ゼンマイ駆動ユニット及び引戸
【課題】手動操作区間を変えることなく、移動体を一方向へ移動操作したあと途中から自走するときの自走速度の調整ができるゼンマイ駆動ユニット及び引戸を提供する。
【解決手段】従動ギア31が一方向に回転することによりゼンマイ27を巻上げ、巻上げたゼンマイ27を解放することにより従動ギア31が他方向に回転して走行ギア23が巻取りギア25の巻取り回転方向と同方向に回転して走行ラック15を移動するものであって、従動ギア31に歯合して従動ギア31の回転範囲を規制するストッパギア33と、ゼンマイ巻量調整具28とを備え、ゼンマイ巻量調整具28を回転操作して所定位置で固定することにより、ゼンマイ27の蓄力量を調整可能としてある。
【解決手段】従動ギア31が一方向に回転することによりゼンマイ27を巻上げ、巻上げたゼンマイ27を解放することにより従動ギア31が他方向に回転して走行ギア23が巻取りギア25の巻取り回転方向と同方向に回転して走行ラック15を移動するものであって、従動ギア31に歯合して従動ギア31の回転範囲を規制するストッパギア33と、ゼンマイ巻量調整具28とを備え、ゼンマイ巻量調整具28を回転操作して所定位置で固定することにより、ゼンマイ27の蓄力量を調整可能としてある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼンマイ駆動ユニット及びそのゼンマイ駆動ユニットを備える引戸に関する。
【背景技術】
【0002】
引戸の開閉において、開き側又は閉じ側のいずれか一方側に戸を移動操作したあと途中から同方向に戸を自走させるゼンマイ駆動ユニットが公知である。
この種のゼンマイ駆動ユニットとして、特許文献1には、ゼンマイの一端を固定し、他端を従動ギアに係止し、従動ギアには巻取りラックに歯合する巻取りギアと走行ラックに歯合する走行ギアとを歯合する構成が開示されている。この特許文献1の技術では、引戸を開閉方向の一方の途中まで手動により操作しているときには巻取りギアが巻取りラックに歯合してゼンマイを巻き上げ、次に、巻取りギアと巻取りラックとの歯合が外れると共に走行ギアが走行ラックに歯合して、巻上げたゼンマイの解放により従動ギアを回転して、従動ギアに歯合している走行ギアを巻取りギアと同方向に回転させて、引戸を移動操作の途中から自走させている。
特許文献1の技術のように、移動途中の戸を自走させる種類のゼンマイ駆動ユニットでは、引戸の開動作又は閉動作終了後に走行ギアが走行ラックと歯合していない状態が生じて、ゼンマイが蓄積した力が全て解放されてしまう。したがって、巻取りギアがゼンマイを巻上げて、戸が自走を開始するときのゼンマイの蓄力量は常に同じになり、自走速度の調整ができなかった。
これに対して、巻取りラックの長さを長くしたり短くすることにより、自走速度を調整することが考えられるが、巻取りラックの長さを変えると施工に手間がかかると共に、手動操作区間が変わってしまい、例えば、巻取りラックを長くした場合には手動操作区間が長くなるという不都合があった。
また、特許文献2には、走行ギアを従動ギアとラックに常時歯合させ、開閉方向の一方向の操作をするときにゼンマイを巻上げ、他方向の操作をするときにはゼンマイを解放して引戸の戸を自走させるゼンマイ駆動ユニットが開示されている。この引用文献2には、ゼンマイの一端を係止したゼンマイ巻量調整具を設けて、ゼンマイ巻量調整具によりゼンマイを予め巻上げておく量を調整することで、従動ギアによるゼンマイの巻き上げ終了後の蓄力量を調整して、引戸が自走するときの自走速度を調整することが開示されている。この特許文献2の技術では走行ギアは巻取りギアを兼ねており、常時ラックと従動ギアとに歯合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−39997号公報
【特許文献2】特開2009−228410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、引用文献1のようにゼンマイの巻き上げ操作方向と、走行方向が同一の引戸で、引戸の開閉操作の途中から同方向の移動をアシストする種類のゼンマイ駆動ユニットでは、従動ギアが各ラックとギア列で連結されていないときがあるので、特許文献2のようにゼンマイ巻量調整具よりゼンマイを予め巻いておいても全て解放されてしまうからゼンマイの蓄力量の調整ができないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、手動操作区間を変えることなく、移動体を一方向へ移動操作したあと途中から自走するときの自走速度の調整ができるゼンマイ駆動ユニット及び引戸の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、ゼンマイと、ゼンマイの一端を係止したゼンマイ巻量調整具と、ゼンマイの他端を係止した従動ギアと、巻取りラックに歯合すると共に従動ギアに歯合可能に設けた巻取りギアと、走行ラックに歯合すると共に従動ギアに歯合可能に設けた走行ギアと、従動ギアに歯合すると共に回転範囲が規制されたストッパギアとを備え、巻取りギアが従動ギアに歯合した状態で巻取りラックを走行することによりゼンマイを巻上げて蓄力すると共に、ゼンマイ巻量調整具に対して従動ギアが一方向に回転することによりゼンマイを巻上げ、巻上げたゼンマイを解放することにより従動ギアが他方向に回転してこれにより走行ギアが巻取りギアの巻取り回転方向と同方向に回転して走行ラックを移動するものであり、ゼンマイ巻量調整具を回転操作して所定位置で固定することによりゼンマイの蓄力量を調整可能にしてあることを特徴とするゼンマイ駆動ユニットである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、巻取りラック及び走行ラックを設けた横枠と、請求項1に記載のゼンマイ駆動ユニットを設けた戸とを備え、巻取りラックと走行ラックとは横枠の長手方向に設け且つ横枠の見込み方向で異なる位置に設けてあり、巻取りギアが巻取りラックから離れたときに走行ギアが走行ラックに歯合することを特徴とする引戸である。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、ストッパギアが従動ギアの回転範囲を規制しているので、たとえ、走行ギアと走行ラックの歯合及び巻取りギアと巻取りラックの歯合が解除されてもゼンマイが全て解放されることがなく、巻取りラックを巻取りギアが走行することにより従動ギアが回転してゼンマイを巻上げる前と、ゼンマイの力を解放することで従動ギアが他方向に回転することにより走行ギアが回転して走行ラックを移動した後で、ゼンマイに蓄積された力を同じにできる。
