説明

タイヤ用補強材

【目的】 撚り工程を要せず、容易かつ安価に製造でき、スチールコードの伸び特性と実質的に同一で、柔軟性に優れ、しかもゴムとの接着性が良好なタイヤ用補強材材となし、タイヤの軽量化と長寿命化を可能よする。
【構成】 偏平率45〜90%の断面偏平な1本のスチールフィラメントからなり、かつ上記フィラメントがP=8d0 〜18d ,d=1.1d 〜1.6d(P:スパイラルピッチ、d=スパイラル径、d =フィラメントの平均径)を満足する略スパイラル状を呈して成る。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、主としてタイヤのベルト部、カーカス部に配設するタイヤ用補強材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来よりこの種の補強材には、図3に示すような、細径スチールフィラメントを複数本稠密に撚り合せた、所謂スチールコード3と称する撚鋼線が用いられている。
上記スチールコード3は、一般に、線材に鉛パテンティング等の熱処理と伸線加工とを繰返し行なった後、ブラスメッキを施し、所定の線径まで伸線加工を行なってフィラメント4とし、次いでこのフィラメント4を複数本撚り合せることにより製造されている。
【0003】
ところで、タイヤ用補強材としての不可欠な要件は、必要な強度を有し、しかも優れた柔軟性を具備することである。
上記スチールコード3にあっては、そのフィラメントがナイロン、ポリエステル等の繊維フィラメントに比べ強度面で優れるが、柔軟性に劣るため、複数本のフィラメントを撚り合せて柔軟性を向上しようとするものである。このため、撚り工程を要し、容易かつ安価に製造できないという問題がある。
【0004】
また、上記スチールコード3は、各フィラメント4が密着して撚り合せられているため、タイヤ成形時にゴムがコード中央部の空洞部Dまで浸入せず、コード長手方向に連続してこの空洞部Dが存在することとなる。したがって、上記スチールコード3を使用したタイヤでは、ゴムとコードとの接着がコードの外周部でのみなされているため、ゴムとコードとが剥離する、所謂セパレーツ現象を起こし易く、またフィラメント相互間のフレッティング摩耗も生じ易い。しかも空洞部Dが存在するため、外部より浸透した水分が上記空洞部D内に至り、コード長手方向に連続して錆を発生させることとなる。このため、タイヤの寿命を短命化させるという問題がある。
【0005】
上記課題に鑑み、近年、撚り工程を要せず安価に製造でき、かつゴムとの接着性が良好で、しかも、柔軟性に優れた単線構造のタイヤ用補強材が種々提案されている。
例えば、特開昭48−63961号公報にはフィラメントを波状に加工成形したものが、また特開昭50−4359号公報にはフィラメントを螺旋状に加工成形したものが、夫々開示されている。
【0006】
【考案が解決しようとする課題】
上記構成のタイヤ用補強材にあっては、単線構造とすることにより撚り工程を省略し、かつゴムとの接着性を良好にし、また波状あるいは螺旋状に加工成形することにより破断伸度を繊維に相当する程度迄大きくして柔軟性を向上することができる。
【0007】
しかし、上記従来の単線構造のタイヤ用補強材にあっては、いずれも荷重に対する伸び特性の点で問題があった。すなわち、上記タイヤ用補強材はフィラメントに過大な波状あるいは螺旋状のくせを施すことで破断伸度を非常に大きくしたものである。したがって、このタイヤ用補強材に引張荷重が付与される場合、過大な波状あるいは螺旋状のくせ形状が元に戻ろうとする特性と、鋼自体が伸びようとする特性とが複雑に混在し、一次弾性限(変曲点)が低荷重時に存在することとなる。なお、一般に一次弾性限以上の荷重が付与されると、元のくせ形状には戻らず、永久歪を生ずることとなる。
【0008】
よって、上記補強材をタイヤのベルト部に使用した場合、接地面が平坦でなかったり、空気圧が少なくなる等してベルト部に一次弾性限以上の荷重が付与されると、タイヤ用補強材に永久歪が生ずることとなり、ゴムと補強材とが剥離する、所謂セパレーツ現象を起こしたり、時にはタイヤが変形することがある。
【0009】
本考案は上記課題に鑑みてなしたものであり、前記スチールコード3の伸び特性と実質的に同一で、かつゴムとの接着性が良好で、柔軟性に優れ、しかも安価なタイヤ用補強材を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本考案のタイヤ用補強材は、長径d1 に対する短径d2 の比(偏平率)が45〜90%である断面偏平な1本のスチールフィラメントからなり、かつ上記スチールフィラメントがP=8d0 〜18d0 、d=1.
