説明

タイヤ

【目的】 ベルト層に埋設のスチールコードにおいて、コード素線間の空隙面積が最小で、コード外側の包絡面及び屈曲部脇の隙間から内側径断面三角形状の包絡面とがゴムで密接状に覆われ一体的に結合し、コードとゴムとの結合性を高め、耐久性が高く、品質が均一なタイヤをうる。
【構成】 ベルト層2における撚り本数3〜5本のスチールコード3において、1又は2本の素線からなる芯線4と、螺旋状に撚合わした2〜4本の素線からなる側線5とで構成され、芯線は偏心した小さな螺旋状態を保ち、側線は芯線の偏心差以上に偏心した大きな螺旋状態を保ち、そして芯線と側線の1本以上の素線が螺旋方向に沿い繰返される屈曲部6,7を有し、且隣合う屈曲部と素線部分間に隙間を形成し、芯線4と側線5更らに側線の各素線同士相互に密接状に隣合い、コード3における外側の包絡面及び屈曲部脇の内側径断面三角形状の包絡面とがゴムで密接状に覆われ一体的に埋設される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、乗用車やトラックなどの各種輸送手段の乗り物に使用されるタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】従来のタイヤでは、ベルト層に埋設されているスチールコードがオープン撚りのものであり、非オープン撚りコードを埋設したもの(図7の(A)参照)と比べてゴムの侵入性が良好なもの(図7の(B)参照)である。
【0003】ところが、ベルト層における前記のオープン撚りコードは、ベルト層に在って長手方向の撚りが不安定であるために、トッピング工程中の作業性が悪くて、経済的に割高であると共にベルト層の品質にバラツキが生じやすいという問題がある。さらに、撚り本数中の1〜2本に引張り応力が偏って、極端に早く断線する傾向があり、耐久性の面でも問題がある。
【0004】しかも、コード中心部の空隙面積が大きいために、この大きな空隙面積を充填する侵入ゴム量が多く必要であると共に場合によってはゴムが十分に充填されていないことさえもあり、且つ前記の撚りの不安定を助長することにもなる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】解決しようとする課題は、ベルト層におけるスチールコードとゴムの結合性、品質、耐久性のいずれかに問題がある点である。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明のタイヤでは先の課題を達成するために、ベルト層に埋設状のスチールコードが、3本乃至5本の素線で撚合わされて、1本又は2本の素線からなる芯線と、この芯線に軸線方向に螺旋状に撚り合わした2本乃至4本の素線からなる側線とで構成され、芯線はその素線中心軸線がコード軸線から偏心した軸線方向に小さな螺旋状態を保ち、側線はその各素線中心軸線がコード軸線から前記芯線の偏心差以上に偏心した軸線方向に大きな螺旋状態を保ち、そして芯線と側線の素線の内の1本以上の素線が螺旋方向に沿い繰返される屈曲部を有し、前記芯線と側線の隣り合う素線同士が径断面三角形状に隣接し且つ隣り合う屈曲部と素線部分との間における隙間を残して、芯線と側線さらに側線の各素線同士で相互に密接状に隣り合っており、このコードにおける外側の包絡面および前記隙間から内側の径断面三角形状の包絡面がともにゴムで密接状に覆われて一体的に埋設されていることを特徴とする。
【0007】また、本発明における屈曲部を有する素線は、芯線および側線における素線であったり、側線における素線であったり、芯線における素線であっても良く、適宜選択される。
【0008】また、本発明におけるコード軸線に対する芯線と側線の偏心差は、断線と伸びの相関関係を考慮して適宜選択される。また、側線では芯線における偏心差を上回るように設定され、同側線の素線が複数本である場合、各素線の偏心差はコード断面構成によって必然的に選択される。
【0009】また、屈曲部のピッチとしては素線径の10〜50倍であり、その素線径としては0.15〜0.38mmφであって、ともにタイヤとの関係を考慮して適宜選択される。又、屈曲部を有する素線が2本以上の場合、各素線における屈曲部はコード軸線方向に一致している態様あるいはズレている態様のいずれでも良い。
【0010】
