説明

タイヤ用ゴム組成物

【課題】ジエン系ゴムに膨張性マイクロカプセルを配合したゴム組成物において、氷上性能と耐摩耗性能を高度に両立することを可能にしたタイヤ用ゴム組成部を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部に対して、カーボンブラック及び白色充填剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の充填剤を20〜70重量部、アルコキシシラン誘導体による表面処理を施した熱膨張性マイクロカプセルを0.5〜10重量部配合したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物に関し、更に詳しくは、氷上性能と耐摩耗性能を高度に両立することを可能にしたタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
氷雪路用空気入りタイヤ(スタッドレスタイヤ)の氷上性能を向上する構成には種々あるが、そのうちトレッドゴム中に多数の気泡を形成しておくことにより、トレッドが氷面に踏み込むときにこれら気泡が氷表面の水膜を吸収除去し、トレッドが氷面から離れるときに吸収した水を遠心力で離脱させることを繰り返して氷上性能を向上するものがある。特許文献1は、このような気泡の形成手段として、タイヤ用ゴム組成物に熱膨張性マイクロカプセルを配合することを提案している。この熱膨張性マイクロカプセルは加硫工程での加熱によって膨張するので、加硫後のタイヤのゴムコンパウンドには膨張したマイクロカプセルの殻に被覆された気泡(樹脂被覆気泡)が多数形成される。
【0003】
しかし、このようなゴムコンパウンドを使用したスタッドレスタイヤは、走行中に樹脂被覆気泡がタイヤ表面に露出した際に、マイクロカプセルの殻がタイヤのゴムコンパウンドから抜け落ちることがあった。その結果、耐摩耗性能が悪化したりするという問題がある。また、形成された樹脂被覆気泡が偏平な楕円球体のような形態になると、水膜を吸収する作用が弱まると共に気泡容積も減少するため、氷面上の水膜除去効果が低下して氷上性能を充分に改良することが出来ないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−316801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ジエン系ゴムに熱膨張性マイクロカプセルを配合したゴム組成物において、氷上性能と耐摩耗性能を高度に両立することを可能にしたタイヤ用ゴム組成部を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100重量部に対して、カーボンブラック及び白色充填剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の充填剤を20〜70重量部、熱膨張性マイクロカプセルを0.5〜10重量部配合すると共に、該熱膨張性マイクロカプセルがアルコキシシラン誘導体にて表面処理を施されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物によれば、ジエン系ゴム100重量部に対して、カーボンブラック及び/又は白色充填剤からなる充填剤を20〜70重量部、アルコキシシラン誘導体で表面処理を施した熱膨張性マイクロカプセルを0.5〜10重量部配合したので、ゴムコンパウンドとマイクロカプセルの殻との親和性が向上し、膨張後のマイクロカプセルの殻がゴムコンパウンドと密着すると共に、樹脂被覆気泡の形態が球形になり易くなる。その結果、気泡の容積が大きくなり水膜の吸収量を大きくすると共に、水膜の吸収作用を確保するので氷上での水膜除去効果が向上し氷上性能を向上することが出来る。また、樹脂被覆気泡の最大径部がタイヤ表面に露出してもゴムとの密着性を強くしたためマイクロカプセルの殻が容易に抜け落ちることが無いので耐摩耗性能を向上することが出来る。
【0008】
本発明において、アルコキシシラン誘導体が下記式(1),(2)又は(3)で表わされることが好ましい。これにより、ゴムコンパウンドと膨張後のマイクロカプセルとの親和性がより向上し、氷上性能と耐摩耗性能とをより高度に両立することが出来る。
【化1】

(式中、R1 及びR2 は互いに独立にメチル基又はエチル基、R3 は炭素数1〜3のアルキレン基又は二つの互いに独立した炭素数1〜3のアルキレン基をN又はO原子を介して結合した2価の基、Xはアミノ基、エポキシ基、(メタ)アクリロキシ基、イソシアネート基、メルカプト基又はウレイド基、nは0〜2の整数である。)
【化2】

