説明

タイヤトレッド用ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】スチレン−ブタジエン共重合体配合系において、初期グリップ及びグリップ持続性に優れ、更に耐ブローアウト性を向上させる。
【解決手段】(A)ガラス転移温度(Tg)(示差走査熱量分析計(DSC)で測定)が−25℃より高いスチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)70重量部以上を含むジエン系ゴム100重量部、
(B)重量平均分子量が2,000〜10,000のスチレン−ブタジエン共重合体20〜150重量部並びに
(C)フタル酸エステル系可塑剤1〜30重量部
を含んでなり、前記スチレン−ブタジエン共重合体(B)の配合量に対するフタル酸エステル系可塑剤(C)の配合量の比率が以下の関係:
0.05<(C)の配合量/(B)の配合量<0.3
を満たすタイヤトレッド用ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤトレッド用ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは初期グリップ及びグリップ持続性に優れ、かつ耐ブローアウト性を改良したタイヤトレッド用ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
低分子量スチレン−ブタジエン共重合体を配合することによってドライグリップ性能を向上させる技術は知られている(例えば特許文献1参照)が、低分子量スチレン−ブタジエン共重合体を多量配合した場合には、グリップの発生(タイヤトレッドが充分に発熱しグリップが得られるまでの時間)が遅くなり、初期グリップが充分でないという問題があり、またこの初期グリップ(グリップ発生の遅さ)は用いるゴムのTgを低くすることによって改善は図れるが、タイヤトレッドが温まった後のグリップ性能、即ちグリップ持続性が劣るという問題がある。
【0003】
【特許文献1】特開2000−289407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、スチレン−ブタジエン共重合体を配合したゴム組成物において、グリップの発生を早め、かつグリップ持続性との両立を図り、更に耐ブローアウト性を改良することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に従えば、(A)ガラス転移温度(Tg)(示差走査熱量分析計(DSC)で測定)が−25℃より高いスチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)70重量部以上を含むジエン系ゴム100重量部、
(B)重量平均分子量が2,000〜10,000のスチレン−ブタジエン共重合体20〜150重量部並びに
(C)フタル酸エステル系可塑剤1〜30重量部
を含んでなり、前記スチレン−ブタジエン共重合体(B)の配合量に対するフタル酸エステル系可塑剤(C)の配合量の比率が以下の関係:
0.05<(C)の配合量/(B)の配合量<0.3
を満たすタイヤトレッド用ゴム組成物が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、スチレンブタジエン共重合体多量配合系ゴム組成物において、軟化剤としてフタル酸エステル系可塑剤を配合することによって、グリップ発生を早め、かつグリップ持続性を図ることができ、更に耐ブローアウト性を改良することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決すべく研究を進めた結果、スチレン−ブタジエン共重合体多量配合ゴム組成物において、フタル酸エステル系可塑剤を配合することによって、ゴム組成物のグリップ発生を早めることができ(初期グリップの向上)、かつグリップ持続性との両立を達成し、更に耐ブローアウト性を改良することに成功した。
【0008】
本発明によれば、Tgが−25℃より高い、好ましくは−25℃超〜−10℃のスチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)70重量部以上、好ましくは80〜100重量部を含むジエン系ゴム(A)100重量部に、分子量が2,000〜10,000、好ましくは4,000〜8,000のスチレン−ブタジエン共重合体(B)30〜150重量部、好ましくは50〜120並びに(C)フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニルなどのフタル酸エステル系可塑剤(C)1〜30重量部、好ましくは5〜25を配合する。なお、ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量分析計(DSC)により、窒素雰囲気中、昇温速度10℃/分の条件下で測定したものである。
【0009】
本発明のゴム組成物にスチレン−ブタジエン共重合体(B)のみを単純に配合するだけでは初期グリップが低くなり、また耐ブローアウト性が悪化するので好ましくないが、フタル酸エステル系可塑剤(C)を配合することによって、初期グリップ性能及び耐ブローアウト性能が改良され、またタイヤ発熱後のグリップとの両立が図れる。
【0010】
本発明に従えば、更に前記スチレン−ブタジエン共重合体成分(B)の配合量に対するフタル酸エステル系可塑剤(C)の配合量の比(重量比)が以下の関係:
0.05<(C)の配合量/(B)の配合量<0.3
好ましくは0.10<(C)の配合量/(B)の配合量<0.25を満たさなければならない。この配合量がスチレン−ブタジエン共重合体(B)に対し、成分(C)の配合量が少ないと改良効果が少なく、逆に多すぎると、ゴム組成物のTgが低くなりすぎて、グリップ性能が損なわれるので好ましくない。
【0011】
本発明において使用するTgが−25℃より高いSBRは公知のゴムであり、例えば日本ゼオン(株)より市販のNipol 9529、Nipol NS412などを用いることができる。この高TgSBRの配合量が少ないと高いグリップ性能が得られないので好ましくない。
【0012】
本発明において使用する他のジエン系ゴムには、特に制限はないが、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、前記SBR以外のTgが−25℃以下のSBRなどを用いることができる。
【0013】
本発明において使用するスチレン−ブタジエン共重合体は公知の共重合体で例えば市販のサートマー社製RICON100、RICON181、RICON184などを用いることができる。この配合量が少ないとグリップ性能向上の効果が少ないので好ましくなく、逆に多いと走行初期グリップ性能が低下してしまうので好ましくない。
【0014】
本発明において使用するフタル酸エステル系可塑剤は例えばフタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニルなどの可塑剤として公知の化合物であり、各種市販品を用いることができる。この配合量が少ないと走行初期グリップ性能と耐ブローアウト性の両立の改良効果が少ないので好ましくなく、逆に多いとグリップ持続性が悪化してしまうので好ましくない。
