説明

タイヤトレッド用ゴム組成物

【課題】低転がり抵抗、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を従来レベルよりも更に向上するようにしたタイヤトレッド用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、末端変性溶液重合スチレンブタジエンゴム(変性S−SBR)及び天然ゴム(NR)からなる3種のゴムを80重量%以上含むジエン系ゴム100重量部に、充填剤を100〜140重量部配合したゴム組成物であり、前記充填剤がシリカを70重量%以上含み、前記ジエン系ゴムが前記天然ゴムを10〜25重量%含み、かつ前記3種のゴムの重量比(E−SBR:変性S−SBR:NR)が(1〜2):(2.5〜4):1であると共に、前記E−SBR及び変性S−SBRのスチレン含有量が35〜40重量%であり、かつ前記E−SBR及び変性S−SBRのガラス転移温度の差が10℃以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤトレッド用ゴム組成物に関し、更に詳しくは低転がり抵抗、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を向上するようにしたタイヤトレッド用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りタイヤには、燃費性能が高く、かつ湿潤路面での操縦安定性が優れることが求められている。このため、トレッド部を構成するタイヤトレッド用ゴム組成物には、シリカを多量に配合することにより、転がり抵抗を低くすると共に、ウェットグリップ性能を高くすることが行われている。しかし、シリカを配合したゴム組成物は、耐摩耗性が劣るという問題があった。
【0003】
特許文献1は、低転がり抵抗及びウェットグリップ性能を改良するため、天然ゴム、溶液重合スチレンブタジエンゴム、乳化重合スチレンブタジエンゴムからなるゴム成分にシリカを配合したタイヤ用ゴム組成物を提案している。このゴム組成物は、低転がり抵抗及びウェットグリップ性能を改良する効果が認められる。しかし、低転がり抵抗、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性の3機能に対する需要者の要求レベルは必ずしも十分に満足されず、より高いレベルで3つの機能を向上することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−97309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、低転がり抵抗、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を従来レベルよりも更に向上するようにしたタイヤトレッド用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、末端変性溶液重合スチレンブタジエンゴム(変性S−SBR)及び天然ゴム(NR)からなる3種のゴムを80重量%以上含むジエン系ゴム100重量部に、充填剤を100〜140重量部配合したゴム組成物であり、前記充填剤がシリカを70重量%以上含み、前記ジエン系ゴムが前記天然ゴムを10〜25重量%含み、かつ前記3種のゴムの重量比(E−SBR:変性S−SBR:NR)が(1〜2):(2.5〜4):1であると共に、前記E−SBR及び変性S−SBRのスチレン含有量が35〜40重量%であり、かつ前記E−SBR及び変性S−SBRのガラス転移温度の差が10℃以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、末端変性溶液重合スチレンブタジエンゴム(変性S−SBR)及び天然ゴム(NR)からなる3種のゴムを80重量%以上含むジエン系ゴム100重量部に、充填剤を100〜140重量部配合すると共に、充填剤中のシリカを70重量%以上、ジエン系ゴム中のNRの配合量を10〜25重量%にし、E−SBR:変性S−SBR:NRの重量比を(1〜2):(2.5〜4):1にすることにより、ジエン系ゴムとシリカとの親和性を高くしシリカの分散性を向上することにより耐摩耗性を高くすることができる。また、E−SBR及び変性S−SBRのスチレン含有量を35〜40重量%、かつE−SBRと変性S−SBRとのガラス転移温度の差を10℃以下にしたことにより、E−SBRと変性S−SBRとの相溶性を高くにすると共に、上記の重量比にしたので、低発熱性とゴム強度とをバランスさせるため、タイヤトレッド用ゴム組成物の低転がり抵抗、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を従来レベルよりも更に向上可能にした。
【0008】
前記末端変性溶液重合スチレンブタジエンゴムの官能基は、ヒドロキシル基、アルコキシル基、エポキシ基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
軟化点が100℃以上のテルペン系樹脂をジエン系ゴム100重量部に対し5〜25重量部配合することが好ましく、ウェットグリップ性能をより高くすることができる。
