説明

タイヤ変形量の推定方法とその装置

【課題】 バルクハウゼンノイズの応力による変化の検出精度を向上させて、タイヤの変形量を正確に推定する方法を提供する。
【解決手段】 タイヤ50のショルダー部51の内部側に貼着され強磁性体から成るセンサ11に電磁波を放射し、上記センサ11からのバルクハウゼンノイズが重畳した電磁波の信号を検出し、この信号から抽出されたバルクハウゼンノイズのデータからタイヤ変形量を測定する際に、上記抽出されたバルクハウゼンノイズを周波数分析してその周波数スペクトルを求めるとともに、上記センサ11に応力が作用した場合と作用しない場合のそれぞれについて、上記周波数スペクトルの高調波出力を算出し、この高調波出力の大きさを比較することにより、当該タイヤ50のショルダー部51の変形量を推定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの変形量を推定する方法とその装置に関するもので、特に、タイヤに取付けた強磁性体のバルクハウゼンノイズからタイヤの変形量を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行中のタイヤに作用する応力を測定する方法として、図8(a)に示すように、タイヤ50のショルダー部51内面の周上に複数の短冊状の強磁性型記憶合金71を貼着するとともに、図8(b)に示すように、上記強磁性型記憶合金71に電磁波を照射して上記強磁性型記憶合金71からのバルクハウゼンノイズの大きさを検出して、作用する応力により変化する上記強磁性型記憶合金71のマルテンサイト相の割合を求め、このサイト相の割合から上記応力を推定する方法が提案されている。具体的には、図9の機能ブロック図にも示すように、車体側に設けられた発振装置72から放射アンテナ73を介して、上記強磁性型記憶合金71に電磁波を照射し、検出アンテナ74にて検出される上記強磁性型記憶合金71からの電磁波の信号をノイズ検出器75で検出し、この検出された信号をタイヤ応力推定装置76のアンプ76aで増幅した後、フィルタ76bにより、上記検出された信号からバルクハウゼンノイズを抽出する。そして、ピーク値算出手段76cにより、上記抽出されたバルクハウゼンノイズのピーク値の大きさを算出し、タイヤ応力推定手段76dにて、上記ショルダー部51に作用する周方向剪断応力を推定する(例えば、特許文献1参照)。
上記バルクハウゼンノイズは、強磁性材料の磁化進展に伴う磁壁移動に起因する電磁ノイズで、強磁性材料に所定の周波数の電磁波を照射すると、図10(a)に示すような、上記電磁波の磁界の反転位置からやや遅れた位置に鋭いピークを持つバルクハウゼンノイズが出現する。このバルクハウゼンノイズは、析出物や結晶粒界などにひっかかっていた磁壁が移動を開始するときに、それまで貯えられていたエネルギーが放出されたもので、その大きさは、上記強磁性型記憶合金71のマルテンサイト相の割合に依存する。したがって、上記信号をフィルタリングして、図10(b)に示すような、バルクハウゼンノイズを抽出してその大きさを求めるとにより、上記マルテンサイト相の割合を求めることができるので、タイヤに作用する応力を推定することができる。
【0003】
また、バルクハウゼンノイズを利用して応力を推定する方法としては、地中に埋設された鋼管の軸方向と周方向とに励磁ヘッドから100Hzの交流磁界を印加し、検出用の磁気ヘッドに誘起される上記バルクハウゼンノイズの周波数帯域である10kHz〜100kHzの電圧信号を読み取り、軸方向の実効電圧VLと周方向の実効電圧VCとの差から、上記鋼管の圧縮残留応力の大きさを診断する方法(例えば、特許文献2参照)や、強磁性材料から成る測定対象物へ、励磁コイルの先端に取付けた柔軟磁性複合材料を接触させながら、検出コイルにて上記測定対象物からのバルクハウゼンノイズを検出して上記測定対象物の圧縮残留応力の大きさを測定する方法(例えば、特許文献3参照)、更には、炭素鋼などの強磁性体から成る被検体にくり返し荷重を付加しながら、上記被検体の表面近傍に配置された電磁誘導式の磁気センサにより上記被検体のメカニカルバルクハウゼンノイズを検出して、上記被検体の耐久性を判定する方法などが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2005−106628号公報
【特許文献2】特開2001−124638号公報
【特許文献3】特開2002−350404号公報
