説明

タウタンパク質スクリーニングアッセイ

本発明は、試験化合物が、神経構造物内のタウタンパク質誘発長期増強低下を緩和することができるか否かを決定する方法を目的とする。本発明はまた、試験化合物が、タウタンパク質による損傷の後で、神経構造物内のシナプス機能を再確立または救済することができるか否かを決定する方法を目的とする。さらに、試験化合物が、タウタンパク質と接触した神経構造物内のシナプス機能を高めることができるか否かを決定する方法、および、試験化合物が、アルツハイマー病または他のタウ障害を対象者で治療することができるか否かを決定する方法もまた本発明に包含される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本特許出願明細書は著作権保護を必要とする要素を含んでいる。本著作権者は、前記が米国特許商標局の特許ファイル又は記録に記載されたとき、特許書類又は特許出願明細書の何人によるファクシミリ複写も妨げないが、ただし前記以外では一切の著作権を留保する。
本出願は、米国仮特許出願60/967,924号(2007年9月7日出願、前記文献の開示の全てが参照により本明細書に含まれる)の優先権を主張する。
本明細書に引用する全ての特許、特許出願及び刊行物は参照によりその全体が本明細書に含まれる。これら刊行物の開示の全てが、本明細書に記載の発明の日に当業者に公知の技術状況をより完全に説明するために参照により本明細書に含まれる。
【0002】
(背景技術)
アルツハイマー病(AD)の古典的診断基準は、アミロイドベータタンパク質(Aβ)の沈着物又は凝集物から成るニューロン間プラーク(斑)、およびタウタンパク質のニューロン内神経原線維変化(NFT)である。AD進行中に、脳脊髄液(CSF)中のタウレベルによって指し示される細胞外タウレベルは増加する(Formichi et al. 2006)。
ADにおけるプラーク(斑)および変化並びに他の神経変性疾患における不溶性タンパク質の凝集物は、これまで薬剤発見の試みの主要な標的であった。動物および細胞モデルを用いる伝統的な標的の識別(ゲノミクスおよびプロテオミクス)では、タンパク質の折畳み失敗および凝集の抑制を目指す有用な標的または薬剤を識別することができない。なぜならば、タンパク質の折畳み失敗または凝集を引き起こす分子的事象は、伝統的な薬剤標的の働きとは全く別物であるからである。したがって、オリゴマー形成は製薬企業の伝統的な標的識別方法では見分けることができず、タンパク質のオリゴマー化と密接に関係する症状を緩和する試験化合物の能力を判定するスクリーニング方法が希求される。本発明はこれらの希求に主眼を置く。
【0003】
(発明の概要)
ある特徴では、本発明は、試験化合物が神経構造物(neural structure)内の長期増強(long term potentiation)のタウタンパク質誘発低下を緩和することができるか否かを決定する方法に関する。前記方法は、(a)タウタンパク質を含む溶液および試験化合物と神経構造物を接触させる工程、(b)神経構造物内のニューロン間の長期増強を刺激する工程、(c)神経構造物内のニューロン間の長期増強を測定する工程、および(d)(c)で測定した長期増強を、化合物の非存在下でタウタンパク質と接触させた神経構造物内のニューロンで測定した長期増強と比較する工程を含み、ここで、化合物の非存在下で測定した長期増強と比較して(c)で測定した長期増強が増加すれば、試験化合物が神経構造物内のタウタンパク質誘発長期増強低下を緩和することを示す。
別の特徴では、本発明は、試験化合物が、タウタンパク質による損傷の後で、神経構造物内のシナプス機能を再確立または救済することができるか否かを決定する方法に関する。前記方法は、(a)タウタンパク質を含む溶液および試験化合物と神経構造物を接触させる工程、(b)神経構造物内のニューロン間の長期増強を刺激する工程、(c)神経構造物内のニューロン間の長期増強を測定する工程、および(d)(c)で測定した長期増強を、化合物の非存在下でタウタンパク質と接触させた神経構造物内のニューロンで測定した長期増強と比較する工程を含み、ここで、化合物の非存在下で測定した長期増強と比較して(c)で測定した長期増強が増加すれば、試験化合物が、タウタンパク質による損傷の後で、神経構造物内のシナプス機能を再確立または救済することを示す。
