説明

ゾルゲル法による金属酸化物の製造方法

【課題】粒径を自在に制御することができ、更にはその粒径の均一化を図ることが可能なゾルゲル法による金属酸化物の製造方法を提供することにある。
【解決手段】溶媒中で還流して溶解した金属塩溶液に触媒溶液を混合して金属塩を加水分解し、ゾルゲル法に基づいて金属酸化物を製造する方法において、ゾルゲル反応中に上記金属酸化物の吸収端以下の波長の光を照射し、金属酸化物の表層に形成された不規則な粒子又は欠陥周辺の原子を、照射した光に基づいて脱離させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゾルゲル法に基づいて金属酸化物を製造する方法に関し、特に粒径を自在に制御することができ、更にはその粒径の均一化を図る上で好適なゾルゲル法による金属酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛(ZnO)は、従来より各種電子材料やゴムの加硫促進助剤等に用いられているが、特に近年では紫外線を遮蔽可能な化粧品等へも応用されており、その用途は多岐に亘る。この酸化亜鉛を製造する際には、一般にはスパッタリング法等の気相合成法が用いられているが、より均一な薄膜を形成するためにはゾルゲル法による薄膜形成も行われている。
【0003】
このゾルゲル法とは、無機材料の湿式合成法の一つであり、金属アルコキシドのアルコール溶液から加水分解、縮重合といった化学反応を通じてコロイド状のポリマー粒子としてのゾルを得て、更にこれを凝集させてゲル化し、乾燥させるものである。
【0004】
上述した酸化亜鉛もこのゾルゲル法により製造することが可能であり、前駆体として亜鉛アルコキシド又は亜鉛アセチルアセトナートを用い、これらをエタノールアミンを含有する有機溶媒に溶解し、加水分解する(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−5591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来のゾルゲル法により製造される酸化亜鉛は、その粒径を自在に制御することができず、更にはその粒径にバラつきが生じてしまうという問題点があった。特に酸化亜鉛について化粧品へ応用を考える場合、その粒径を最適化するとともにこれを均一化させることで、紫外線の吸収効率の増大させる必要があるが、従来技術では、これへ向けた具体的な解決手段が案出されていなかった。
【0007】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、粒径を自在に制御することができ、更にはその粒径の均一化を図ることが可能な、ゾルゲル法による金属酸化物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るゾルゲル法による金属酸化物の製造方法は、上述した課題を解決するために、溶媒中で還流して溶解した金属塩溶液に触媒溶液を混合して金属塩を加水分解し、ゾルゲル法に基づいて金属酸化物を製造する方法において、ゾルゲル反応中に上記金属酸化物の吸収端以下の波長の光を照射することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るゾルゲル法による金属酸化物の製造方法では、上記金属酸化物の表層に形成された不規則な粒子又は欠陥周辺の原子を、上記照射した光に基づいて脱離させるようにしてもよい。
【0010】
また、本発明に係るゾルゲル法による金属酸化物の製造方法では、上記照射した光に基づいて近接場光を発生させ、発生させた近接場光による近接場光相互作用に基づいて上記欠陥を構成する不純物又は上記欠陥周辺の原子を脱離させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
上述した構成からなる本発明によれば、ゾルゲル反応の終了時には、ほぼ規則的なウルツ構造のみで構成された酸化亜鉛結晶を得ることが可能となる。その結果、得られた金属酸化物の結晶粒径をより均一化させることが可能となる。
【0012】
また、これに加えて、照射する光の波長を変化させた場合、光吸収されるエネルギー自体も異なることから、Zn−Oの結合の脱離性もこれに応じて異なるものとなる。その結果、不規則な粒子の脱離性に加え、最終的に得られる金属酸化物の結晶粒径の大きさも、この照射波長を変化させることにより変化させることが可能となる。
【0013】