【作用】ベルト層におけるコードは、その最小断面積の径断面三角形状の空隙にゴムが隙間から充填しているから、空隙にはゴムの充填不足による空間が存在するようなことが無くなる。そして、コードの外側の包絡面および隙間そして同隙間を通じた内側の径断面三角形状の包絡面にはゴムが密接して、コードの内外の包絡面とゴムとによる強固な結合状態を保持する。さらに、ベルト層に在ってコードは、撚りが安定して初期伸度が小さく、しかも、芯線および側線がコード軸線に対して互いに偏心度合を違えながら、コード軸線方向に螺旋状態を保持してゴムと結合していることにより、特定の素線に引張り応力が負荷されない。
【0011】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
【0012】図1乃至図3例示した第1実施例のタイヤ1は、所望のタイヤ形状に成型しており、そのベルト層2にはスチールコード3を埋設している。
【0013】スチールコード3は5本撚りのもので、1本の素線4aからなる芯線4と残りの4本の素線5a,5b,5c,5d からなる側線5とからなり、芯線4は同芯線の中心軸線bがコード軸線aから偏心した長手方向に小さな螺旋状態を保ちながら且つ線方向に沿い屈曲部6を繰り返し有し、この芯線4に螺旋状に撚り合わした側線5は同側線の各素線中心軸線cがコード軸線aから前記芯線4の偏心差以上に偏心した長手方向に大きな螺旋状態を保つと共に各素線のうちの二番目と三番目の真中の2本の素線5b,5c について線方向に沿い屈曲部7を繰返し有しており、そして、芯線4と側線5は隣り合う素線4a,5a 〜5d同士が径断面三角形状に隣接して相互に密接状に隣り合う態様に撚り合わされている。
【0014】また、芯線4と側線5における隣り合う屈曲部6,7および素線部分との間にはそれぞれ隙間8が形成されており、これらの各隙間8は芯線4と側線5間との間の三箇所に形成されている径断面三角形状の空隙9と連通していて、この三箇所の空隙9それぞれに対して隙間8が二箇所以上で通じ、各空隙9にはゴム10が同時に二箇所以上の隙間8から効率的に十分に充填されている。
【0015】ベルト層2中におけるスチールコード3とゴム10との結合状態は、コードの外側の包絡面3aが同包絡面3aに密接したゴム10で覆われ、そして、コードの内側の径断面三角形状の包絡面3bが隙間8から侵入して空隙9に充填したゴム10で密接状に覆われており、隙間8および空隙9をゴム10で隙間無く埋められ且つ内外の包絡面3a,3b をゴム10で密封状に包み込まれて、ベルト層2内にコードがゴムと一体に結合して埋設されている。
【0016】この態様のものでは、側線5における素線を、屈曲部7を有するものと有しないもの各二本で構成したが、どちらかを1本として他を3本とすることも任意であり、又、配列についても屈曲部7を有する素線を端にしたり或いは屈曲部7がない素線と交互させたり自在である。
【0017】図4に例示した第2実施例のタイヤ1は、所望のタイヤ形状に成型しており、そのベルト層2にはスチールコード3を埋設している。
【0018】スチールコード3は5本撚りのもので、1本の素線4aからなる芯線4は素線の中心軸線bがコード軸線aから適宜偏心した長手方向に小さな螺旋状態を保ち、この芯線4に螺旋状に撚り合わした側線5は各素線の中心軸線cがコード軸線aから前記芯線4の偏心差以上に偏心した長手方向に大きな螺旋状態を保つ4本の素線5a〜5dからなると共にその内の一番目と三番目の2本の素線5a,5c については螺旋方向に沿い屈曲部7を繰返し有しており、そして、芯線4と側線5は隣り合う素線4a,5a 〜5d同士が径断面三角形状に隣接して相互に密接状に隣り合う態様に撚り合わされている。
【0019】また、側線5における屈曲部7と隣り合う素線部分との間にはそれぞれ隙間8が形成されており、これらの各隙間8は芯線4と側線5間との間の三箇所に形成されている径断面三角形状の空隙9と連通していて、この三箇所の空隙9それぞれに対して隙間8が少なくとも一箇所以上で通じ、各空隙9にはゴムが同時に各隙間8から効率的に十分に充填されている。
【0020】ベルト層2中におけるスチールコード3とゴム10との結合状態は、コードの外側の包絡面3aが同包絡面3aに密接したゴム10で覆われ、そして、コードの内側の径断面三角形状の包絡面3bが隙間8から侵入して空隙9に充填したゴム10で密接状に覆われており、隙間8および空隙9をゴム10で隙間無く埋められ且つ内外の包絡面3a,3b をゴム10で密封状に包み込まれて、ベルト層2内にコードがゴムと一体に結合して埋設されている。
