説明

タイヤの転舵ノイズ性能の評価方法

【課題】転舵ノイズ性能を指数化して評価し、評価テストの労力、時間、コストなどを削減する。
【解決手段】低速旋回時におけるタイヤの転舵ノイズ性能を評価する。台上摩耗エネルギ試験装置を用い、転舵状態のタイヤのトレッド接地面におけるトレッド中央側領域での横滑り量Sc、及びトレッドショルダ側領域での横滑り量Ssをそれぞれ測定する測定ステップと、測定された前記横滑り量Sc、Ssの比Ss/Scに基づいてタイヤの転舵ノイズ性能を評価する評価ステップとを具える。転舵状態では、スリップ角は、進行方向前方に対し車両内側に傾く向きに付与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低速旋回時におけるタイヤの転舵ノイズ性能を、指数化して容易に評価しうるタイヤの転舵ノイズ性能の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が低速度で旋回する時に、タイヤが要因となってゴーという低周波数(例えば125〜160Hz)の騒音が発生する場合がある。この騒音は転舵ノイズと呼ばれ、エンジン音や風切り音などが少ない低速時において発生するため、特に目立ちやすい。
【0003】
そのため、この転舵ノイズを改善するための種々な研究が行われており、又研究されたテストタイヤの転舵ノイズ性能を評価するために、従来より、実車走行テストが行われている。この実車走行テストでは、図7に概念的に示すように、テストタイヤaを車両bの全輪に装着し、転舵ノイズが発生する速度(例えば15km/h)の低速状態において例えば操舵角約180°で旋回を行い、その時発生する転舵ノイズを測定している。しかしながらこのような実車走行テストでは、4本のテストタイヤaが必要となるなど、試作コストの上昇を招く。又タイヤ装着位置による影響をなくすために、各テストタイヤaの装着位置を順次違えて走行テストを行う必要があり、そのためタイヤの組み替えに時間がかかるとともに、テスト回数も増加するなど、多くの労力、時間が必要となる。
【0004】
そこで、タイヤ単体にて転舵ノイズ性能を評価することが望まれる。しかしドラム試験機などの既存の測定装置では、転舵ノイズが発生する速度(例えば15km/h)でタイヤを回転させながら、タイヤに一定のスリップ角(例えば1.0°)を付与することは困難であり、タイヤ単体にて転舵ノイズ性能を評価することはできなかった。
【0005】
このような状況に鑑み本発明者が研究した結果、転舵ノイズは、操舵輪であるフロントタイヤc1、c2のうちの、旋回方向外側のフロントタイヤc1(以後、フロント外輪側タイヤc1と呼ぶ場合がある)で強く発生し、とりわけこのフロント外輪側タイヤc1における車両装着方向内側のトレッドショルダ部c1sで強く生じていることが判明した。
【0006】
又、その発生メカニズムを究明すべく、転舵ノイズ性能に優れるタイヤと、劣るタイヤとの比較を行った結果、転舵ノイズ性能に優れるタイヤでは、図8(A)に示すように、旋回時の接地面形状dにおいて、接地長さLが滑らかに変化している。これに対して、転舵ノイズ性能に劣るタイヤでは、図8(B)に示すように、車両装着方向内側のトレッドショルダ部c1sにおいて接地長さLの変化が大きくなることが判明した。このことから、転舵ノイズ性能に劣るタイヤでは、旋回時、車両装着方向内側のトレッドショルダ部c1sにおける路面との滑り量が大となり、それによるトレッドゴムの挙動が振動となって転舵ノイズを発生させると推測される。そこで、滑り量に着目してさらに研究した結果、滑り量のうちの横滑り量が、転舵ノイズに対して大きく関与しており、この横滑り量を用いることによりタイヤの転舵ノイズ性能を評価しうることを究明し得た。なおこの横滑り量は、従来の台上摩耗エネルギ試験装置を用いて容易に測定することができるため、タイヤ単体にての転舵ノイズ性能の評価を行いうる。
【0007】