なお本発明は、上述した不規則な粒子のみならず、結晶欠陥も除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用した金属酸化物の製造方法を具体化するための製造装置を示す図である。
【図2】本発明を適用したゾルゲル法による金属酸化物の製造方法のフローチャートである。
【図3】酸化亜鉛の結晶成長中に生じる不規則な粒子について説明するための図である。
【図4】ゾルゲル反応を開始してからの日数に対する酸化亜鉛の発光スペクトルの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態としてゾルゲル法による金属酸化物の製造方法について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
本発明を適用した金属酸化物の製造方法は、図1に示すような製造装置1により具体化されるものである。この製造装置1は、光源11と、この光源から出射された光を反射させる反射板12と、反射板12の下側に配設された照明用レンズ13と、照明用レンズ13の直下に配置された容器15と、容器15の上端に載置される基板14と、容器15の周囲並びに底面を覆う遮光体16とを備えている。
【0017】
光源11は、図示しない電源装置を介して受給した駆動電源に基づき光発振し、例えば、Nd:YAG等の固体レーザ、HeCdレーザ、GaAs等の半導体レーザ、ArF等のガスレーザ等の各種レーザ、さらには、LEDもしくはキセノンランプ等の光を出射する光源である。また、この光源11は、出力する光強度や波長を制御可能とされていてもよい。この光源11から出射される光の波長の詳細については後述する。
【0018】
反射板12は、例えば光を全反射するミラー等で構成されている。この反射板12は、この光源11から出射された光を約90°方向に折り曲げ、これをその下側に配設された照明用レンズ13へと導く。
【0019】
照明用レンズ13は、反射板12からの光を集光し、必要に応じてそのスポット径を拡大してこれを容器15内へと導く。
【0020】
基板14は、容器15の口を覆うようにして載置される。これにより、容器15中の溶液が蒸発してしまうのを防止することが可能となる。また基板14は、例えばアルミナ等の材料からなる。このため、光源11からの光が仮に紫外光であっても、この基板14を透過することが可能となる。
【0021】
容器15は、例えばガラス製のビン等で構成されてなり、本発明を適用したゾルゲル法による金属酸化物の製造方法を実現する上で必要な溶液が注入される。そして、この容器15に注入された溶液には照明用レンズ13を介して光が照射されるようになっている。
【0022】
遮光体16は、例えばアルミ箔等で構成されてなり、外部からの可視光が容器15へ照射されるのを防止可能とされている。なお、容器15について、その材質を遮光性のものを選定した場合には、かかる遮光体16の構成を省略するようにしてもよい。
【0023】
次に、このような製造装置1を用いて実際にゾルゲル法により金属酸化物を製造する方法について説明をする。
【0024】
先ず図2のフローチャートにおけるステップS11に示すように、酢酸亜鉛(Zn(CHCO)のエタノール溶液を準備する。この酢酸亜鉛は、亜鉛の酢酸塩であり、正しくは酢酸亜鉛二水和物を例に挙げて説明をしているが、これ以外に亜鉛の硝酸塩、炭酸塩等に代替してもよい。また本発明ではこの亜鉛以外の金属であってもよく、金属塩であればいかなるものに代替してもよい。この酢酸亜鉛を溶解させるエタノール溶媒は、親水性有機溶媒を代表して用いたものであるが、他のアルコール溶液に代替させるようにしてもよい。なお、この酢酸亜鉛はエタノール溶媒に対して0.01〜0.05Mの濃度で溶解させることが望ましい。
【0025】
次にステップS12へ移行し、エタノール溶液を丸底フラスコに入れて還流を行う。この還流の条件としては、例えば50〜100℃の温度で1〜5時間還流するようにしてもよい。
【0026】
また還流後のエタノール溶液に対して、ステップS13に示すように触媒溶液を混合する。この触媒溶液は、電気陰性度の大きい金属の水酸化物をアルコール溶媒に溶解させたものであり、例えばLiOH溶液を用いる。なおLiOH溶液以外に、例えばNaOH、KOH、RbOH、CsOHの各溶液を用いてもよい。また、この触媒溶液中のLiOHのモル数は酢酸亜鉛のモル数との比よりも大であればよい。
【0027】
次にステップS14へ移行して加水分解を行う。この加水分解では、混合溶液を0℃に保持しつつ攪拌を行う。以下の例では、0℃に保持して超音波発生装置により攪拌しながら加水分解を行っている。
【0028】