【特許文献4】特開2002−39932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の方法では、いずれの場合にも、検出信号をフィルタリングして得られたバルクハウゼンノイズのピーク値の大きさや実効電圧値を用いて強磁性体に作用する応力を推定するようにしているが、上記バルクハウゼンノイズのピーク値は応力による変化が小さいだけでなく、上記ピークは地磁気や電気系のノイズの影響を受け易いため、応力の推定精度が低いといった問題点があった。
【0005】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、バルクハウゼンノイズの応力による変化の検出精度を向上させて、タイヤの変形量を正確に推定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、応力によるバルクハウゼンノイズの変化はピーク値の大きさだけではなくその形状についても変化することから、上記ノイズをフーリエ展開した場合には、その高次出力成分には応力による差が反映されることに注目し、上記ノイズを周波数分析して、応力が作用した場合の上記ノイズの高次出力成分と応力が作用していない場合の高次出力成分とを比較することにより、バルクハウゼンノイズの応力による変化を精度よく検出することができることを見出し本発明に想到したものである。
すなわち、本願の請求項1に記載の発明は、タイヤに強磁性体から成る感磁手段(センサ)を取付けて、上記感磁手段に交流磁界を印加するとともに、上記磁界の変化を検出して上記強磁性体からのバルクハウゼンノイズを検出し、このバルクハウゼンノイズのデータから当該タイヤの変形量を推定する方法であって、上記バルクハウゼンノイズを周波数分析して、上記感磁手段に応力が作用した時のバルクハウゼンノイズの高次成分と応力が作用していない時の高次成分とを比較して、上記感磁手段に作用する応力に対応する、当該タイヤの変形量を推定するようにしたことを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のタイヤ変形量の推定方法において、上記応力が作用した時の高次成分の大きさと応力が作用していない時の高次成分の大きさとの差から当該タイヤの変形量を推定するようにしたことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のタイヤ変形量の推定方法において、上記高次成分を複数個とするとともに、上記各高次成分における大きさの差の平均値から当該タイヤの変形量を推定するようにしたことを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のタイヤ変形量の推定方法において、上記高次成分をバルクハウゼンノイズの基本波の11次以上でかつ奇数次の高次成分としたことを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれかに記載のタイヤ変形量の推定方法において、上記センサが路面側に位置したときの出力を上記応力が作用した時のバルクハウゼンノイズとし、上記感磁手段が路面側とは反対側に位置したときの出力を応力が作用していない時のバルクハウゼンノイズとしたことを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれかに記載のタイヤ変形量の推定方法において、上記センサをタイヤのショルダー部に取付けたものである。
【0008】
また、請求項7に記載の発明は、タイヤに取付けられた強磁性体から成る感磁手段(センサ)と、上記センサに交流磁界を印加する手段と、上記磁界の変化を検出して上記強磁性体からのバルクハウゼンノイズを検出する手段とを備え、上記検出されたバルクハウゼンノイズのデータから当該タイヤの変形量を推定する装置であって、上記検出されたバルクハウゼンノイズを周波数分析してその周波数スペクトルを求める手段と、上記周波数スペクトルの高次成分の大きさを算出する手段と、上記高次成分のタイヤに応力が作用していない時と応力が作用した時の大きさを比較して上記タイヤに作用する当該タイヤの変形量を推定するタイヤ変形量推定手段とを備えたことを特徴とするものである。
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載のタイヤ変形量の推定装置であって、上記タイヤ変形量推定手段は、複数の高次成分について、応力が作用した時の高次成分の大きさと応力が作用していない時の高次成分の大きさとの差を求めるピーク差演算手段と、上記各高次成分における大きさの差の平均値を演算するピーク差平均値算出手段と、予め求めておいたピーク差平均値とタイヤの変形量との関係を示すマップを記憶する記憶手段と、上記演算されたピーク差平均値と上記マップとから上記タイヤの変形量を推定する手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0009】
