が離脱し、疎水性溶媒12中に移動してゼラチン水溶液液滴14を形成する。この後、吐出口26は下降し、次の吐出に移る。
【0025】
疎水性溶媒12の温度は、0℃〜60℃の範囲であることが好ましい。特に、ゼラチン水溶液11のゲル化温度以下にすることがより好ましい。疎水性溶媒12の温度をゲル化温度以下にすることで、ゼラチン水溶液液滴14の固化が早まり、粒子同士の衝突や、溶媒攪拌時のせん断力による粒子の変形または分離が抑制される。併せて、ゼラチン水溶液液滴14同士の癒着や凝集も防止できる。また、疎水性溶媒としては、製薬学的に許容される物質であればよく、例えば、オリーブ油などの植物油、オレイン酸などの脂肪酸、トリカプリル酸グリセリルなどの脂肪酸エステル類、ヘキサンなどの炭化水素系溶剤などを用いることができる。なかでも、オリーブ油や、酸化しにくい中鎖脂肪酸エステルであるトリカプリル酸グリセリルが好ましい。
【0026】
ゼラチン水溶液液滴14中の水分を脱水する工程S4では、ゼラチン水溶液液滴14が溶解しないように、ゲル化温度以下の脱水溶媒を混合してゼラチン水溶液液滴14中の水分を除去する。そのため、ゼラチン水溶液液滴14を脱水溶媒に約15分間以上接触させることが好ましい。脱水溶媒の温度は、ゼラチンのゲル化温度以下であることが特に好ましい。このようにして、ゼラチン水溶液液滴14中の水分を脱水することで、形成されたゼラチン粒子31の凝集を防ぐことができ、後工程での均一な架橋が可能となる。脱水溶媒として、例えば、アセトンなどのケトン系溶剤、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤、トルエン、ヘキサンなどの炭化水素系溶剤、ジクロルエタンなどのハロゲン系溶剤を用いることができる。
【0027】
ゼラチン粒子31の洗浄工程S5では、ゼラチン粒子31が溶解しない貧溶媒を用いてゼラチン粒子31を洗浄する。貧溶媒はゼラチンのゲル化温度以下で用いることが好ましい。洗浄に際して、篩過、遠心分離などの方法で、ゼラチン粒子31と貧溶媒とを分離できる。ゼラチン水溶液液滴が溶解しない貧溶媒として、例えば、アセトンなどのケトン系溶剤、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤、トルエン、ヘキサンなどの炭化水素系溶剤、ジクロルエタンなどのハロゲン系溶剤を用いることができる。洗浄工程S4では、約2〜15グラムのゼラチン粒子31に対して、約200〜300mlの溶剤を用いて15〜30分洗浄する操作を1サイクルとし、これを4〜6サイクル繰り返し行うことが好ましい。このとき、攪拌翼、振とう器、超音波洗浄機などを用いることでより効果的に洗浄できる。
【0028】
ゼラチン粒子31の乾燥工程S6は、ゼラチン粒子31が溶解しない温度で、ゼラチンに付着した洗浄溶媒およびゼラチン粒子31中の水分を除去する工程であり、通風乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥などの種々の方法を用いることができる。例えば、5℃〜25℃で約12時間以上乾燥することが好ましく、特に、減圧雰囲気で乾燥することがより好ましい。
【0029】
ゼラチン粒子31の架橋工程S7では、ゼラチン粒子31を、温度80℃〜250℃で、0.5時間〜120時間加熱する。この加熱条件は、血管内でゼラチン粒子を完全に分解するのに要する時間、すなわち、血管内をゼラチン粒子31で塞栓してから、血流を再開通させるまでに必要とされる期間に応じて決定される。また、加熱時間は加熱温度に依存する。一般に、腫瘍(癌)を壊死させるためには、2〜3日間、血管を塞栓すればよい。したがって、例えば、ゼラチン粒子31の分解期間を3〜7日間に設定する場合、加熱架橋の条件としては、100℃〜180℃で、1時間以上24時間以下加熱することが好ましい。ゼラチン粒子31の酸化等の不具合を避けるためには、架橋工程S7を、減圧下、または不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0030】
