説明

タイヤトレッド用ゴム組成物

【課題】タイヤトレッド用ゴム組成物において、低燃費性を損なうことなく、グリップ性を向上してタイヤの操縦安定性を向上する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部に対して、エポキシ化合物で変性された変性多糖類を0.1〜10重量部配合したタイヤトレッド用ゴム組成物である。変性多糖類としては、アルキレンオキサイドで変性されたヒドロキシアルキル変性多糖類が好ましく、具体的には、ヒドロキシプロピル化グアガム、ヒドロキシエチル化セルロースなどが挙げられる。また、変性多糖類は置換度が0.1〜3.0であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤのトレッドに用いられるタイヤトレッド用ゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、環境あるいは安全への関心が高まるにつれ、タイヤにも低燃費性、湿潤路面におけるグリップ性能を含めた操縦安定性の向上などが強く要請されるようになった。
【0003】
一般に低燃費化を図るため、タイヤトレッド用ゴム組成物にはシリカを配合しており、同時にシランカップリング剤も配合しているが、最近益々高度化される要求に対し、シリカ及びシランカップリング剤のみで低燃費性と操縦安定性を両立させることは難しい。
【0004】
ところで、下記特許文献1には、ジエン系ゴム100重量部に対して、単糖類、二糖類以上の多糖類並びにこれらの誘導体から選ばれた少なくとも一種の糖類を0.1〜10重量部配合したタイヤトレッド用ゴム組成物が提案されている。そこにおいて上記糖類としては、単糖類としてD−グルコース、D−フルクトースなどが、多糖類としてマルトース、ラクトースなどが、その誘導体としてイノシール等の糖アルコールやデオキシ糖などが、それぞれ列挙されている。そして、このゴム組成物によれば、破壊特性、ウェットグリップ性及び発熱性や加工性を損なうことなく、耐摩耗性及び耐老化性が向上されると記載されている。
【特許文献1】特開平11−71481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の従来技術では、低燃費性を損なうことなく、タイヤ性能における操縦安定性を向上させることは難しい。実際、同文献に記載された実施例を見ても、糖類を添加することにより、ウェットグリップ性及び発熱性は全く改善されておらず、未添加の場合と同等の性能しか得られていない。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、低燃費性を損なうことなく、グリップ性を向上してタイヤの操縦安定性を向上することができるタイヤトレッド用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100重量部に対して、エポキシ化合物で変性された変性多糖類を0.1〜10重量部配合してなるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、このような特定の変性多糖類を添加することにより、低燃費性を損なうことなく、操縦安定性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0010】
本発明のゴム組成物において、ジエン系ゴムとしては特に限定されず、タイヤトレッド用ゴム組成物において通常使用される各種のジエン系ゴムを用いることができる。例えば、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴムなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上ブレンドして用いてもよい。
【0011】
本発明のゴム組成物に使用される変性多糖類は、エポキシ化合物で変性された多糖類であり、即ち、多糖類の持つ水酸基をエポキシ化合物により置換することで変性したものである。このような変性多糖類は、低級アルコールの増粘成分として従来使用されているが(特開2002−212298号公報参照)、これをタイヤトレッド用ゴム組成物に添加することにより、低燃費性を損なうことなく操縦安定性を向上できるという予期せぬ効果が見い出されたのである。このような優れた効果が奏される理由は必ずしも明確ではないが、エポキシ化合物で変性された変性多糖類を用いることにより、ジエン系ゴムとの相溶性を改良できるものと考えられる。これに対し、上記特許文献1に開示された技術では、使用した糖類とジエン系ゴムとの相溶性に問題があるため、操縦安定性の向上に至らないものと考えられる。
【0012】
該変性多糖類において、ベースとなる多糖類としては、特に限定されないが、例えば、グアガム(ガラクトマンナン)、キサンタンガム、サクシノグルカン、セルロース、デンプン、タラガム、ローカストビーンガム、アラビアガム、タマリンドガム、トラガントガムなどが挙げられ、これらをそれぞれ単独又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0013】
変性剤として使用する上記エポキシ化合物としては、特に限定されるものではないが、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドを使用することが好ましく、これらはそれぞれ単独又は2種以上組み合わせて使用してもよい。なお、変性多糖類は、エポキシ化合物で変性されたものであれば、エポキシ化合物と他の変性剤とを組み合わせて2種以上の変性剤で変性されたものでも構わない。
【0014】
本発明において、変性多糖類としては、アルキレンオキサイドによりヒドロキシアルキル化された多糖類、即ちヒドロキシアルキル変性多糖類が好適である。ヒドロキシアルキル変性多糖類の製造方法は、特に限定されないが、従来公知の方法である、苛性ソーダ、苛性カリウムなどのアルカリを触媒として、多糖類にアルキレンオキサイドを付加反応させる方法が使用可能であり、これにより、多糖類の水酸基にアルキレンオキサイドがエーテル結合によって付加され、得られた多糖類はヒドロキシアルキル基を有する。
【0015】
該変性多糖類の変性量は特に限定されないが、置換度が0.1〜3.0であることが好ましく、より好ましくは0.4〜1.2である。ここで、置換度とは、糖類の環構造1個当たりについてエポキシ化合物により置換された水酸基の数を意味する。置換度が0.1未満では、操縦安定性の向上効果が得られにくい。
【0016】