【0004】
さらに別の特徴では、本発明は、試験化合物がタウタンパク質と接触した神経構造物内のシナプス機能を高めることができるか否かを決定する方法に関する。前記方法は、(a)タウタンパク質を含む溶液および試験化合物と神経構造物を接触させる工程、(b)神経構造物内のニューロン間の長期増強を刺激する工程、(c)神経構造物内のニューロン間の長期増強を測定する工程、および(d)(c)で測定した長期増強を、化合物の非存在下でタウタンパク質と接触させた神経構造物内のニューロンで測定した長期増強と比較する工程を含み、ここで、化合物の非存在下で測定した長期増強と比較して(c)で測定した長期増強が増加すれば、試験化合物がタウタンパク質と接触した神経構造物内のシナプス機能を高めることを示す。
さらに別の特徴では、本発明は、試験化合物が対象者のアルツハイマー病を治療することができるか否かを決定する方法に関する。前記方法は、(a)タウタンパク質を含む溶液および試験化合物と神経構造物を接触させる工程、(b)神経構造物内のニューロン間の長期増強を刺激する工程、(c)神経構造物内のニューロン間の長期増強を測定する工程、および(d)(c)で測定した長期増強を、化合物の非存在下でタウタンパク質と接触させた神経構造物内のニューロンで測定した長期増強と比較する工程を含み、ここで、化合物の非存在下で測定した長期増強と比較して(c)で測定した長期増強が増加すれば、試験化合物が対象者のアルツハイマー病を治療することができることを示す。
【0005】
さらにまた別の特徴では、本発明は、試験化合物が対象者のタウ障害性疾患(tauopathy disorder)を治療することができるか否かを決定する方法に関する。前記方法は、(a)タウタンパク質を含む溶液および試験化合物と神経構造物を接触させる工程、(b)神経構造物内のニューロン間の長期増強を刺激する工程、(c)神経構造物内のニューロン間の長期増強を測定する工程、および(d)(c)で測定した長期増強を、化合物の非存在下でタウタンパク質と接触させた神経構造物内のニューロンで測定した長期増強と比較する工程を含み、ここで、化合物の非存在下で測定した長期増強と比較して(c)で測定した長期増強が増加すれば、試験化合物が対象者のタウ障害性疾患を治療することができることを示す。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかのある実施態様では、神経構造物は海馬の薄片である。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかの別の実施態様では、神経構造物をタウタンパク質および試験化合物と順次接触させる。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかのさらに別の実施態様では、神経構造物をタウタンパク質および試験化合物と並行して接触させる。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかのさらに別の実施態様では、神経構造物をタウタンパク質および試験化合物と約30分接触させる。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかの別の実施態様では、接触工程は神経構造物の灌流を含む。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかのさらに別の実施態様では、本方法は、工程(a)の前に長期増強基準示度(baseline long term potentiation reading)を入手する追加工程を含む。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかのさらにまた別の実施態様では、タウタンパク質の濃度は約1pMから約5μMである。
【0006】