【0010】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤは、低転がり抵抗、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を従来レベルよりも向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤの実施形態の一例を示すタイヤ子午線方向の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、タイヤトレッド用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤの実施形態の一例を示し、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。
【0013】
図1において、左右のビード部3間にタイヤ径方向に延在する補強コードをタイヤ周方向に所定の間隔で配列してゴム層に埋設した2層のカーカス層4が延設され、その両端部がビード部3に埋設したビードコア5の周りにビードフィラー6を挟み込むようにしてタイヤ軸方向内側から外側に折り返されている。カーカス層4の内側にはインナーライナー層7が配置されている。トレッド部1のカーカス層4の外周側には、タイヤ周方向に傾斜して延在する補強コードをタイヤ軸方向に所定の間隔で配列してゴム層に埋設した2層のベルト層8が配設されている。この2層のベルト層8の補強コードは層間でタイヤ周方向に対する傾斜方向を逆向きにして交差している。ベルト層8の外周側には、ベルトカバー層9が配置されている。このベルトカバー層9の外周側に、トレッド部1がトレッドゴム層12により形成されている。トレッドゴム層12はタイヤトレッド用ゴム組成物により構成されている。各サイドウォール部2のカーカス層4の外側にはサイドゴム層13が配置され、各ビード部3のカーカス層4の折り返し部外側にはリムクッションゴム層14が設けられている。
【0014】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、そのジエン系ゴムは乳化重合スチレンブタジエンゴム(以下、「E−SBR」という。)、末端変性溶液重合スチレンブタジエンゴム(以下、「変性S−SBR」という。)及び天然ゴム(以下、「NR」という。)からなる3種のゴムを必ず含むようにする。
【0015】
本発明では、E−SBRを配合することにより耐摩耗性を高くすることができる。使用するE−SBRは、乳化重合で製造されたスチレンブタジエンゴムであれば特に制限されるものではない。E−SBRは、スチレン含有量が35〜40重量%、好ましくは36〜39重量%である。E−SBRのスチレン含有量をこのような範囲内にすることにより、ゴム強度を高くし耐摩耗性を確保すると共にウェットグリップ性能を高くすることができる。また、E−SBRは、ガラス転移温度(以下、「Tg」という。)が好ましくは−55〜−20℃、より好ましくは−50〜−25℃であるとよい。E−SBRのTgをこのような範囲内にすることにより、ゴム強度を高くし耐摩耗性を確保すると共に、ウェットグリップ性能を高くすることができる。なお、本発明において、スチレン含有量は、赤外分光分析(ハンプトン法)により測定し、Tgは、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、転移域の中点の温度とした。また、スチレンブタジエンゴムが油展品であるときは、油展成分(オイル)を含まない状態におけるスチレンブタジエンゴムのガラス転移温度とする。
【0016】
変性S−SBRは、分子鎖の片末端又は両末端に官能基を有するように溶液重合で製造した末端変性スチレンブタジエンゴムである。官能基としては、例えばヒドロキシル基、アルコキシル基、エポキシ基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基等を例示することができる。このような変性S−SBRは、通常の方法で溶液重合したものを使用すればよい。また、市販品を使用してもよい。
【0017】
変性S−SBRを配合することにより、シリカとの親和性を高くし分散性を改善するため、シリカの作用効果を一層向上すると共に、耐摩耗性を確保する。また、変性S−SBRは、スチレン含有量が35〜40重量%、好ましくは36〜39重量%である。変性S−SBRのスチレン含有量をこのような範囲内にすることにより、転がり抵抗を低くすると共に、ゴム強度を高くして耐摩耗性を確保することができる。また、変性S−SBRは、Tgが好ましくは−45〜−15℃、より好ましくは−40〜−20℃にするとよい。変性S−SBRのTgをこのような範囲内にすることにより、高いウェットグリップ性能を確保すると共に、低い転がり抵抗を実現することができる。
【0018】
本発明において、E−SBR及び変性S−SBRのTgの差は10℃以下にする。E−SBRのTgと変性S−SBRのTgとの差を10℃以下にすることにより、E−SBRと変性S−SBRとの親和性を高くするので、ゴム組成物のウェットグリップ性能及び耐摩耗性が向上する。
【0019】
また、E−SBR及び変性S−SBRのスチレン含有量の差は、好ましくは4重量%以下、より好ましくは3重量%以下にするとよい。E−SBRのスチレン含有量と変性S−SBRのスチレン含有量との差を4重量%以下にすることにより、E−SBRと変性S−SBRとの相溶性を高くするので、ゴム組成物の低転がり抵抗、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を同時に向上することができる。E−SBRと変性S−SBRのスチレン含有量の差が4重量%より大きいと、特に耐摩耗性が悪化することがある。