請求項9に記載の発明は、請求項7または請求項8に記載のタイヤ変形量の推定装置において、上記感磁手段(センサ)に交流磁界を印加するためのアンテナと、上記磁界の変化を検出するアンテナとをホイールディスクの外側に設けたものである。
請求項10に記載の発明は、請求項7または請求項8に記載のタイヤ変形量の推定装置において、上記センサに交流磁界を印加するためのアンテナと、上記磁界の変化を検出するアンテナとをタイヤハウスの内カバーに設置したものである。
請求項11に記載の発明は、請求項9または請求項10に記載のタイヤ変形量の推定装置において、上記アンテナを、タイヤ周方向に沿って複数個設けたものである。
請求項12に記載の発明は、請求項7または請求項8に記載のタイヤ変形量の推定装置において、上記センサに交流磁界を印加するためのアンテナと、上記磁界の変化を検出するアンテナとをホイールリム部のタイヤ気室側に設けたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タイヤに強磁性体から成るセンサを取付けて、上記センサに交流磁界を印加するとともに、上記磁界の変化を検出して上記強磁性体からのバルクハウゼンノイズを検出し、このバルクハウゼンノイズのデータから当該タイヤの変形量を推定する際に、上記バルクハウゼンノイズを周波数分析して、上記センサに応力が作用した時のバルクハウゼンノイズの高次成分の大きさと応力が作用していない時の高次成分の大きさとの差をとるなど、応力の有無による高次成分の大きさを比較して当該タイヤの変形量を推定するようにしたので、タイヤの変形量を正確に推定することができる。
このとき、上記高次成分をバルクハウゼンノイズの基本波の11次以上でかつ奇数次の高次成分とするとともに、上記高調波を複数個とり、その差の平均値から応力の大きさを推定するようにすれば、タイヤの変形量を更に正確に推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の最良の形態について、図面に基づき説明する。
図1は、本最良の形態に係るタイヤ変形量推定装置10の概要を示す図で、同図において、11はタイヤ50のショルダー部51の周上に貼着された強磁性体から成る感磁手段(以下、センサという)、12は上記センサ11に交流磁界を印加するための発振装置で、上記交流磁界は上記発振装置12の放射アンテナ13から放射される。また、14は上記センサ11のバルクハウゼン効果により発生したバルクハウゼンノイズを含む電磁波を受信する検出アンテナ15を備えたノイズ検出器、16は上記ノイズ検出器14で検出したバルクハウゼンノイズを含む交流信号を増幅するアンプ17と、上記増幅された信号から、上記交流磁界の周波数成分を取り除いてバルクハウゼンノイズを抽出するためのハイパスフィルタ18と、上記抽出されたバルクハウゼンノイズのデータから当該タイヤの変形量を推定するタイヤ変形量推定手段19とを備えたタイヤ変形量推定装置、20は上記タイヤ50の回転速度を検出するための車輪速センサである。なお、この車輪速センサとしては、例えば、磁気抵抗素子を用いトランスミッションの回転を検出するタイプのものなど、周知の車輪速センサが使用される。
上記タイヤ変形量推定手段19は、詳細には、上記抽出されたバルクハウゼンノイズを周波数分析してその周波数スペクトルを求める周波数分析手段19aと、上記周波数スペクトルの複数の高次成分(ここでは、基本波の11次高調波〜19次高調波までのうちの奇数次の高次成分)の出力を算出する高次波出力算出手段19bと、上記高次波出力算出手段19bから出力される、タイヤ50に応力が作用している時の高次成分の出力と、応力が作用していない時の高次成分の出力の差であるピーク差を、各高次波出力ごとにそれぞれ算出するピーク差演算手段19cと、上記各高次波出力のピーク差の平均値を算出するピーク差平均値算出手段19dと、上記算出されたピーク差の平均値と、予め記憶手段19eに記憶しておいたピーク差の平均値とタイヤ変形量との関係を示すマップ19mとから、当該タイヤ50のショルダー部51の変形量を算出するタイヤ変形量推定手段19fとを備えたもので、本例では、バルクハウゼンノイズのピーク値が最大になる信号を、センサ11が路面側に位置している時、すなわち、タイヤ50に最大応力が作用している時の信号とし、その位置から所定長離れた位置あるいは時間遅れた時間を、車速センサ20により算出し、センサ11が上記位置にあるとき、あるいは上記位置にきた時間において検出した信号を、センサ11が路面とは反対側(車体側)に位置したときに検出した、タイヤ50に応力が作用していない時の信号としている。