したがって、ゼンマイ巻量調整具でゼンマイの巻量(付勢力)を調整することにより、ゼンマイを巻上げたときの蓄力量を調整できるから、ゼンマイ駆動ユニットを取付けた移動体を一方向に手動操作したあと、同方向に自走する移動体の自走速度を調整できる。
ゼンマイ巻量調整具は必要に応じて更に回転することができ、何度でもゼンマイのテンション調整ができる。
ゼンマイの巻量を調整することにより自走速度を調整するので、巻取りラックの長さを変えることなく、自走速度の調整ができる。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、引戸の開閉操作において開操作又は閉操作する操作の途中から操作方向と同方向に引戸が自走する自走速度を調整できる。
引戸における自走速度の調整が何度でもできる。
横枠に設ける巻取りラックの長さを変えることなく、戸の自走速度の調整ができるので、巻取りラックの付け替え等の施工作業が不要である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態にかかるゼンマイ駆動ユニットの蓋を開けたときのケース内の平面図であり、ゼンマイを解放しきったときの図である。
【図2】図1に示すゼンマイ駆動ユニットのギア列の歯合関係を示した構成図である。
【図3】テンション調整ギアの図であり、(a)はテンション調整ギアの分解斜視図であり、(b)はテンション調整ギアが係止する蓋部分を内側から見た斜視図であり、(c)及び(d)はゼンマイ駆動ユニットにおけるテンション調整ギア部分の断面図であり、(c)テンション調整前、(d)はテンション調整するときの図である。
【図4】本発明の実施の形態にかかるゼンマイ駆動ユニットの蓋を開けたときのケース内の平面図であり、ゼンマイ巻き取り開始時の図である。
【図5】図4に示すゼンマイ巻き取り開始時におけるギア列の歯合関係を示した構成図である。
【図6】本発明の実施の形態にかかるゼンマイ駆動ユニットの蓋を開けたときのケース内の平面図であり、ゼンマイ巻き取り終了時の図である。
【図7】図6に示すゼンマイ巻き取り終了時におけるギア列の歯合関係を示した構成図である。
【図8】本実施の形態において、特許請求の範囲に記載の構成部材の関係を示す概略構成図である。
【図9】ゼンマイ駆動ユニットとラックと関係を示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は側面図であり、(c)は上枠を下から見た平面図である。
【図10】上枠の一部を破断して示す引戸の正面図である。
【図11】図10に示すA−A断面図である。
【図12】本発明の変形例であって、ゼンマイ、ゼンマイ巻量調整具及び従動ギアとその周囲部の関係を示した構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図10に示すように、本実施の形態に係る引戸1は、上枠(横枠)3及び左右の竪枠7、7を枠組した枠9と、上枠3の長手方向にスライド自在に設けた戸11とを備えた片引き吊り戸である。
図11に示すように、上枠3にはレール13と、走行ラック15と、巻取りラック17とが設けてあり、戸11には、レール13を走行する戸車19とゼンマイ駆動ユニット21とが設けてある。尚、図10に示すように、本実施の形態では、ゼンマイ駆動ユニット21は戸11の開き用と閉じ用で合計2つ設けてあり、各ゼンマイ駆動ユニット21に対応して巻取りラック17と走行ラック15とが設けてあり、図9(c)に示すように、走行ラック15は2つのゼンマイ駆動ユニット21で共用している。
図9(c)に示すように、走行ラック15と巻取りラック17とは、上枠3の長手方向に配置されており、見込み方向の一方側に走行ラック15が上枠の長手方向に配置してあり、他方側に巻取りラック17が2つ間隔をあけて配置されている。走行ラック15には、後述する各ゼンマイ駆動ユニット21の走行ギア23が歯合可能であり、一方の巻取りラック17には、一方のゼンマイ駆動ユニット21の巻取りギア25が歯合可能に設けてあり、他方の巻取りラック17には、他方のゼンマイ駆動ユニット21の巻取りギア25が歯合可能に設けてある。
【0012】
図1、図2及び図8に示すように、ゼンマイ駆動ユニット21は、ゼンマイ27と、ゼンマイ27を収納した固定ギア29と、従動ギア31と、従動ギア31に巻取り用ギア列37を介して歯合する巻取りギア25と、従動ギア31に走行用ギア列39を介して歯合する走行ギア23と、従動ギア31にストッパ用ギア列38を介して歯合するストッパギア33と、固定ギア29に歯合したテンション調整ギア35とが設けられている。固定ギア29は、ゼンマイ27を収納した香箱ギアである。また、本実施の形態では、固定ギア29とテンション調整ギア35とでゼンマイ巻量調整具28を構成している。ゼンマイ巻量調整具28は、回転操作して所定位置で固定することによりゼンマイ27の蓄力量を調整可能としたものである。
固定ギア29にはゼンマイ27の外周端27aが係止してあり、従動ギア31にはゼンマイ27の内周端27bが係止されている。
従動ギア31は、大径部31aと小径部31bとを一体に有しており、大径部31aは、固定ギア29の外径と同じ径になっている。したがって、図1ではテンション調整ギア35が歯合している位置では、従動ギア31の大径部31aを一部破断してテンション調整ギア35と固定ギア29との歯合を示している。
【0013】
巻取りギア25は、上述したように巻取りラック17に歯合可能であり且つ、図1及び図2に示すように、巻取り用ギア列37を介して従動ギア31の小径部31bに歯合している。
巻取り用ギア列37は本実施の形態では、第1移動ギア49のみで構成されている。第1移動ギア49は図1に破線で示すように、その軸49aが第1溝51内を移動自在であり、図1に示す第1溝51のストッパギア側端に位置しているときには、巻取りギア25のみに歯合して従動ギア31の小径部31bには歯合しないが、図4に示すように、第1スライドギア49の軸49aが第1溝51の従動ギア側端に位置しているときには、巻取りギア25と従動ギア31の小径部31bに歯合する。
