説明

タイヤ用ゴム組成物、及び空気入りタイヤ

【課題】低燃費性、破断時伸びを両立できるタイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】イソプレン系ゴム、硫黄及び軟化点−20〜45℃のクマロンインデン樹脂を含み、ゴム成分100質量部に対して、前記クマロンインデン樹脂の含有量が0.5〜20質量部であるタイヤ用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーカートッピング、ベーストレッド、クリンチ、サイドウォール、インサートなどのタイヤ用ゴム組成物に汎用されている硫黄は、ポリマーへの溶解時において、S8構造で、かつエチレングリコールと同程度の極性を有しているので、低極性の天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム中に均一分散することが一般に難しい。
【0003】
そのため、硫黄含有ハイブリッド架橋剤(1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物などを使用して、S8の使用量を減じる手法が提案されているが、硫黄含有ハイブリッド架橋剤は一般に高価であり、また、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物自体は分散性が悪く、破断時伸びや耐摩耗性が悪化してしまう。
【0004】
更にスチールコード被覆用ゴムには、コード接着のために比較的多量の硫黄が配合されているが、大部分の硫黄は分散不良の塊として架橋に関与せずに存在しているため、ポリマー間の架橋密度が不均一となり、破断時伸びが著しく低下する傾向がある。従って、ゴム中に硫黄を均一分散させ、優れた破断時伸びを有する配合ゴムを提供することが望まれている。
【0005】
一方、各種タイヤ部材には、操縦安定性や低燃費性などの性能も要求され、例えば、フィラーとの結合力が強いスズ変性ブタジエンゴムを使用し、操縦安定性を維持しつつ、低燃費性を改善することが提案されている。
【0006】
しかしながら、前述の各手法による破断時伸び、低燃費性の改善効果は未だ満足できるものではなく、操縦安定性を維持しつつ、これら両性能を顕著に改善するという点について、更なる改善が求められている。例えば、特許文献1には、特定のスチレンブタジエンゴムとクマロンインデン樹脂を用いてグリップ性能などを改善することが開示されているが、低燃費性や破断時伸びの改善は検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−124601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記課題を解決し、低燃費性、破断時伸びを両立できるタイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、イソプレン系ゴム、硫黄及び軟化点−20〜45℃のクマロンインデン樹脂を含み、ゴム成分100質量部に対して、前記クマロンインデン樹脂の含有量が0.5〜20質量部であるタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0010】
前記ゴム成分100質量部に対して、硫黄の含有量が0.5〜7質量部であることが好ましい。また、前記ゴム成分100質量部に対して、前記クマロンインデン樹脂の含有量が0.5〜10質量部、前記硫黄の含有量が1.3〜7質量部であることが好ましい。
【0011】
上記ゴム組成物は、ブレーカートッピング、ベーストレッド、サイドウォール、クリンチ、タイガム、ビードエイペックス、ストリップエイペックス又はサイドウォール補強層用ゴム組成物であることが好ましい。
【0012】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、イソプレン系ゴム、硫黄及び特定軟化点を持つクマロンインデン樹脂を所定量含むタイヤ用ゴム組成物であるので、低燃費性、破断時伸びを両立できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、イソプレン系ゴムと硫黄に対し、軟化点−20〜45℃のクマロンインデン樹脂を所定量配合したものである。これにより、操縦安定性を維持しながら、破断時伸びと低燃費性を顕著に改善し、これらの性能をバランス良く改善できる。この理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。
【0015】
低極性のイソプレン系ゴムに硫黄を均一に分散させることは困難であるが、特定軟化点のクマロンインデン樹脂を配合すると、該樹脂と硫黄(特に、クマロンインデン樹脂中に含まれる酸素原子と硫黄)がファンデルワールス力で引き合うことで硫黄表面が該樹脂でコーティングされ、硫黄の表面エネルギーが低下する(凝集力が低下する)。その結果、硫黄表面とイソプレン系ゴムのSP値の差が小さくなることで硫黄の分散が促進されるとともに、該樹脂自体の良好な分散性やポリマー鎖への滑性付与により、混練工程において硫黄がゴム組成物全体に均一に分散される。従って、加硫工程でポリマー間の架橋が均一化されることで、操縦安定性を維持しながら、低燃費性、破断時伸びの両性能が改善され、耐久性も優れたものとなる。また、スチールコードとの接着性、耐摩耗性などの性能も良好となる。
【0016】
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、液状イソプレンゴム(L−IR)などが挙げられる。NRとしては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20など、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。また、IRとしては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。なかでも、良好な低燃費性、破断時伸びが得られるという点から、NRが好ましい。
【0017】
タイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は、好ましくは10〜100質量%である。上記範囲内であると、良好な低燃費性、破断時伸びが得られる。