1d0 〜1.6d0 、(ただし、P:スパイラルピッチ(mm)、d:スパイラル径(mm)、do:(d1 +d2 )/2(mm))を満足する略スパイラル形状を呈して成る。
【0011】
上記スパイラルピッチP、スパイラル径dはタイヤ用補強材の伸び特性において相互関係にある。
P=8d0 〜18d0 としたのは、8d0 よりも小さいと、製造が困難であるばかりか、くせ付け時に無理な塑性変形を施すこととなり、耐疲労性が著しく低下し、一方、18d0 よりも大きいと、dとの兼ね合いもあるが伸び特性が真直なフィラメントと同様となり、柔軟性に劣るためタイヤ用補強材として不適なものとなることによる。
【0012】
また、d=1.1d0 〜1.6d0 としたのは、1.1d0 よりも小さいと、Pとの兼ね合いもあるが伸び特性が真直なフィラメントと同様となり、柔軟性に劣り、一方、1.6d0 よりも大きいと、一次弾性限が低荷重時に存在することとなり、前記種々の弊害を招き、本考案の目的を達成できないことによる。
【0013】
さらに、スチールフィラメントの断面形状を偏平となし、その偏平率を45〜90%としたのは、偏平となすことで表面積を増加させ、ゴムとの接着性を向上しようとするものであるが、45%未満であると、フィラメント長手方向に圧縮を受けると座屈し易くなって耐疲労性に劣るようになり、一方、90%を超えると、ゴムとの接着性の向上が望めないことによる。
ここで、偏平率とは、偏平率=d2 /d1 ×100で表される数値である。
【0014】
また、本考案のタイヤ用補強材にあっては、単線構造であるため、タイヤの内圧保持性、耐カット性等を良好に保つためにも、上記d0 を0.25〜0.50mm、引張強さを300kgf/mm2 以上、破断伸度を4%以下にする必要がある。
【0015】
【実施例】
以下本考案の一実施例を図面に基づき説明する。
【0016】
(実施例1)
炭素含有量0.85wt%の高炭素鋼線に熱処理および伸線加工を繰返し行なった後、ブラスメッキを施し、更に略楕円形の孔を有する複数枚の引抜きダイスを用いて減面率97.6%の伸線加工を行ない、長径d1 =0.38mm、短径d2 =0.21mm、引張強さ360kgf/mm2 の断面偏平な楕円形状のスチールフィラメントを得た。次いで、このフィラメントに、ピッチP=3.6mm、径d=0.42mmとなる略スパイラル状のくせを施して、図1に示すタイヤ用補強材1を得た。この補強材1の引張強さは340kgf/mm2 、破断伸度は3.2%であった。
【0017】
(実施例2)
炭素含有量0.85wt%の高炭素鋼に熱処理および伸線加工を繰返し行なった後、ブラスメッキを施し、更に減面率96.7%の伸線加工を行ない、線径0.30mm、引張強さ350kgf/mm2 の断面略円形の真直なスチールフィラメントを得た。次いで、このフィラメントを上下より押圧ローラにより押圧して、長径d1 =0.36mm、短径d2 =0.24mmの断面偏平なフィラメントとし、しかる後、ピッチP=3.6mm、径d=0.38mmとなる略スパイラル状のくせを施して、図2に示すタイヤ用補強材2を得た。なお、上記スパイラル状のくせを施すに際しては、フィラメントにピッチPと同ピッチの捻じりを付与した。この補強材2の引張強さは330kgf/mm2 、破断伸度は3.0%であった。
【0018】
本考案における略スパイラル形状を呈するフィラメントは、実施例2に示すように、スパイラルピッチPと同ピッチで捩じれていてもよく、更には、スパイラルピッチPと異なるピッチで捩じれていてもよい。
【0019】