【0021】この態様のものでは、側線5を、屈曲部7を有する素線2本と屈曲部7を有しない素線2本で構成したが、その構成比および配列は任意であり、たとえば構成本数の全てを屈曲部がある素線とすることも自由である。
【0022】図5に例示した第3実施例のタイヤ1は、所望のタイヤ形状に成型しており、そのベルト層2にはスチールコード3を埋設している。
【0023】スチールコード3は5本撚りのもので、1本の素線4aからなる芯線4は素線の中心軸線bがコード軸線aから適宜偏心した長手方向に小さな螺旋状態を保ちながら且つ線方向に沿い屈曲部6を繰り返し有し、この芯線4に螺旋状に撚り合わした側線5は各素線の中心軸線cがコード軸線aから前記芯線4の偏心差以上に偏心した長手方向に大きな螺旋状態を保つ4本の素線3a〜3dからなっており、そして、芯線4と側線5は隣り合う素線4a,5a 〜5d同士が径断面三角形状に隣接して相互に密接状に隣り合う態様に撚り合わされている。
【0024】また、芯線4における屈曲部6と隣り合う各素線5a〜5d部分との間にはそれぞれ隙間8が形成されており、これらの各隙間8は芯線4と側線5間との間の三箇所に形成されている径断面三角形状の空隙9と相互に連通していて、この三箇所の空隙9それぞれに対して隙間8が少なくとも一箇所以上で通じ、さらに、素線4aと素線5b,5c との間に形成されている空隙9に対しては隙間8の他にも、素線4aと素線5a,5b の間および素線4aと素線5c,5d の間の各空隙9を経て通じており、各空隙9にはゴムが各隙間8および同空隙9を通じて十分に充填されている。
【0025】ベルト層2中におけるスチールコード3とゴム10との結合状態は、コードの外側の包絡面3aが同包絡面3aに密接したゴム10で覆われ、そして、コードの内側の径断面三角形状の包絡面3bが隙間8から侵入して空隙9に充填したゴム10で密接状に覆われており、隙間8および空隙9をゴム10で隙間無く埋められ且つ内外の包絡面3a,3b をゴム10で密封状に包み込まれて、ベルト層2内にコードがゴムと一体に結合して埋設されている。
【0026】又、図5に例示した態様のもので、側線5の構成本数を3本とすれば、コードを4本撚りのものにすることも可能である。
【0027】図6に例示した第4実施例のタイヤ1は、所望のタイヤ形状に成型しており、そのベルト層2にはスチールコード3を埋設している。
【0028】スチールコード3は4本撚りのもので、2本の素線4a,4b からなる芯線4は素線の中心軸線bがコード軸線aから適宜偏心した長手方向に小さな螺旋状態を保ち、この芯線4に螺旋状に撚り合わした側線5は各素線の中心軸線cがコード軸線aから前記芯線4の偏心差以上に偏心した長手方向に大きな螺旋状態を保つ2本の素線5a,5b からなると共にその2本の素線5a,5b については螺旋方向に沿い屈曲部7を繰返し有しており、そして、芯線4と側線5は隣り合う素線4a,4b,5a5b同士が径断面三角形状に隣接して相互に密接状に隣り合う態様に撚り合わされている。
【0029】また、芯線4と側線5における隣り合う屈曲部7と素線部分との間にはそれぞれ隙間8が形成されており、これらの各隙間8は芯線4と側線5間との間の二箇所に形成されている径断面三角形状の空隙9と連通していて、この二箇所の空隙9それぞれに対して隙間8が二箇所以上で通じ、各空隙9にはゴムが同時に二箇所以上の隙間8から効率的に十分に充填されている。
【0030】ベルト層2中におけるスチールコード3とゴム10との結合状態は、コードの外側の包絡面3aが同包絡面3aに密接したゴム10で覆われ、そして、コードの内側の径断面三角形状の包絡面3bが隙間8から侵入して空隙9に充填したゴム10で密接状に覆われており、隙間8および空隙9をゴム10で隙間無く埋められ且つ内外の包絡面3a,3b をゴム10で密封状に包み込まれて、ベルト層2内にコードがゴムと一体に結合して埋設されている。
【0031】この態様のものでは、側線5を、2本の素線5a,5b とも屈曲部7を有するもので構成したが、素線5a,5b の1本または2本を屈曲部7が無いものとする一方、芯線4側の素線4a,4b の1本または2本を屈曲部6が有るものとして構成するのも任意であり、さらに、撚り構成本数の全てを屈曲部がある素線とすることも自由である。
【0032】表1は、図1に例示した第1実施例のタイヤと、図7の(A)および(B)に示した比較例のタイヤを、各試験項目の破断力、低荷重伸び率(0〜5kg間)、ゴムの侵入性について、試験結果を示している。尚、コードの撚り本数および径は5×0.25とし、表中における※印で示した項目はクローズドコードに対する比率で示し、屈曲部のピッチにおけるdは素線径(mm)を示している。