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかの別の実施態様では、タウタンパク質は、モノマー、可溶性オリゴマー、不溶性凝集物または前記の任意の組合せである。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかの別の実施態様では、タウタンパク質は、6つの公知のアイソフォームのいずれか、並びに酵素的および非酵素的に改変したタウ分子を含む任意の誘導体である。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかの別の実施態様では、タウタンパク質は、神経変性疾患と密接に関係する他のタンパク質、例えばベータアミロイドおよびアルファ-シヌクレインとの混合物である。本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかの別の実施態様では、前記溶液は、神経変性疾患と密接に関係する1つまたは2つ以上のタンパク質をさらに含む。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかの別の実施態様では、タウタンパク質はオリゴマーであり、前記には可溶性オリゴマーが含まれる。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかのさらにまた別の実施態様では、タウタンパク質は凝集してあり、前記には不溶性タウ凝集物が含まれる。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかのさらに別の実施態様では、タウタンパク質は、3Rもしくは4Rアイソフォームまたは前記の任意のフラグメントである。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかの別の実施態様では、タウタンパク質は過リン酸化されている。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかのさらに別の実施態様では、タウタンパク質はP301L変異を含む。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかの別の実施態様では、タウタンパク質は、タウタンパク質による微小管結合に影響を及ぼす変異を含む。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかのさらにまた別の実施態様では、試験化合物は、小分子、分子性化合物ライブラリー由来の分子、タンパク質、ペプチド、核酸、合成分子、炭水化物、ペプチド模倣体、脂質、抗体などである。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかのさらに別の実施態様では、2つ以上の試験化合物を神経構造物と接触させる。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかのさらに別の実施態様では、本方法は、神経構造物をキナーゼ阻害剤と接触させる追加の工程を含む。
本明細書に記載した本発明の特徴のいずれかのさらにまた別の実施態様では、本方法は、神経構造物をホスファターゼ阻害剤と接触させる追加の工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】可溶性オリゴマーはアミロイドタンパク質の急性毒性構造である。アミロイドのためにチオフラビンS染色を用いたAD患者の脳の組織病変を示す。図1A:主としてAβ原線維から成るアミロイド斑。図1B:タウフィラメントを含む神経原線維変化。
【図2】アルツハイマー病の病理学で役割を果たす生体分子および薬剤開発のために利用される標的の模式図。タウタンパク質およびAβの可溶性オリゴマーはともに神経毒性であることが示されてきたが、一方、沈着Aβから成るアミロイド斑および凝集タウタンパク質から成る神経原線維変化は、これらの神経毒性オリゴマー中間体を隔離させる細胞性応答であるかもしれない。Roberson & Muckeの論文(100Years and Counting: Prospects for Defeating Alzheimaer's disease. Science 2006, 314:781-784)から翻案した。
【図3】脳内のタウオリゴマーの蓄積はADの進行と相関性を示す。患者の脳標本の死後解析は、AD進行中にタウオリゴマーレベルが増加することを示している。生化学的方法を用いて、脳標本から顆粒状タウオリゴマーを精製した。オリゴマーの検出並びにオリゴマーのサイズおよび数の定量に原子力顕微鏡法(atomic force microscopy)を用いた。