なお下記の特許文献1には、摩耗エネルギ測定装置により、スリップ角を付与して走行させたタイヤのトレッド接地面の複数位置において、滑り量を測定しうることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−78416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、台上摩耗エネルギ試験装置によって測定される所定位置での横滑り量Sc、Ssの比Ss/Scを用いることを基本として、転舵ノイズ性能を指数化して評価でき、評価テストの労力、時間、コストなどを大きく削減しうるタイヤの転舵ノイズ性能の評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本願請求項1の発明は、低速旋回時におけるタイヤの転舵ノイズ性能を評価する転舵ノイズ性能の評価方法であって、
台上摩耗エネルギ試験装置を用い、スリップ角が付与された転舵状態のタイヤのトレッド接地面におけるトレッド中央側領域での横滑り量Sc、及びトレッドショルダ側領域での横滑り量Ssをそれぞれ測定する測定ステップと、
測定された前記横滑り量Sc、Ssの比Ss/Scに基づいてタイヤの転舵ノイズ性能を評価する評価ステップとを具え、
前記転舵状態では、前記スリップ角は、進行方向前方に対して車両内側に傾く向きに付与されるとともに、
前記トレッド中央側領域は、タイヤ赤道面を中心としたタイヤ軸方向巾がトレッド接地巾TWの0.2倍の領域とし、
かつ前記トレッドショルダ側領域は、タイヤ赤道面から車両内側にトレッド接地巾TWの0.4倍の距離Ls1を隔てた基準線を中心としたタイヤ軸方向巾がトレッド接地巾TWの0.1倍の領域としたことを特徴としている。
【0011】
又請求項2の発明では、前記転舵状態は、速度が0.5km/h以下、かつスリップ角θが0.5〜1.0°であることを特徴としている。
【0012】
又請求項3の発明では、前記横滑り量Scは、トレッド中央側領域内の複数位置で測定された横滑り量Sciの平均値であり、かつ前記横滑り量Ssは、前記トレッドショルダ側領域内の複数位置で測定された横滑り量Ssiの平均値であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明は叙上の如く構成しているため、下記の「発明を実施するための形態」の欄で説明する如く、トレッド接地面の所定位置で測定される横滑り量Ss、Scの比Ss/Scを指標として、タイヤの転舵ノイズ性能を数値化して評価することができる。又この横滑り量Ss、Scは、台上摩耗エネルギ試験装置によって測定しうるため、テストタイヤの本数が1本で済むなど、テストタイヤの作成コスト、作成時間の削減を図りうる。又測定条件を一定に揃えることができるため、転舵ノイズ性能をより正確に比較することができる。又従来の実車走行テストの如く、車両が不要であり、しかもタイヤの組み替えや複数回のテストが不要となるなど、評価テストの労力、時間、コストなども大きく削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)は、本発明の転舵ノイズ性能の評価方法に使用される台上摩耗エネルギ試験装置を概念的に示す側面図、(B)はその正面図である。
【図2】転舵状態のタイヤを示す平面図である。
【図3】転舵ノイズ性能が評価される空気入りタイヤの一例を示すトレッドパターン図である。
【図4】実施例のテストにおける滑り量の測定位置を示す平面図である。
【図5】(A)はトレッド接地面内の各位置で測定された横滑り量を示すグラフ、(B)は周方向の滑り量を示すグラフである。
【図6】(A)は転舵ノイズと横滑り量の比との関係を示すグラフ、(B)は転舵ノイズと周方向の滑り量の比との関係を示すグラフである。
【図7】従来の実車走行テストを説明する概念図である。
【図8】(A)は転舵ノイズ性能に優れるタイヤの接地面形状を示す概念図、(B)は転舵ノイズ性能に劣るタイヤの接地面形状を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明のタイヤの転舵ノイズ性能の評価方法は、台上摩耗エネルギ試験装置1を用い、スリップ角θが付与された転舵状態YのタイヤTのトレッド接地面2におけるトレッド中央側領域2cでの横滑り量Sc、及びトレッドショルダ側領域2sでの横滑り量Ssをそれぞれ測定する測定ステップと、測定された前記横滑り量Sc、Ssの比Ss/Scに基づいてタイヤの転舵ノイズ性能を評価する評価ステップとを具える。
【0016】
