説明

ソックダクト吊下式置換空調用吹出ユニット

【課題】空調システムの送風機によって生じる騒音を著しく低減させ、省エネルギ性を高め、美観性を向上させることが可能な置換空調用吹出ユニットを提供する。
【解決手段】縦型の外壁部材と天板と底板とを有し外壁部材に多数の通風孔が設けられているガラリチャンバーと、縦型ダクトを受け入れるために天板の中央付近に設けられているダクト接続口とを備える。ダクト接続口の下端を気密に包囲するようにソックダクト取付用案内部材が取り付けられ、ソックダクト取付用案内部材の周囲に第1のワンタッチ接続用テープが貼り付けられている。ガラリチャンバー内を鉛直方向にソックダクトが配置され、ソックダクトの下端は封止され、ソックダクトの上端付近に第2のワンタッチ接続用テープが貼り付けられている。第1と第2のワンタッチ接続用テープが接続されることによりソックダクトがダクト接続口から吊り下げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音楽や演劇を対象としたホール等のように天井が高くなっている空間を置換空調方式で空調するためのユニットに関し、特にソックダクトを用いた置換空調用の吹出ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような高天井空間の空調は天井吹出し・床吸い込み方式による空間全域均一空調が一般的であったが、天井付近などを無駄に冷却することを避けるために、床から2m程度の人間が活動する領域だけを快適な温度とする置換空調方式が採用されるようになった。置換空調方式は、所定温度の空調空気を低速で押し出すように供給して室内の空気との混合を抑制するもので、床や壁から微速で空調空気を吹き出し、高天井空間において人体の発熱から生じる上昇気流を利用して換気を行う方式である。
【0003】
しかしながら、許容騒音値がNC−25以下を求められる劇場ホールの舞台を置換空調する場合、従来式の吹出方式を用いると、ガラリ(通風孔)等の吹出面での風速が均一にならず、部分的に風速が速くなることがある。その結果、騒音が発生して許容騒音値を超えたり、居住域空間でドラフトを感じるなどの問題が発生する。
【0004】
一方、天然繊維や合成繊維で作られるソックダクトを用いた空調や換気設備は、工場やクリーンルームなど多くの用途で使用されているが、天井付近に太いソックダクトを水平方向に沿わせるようにした露出による使用が一般的であり、外観上の問題から採用を避ける場合もあった。音楽や演劇を対象としたホールなどでは美観の面からソックダクト方式の採用はこれまで困難とされていた。
【0005】
図6に従来型の空調空気吹出ユニット60とその風速曲線を示す。外壁面に多数のガラリ(通風孔)18が形成されたガラリチャンバー20の中央に向けて、上方の接続ダクト22から新鮮な空調空気が供給される。空調空気の流れはその勢いから床面付近で風速が最大となるような偏流が発生しやすく、ガラリチャンバーの上と下とでは吹き出し風速が不均一となり、床面付近で発生する過大風速によって騒音が発生するという大きな欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−241105「置換空調システム」には、二重床の内部空間からタイルカーペットを介して微風速の空調空気を室内に供給する置換空調システムが記載されている。
【0007】
【特許文献2】特開2000−230747「冷却装置」には、作業室の天井部に冷却ユニットと静音箱体と布地製ソックダクトとを水平方向に連結して取り付け、送風機から吐出される冷気を静音箱体を介してソックダクトの周囲から冷却空気を吐出し、作業室内を冷却する装置が記載されている。
【0008】
【特許文献3】特開2004−101027「クリーンストッカー」には、外壁と棚の背面の整流板との間に天然繊維又は合成繊維製のソックダクトを垂直方向に配置し、送風チャンバを形成して棚部分のクリーンエアの流れを均一・均等かつ静流・整流・低速化して層流となし、ソックダクトのもつフィルター効果を付加させて塵埃や温度調節の精度を向上させたクリーンストッカーが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、空調システムの送風機によって生じる騒音を著しく低減させることができると共に、省エネルギ性を高め、美観性を向上させることが可能な置換空調用吹出ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するため、本発明は、その基本的構成として、円形,三角形又は長方形の水平断面形状を有する縦型の外壁部材と、天板と底板とを有し、前記外壁部材に多数の通風孔が設けられているガラリチャンバーと、前記ガラリチャンバーに上方から接続される縦型ダクトを受け入れるために前記天板の中央付近に設けられているダクト接続口とを備えてなる置換空調用吹出ユニットである。
【0011】
