説明

タイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】氷上摩擦性能を向上させたタイヤゴム組成物および空気入りタイヤを提案する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部に対して、2個以上の突起を有し、突起の平均長さが10μm以上であるフィラー0.5〜30重量部を含有するタイヤ用ゴム組成物、および、該タイヤ用ゴム組成物からなる空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物および空気入りタイヤに関し、とりわけ氷上摩擦性能に優れるタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面走行では、スパイクタイヤが使用されたり、タイヤにチェーンを装着することがなされてきたが、粉塵などの環境問題が発生するため、これにかわる氷雪路面走行用タイヤとして、スタッドレスタイヤが開発された。
【0003】
氷雪路面は、一般路面にくらべて著しく摩擦係数が低く、滑りやすいので、スタッドレスタイヤには、材料および設計面での工夫がなされている。たとえば、低温特性に優れたジエン系ゴムを配合したゴム組成物が開発されている。また、タイヤ表面の凹凸形態を変えて表面エッジ成分を増やしたり、引っ掻き効果のある無機フィラーを配合する(特許文献1参照)などして、氷雪路面における氷への引っ掻き効果を得ることにより、氷上摩擦性能を向上させる工夫がなされている。
【0004】
しかしながら、前述のようなスタッドレスタイヤでも、スパイクタイヤに比べて、依然、氷雪路面での摩擦性能は充分といえず、さらなる改善が求められている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−217918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、氷上摩擦性能を向上させたタイヤ用ゴム組成物および空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ジエン系ゴム100重量部に対して、2個以上の突起を有し、突起の平均長さが10μm以上であるフィラー0.5〜30重量部を含有するタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0008】
また、本発明は、前記タイヤ用ゴム組成物からなる空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ジエン系ゴムに、2個以上の突起を有し、突起の平均長さが10μm以上であるフィラーを配合することで、タイヤと氷雪路面の間に発生する水膜を排除する効果および氷雪路面での引っ掻き効果により、氷上摩擦性能に優れたスタッドレスタイヤを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分としてジエン系ゴム、およびフィラーを含有する。
【0011】
前記ジエン系ゴムとしては、任意のジエン系ゴムが用いられる。たとえば、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、各種ポリブタジエンゴム(BR)、各種スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、ポリクロロプレン(CR)などのジエン系ゴムを単独で、あるいは任意の割合でブレンドして使用することができるが、低温特性がよい、また低温特性と加工性、耐久性などのバランスが優れるという点でNRおよびBRをゴム成分として用いることが好ましい。
【0012】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、2個以上の突起を有するフィラーを含有する。2個以上の突起を有するフィラーを配合することにより、該2個以上の突起がアンカー効果を示し、走行時の刺激や摩耗による脱落を防ぎ、かつ、ゴム表面からミクロ突起を出現させ、氷雪路面とタイヤの間に発生する水膜を排除する効果およびミクロな引っ掻き効果を発現させる。また、本発明において、フィラーは、前記ゴム成分に配合した際、耐摩耗性、耐熱性、熱伝導性などにおいて優れた効果を示す。
【0013】
前記フィラーの突起数は、2個以上、好ましくは3個以上である。突起がない、あるいは突起を1個のみ有するフィラーでは、フィラーがアンカー効果を示すことができず、タイヤ走行などによる刺激や摩耗によってフィラーが脱落しやすい。
【0014】
ここで、突起数が2個以上であるとは、図1に示すような突起の先端とそのフィラーの中心(変曲点)を結ぶ直線の角度Xが、180度未満であることと定義する。突起数が1個のフィラーは、角度Xが180度であり、ファイバーなどの線状のフィラーがこれに該当する。
【0015】
また、前記フィラーの突起の平均長さは、10μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは100μm以上である。前記フィラーの突起の平均長さが10μm未満では、とくに氷雪路面における氷に対する引っ掻き効果が充分に得られない。ここで突起の長さとは、図2のLをいう。
【0016】