【0020】
本発明において、NRを配合することにより、ゴム組成物の耐摩耗性を確保しながらウェットグリップ性能を高くする。ジエン系ゴム100重量%中のNRの配合量は10〜25重量%、好ましくは15〜22重量%にする。NRの配合量が10重量%未満であると、ウェットグリップ性能を高くすることができない。また、NRの配合量が25重量%を超えると、ゴム組成物の低転がり抵抗及び耐摩耗性が悪化する。
【0021】
E−SBR、変性S−SBR及びNRの配合量は、これら3種のゴムの合計がジエン系ゴム100重量%中80重量%以上、好ましくは90〜100重量%になるようにする。3種のゴムの合計が80重量%未満であると、ゴム組成物の低転がり抵抗、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を従来レベルよりも更に向上することができない。
【0022】
また、NRの配合量を1にしたときの3種のゴムの配合量の重量比(E−SBR:変性S−SBR:NR)は、(1〜2):(2.5〜4):1、好ましくは(1.2〜1.8):(2.6〜3.5):1にする必要がある。E−SBRの配合量が、この範囲より少ないと耐摩耗性が悪化する。またE−SBRの配合量が、この範囲より多いとウェットグリップ性能を高くすることができない。変性S−SBRの配合量が、この範囲より少ないとウェットグリップ性能を高くすることができない。また変性S−SBRの配合量が、この範囲より多いと耐摩耗性が悪化する。
【0023】
本発明において、ジエン系ゴムは上述した3種類のゴム成分のみで構成してもよい。又は他のジエン系ゴムを20重量%以下、好ましくは10重量%以下含有してもよい。他のジエン系ゴムとしては、例えばイソプレンゴム、ブタジエンゴム、末端変性していないS−SBR、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム等を例示することができる。好ましくはイソプレンゴム、ブタジエンゴム、末端変性していないS−SBRがよい。このようなジエン系ゴムは、単独又は複数のブレンドとして使用することができる。
【0024】
本発明において、シリカ70重量%以上含む充填剤をジエン系ゴム100重量部に対し100〜140重量部、好ましくは110〜130重量部配合する。充填剤の配合量をこのような範囲にすることにより、ゴム組成物の低転がり抵抗及びウェットグリップ性能と、耐摩耗性と高いレベルでバランスさせることができる。
【0025】
また充填剤100重量%中のシリカの含有量は70重量%以上、好ましくは85〜100重量%にするとよい。充填剤中のシリカの含有量をこのような範囲にすることにより、ゴム組成物の低転がり抵抗とウェットグリップ性能とを共に向上する。また、上述した変性S−SBRの配合により、シリカとジエン系ゴムとの親和性を高くし分散性を改善するため、シリカの作用効果を向上すると共に、耐摩耗性を確保する。シリカとしては、通常タイヤトレッド用ゴム組成物に配合されるシリカ、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカあるいは表面処理シリカなどを使用することができる。
【0026】
またシリカと共にシランカップリング剤を配合することが好ましく、シリカの分散性を向上しジエン系ゴムとの補強性をより高くすることができる。シランカップリング剤は、シリカ配合量に対して好ましくは3〜15重量%、より好ましくは5〜10重量%配合するとよい。シランカップリング剤がシリカ重量の3重量%未満の場合、シリカの分散性を向上する効果が十分に得られない。また、シランカップリング剤が15重量%を超えると、シランカップリング剤同士が重合してしまい、所望の効果を得ることができなくなる。
【0027】
シランカップリング剤としては、特に制限されるものではないが、硫黄含有シランカップリング剤が好ましく、例えばビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。
【0028】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、シリカ以外の充填剤を配合することができる。シリカ以外の充填剤としては、例えばカーボンブラック、クレー、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム等が例示される。なかでもカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックを配合することによりゴム強度を高くし耐摩耗性を改良することができる。カーボンブラックの含有量は、充填剤100重量%中好ましくは0〜30重量%、より好ましくは5〜20重量%にするとよい。カーボンブラックの含有量が30重量%を超えると転がり抵抗が悪化するため好ましくない。