図3に、本発明の評価方法によって転舵ノイズ性能が評価されるタイヤTのトレッドパターンの一例が示される。本例のタイヤTは、車両への装着方向が規定された非対称パターンの空気入りタイヤであって、タイヤ赤道面Coの一方側、他方側でトレッドパターンが相違している。
【0017】
具体的には、本例のタイヤTは、車両装着時に車両内側となる内のトレッド半部分Tdiにおけるトレッドパターンのランド比が、車両外側となる外のトレッド半部分Tdoにおけるトレッドパターンのランド比よりも小である。これにより内のトレッド半部分Tdiの溝面積を高めて排水性能を確保する一方、外のトレッド半部分Tdoのパターン剛性を高めて操縦安定性の向上を図っている。
【0018】
詳しくは、前記内のトレッド半部分Tdiには、2本の周方向主溝3ia、3ibが形成され、かつ外のトレッド半部分Tdoには、1本の周方向主溝3oが形成される。又、前記周方向主溝3oの両側には、タイヤ周方向にのびる縦細溝5a、5bが配される。なお、周方向主溝は溝巾3mm以上の幅広溝を意味し、又縦細溝は溝巾3mm未満の巾狭溝を意味する。
【0019】
タイヤ軸方向外側の縦細溝5bと、車両外側を向く外のトレッド端TEoとの間には、この間を複数のブロックに区分する横溝6obが形成されている。またタイヤ軸方向内側の縦細溝5aと、タイヤ軸方向内側の周方向主溝3iaとの間には、この間を複数のブロックに区分する横溝6oaが形成されている。また周方向主溝3ia、3ib間には、この間を複数のブロックに区分する横溝6iaが形成されている。また周方向主溝3ibと車両内側を向く内のトレッド端TEiとの間には、この間を複数のブロックに区分する横溝6ibが形成されている。
【0020】
次に、前記台上摩耗エネルギ試験装置1(以下、試験装置1という場合がある。)として、周知構造のものが使用できる。図1(A)、(B)に概念的に示すように、本例では前記試験装置1が、フレーム20に水平支持されるタイヤ進行方向に長い透明な接地板21と、前記フレーム20にタイヤ進行方向に移動自在に支持される走行台22と、前記走行台22に取り付きかつタイヤTを支持するタイヤ支持具23と、前記接地板21に接地するタイヤTのトレッド接地面2の接地状態を測定する測定具24とを具える。
【0021】
前記接地板21は、タイヤ進行方向に長い矩形板状をなし、少なくともタイヤTが接地する接地部分は、例えばガラス、アクリル樹脂などからなる透明材料によって形成される。これにより、トレッド接地面2を接地板21の下方側(裏側)から透視することができる。本例では、接地板21の全体が透明材料によって形成された場合が示される。
【0022】
前記走行台22は、前記フレーム20上に敷設される一対のスライドレール25によってタイヤ進行方向Fに走行可能に案内される。本例の走行台22は、上枠部22Aと、この上枠部22Aから下方に突出しかつ前記スライドレール25に係合するリニアガイドを下端に設けた脚部22Bとを具え、前記フレーム20に取り付く駆動手段(図示しない。)によって、所定の走行速度で、タイヤ進行方向Fに走行しうる。なお駆動手段としては、特に規制されないが、例えば前記スライドレール25と平行に枢支されるボールネジ軸と、このボールネジ軸を駆動する駆動モータと、前記走行台22に取り付きかつ前記ボールネジ軸に螺合するナット部とを用いた周知のボールネジ機構を用いたものが、構造簡易であり、しかも走行速度、走行距離、走行の駆動停止などを高精度で制御しうるため好適に採用しうる。
【0023】
又前記タイヤ支持具23は、前記上枠部22Aに固定の基部23Aと、この基部23Aに適宜の昇降手段(図示しない。)を介して昇降可能に支持される昇降台23Bと、該昇降台23Bに支持される垂直軸23Cと、この垂直軸23Cの下端に取り付きかつ前記タイヤTをタイヤ軸心i1回りで回転可能に支持するタイヤ支持軸23Dとを具える。
【0024】
前記昇降台23Bは、タイヤTと一体に昇降でき、その下降によってタイヤTを所定の縦荷重にて接地板21に接地させうる。前記タイヤ支持軸23Dは、その一端部がタイヤTをタイヤ軸心i1回りで回転可能に支持するとともに、他端部が、前記垂直軸23Cに角度調整手段(図示しない。)を介して支持される。本例の垂直軸23Cは、その軸心i2が、タイヤ赤道面Coを通ってタイヤ軸心i1と直角に交差している。従って、前記タイヤ支持軸23Dの前記軸心i2回りの取り付け角度を、角度調整手段によって調整することにより、タイヤTのスリップ角θを設定することができる。なお前記昇降手段、角度調整手段としては、従来の台上摩耗エネルギ試験装置などに用いる周知構造のものが適宜採用しうる。