【図4】CA1-LTPに対する可溶性タウの影響。タウタンパク質を含む溶液による20分灌流は、シェーファーの側副枝経路の持続性筋強直刺激による長期増強(LTP)の誘発後120分で増強を顕著に低下させた。3つの矢印は3つの連続シータ-バースト(theta-burst)持続性筋強直刺激を表す。バーはタウオリゴマーによる灌流を表す。
【図5】タウ412タンパク質調製物の銀染色ゲル。SDS-PAGEは、4−20%のトリス-HCl(Biorad)にて80ボルト30分、続いて230ボルト60分で実施した。ゲルを脱イオン水で2回洗浄し、続いて50%メタノール/10%酢酸で10分固定した。その後、ゲルをSilverExpress(Invitrogen)で染色した。レーン1:タウタンパク質(主としてモノマー)、レーン2:インキュベーション後のタウタンパク質オリゴマー。
【図6】タウオリゴマー用ELISAによってAD患者の脳脊髄液(CSF)中にタウオリゴマーが検出される。CSF中のタウオリゴマーの検出。コロンビア大学メディカルセンター(CUMC)のNew York Brain Bank(NYBB)由来のCSF標本をELISA(捕捉体:mAbT46;レポーター:A11)で分析し、タウオリゴマーを測定した。結果を疾患の重篤度に応じて分類し、ADの細胞外タウオリゴマーの生物学的関連性を証拠立てる。タウオリゴマーレベルは相対的蛍光単位(RFU)によってy軸上に示される。
【図7】タウオリゴマー形成アッセイ。図7A:多価陰イオンの存在下(桃色)で、または多価陰イオンの非存在下(青色)でインキュベートしたタウタンパク質についてサイズ選別クロマトグラフィーを実施した。コントロール反応のみがタウタンパク質のモノマーおよびダイマーを示している。図7B:多価陰イオン存在下(桃色)でのタウオリゴマー形成のタイムコースは迅速なタウオリゴマーの形成を示している。多価陰イオンの非存在下(青色)では、オリゴマーは形成されなかった。
【図8】タウオリゴマー形成を阻害する化合物のスクリーニング
【図9】オリゴマーの形状に特異的な抗体A11を用いたタウオリゴマー形成の立証。TRQ=RNAとインキュベートしたタウ412;TC=緩衝液中でインキュベートしたタウ412。
【図10】タウオリゴマーは、記憶低下関連動物モデルで蓄積し、さらにAD並びに染色体17リンク前側頭部痴呆およびパーキンソン病(FTDP-17)の患者の抽出物で見出される。
【図11】タウの低下はAβを過剰発現するマウスの水迷路(water maze)欠損を予防する。3日間の隠ぺいプラットフォーム訓練の完了後24時間のネズミの水迷路における典型的な経路探索が示されている。正常レベルのタウおよびAβを有するマウス(Tau+/+)は、隠ぺいされたプラットフォームの位置を、タウレベルは正常であるがAβを過剰発現するマウス(hAPP/ Tau+/+)よりも良好に記憶する。しかしながら、Aβを過剰発現するがタウ遺伝子を欠くマウス(hAPP/ Tau-/-)はTau+/+マウスよりもさらに良好な記憶を示す。
【図12】タウオリゴマーについて515kDの見かけの分子量を示すタウ412モノマー(より微量)およびオリゴマーのゲルろ過。
【0008】
(発明を実施するための形態)
本明細書で引用される特許、特許出願および他の刊行物は、参照により本明細書に含まれることが具体的かつ個々に指示されたかのように同程度にその各々が参照により本明細書に含まれる。
英文明細書の単数形の“a”、“an”、および“the”には、明瞭にそうでないことが内容によって示されないかぎり対応する複数形が含まれる。
本明細書では“約”という用語を用いて、だいたい、おおざっぱに、またはおよそを意味する。数字で表される範囲と一緒に“約”という用語が用いられるときは、前記用語は、指定の数値の上下の境界を広げることによって当該範囲を調節する。一般的には、“約”という用語を用いて、表示の値の上下20%の変動で数値が調節される。