【0029】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、軟化点が100℃以上のテルペン系樹脂を配合することにより、ウェットグリップ性能を一層高くすることができる。テルペン系樹脂の軟化点は好ましくは100℃以上、より好ましくは100℃〜150℃、さらに好ましくは115〜135℃である。テルペン系樹脂の軟化点が100℃未満であると、ウェットグリップ性能を高くする効果が十分に得られない。また、テルペン系樹脂の軟化点が150℃を超えると走行初期においてグリップ性能が低くなることがあり好ましくない。なお、テルペン系樹脂の軟化点とは、環球法(JIS K6220−1に準拠)により測定した温度をいう。
【0030】
テルペン系樹脂の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し、好ましくは5〜25重量部、より好ましくは5〜20重量部にするとよい。テルペン系樹脂の配合量が5重量部未満であるとテルペン系樹脂の作用効果が十分に得られない。テルペン系樹脂の配合量が25重量部を超えると耐摩耗性が悪化する。
【0031】
テルペン系樹脂としては、例えばα−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、リモネン樹脂、水添リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、テルペンフェノール樹脂、テルペンスチレン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂等から軟化点が100℃以上の樹脂を適宜選択すればよい。なかでも芳香族変性テルペン樹脂が好ましい。
【0032】
タイヤトレッド用ゴム組成物には、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤などのタイヤトレッド用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。このようなゴム組成物は、公知のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0033】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、空気入りタイヤに好適に使用することができる。このタイヤトレッド用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤは、低転がり抵抗、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を同時に向上することができる。
【0034】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
表1〜3に示す配合からなる15種類のタイヤトレッド用ゴム組成物(実施例1〜3、比較例1〜12)を、硫黄、加硫促進剤を除く成分を1.8Lの密閉型ミキサーで5分間混練し放出したマスターバッチに、硫黄、加硫促進剤を加えてオープンロールで混練することにより調製した。なお、表1〜3中、3種のゴムの重量比(E−SBR:変性S−SBR:NR)を、油展オイルを除いたゴムの重量比として示すと共に、E−SBRと変性S−SBRとのガラス転移温度(Tg)の差を示した。なお、比較例1及び2では、変性S−SBRの代わりに未変性のS−SBRの値を用いて重量比を算出した。
【0036】
得られた15種類のタイヤトレッド用ゴム組成物を所定形状の金型中で、160℃、20分間プレス加硫して加硫ゴムサンプルを作製し、下記に示す方法で耐摩耗性、ウェットグリップ性能及び転がり抵抗を測定した。
【0037】
耐摩耗性
得られた加硫ゴムサンプルのランボーン摩耗を、JIS K6264−2に準拠して、岩本製作所社製ランボーン摩耗試験機を使用し、荷重15N、スリップ率50%の条件で測定した。
【0038】
得られた結果は、比較例1を100とする指数として、表1〜3に示した。この指数が大きいほど耐摩耗性が優れることを意味する。
【0039】
ウェットグリップ性能
得られた加硫ゴムサンプルのウェットグリップ性能を、ウェットグリップ性能の指標であることが知られているtanδ(0℃)により評価した。tanδ(0℃)は、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件下で、温度0℃の損失正接tanδ(0℃)を測定した。
【0040】
得られた結果は、比較例1を100とする指数として、表1〜3に示した。この指数が大きいほどtanδ(0℃)が大きくウェットグリップ性能が優れることを意味する。
【0041】
転がり抵抗
得られた加硫ゴムサンプルの転がり抵抗を、転がり抵抗の指標であることが知られているtanδ(60℃)により評価した。tanδ(60℃)は、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件下で、温度60℃の損失正接tanδ(60℃)を測定した。
【0042】
得られた結果はそれぞれの逆数を算出し、比較例1の逆数を100とする指数として、表1〜3に示した。この指数が大きいほどtanδ(60℃)が小さく低発熱で転がり抵抗が優れることを意味する。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
なお、表1〜3において使用した原材料の種類を下記に示す。
E−SBR1:乳化重合スチレンブタジエンゴム、スチレン含有量が37重量%、Tgが−37℃、日本ゼオン社製Nipol 9548、ゴム成分100重量部に対しオイル分37.5重量部を含む油展品