(式中、R1 及びR2 は互いに独立にメチル基又はエチル基、R4 は炭素数1〜3のアルキレン基、nは0〜2の整数、mは1〜4の整数である。)
【化3】

(式中、R1 及びR2 は互いに独立にメチル基又はエチル基、R5 はビニル基、炭素数1〜12の直鎖、分岐、又は環状構造のいずれかからなるアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基、nは0〜2の整数である。)
【0009】
本発明において、熱膨張性マイクロカプセルの殻材としてニトリル系重合体を使用することが好ましい。これにより、アルコキシシラン誘導体で表面処理する効果が一層高くなり膨張後のカプセルの殻が球形をより維持し易くなるので、氷上性能と耐摩耗性能とを向上することが出来る。
【0010】
本発明において、ジエン系ゴムの平均ガラス転移温度が−50℃以下であることが好ましい。これにより、冬用タイヤとして好ましく使用することが出来る。尚、平均ガラス転移温度とは、すべてのジエン系ゴムのガラス転移温度の重量平均値である。
【0011】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、スタッドレスタイヤのトレッド部に好適に用いることが出来る。
【0012】
前記式(1),(2)又は(3)で表わされるアルコキシシラン誘導体により表面処理が施され熱膨張性マイクロカプセルは、ゴムコンパウンドとの親和性を向上することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において使用するジエン系ゴムは、タイヤ用ゴム組成物に使用可能なゴムであれば良く、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、各種のスチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム等が挙げられる。とりわけ、スタッドレスタイヤのトレッド部のゴムコンパウンドに使用する場合、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムが好ましい。これらジエン系ゴムは、単独で使用しても良いし、又は複数の種類を使用しても良い。
【0014】
本発明において、上述したジエン系ゴム成分の平均ガラス転移温度は−50℃以下であることが好ましく、更に好ましくは−60〜−100℃であると良い。ジエン系ゴム成分の平均ガラス転移温度を−50℃以下にすることにより、低温下でのゴムコンパウンドのしなやかさを維持し、氷面に対する凝着力を高くするので、冬用タイヤのトレッド部に好適に使用することが出来る。なおガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、転移域の中点の温度とする。また、ジエン系ゴムが油展品であるときは、油展成分(オイル)を含まない状態におけるジエン系ゴムのガラス転移温度とする。また、平均ガラス転移温度とは、各ジエン系ゴムのガラス転移温度に各ジエン系ゴムの重量分率を乗じた合計(ガラス転移温度の重量平均値)である。尚、全てのジエン系ゴムの重量分率の合計を1とする。
【0015】
タイヤ用ゴム組成物は、カーボンブラック及び白色充填剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の充填剤を配合することによりゴムの強度を高くし耐摩耗性能を良好にすることが出来る。充填剤の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し20〜70重量部、好ましくは40〜70重量部にする。充填剤の配合量が20重量部より小さいとゴム強度を高くして耐摩耗性能を向上することが出来ない。充填剤の配合量が70重量部より大きいとタイヤ用ゴム組成物の転がり抵抗が悪化する。また、混合時間が長くなるなど加工性が悪化する。
【0016】
白色充填剤としては、空気入りタイヤに使用することが出来る任意の白色充填剤を用いることが出来、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウム等を挙げることが出来る。これらのうち典型的なものはシリカで、例えば湿式シリカ、乾式シリカなどの任意のシリカを単独又は組合せて用いることが出来る。
【0017】
本発明に使用する熱膨張性マイクロカプセルは、熱可塑性樹脂で形成された殻材中に、熱膨張性物質を内包した構成からなる。このため、未加硫タイヤの加硫時にゴム組成物中のマイクロカプセルが加熱されると、殻材に内包された熱膨張性物質が膨張して殻材の粒径を大きくし、トレッドゴム中に多数の樹脂被覆気泡を形成する。これにより、氷の表面に発生する水膜を効率的に吸収除去すると共に、ミクロなエッジ効果が得られるため、氷上性能を向上させる。また、マイクロカプセルの殻材は、トレッドゴムより硬いためトレッド部の耐摩耗性を高くすることが出来る。
【0018】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルはアルコキシシラン誘導体で表面処理が施されている。このように熱膨張性マイクロカプセルの表面にアルコキシシラン誘導体で表面処理を施すことで、ゴムコンパウンドとマイクロカプセルの殻との親和性が向上し、膨張後のマイクロカプセルの殻がゴムと密着すると共に、ほぼ球形をした樹脂被覆気泡を形成し易くなる。その結果、樹脂被覆気泡の容積を大きくすると共に、吸水作用を高くするので氷上での水膜除去効果が向上し氷上性能を向上することが出来る。また、樹脂被覆気泡の最大径部がタイヤ表面に露出してもゴムコンパウンドとの密着性を改良したので、マイクロカプセルの殻が抜け落ちるのを抑制し耐摩耗性能を向上することが出来る。
【0019】
熱膨張性マイクロカプセルの表面処理に用いるアルコキシシラン誘導体としては、好ましくは下記式(1),(2)又は(3)で表わされるものを使用するのが良く、マイクロカプセルの殻とゴムとの親和性を更に向上して、氷上性能及び耐摩耗性能を更に向上することが出来る。
【化4】