本発明は、可溶性タウオリゴマーに暴露した海馬薄片を用いるex vivoアッセイで化合物を識別するスクリーニング方法を提供する。本発明のin vivoスクリーニング方法は、P301Lマウスにおける変異タウの過剰発現による行動の欠如、組織病理学的および生化学的変化の判定に用いることができる。ある特徴では、本発明は、タウオリゴマーin vitroアッセイで化合物ライブラリー由来の化合物をスクリーニングする方法を提供する。ある実施態様では、前記ライブラリーは、in vitroでタウ原線維形成(fibrillation)を阻害する化合物を含むことができる。別の特徴では、本発明は、タウオリゴマーを阻害または解離させる化合物の能力を試験する方法を提供する。別の特徴では、本発明は、オリゴマーを阻害または解離させることができ、さらに可溶性タウオリゴマーに暴露した海馬薄片を用いるex vivoアッセイでシナプス機能を救済するために良好な毒性プロフィルを有する化合物の能力を試験して、in vivo試験のための化合物を選別する方法を提供する。別の特徴では、本発明は、タウオリゴマーによる行動変化を妨害にするin vivoスクリーニングアッセイを提供する。別の特徴では、本発明は、可溶性タウの影響を緩和する試験化合物をスクリーニングするアッセイを提供する。前記アッセイは、試験化合物を用量依存態様で評価するために用いることができる。別の特徴では、本発明は、ADおよび他のタウ障害用の薬剤開発のために、タウがLTPおよび潜在的に新規な標的(例えば細胞外タウの毒性を仲介するレセプター)を阻害するメカニズムを発見するツールを提供する。
【0009】
タウタンパク質
タウタンパク質は50−64kDaのニューロン微小管結合タンパク質(MAP)であり、主として中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)ニューロンの軸索内で発現される。タウタンパク質はチューブリンモノマーの微小管へのアッセンブリングおよびニューロン微小管ネットワークを構成する機能において重要な役割を果たし、さらに微小管と他の細胞骨格成分との間の連係を確立させる。細胞微小管のバンドリングおよび安定化を誘発することによって、タウは、ニューロン細胞の極性を確立および維持するという機能に加えて、軸索の成長を促進させる。タウの発現は、別々のスプライシングメカニズムを介して発育に応じて調節され、6つの異なるアイソフォームが成人の脳に存在する。CNSアイソフォームは、11エキソンの別々のmRNAスプライシングによって生成される。エキソン2(E2)、3(E3)および10(E10)の別々のスプライシングによって、352から441アミノ酸の範囲の6つのタウアイソフォームが生じる。これらのアイソフォームには、タウ352、タウ383、タウ410、タウ412およびタウ441が含まれる。前記アイソフォームは、それらが、各々31または32アミノ酸の3つ(タウ-3L、タウ-3Sまたはタウ-3;まとめて3R)または4つ(タウ-4L、タウ-4Sまたはタウ-4;まとめて4R)のチューブリン結合ドメイン/リピート(R)をC-末端に含んでいるか否かで異なる。それらはまた、各々29アミノ酸の2つ(タウ-3L、タウ-4L)もしくは1つ(タウ-3S、タウ-4S)のリピートまたはリピートなし(タウ-3、タウ-4)を当該分子のN-末端部分に有することで異なっている。末端のリピート配列は、エキソン9、10、11または12によってコードされる。タウは発育に応じて調節されるので、胎児の脳ではもっとも短いタウアイソフォーム(タウ-3)のみが発現されるが、成人の脳では6つのアイソフォームの全てが認められる。タウの微小管との相互作用は、C-末端領域のチューブリン結合ドメイン/リピートによって仲介される。
【0010】
ある特徴では、タウの生物学的活性はリン酸化によって調節される。タウリン酸化は発育に応じて調節され、胎児のタウは、成人のCNSと比較して胚CNSでより高度にリン酸化され、成人の6つのタウアイソフォームのリン酸化の程度は年齢とともに低下する。タウと微小管との結合の調節に対する個々の部位の相対的な重要性は明らかではないが、いくつかの部位、例えばセリン-262およびセリン-396のリン酸化は、タウと微小管との結合の低下において主要な役割を果たすと報告されている。両部位は胎児のタウでリン酸化され、さらにそれらは、アルツハイマー病(AD)で二重らせん線維(PHF)を形成する、成人の6つのヒト脳タウアイソフォームの全てで過リン酸化される。過リン酸化によってタウは微小管表面から取り除かれ、軸索の完全性の低下および有害なタウペプチドの蓄積がもたらされる。