この置換空調用吹出ユニットでは、前記ダクト接続口の下端を気密に包囲するようにソックダクト取付用案内部材が取り付けられ、当該ソックダクト取付用案内部材の周囲に第1のワンタッチ接続用テープが貼り付けられており、前記ガラリチャンバー内を鉛直方向にソックダクトが配置され、当該ソックダクトの下端は封止されており、前記ソックダクトの上端付近に第2のワンタッチ接続用テープが貼り付けられており、前記第1と第2のワンタッチ接続用テープが接続されることにより前記ソックダクトが前記ダクト接続口から吊り下げられるようになっている。
【0012】
なお、前記ソックダクト取付用案内部材は前記ダクト接続口の下方部分で構成することもできる。
さらに好適な態様として、第2のワンタッチ接続用テープの一部がファスナーやジッパー(登録商標又は商品名)で開閉可能となっている。
【発明の効果】
【0013】
かかる構成に基づき、本発明による吹出ユニットでは、
(1)ガラリチャンバー内に組み込んだソックダクトを通して、風速を均一化させた後にガラリから吹出させることで、置換空調システムにおける吹出気流速度を均一化させ、ドラフトの防止及び温熱環境の向上を図ることができる。
(2)ガラリの開口率を48%程度にすれば吹出気流の速度を0.5m/s以下に低く抑えることが可能になり、発生騒音を許容値であるNC−25以下に低騒音化することができる。
(3)ソックダクトが露出しないので吹出ユニットの美観性の向上を図ることができる。
【0014】
(4)ガラリチャンバーを組立式とすることにより、設置スペースや高さ制限への対応自由度の高い吹出ユニットを設計することが可能になる。
(5)現地組立てを可能とすることで大型サイズに対応可能となる。
(6)ワンタッチ接続テープを使用することで、ソックダクトの取付け・取外し・折り畳みが1人の作業者でできるなど、メンテナンス性を向上させることができる、などの効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による置換空調用吹出ユニットの概略正面図。
【図2】ソックダクト取付用案内部材とソックダクトとの接続状態を表す分解斜視図。
【図3】大型化した置換空調用吹出ユニットの分解斜視図。
【図4】図3の置換空調用吹出ユニットの正面図。
【図5】図3の置換空調用吹出ユニットの側面図と中央断面図。
【図6】従来の置換空調用吹出ユニットの概略正面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の好適な実施例に基づく置換空調用吹出ユニット10の全体を表しており、このユニット10は、円形又は長方形の水平断面形状を有する縦型の外壁部材12と、天板14と底板16とを有し、外壁部材12に多数の通風孔(ガラリ)18が設けられているガラリチャンバー20と、ガラリチャンバー20に上方から接続される縦型ダクト22を受け入れるために天板14の中央付近に設けられているダクト接続口24とを備えている。
【0017】
本発明の特徴に基づき、この置換空調用吹出ユニット10では、図2に示すようにダクト接続口24の周囲を気密に包囲する寸法のソックダクト取付用案内部材26が取り付けられ、ソックダクト取付用案内部材26の外周に第1のワンタッチ接続用テープ28、例えばマジックテープ(登録商標又は商品名)のオスが貼り付けられている。
【0018】
さらに、ガラリチャンバー20内を鉛直方向に延伸するソックダクト30が配置され、ソックダクト30の下端32は従来品と同様に封止されており、ソックダクト30の上端34の内周に第2のワンタッチ接続用テープ36、例えばマジックテープ(登録商標又は商品名)のメスが貼り付けられており、第1と第2のワンタッチ接続用テープが接続されることによりソックダクト30がダクト接続口24から吊り下げられるようになっている。
【0019】
さらに、図2に示すように、第2のワンタッチ接続用テープ36の一部がファスナー38で例えば10cmほど開閉可能となっている。マジックテープによる取付け手順は、図2に示すように、最初にファスナー38を10cmほど開いた状態で、ソックダクト側マジックテープ(メス)36をダクト接続口側のマジックテープ(オス)28のA部から順に取り付ける。マジックテープのオスメスが噛み合って接続が完了したら、ファスナー38を持ち上げて閉じることにより隙間を無くす。取り外しは上記と逆の手順で行う。
【0020】
かくして、ガラリチャンバー20のダクト接続口24に上方から接続ダクト22が接続されると、冷却装置で冷却された空調空気がガラリチャンバー20の中央に吊り下げられたソックダクト30内に流入し、繊維質のソックダクト30の微細な孔を通じて周囲へと送風される。ソックダクトの抵抗は不均一なため、ガラリからの面風速はほぼ均一な状態となり、しかも吹出気流は0.5m/s以下に保つことができて、ドラフトを感じさせずに居住域空間での温度不均一を解消し、温熱環境を良好な状態にすることができる。
【0021】