第1移動ギア49は、巻取りギア25がゼンマイの巻取り方向(矢印S)に回転すると押し下げられて軸49aが図1に示すストッパギア側端から第1溝51内を移動し、図4に示すように従動ギア側端に位置して第1移動ギア49が従動ギア31の小径部31aに歯合する。また、巻取りギア25が巻取りラック17から外れているときには、図4に示すように、第1移動ギア49が従動ギア31の小径部31aと歯合している状態から小径部31aが時計方向(矢印T)に回転すると、第1移動ギア49が押し上げられて軸49aが第1溝内を一端側に移動して、図1に示すように、従動ギア31との歯合が解除される。
ストッパギア33は、被当接部33aを備えており、所定角度回転するとケース53に設けたストッパ55に当接してその回転範囲が規制されている。即ち、ストッパギア33は一回転できないように回転範囲が規制されている。
【0014】
図1及び図2に示すように、ストッパギア33は、ストッパ用ギア列38を介して従動ギア31の大径部31aに常時歯合している。即ち、ストッパギア33は第1減速ギア57の小径部57bに歯合しており、第1減速ギア57の大径部57aは第2減速ギア59の小径部59bに歯合しており、第2減速ギア59の大径部59aは従動ギア31の大径部31aに歯合している。
走行ギア23は走行ラック15に歯合可能であり且つ走行用ギア列39を介して従動ギア31の大径部31aに歯合している。走行ギア23は同軸に大径部23aと小径部23bとを有しており、大径部23aが走行ラック15に歯合するようになっている。
走行用ギア列39は、第2移動ギア61と、第3減速ギア63と、遊動ギア65とから構成されている。第2移動ギア61は軸61aが破線で示す第2溝67内を移動自在に設けてあり、図1に示すように第2溝67の走行ギア側端に位置したときに走行ギア23の小径部23bに歯合し、遊動ギア側端に位置したときに図4に示すように、走行ギア23の小径部23bから離脱して遊動ギア65に歯合するようになっている。
第2移動ギア61は、第3減速ギア63が反時計方向(図1の矢印U)の回転により押し上げられると第2溝67の走行ギア側端に位置し、時計方向(図1の矢印W)の回転により押し下げられると図4に示すように軸61aが第2溝67の遊動ギア側端に位置して、走行ギア23との歯合が外れて遊動ギア65に歯合する。
尚、第3減速ギア63は第2移動ギア61と従動ギア31の大径部31aに常時歯合している。
図3に示すように、テンション調整ギア35には、ゼンマイ駆動ユニット21のケース53に蓋をする蓋部材42側の端部にドライバー等の治具Jの先端に係合可能な係合溝43が形成されており、且つスプリング41により蓋部材42側に常時付勢されている。また、テンション調整ギア35の係合溝43の周囲には被係止部45が形成されており、図3(c)に示すように、スプリング41の付勢力に押されてテンション調整ギア35の被係止部45が蓋部材42に形成された係止部47にかみ合うことにより、テンション調整ギア35の自転が規制されている。尚、テンション調整ギア35の係合溝43は蓋部材42の孔42aから外部に露出されている。テンション調整するときには、図3(d)に示すように、孔42aから治具Jの先端を差し込み、係合溝43に押し付けてテンション調整ギア35を蓋部材42から離して被係止部45と係止部47とのかみ合いを解除して回す。
【0015】
次に、本実施の形態に係るゼンマイ駆動ユニット21を備えた引戸1の作用効果について説明する。
図1に示すゼンマイの巻取り開始前の状態では、戸11は閉じ位置にあり、ゼンマイ駆動ユニット21では、ゼンマイ27は解放状態にあり巻取りギア25は巻取りラック17に歯合していない。また、ストッパギア33の被当接部33aはストッパ55の一側に当接している。
図10に示すように、戸11の開き操作を開始すると、巻取りギア25が巻取りラック17と歯合を開始して、巻取りギア25が巻取りラック17を移動する。そして、巻取りギア25が図1に示すS方向に回転すると、第1移動ギア49が押し下げられて、第1移動ギア49の軸49aが第1溝51内を従動ギア側端に移動して、図4に示すように、従動ギア31の小径部31bに歯合する。このとき、ストッパギア33は、ストッパ55の一側に位置する始動位置にある。
図4に示すように、第1移動ギア49は時計方向(図4に示すE)方向に回転し、第1移動ギア49を介して従動ギア31はX方向に回転して、ゼンマイ27の巻き上げを開始する。一方、走行用ギア列39では、従動ギア31の大径部31aに歯合している第3減速ギア63は時計方向(Y方向)に回転し、第2移動ギア61を押し下げるので、第2移動ギア61は走行ギア23との歯合が外れて且つ遊動ギア65に歯合する。この状態で巻取りギア25が回転し続けことにより、従動ギア31はゼンマイ27を巻き上げていく。そして、ストッパギア33は矢印Z方向へ回転する。
ゼンマイ27の巻上げが終了すると、図6に示すように、ストッパギア33の被当接部33aがストッパ55の他側に当接して従動ギア31は回転範囲が規制され、従動ギア31はそれ以上回転しない。戸11は開動作の途中にあり、巻取りギア25と巻取りラック17との歯合が終了した位置にある。
【0016】
次に、走行ギア23が走行ラック15との歯合を開始する。この状態でゼンマイ27は巻上げが完了してゼンマイ27の付勢力を蓄積した状態にある。
固定ギア29は、テンション調整ギア35に常に歯合しており、テンション調整ギア35は蓋部材42に係止しているので、固定された状態にある。
そして、巻取りギア25が巻取りラック17から外れると、蓄力したゼンマイ27の解放が開始する。これにより、従動ギア31が図6に示すT方向に回転を開始し、第3減速ギア63が歯合している第2移動ギア61を押し上げることにより、図1に示すように、第2移動ギア61が走行ギア23の小径部23bに歯合する。この状態で走行ギア23は走行ラック15に歯合して戸11は、開方向と同方向に自走を開始する。
一方、図6において、従動ギア31の小径部31bもT方向の回転を開始するので、第1移動ギア49は、従動ギア31の小径部31bに押し上げられて第1移動ギア49の軸は第1溝51をストッパギア側端に移動し、図1に示すように、第1移動ギア49と従動ギア31の小径部31bとの歯合が解除される。即ち、各歯車は、図1に示すような状態となって、従動ギア31の回転が開始し、ストッパギア33も図6のゼンマイ27の蓄力解放開始から矢印で示すように反時計方向の回転を開始し、一回転しない範囲を回転したところで、図1に示すように、被当接部33aがストッパ55に当接し、ストッパギア33にストッパ用ギア列38を介して歯合している従動ギア31もこの位置で停止する。この状態で、ゼンマイの巻き量が残っている場合でも残ったままの状態になり、ゼンマイ27が全て解放されることがない。