主要なタウキナーゼ候補にはマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3b、サイクリン依存キナーゼ2(cdk2)、サイクリン依存キナーゼ5、cAMP依存タンパク質キナーゼ、Ca2+sub/カルモジュリン依存タンパク質キナーゼII、微小管親和性調節キナーゼおよびストレス活性化タンパク質キナーゼが含まれる。グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3が脳で主要なタウキナーゼとして機能する可能性があるが、タウのリン酸化が示唆される多数の他のキナーゼも存在する。さらにまた、タンパク質ホスファターゼはタウキナーゼの作用を消す。例えば、培養ヒトニューロンでのオカダ酸によるタンパク質ホスファターゼの阻害は、タウリン酸化増加、タウの微小管との結合低下、安定な微小管の選択的破壊および急速な軸索の変性をもたらす。リン酸化に加えて、タウはまた、ユビキチン化、ニトロ化、切端化、プロリル異性化、ヘパラン硫酸プロテオグリカンとの結合、グリコシル化、グリケーションおよび上級グリケーション最終生成物による改変を受ける。
【0011】
タウの変異体
種々の変異が、タンパク質機能を障害し、タウ原線維形成を促進し、またはタウ遺伝子スプライシングを混乱させて、異常で全く別個のタウ凝集物を生じる。今日まで2つのタイプの変異が常染色体優性タウ障害で識別されている。それらは、タウのスプライシングを破壊するイントロン変異およびタウの機能を変化させるミスセンス変異である。3Rタウおよび4Rタウアイソフォームの相対的な割合はスプライシングによって調節され、この正常な調節の低下はタウ凝集の原因となりえることを示す証拠が存在する。さらにまた、タウ変異体のトランスジェニックマウスは、行動的および神経病理学的欠陥を示し、タウ凝集はマウスおよびヒトで痴呆を引き起こすために十分である。
コード領域におけるミスセンス、欠失もしくはサイレント変異、またはタウ遺伝子におけるイントロン変異は、パーキンソン病の前側頭部痴呆(FTDP-17)の事例で発生し、認識神経学の調節との連関が指摘されている。微小管結合リピート領域内またはその近くに位置するコード領域変異は、微小管と相互作用するタウの能力を低下させ、一方、イントロン変異は4Rアイソフォーム発現レベルの増加をもたらして線維状タウ病変を生じる。前側頭部痴呆をもつ別個の3家族(タウ遺伝子のエキソン10に同じ分子変異(P301L)を有する)が報告されている。それにもかかわらず、臨床的特徴および病理学的所見における相違が同じ変異を保持する個体間で観察され、環境的および遺伝学的要因もまたタウ機能不全に影響を与ええることが指摘されている。
【0012】
タウ障害
本明細書に記載するように、タウの病理学的変化は中枢神経系のみに限られるわけではない(とはいえ認識神経学との顕著な連関が存在するが)。リン酸化タウを含む二重らせん線維のクラスター(“もつれ”)が封入体筋炎で観察される。タウ病変はまた筋緊張性ジストロフィーで報告されている。筋緊張性ジストロフィー1型(DM1)の成人患者はしばしば加齢による巣状痴呆を発症し、DMI患者の脳組織における異常なタウタンパク質発現を記載した最近の研究と一致する。
神経原線維変化の主要成分としてのタウの認定はADの病理発生におけるタウの関与を示唆したが、タウタンパク質の機能不全は、“タウ障害”と機能的に分類される多数の疾患の要因となることは今や公知である(表1)。タウ障害間には臨床的特徴の顕著なオーバーラップが存在する。神経原線維変化(NFT)はAD、FTDP-17、進行性核上麻痺(PSP)で生じるが、一方、神経網スレッド(neuropil thread)はAD、皮質基底神経節変性(CBD)、FTDP-17およびPSPで発生する。銀含浸技術およびタウのリン酸化または非リン酸化エピトープに対するモノクローナル抗体による免疫組織化学のような技術を用いて、ほとんどのタウ含有物を検出することができる。タウ陽性神経膠性含有物もまた稀突起神経膠細胞および星状細胞の両細胞で観察される。4クラスのタウ凝集物が記載され、前記には、1)ADおよびパーキンソン病痴呆症候群(6つのタウアイソフォーム);2)PSPおよびCBD(エキソン10に対応する配列を有する3つのアイソフォーム);3)ピック病(PiD)(エキソン10を含まない3つのアイソフォーム);および4)筋緊張性ジストロフィー(もっとも短いタウアイソフォーム)が含まれる。