ところで、上記実施例1、2におけるフィラメントへの略スパイラル状のくせ付けは、撚線機に設けたくせ付けピン間や、その後に設けた千鳥状に配した小径ローラ間にフィラメントを通すことにより容易に行なうことができる。また、フィラメントを歯車等に噛み込ませ、そのフィラメントを捻じることによっても行なうことができる。なお、スパイラルのピッチP、径dは、前者にあってはピンやローラ間の間隔、撚線機の回転数等を調整することにより、また後者にあっては歯車の形状、フィラメントの捻り回数等を調整することにより所望の数値に設定できる。
【0020】
次に、炭素含有量0.85wt%の高炭素鋼よりなる単線構造のタイヤ用補強材を表1に示すような構成で作成し、夫々についてゴム接着性、破断伸度および耐疲労性の評価を行なった。結果は同表に示す。なお、表1中、d1 はフィラメントの長径、d2 はフィラメントの短径、d0 はその平均値、Pはスパイラルピッチ、dはスパイラル径、RAはゴム接着性、BLは破断伸度およびRFは耐疲労性を表す。
【0021】
【表1】


【0022】
この評価に際して、ゴム接着性RAは、ASTM D2229に基づくゴム−スチールワイヤ加硫試片を作成後、引抜きテストを行ない、その引抜力を求め、比較例1を100として指数で表示した。
【0023】
疲労性RFは、タイヤ用補強材を複数本ゴムシートに埋込み、このシートを用いて、3点プーリ曲げ疲労試験機で以て、破断に至るまでの繰返し回数を求め、比較例1のものを100として指数で表示した。
【0024】
表1において、比較例1、2は断面略円形および偏平な真直なフィラメントよりなる補強材であり、破断伸度小さく、柔軟性に欠ける。
また、比較例3〜6は略スパイラル状のくせを有するフィラメントよりなる補強材であるが、フィラメントの偏平比および略スパイラル状のくせ形状が本考案のものとは異なり、ゴム接着性、伸び特性および耐疲労性のいずれか、またはこれらの複数が劣る。
【0025】
これに対して、本考案1〜4は、ゴム接着性、伸び特性および耐疲労性のいずれをも満足しており、ゴム製品の補強材として好適である評価が得られた。
【0026】
【考案の効果】
本考案のタイヤ用補強材は、上記構成になしたため、撚り工程を要せず、容易かつ安価に製造でき、ゴムとの接着性も良好となる。特に、フィラメントに略スパイラル状のくせとは別の自転すべく捻りを付与した場合にあっては、補強材が恰も楔の如き作用をなし、ゴムに対し強固に噛込んで、ゴムとの接着性が更に向上する。また、伸び特性が良好であるため、それに起因するセパレーツ現象およびタイヤの変形等が防止できるという優れた効果を奏する。
さらに、被覆するゴム量を少なくできるため、省エネ化の観点から要求されるタイヤの軽量化を実現可能となる等の優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案の一実施例のタイヤ用補強材の構造を示す概略図。
【図2】本考案の他の実施例のタイヤ用補強材を示し、(イ)は概略正面図、(ロ)は概略断面図。
【図3】従来の1×5撚り構造のスチールコードを示す概略断面図。
【符号の説明】
1、2 タイヤ用補強材
3 スチールコード
4 スチールフィラメント
P スパイラルピッチ
d スパイラル径
1 フィラメントの長径
2 フィラメントの短径

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 長径d1 に対する短径d2 の比(偏平率)が45〜90%である断面偏平な1本のスチールフィラメントからなり、かつ上記スチールフィラメントがP=8d0 〜18d0 、d=1.1d0 〜1.6d0 (ただし、P:スパイラルピッチ(mm)、d:スパイラル径(mm)、d0 :(d1 +d2 )/2(mm))を満足する略スパイラル形状を呈することを特徴とするタイヤ用補強材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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