該変性多糖類は、ジエン系ゴム100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜8重量部配合される。変性多糖類の配合量が0.1重量部未満では、上記した本発明の効果を十分に発揮させることができず、10重量部を越えると、分散不良による塊ができ、本発明の効果を十分に発揮させることができない。
【0017】
本発明のゴム組成物には、カーボンブラック、シリカ、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、クレー、タルクなどの各種フィラーを配合することができる。該フィラーとしては、シリカを単独で使用、又はシリカとカーボンブラックを併用することが好ましい。その場合、シリカは、ジエン系ゴム100重量部に対して10〜120重量部配合されることが好ましく、より好ましくは30〜100重量部である。
【0018】
本発明のゴム組成物には、上記シリカとともにシランカップリング剤を配合することが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。シランカップリング剤の配合量は、シリカ100重量部に対して0.5〜20重量部であることが好ましく、より好ましくは5〜15重量部である。
【0019】
本発明のゴム組成物には、上記した成分の他に、軟化剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、加硫剤、加硫促進剤など、タイヤトレッド用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
【0020】
本発明のゴム組成物は、空気入りタイヤのトレッドのためのゴム組成物として用いられ、常法に従い加硫成形することにより、トレッドを形成することができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
(実施例1〜5及び比較例1〜3)
バンバリーミキサーを使用して、下記表1に示す配合に従い、ゴム組成物を調製した。表1の各成分の詳細は以下の通りである。
【0023】
・SSBR:ランクセス製の溶液重合スチレン−ブタジエン共重合体ゴム「VSL5025−0HM」
・BR:JSR製のブタジエンゴム「BR01」
・シリカ:東ソー・シリカ製「Nipsil AQ」
・シランカップリング剤:デグサ製「Si69」。
【0024】
・キサンタンガム:ローディア日華製の未変性キサンタンガム「ロードポール23」
・グアガム:ローディア日華製の未変性グアガム「ジャガーS」
・変性グアガム1:ローディア日華製のヒドロキシプロピル化グアガム(グアガムをプロピレンオキサイドで変性したもの。以下同じ)「ジャガーHP−8」(置換度=0.4)
・変性グアガム2:ローディア日華製のヒドロキシプロピル化グアガム「ジャガーHP−60」(置換度=0.6)
・変性グアガム3:ローディア日華製のヒドロキシプロピル化グアガム「ジャガーHP−120」(置換度=1.2)
・変性セルロース:アクゾ・ノーベル製のヒドロキシエチル化セルロース(セルロースをエチレンオキサイドで変性したもの。)「ベルモコール351」(置換度=0.85)。
【0025】
また、各ゴム組成物には、共通の添加剤として、ワックス(日本精鑞製「パラフィンワックス155」)1重量部、老化防止剤(大内新興化学製「ノクラック6C」)1重量部、亜鉛華(三井金属工業製「酸化亜鉛2種」)2重量部、ステアリン酸(花王製「ルナックS−25」)2重量部、加硫促進剤DPG(大内新興化学製「ノクセラーD」)2重量部、加硫促進剤CZ(大内新興化学製「ノクセラーCZ」)1.8重量部、硫黄(鶴見化学工業製「5%油入微粉末硫黄」)2重量部を配合した。
【0026】
得られた各ゴム組成物を用いて空気入りタイヤを作製して、低燃費性と操縦安定性を評価した。タイヤは、キャップ/ベース構造のトレッドを有する205/65R15 94Hの空気入りタイヤのキャップトレッドに各ゴム組成物を適用し、定法に従い加硫成形することにより製造した。使用リムは15×6.5JJとした。各評価方法は次の通りである。
【0027】
・低燃費性:一軸ドラム試験機で、速度80km/h、空気圧230kPa、荷重450kgにて、転がり抵抗を測定し、比較例1を100とした指数で表示した。数値が小さいほど低燃費性に優れることを示す。
【0028】
・操縦安定性:試作タイヤを装着したテスト車を実車フィーリング試験担当ドライバーが運転して乾燥路面及び湿潤路面を走行するときの直進性及びレーンチェンジ性をフィーリングで判定し、比較例1(コントロールタイヤ)より優れるものを「+2」、やや優れるものを「+1」、同等のものを「±0」、やや劣るものを「−1」、劣るものを「−2」の5点法にて評価した。
【表1】

【0029】
結果は表1に示す通りであり、比較例1(コントロールタイヤ)に対して、未変性の多糖類(キサンタンガム、グアガム)を添加した比較例2,3では、操縦安定性の改善効果は得られず、低燃費性も若干悪化していた。これに対し、ヒドロキシプロピル化グアガムを添加した実施例1〜4、およびヒドロキシエチル化セルロースを添加した実施例5では、低燃費性を実質的に損なうことなく、操縦安定性が向上していた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係るゴム組成物は、低燃費性を損なうことなく、操縦安定性を向上することができるため、空気入りタイヤのトレッドゴムに好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対して、エポキシ化合物で変性された変性多糖類を0.1〜10重量部配合してなるタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記変性多糖類が、アルキレンオキサイドで変性されたヒドロキシアルキル変性多糖類であることを特徴とする請求項1記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記変性多糖類の置換度が0.1〜3.0であることを特徴とする請求項1又は2記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。

【公開番号】特開2006−206837(P2006−206837A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24234(P2005−24234)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】