【0025】
又前記測定具24は、本例では、接地板21の下方かつタイヤTの走行軌跡下に配置されるビデオカメラ24Aを含む。このビデオカメラ24Aにより、前記駆動手段によって設定される走行速度、前記昇降手段によって設定される縦荷重、及び前記角度調整手段によって設定されるスリップ角θにて前記接地板21上を走行するタイヤTのトレッド接地面2の接地状態を撮影することができる。そして、このビデオカメラ24Aによって撮影された画像を、画像処理することでトレッド接地面2の各位置Pにおいて、トレッド面が接地板21と接触してから離間するまでの間に生じる横滑り量S及び周方向の滑り量Rを測定することができる。
【0026】
そして本発明の測定ステップでは、前述の試験装置1を用い、スリップ角θが付与された転舵状態YのタイヤTのトレッド接地面2におけるトレッド中央側領域2cでの横滑り量Sc、及びトレッドショルダ側領域2sでの横滑り量Ssをそれぞれ測定する。
【0027】
ここで、前記転舵状態Yでは、前記図2に示すように、前記スリップ角θは、進行方向前方F1に対してタイヤTが車両内側に向かって旋回する向き、即ちスリップ角θが、進行方向前方F1に対して車両内側に傾く向きに付与される。又前記図3に示すように、前記トレッド中央側領域2cは、タイヤ赤道面Coを中心としたタイヤ軸方向巾Wcがトレッド接地巾TWの0.2倍の領域を意味する。又前記トレッドショルダ側領域2sは、タイヤ赤道面Coから車両内側にトレッド接地巾TWの0.4倍の距離Ls1を隔てた基準線Qを中心としたタイヤ軸方向巾Wsがトレッド接地巾TWの0.1倍の領域を意味する。
【0028】
前記スリップ角θの向きを規定したのは、転舵ノイズが、フロント外輪側タイヤにおける車両内側のトレッドショルダ部で強く発生するという前述の知見に基づくものであり、このスリップ角θを、進行方向前方F1に対して車両内側に傾斜させることにより、転舵ノイズが最も大となる旋回時のフロント外輪側タイヤと同じ転舵状態Yで、横滑り量Sを測定することができる。
【0029】
又前記トレッド中央側領域2cは、接地圧が最も高く横滑り量Sが小な領域であり、従ってこのトレッド中央側領域2cでの横滑り量Scを基準とすることで、横滑り量の分布を正確に表すことが可能となる。又トレッドショルダ側領域2sは、転舵ノイズへの関与が大きい領域であって、このトレッドショルダ側領域2sでの横滑り量Ssと、前記トレッド中央側領域2cでの横滑り量Scとの比Ss/Scをパラメータとすることで、転舵ノイズ性能の評価を高精度で行うことができる。
【0030】
なお横滑り量S自体は、スリップ角θの大きさ、縦荷重の大きさ、接地板表面の摩擦係数などの条件によって大きく変化してしまう。そのため、この横滑り量S自体をパラメータとした場合には、前記条件やその誤差によって横滑り量Sに大きなバラツキが生じてしまい、評価の精度が著しく低下する。しかし、トレッド中央側領域2cの横滑り量Scと、トレッドショルダ側領域2sの横滑り量Ssとは、同一条件で測定されたものであるため、その比Ss/Scをパラメータとすることにより、前記条件やその誤差によるバラツキを排除することができ、転舵ノイズ性能の評価を精度良く行うことができる。
【0031】
なお前記転舵状態Yは、前記台上摩耗エネルギ試験装置1の設定範囲内で適宜定めうるが、速度としては0.5km/h以下、かつスリップ角θとしては0.5〜1.0°であるのが好ましい。前記速度が0.5km/hを越えると、ビデオカメラ24Aによる画像の鮮明さが低下するなど横滑り量Sの測定精度が低下する、或いは高速度撮影が必要になるなど装置コストの上昇を招く。又、前記スリップ角θが0.5°を下回ると、測定される横滑り量Sが過小となって測定精度の低下、ひいては転舵ノイズ性能の評価精度の低下を招く。逆にスリップ角θが1.0°を上回ると、トレッド面全体が大きくすべり、すべりの差が見られなくなるという不利を招く。
【0032】