そして、戸11は自走を終了して全開位置になる。
戸11が開位置から閉位置に移動する場合には、他方のゼンマイ駆動ユニット21の走行ギア23に走行ラック15が歯合し、他方の巻取りラック17に巻取りギア25が歯合して、上述した開動作と同様に、閉操作によりゼンマイ27を巻取った後、巻き取ったゼンマイの蓄力の解放により、同方向に自走する。
本実施の形態では、戸11が開位置から閉位置に移動する際に、巻取りギア25が巻取りラック17に歯合しないときに、第1移動ギア49は図4で示す位置にあり、巻取りギア25が巻取りラック17と歯合するときには第1移動ギア49は図1で示す位置にある。また、第2移動ギアは自重で下に落ちている為、従動ギア31はいずれのラック15、17とも連結していないが、ストッパギア33と歯合していると共にストッパギア33はストッパ55の一側に当接している為、戸の操作前に蓄積されていた力は解放しない。
【0017】
次に、蓄力したゼンマイ27を解放して自走するときの戸の速度調整について説明する。例えば、図1において、自走速度を高めたい場合には、蓋体42の孔42から外側に突出しているテンション調整ギア35の係合部43にマイナスドライバーを嵌めて押し込むと、テンション調整ギア35はスプリング41の付勢力に抗してケース側に移動し、図3に参照されるように、被係止部45と蓋部材42の係止部47との係止が解除されて、回転自在となる。テンション調整ギア35が回転自在となったところで、係合部43を押しながら、図1に示すように時計方向(矢印F方向)に回転することにより、固定ギアが反時計方向に回転する。一方、従動ギア31はストッパギア33により回転範囲が規制されているので、ゼンマイ27が巻上げられ、ゼンマイ27の巻量を多くする。これにより、ゼンマイ27の巻取り終了時におけるゼンマイの蓄力量を高め、戸の自走速度を高くすることができる。
一方、自走速度を小さくする場合には、テンション調整ギア35を逆方向に回し、ゼンマイ27の巻量を少なくする。
【0018】
本実施の形態にかかる引戸1によれば、テンション調整ギア35によりゼンマイ27の巻量を調整することにより、戸11を一方向へ向けて手動操作したあと途中から同方向に自走する戸11の自走速度を調整できる。
ストッパギア33が従動ギア31の回転範囲を規制しているので、たとえ、走行ギア23と走行ラック15の歯合及び巻取りギア25と巻取りラック17の歯合が解除されてもゼンマイ27が全て解放されることがなく、巻取りラック17を巻取りギア25が走行することにより従動ギア31が回転してゼンマイ27を巻上げる前と、ゼンマイ27の力を解放することで従動ギア31が他方向に回転することにより走行ギア23が回転して走行ラックを移動した後で、ゼンマイ27に蓄積された力を同じにできる。
テンション調整ギア35は、固定ギア29を回転した後には、その回転が規制されるから、テンション調整ギア35を回転すれば何度でもゼンマイ27のテンション調整ができる。
ゼンマイ27の巻量を調整することにより自走速度を調整するので、巻取りラック17の長さを変えることなく、自走速度の調整ができ、巻取りラック17の付け替え等の施工作業が不要にできる。
走行ギア23がゼンマイ27の蓄力を受けて回転しないときには第2移動ギア61は遊動ギア65に歯合しているので、第2移動ギア61の軸61aが第2溝67内でがたつくのを防止でき、がたつきによる騒音を低下できる。
【0019】
本発明は、上述した実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
例えば、テンション調整ギア35によるゼンマイ27の巻き量の調整は、図1に示すゼンマイ27の巻取り開始状態に限らず、図6に示すゼンマイ27の巻取り終了時や、巻取り途中でも良く、任意の状態で調整できる。
巻取り用ギア列37は、上述した実施の形態では、第1移動ギア49のみで構成したが、他の歯車を介在させるものであってもよい。
走行用ギア列39は、第2移動ギア61のみで構成して、第3減速ギア63や遊動ギア65を省いてもよい。
ゼンマイ駆動ユニット21は引戸に設けことに限らず、例えば箪笥等の引出しに設けて、巻取りラック17及び走行ラック15を箪笥本体に設けて引出しを自走させるものであってもよい。
引戸は、走行ラック15と巻取りラック17を下枠に設けて、戸の下端にゼンマイ駆動ユニット21を設けるものであっても良い。
図12に示すように、従動ギア31の内周に空間を形成してゼンマイ27を従動ギア31内に収納しても良い。
図6に示すゼンマイ巻の巻き上げ終了時には、ストッパギア33の被当接部33aはストッパ55の他側に当接しなくても良い。
ゼンマイ巻量調整具28は、固定ギア29とテンション調整ギア35との2つのギアで構成することに限らず、例えば任意の角度で固定するようにした一つの円盤とし、この円盤にゼンマイ27の一端を係止してゼンマイ27を巻き上げるものであっても良い。
【符号の説明】
【0020】
1 引戸
15 走行ラック
17 巻取りラック
23 走行ギア
25 巻取りギア
27 ゼンマイ
28 ゼンマイ巻量調整具
29 固定ギア
31 従動ギア
33 ストッパギア
35 テンション調整ギア
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼンマイ駆動ユニット及びそのゼンマイ駆動ユニットを備える引戸に関する。
【背景技術】
【0002】
引戸の開閉において、開き側又は閉じ側のいずれか一方側に戸を移動操作したあと途中から同方向に戸を自走させるゼンマイ駆動ユニットが公知である。
この種のゼンマイ駆動ユニットとして、特許文献1には、ゼンマイの一端を固定し、他端を従動ギアに係止し、従動ギアには巻取りラックに歯合する巻取りギアと走行ラックに歯合する走行ギアとを歯合する構成が開示されている。この特許文献1の技術では、引戸を開閉方向の一方の途中まで手動により操作しているときには巻取りギアが巻取りラックに歯合してゼンマイを巻き上げ、次に、巻取りギアと巻取りラックとの歯合が外れると共に走行ギアが走行ラックに歯合して、巻上げたゼンマイの解放により従動ギアを回転して、従動ギアに歯合している走行ギアを巻取りギアと同方向に回転させて、引戸を移動操作の途中から自走させている。
