説明

タイヤインナーライナー用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】優れた空気透過防止性能および耐疲労性を付与し、かつ長期間にわたり芳香を発するタイヤインナーライナー用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ブチル系ゴムを50質量部以上含むゴム成分100質量部に対し、香料を含有するマイクロカプセルを0.5〜15質量部配合してなることを特徴とするタイヤインナーライナー用ゴム組成物と、該タイヤインナーライナー用ゴム組成物をインナーライナーに使用した空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤインナーライナー用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、優れた空気透過防止性能および耐疲労性を付与し、かつ、長期間にわたり芳香を発するタイヤインナーライナー用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
チューブレス空気入りタイヤの内面には、空気透過防止性能に優れたブチル系ゴムを主成分とするインナーライナーが設けられている。しかしインナーライナーは、タイヤ内腔の充填空気を完全に遮断できず、長期間の間に、充填空気がインナーライナーを透過し、外周側に配置されたカーカス層やベルト層に拡散する。そして充填空気中の酸素がカーカス層やベルト層のゴム成分を酸化劣化させ、耐久性を低下させるという問題があった。また、タイヤの空気圧が低下するとタイヤのたわみが大きくなり故障につながる。この対策として、タイヤインナーライナー用ゴム組成物に板状の偏平構造を有するタルクやクレー等の板状無機充填剤を配合する技術が知られているが、このような板状無機充填剤を均一に分散させるのは困難であり、所望の空気透過防止性能および耐疲労性を獲得するのが困難であった。
【0003】
一方、空気入りタイヤは、加硫されたゴム組成物を主材料として構成されている。この加硫ゴムは独特の臭いをもっており、締め切った店舗倉庫やガレージ等にタイヤを保管した場合、この臭気により不快感を訴えるユーザーも多く、改善が望まれていた。
【0004】
なお、下記特許文献1には、タイヤ外表面領域に芳香性の香料を保持させた空気入りタイヤが開示されている。しかしながら、香料を塗布または配合することによって、タイヤは芳香を発散し、臭気を消して快適な雰囲気を形成することができるが、その効果はタイヤ製造後の僅かな期間(初期)に限定され、タイヤを長期間使用するに従って、芳香性が低下するという問題があった。
また、下記特許文献2には、香料封入粒子をタイヤトレッドに配合する技術が開示されている。しかしながら、この技術においても芳香の発散がタイヤ製造後の僅かな期間(初期)に集中し、その効果が長続きしないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−69003号公報
【特許文献2】特開2002−114873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の目的は、優れた空気透過防止性能および耐疲労性を付与し、かつ長期間にわたり芳香を発するタイヤインナーライナー用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定の組成を有するゴム成分に、香料を含有するマイクロカプセルを特定量配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下の通りである。
1.ブチル系ゴムを50質量部以上含むゴム成分100質量部に対し、香料を含有するマイクロカプセルを0.5〜15質量部配合してなることを特徴とするタイヤインナーライナー用ゴム組成物。
2.前記1に記載のタイヤインナーライナー用ゴム組成物をインナーライナーに使用した空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定の組成を有するゴム成分に、香料を含有するマイクロカプセルを特定量配合したので、優れた空気透過防止性能および耐疲労性を付与し、かつ長期間にわたり芳香を発するタイヤインナーライナー用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(ゴム成分)
本発明で使用されるゴム成分は、全体を100質量部としたとき、ブチル系ゴムを50質量部以上含有する。
ブチル系ゴムとしては、インナーライナー用として使用されている任意のブチル系ゴム、例えばブチルゴム(IIR)やハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)等を挙げることができる。ブチル系ゴムの市販品としては、例えば臭素化ブチルゴムである日本ブチル(株)製、商品名BROMOBUTYL2255等が挙げられる。
また、ブチル系ゴム以外のゴム成分としては、タイヤ用ゴム組成物として使用されるジエン系ゴムをいずれも使用することができるが、天然ゴム(NR)が好適である。なおジエン系ゴムの配合割合が50質量部を超えると、空気透過防止性能が悪化する。
【0010】
(香料を含有するマイクロカプセル)