【0013】
表1:タウ障害

【0014】
パーキンソン病およびパーキンソン症候群おけるタウ
タウタンパク質の沈着は変性性パーキンソン症候群の一因として認識されてきた。前記症候群には、進行性核上麻痺(PSP)、皮質基底神経節変性(CBD)、脳炎後および外傷後パーキンソン病、FTDP-17、および本来のパーキン変異ファミリーのグアムパーキンソン病痴呆症候群が同様に含まれる。タウ沈着は、種々の疾患のトポグラフィー、超微細構造およびタンパク質化学において一様ではない。淡蒼球内の皮質下破壊、視床下核および中脳/橋の小網形成(pontine reticular formation)並びに黒質対の均質な枯渇が進行性核上麻痺で網目を形成する。黒質と同様に淡蒼球の損傷がCBD、グアムパーキンソン病痴呆症候群および脳炎後パーキンソン病で提示されている。PSPのNFTはまっすぐな線維および主として4Rタウで形成される。種々の疾患で発現されるタウのアイソフォームは表2に示されている。もつれの形態はアイソフォームとともに変動する。6つのアイソフォームの全てが発現されるとき、それらは二重らせん線維であり、一方、4R疾患では、それらはねじれたリボン線維(PiDの場合)であるか、またはまっすぐな線維である(PSPの場合)。さらにまた、これら疾患の多くで、タウの病変は神経膠細胞でも同様に報告されている。
【0015】
表2:タウ神経変性性疾患およびタウのアイソフォーム

【0016】
ADにおけるタウ
アルツハイマー病(AD)は、脳内の細胞外老人斑および細胞内神経原線維変化の出現を特徴とする。老人斑はベータアミロイドペプチドにより構成され、一方、神経原線維変化は、タウの過リン酸化アイソフォームで形成される二重らせん線維(PHF)を含む。さらにまた、老人斑の分布は個体によって異なるが、神経原線維変化は再現性を有するパターンで形成される。それらは先ず初めに鼻内皮質(EC)に出現し、さらに海馬のような周辺領域に広がる。もつれの形成の進行と疾患の進行との間には相関性が存在する。タウリン酸化の増加はまたこの進行中にも観察される。
ASはさらに、選択された脳領域におけるシナプス密度の低下およびニューロンの消失という組織学的特徴を有する。タウ病変は、タウタンパク質のニューロン内結合による異常な線維形成と、より最近では細胞外タウ凝集と一致する。ADの脳では、タウは異常に過リン酸化され、主としてPHFとして存在する。超微細構造では、神経原線維病巣は、主要線維性成分として二重らせん病巣を、さらに少量成分としてまっすぐな線維(SF)含む。両方のタイプが、過リン酸化および異常リン酸化型の脳の6つのタウアイソフォームで形成される。
【0017】
脳脊髄の細胞外タウ
アミロイドタンパク質のオリゴマー(小さな可溶性凝集物)(図2に模式的に示されている)が多くのアミロイド疾患における病理学的実体であるという考えは新しく出現した範例であるが、前記は、タンパク質タウ、Aβ、α-シヌクレイン、および神経変性疾患と密接な関係を有するプリオンタンパク質に関して発表された最近の研究により実験的支持が高まりつつある(Kayed et al. 2003;Selkoe 2005;Haas and Selkoe, 2007)。オリゴマーは溶液状態であり、他の分子(すなわち酵素、レセプター、ポア、細胞膜)との分子性相互作用を仲介することができるが、一方、Aβ斑およびタウのもつれはより不活性である。
これまでの研究は、タウタンパク質の可溶性分画は、タウ障害の動物モデルで強い急性毒性を有し(SantaCruz et al. 2005;Leroy et al. 2007;Yoshiyama et al. 2007)、さらにタウマルチマー種の蓄積は、条件によりP301Lを発現するネズミモデルにおける疾患の進行と良好な相関性を有することを示している(Berger et al. 2007)。ADおよび非AD個体のヒトCSFの研究の結果は、タウの可溶性で細胞外オリゴマー種は疾患の進行と相関性を有するという観察を支持している。ネズミの海馬薄片を用いた研究は、シナプス可塑性に対する細胞外可溶性タウの阻害作用を示し、発症の原因となる細胞外可溶性タウ種の病理学的役割と一致する。タウタンパク質レベルの低下は、Aβ(Roberson et al. 2007)またはタウP301L(Asuni et al. 2007)を過剰発現するネズミモデルの行動に対し有益な影響を有する。可溶性タウオリゴマーレベルを低下させる化合物または可溶性タウオリゴマーの神経傷害メカニズムを阻害する化合物はADおよび他のタウ障害に対して有効でありえる。化合物は以下の能力について選択することができる:1)タウオリゴマー形成を阻害するかまたはそれらを破壊する能力、2)タウオリゴマーによって引き起こされたシナプスLTPの阻害を逆転させる能力、3)タウP301Lネズミモデルにおける行動の欠如を緩和させる能力。