本実施の形態の製造方法は、特に、非多孔質ゼラチン粒子の製造に適している。多孔質ゼラチン粒子の場合、血管内での分解に際して、ゼラチン粒子の一部が分離して微粒子となる場合があり、それらの微粒子が血流に運ばれて目的部位以外の血管を塞栓する場合がある。一方、非多孔質の場合には、ゼラチン粒子の外周部分から徐々に溶解していくため、そのような微粒子が発生する可能性が少ないという利点がある。
【実施例】
【0031】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例の記載により限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
滴下槽中に約100mlのオリーブ油を入れ、ディスペンサーの吐出口がオリーブ油に約1mm浸るように設置した。あらかじめゼラチン2gを冷水約18ml中で30分間膨潤させ、膨潤したゼラチンを40〜50℃の温水で約1時間加温しながら溶解してゼラチン水溶液を作製した。作製したゼラチン水溶液を脱泡したのち、ディスペンサー(741MD−SS、(株)サンエイテック製)のバルブ中に充填した。0.01MPaの加圧エアーでバルブ内を加圧し、内径0.10mmのポリプロピレン製ニードルノズル(GPニードルノズル32G、(株)サンエイテック製)をオリーブ油の界面を横切るように上下に約3mmの振幅で振動させながら、ニードルノズルからゼラチン水溶液をオリーブ油内に吐出した。このとき、ゼラチン水溶液は吐出口がオリーブ油に浸漬された状態で定量吐出され、吐出口がオリーブ油から引き上げられる時に、吐出されたゼラチン水溶液が吐出口から離脱してオリーブ油中に分散された。一旦、引き上げられた吐出口を、次の吐出動作のために再度オリーブ油中に浸漬した。この(浸漬〜吐出〜引き上げ)という一連の工程を本実施例1では400回/分の速度で行った。この一連の工程の間、オリーブ油を攪拌した。オリーブ油を攪拌することで、吐出されたゼラチン水溶液液滴がオリーブ油中で沈降することなく、液滴ごとに分散させることができた。次に、オリーブ油を周りから冷水で冷却することで、オリーブ油中に形成されたゼラチン水溶液液滴を冷却して固化させた。その後、オリーブ油中に氷冷したアセトンを投入してゼラチン水溶液液滴を脱水し、ゼラチン粒子を得た。得られたゼラチン粒子を取り出し、氷冷したアセトン中で洗浄することで、残留オリーブ油が除去されたゼラチン粒子を得た。その後、ゼラチン粒子を12〜24時間真空乾燥し、さらに続けて減圧下で140℃、24時間加熱架橋させることで水不溶性ゼラチン粒子を作製した。
【0033】
(実施例2)
0.30MPaの加圧エアーでバルブ内を加圧し、かつ、内径0.20mmのポリプロピレン製ニードルノズルを用いた以外は実施例1と同様の装置、条件で水不溶性ゼラチン粒子を作製した。
【0034】
(比較例1)
1000ml縦型フラスコに700mlのオリーブ油を入れ、攪拌翼をセットした。あらかじめゼラチン2gを冷水18ml中で30分間膨潤させ、膨潤したゼラチンを40〜50℃の温水で約1時間加温しながら溶解してゼラチン水溶液を作製した。攪拌翼を200rpmで回転させてオリーブ油を攪拌しながら、ロートを用いて20gのゼラチン水溶液を投入し、そのまま引き続き、約10〜30分間攪拌を続けることでゼラチン水溶液液滴を形成した。次に、オリーブ油を周りから冷水で冷却することで、オリーブ油中に形成されたゼラチン水溶液液滴を冷却して固化させた。その後、オリーブ油中に氷冷したアセトンを投入してゼラチン水溶液液滴を脱水し、ゼラチン粒子を得た。得られたゼラチン粒子を取り出し、氷冷したアセトン中で洗浄することで、残留オリーブ油が除去されたゼラチン粒子を得た。その後、ゼラチン粒子を12〜24時間真空乾燥し、さらに続けて減圧下で140℃、24時間加熱架橋させることで水不溶性ゼラチン粒子を作製した。
【0035】
(比較例2)
1000ml縦型フラスコに700mlのオリーブ油を入れ、攪拌翼をセットした。あらかじめゼラチン約2gを冷水11ml中で30分間膨潤させ、膨潤したゼラチンを40〜50℃の温水で約1時間加温しながら溶解してゼラチン水溶液を作製した。攪拌翼を100rpmで回転させてオリーブ油を攪拌しながら、ロートを用いて13gのゼラチン水溶液を投入し、そのまま引き続き、約10〜30分間攪拌を続けることでゼラチン水溶液液滴を形成した。以下、比較例1と同様にして水不溶性ゼラチン粒子を作製した。
