説明

タイヤ・リム組立体

【課題】吸音部材、ひいては、タイヤ・リム組立体の軽量化と併せて、吸音効果の一層の増加をもたらすタイヤ・リム組立体を提供する。
【解決手段】空気入りタイヤと、それを気密に組付けた適用リムとで区画されるタイヤ気室内に不織布からなる吸音部材を配設してなるタイヤ・リム組立体であって、不織布を形成する繊維フィラメント5の横断面内での輪郭形状を、その外接円に対し、少なくとも1つ以上の欠損部rを有する異型断面形状とするとともに前記外接円直径(D)に対する欠損部の最大深さ(d)を(1/10)D<dの範囲としてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車室内騒音の低減をもたらすタイヤ・リム組立体に関するものであり、タイヤ・リム組立体の軽量化を図るとともに、タイヤ気室内の空洞共鳴騒音の一層の低減を可能とする技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
車室内騒音の発生原因の一つとしては、空気入りタイヤと、それを気密に組付けた適用リムとで区画されるタイヤ気室内への充填空気が、タイヤの負荷転動に伴う、トレッド接地面の路面凹凸への衝接によって振動されて空洞共鳴を生じる点が挙げられる。
【0003】
そこで、このような空洞共鳴騒音を吸収して車室内騒音の低減を図るべく、特許文献1および2のそれぞれには、空気入りタイヤの内面に不織布もしくはスポンジ材からなる吸音部材を配設して、充填空気の振動エネルギを、吸音部材の内部で熱エネルギに変換することによって、空洞共鳴騒音を低減させる技術が提案されている。
【特許文献1】特許第3384633号公報
【特許文献2】特許第3622957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、とくに、不織布からなる吸音部材を配設してなる、上記提案技術のタイヤ・リム組立体に一層の改良を加えたものであり、吸音部材、ひいては、タイヤ・リム組立体の軽量化と併せて、吸音効果の一層の向上をもたらすタイヤ・リム組立体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係るタイヤ・リム組立体は、空気入りタイヤと、それを気密に組付けた適用リムとで区画されるタイヤ気室内に、不織布にて構成した吸音部材を配設してなるものであり、不織布を形成する繊維フィラメントの横断面内、すなわち、フィラメントの中心軸線と直行する断面内での輪郭形状を、その外接円に対し、少なくとも1つ以上の欠損部を有する異型断面形状とするとともに前記外接円(直径D)に対する欠損部の最大深さ(d)を(1/10)D<dの範囲としてなるものである。
【0006】
ここで、「適用リム」とは、タイヤのサイズに応じて下記の規格に規定されたリムをいい、規格とは、タイヤが生産または使用される地域に有効な産業規格によって決められたものであって、たとえば、アメリカ合衆国では“THE TIRE AND RIM ASSOCIATION INC. の YEAR BOOK”であり、欧州では、“THE European Tyre and Rim Technical Organisation の STANDARDS MANUAL”であり、日本では日本自動車タイヤ協会の“JATMA YEAR BOOK”である。
【0007】
また欠損部とは、繊維フィラメントの横断面輪郭線において、隣接個所に対して現実に凹む形態を有する場合のみならず、各種の多角形形状のように、外接円に対する凹み部分を有する場合を広く一般に含むものとする。
【0008】
ここで好ましくは、吸音部材を、空気入りタイヤのトレッド部の内面の少なくとも一部、および/または適用リムの表面の少なくとも一部に固着させて配置する。
なお前者の場合は、吸音部材を、タイヤ赤道面を中心として、トレッド接地幅の30〜100%に相当する範囲内に配設することが好適である。
【0009】
ところで、吸音部材は、空気入りタイヤの、サイドウォール部の内面および/またはビード部の内面に固着させることも可能である。
【0010】
ここにおいて、「トレッド接地幅」とは、空気入りタイヤを前記適用リムに装着して、規定の空気圧を充填するとともに、そのタイヤを平板上に垂直姿勢で静止配置して、規定の質量に対応する負荷を加えたときの、平板との接触面におけるタイヤ軸方向最大直線距離をいい、「規定の空気圧」とは、前記の規格において、最大負荷能力に対応させて規定される空気圧をいい、そして、最大負荷能力とは、前記の規格で、タイヤに負荷することが許容される最大の質量をいう。
また、「規定の質量」とは、上記の最大負荷能力をいう。
なお、ここでいう空気は、窒素ガス等の不活性ガスその他に置換することも可能である。
【0011】
ところで、以上に述べたいずれの場合にあっても、吸音部材の厚さは0.5〜50mmの範囲とすることが好ましい。
【0012】