特許文献1の技術のように、移動途中の戸を自走させる種類のゼンマイ駆動ユニットでは、引戸の開動作又は閉動作終了後に走行ギアが走行ラックと歯合していない状態が生じて、ゼンマイが蓄積した力が全て解放されてしまう。したがって、巻取りギアがゼンマイを巻上げて、戸が自走を開始するときのゼンマイの蓄力量は常に同じになり、自走速度の調整ができなかった。
これに対して、巻取りラックの長さを長くしたり短くすることにより、自走速度を調整することが考えられるが、巻取りラックの長さを変えると施工に手間がかかると共に、手動操作区間が変わってしまい、例えば、巻取りラックを長くした場合には手動操作区間が長くなるという不都合があった。
また、特許文献2には、走行ギアを従動ギアとラックに常時歯合させ、開閉方向の一方向の操作をするときにゼンマイを巻上げ、他方向の操作をするときにはゼンマイを解放して引戸の戸を自走させるゼンマイ駆動ユニットが開示されている。この引用文献2には、ゼンマイの一端を係止したゼンマイ巻量調整具を設けて、ゼンマイ巻量調整具によりゼンマイを予め巻上げておく量を調整することで、従動ギアによるゼンマイの巻き上げ終了後の蓄力量を調整して、引戸が自走するときの自走速度を調整することが開示されている。この特許文献2の技術では走行ギアは巻取りギアを兼ねており、常時ラックと従動ギアとに歯合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−39997号公報
【特許文献2】特開2009−228410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、引用文献1のようにゼンマイの巻き上げ操作方向と、走行方向が同一の引戸で、引戸の開閉操作の途中から同方向の移動をアシストする種類のゼンマイ駆動ユニットでは、従動ギアが各ラックとギア列で連結されていないときがあるので、特許文献2のようにゼンマイ巻量調整具よりゼンマイを予め巻いておいても全て解放されてしまうからゼンマイの蓄力量の調整ができないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、手動操作区間を変えることなく、移動体を一方向へ移動操作したあと途中から自走するときの自走速度の調整ができるゼンマイ駆動ユニット及び引戸の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、ゼンマイと、ゼンマイの一端を係止したゼンマイ巻量調整具と、ゼンマイの他端を係止した従動ギアと、巻取りラックに歯合すると共に従動ギアに歯合可能に設けた巻取りギアと、走行ラックに歯合すると共に従動ギアに歯合可能に設けた走行ギアと、従動ギアに歯合すると共に回転範囲が規制されたストッパギアとを備え、巻取りギアが従動ギアに歯合した状態で巻取りラックを走行することによりゼンマイを巻上げて蓄力すると共に、ゼンマイ巻量調整具に対して従動ギアが一方向に回転することによりゼンマイを巻上げ、巻上げたゼンマイを解放することにより従動ギアが他方向に回転してこれにより走行ギアが巻取りギアの巻取り回転方向と同方向に回転して走行ラックを移動するものであり、ゼンマイ巻量調整具を回転操作して所定位置で固定することによりゼンマイの蓄力量を調整可能にしてあることを特徴とするゼンマイ駆動ユニットである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、巻取りラック及び走行ラックを設けた横枠と、請求項1に記載のゼンマイ駆動ユニットを設けた戸とを備え、巻取りラックと走行ラックとは横枠の長手方向に設け且つ横枠の見込み方向で異なる位置に設けてあり、巻取りギアが巻取りラックから離れたときに走行ギアが走行ラックに歯合することを特徴とする引戸である。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、ストッパギアが従動ギアの回転範囲を規制しているので、たとえ、走行ギアと走行ラックの歯合及び巻取りギアと巻取りラックの歯合が解除されてもゼンマイが全て解放されることがなく、巻取りラックを巻取りギアが走行することにより従動ギアが回転してゼンマイを巻上げる前と、ゼンマイの力を解放することで従動ギアが他方向に回転することにより走行ギアが回転して走行ラックを移動した後で、ゼンマイに蓄積された力を同じにできる。
したがって、ゼンマイ巻量調整具でゼンマイの巻量(付勢力)を調整することにより、ゼンマイを巻上げたときの蓄力量を調整できるから、ゼンマイ駆動ユニットを取付けた移動体を一方向に手動操作したあと、同方向に自走する移動体の自走速度を調整できる。
ゼンマイ巻量調整具は必要に応じて更に回転することができ、何度でもゼンマイのテンション調整ができる。
ゼンマイの巻量を調整することにより自走速度を調整するので、巻取りラックの長さを変えることなく、自走速度の調整ができる。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、引戸の開閉操作において開操作又は閉操作する操作の途中から操作方向と同方向に引戸が自走する自走速度を調整できる。
引戸における自走速度の調整が何度でもできる。
横枠に設ける巻取りラックの長さを変えることなく、戸の自走速度の調整ができるので、巻取りラックの付け替え等の施工作業が不要である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態にかかるゼンマイ駆動ユニットの蓋を開けたときのケース内の平面図であり、ゼンマイを解放しきったときの図である。
【図2】図1に示すゼンマイ駆動ユニットのギア列の歯合関係を示した構成図である。
【図3】テンション調整ギアの図であり、(a)はテンション調整ギアの分解斜視図であり、(b)はテンション調整ギアが係止する蓋部分を内側から見た斜視図であり、(c)及び(d)はゼンマイ駆動ユニットにおけるテンション調整ギア部分の断面図であり、(c)テンション調整前、(d)はテンション調整するときの図である。
【図4】本発明の実施の形態にかかるゼンマイ駆動ユニットの蓋を開けたときのケース内の平面図であり、ゼンマイ巻き取り開始時の図である。
【図5】図4に示すゼンマイ巻き取り開始時におけるギア列の歯合関係を示した構成図である。
【図6】本発明の実施の形態にかかるゼンマイ駆動ユニットの蓋を開けたときのケース内の平面図であり、ゼンマイ巻き取り終了時の図である。
【図7】図6に示すゼンマイ巻き取り終了時におけるギア列の歯合関係を示した構成図である。