【0036】
以下、実施例1、2および比較例1,2で得られた水不溶性ゼラチン粒子の測定結果および評価結果について説明する。
【0037】
(粒子形状)
実施例1、2および比較例1,2で得られた水不溶性ゼラチン粒子を倍率100倍のマイクロスコープで観察した結果を図5(a)〜(d)に示す。図5(a)は、実施例1の方法で作製したゼラチン粒子の粒子形状を示す図であり、図5(b)は、実施例2の方法で作製したゼラチン粒子の粒子形状を示す図であり、図5(c)は、比較例1の方法で作製したゼラチン粒子の粒子形状を示す図であり、図5(d)は、比較例2の方法で作製したゼラチン粒子の粒子形状を示す図である。図5から、どのゼラチン粒子も略球形であることが確認できた。
【0038】
(粒度分布)
マイクロスコープを用いて、実施例1,2および比較例1,2で得られたゼラチン粒子の粒径を各100個計測した。粒度分布図を図6〜図9に示す。図6,7、8および9は、それぞれ、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2に該当する。図中の横軸は粒径を示し、縦軸は該当する粒径の粒子の頻度(%)を示す。つまり、50μmの粒径で頻度6%というのは、100個の粒子中6個が50μmであることを示す。図8、9に示すように、比較例1、2で得られた粒子では、粒径範囲は数μmから数千μmの範囲に幅広く分布していた。一方、図6、7に示すように、本実施例1、2で得られた粒子は、非常にシャープな粒度分布を示した。
【0039】
(粒子収率)
実施例1,2および比較例1,2で得られたゼラチン粒子を、目開き600、425、250、150、106、53μmの篩を用いて分級し、篩に残った狙いとする粒径の粒子の重量を測定することで収率を算出した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の結果から、比較例1,2の場合には、狙いとする粒径範囲のゼラチン粒子は、粒子全体の40%以下という低収率であった。それに対し、本実施例1の場合には、150〜200μmの小径の粒子であっても、全体の86%が150μm〜200μmという狭い範囲内に収まっていた。また、500μm程度の粒子の場合には、全体の90%が425μm〜500μmという狭い範囲内に収まっており、さらにシャープな粒径分布特性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は従来の液中分散法を説明する斜視図である。
【図2】図2は本発明の一実施形態の液中滴下法を説明する斜視図である。
【図3A】図3Aはディスペンサーの構成図である。
【図3B】図3Bはディスペンサー先端部の断面図である。
【図4】図4は本発明の一実施形態の製造方法を説明するフローチャートである。
【図5】図5はゼラチン粒子の粒子形状を示す図である。
【図6】図6は実施例1で作製したゼラチン粒子の粒度分布を示す図である。
【図7】図7は実施例2で作製したゼラチン粒子の粒度分布を示す図である。
【図8】図8は比較例1で作製したゼラチン粒子の粒度分布を示す図である。
【図9】図9は比較例2で作製したゼラチン粒子の粒度分布を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
11 ゼラチン水溶液
12 疎水性溶媒
13 攪拌翼
14 ゼラチン水溶液液滴
15 冷却水
16 滴下槽
20 ゼラチン水溶液調合タンク
21 配管
22 加圧エアー
23 ディスペンサーのバルブ
24 ノズル
25 ニードル
26 吐出口
27 バルブコントローラ
28 ピストン・ニードル
29 液供給口
30 液吐出機構
31 ゼラチン粒子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスペンサーの吐出口を疎水性溶媒に浸漬し、前記吐出口から所定量のゼラチン水溶液を前記疎水性溶媒中に吐出する工程と、
前記吐出工程につづき、前記吐出口を前記疎水性溶媒から引き上げる工程と、
前記疎水性溶媒中に形成されたゼラチン水溶液液滴中の水分を脱水溶媒にて脱水する工程と、
脱水されたゼラチン粒子をゼラチン粒子の貧溶媒で洗浄する工程と、