ここで、前記トレッド中央側領域2cの横滑り量Scは、このトレッド中央側領域2c内の少なくとも1つの位置Pで測定された値によって設定される。具体的には、もし測定位置Pが1つの場合には、その測定値によってトレッド中央側領域2cの横滑り量Scが設定される。又測定位置Pが複数の場合には、その複数位置Pで測定された横滑り量Sciの平均値によってトレッド中央側領域2cの横滑り量Scが設定される。同様に、トレッドショルダ側領域2sの横滑り量Ssは、このトレッドショルダ側領域2s内の少なくとも1つの位置Pで測定された値によって設定される。もし測定位置Pが1つの場合には、その1つの測定値Pによって、又測定位置Pが複数の場合には、その複数位置Pで測定された横滑り量Ssiの平均値によってトレッドショルダ側領域2sの横滑り量Ssが設定される。なお横滑り量Sは、厳密には測定位置Pによって若干相違する。そのため、評価精度を高めるためには、トレッド中央側領域2c内での測定位置P、及びトレッドショルダ側領域2s内での測定位置Pの数は、それぞれ複数であるのが好ましく、より好ましくは5以上、さらには10以上である。又測定位置Pが複数の場合には、周方向に等間隔を隔てた位置を含ませるのが、測定精度をより高める上で好ましい。
【0033】
又前記測定ステップにおける測定条件、例えば使用リム、タイヤ内圧、及び縦荷重などにおいては、前記台上摩耗エネルギ試験装置1における設定範囲内で適宜定めうる。例えば使用リムとしては、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムである「正規リム」が好適に採用でき、この「正規リム」として、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim" 、或いはETRTOであれば "Measuring Rim"を用いうる。又前記タイヤ内圧としては、前記規格がタイヤ毎に定める空気圧である「正規内圧」が好適に採用でき、この「正規内圧」として、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE"が、又乗用車用タイヤの場合には200kPaを用いうる。又縦荷重としては、前記規格がタイヤ毎に定める空気圧である「正規荷重」が好適に採用でき、この「正規荷重」は、JATMAであれば最大負荷能力の0.7倍、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値の0.7倍、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"の0.7倍を用いうる。しかしこれ以外にも、タイヤメーカなどが各社毎に定めた独自の基準に合わせて、測定条件を設定することができる。
【0034】
又、前記トレッド接地巾TWは、前記測定ステップと同条件(使用リム、タイヤ内圧、及び縦荷重)にてタイヤを接地させた時に得られるトレッド接地面2のタイヤ軸方向最大巾を意味する。
【0035】
次に、前記評価ステップでは、前記横滑り量Sc、Ssの比Ss/Scをパラメータとして、タイヤの転舵ノイズ性能を評価する。この評価方法としては、例えば前記比Ss/Scの値をタイヤ同士で比較して、転舵ノイズ性能の優劣をタイヤ同士で比較する方法、或いは転舵ノイズ性能の良否の判定基準となる比Ss/Scの閾値を予め設定し、測定した比Ss/Scの値を閾値と比較してタイヤの良否を判定する方法など種々な評価方法を採用しうる。
【0036】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0037】
本発明の作用効果を確認するため、タイヤ内部構造及びトレッドパターンが異なるタイヤサイズ175/65R15の4種類の市販の乗用車用のタイヤT1、T2、T3、T4を入手した。
【0038】
そして、台上摩耗エネルギ試験装置を用いた本発明に係わる測定ステップによって、それぞれのタイヤT1〜T4の各位置P1〜P9(図4に示す)における横滑り量S、及び周方向の滑り量Rを下記の測定条件にて測定した。その測定結果を、図5(A)、(B)に示している。本例では(株)昭和電機製作所製の台上摩耗エネルギ試験装置を使用した。
<測定条件>
・リム(15×5.5J)、
・内圧(230kPa)、
・縦荷重(3.97kN)、
・速度(0.36km/h)、
・スリップ角θ(0.58°)。
【0039】