【0033】
【表1】


【0034】表1によってあきらかな通り、本発明品は低荷重伸び率が比較例1のものの数値に近似した少ない伸び率を示し、そして、ゴム浸入性では比較例2と同じに100 %であった。これに対して、比較例1および2ともに一長一短があることを確認した。
【0035】
【発明の効果】
イ.ベルト層におけるコードは、その最小断面積の径断面三角形状の空隙にゴムが隙間から充填しているから、空隙にはゴムの充填不足による空間が存在するようなことが無くて、コードの腐食を未然に阻止でき、しかも、コードの外側の包絡面および隙間そして同隙間を通じた内側の径断面三角形状の包絡面にゴムが密接しているので、コードの内外の包絡面とゴムとによる強固な結合状態を保持して耐久性が高い。
ロ.ベルト層におけるコードは、芯線および側線がコード軸線に対して互いに偏心度合を違えながら、コード軸線方向に螺旋状態を保持してゴムと結合しているので、特定の素線に引張り応力が負荷されるようなことが無くなり、一部の素線が早期に断線することも無く、各素線本来の強度に近づけることができ、耐久性が高い。
ハ.ベルト層におけるコードとゴムとの結合性が高いため、品質的にバラツキが無く、品質が均一である。
ニ.ベルト層におけるコードの撚りが安定して初期伸度が小さいため、トッピング工程中の作業性が良好で経済的に有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のタイヤの第1実施例を示す部分正面図で一部断面して示す。
【図2】(A)は図1のA−A拡大断面図、(B)は図1R>1のB−B拡大断面図、(C)は図1のC−C拡大断面図、(D)は図1のD−D拡大断面図。
【図3】屈曲部を有する素線の部分縮小正面図。
【図4】本発明の第2実施例のタイヤを示す拡大断面図。
【図5】本発明の第3実施例のタイヤを示す拡大断面図。
【図6】本発明の第4実施例のタイヤを示す拡大断面図。
【図7】(A)はクローズドコードを埋設した従来のタイヤを示す部分拡大断面図、(B)はオープンコードを埋設した従来のタイヤを示す部分拡大断面図。
【符号の説明】
1 タイヤ 2 ベルト層
3 スチールコード 4 芯線
4a,4b 芯線の素線 5 側線
5a,5b,5c,5d 側線の素線 6 芯線の屈曲部
7 側線の屈曲部 8 隙間
9 空隙 10 ゴム
a コード軸線 b 芯線における素線の中心軸線
c 側線における素線の中心軸線 3a コードの外側の包絡面
3b コードの内側の包絡面

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ベルト層に埋設状のスチールコードが、3本乃至5本の素線で撚合わされて、1本又は2本の素線からなる芯線と、この芯線に軸線方向に螺旋状に撚り合わした2本乃至4本の素線からなる側線とで構成され、芯線はその素線中心軸線がコード軸線から偏心した軸線方向に小さな螺旋状態を保ち、側線はその各素線中心軸線がコード軸線から前記芯線の偏心差以上に偏心した軸線方向に大きな螺旋状態を保ち、そして芯線と側線の素線の内の1本以上の素線が螺旋方向に沿い繰返される屈曲部を有し、前記芯線と側線の隣り合う素線同士が径断面三角形状に隣接し且つ隣り合う屈曲部と素線部分との間における隙間を残して、芯線と側線さらに側線の各素線同士で相互に密接状に隣り合っており、このコードにおける外側の包絡面および前記隙間から内側の径断面三角形状の包絡面がともにゴムで密接状に覆われて一体的に埋設されていることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】 芯線における素線が螺旋方向に沿い繰返される屈曲部を有することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のタイヤ。
【請求項3】 側線における素線が螺旋方向に沿い繰返される屈曲部を有することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のタイヤ。
【請求項4】 芯線および側線における素線が螺旋方向に沿い繰返される屈曲部を有することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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