回収したゼラチン粒子を乾燥する工程と、
乾燥させたゼラチン粒子を加熱架橋する工程とからなり、
前記吐出する工程で形成されたゼラチン水溶液液滴を、前記引き上げる工程で前記吐出口から離脱させることを特徴とするゼラチン粒子の製造方法。
【請求項2】
前記吐出する工程が、ディスペンサーのバルブに収容されたゼラチン水溶液を、エアー圧により、前記吐出口から疎水性溶媒中に吐出する工程であり、ゼラチン粒子の粒径を、エアー圧、ピストン・ニードルの移動量、吐出時間、またはノズル吐出口径により調整することができる請求項1記載のゼラチン粒子の製造方法。
【請求項3】
前記吐出する工程において、疎水性溶媒中に前記吐出口が0.2mm〜3mm漬かっていることを特徴とする請求項1記載のゼラチン粒子の製造方法。
【請求項4】
前記吐出する工程において、ノズルの上下動の振幅が、1〜5mmであり、上下動の回数が1分当たり1000回以下である請求項1記載のゼラチン粒子の製造方法。
【請求項5】
前記疎水性溶媒を攪拌することを特徴とする請求項1記載のゼラチン粒子の製造方法。
【請求項6】
前記吐出する工程において、ゼラチン水溶液を前記吐出口から疎水性溶媒中へ吐出させるときの圧力が0.001MPa以上である請求項1記載のゼラチン粒子の製造方法。
【請求項7】
ゼラチン水溶液の濃度が2重量%〜20重量%の範囲である請求項1記載のゼラチン粒子の製造方法。
【請求項8】
前記吐出する工程が、ゼラチン水溶液を調整する容器と、前記容器からゼラチン水溶液をディスペンサーのバルブへ輸送する配管と、ゼラチン水溶液を疎水性溶媒中に吐出するノズルを有するディスペンサーと、疎水性溶媒を収容する槽を用いて行われ、前記各装置はゼラチン水溶液の温度を維持するための保温が可能である請求項1記載のゼラチン粒子の製造方法。
【請求項9】
疎水性溶媒が、動物油、植物油、鉱物油、シリコン油、脂肪酸、脂肪酸エステル、有機溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種類である請求項1記載のゼラチン粒子の製造方法。
【請求項10】
脱水溶媒並びに洗浄溶媒が、アセトン、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、トルエン、酢酸エチル、ヘキサン、ハロゲン系有機溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種類若しくは2種類以上である請求項1記載のゼラチン粒子の製造方法。
【請求項11】
ゼラチン粒子の洗浄方法が、篩過、遠心分離からなる群から選ばれる少なくとも1手段である請求項1記載のゼラチン粒子の製造方法。
【請求項12】
脱水したゼラチン粒子の乾燥方法が、通風乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥からなる群から選ばれる少なくとも1手段である請求項1記載のゼラチン粒子の製造方法。
【請求項13】
前記加熱架橋工程において、加熱温度が80℃〜250℃、加熱時間が0.5時間〜120時間である請求項1記載のゼラチン粒子の製造方法。
【請求項14】
ゼラチン粒子の形状が球形である請求項1記載のゼラチン粒子の製造方法。
【請求項15】
加熱架橋後のゼラチン粒子の粒径が2000μm以下である請求項1記載のゼラチン粒子の製造方法。
【請求項16】
前記吐出する工程において、ノズルの先端は20℃以上に加温され、疎水性溶媒は0℃〜60℃に温度調整可能であることを特徴とする請求項1記載のゼラチン粒子の製造方法。
【請求項17】
前記吐出する工程と前記引き上げる工程とを交互に複数回繰り返すことにより複数個の前記ゼラチン水溶液液滴を製造する、請求項1記載のゼラチン粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−77062(P2010−77062A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246417(P2008−246417)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】