【0018】
なお、ブレーカートッピング用ゴム組成物の場合、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。70質量%未満であると、充分な破断時伸びが得られないおそれがある。
【0019】
ベーストレッド用ゴム組成物の場合、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。20質量%未満であると、充分な破断時伸びが得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。90質量%を超えると、充分な低燃費性が得られない傾向にある。
【0020】
サイドウォール、サイドウォール補強層(サイドウォール内層補強層)用ゴム組成物の場合、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。10質量%未満であると、充分なゴム強度が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。70質量%を超えると、充分な耐屈曲亀裂成長性が得られない傾向にある。
【0021】
イソプレン系ゴム以外に本発明で使用できるゴム成分としては、特に限定されず、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合ゴム(SIBR)などのジエン系ゴムが挙げられる。なかでも、低燃費性、破断時伸び、操縦安定性、耐久性がバランスよく得られるという点から、ベーストレッド、サイドウォール内層補強層用ゴム組成物の場合はSBR、BRが好ましく、サイドウォール用ゴム組成物の場合はBRが好ましい。
【0022】
上記SBRとしては、特に限定されないが、低燃費性、破断時伸びが高い次元で得られるという点から、特開2010−111753号公報に記載されている下記式(1)で表される化合物で変性されたものを好適に使用できる。
【0023】
【化1】

(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、アルキル基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜6、更に好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基)、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基(−COOH)、メルカプト基(−SH)又はこれらの誘導体を表す。R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又はアルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基)を表す。nは整数(好ましくは1〜5、より好ましくは2〜4、更に好ましくは3)を表す。)
【0024】
、R及びRとしては、アルコキシ基が望ましく、R及びRとしては、水素原子が望ましい。これにより、低燃費性、破断時伸びが高い次元で得られる。
【0025】
上記式(1)で表される化合物の具体例としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、2−ジメチルアミノエチルトリメトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記式(1)で表される化合物(変性剤)によるスチレンブタジエンゴムの変性方法としては、特公平6−53768号公報、特公平6−57767号公報、特表2003−514078号公報などに記載されている方法など、従来公知の手法を使用できる。例えば、スチレンブタジエンゴムと変性剤とを接触させることで変性でき、具体的には、アニオン重合によるスチレンブタジエンゴムの調製後、該ゴム溶液中に変性剤を所定量添加し、スチレンブタジエンゴムの重合末端(活性末端)と変性剤とを反応させる方法などが挙げられる。
【0027】
SBRの結合スチレン量は、良好な操縦安定性が得られるという点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上である。一方、良好な低燃費性が得られるという点から、好ましくは21質量%以下、より好ましくは13質量%以下である。
なお、本発明において、SBRのスチレン量は、H−NMR測定により算出される。
【0028】
ベーストレッド用ゴム組成物の場合、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。5質量%未満であると、SBRによる前述の改善効果が充分に得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。50質量%を超えると、充分な破断時伸び、耐屈曲亀裂成長性が得られないおそれがある。
【0029】
サイドウォール内層補強層用ゴム組成物の場合、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。5質量%未満であると、デフレート走行時、高温下の物性安定性、リバージョン性が充分に得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。60質量%を超えると、発熱性が低下する傾向がある。
【0030】
上記BRとしては、特に限定されないが、低燃費性、耐屈曲亀裂成長性、破断時伸び、操縦安定性、耐久性がバランスよく得られるという点から、ベーストレッド用ゴム組成物の場合、リチウム開始剤により重合され、スズ原子の含有量が50〜3000ppm、ビニル含量が5〜50質量%、分子量分布が2以下のスズ変性BRが好ましい。また、同様の点から、サイドウォール、サイドウォール内層補強層用ゴム組成物の場合、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)が好ましい。
【0031】
上記スズ変性BRは、リチウム開始剤により1,3−ブタジエンの重合を行った後、スズ化合物を添加することにより得られ、更に該スズ変性BR分子の末端はスズ−炭素結合で結合されていることが好ましい。
【0032】
リチウム開始剤としては、アルキルリチウム、アリールリチウムなどのリチウム系化合物が挙げられる。スズ化合物としては、四塩化スズ、ブチルスズトリクロライドなどが挙げられる。