(式中、R1 及びR2 は互いに独立にメチル基又はエチル基、R3 は炭素数1〜3のアルキレン基又は二つの互いに独立した炭素数1〜3のアルキレン基をN又はO原子を介して結合した2価の基、Xはアミノ基、エポキシ基、(メタ)アクリロキシ基、イソシアネート基、メルカプト基又はウレイド基、nは0〜2の整数である。)
【化5】

(式中、R1 及びR2 は互いに独立にメチル基又はエチル基、R4 は炭素数1〜3のアルキレン基、nは0〜2の整数、mは1〜4の整数である。)
【化6】

(式中、R1 及びR2 は互いに独立にメチル基又はエチル基、R5 はビニル基、炭素数1〜12の直鎖、分岐、又は環状構造のいずれかからなるアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基、nは0〜2の整数である。)
【0020】
式(1)〜(3)において、R1 及びR2 は互いに独立にメチル基又はエチル基であり、同一であっても異なっていても良い。また−OR1 で表されるアルコキシ基は、メトキシ基又はエトキシ基であり、その数(3−n)は、1,2又は3である。
【0021】
式(1)において、R3 は、炭素数1〜3のアルキレン基又は二つの互いに独立した炭素数1〜3のアルキレン基をN又はO原子を介して結合した2価の基であり、このうち炭素数1〜3のアルキレン基は、メチレン基、エチレン基又はプロピレン基である。また二つの互いに独立した炭素数1〜3のアルキレン基をN又はO原子を介して結合した2価の基とは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基から互いに独立に選ばれる二つのアルキレン基をN又はO原子を介して結合した2価の基であり、例えば−C3 6 OCH2 −,−C3 6 OC2 4 −,−C3 6 NHCH2 −,−C3 6 NHC2 4 −等を例示することが出来る。
【0022】
式(2)のR4 は、メチレン基、エチレン基又はプロピレン基である。またmは1〜4の整数であり、好ましくは2又は4である。
【0023】
式(3)のR5 は、ビニル基、炭素数1〜12の直鎖、分岐、又は環状構造のいずれかからなるアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基である。
【0024】
式(1)で表わされるアルコキシシラン誘導体は、アミノ基、エポキシ基、(メタ)アクリロキシ基、イソシアネート基、メルカプト基又はウレイド基を有するアルコキシシランである。アミノ基を有するアルコキシシラン誘導体としては、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン等を例示することが出来る。
【0025】
エポキシ基を有するアルコキシシラン誘導体としては、例えば3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等を例示することが出来る。(メタ)アクリロキシ基を有するアルコキシシラン誘導体としては、例えば3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等を例示することが出来る。
【0026】
イソシアネート基を有するアルコキシシラン誘導体としては、例えば3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等を例示することが出来る。メルカプト基を有するアルコキシシラン誘導体としては、例えば3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を例示することが出来る。ウレイド基を有するアルコキシシラン誘導体としては、例えば3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等を例示することが出来る。
【0027】
式(2)で表わされるアルコキシシラン誘導体としては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド等を例示することが出来る。
【0028】
式(3)で表わされるアルコキシシラン誘導体のうち、ビニル基を有するアルコキシシラン誘導体としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等を例示することが出来る。また、アルキル基を有するアルコキシシラン誘導体としては、例えば、n−オクチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルジメトキシメチルシラン等を例示することが出来る。更に、アリール基を有するアルコキシシラン誘導体としては、例えば、フェニルトリメトキシシラン等を例示することが出来る。
【0029】
アルコキシシラン誘導体での処理量は、特に制限されるものではないが、熱膨張性マイクロカプセルの配合量の好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.5〜15重量%、更に好ましくは1〜10重量%、最も好ましくは3〜7重量%にすると良い。アルコキシシラン誘導体の処理量をこのような範囲にすることにより、熱膨張性マイクロカプセルとゴムコンパウンドとの親和性を改良することが出来る。
【0030】
熱膨張性マイクロカプセルにアルコキシシラン誘導体で表面処理を施す方法は、通常の方法で行うことが出来、例えば、アルコキシシラン誘導体を水やアルコール等で希釈したアルコキシシラン誘導体溶液を熱膨張性マイクロカプセルにスプレー等により噴霧し、その後に乾燥を行う乾式法や、アルコキシシラン誘導体を水やアルコール等で希釈したアルコキシシラン誘導体溶液を熱膨張性マイクロカプセルのスラリー又はウェットケーキ(含水量10〜95%)へ投入し、混合後、脱水や乾燥等を行う湿式法等を例示することが出来る。