なお、不織布を形成する繊維フィラメントとしては、有機もしくは無機繊維フィラメント、植物もしくは動物繊維フィラメント等を用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係るタイヤ・リム組立体では、とくに、吸音部材を構成する不織布の繊維フィラメントにつき、横断面内での輪郭形状を、その外接円に対し、少なくとも1つ以上の欠損部を有する異形断面形状とすることにより、その吸音部材を配設したタイヤ・リム組立体で、タイヤ気室内の空気が空洞共鳴を生じる場合に、繊維フィラメントの表面での音波の反射を複雑化させて、不織布、ひいては、吸音部材の表面での音波の反射率を低減させ、また、吸音部材内に進入した音波エネルギの減衰効率を高めることができ、結果として、空洞共鳴騒音を、前記提案技術に比してより効果的に低減させることができる。
【0014】
またここでは、繊維フィラメントの横断面輪郭形状を異形形状とすることにより、その輪郭形状を外接円直径と等しくする場合に比し、直接的には吸音部材の、ひいては、タイヤ・リム組立体の重量を有利に低減させることができる。
【0015】
加えて、このタイヤ・リム組立体では、繊維フィラメントの横断面内での、外接円(直径D)に対する欠損部の最大深さ(d)を、
(1/10)D<d
の範囲とすることで、騒音低減機能を一層高めることができる。
【0016】
いいかえれば、欠損部の最大深さ(d)が(1/10)D以下では、繊維フィラメントの表面での音波の反射を、所期するほどには複雑化させることができず、音波の振動エネルギーを繊維フィラメントによってより効果的に減衰して、空洞共鳴音を効果的に低減させることができない。
【0017】
この一方で、欠損部の最大深さ(d)が(2/5)D以上のフィラメント断面輪郭形状の下では、不織布を形成するフィラメントの強度が低くなりすぎて、不織布の製造時あるいは、タイヤの製造時におけるフィラメントの破断のおそれが高くなるため、それらの製造が困難になる。しかも、タイヤ・リム組立体にあって、不織布として形状を維持して、常に十分な吸音機能を発揮させることが難しくなる。
従って、凹部の深さ(d)は、
(1/10)D<d<(2/5)D
の範囲とすることがより好適である。
【0018】
またここで、吸音部材を、空気入りタイヤのトレッド部の内面に配設したときは、空気入りタイヤの、適用リムへの組付け、および、そこからの取外しに際する、吸音部材への損傷等の発生のおそれを有効に取り除いて、吸音部材に、それ本来の機能を長期間にわたって発揮させることができる。そしてこの場合は、トレッド接地幅の30〜100%に相当する範囲内に吸音部材を配設することが好ましく、これによれば、吸音部材に、タイヤの耐久性を損ねることなしに、所期した通りの吸音機能を発揮させることができる。
【0019】
また、吸音部材は、トレッド部の内面に配設することに加えて/または代えて、適用リムの表面に配設することもでき、このことによれば、タイヤの転動に当って、吸音部材に作用する慣性モーメントを小さくすることができ、吸音部材が、タイヤ・リム組立体のユニフォミティに及ぼす影響を小さく押えることができる。
【0020】
そして、上述したいずれの場合にあっても、吸音部材の厚さを0.5〜50mmの範囲としたときは、その吸音部材に、所期した通りのすぐれた吸音機能を、それ自身の割れ、ちぎれ、剥離等の発生なしに十分に発揮させることができる。
【0021】
いいかえれば、その厚みが0.5mm未満では、吸音性能が不足ぎみとなり、厚みが50mmを越えると、質量の増加に起因して、高速回転時の遠心力による変形が大きくなって、剥離等の発生のおそれが高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1はこの発明に係るタイヤ・リム組立体の実施形態を、それの転動姿勢で示すタイヤ幅方向の部分略線断面図であり、図中1は空気入りタイヤの全体を、2は、そのタイヤ1を組付けた適用リムをそれぞれ示す。
【0023】
空気入りタイヤ1は、トレッド部3、このトレッド部3のそれぞれの側部に連続する一対のサイドウォール部4および、各サイドウォール部4の内周側に連続するビード部5を具えてなり、これらの各部は、両ビード部間にトロイダルに延びてタイヤの骨格をなす、たとえばラジアル構造のカーカス6によって補強され、そしてトレッド部3は、カーカス6のクラウン域の外周側に配置したベルト7によってさらに補強される。
なお、図中Wは、トレッド接地幅を示すものとし、Eは、タイヤ赤道面を示すものとする。
【0024】
そして、ここにおけるタイヤ1はさらに、インナーライナ8の内面に、不織布からなる吸音部材9を、そこに溶融含浸させた含浸層その他の接着層10を介して、タイヤ赤道面Eを中心として、たとえば、インナーライナ8の一部もしくは全周にわたって、または周方向に間隔をおいて固着させてなる。
【0025】
ここで、不織布からなる吸音部材9は、図2に要部を拡大断面図で例示するように、タイヤ赤道面Eを中心として、トレッド接地幅Wの30〜100%に相当する範囲内の幅を有するものとすることが好ましく、また、それの厚さtは、0.5〜50mmの範囲とすることが好ましい。
【0026】
ところでここでは、このような吸音部材9を構成する不織布の繊維フィラメント、たとえば、有機もしくは無機繊維フィラメント、植物もしくは動物繊維フィラメント等は、それの横断面内での輪郭形状が、第3図に例示するように、その輪郭線の周りの一個所以上の個所に、外接円cに対して凹む欠損部rを有する、図3(a),(b),(c),(d)に示すような多角形異形形状をなす、または、図3(e),(f)に示すように、横断面輪郭線において、隣接個所に対して現実に凹む欠損部rを有する異形形状をなすものとしてなる。