本発明で使用する香料を含有するマイクロカプセルは、芯物質の香料を壁材で包んだ球状物質であり、内包された香料の壁材中ないし壁材外への拡散およびマイクロカプセルに物理的な力が加わった際にカプセルの壁が破れて芯物質の香料を放出するものである。このマイクロカプセルをタイヤインナーライナー用ゴム組成物に配合することによって、前述の特許文献1および2に記載された技術と異なり、タイヤ製造後の初期に芳香が多量に発散することがなく、芳香の発散がタイヤの長期間使用後まで万遍なく一定に持続する。
【0011】
香料を含有するマイクロカプセルの製造方法は、特に制限されず、公知のマイクロカプセル化方法を採用することができる。具体的には化学的製法(界面重合法、in situ重合法、オリフィス法)、物理化学的方法(コアセルベーション法)、機械的・物理的方法(気中懸濁被覆法、噴霧乾燥法、高速気流中衝撃法)等が挙げられる。マイクロカプセルの壁材としては架橋または未架橋のアクリル系樹脂、ポリウレア、ポリウレタン、ポリアミド、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルギン酸塩、ゼラチン、アラビアゴム、デンプン等の各種高分子化合物が挙げられる。
【0012】
本発明で使用する香料を含有するマイクロカプセルにおいて、その粒径は、5〜60μmが好ましく、10〜50μmがさらに好ましく、15〜40μmがとくに好ましい。この粒径範囲において、インナーライナー用ゴム組成物の空気透過防止性能および耐疲労性と、長期間にわたる芳香の発散持続効果を一層向上させることができる。
また、該マイクロカプセルの壁材の厚さは、例えば1〜20μmが好ましく、3〜15μmがさらに好ましい。この壁材の厚さの範囲において、インナーライナー用ゴム組成物の空気透過防止性能および耐疲労性と、長期間にわたる芳香の発散持続効果を一層向上させることができる。
【0013】
本発明で使用する香料は、芳香が発散されタイヤの臭気を和らげることができるものであれば、その種類および使用量は特に限定されないが、ゴムとの混練や加硫等の加工中に蒸発逸散したり、分解変質したりすることがないように沸点が190℃以上のものが特に好ましい。
【0014】
具体的には、ヘリオトロープ系、ジャスミン系、ローズ系、オレンジフラワー系、アンバー系、ムスク系、レモン系からなる群より選ばれる少なくとも一種を使用することができる。
【0015】
さらに具体的な香料として、下記のパチュリ油を主体とするオリエンタルベースにローズ系、アンバー系、ムスク系及びジャスミン系の香料成分を、溶剤のジオクチルフタレート(DOP)と共に上乗せしたタブ(TABU)タイプの香料がある。
【0016】
オリエンタルベース:パチュリ油、ハーコリン(メチルアビエテート methylabietate)、バニリン、エチルバニリン
クマリンローズ系香料成分:フェニルエチルアルコール、ゲラニオール、イソ−ボルニルメトキシシクロヘキサノール(iso-Bornyl methoxycyclohexanol)
アンバー系香料成分:テトラハイドロパラメチルキノリン
ムスク系香料成分:ガラクソリッド、ムスクケトン
ジャスミン系香料成分:α−アミルシンナムアルデヒド、メチルジヒドロジャスモネート
レモン系香料:例えばミカン科のレモンの果皮及び果汁を、水蒸気蒸留法、熱水蒸留法、有機溶媒抽出法、圧搾法、不揮発性溶剤抽出法、超臨界流体抽出法等により抽出した成分あるいは当該成分の合成品。
【0017】
また、下記ヘリオトロープ系香料成分を主香調とし、ジャスミン系香料成分、さらに高調性、拡散性を付与するため、ローズ系香料成分やオレンジフラワー系香料成分を溶媒のDOPと一緒に加えたアメシスト(AMETHYST)タイプの香料が挙げられ、これらは甘くて重厚であり、特にゴム臭の抑制に好適である。
ヘリオトロープ系香料成分:ヘリオトロピン、ムスクケトン、クマリン、エチルバニリン、アセチルセドレン、ハーコリン(メチルアビエテート)、オイゲノール、メチルヨノン
ローズ系香料成分:ダマスコン−β、ダマスコン−α、イソ−ボルニルメトキシシクロヘキサノール
オレンジフラワー系香料成分:メチルアンスラニレート、γ−ウンデカラクトン、γ−ノナラクトン
ジャスミン系香料成分:メチルジヒドロジャスモネート
【0018】
(タイヤインナーライナー用ゴム組成物の配合割合)
本発明のタイヤインナーライナー用ゴム組成物は、ブチル系ゴムを50質量部以上含むゴム成分100質量部に対し、香料を含有するマイクロカプセルを0.5〜15質量部配合してなることを特徴とする。
香料を含有するマイクロカプセルの配合量が0.5質量部未満であると、添加量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。逆に15質量部を超えると耐疲労性が悪化する。
【0019】
香料を含有するマイクロカプセルのさらに好ましい配合量は、ゴム成分100質量部に対し、1〜12質量部である。
【0020】
本発明のタイヤインナーライナー用ゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、充填剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。なお、空気透過防止性能をさらに高めるために、鱗状、扁平なフィラーを併用してもよいが、この場合、一般的に耐疲労性が低下する傾向にある。
【0021】
また本発明のタイヤインナーライナー用ゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造するのに使用することができる。