【0031】
尚、アルコキシシラン誘導体で表面処理した熱膨張性マイクロカプセルの代わりに、単にゴム組成物に未処理の熱膨張性マイクロカプセルとアルコキシシラン誘導体とを共に配合したとしても、ゴムコンパウンドとマイクロカプセルの殻との親和性を向上する効果がマイクロカプセルに表面処理を施した場合のようには得られないので、氷上性能と耐摩耗性能を共に向上することは出来ない。
【0032】
本発明において、熱膨張性マイクロカプセルの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し0.5〜10重量部、好ましくは1〜8重量部にする。マイクロカプセルの配合量が0.5重量部より小さいと、トレッドゴム中の樹脂被覆気泡の容積が不足し氷上性能を充分に得ることができない。マイクロカプセルの配合量が10重量部より大きいとトレッドゴムの耐摩耗性能が悪化する。
【0033】
熱膨張性マイクロカプセルの殻材を形成する熱可塑性樹脂は、ニトリル系重合体を使用することが好ましい。ニトリル系重合体で殻材を形成することにより、上述したアルコキシシラン誘導体の表面処理効果をより高くすることが出来る。ニトリル系重合体としては好ましくは、ニトリル系単量体(I)を主成分とし、分子中に不飽和二重結合とカルボキシル基を有する単量体(II)から共重合すると良い。また、膨張特性を調整するために、必要に応じて、2以上の重合性二重結合を有する単量体(III)や、共重合可能な単量体(IV)を加えても良い。
【0034】
本発明において好適に使用するニトリル系単量体(I)としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマロニトリル等及びこれらの混合物が例示される。特に、アクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリルが好ましい。単量体(I)の共重合比は、好ましくは35〜95重量%、より好ましくは45〜90重量%にすると良い。
【0035】
分子中に不飽和二重結合とカルボキシル基を有する単量体(II)としては、例えば、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、イタコン酸、スチレンスルホン酸又はナトリウム塩、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等及びこれらの混合物が例示される。単量体(II)の共重合比は、好ましくは4〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%にすると良い。単量体(II)の共重合比が4重量%未満では高温領域における膨張性が低下する虞がある。
【0036】
2以上の重合性二重結合を有するモノマー(III)は膨張特性を調整するために追加して重合しても良く、2以上の重合性二重結合を有するモノマー(III)としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレンなどの芳香族ジビニル化合物、メタクリル酸アリル、トリアクリルホルマール、トリアリルイソシアネート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、重量平均分子量が200のポリエチレングリコール(PEG#200)ジ(メタ)アクリレート、重量平均分子量が400のポリエチレングリコール(PEG#400)ジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等及びこれらの混合物が例示される。単量体(III)の共重合比は、好ましくは0.05〜5重量%、より好ましくは0.2〜3重量%にすると良い。単量体(III)の共重合比が0.05重量%未満又は5重量%を超えると高温度領域における膨張性能が不良になる。
【0037】
共重合可能な単量体(IV)は膨張特性を調整するために追加して共重合しても良く、共重合可能な単量体(IV)としては、例えば、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、スチレンスルホン酸またはそのナトリウム塩、α−メチルスチレン、クロロスチレンなどスチレン系モノマー、アクリルアミド、置換アクリルアミド、メタクリルアミド、置換メタクリルアミドなどを例示することが出来る。単量体(IV)は任意成分であり、これを添加するときは、共重合比は、好ましくは0.05〜20重量%、より好ましくは1〜15重量%にすると良い。
【0038】
マイクロカプセルの殻材を形成する熱可塑性樹脂は、常法により懸濁重合して得ることが出来る。また、重合開始剤は、油溶性の過酸化物又はアゾビス系化合物であり、かつ反応温度での半減期が1〜25時間、より好ましくは5〜20時間のものが良い。重合開始剤としては、例えば、過酸化物化合物である過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、ペルオキシ酸エステル、ペルオキシジカーボネート及びアゾ化合物を例示することが出来る。
【0039】
マイクロカプセルの殻材中に内包する熱膨張性物質は、熱によって気化又は膨張する特性を持ち、150℃での蒸気圧が好ましくは1.4〜3.0MPaであるものを使用する。より好ましくは蒸気圧が1.5〜2.8MPaであるものが良い。150℃での蒸気圧が1.4MPaより低いと、マイクロカプセルの膨張前の平均粒径を小さくした場合に、膨張倍率を大きくすることが出来ず、所望の大きさの樹脂被覆気泡を形成することが出来ない。また、150℃での蒸気圧が3.0MPaより高いと、加工安定性が低下するので好ましくない。なお、熱膨張性物質の150℃での蒸気圧は、ランキン−デュプレの蒸気圧式により近似される値とする。