E−SBR2:乳化重合スチレンブタジエンゴム、スチレン含有量が48重量%、Tgが−24℃、日本ゼオン社製Nipol 1749、ゴム成分100重量部に対しオイル分50重量部を含む油展品
E−SBR3:乳化重合スチレンブタジエンゴム、スチレン含有量が35重量%、Tgが−41℃、Dow Chemicals社製ESBR 1732、ゴム成分100重量部に対しオイル分37.5重量部を含む油展品
変性S−SBR:ヒドロキシル基を有する溶液重合スチレンブタジエンゴム、スチレン含有量が37重量%、Tgが−27℃、旭化成ケミカルズ社製タフデン E581、ゴム成分100重量部に対しオイル分37.5重量部を含む油展品
S−SBR:未変性の溶液重合スチレンブタジエンゴム、スチレン含有量が39重量%、Tgが−23℃、日本ゼオン社製Nipol NS522、ゴム成分100重量部に対しオイル分37.5重量部を含む油展品
NR:天然ゴム、RSS#3
シリカ:ローディア社製Zeosil 1165MP
カーボンブラック:キャボットジャパン社製ショウブラックN339
テルペン系樹脂:芳香族変性テルペン樹脂、ヤスハラケミカル社製YSレジンTO125、軟化点125℃
酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸YR
老化防止剤:フレキシス社製サントフレックス6PPD
ワックス:大内新興化学工業社製サンノック
加工助剤:SCHILL & SEILACHER Gmbh. & CO.製STRUKTOL A50P
シランカップリング剤:硫黄含有シランカップリング剤、デグサ社製Si75
硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄
加硫促進剤:加硫促進剤CBS、大内新興化学工業社製ノクセラーCZ−G
【0047】
表1から明らかなように実施例1〜3のタイヤトレッド用ゴム組成物は、耐摩耗性、ウェットグリップ性能及び低転がり抵抗がすべて向上することが確認された。比較例2のゴム組成物は、S−SBRを増量することにより、比較例1と比べ転がり抵抗を改良するが耐摩耗性が不足する。
【0048】
表2から明らかなように、比較例3のゴム組成物は、E−SBRの重量比が少ないので、比較例1と比べ耐摩耗性が不足する。比較例4のゴム組成物は、E−SBRの重量比が多いので、ウェットグリップ性能が不足する。比較例5のゴム組成物は、変性S−SBRの重量比が少ないので、ウェットグリップ性能が不足する。比較例6のゴム組成物は、変性S−SBRの重量比が多いので、耐摩耗性が不足する。また、比較例7のゴム組成物は、NRの重量比が多いので、耐摩耗性が不足し転がり抵抗が悪化する。比較例8のゴム組成物は、NRの重量比が少ないので、ウェットグリップ性能が不足する。
【0049】
表3から明らかなように、比較例9のゴム組成物は、E−SBR2のスチレン含有量が40重量%を超えるので、比較例1と比べ耐摩耗性を高くすることができない。比較例10のゴム組成物は、E−SBR3及び変性S−SBRのTgの差が10℃より大きいので耐摩耗性を高くすることができずウェットグリップ性能が不足する。また、比較例11のゴム組成物は、シリカ及びカーボンブラックからなる充填剤の合計が100重量部より少ないので、耐摩耗性及びウェットグリップ性能が不足する。比較例12のゴム組成物は、充填剤中のシリカの含有率が70重量%より少ないので、ウェットグリップ性能を高くすることができず転がり抵抗が不足する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、末端変性溶液重合スチレンブタジエンゴム(変性S−SBR)及び天然ゴム(NR)からなる3種のゴムを80重量%以上含むジエン系ゴム100重量部に、充填剤を100〜140重量部配合したゴム組成物であり、前記充填剤がシリカを70重量%以上含み、前記ジエン系ゴムが前記天然ゴムを10〜25重量%含み、かつ前記3種のゴムの重量比(E−SBR:変性S−SBR:NR)が(1〜2):(2.5〜4):1であると共に、前記E−SBR及び変性S−SBRのスチレン含有量が35〜40重量%であり、かつ前記E−SBR及び変性S−SBRのガラス転移温度の差が10℃以下であることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記末端変性溶液重合スチレンブタジエンゴムの官能基が、ヒドロキシル基、アルコキシル基、エポキシ基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ジエン系ゴム100重量部に対し、軟化点が100℃以上のテルペン系樹脂を5〜25重量部配合したことを特徴とする請求項1又は2に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1,2又は3に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤ。


【図1】
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【公開番号】特開2011−246561(P2011−246561A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120006(P2010−120006)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】