前記フィラーとしては、酸化亜鉛ウィスカ(たとえば、松下産業情報機器(株)製のパナテトラ(テトラポット形状酸化亜鉛単結晶体))や沖縄県産の星の砂などがあげられる。なかでも、氷よりも硬くアスファルトより柔らかい材料であるという理由から、酸化亜鉛ウィスカを用いることが好ましい。
【0017】
前記フィラーの配合量は、前記ジエン系ゴム100重量部に対して0.5重量部以上、好ましくは1重量部以上、より好ましくは5重量部以上である。前記フィラーの配合量が0.5重量部未満では、氷雪路面での氷上摩擦性能の向上がみられない。また、前記フィラーの配合量は、30重量部以下、好ましくは20重量部以下である。前記フィラーの配合量が30重量部をこえると、耐摩耗性が低下する。
【0018】
また、前記フィラーとジエン系ゴムとの接着力を向上させるために、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)、ポリビニルアルコール(PVA)およびシランカップリング剤やシリル化剤などでフィラーを表面処理してもよい。
【0019】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、前記ゴム成分、フィラーのほかにも、その他の補強剤(充填剤)、加硫剤(架橋剤)、加硫促進剤、各種オイル、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、カップリング剤などのタイヤ用または一般のゴム組成物用として配合される各種配合剤および添加剤を配合することができる。また、これらの配合剤、添加剤の配合量も一般的な量とすることができる。
【0020】
前記補強剤としては、シリカなどの無機充填剤があげられる。
【0021】
前記無機充填剤の配合量は、前記ジエン系ゴム100重量部に対して、好ましくは150重量部以下、より好ましくは100重量部以下である。無機充填剤の配合量が150重量部をこえると、加工性がわるくなる傾向がある。また、無機充填剤の配合量は、5重量部以上であることが好ましい。
【0022】
シリカを配合する場合、シランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤の配合量は、前記シリカ100重量部に対して、好ましくは1重量部以上、より好ましくは2重量部以上である。シランカップリング剤の配合量が1重量部未満では、未加硫ゴム組成物の粘度が高い傾向がある。また、シランカップリング剤の配合量は、前記シリカ100重量部に対して、好ましくは20重量部以下、より好ましくは15重量部以下である。また、シランカップリング剤の配合量が20重量部をこえると、配合量のわりにシランカップリング剤を配合した効果が小さく、コストがかかる傾向がある。
【0023】
また、前記補強剤としてカーボンブラックがあげられる。カーボンブラックの配合量は、前記ジエン系ゴム100重量部に対して、好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上である。カーボンブラックの配合量が5重量部未満では、充分な補強性が得られず、耐摩耗性が劣る傾向がある。また、カーボンブラックの配合量は、好ましくは150重量部以下、より好ましくは100重量部以下である。カーボンブラックの配合量が150重量部をこえると、加工性がわるくなり、硬度が高くなることから氷上摩擦性能が低下する傾向がある。
【0024】
オイルを配合する場合、オイルの配合量は、前記ジエン系ゴム100重量部に対して、好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上である。オイルの配合量が5重量部未満では、硬度が低くならず、氷上摩擦性能が低下する傾向がある。また、オイルの配合量は、好ましくは100重量部以下、より好ましくは70重量部以下である。オイルの配合量が100重量部をこえると、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0025】
前記加硫剤としては、硫黄があげられる。硫黄の配合量は、前記ジエン系ゴム100重量部に対して、好ましくは、0.2重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上である。硫黄の配合量が0.2重量部未満では、架橋密度が低く、強度が得られない傾向がある。また、硫黄の配合量は、好ましくは10重量部以下、より好ましくは4重量部以下である。硫黄の配合量が10重量部をこえると、架橋密度の上昇にともない硬度が高くなることで、氷上摩擦性能が低下する傾向がある。
【0026】
加硫促進剤を配合する場合、加硫促進剤の配合量は、前記ジエン系ゴム100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは1重量部以上である。加硫促進剤の配合量が0.1重量部未満では、加硫速度が遅く生産性が低下する傾向がある。また、加硫促進剤の配合量は、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下である。加硫促進剤の配合量が10重量部をこえると、ゴム焼けが生じ、物性が低下する傾向がある。