【0033】
スズ変性BRのスズ原子の含有量は50ppm以上である。50ppm未満では、tanδが増大する傾向がある。また、スズ原子の含有量は3000ppm以下、好ましくは300ppm以下である。3000ppmを超えると、混練り物の押出し加工性が悪化する傾向がある。
【0034】
スズ変性BRの分子量分布(Mw/Mn)は2以下である。Mw/Mnが2を超えると、tanδが増大する傾向がある。分子量分布の下限は特に限定されないが、1以上であることが好ましい。
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0035】
スズ変性BRのビニル含量は、5質量%以上である。5質量%未満では、スズ変性BRの製造が困難である。該ビニル含量は50質量%以下、好ましくは20質量%以下である。50質量%を超えると、カーボンブラックの分散性が悪く、引張強さが低下する傾向がある。
なお、ビニル含量は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0036】
SPB含有BRはタイヤ工業における汎用品を使用できるが、前述の性能が良好に得られるという点から、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶がBRと化学結合し、分散しているものが好ましい。
【0037】
1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶の融点は、好ましくは180℃以上、より好ましくは190℃以上であり、また、好ましくは220℃以下、より好ましくは210℃以下である。下限未満では、SPB含有BRによる操縦安定性の改善効果が充分に得られないおそれがあり、上限を超えると、加工性が悪化する傾向がある。
【0038】
SPB含有BR中において、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶の含有量(沸騰n−ヘキサン不溶物の含有量)は、好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。2.5質量%未満では、補強効果(E*)、耐屈曲亀裂成長性が充分でないおそれがある。該含有量は好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下である。20質量%を超えると、加工性が悪化する傾向がある。
【0039】
ベーストレッド用ゴム組成物の場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。5質量%未満であると、BRによる前述の改善効果が充分に得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。50質量%を超えると、充分な破断時伸びが得られないおそれがある。
【0040】
サイドウォール用ゴム組成物の場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。30質量%未満であると、BRによる前述の改善効果が充分に得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。80質量%を超えると、充分な破断時伸び、引き裂き性が得られないおそれがある。
【0041】
サイドウォール内層補強層用ゴム組成物の場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。5質量%未満であると、BRによる前述の改善効果が充分に得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。60質量%を超えると、デフレート走行時の高温耐久性が不足するおそれがある。
【0042】
硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などが挙げられる。
タイヤ用ゴム組成物において、硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.3質量部以上であり、また、好ましくは7質量部以下、より好ましくは6質量部以下である。上記範囲内であると、優れた低燃費性、破断時伸びが得られる。
【0043】
なお、ブレーカートッピング、サイドウォール内層補強層用ゴム組成物の場合、硫黄の含有量は、優れた低燃費性、破断時伸び、接着性が得られるという点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは4〜7質量部である。
【0044】
本発明のゴム組成物は、軟化点が−20〜45℃のクマロンインデン樹脂を含む。上記クマロンインデン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成するモノマー成分として、クマロン及びインデンを含む樹脂であり、クマロン、インデン以外に骨格に含まれるモノマー成分としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルインデン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
【0045】
上記クマロンインデン樹脂の軟化点は、−20℃以上であり、好ましくは−10℃以上である。−20℃未満であると、低燃費性、破断時伸びの改善効果が充分に得られないおそれがある。該軟化点は、45℃以下、好ましくは40℃以下である。45℃を超えると、低燃費性、破断時伸びが悪化する傾向がある。
なお、クマロンインデン樹脂の軟化点は、JIS K 6220−1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0046】
タイヤ用ゴム組成物において、上記特定軟化点のクマロンインデン樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.5質量部以上、好ましくは1質量部以上である。0.5質量部未満では、低燃費性、破断時伸びの改善効果が充分に得られないおそれがある。該含有量は、20質量部以下、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。20質量部を超えると、硬度が不足し、操縦安定性が悪化する傾向がある。