【0012】
次に、本発明によるタイヤの変形量の推定方法について説明する。
発振装置12から放射アンテナ13を介してタイヤ50に所定の周波数(例えば、100Hz)の電磁波を放射すると、強磁性体である上記センサ11は交番的に磁化されるので、ノイズ検出器14には、図10(a)に示すような、検出アンテナ15で受信した上記電磁波にバルクハウゼンノイズが重畳した電磁波が入力される。図2(a)は上記検出電磁波の拡大図で、例えば、上記センサ11が車体側に位置したとき、すなわち、タイヤ50のセンサ11が貼着されたタイヤサイド部の変形が小さく、上記センサ11に作用する応力が小さいときには、同図の実線で示すように、上記電磁波に重畳されたバルクハウゼンノイズのピークは、ピーク値P1が大きいだけでなく半値幅W1の小さな鋭いピークとなる。一方、例えば、上記センサ11が路面側に位置したときや制動がかかったときなどには、タイヤサイド部の変形が大きくなり、その結果、上記センサ11に作用する応力が大きくなるので、同図の破線で示すように、ピーク値P2が小さくなるだけでなく、半値幅W2の大きなブロードなピークとなる。したがって、上記バルクハウゼンノイズの周波数スペクトルを求めると、図2(b)に示すように、応力が作用した場合には高調波成分が少なくなる。
ところで、図2(b)に示した周波数スペクトルでは、応力が作用したときの低次のピーク値が応力が作用していないときのピーク値よりも高くなっているが、低次のピークでは、応力が作用したときの元の信号と比較してピークの変化量が少ないため、単にピーク値を比較した場合と同様に、精度の良い応力の推定が困難である。
そこで、本例では、アンプ17で増幅され、ハイパスフィルタ18により抽出されたバルクハウゼンノイズのピーク値をそのまま用いたり、周波数スペクトルの低次のピークを用いるのではなく、高次波出力算出手段19bにより、上記センサ11に応力が作用した場合と作用しない場合のそれぞれについて、周波数分析手段19aにより抽出されたバルクハウゼンノイズ周波数スペクトルの高次波の出力(ここでは、11次、13次、15次、17次、及び、19次の高調波出力)を算出し、この高次波出力の大きさを比較することにより、上記センサ11に作用する応力の大きさ、すなわち、当該タイヤ50のショルダー部51の変形量を推定する。
【0013】
具体的には、ピーク差演算手段19cにより、上記11次〜19次波の出力の、応力の有無による差(図2(b)のa,b,c,‥‥)を算出した後、ピーク差平均値算出手段19dにより、上記算出されたピーク差の平均値を算出する。なお、周波数スペクトルの縦軸は一般にdB値で表わすので、上記ピーク差は、ピーク値の大きさの比となる。
そして、タイヤ変形量推定手段19fにおいて、上記算出されたピーク差の平均値と予め記憶手段19eに記憶しておいたピーク差の平均値とタイヤ変形量との関係を示すマップ19mとから、当該タイヤ50のショルダー部51の変形量を算出する。
図3は、上記高次波出力の平均値とタイヤ変形量の一つであるタイヤの撓み量との関係を実際に計測した結果を示す図で、同図に示すように、バルクハウゼンノイズの高調波出力の平均値はその値が大きくかつ変化が大きいので分解能が高いだけでなく、タイヤの撓み量と良好な相関関係を示していることが分かった。これに対して、従来のバルクハウゼンノイズのピーク値からタイヤの撓み量を推定する方法では、出力が小さく分解能が低いだけでなく、タイヤの撓み量との相関性も低く実用性に乏しいことが分かった。
したがって、上記図3に示した二次関数のような、バルクハウゼンノイズの高次波出力の平均値とタイヤの撓み量との関係を示すマップ19mを予め求めておけば、当該タイヤ50のショルダー部51の変形量を精度良く推定することができる。
【0014】
このように、本最良の形態によれば、タイヤ50のショルダー部51の内部側に貼着され強磁性体から成るセンサ11に電磁波を放射し、上記センサ11からのバルクハウゼンノイズが重畳した電磁波の信号を検出し、この信号から抽出されたバルクハウゼンノイズのデータからタイヤ変形量を測定する際に、上記抽出されたバルクハウゼンノイズを周波数分析してその周波数スペクトルを求めるとともに、上記センサ11に応力が作用した場合と作用しない場合のそれぞれについて、上記周波数スペクトルの高調波出力を算出し、この高調波出力の大きさを比較することにより、当該タイヤ50のショルダー部51の変形量を推定するようにしたので、バルクハウゼンノイズの応力による変化の検出精度を向上させることができ、タイヤの変形量を正確に推定することができる。
【0015】