【0027】
加えてここでは、このような異形形状フィラメントfにおいて、フィラメントfの横断面内での、外接円cの直径Dに対する欠損部rの最大深さdを
(1/10)D<d
の範囲、より好ましくは、
(1/10)D<d<(2/5)D
の範囲とする。
【0028】
なお、異形形状フィラメントfの横断面内輪郭形状は、上述したものの他、図4(a)〜(g)に例示するような形状とすることもでき、一般的に輪郭形状の欠損部rの数が多いほど、また深さdが深いほど空洞共鳴騒音の低減効果が大きくなる。
【0029】
以上、空気入りタイヤトレッド部内面のインナーライナ8の内面に吸音部材9を固着させて配置する場合について説明したが、吸音部材9は、上述したところに加えて/または代えて、適用リム2の表面に、図1に仮想線で示すように固着させて配置することもでき、この適用リム2への固着によれば、先にも述べたように、吸音部材に作用するタイヤ回転軸に対する慣性モーメントを小さくして、その吸音部材が、タイヤ・リム組立体のユニフォミティに及ぼす影響を十分小さく抑えることができる。
また、吸音部材9は、図に破線で示すように、サイドウォール部4やビード部5の内面に固着させることも可能である。
【0030】
ところで、吸音部材9を適用リム2の表面に固着させるときは、その適用リム2に対する空気入りタイヤ1の着脱操作に当って、吸音部材9が損傷を受けない部位にそれを固着させることが、吸音部材9にそれ本来の機能を十分に発揮させる上で必要となる。
【実施例1】
【0031】
サイズが215/45 R17の空気入りタイヤのインナーライナに、表1に示す諸元を有する吸音部材を固着させてなる実施例タイヤを、7.5JJのリムに組付け、空気圧を210kPa、荷重3、92kN、速度60km/hの条件下で、一般路面を模した表面を有するドラム上で転動させて、車軸の上下方向の力を測定し周波数分析した。
【0032】
230Hz付近に現われるピーク値が空洞共鳴によるピーク値であることから、空洞共鳴騒音の高低を、そのピーク値のエネルギーレベル(dB)で測定し、不織布を配さない一般タイヤに対する比較例タイヤ1(フィラメント断面円形状)との差異を230Hzピーク低減指数の基準値100として比較を行った。
その結果を、比較例タイヤの諸元等とともに表1に示す。
なお表中の指数値は大きいほどすぐれた結果を示すものとした。
【0033】
【表1】

【0034】
表1によれば、欠損部最大深さ(d)が(0.12〜0.30)Dの範囲内の実施例タイヤはいずれも、コントロールタイヤとしての比較例タイヤ1に比し、すぐれた騒音低減効果を実現できることが解かる。
【実施例2】
【0035】
繊維フィラメントの横断面輪郭形状を図4(e)に示すものとした実施例タイヤおよび比較例タイヤのそれぞれにつき、実施例1の場合と同様にして空洞共鳴音のピーク値のエネルギーレベルで比較したところ、表2に諸元とともに示す結果を得た。
なお、この表2のコントロールタイヤもまた、表1に示す比較例タイヤ1とした。
【0036】
【表2】

【0037】
表2によれば、欠損部最大深さ(d)が(0.12〜0.32)Dの範囲内の実施例タイヤはともに、高い騒音低減機能を発揮し得ることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の実施形態を、それの転動姿勢で示すタイヤ幅方向の部分略線断面図である。
【図2】図1の要部拡大断面図である。
【図3】不織布繊維フィラメントの横断面輪郭形状を例示する図である。
【図4】繊維フィラメントの、他の輪郭形状を例示する図である。
【符号の説明】
【0039】
1 空気入りタイヤ
2 リム
3 トレッド部
7 ベルト
8 インナーライナ
9 吸音部材
10 接着層
W トレッド接地幅
t 厚さ
c 外接円
r 欠損部
D 外接円直径
d 最大深さ
f 繊維フィラメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤと、それを気密に組付けた適用リムとで区画されるタイヤ気室内に不織布により構成した吸音部材を配設してなるタイヤ・リム組立体であって、
不織布を形成する繊維フィラメントの横断面内での輪郭形状を、その外接円に対し、少なくとも1つ以上の欠損部を有する異型断面形状とするとともに前記外接円(直径D)に対する欠損部の最大深さ(d)を(1/10)D<dの範囲としてなるタイヤ・リム組立体。
【請求項2】
吸音部材を、空気入りタイヤのトレッド部の内面の少なくとも一部に配設してなる請求項1に記載のタイヤ・リム組立体。
【請求項3】
吸音部材を適用リムの表面の少なくとも一部に配設してなる請求項1もしくは2に記載のタイヤ・リム組立体。
【請求項4】
吸音部材の厚さを0.5〜50mmの範囲としてなる請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ・リム組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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