インナーライナーの厚さは、本発明の効果の観点から、200〜5000μmが好ましく、400〜3000μmがさらに好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0023】
実施例1〜3および比較例1〜6
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、硫黄および加硫促進剤を除く配合成分を秤量し、1.7Lのバンバリーミキサーで4分間混練し、155±5℃に達したときにマスターバッチを放出し室温冷却した。このマスターバッチを1.7Lのバンバリーミキサーに供し、硫黄、加硫促進剤、加硫遅延剤を加え混合し、ゴム組成物を調製した。
次に得られたゴム組成物を所定の金型中で160℃で20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を調製した。得られた加硫ゴム試験片について以下に示す試験法で物性を測定した。
【0024】
・空気透過係数
得られたゴム組成物の加硫試験片を用いて、JIS K7126「プラスチックフィルム及びシートの気体透過度試験方法」のA法(差圧式)に準拠して、試験気体を空気相当(窒素:酸素=8:2)とし、試験温度30℃で空気透過係数を測定した。得られた結果は、比較例1を100とする指数として表1に示した。指数が小さいほど、空気透過係数が小さく空気透過防止性能に優れることを意味する。
・耐疲労性
JIS K6251に準拠して、JIS 3号ダンベル状サンプルを用いて、歪率60%にて繰返し歪を与え、破断に至るまでの回数を測定した。表中の数値は、比較例1の値を100とした指数で示す。数値が大きい程、耐屈曲性が高い、すなわち耐疲労性に優れることを示す。
・臭気官能評価
表1に示した加硫後の所定時間において、得られた加硫ゴム試験片の匂いを10名で嗅ぎ、香料の匂いがすると答えた人数が6名以上で「香料の匂い」、5名以下で「加硫ゴム臭」と判定した。
結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
*1:IIR(臭素化ブチルゴム、日本ブチル(株)製ブロモブチル2255)
*2:NR(RSS#3)
*3:カーボンブラック(新日化カーボン(株)製ニテロン #55S GPF(窒素吸着比表面積=28m/g)
*4:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種)
*5:樹脂(芳香族系石油樹脂、エアウォーター社製FR−120)
*6:オイル(昭和シェル石油(株)製エキストラクト4号)
*7:硫黄(鶴見化学工業(株)製油処理イオウ)
*8:加硫促進剤(三新化学工業(株)製サンセラーDM−PO)
*9:香料(レモン系香料)
*10:香料を含有するマイクロカプセル(芯物質の上記レモン系香料を、厚さ8μmのアクリル系樹脂からなる壁材で包んだ、平均粒径30μmの球状物質)
【0027】
上記表1から明らかなように、本発明の実施例1〜3で調製されたタイヤインナーライナー用ゴム組成物は、特定の組成を有するゴム成分に、香料を含有するマイクロカプセルを特定量配合したので、従来の代表的な比較例1の組成物に比べ、優れた空気透過防止性能および耐疲労性を付与し、かつ長期間にわたり芳香を発することが明らかとなった。
これに対し、比較例2は、ゴム成分としてNRを使用し、香料を含有するマイクロカプセルを使用せず、単に香料を配合しただけであるので、空気透過防止性能を獲得することができず、また芳香の発散が加硫後の僅かな期間に集中し、その効果が長続きしないことが判明した。
比較例3は、比較例2の配合処方に比べ、NRを減量しブチル系ゴムを配合した系であるが、香料を含有するマイクロカプセルを使用せず、単に香料を配合しただけであるので、所望の空気透過防止性能および耐疲労性を獲得することができず、また芳香の発散が長期間にわたって持続しないことが判明した。
比較例4は、香料を含有するマイクロカプセルの配合量が本発明で規定する下限未満であるので、空気透過防止性能および耐疲労性の向上が認められなかった。また芳香の発散が加硫後の僅かな期間に集中し、その効果が長続きしないことが判明した。
比較例5は、香料を含有するマイクロカプセルの配合量が本発明で規定する上限を超えているので、耐疲労性が悪化した。
比較例6は、香料を含有するマイクロカプセルを配合しているものの、ブチル系ゴムを使用していないので、芳香の発散が長期間持続せず、特に空気透過防止性能が悪化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチル系ゴムを50質量部以上含むゴム成分100質量部に対し、香料を含有するマイクロカプセルを0.5〜15質量部配合してなることを特徴とするタイヤインナーライナー用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のタイヤインナーライナー用ゴム組成物をインナーライナーに使用した空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−255066(P2012−255066A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128223(P2011−128223)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】