【図8】本実施の形態において、特許請求の範囲に記載の構成部材の関係を示す概略構成図である。
【図9】ゼンマイ駆動ユニットとラックと関係を示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は側面図であり、(c)は上枠を下から見た平面図である。
【図10】上枠の一部を破断して示す引戸の正面図である。
【図11】図10に示すA−A断面図である。
【図12】本発明の変形例であって、ゼンマイ、ゼンマイ巻量調整具及び従動ギアとその周囲部の関係を示した構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図10に示すように、本実施の形態に係る引戸1は、上枠(横枠)3及び左右の竪枠7、7を枠組した枠9と、上枠3の長手方向にスライド自在に設けた戸11とを備えた片引き吊り戸である。
図11に示すように、上枠3にはレール13と、走行ラック15と、巻取りラック17とが設けてあり、戸11には、レール13を走行する戸車19とゼンマイ駆動ユニット21とが設けてある。尚、図10に示すように、本実施の形態では、ゼンマイ駆動ユニット21は戸11の開き用と閉じ用で合計2つ設けてあり、各ゼンマイ駆動ユニット21に対応して巻取りラック17と走行ラック15とが設けてあり、図9(c)に示すように、走行ラック15は2つのゼンマイ駆動ユニット21で共用している。
図9(c)に示すように、走行ラック15と巻取りラック17とは、上枠3の長手方向に配置されており、見込み方向の一方側に走行ラック15が上枠の長手方向に配置してあり、他方側に巻取りラック17が2つ間隔をあけて配置されている。走行ラック15には、後述する各ゼンマイ駆動ユニット21の走行ギア23が歯合可能であり、一方の巻取りラック17には、一方のゼンマイ駆動ユニット21の巻取りギア25が歯合可能に設けてあり、他方の巻取りラック17には、他方のゼンマイ駆動ユニット21の巻取りギア25が歯合可能に設けてある。
【0012】
図1、図2及び図8に示すように、ゼンマイ駆動ユニット21は、ゼンマイ27と、ゼンマイ27を収納した固定ギア29と、従動ギア31と、従動ギア31に巻取り用ギア列37を介して歯合する巻取りギア25と、従動ギア31に走行用ギア列39を介して歯合する走行ギア23と、従動ギア31にストッパ用ギア列38を介して歯合するストッパギア33と、固定ギア29に歯合したテンション調整ギア35とが設けられている。固定ギア29は、ゼンマイ27を収納した香箱ギアである。また、本実施の形態では、固定ギア29とテンション調整ギア35とでゼンマイ巻量調整具28を構成している。ゼンマイ巻量調整具28は、回転操作して所定位置で固定することによりゼンマイ27の蓄力量を調整可能としたものである。
固定ギア29にはゼンマイ27の外周端27aが係止してあり、従動ギア31にはゼンマイ27の内周端27bが係止されている。
従動ギア31は、大径部31aと小径部31bとを一体に有しており、大径部31aは、固定ギア29の外径と同じ径になっている。したがって、図1ではテンション調整ギア35が歯合している位置では、従動ギア31の大径部31aを一部破断してテンション調整ギア35と固定ギア29との歯合を示している。
【0013】
巻取りギア25は、上述したように巻取りラック17に歯合可能であり且つ、図1及び図2に示すように、巻取り用ギア列37を介して従動ギア31の小径部31bに歯合している。
巻取り用ギア列37は本実施の形態では、第1移動ギア49のみで構成されている。第1移動ギア49は図1に破線で示すように、その軸49aが第1溝51内を移動自在であり、図1に示す第1溝51のストッパギア側端に位置しているときには、巻取りギア25のみに歯合して従動ギア31の小径部31bには歯合しないが、図4に示すように、第1スライドギア49の軸49aが第1溝51の従動ギア側端に位置しているときには、巻取りギア25と従動ギア31の小径部31bに歯合する。
第1移動ギア49は、巻取りギア25がゼンマイの巻取り方向(矢印S)に回転すると押し下げられて軸49aが図1に示すストッパギア側端から第1溝51内を移動し、図4に示すように従動ギア側端に位置して第1移動ギア49が従動ギア31の小径部31aに歯合する。また、巻取りギア25が巻取りラック17から外れているときには、図4に示すように、第1移動ギア49が従動ギア31の小径部31aと歯合している状態から小径部31aが時計方向(矢印T)に回転すると、第1移動ギア49が押し上げられて軸49aが第1溝内を一端側に移動して、図1に示すように、従動ギア31との歯合が解除される。
ストッパギア33は、被当接部33aを備えており、所定角度回転するとケース53に設けたストッパ55に当接してその回転範囲が規制されている。即ち、ストッパギア33は一回転できないように回転範囲が規制されている。
【0014】
図1及び図2に示すように、ストッパギア33は、ストッパ用ギア列38を介して従動ギア31の大径部31aに常時歯合している。即ち、ストッパギア33は第1減速ギア57の小径部57bに歯合しており、第1減速ギア57の大径部57aは第2減速ギア59の小径部59bに歯合しており、第2減速ギア59の大径部59aは従動ギア31の大径部31aに歯合している。
走行ギア23は走行ラック15に歯合可能であり且つ走行用ギア列39を介して従動ギア31の大径部31aに歯合している。走行ギア23は同軸に大径部23aと小径部23bとを有しており、大径部23aが走行ラック15に歯合するようになっている。
走行用ギア列39は、第2移動ギア61と、第3減速ギア63と、遊動ギア65とから構成されている。第2移動ギア61は軸61aが破線で示す第2溝67内を移動自在に設けてあり、図1に示すように第2溝67の走行ギア側端に位置したときに走行ギア23の小径部23bに歯合し、遊動ギア側端に位置したときに図4に示すように、走行ギア23の小径部23bから離脱して遊動ギア65に歯合するようになっている。
第2移動ギア61は、第3減速ギア63が反時計方向(図1の矢印U)の回転により押し上げられると第2溝67の走行ギア側端に位置し、時計方向(図1の矢印W)の回転により押し下げられると図4に示すように軸61aが第2溝67の遊動ギア側端に位置して、走行ギア23との歯合が外れて遊動ギア65に歯合する。
尚、第3減速ギア63は第2移動ギア61と従動ギア31の大径部31aに常時歯合している。