このステップS14における加水分解では、以下の反応式(1)が生じている。
【0029】
Zn(CHCO)+2HO→Zn(OH)+2CHCOOH・・・・・(1)
【0030】
これにより、酢酸亜鉛は水酸化されて水酸化亜鉛(Zn(OH))となる。
【0031】
次にステップ15へ移行し、この混合溶液を静置する。この静置を行う段階においては、少なくとも上述した図1の製造装置1における容器15に混合溶液を移し替えるとともに、光源11から光を照射する。この混合溶液に対して光を照射し続けた状態で数時間〜数日間に亘り静置する。この照射する光の波長は、これから製造しようとする金属酸化物の吸収端以下の波長とする。また、この静置しているときの温度は、20〜30℃である。
【0032】
この静置過程を通じて水酸化亜鉛はコロイド状になり、微粒子(ゾル)となる。そして、このゾルとしての水酸化亜鉛がこのステップS15の静置過程において、以下の化学式(2)に基づいて脱水反応を起こし、ゲルに変化する。その結果、金属酸化物としての酸化亜鉛(ZnO)が生成されることになる。
【0033】
Zn(OH)→ZnO+HO・・・・・・・・・・(2)
【0034】
次にステップS16へ移行し、溶媒を取り除く。これは、Liが(2)の反応促進剤として作用するためであり、ZnOの粒径を増大させないために、Liイオンを溶媒から取り除く必要がある。この除去方法は、まず酸化亜鉛含有の溶媒をヘキサン溶液に加える。このとき酸化亜鉛は凝集し沈殿する。沈殿した酸化亜鉛をろ紙により取り出し、これをエタノール溶液中に分散させる。この作業を2回繰り返すことで、粒径の安定な酸化亜鉛が得られる。
【0035】
なお本発明では、ステップS15におけるゾルゲル法による(2)式の脱水反応を起こす過程では、酸化亜鉛結晶におけるZn−O−Zn結合が徐々に生成されてくることになる。しかしながら、このZn−O間の結合は、特に余分な酸化亜鉛分子が不規則に吸着した場合には非常に弱いものである。特に本発明では、このステップS15の(2)式の脱水反応を起こす過程において光を照射する。しかもこの光の波長は、酸化亜鉛の吸収端波長よりも低いものであることから、酸化亜鉛によって吸収されて励起されることになる。この吸収された光は、余分な酸化亜鉛分子が不規則に吸着した場合における弱いZn−O結合を脱離させるように作用することになる。
【0036】
その結果、例えば図3に示すように、酸化亜鉛の結晶成長中に生じる不規則な粒子31が脱離されてくることになる。特にこのような不規則な粒子31とは、規則的に整列したウルツ構造から逸脱した余分な酸化亜鉛分子(粒子)である。この不規則な粒子31は、Zn−O−ZnにおけるZn−O間の結合を介して、その規則的なウルツ構造に結合されている。この不規則な粒子31が多くなると、結晶の欠陥が生じ、粒径が大きくばらついてしまう。
【0037】
しかしながら、この不規則な粒子31は、余分な結合がZnに付いていることにより生じたものであることから、Zn−Oの結合が、規則的なウルツ構造のそれと比較して著しく弱いものとなっている。このため、この不規則な粒子31を結合するZn−Oの結合を光吸収により順次脱離していくことにより、この不規則な粒子31自体を結晶成長の過程において除去することが可能となる。
【0038】
そして、この不規則な粒子31が除去された結晶成長の表面には、新たな酸化亜鉛分子が溶液中を泳動してきて吸着しようとする。その結果、規則的なウルツ構造として正しく吸着された場合には、Zn−Oの結合がより強固になり、光吸収してもこれにより脱離されることはない。これに対して、新たに泳動してきた酸化亜鉛分子が不規則な位置に吸着された場合には、そのZn−Oの結合が、規則的なウルツ構造のそれと比較して著しく弱いものとなっている。上述と同様に光吸収により順次脱離していくことにより、除去されることとなる。
【0039】
このようなメカニズムが繰り返し実行されることにより、ステップS15におけるゾルゲル反応の終了時には、ほぼ規則的なウルツ構造のみで構成された酸化亜鉛結晶を得ることが可能となる。その結果、得られた金属酸化物の結晶粒径をより均一化させることが可能となる。
【0040】
また、これに加えて、照射する光の波長を変化させた場合、光吸収されるエネルギー自体も異なることから、Zn−Oの結合の脱離性もこれに応じて異なるものとなる。その結果、不規則な粒子31の脱離性に加え、最終的に得られる金属酸化物の結晶粒径の大きさも、この照射波長を変化させることにより変化させることが可能となる。
【0041】