【0040】
このような熱膨張性物質としては、上記の蒸気圧を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、イソアルカン、ノルマルアルカン等の炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種が例示される。イソアルカンとしては、イソブタン、イソペンタン、2−メチルペンタン、2−メチルヘキサン、2,2,4−トリメチルペンタン等を挙げることが出来、ノルマルアルカンとしては、n−ブタン、n−プロパン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等を挙げることが出来る。これらの炭化水素は、それぞれ単独で使用しても複数を組み合わせて使用してもよい。また、上記以外の物質であっても、これらの炭化水素と混合することにより150℃での蒸気圧が1.4〜3.0MPaになれば混合して使用することが出来る。
【0041】
また、熱膨張性物質の好ましい形態としては、常温で液体の炭化水素に、常温で気体の炭化水素を溶解させたものが良い。このような炭化水素の混合物を使用することにより、未加硫タイヤの加硫成形温度領域(150〜190℃)において、低温領域から高温領域にかけて充分な膨張力を得ることが出来る。
【0042】
本発明のゴム組成物に白色充填剤としてシリカを配合するとき、シランカップリング剤をゴム組成物中のシリカの配合量に対して3〜15重量%を配合すると良く、より好ましくは5〜10重量%を配合すると良い。シランカップリング剤を配合することにより、シリカの分散性を向上しゴムとの補強性を高めることが出来る。シランカップリング剤がシリカ配合量の3重量%より小さいとシリカの分散が悪化する。シランカップリング剤がシリカ配合量の15重量部より大きいと所望の硬度や、器械物性を得ることができない。
【0043】
シランカップリング剤の種類は、シリカ配合のゴム組成物に使用可能なものであれば特に制限されるものではないが、例えば、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等の硫黄含有シランカップリング剤を例示することが出来る。
【0044】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤、加工助剤などのタイヤトレッド用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を配合することが出来、かかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することが出来る。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることが出来る。このようなゴム組成物は、公知のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することが出来る。
【0045】
本発明のタイヤ用ゴム組成部はスタッドレスタイヤのトレッド部を構成するのに好適である。このように構成されたトレッド部は、氷上性能と耐摩耗性能とを高度に両立することが出来る。
【0046】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
表1〜2に示す配合において、表3に示す配合剤を共通配合とし、加硫促進剤、硫黄及び熱膨張性マイクロカプセル(マイクロカプセル1〜5)を除く成分を1.7リットル密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、155±10℃に達したときに放出して室温冷却した。これに加硫促進剤、硫黄及び熱膨張性マイクロカプセル(マイクロカプセル1〜5)を配合し、バンバリーミキサーで混合し、13種類のゴム組成物(比較例1〜7、実施例1〜6)を調製した。尚、比較例6及び7は予め表面処理を施した熱膨張性マイクロカプセル(マイクロカプセル3及び2)を配合する代わりに、表面処理を施さない熱膨張性マイクロカプセル(マイクロカプセル1)並びにシランカップリング剤1及び2を独立して別々に配合した例である。
【0048】
得られた13種類のタイヤ用ゴム組成物(比較例1〜7、実施例1〜6)を所定の金型中で160℃で20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を調整した。得られた加硫ゴム試験片の氷上性能及び耐摩耗性能を下記に示す方法により評価した。
【0049】
氷上性能
得られた加硫ゴム試験片を偏平円柱状の台ゴムに貼り付け、インサイドドラム型氷上摩擦試験機を用いて、測定温度−1.5℃、荷重5.5kg/cm3、ドラム回転速度25km/hの条件で氷上摩擦係数を測定した。得られた氷上摩擦係数を、比較例1の値を100とする指数にして「氷上性能」として表1及び2に示した。この指数値が大きいほど氷上摩擦力が大きく氷上性能が優れることを意味する。
【0050】
耐摩耗性能
得られた加硫ゴム試験片を、JIS K6264に準拠して、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所社製)を使用して、荷重39N、スリップ率30%の条件で摩耗量を測定した。得られた結果は、代較例1の摩耗量の逆数を100とする指数として表1及び2に示した。この指数が大きいほど摩耗量が少なく耐摩耗性能が優れることを意味する。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