図3に示すように、テンション調整ギア35には、ゼンマイ駆動ユニット21のケース53に蓋をする蓋部材42側の端部にドライバー等の治具Jの先端に係合可能な係合溝43が形成されており、且つスプリング41により蓋部材42側に常時付勢されている。また、テンション調整ギア35の係合溝43の周囲には被係止部45が形成されており、図3(c)に示すように、スプリング41の付勢力に押されてテンション調整ギア35の被係止部45が蓋部材42に形成された係止部47にかみ合うことにより、テンション調整ギア35の自転が規制されている。尚、テンション調整ギア35の係合溝43は蓋部材42の孔42aから外部に露出されている。テンション調整するときには、図3(d)に示すように、孔42aから治具Jの先端を差し込み、係合溝43に押し付けてテンション調整ギア35を蓋部材42から離して被係止部45と係止部47とのかみ合いを解除して回す。
【0015】
次に、本実施の形態に係るゼンマイ駆動ユニット21を備えた引戸1の作用効果について説明する。
図1に示すゼンマイの巻取り開始前の状態では、戸11は閉じ位置にあり、ゼンマイ駆動ユニット21では、ゼンマイ27は解放状態にあり巻取りギア25は巻取りラック17に歯合していない。また、ストッパギア33の被当接部33aはストッパ55の一側に当接している。
図10に示すように、戸11の開き操作を開始すると、巻取りギア25が巻取りラック17と歯合を開始して、巻取りギア25が巻取りラック17を移動する。そして、巻取りギア25が図1に示すS方向に回転すると、第1移動ギア49が押し下げられて、第1移動ギア49の軸49aが第1溝51内を従動ギア側端に移動して、図4に示すように、従動ギア31の小径部31bに歯合する。このとき、ストッパギア33は、ストッパ55の一側に位置する始動位置にある。
図4に示すように、第1移動ギア49は時計方向(図4に示すE)方向に回転し、第1移動ギア49を介して従動ギア31はX方向に回転して、ゼンマイ27の巻き上げを開始する。一方、走行用ギア列39では、従動ギア31の大径部31aに歯合している第3減速ギア63は時計方向(Y方向)に回転し、第2移動ギア61を押し下げるので、第2移動ギア61は走行ギア23との歯合が外れて且つ遊動ギア65に歯合する。この状態で巻取りギア25が回転し続けことにより、従動ギア31はゼンマイ27を巻き上げていく。そして、ストッパギア33は矢印Z方向へ回転する。
ゼンマイ27の巻上げが終了すると、図6に示すように、ストッパギア33の被当接部33aがストッパ55の他側に当接して従動ギア31は回転範囲が規制され、従動ギア31はそれ以上回転しない。戸11は開動作の途中にあり、巻取りギア25と巻取りラック17との歯合が終了した位置にある。
【0016】
次に、走行ギア23が走行ラック15との歯合を開始する。この状態でゼンマイ27は巻上げが完了してゼンマイ27の付勢力を蓄積した状態にある。
固定ギア29は、テンション調整ギア35に常に歯合しており、テンション調整ギア35は蓋部材42に係止しているので、固定された状態にある。
そして、巻取りギア25が巻取りラック17から外れると、蓄力したゼンマイ27の解放が開始する。これにより、従動ギア31が図6に示すT方向に回転を開始し、第3減速ギア63が歯合している第2移動ギア61を押し上げることにより、図1に示すように、第2移動ギア61が走行ギア23の小径部23bに歯合する。この状態で走行ギア23は走行ラック15に歯合して戸11は、開方向と同方向に自走を開始する。
一方、図6において、従動ギア31の小径部31bもT方向の回転を開始するので、第1移動ギア49は、従動ギア31の小径部31bに押し上げられて第1移動ギア49の軸は第1溝51をストッパギア側端に移動し、図1に示すように、第1移動ギア49と従動ギア31の小径部31bとの歯合が解除される。即ち、各歯車は、図1に示すような状態となって、従動ギア31の回転が開始し、ストッパギア33も図6のゼンマイ27の蓄力解放開始から矢印で示すように反時計方向の回転を開始し、一回転しない範囲を回転したところで、図1に示すように、被当接部33aがストッパ55に当接し、ストッパギア33にストッパ用ギア列38を介して歯合している従動ギア31もこの位置で停止する。この状態で、ゼンマイの巻き量が残っている場合でも残ったままの状態になり、ゼンマイ27が全て解放されることがない。
そして、戸11は自走を終了して全開位置になる。
戸11が開位置から閉位置に移動する場合には、他方のゼンマイ駆動ユニット21の走行ギア23に走行ラック15が歯合し、他方の巻取りラック17に巻取りギア25が歯合して、上述した開動作と同様に、閉操作によりゼンマイ27を巻取った後、巻き取ったゼンマイの蓄力の解放により、同方向に自走する。
本実施の形態では、戸11が開位置から閉位置に移動する際に、巻取りギア25が巻取りラック17に歯合しないときに、第1移動ギア49は図4で示す位置にあり、巻取りギア25が巻取りラック17と歯合するときには第1移動ギア49は図1で示す位置にある。また、第2移動ギアは自重で下に落ちている為、従動ギア31はいずれのラック15、17とも連結していないが、ストッパギア33と歯合していると共にストッパギア33はストッパ55の一側に当接している為、戸の操作前に蓄積されていた力は解放しない。
【0017】
次に、蓄力したゼンマイ27を解放して自走するときの戸の速度調整について説明する。例えば、図1において、自走速度を高めたい場合には、蓋体42の孔42から外側に突出しているテンション調整ギア35の係合部43にマイナスドライバーを嵌めて押し込むと、テンション調整ギア35はスプリング41の付勢力に抗してケース側に移動し、図3に参照されるように、被係止部45と蓋部材42の係止部47との係止が解除されて、回転自在となる。テンション調整ギア35が回転自在となったところで、係合部43を押しながら、図1に示すように時計方向(矢印F方向)に回転することにより、固定ギアが反時計方向に回転する。一方、従動ギア31はストッパギア33により回転範囲が規制されているので、ゼンマイ27が巻上げられ、ゼンマイ27の巻量を多くする。これにより、ゼンマイ27の巻取り終了時におけるゼンマイの蓄力量を高め、戸の自走速度を高くすることができる。
一方、自走速度を小さくする場合には、テンション調整ギア35を逆方向に回し、ゼンマイ27の巻量を少なくする。
【0018】
本実施の形態にかかる引戸1によれば、テンション調整ギア35によりゼンマイ27の巻量を調整することにより、戸11を一方向へ向けて手動操作したあと途中から同方向に自走する戸11の自走速度を調整できる。