なお、本発明は、上述した不規則な粒子のみならず、結晶欠陥も除去することが可能となる。ゾルゲル法による結晶成長の過程において、格子欠陥が結晶の表層において生成される場合もある。ちなみに、ここでいう格子欠陥とは、いわゆる点欠陥、線欠陥、面欠陥を含む。点欠陥は、正規の格子点にあるべき原子が抜けている原子空孔と、その抜けた原子が格子間に位置することによる格子間原子とからなる。またこの点欠陥としては、結晶中にある異種の原子(不純物)によるものも含まれる。この異種の不純物の原子は、いわゆる置換型原子や、侵入型原子等として構成されることになる。また、点欠陥としては、このような不純物の混入と、原子空孔とを有する複合欠陥として構成される場合もある。このような格子欠陥は、得られた結晶の品質を低下させることから、極力抑制することが望ましい。
【0042】
本発明では、ゾルゲル法による結晶成長時において、光を照射する。その結果、光は成長中の結晶表面に照射されることになり、その結果、格子欠陥を構成する原子空孔が消滅するまで、その欠陥周辺の原子の脱離が促進されることになる。
また、かかる光により原子が脱離した領域に対しては再び酸化亜鉛が堆積されていくことになる。その結果、原子空孔の存在しない高品質の結晶を得ることが可能となる。また、この原子が脱離した領域に結晶が成長する過程において再び格子欠陥生じた場合には、上述したメカニズムに基づいて再び原子空孔周辺の原子を脱離させることができ、高品質の結晶を得ることができるまでかかるプロセスが繰り返し実行されていくことになる。
【0043】
また、本発明では、照射した光に基づいて近接場光を発生させ、発生させた近接場光による近接場光相互作用に基づいて欠陥を構成する不純物又は欠陥周辺の原子を脱離させるようにしてもよいことは勿論である。
【実施例1】
【0044】
エタノール溶媒に対して酢酸亜鉛を0.1Mの濃度で溶解させて調整した金属塩溶液にLiOH溶液からなる触媒溶液を混合した。このとき、LiOHのモル数は、酸化亜鉛のモル数に対して1.22であった。その後、ゾルゲル反応を起こさせて酸化亜鉛結晶を作製した。このゾルゲル反応の過程で325nmの波長の光を照射したものと、全く光を照射しなかったものの2種類について実験した。
【0045】
図4のこの実験結果を示す。横軸はゾルゲル反応を開始してからの日数、縦軸は、得られた酸化亜鉛の発光スペクトルのピーク位置並びにそのスペクトルのばらつき(標準偏差)σを示している。
【0046】
この図4に示すように、光を照射した場合には、ゾルゲル反応の経過日数に応じて得られる発光スペクトルのバラつきが減少しているのが分かる。これに対して、光を照射しない場合には、ゾルゲル反応の経過日数に応じて発光スペクトルのバラつきが大きくなっていることが分かる。また、それぞれの発光強度は、光を照射した場合と、しない場合との間で差異があることが分かった。この発光強度は、得られた酸化亜鉛の粒径に依存するものである。
【0047】
この実験結果から、本発明の如くゾルゲル反応中に、酸化亜鉛の吸収端以下の波長の光を照射することにより、得られる酸化亜鉛の粒径を制御することができ、しかもそのバラつきを小さくすることができることが分かる。
【符号の説明】
【0048】
1 製造装置
11 光源
12 反射板
13 照明用レンズ
14 基板
15 容器
16 遮光体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中で還流して溶解した金属塩溶液に触媒溶液を混合して金属塩を加水分解し、ゾルゲル法に基づいて金属酸化物を製造する方法において、
ゾルゲル反応中に上記金属酸化物の吸収端以下の波長の光を照射すること
を特徴とするゾルゲル法による金属酸化物の製造方法。
【請求項2】
上記金属酸化物の表層に形成された不規則な粒子又は欠陥周辺の原子を、上記照射した光に基づいて脱離させること
を特徴とする請求項1記載のゾルゲル法による金属酸化物の製造方法。
【請求項3】
上記照射した光に基づいて近接場光を発生させ、発生させた近接場光による近接場光相互作用に基づいて上記欠陥を構成する不純物又は上記欠陥周辺の原子を脱離させること
を特徴とする請求項1又は2記載のゾルゲル法による金属酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−173746(P2011−173746A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37690(P2010−37690)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】