説明

タイヤ製造用水系セメント

溶媒としての水、架橋性不飽和鎖状ポリマー基材、硫黄、補強性充填剤、酸化亜鉛、促進剤、および一般式(I)[R123NR5(N(R43n(n+1)+(n+1)X-{式中:Xはアニオン性の原子または基であり;R1、R2およびR3は、同一でも異なってもよく、それぞれCm2m+1(ここで、mは1〜3の範囲である)またはCH2CHCH2またはCHCHCH3であり;R4はCH2CHCH2またはCHCHCH3であり;nは0または1であり;R5はnが0のときC15〜C22の脂肪族基であり、nが1のときC8〜C16の脂肪族基であり;nが0のとき、R1、R2、R3およびR5の少なくとも1つは二重結合を有する}で表わされる乳化剤を有する、タイヤ製造用水系セメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤ製造用の水系セメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ製造において、セメントは通常有機溶媒系である。この種のセメントは、接着性が高く、また、主としてゴムが有機溶媒中で容易に溶解し、他のゴムと混合し、有機溶媒が蒸発すると実質1つの断片を形成するので、使いやすい。
【0003】
環境上の理由で、最近の欧州指針はタイヤ産業に有機溶媒の使用の大幅な削減を課しているので、製造業者はゴム層の正確な接着を確保するための代替案の考案を余儀なくされている。
【0004】
従来のセメントの1つの代替品として、溶媒としての有機溶媒を水で置き換えた水系のセメントがあるが、該水系セメントによれば、本質的に疎水性の材料の水中での分散を確保する問題が引き起こされる。これは、既知のように、問題の材料を結合できる疎水性基と、その水中での分散を確保できる親水性基とを含む乳化剤を用いて解決される。乳化剤は通常特定の化合物について選択的に有効であるので、水系セメントの製造には異なるタイプの乳化剤を用いることを要する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
試験により、多量および異なるタイプの乳化剤の存在がセメントの接着強度を低下させ得ることが示されてので、使用する乳化剤の量およびタイプ数の両方を減らすため、広範囲の材料に対して効果的な水系セメントの乳化剤に対する強い需要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
出願人は、驚くべきことに、水系セメントの様々な成分に対して広く効果的な特定のクラスの乳化剤を見出した。
【0007】
本発明によれば、溶媒としての水、架橋性不飽和鎖状ポリマー基材、硫黄、補強性充填剤、酸化亜鉛、および促進剤を含み、
一般式(I):
[R123NR5(N(R43n(n+1)+(n+1)X- (I)
{式中、
Xはアニオン性の原子または基であり、
1、R2およびR3は、同一でも異なってもよく、それぞれCm2m+1(ここで、mは1〜3の範囲である)またはCH2CHCH2またはCHCHCH3であり、
4はCH2CHCH2またはCHCHCH3であり、
nは0または1であり、
5はnが0のときC15〜C22の脂肪族基であり、nが1のときC8〜C16の脂肪族基であり、
nが0のとき、R1、R2、R3およびR5の少なくとも1つは二重結合を含む}で表わされる乳化剤を含むこと特徴とする、
タイヤ製造用水系セメントが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
好ましくは、前記水性セメントは、5〜80重量%の水、10〜60重量%の架橋性不飽和鎖状ポリマー基材、0.2〜1重量%の硫黄、1〜25重量%の補強性充填剤、0.1〜3重量%の酸化亜鉛、および0.1〜1重量%の促進剤を含み、該セメントは0.1〜10重量%の前記一般式(I)の乳化剤を含むことを特徴とする。
【0009】
好ましくは、R1、R2およびR3はCH2CHCH2である。
【0010】
好ましくは、R1、R2およびR3はCH2CHCH2であり、R5は二重結合を含み、nは0である。
【0011】
好ましくは、R1、R2およびR3はCH2CHCH2であり、nは1であり、R5は飽和脂肪族基である。
【0012】
好ましくは、前記セメント中の乳化剤の量は0.5〜5重量%の範囲である。
【0013】
以下の実施例は、本発明のより明快な理解のためのもので、純粋に例示的および非限定的なものである。
【実施例】
【0014】
本発明に従う6つの水系セメント(A、B、C、D、E、F)を調製した。
【0015】
表1は6つのセメントの組成を重量パーセントで示す。
【0016】
【表1】

【0017】
セメントAに用いた本発明に従う乳化剤(a)は、式[(CH33N(CH28CHCH(CH27CH3+-で表わされる。
【0018】
セメントBに用いた本発明に従う乳化剤(b)は、式[(CH2CHCH23N(CH215CH3+Br-で表わされる。
【0019】
セメントCに用いた本発明に従う乳化剤(c)は、式[(CH3)(CH2CHCH22N(CH215CH3+-で表わされる。
【0020】
セメントDに用いた本発明に従う乳化剤(d)は、式[(CH2CHCH2)(CH32N(CH215CH3+-で表わされる。
【0021】
セメントEに用いた本発明に従う乳化剤(e)は、式[(CH2CHCH23N(CH28CHCH(CH27CH3+-で表わされる。
【0022】
セメントFに用いた本発明に従う乳化剤(f)は、式[(CH2CHCH23N(CH212N(CH2CHCH232+2Br-で表わされる。
【0023】
本発明に従うセメントの利点を正確に評価するため、2つの比較セメント(GおよびH)を調製した。セメントGは溶剤系セメントであり、セメントHは既知の水系セメントである。
【0024】
表2はセメントGおよびHの組成を重量パーセントで示す。
【0025】
【表2】