ストッパギア33が従動ギア31の回転範囲を規制しているので、たとえ、走行ギア23と走行ラック15の歯合及び巻取りギア25と巻取りラック17の歯合が解除されてもゼンマイ27が全て解放されることがなく、巻取りラック17を巻取りギア25が走行することにより従動ギア31が回転してゼンマイ27を巻上げる前と、ゼンマイ27の力を解放することで従動ギア31が他方向に回転することにより走行ギア23が回転して走行ラックを移動した後で、ゼンマイ27に蓄積された力を同じにできる。
テンション調整ギア35は、固定ギア29を回転した後には、その回転が規制されるから、テンション調整ギア35を回転すれば何度でもゼンマイ27のテンション調整ができる。
ゼンマイ27の巻量を調整することにより自走速度を調整するので、巻取りラック17の長さを変えることなく、自走速度の調整ができ、巻取りラック17の付け替え等の施工作業が不要にできる。
走行ギア23がゼンマイ27の蓄力を受けて回転しないときには第2移動ギア61は遊動ギア65に歯合しているので、第2移動ギア61の軸61aが第2溝67内でがたつくのを防止でき、がたつきによる騒音を低下できる。
【0019】
本発明は、上述した実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
例えば、テンション調整ギア35によるゼンマイ27の巻き量の調整は、図1に示すゼンマイ27の巻取り開始状態に限らず、図6に示すゼンマイ27の巻取り終了時や、巻取り途中でも良く、任意の状態で調整できる。
巻取り用ギア列37は、上述した実施の形態では、第1移動ギア49のみで構成したが、他の歯車を介在させるものであってもよい。
走行用ギア列39は、第2移動ギア61のみで構成して、第3減速ギア63や遊動ギア65を省いてもよい。
ゼンマイ駆動ユニット21は引戸に設けことに限らず、例えば箪笥等の引出しに設けて、巻取りラック17及び走行ラック15を箪笥本体に設けて引出しを自走させるものであってもよい。
引戸は、走行ラック15と巻取りラック17を下枠に設けて、戸の下端にゼンマイ駆動ユニット21を設けるものであっても良い。
図12に示すように、従動ギア31の内周に空間を形成してゼンマイ27を従動ギア31内に収納しても良い。
図6に示すゼンマイ巻の巻き上げ終了時には、ストッパギア33の被当接部33aはストッパ55の他側に当接しなくても良い。
ゼンマイ巻量調整具28は、固定ギア29とテンション調整ギア35との2つのギアで構成することに限らず、例えば任意の角度で固定するようにした一つの円盤とし、この円盤にゼンマイ27の一端を係止してゼンマイ27を巻き上げるものであっても良い。
【符号の説明】
【0020】
1 引戸
15 走行ラック
17 巻取りラック
23 走行ギア
25 巻取りギア
27 ゼンマイ
28 ゼンマイ巻量調整具
29 固定ギア
31 従動ギア
33 ストッパギア
35 テンション調整ギア
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼンマイと、ゼンマイの一端を係止したゼンマイ巻量調整具と、ゼンマイの他端を係止した従動ギアと、巻取りラックに歯合すると共に従動ギアに歯合可能に設けた巻取りギアと、走行ラックに歯合すると共に従動ギアに歯合可能に設けた走行ギアと、従動ギアに歯合すると共に回転範囲が規制されたストッパギアとを備え、巻取りギアが従動ギアに歯合した状態で巻取りラックを走行することによりゼンマイを巻上げて蓄力すると共に、ゼンマイ巻量調整具に対して従動ギアが一方向に回転することによりゼンマイを巻上げ、巻上げたゼンマイを解放することにより従動ギアが他方向に回転してこれにより走行ギアが巻取りギアの巻取り回転方向と同方向に回転して走行ラックを移動するものであり、ゼンマイ巻量調整具を回転操作して所定位置で固定することによりゼンマイの蓄力量を調整可能にしてあることを特徴とするゼンマイ駆動ユニット。
【請求項2】
巻取りラック及び走行ラックを設けた横枠と、請求項1に記載のゼンマイ駆動ユニットを設けた戸とを備え、巻取りラックと走行ラックとは横枠の長手方向に設け且つ横枠の見込み方向で異なる位置に設けてあり、巻取りギアが巻取りラックから離れたときに走行ギアが走行ラックに歯合することを特徴とする引戸。
【請求項1】
ゼンマイと、ゼンマイの一端を係止したゼンマイ巻量調整具と、ゼンマイの他端を係止した従動ギアと、巻取りラックに歯合すると共に従動ギアに歯合可能に設けた巻取りギアと、走行ラックに歯合すると共に従動ギアに歯合可能に設けた走行ギアと、従動ギアに歯合すると共に回転範囲が規制されたストッパギアとを備え、巻取りギアが従動ギアに歯合した状態で巻取りラックを走行することによりゼンマイを巻上げて蓄力すると共に、ゼンマイ巻量調整具に対して従動ギアが一方向に回転することによりゼンマイを巻上げ、巻上げたゼンマイを解放することにより従動ギアが他方向に回転してこれにより走行ギアが巻取りギアの巻取り回転方向と同方向に回転して走行ラックを移動するものであり、ゼンマイ巻量調整具を回転操作して所定位置で固定することによりゼンマイの蓄力量を調整可能にしてあることを特徴とするゼンマイ駆動ユニット。
【請求項2】
巻取りラック及び走行ラックを設けた横枠と、請求項1に記載のゼンマイ駆動ユニットを設けた戸とを備え、巻取りラックと走行ラックとは横枠の長手方向に設け且つ横枠の見込み方向で異なる位置に設けてあり、巻取りギアが巻取りラックから離れたときに走行ギアが走行ラックに歯合することを特徴とする引戸。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−36187(P2013−36187A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171607(P2011−171607)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000175560)三協立山株式会社 (529)
【出願人】(508063071)株式会社アイスリー (7)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000175560)三協立山株式会社 (529)
【出願人】(508063071)株式会社アイスリー (7)
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