【0047】
本発明のゴム組成物は他のクマロンインデン樹脂を含んでいてもよく、なかでも、良好なグリップ性、破断時伸び、操縦安定性、粘着加工性が得られる点から、軟化点が70〜120℃のクマロンインデン樹脂を配合することが好ましい。なお、軟化点が70〜120℃のクマロンインデン樹脂の含有量は、これらの性能がバランスよく得られるという点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5〜8質量部である。
【0048】
本発明のゴム組成物はカーボンブラックを含むことが好ましい。これにより、良好な補強性が得られ、優れた耐摩耗性、耐久性、操縦安定性、耐紫外線劣化性などが得られる。
【0049】
ブレーカートッピング用ゴム組成物の場合、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は40m/g以上が好ましく、70m/g以上がより好ましい。40m/g未満では、充分な破断時伸びが得られないおそれがある。該NSAは200m/g以下が好ましく、90m/g以下がより好ましい。200m/gを超えると、充分な低燃費性が得られないおそれがある。
【0050】
ベーストレッド、サイドウォール、サイドウォール内層補強層用ゴム組成物の場合、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は30m/g以上が好ましい。30m/g未満では、充分な破断時伸びが得られないおそれがある。該NSAは100m/g以下が好ましく、50m/g以下がより好ましい。100m/gを超えると、充分な低燃費性が得られないおそれがある。
なお、カーボンブラックのNSAは、JIS K 6217−2:2001によって求められる。
【0051】
ブレーカートッピング用ゴム組成物の場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは50質量部以上である。20質量部未満では、充分な硬度、破断時伸びが得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下である。100質量部を超えると、充分な低燃費性が得られないおそれがある。
【0052】
ベーストレッド用ゴム組成物の場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3質量部以上である。3質量部未満では、充分な補強性が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。50質量部を超えると、充分な低燃費性が得られないおそれがある。
【0053】
サイドウォール、サイドウォール内層補強層用ゴム組成物の場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上である。20質量部未満では、充分な硬度、破断時伸びが得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは80質量部以下、より好ましくは60質量部以下である。80質量部を超えると、充分な低燃費性が得られないおそれがある。
【0054】
本発明のゴム組成物はシリカを含んでもよく、特にベーストレッド、ブレーカートッピング、サイドウォール用ゴム組成物の場合に配合することが好ましい。なお、シリカを使用する場合(特に、ゴム成分100質量部に対して15質量部以上使用の場合)は、シリカの分散を促進するため、公知のシランカップリング剤と併用することが好ましい。
【0055】
ベーストレッド用ゴム組成物の場合、シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは50m/g以上、より好ましくは100m/g以上であり、また、好ましくは200m/g以下、より好ましくは130m/g以下である。上記範囲内であると、本発明の効果が良好に得られる。
なお、シリカのNSAは、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0056】
ベーストレッド用ゴム組成物の場合、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10〜60質量部、より好ましくは25〜45質量部である。上記範囲内であると、優れた低燃費性が得られる。
【0057】
本発明のゴム組成物がブレーカートッピング用ゴム組成物の場合、有機酸コバルトを含むことが好ましい。有機酸コバルトは、コード(スチールコード)とゴムとを架橋する役目を果たすため、コードとゴムとの接着性を向上できる。有機酸コバルトとしては、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ホウ素ネオデカン酸コバルトなどが挙げられる。
【0058】
有機酸コバルトの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、コバルト金属量に換算して好ましくは0.05〜0.5質量部、より好ましくは0.05〜0.3質量部である。0.05質量部未満では、充分な接着性が得られないおそれがあり、0.5質量部を超えると、破断時伸びが低下する傾向がある。
【0059】
本発明のゴム組成物がサイドウォール内層補強層用ゴム組成物の場合、低燃費性、破断時伸び、操縦安定性、耐久性が良好に得られるという点から、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を含むことが好ましい。
【0060】
アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物としては特に限定されないが、前述の性能に優れるという点から、下記式(2)で表される化合物が好ましい。
【化2】

(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数4〜12のアルキル基を表す。x及びyは、同一若しくは異なって、2〜4の整数を表す。tは0〜250の整数を表す。)
【0061】