【0015】
本発明に従えば、前記フタル酸エステル系可塑剤(C)の配合量と合わせて、ジエン系ゴム100重量部に対し、15〜100重量部、好ましくは25〜90重量部の軟化剤(例えばアロマオイル、パラフィンオイルなど)及び/又は他の可塑剤(例えばアジピン酸エステル系可塑剤、セバシン酸エステル系可塑剤など)を配合することができる。かかる軟化剤や可塑剤は公知の物質で任意の市販品を用いることができる。
【0016】
本発明に係るゴム組成物には、前記した成分に加えて、カーボンブラックやシリカなどのその他の補強剤(フィラー)、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用、その他のゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0018】
実施例1〜4及び比較例1〜5
サンプルの調製
表Iに示す配合において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を16リットルの密閉型ミキサーで10分間混練し、150℃に達したときに放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄をオープンロールで混練し、ゴム組成物を得た。
【0019】
次に得られたゴム組成物を所定の金型中で150℃で30分間加硫して加硫ゴム試験片を調製し、以下に示す試験法で加硫ゴムの物性を測定した。結果は表Iに示す。
【0020】
ゴム物性評価試験法
耐ブローアウト性:フレクソメーター(上島製作所製FT−1260)を使用して、直径17.80mm、高さ25.00mmの円柱状試験片を温度100℃、静荷重680N、動荷重600N、周波数30Hzで試験を行い、試験片を切断し、その切断面に気泡が確認されるまでの時間を測定した。結果は比較例1の値を100として指数表示した。この値が大きい方が耐ブローアウト性に優れる。
【0021】
初期グリップ及びグリップ持続性:1周2kmのサーキットで10ラップ連続走行評価でのラップタイム(1〜3ラップのタイムの平均値)を走行初期グリップの指標として、8〜10ラップのタイムの平均値を連続走行後半のグリップ性能(グリップ持続性)の指標とした。結果は次の基準で評価した。
5…基準に対し、ラップタイムが0.5秒以上の差で速い。
4…基準に対し、ラップタイムが0.2秒以上0.5秒未満の差で速い。
3…比較例1の走行結果を基準又は基準±0.2秒未満を3と評価した。
2…基準に対し、ラップタイムが0.2秒以上0.5秒未満の差で遅い。
1…基準に対し、ラップタイムが0.5秒以上の差で遅い。
【0022】
【表1】

【0023】
表I脚注
(1):日本ゼオン(株)製SBR(油展量50重量部、Tg−20℃)
(2):日本ゼオン(株)製SBR(油展量50重量部、Tg−35℃)
(3):天然ゴムSTR−20
(4):日本ゼオン(株)製ポリブタジエンゴム(Nipol BR1220)
(5):東海カーボン(株)製カーボンブラック
(6):サートマー社製RICON100(重量平均分子量:4,500)
(7):ジャパンエナジー(株)製プロセスX140
(8):フェロ社製サンチサイザーS−160
(9):FLEXSYS製老化防止剤 SANTOFLEX 6PPD
(10):正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種
(11):日本油脂(株)製ビーズステアリン酸YR
(12):FLEXSYS製加硫促進剤 PERKACIT TBZTD
(13):大内新興化学工業(株)製加硫促進剤 ノクセラーCZ−G
(14):鶴見化学工業(株)製金華印油入微粉硫黄(硫黄:オイル(重量比)=100:5)
【0024】
表Iの結果から明らかなように、比較例1のアロマオイルの一部をスチレン−ブタジエン共重合体に置き換えた比較例2は初期グリップが低下し、耐ブローアウト性が悪化した。次に比較例2に対してイオウの配合量を増加させた比較例3は、耐ブローアウト性は確保でき、走行持続性グリップも改良されるが、初期グリップは比較例2より更に悪化した。一方、比較例4は、比較例2に比較してTgの低いSBRを用いた例で、初期グリップは高くなるが持続性グリップは低下する。
【0025】
実施例1は比較例2にフタル酸ブチルベンジルを10重量部(ゴム100重量部当りの重量部)加えたもので、耐ブローアウト性及びグリップ性能を両立させることができた。比較例5はフタル酸ブチルベンジルの配合量が多すぎる場合で持続性グリップが低下した。実施例2はスチレン−ブタジエン共重合体及びフタル酸ブチルベンジルを更に増加させたもので、耐ブローアウト性及びグリップ性能共に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、スチレン−ブタジエン共重合体多量配合系において、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸エステル系可塑剤を配合することによって、初期グリップとグリップ持続性との両立を達成し、更に耐ブローアウト性の向上も図れるので、空気入りタイヤのトレッド用などとして使用するのに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ガラス転移温度(Tg)(示差走査熱量分析計(DSC)で測定)が−25℃より高いスチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)70重量部以上を含むジエン系ゴム100重量部、
(B)重量平均分子量が2,000〜10,000のスチレン−ブタジエン共重合体20〜150重量部並びに
(C)フタル酸エステル系可塑剤1〜30重量部
を含んでなり、前記スチレン−ブタジエン共重合体(B)の配合量に対するフタル酸エステル系可塑剤(C)の配合量の比率が以下の関係:
0.05<(C)の配合量/(B)の配合量<0.3
を満たすタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
ジエン系ゴム100重量部に対し、更に軟化剤及び/又は前記フタル酸エステル系可塑剤以外の他の可塑剤を、前記フタル酸エステル系可塑剤の配合量と合わせて、15〜100重量部含む請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のゴム組成物をトレッド部に用いた空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2009−84495(P2009−84495A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257883(P2007−257883)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】