なお、上記最良の形態では、バルクハウゼンノイズの11次高調波〜19次高調波の出力の差からタイヤ50の変形量を推定したが、それぞれの高調波の出力差にウエィトを持たせた、高調波の出力の差の演算値からタイヤ50の変形量を推定してもよい。
また、上記例では、センサ11が路面側に位置したときのバルクハウゼンノイズと、センサ11が車体側に位置したときのバルクハウゼンノイズとを比較したが、タイヤ50に応力が作用していない時の各高次波出力のピーク値を予め計測しておき、このピーク値とセンサ11が路面側に位置したときの各高次波出力との差を算出してもよい。
また、上記例では、バルクハウゼンノイズ周波数スペクトルのうち、11次〜19次高調波の出力を用いて当該タイヤの変形量を推定したが、他の高調波成分を用いても良い。なお、このときには、推定精度を向上させるためには、タイヤ50に応力が作用したときの高次波出力の大きさが応力が作用していないとき高次波出力の大きさよりも大きくなっている高次波を用いるようにすることが好ましい。
【0016】
また、上記例では、センサ11をタイヤ50のショルダー部51の周上に貼着したが、図4あるいは図8(b)に示すように、上記センサ11をタイヤ50のショルダー部51内面側の周上に貼着もしくは埋設してもよい。このように、センサ11をタイヤ50の内面側に設けることにより、上記センサ11の耐久性を確保することができる。なお、上記センサ11の個数は何個でも良く、複数個の場合には、タイヤ軸方向に関して対称に取付けることが好ましい。
また、上記センサ11に電磁波を照射するとともにバルクハウゼンノイズが重畳した電磁波を検出するためのアンテナとしては、図4もしくは図5に示すように、放射アンテナ13と検出アンテナ15とを一体に形成したアンテナ装置15Aを作製し、これを、ホイールディスク52の外側に取付けるようにすれば、電磁波の照射とバルクハウゼンノイズの検出を効率よく行うことができる。このとき、例えば、センサ11が4個ある場合には、上記アンテナ装置15Aをタイヤ周方向に4分割するなど、センサ11の個数と配置とに応じて複数個に分割するようにすれば、上記センサ11に電磁波を効率よく印加することができるとともに、バルクハウゼンノイズの検出効率を向上させることができる。
なお、上記アンテナ装置15Aを、角度パルス検出機能付ベアリングによりホイールディスク52に固定して、ホイールディスク52の回転速度を検出するようにすれば、上記の車輪速センサ20を省略することもできる。
また、アンテナ装置15Aの配置方法としては、図6(a)に示すように、タイヤハウス61の内カバー62に貼着あるいはネジ等により固定するようにしてもよい。このとき、アンテナ装置15Aとしては、図6(b)に示すように、1個のものでも良いし、図6(c)に示すように、タイヤ周方向に複数個に分割したものであっても良い。
あるいは、図7(a),(b)に示すように、アンテナ装置15Aをタイヤ50のリム部53のタイヤ気室54側に設けても良い。
【産業上の利用可能性】
【0017】
このように、本発明によれば、簡単な構成で当該タイヤの変形量を容易に推定することができるので、これをABS等の車両制御に適用することにより、車両の安全性を著しく高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の最良の形態に係るタイヤ変形量推定装置の概要を示す図である。
【図2】バルクハウゼンノイズとその周波数スペクトルを示す図である。
【図3】バルクハウゼンノイズ出力とタイヤの撓み量との関係を示す図である。
【図4】本発明のタイヤ変形量推定装置に用いられるセンサとアンテナ装置の配置を示す図である。
【図5】本発明のタイヤ変形量推定装置に用いられるアンテナとセンサの配置の他の例を示す図である。
【図6】本発明のタイヤ変形量推定装置に用いられるアンテナとセンサの配置の他の例を示す図である。
【図7】本発明のタイヤ変形量推定装置に用いられるアンテナとセンサの配置の他の例を示す図である。
【図8】従来のタイヤ応力の推定方法を示す図である。
【図9】従来のタイヤ応力推定装置の概要を示すブロック図である。
【図10】電磁波に重畳されるバルクハウゼンノイズの波形を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
10 タイヤ変形量推定装置、11 センサ、12 発振装置、
13 放射アンテナ、14 ノイズ検出器、15 検出アンテナ、
16 タイヤ変形量推定装置、17 アンプ、18 ハイパスフィルタ、
19 タイヤ変形量推定手段、19a 周波数分析手段、19b 高次波出力算出手段、19c ピーク差演算手段、19d ピーク差平均値算出手段、19e 記憶手段、