ワンタッチ接続用テープは前述したマジックテープに限定されることなく、後で分離可能な接着剤が塗布されたテープや、凹凸式で弾力性を有する合わせテープのようなタイプでも良い。
【0022】
図3は、本発明による置換空調用吹出ユニット40を、音楽や演劇を対象としたホールに適合させるために大型化させたときの好適な実施例を表している。図3において、ガラリチャンバー(アルミ製)50は組立式となっており、その外壁部材は正面側パネル41,42、右側面パネル43,44、左側面パネル45,46、裏板47、天板14、底板16をフレーム(角鋼板製)49にボルト締めで連結するように作られている。天板14には補強用のアングル48が固着され、中央付近にはダクト接続口(鋼板製)24が固定されている。ソックダクト30は上部のワンタッチ接続用テープによりダクト接続口24にワッタッチ式に取り付けられるようになっている。
【0023】
図4は図3の吹出ユニット40の正面から見た外観を表しており、その外形寸法は、左右方向Wが約3100mm、高さHが約2500mm、ソックダクトの左右方向Sが約1400mmに作られている。正面側パネル41,42にはそれぞれガラリ(通風孔)となるスリットA,B,C,Dが設けられている。ガラリの開口率は48%、面風速は0.5m/sに設定した。ダクト接続口24の高さは約150mm、風速は5m/s以下に設定した。
【0024】
図5は図3の吹出ユニット40の側面から見た外観(A)と中央付近の断面(B)とを表しており、その外形寸法は、前後方向Dが約700mm、ソックダクトの奥行きTが約400mmに作られている。
このように本発明の吹出ユニットを組立式に作ることにより、巨大なホールであっても本発明を適用した空調方式を採用できることになり、その応用範囲は極めて広い。
【0025】
本発明に基づく吹出ユニットの気流確認及び風速分布の測定実験を行った。吹出ユニットのサイズを800×800×2500mm、風量4200m3 /h、吹出温度23.2℃、室内温度26℃、吹出ユニットの両側に壁を想定した箱を製作し実験を行った。その結果、床面から100mm、370mm、970mm、1570mm、2170mmの5つの測定点において、風速はいずれも1m/s以下となり、概ね均一な風速が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上詳細に説明した如く、本発明による吹出ユニットによれば、置換空調システムにおける吹出気流速度を均一化させ、ドラフトの防止及び温熱環境の向上を図ることができ、吹出気流の速度を0.5m/s以下に低く抑えることが可能になり、発生騒音を許容値以下に低騒音化することができ、吹出ユニットの美観性の向上を図ることができるなど、その技術的効果には極めて顕著なものがある。
【符号の説明】
【0027】
10,40 置換空調用吹出ユニット 12 外壁部材
14 天板 16 底板
18 ガラリ(通風孔) 20,50 ガラリチャンバー
22 接続ダクト 24 ダクト接続口
26 ソックダクト取付用案内部材
28,36 ワンタッチ接続テープ 30 ソックダクト
32 下端 34 上端
38 ファスナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形,三角形又は長方形の水平断面形状を有する縦型の外壁部材と、天板と底板とを有し、前記外壁部材に多数の通風孔が設けられているガラリチャンバーと、
前記ガラリチャンバーに上方から接続される縦型ダクトを受け入れるために前記天板の中央付近に設けられているダクト接続口とを備えてなる置換空調用吹出ユニットであって、
前記ダクト接続口の下端を気密に包囲するようにソックダクト取付用案内部材が取り付けられ、当該ソックダクト取付用案内部材の周囲に第1のワンタッチ接続用テープが貼り付けられており、
前記ガラリチャンバー内を鉛直方向にソックダクトが配置され、当該ソックダクトの下端は封止されており、
前記ソックダクトの上端付近に第2のワンタッチ接続用テープが貼り付けられており、
前記第1と第2のワンタッチ接続用テープが接続されることにより前記ソックダクトが前記ダクト接続口から吊り下げられるようになっていることを特徴とするソックダクト吊下式置換空調用吹出ユニット。
【請求項2】
前記ソックダクト取付用案内部材は前記ダクト接続口の下方部分で構成されている請求項1記載の吹出ユニット。
【請求項3】
前記第2のワンタッチ接続用テープの一部がファスナーで開閉可能となっている請求項1又は2記載の吹出ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−184867(P2012−184867A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47091(P2011−47091)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000191319)新菱冷熱工業株式会社 (78)
【Fターム(参考)】