なお、表1,2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、BON BUNDIT社製STR20、ガラス転移点Tg=−65℃
・BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol BR1220、ガラス転移点Tg=−110℃
・マイクロカプセル1:表面処理を行っていない熱膨張性マイクロカプセル、松本油脂製薬社製マイクロスフェアF100
・マイクロカプセル2:化学式(1)で表わされるエポキシ基を有するアルコキシシラン誘導体で表面処理を施した熱膨張性マイクロカプセル、マイクロカプセル2の調製は、熱膨張性マイクロカプセル(松本油脂製薬社製マイクロスフェアF100)100重量部に対し、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製のZ−6040)5重量部を溶媒(水)で希釈したものを混合した後、乾燥し溶媒(水)を除去した。
・マイクロカプセル3:化学式(2)で表わされる硫黄を含むアルコキシシラン誘導体で表面処理を施した熱膨張性マイクロカプセル、このマイクロカプセル3の調製は、熱膨張性マイクロカプセル(松本油脂製薬社製マイクロスフェアF100)100重量部に対し、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド(エボニックデグサ社製のSi69)5重量部を溶媒(水)で希釈したものを混合した後、乾燥し溶媒(水)を除去した。
・マイクロカプセル4:化学式(3)で表わされるアルキル基を有するアルコキシシラン誘導体で表面処理を施した熱膨張性マイクロカプセル、このマイクロカプセル4の調製は、熱膨張性マイクロカプセル(松本油脂製薬社製マイクロスフェアF100)100重量部に対し、n−オクチルトリエトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製のZ−6341)5重量部を溶媒(水)で希釈したものを混合した後、乾燥し溶媒(水)を除去した。
・マイクロカプセル5:化学式(1)で表わされるメルカプト基を有するアルコキシシラン誘導体で表面処理を施した熱膨張性マイクロカプセル、このマイクロカプセル5の調製は、熱膨張性マイクロカプセル(松本油脂製薬社製マイクロスフェアF100)100重量部に対し、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製のKBM−803)5重量部を溶媒(水)で希釈したものを混合した後、乾燥し溶媒(水)を除去した。
・カーボンブラック、キャボットジャパン社製ショウブラックN339
・シリカ:エボニックデグサ社製ULTRASIL VN−3
・シランカップリング剤1:エボニックデグッサ社製Si69
・シランカップリング剤2:東レ・ダウコーニング社製Z−6040
また、表3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・酸化亜鉛:正同化学社製酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸YR
・老化防止剤:フレキシス社製6PPD
・ワックス:大内新興化学社製パラフィンワックス
・オイル:昭和シェル社製エクストラクト4号S
・硫黄:細井化学社製油処理イオウ
・加硫促進剤:三新化学社製サンセラーCM−G
【0055】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜6のタイヤ用ゴム組成物は、いずれも比較例1と比べ氷上性能及び耐摩耗性能を維持・向上することが出来た。
【0056】
一方、表2の結果から明らかなように、比較例2のタイヤ用ゴム組成物は表面処理を施していない熱膨張性マイクロカプセル(マイクロカプセル1)を多く含むので耐摩耗性能が悪化した。比較例3のタイヤ用ゴム組成物は表面処理を施した熱膨張性マイクロカプセル(マイクロカプセル2)の配合量が10重量部を超えるため耐摩耗性能が悪化した。比較例4のタイヤ用ゴム組成物はカーボンブラック及びシリカの配合量の合計が70重量部を超えるためゴムのtanδが高く、発熱性能が悪化してしまった。比較例5のタイヤ用ゴム組成物はカーボンブラック及びシリカの配合量の合計が20重量部未満であるため耐摩耗性が不足する。
【0057】
また、比較例6及び7のタイヤ用ゴム組成物は予め表面処理を施した熱膨張性マイクロカプセルを配合する代わりに表面処理を施していない熱膨張性マイクロカプセル(マイクロカプセル1)とアルコキシシラン誘導体(シランカップリング剤1及び2)を別々に配合したので、氷上性能及び耐摩耗性能を向上する効果が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対して、カーボンブラック及び白色充填剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の充填剤を20〜70重量部、熱膨張性マイクロカプセルを0.5〜10重量部配合すると共に、該熱膨張性マイクロカプセルがアルコキシシラン誘導体にて表面処理を施されたものであることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記アルコキシシラン誘導体が下記式(1),(2)又は(3)で表わされることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【化1】