tは、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物のゴム成分中への分散性が良い点から、0〜100の整数が好ましく、1〜10の整数がより好ましい。x及びyは、高硬度が効率良く発現できる点から、ともに2が好ましい。R〜Rは、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物のゴム成分中への分散性が良い点から、炭素数4〜12のアルキル基が好ましく、炭素数6〜9のアルキル基がより好ましい。
【0062】
アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の具体例として、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200(下記式(3))などが挙げられる。
【化3】

(式中、tは0〜100の整数を表す。)
【0063】
上記アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下である。上記範囲内であると、低燃費性、破断時伸び、操縦安定性、耐久性がバランスよく得られる。
【0064】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、各種老化防止剤、ワックス、ステアリン酸、酸化亜鉛、オイル、加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合できる。
【0065】
本発明のゴム組成物がベーストレッド用ゴム組成物の場合、オイル、軟化点−20〜45℃のクマロンインデン樹脂、及びそれ以外のクマロンインデン樹脂の合計含有量は、本発明の効果が充分に得られる点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2〜30質量部、より好ましくは6〜25質量部である。
【0066】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0067】
本発明のゴム組成物は、タイヤの各部材に好適に使用でき、ブレーカー、サイドウォール補強層(サイドウォール内層補強層)、ベーストレッド、サイドウォール、クリンチ、タイガム、ビードエイペックス、ストリップエイペックスなどのトレッド以外のタイヤ部材により好適に使用でき、ブレーカー、サイドウォール補強層、ベーストレッド、サイドウォールに特に好適に使用できる。
【0068】
なお、ブレーカーは、トレッドの内部で、かつカーカスの半径方向外側に配される部材であり、具体的には、特開2003−94918号公報の図3などに示される部材である。サイドウォール補強層(サイドウォール内層補強層)は、ランフラットタイヤのサイドウォール部の内側に配置されたライニングストリップ層(インサート層)であり、具体的には、特開2004−330822号公報の図面などに示される補強ゴム層である。ベーストレッドは、例えば、2層構造のトレッドの内面層である。
【0069】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造できる。すなわち、ゴム組成物を未加硫の段階でタイヤの各部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成形機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
【実施例】
【0070】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0071】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
非変性SBR:日本ゼオン(株)製のNipol1502(E−SBR、結合スチレン量:23.5質量%、非変性)
ハイシスBR:宇部興産(株)製のVCR617(SPB含有BR、SPBの含有量:17質量%、SPBの融点:200℃、沸騰n−ヘキサン不溶物の含有量:15〜18質量%)
変性SBR:JSR(株)製のHPR340(変性S−SBR、結合スチレン量:10質量%、Tg:−64℃、アルコキシシランでカップリングし末端に導入、式(1)で表される化合物により変性(R〜R=メトキシ基、R〜R=水素原子、n=3))
変性BR:日本ゼオン(株)製のBR1250H(リチウム開始剤を用いて重合したスズ変性BR、ビニル含量:10〜13質量%、Mw/Mn:1.5、スズ原子の含有量:250ppm)
カーボンブラックN326:三菱化学(株)製のダイヤブラックN326(NSA:84m/g、DBP吸油量74cm/100g)
カーボンブラックN550:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN550(NSA:41m/g)
シリカ:ローディア(株)製のZ115Gr(NSA:115m/g)
シランカップリング剤:エボニックデグッサ社製のSi266(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
老化防止剤6PPD:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)
ワックス:日本精鑞(株)製のオゾエース0355
ステアリン酸:日油(株)製の椿
亜鉛華:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華2種
ステアリン酸コバルト:大日本インキ化学工業(株)製のcost−F(コバルト含有量:9.5質量%)
10%オイル含有不溶性硫黄:日本乾溜工業(株)製のセイミサルファー(二硫化炭素による不溶物60%以上の不溶性硫黄、オイル分:10質量%)
20%オイル含有不溶性硫黄:フレキシス(株)製のクリステックスHSOT20(硫黄80質量%及びオイル分20質量%を含む不溶性硫黄)
DCBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーDZ(N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
TBBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
V200:田岡化学工業(株)製のタッキロールV200(上記式(3)で表されるアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、硫黄含有率:24質量%)