前記位置P1〜P9は、本例では、それぞれ周方向に等間隔を隔てて5箇所に形成されており、滑り量は、この5箇所の位置で測定された値の平均値で示される。例えば、位置P1での横滑り量Sは、周方向の5箇所のP1で測定された5つの横滑り量Sの平均値で示される。
【0040】
又本例では、前記位置P1〜P9のうち、位置P3、P4が前記トレッド中央側領域2c内に位置している。従って、トレッド中央側領域2cでの横滑り量Scは、この位置P3での横滑り量ScP3と、位置P4での横滑り量ScP4との平均値で示される。又本例では、位置P7〜P9が前記トレッドショルダ側領域2s内に位置しており、従って、トレッドショルダ側領域2sでの横滑り量Ssは、この位置P7での横滑り量SsP7と、位置P8での横滑り量SsP8と、位置P9での横滑り量SsP9との平均値で示される。
【0041】
次に、各タイヤT1〜T4の転舵ノイズを実車走行テストによって測定した。この実車走行テストでは、各タイヤT1〜T4を4本ずつ用意し、リム(15×5.5J)、内圧(230kPa)の条件にて、同種のタイヤを車両(1300cc)の全輪に装着し、1名乗車にて、速度15km/h、舵角180°(左転舵)にて、スキッドパット路面上で低速旋回走行した。そしてその時の車内騒音を、運転席右耳位置のマイクロフォンで測定し、1/3オクターブ分析した160Hzの音圧レベル(dB(A))にて比較した。
【0042】
そして、各タイヤT1〜T4における、実車走行テストによる転舵ノイズの音圧レベルと、横滑り量の比Ss/Scとの関係が図6(A)に、又実車走行テストによる転舵ノイズの音圧レベルと、周方向の滑り量の比Rs/Rcとの関係が図6(B)に、それぞれ示される。
【0043】
図6(A)に示すように、転舵ノイズと、横滑り量の比Ss/Scとの間には強い相関があり、横滑り量の比Ss/Scから転舵ノイズ性能の優劣を評価しうるのが確認できる。なお図6(B)に示すように、転舵ノイズと、周方向の滑り量の比Rs/Rcとの間には相関が見られない。
【符号の説明】
【0044】
1 台上摩耗エネルギ試験装置
2 トレッド接地面
2c トレッド中央側領域
2s トレッドショルダ側領域
Co タイヤ赤道面
F1 進行方向前方
T タイヤ
TEi 内のトレッド端側
θ スリップ角
Y 転舵状態

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低速旋回時におけるタイヤの転舵ノイズ性能を評価する転舵ノイズ性能の評価方法であって、
台上摩耗エネルギ試験装置を用い、スリップ角が付与された転舵状態のタイヤのトレッド接地面におけるトレッド中央側領域での横滑り量Sc、及びトレッドショルダ側領域での横滑り量Ssをそれぞれ測定する測定ステップと、
測定された前記横滑り量Sc、Ssの比Ss/Scに基づいてタイヤの転舵ノイズ性能を評価する評価ステップとを具え、
前記転舵状態では、前記スリップ角は、進行方向前方に対して車両内側に傾く向きに付与されるとともに、
前記トレッド中央側領域は、タイヤ赤道面を中心としたタイヤ軸方向巾がトレッド接地巾TWの0.2倍の領域とし、
かつ前記トレッドショルダ側領域は、タイヤ赤道面から車両内側にトレッド接地巾TWの0.4倍の距離Ls1を隔てた基準線を中心としたタイヤ軸方向巾がトレッド接地巾TWの0.1倍の領域としたことを特徴とするタイヤの転舵ノイズ性能の評価方法。
【請求項2】
前記転舵状態は、速度が0.5km/h以下、かつスリップ角θが0.5〜1.0°であることを特徴とする請求項1記載のタイヤの転舵ノイズ性能の評価方法。
【請求項3】
前記横滑り量Scは、トレッド中央側領域内の複数位置で測定された横滑り量Sciの平均値であり、かつ前記横滑り量Ssは、前記トレッドショルダ側領域内の複数位置で測定された横滑り量Ssiの平均値であることを特徴とする請求項1又は2記載のタイヤの転舵ノイズ性能の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−19756(P2013−19756A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153146(P2011−153146)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)