19f タイヤ変形量推定手段、19m マップ、20 車輪速センサ、
50 タイヤ、51 ショルダー部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤに強磁性体から成る感磁手段を取付けて、上記感磁手段に交流磁界を印加するとともに、上記磁界の変化を検出して上記強磁性体からのバルクハウゼンノイズを検出し、このバルクハウゼンノイズのデータから当該タイヤの変形量を推定する方法であって、上記バルクハウゼンノイズを周波数分析して、上記感磁手段に応力が作用した時のバルクハウゼンノイズの高次成分と応力が作用していない時の高次成分とを比較して当該タイヤの変形量を推定するようにしたことを特徴とするタイヤ変形量の推定方法。
【請求項2】
上記応力が作用した時の高次成分の大きさと応力が作用していない時の高次成分の大きさとの差から当該タイヤの変形量を推定するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ変形量の推定方法。
【請求項3】
上記高次成分を複数個とするとともに、上記各高次成分における大きさの差の平均値から当該タイヤの変形量を推定するようにしたことを特徴とする請求項2に記載のタイヤ変形量の推定方法。
【請求項4】
上記高次成分をバルクハウゼンノイズの基本波の11次以上でかつ奇数次の高次成分としたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のタイヤ変形量の推定方法。
【請求項5】
上記センサが路面側に位置したときの出力を上記応力が作用した時のバルクハウゼンノイズとし、上記センサが路面側とは反対側に位置したときの出力を応力が作用していない時のバルクハウゼンノイズとしたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のタイヤ変形量の推定方法。
【請求項6】
上記センサをタイヤのショルダー部に取付けたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載のタイヤ変形量の推定方法。
【請求項7】
タイヤに取付けられた強磁性体から成る感磁手段と、上記感磁手段に交流磁界を印加する手段と、上記磁界の変化を検出して上記強磁性体からのバルクハウゼンノイズを検出する手段とを備え、上記検出されたバルクハウゼンノイズのデータから当該タイヤの変形量を推定する装置であって、上記検出されたバルクハウゼンノイズを周波数分析してその周波数スペクトルを求める手段と、上記周波数スペクトルの高次成分の大きさを算出する手段と、上記高次成分のタイヤに応力が作用していない時と応力が作用した時の大きさを比較して上記タイヤに作用する当該タイヤの変形量を推定するタイヤ変形量推定手段とを備えたことを特徴とするタイヤ変形量の推定装置。
【請求項8】
上記タイヤ変形量推定手段は、複数の高次成分について、応力が作用した時の高次成分の大きさと応力が作用していない時の高次成分の大きさとの差を求めるピーク差演算手段と、上記各高次成分における大きさの差の平均値を演算するピーク差平均値算出手段と、予め求めておいたピーク差平均値とタイヤの変形量との関係を示すマップを記憶する記憶手段と、上記演算されたピーク差平均値と上記マップとから上記タイヤの変形量を推定する手段とを備えたことを特徴とする請求項7に記載のタイヤ変形量の推定装置。
【請求項9】
上記センサに交流磁界を印加するためのアンテナと、上記磁界の変化を検出するアンテナとをホイールディスクの外側に設けたことを特徴とする請求項7または請求項8に記載のタイヤ変形量の推定装置。
【請求項10】
上記センサに交流磁界を印加するためのアンテナと、上記磁界の変化を検出するアンテナとをタイヤハウスの内カバーに設置したことを特徴とする請求項7または請求項8に記載のタイヤ変形量の推定装置。
【請求項11】
上記アンテナを、タイヤ周方向に沿って複数個設けたことを特徴とする請求項9または請求項10に記載のタイヤ変形量の推定装置。
【請求項12】
上記センサに交流磁界を印加するためのアンテナと、上記磁界の変化を検出するアンテナとをホイールリム部のタイヤ気室側に設けたことを特徴とする請求項7または請求項8に記載のタイヤ変形量の推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−3242(P2007−3242A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181170(P2005−181170)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】