【0026】
セメントHに用いた標準的な乳化剤は、酸化亜鉛、硫黄、および促進剤を分散させるためのナフチルスルホン酸;カーボンブラックを分散させるためのエトキシ化脂肪族アミンおよびエトキシ化脂肪酸である。
【0027】
専門家には明らかであろうが、天然ゴムに加えて、本発明に従うセメントは、共役ジエンおよび/または脂肪族もしくは芳香族ビニルモノマーの重合により得られるいずれかの架橋性鎖状ポリマー基材を含むことができる。例えば、使用可能なポリマー基材は、天然ゴム、1,4−シスポリイソプレン、ポリブタジエン、場合によってはハロゲン化したイソプレン−イソブテンコポリマー、ブタジエン−アクリロニトリルコポリマー、ともに溶液およびエマルジョン中のスチレン−ブタジエンコポリマーおよびスチレン−ブタジエン−イソプレンターポリマー、ならびにエチレン−プロピレン−ジエンターポリマーを含む群から選択される。上記ポリマー基材は、単独でも混合して用いてもよい。
【0028】
実験室での試験
各セメントは、ASTM Standard D624に従って、未加硫ゴムおよび硬化ゴムの両方について接着試験し、ASTM Standard D5289に従ってレオメトリック特性について試験し、ASTM Standard D6080に従って粘度試験した。表3に試験結果を示す。
【0029】
【表3】

硬化ゴムはASTM Standard 1382に従って、160℃の一定温度で10分間硬化させることにより得た。

【0030】
表3に示すように、式(I)の乳化剤を用いた本発明に従うセメントは、従来技術の水系セメントと比べて乳化剤が少なくて済み、それ自体の安定性が高く、溶剤系セメントよりさらに大きな接着強度を有する。
【0031】
つまり、共通する乳化剤を用いることで、異なるタイプの乳化剤を用いる必要がなくなり、使用する乳化剤の量を大幅に減らすことができる。
【0032】
表3に結果を示すように、特許請求の範囲に記載の乳化剤を用いることは、粘度およびレオメトリック特性等のセメントの他の特性を全く損なわない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒としての水、架橋性不飽和鎖状ポリマー基材、硫黄、補強性充填剤、酸化亜鉛、および促進剤を含み、
一般式(I):
[R123NR5(N(R43n(n+1)+(n+1)X- (I)
{式中、
Xはアニオン性の原子または基であり、
1、R2およびR3は、同一でも異なってもよく、それぞれCm2m+1(ここで、mは1〜3の範囲である)またはCH2CHCH2またはCHCHCH3であり、
4はCH2CHCH2またはCHCHCH3であり、
nは0または1であり、
5はnが0のときC15〜C22の脂肪族基であり、nが1のときC8〜C16の脂肪族基であり、
nが0のとき、R1、R2、R3およびR5の少なくとも1つは二重結合を含む}で表わされる乳化剤を含むこと特徴とする、
タイヤ製造用水系セメント。
【請求項2】
5〜80重量%の水、10〜60重量%の架橋性不飽和鎖状ポリマー基材、0.2〜1重量%の硫黄、1〜25重量%の補強性充填剤、0.1〜3重量%の酸化亜鉛、および0.1〜1重量%の促進剤を含み、
0.1〜10重量%の前記一般式(I)の乳化剤を含む
ことを特徴とする、請求項1に記載のタイヤ製造用水系セメント。
【請求項3】
1、R2およびR3がCH2CHCH2であることを特徴とする、請求項1または2に記載のタイヤ製造用水系セメント。
【請求項4】
1、R2およびR3がCH2CHCH2であり、R5が二重結合を含み、nが0であることを特徴とする、請求項1に記載のタイヤ製造用水系セメント。
【請求項5】
前記乳化剤が[(CH2CHCH23N(CH28CHCH(CH27CH3+-であることを特徴とする、請求項4に記載のタイヤ製造用水系セメント。
【請求項6】
1、R2およびR3がCH2CHCH2であり、nが1であり、R5が飽和脂肪族基であることを特徴とする、請求項1に記載のタイヤ製造用水系セメント。
【請求項7】
前記乳化剤が[(CH2CHCH23N(CH212N(CH2CHCH232+2X-であることを特徴とする、請求項6に記載のタイヤ製造用水系セメント。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の水系セメントを用いて製造したタイヤ。

【公表番号】特表2012−506934(P2012−506934A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533716(P2011−533716)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064251
【国際公開番号】WO2010/049470
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】