(式中、R1 及びR2 は互いに独立にメチル基又はエチル基、R3 は炭素数1〜3のアルキレン基又は二つの互いに独立した炭素数1〜3のアルキレン基をN又はO原子を介して結合した2価の基、Xはアミノ基、エポキシ基、(メタ)アクリロキシ基、イソシアネート基、メルカプト基又はウレイド基、nは0〜2の整数である。)
【化2】

(式中、R1 及びR2 は互いに独立にメチル基又はエチル基、R4 は炭素数1〜3のアルキレン基、nは0〜2の整数、mは1〜4の整数である。)
【化3】

(式中、R1 及びR2 は互いに独立にメチル基又はエチル基、R5 はビニル基、炭素数1〜12の直鎖、分岐、又は環状構造のいずれかからなるアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基、nは0〜2の整数である。)
【請求項3】
前記熱膨張性マイクロカプセルの殻材としてニトリル系重合体を使用したことを特徴とする請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ジエン系ゴムの平均ガラス転移温度が−50℃以下であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物を使用したことを特徴とするスタッドレスタイヤ。
【請求項6】
下記式(1),(2)又は(3)で表わされるアルコキシシラン誘導体により表面処理が施されたことを特徴とする熱膨張性マイクロカプセル。
【化4】

(式中、R1 及びR2 は互いに独立にメチル基又はエチル基、R3 は炭素数1〜3のアルキレン基又は二つの互いに独立した炭素数1〜3のアルキレン基をN又はO原子を介して結合した2価の基、Xはアミノ基、エポキシ基、(メタ)アクリロキシ基、イソシアネート基、メルカプト基又はウレイド基、nは0〜2の整数である。)
【化5】

(式中、R1 及びR2 は互いに独立にメチル基又はエチル基、R4 は炭素数1〜3のアルキレン基、nは0〜2の整数、mは1〜4の整数である。)
【化6】

(式中、R1 及びR2 は互いに独立にメチル基又はエチル基、R5 はビニル基、炭素数1〜12の直鎖、分岐、又は環状構造のいずれかからなるアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基、nは0〜2の整数である。)

【公開番号】特開2012−177027(P2012−177027A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40444(P2011−40444)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】