【0027】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、前記2個以上の突起を有し、突起の平均長さが10μm以上であるフィラーを配合することにより、ゴム表面のミクロな凹凸による排水効果および氷雪路面での引っ掻き効果が発現し、氷雪路面での摩擦係数が向上し、とくに空気入りタイヤのトレッドゴムに好ましく用いられる。
【0028】
本発明の空気入りタイヤは、本発明のゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。すなわち、必要に応じて前記添加剤を配合した本発明のゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材の形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりスタッドレスタイヤを得る。
【実施例】
【0029】
以下、実施例にもとづいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらのみに制限されるものではない。
【0030】
実施例および比較例で使用した原料を以下にまとめて示す。
天然ゴム:テックビーハング社製のRSS#3
ポリブタジエンゴム:宇部興産(株)製のUBEPOL−BR150B
カーボンブラック:昭和キャボット(株)製のショウワブラックN220
シリカ:デグッサ社製のウルトラジルVN3
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックワックス
オイル:出光興産(株)製のダイナプロセスオイルPS323
ステアリン酸:日本油脂(株)製のステアリン酸
亜鉛華:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
酸化亜鉛ウィスカ1:松下産業情報機器(株)製のパナテトラA(突起の数:4個、突起の平均長さ:10μm)
酸化亜鉛ウィスカ2:松下産業情報機器(株)製のパナテトラB(突起の数:4個、突起の平均長さ50μm)
酸化亜鉛ウィスカ3:松下産業情報機器(株)製のパナテトラC(突起の数:4個、突起の平均長さ100μm)
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0031】
実施例1〜5および比較例1〜3
表1に示す硫黄、加硫促進剤を除く配合成分を、容量1.7リットルの密閉型バンバリーミキサーを用いて3〜5分間混練りし、温度が150℃以上に達した時点で配合ゴムを排出し、ベース練りゴムとした。ベース練りゴムと硫黄および加硫促進剤をオープンロールで混練りし、加硫することによってゴム組成物を得た。
【0032】
得られたゴム組成物を、通常用いられる方法でカレンダーロールによってトレッド形状に押し出すことにより、トレッドを形成し、195/65R15サイズのタイヤを作製した。得られたタイヤについて、以下の試験を実施した。結果を表1に示す。
【0033】
(氷上摩擦性能)
タイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、時速30km/時間からの氷盤上での制動停止距離を求めた。比較例1の制動停止距離の値を100としてそれぞれ指数で示した。指数が大きいほど氷上摩擦性能に優れている。
【0034】
(耐摩耗性)
タイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、30000km走行したのちの摩耗量を測定した。比較例1の摩耗量の値を100として指数で示した。指数が大きいほど耐摩耗性に優れている。
【0035】
【表1】

【0036】
表1の結果から、突起の平均長さが10μm以上である酸化亜鉛ウィスカを特定の量配合した実施例1〜5では、耐摩耗性を保ちながら氷上摩擦性能が向上したことがわかる。
【0037】
酸化亜鉛ウィスカ3を配合したが、配合量が少なかった比較例2では、氷上摩擦性能の向上効果が小さく、配合量が多かった比較例3では、耐摩耗性が大きく低下した。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に用いられる2個以上の突起を有するフィラーにおける、該突起の先端とそのフィラーの中心(変曲点)を結ぶ直線の角度Xの説明図である。
【図2】本発明に用いられる2個以上の突起を有するフィラーにおける、該突起の長さLの説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 2個以上の突起を有するフィラー
X フィラーの突起の先端とそのフィラーの中心(変曲点)を結ぶ直線の角度
L 突起の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対して、2個以上の突起を有し、突起の平均長さが10μm以上であるフィラー0.5〜30重量部を含有するタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物からなる空気入りタイヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−2119(P2006−2119A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182694(P2004−182694)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】