オイル:H&R(株)製のVivaTec400(TDAEオイル)
石油系C5レジン:丸善石油化学(株)製のマルカレッツレジン(C5系石油樹脂、軟化点:100℃)
レジンC10:Rutgers Chemicals社製のNOVARES C10(液状クマロンインデン樹脂、軟化点:5〜15℃)
レジンC30:Rutgers Chemicals社製のNOVARES C30(クマロンインデン樹脂、軟化点:20〜30℃)
レジンC80:Rutgers Chemicals社製のNOVARES C80(クマロンインデン樹脂、軟化点:75〜85℃)
レジンC100:Rutgers Chemicals社製のNOVARES C100(クマロンインデン樹脂、軟化点:95〜105℃)
レジンC120:Rutgers Chemicals社製のNOVARES C120(クマロンインデン樹脂、軟化点:115〜125℃)
【0072】
表1〜4に示す配合に従って、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を混練りした。次に、ロールを用いて、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加して練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃で12分間プレス加硫して加硫ゴム組成物を得た。
【0073】
また、得られた未加硫ゴム組成物をブレーカー、サイドウォール補強層、ベーストレッド、サイドウォールに用いて未加硫タイヤを作製し、加硫することで試験用タイヤ(サイズ:245/40R18)を作製した。
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物、試験用タイヤを下記により評価し、結果を表1〜4に示した。
【0074】
(粘弾性試験)
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータVESを用いて、温度70℃、周波数10Hz、初期歪10%及び動歪2%の条件下で、上記加硫ゴム組成物の複素弾性率E*(MPa)及び損失正接tanδを測定した。なお、E*が大きいほど剛性が高く、操縦安定性が優れることを示し、tanδが小さいほど発熱性が低く、低燃費性が優れることを示す。
【0075】
(引張試験)
加硫ゴム組成物からなる3号ダンベル型試験片を用いて、JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて、室温にて引張試験を実施し、破断時伸びEB(%)を測定した。EBが大きいほど、破断時伸びに優れることを示す。
【0076】
(耐久性:ブレーカー、ベーストレッド)
ブレーカー又はベーストレッドに適用した試験用タイヤをオーブンにいれ、80℃で3週間劣化させた後、JIS規格の最大荷重(最大空気圧条件)に対して、140%である荷重オーバーロード条件で、タイヤをドラム走行させたときのトレッド部の膨れなどの異常発生までの走行距離を測定した。比較例1、15の走行距離を100とし、各配合の走行距離を指数表示した。なお、指数が大きいほど耐久性に優れることを示す。
【0077】
(耐久性:サイドウォール補強層)
サイドウォール補強層に適用した試験用タイヤについて、空気内圧0kPaにてドラム上を80km/時の速度で走行させ、タイヤが破壊するまでの走行距離を計測した。比較例9の走行距離を100とし、各配合の走行距離を指数表示した。なお、指数が大きいほどランフラット耐久性に優れることを示す。
【0078】
(耐久性:サイドウォール)
サイドウォールに適用した試験用タイヤについて、JIS規格より内圧を150kPa(1.5Bar)の低内圧に設定し、140%オーバーロード荷重条件下で、80km/hで走行させ、空気漏れまでの走行距離を測定した。比較例21の走行距離を100とし、各配合の走行距離を指数表示した。なお、指数が大きいほど耐久性に優れることを示す。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
NR、硫黄に、−20〜45℃の軟化点を持つクマロンインデン樹脂(C10、C30)を配合した実施例では、C10やC30に代えて石油系レジンや高軟化点のクマロンインデン樹脂を用いた比較例に比べて、操縦安定性を維持しながら、破断時伸び、転がり抵抗をともに改善できた。また、タイヤの耐久性も向上した。
【0084】
なお、イソプレン系ゴム(NR、IR、L−IR、エポキシ化NR)とC10又はC30などを用いてクリンチ用、タイガム用、ビードエイペックス、ストリップエイペックス用ゴム組成物を作製すると、これらのゴム組成物でもE*、tanδ、EBが優れていた。更に、クリンチ、タイガム、ビードエイペックス、ストリップエイペックスに適用して作製した試験用タイヤでは耐久性も優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレン系ゴム、硫黄及び軟化点−20〜45℃のクマロンインデン樹脂を含み、
ゴム成分100質量部に対して、前記クマロンインデン樹脂の含有量が0.5〜20質量部であるタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分100質量部に対して、硫黄の含有量が0.5〜7質量部である請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分100質量部に対して、前記クマロンインデン樹脂の含有量が0.5〜10質量部、前記硫黄の含有量が1.3〜7質量部である請求項1又は2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
ブレーカートッピング、ベーストレッド、サイドウォール、クリンチ、タイガム、ビードエイペックス、ストリップエイペックス又はサイドウォール補強層用ゴム組成物である請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−233150(P2012−233150A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260893(P2011−260893)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】