【0018】
脳の損傷領域における細胞外のもつれの数と生存細胞の数の間には反対の関係が存在する。1つの結論は、原線維病巣を含むニューロンは変質してNFTを細胞外環境に遊離させる。同様にニューロンが死ぬとき、タウのような他の細胞内成分は細胞外間隙に放出され、続いて脳脊髄液(CSF)に遊離される。細胞外NFTは細胞外間隙に蓄積され、周囲の未損傷細胞にとって有害となる。生理的条件下では、本質的に全てのタウタンパク質(>95%)が微小管(MT)ネットワークにしっかりと結合している。しかしながら、病的条件下では、タウは異常な翻訳後事象、例えば過リン酸化によって改変されえよう。これらの改変は、MTから脱離し、さらに遊離形で蓄積するタウをもたらし、続いてそれらはニューロンが変性するときに細胞外間隙に入る。高濃度では、タウの自己凝集が発生し、それによって病的状態がさらに悪化する。さらにまた、タウは断片形で存在することが可能であり、急性発作後に上昇したCSFのタウレベルを正常に戻すために3から5ヶ月を要しえる。神経変性痴呆患者のCSFのタウ除去速度もまた明らかではない。
痴呆の診断におけるCSFタウの役割がELISA法を用いて調べられた。上昇CSFタウレベルはAD病変と密接に関係し、診断用バイオマーカー候補として用いることができる。ある研究では、84%、87%の陽性予想値および5.3の陽性蓋然性比が、認識が正常なコントロールからAD患者を識別するときに、234pg/ml CSFタウの打切り値を用いて観察された。CSFのリン酸化タウレベルは、ADの生物学的マーカーとして有用であることが判明した。上昇CSFタウはまた、CBD、FTDおよびクロイツフェルト-ヤコブ病(CJD)の患者の多くで報告されている。散発性CJDにおけるCSFでのより大量のリン酸化タウの存在が当該疾患の無動無言症への急速な進行と密接に関係していることが示された。
【0019】
タウオリゴマーの生成および定量
標準化された簡単な方法を用いて、in vitroでタウオリゴマーを生成、識別および定量することができる。この方法は、プリオンタンパク質のオリゴマーの形成を促進するRNAの能力に基づく(Vasan et al. 2006)。当該方法は、タウをオリゴマーの形成を促進するRNA(RQ11+12)とインキュベートする工程を必要とする。反応は生理学的pHおよび温度で生じ、30−60分で完了させることができる。例えば、米国特許出願11/704,079は、可溶性タウオリゴマーの形成を発生させ、多価陰イオン分子の使用により生理学的pHおよび温度で低タウ濃度で安定化させる方法を記載している。
【0020】
タウオリゴマーを破壊する化合物のスクリーニング
神経変性疾患に対して有効な薬剤標的を系統的に認定しようとする試み(有効な薬剤療法発見のための最初の工程)は、これら疾患の基礎的なメカニズムがあまり理解されていないために今日まで成功していない。新薬剤開発における主要な技術的ハードルは、薬剤が疾患の進行を緩和するように作用しえる、疾患に特異的な生物学的標的の認定である。治療用標的の認定には、分子レベルおよび細胞レベルでの疾患の病因に関する固有の知識、および標的に作用する模範化合物のその後の開発のための適切な動物モデルが必要である。
タウオリゴマーと結合しこれを変化させる化合物は、タウオリゴマーの毒性を崩壊させることができる。これはいくつかの異なるメカニズムを介して生じえる:1)化合物はモノマーを安定化させ、神経障害性であるオリゴマーの形成を阻害することができる;2)化合物は有毒なオリゴマーと結合し、ニューロンにおけるそれらの有害な相互作用を阻止することができる(すなわちタウオリゴマーレセプターの結合またはタウオリゴマーポアの形成を阻止する);3)有毒なオリゴマーとの結合で、化合物はそれらオリゴマーのより小さく無害な種への分解を促進することができる;および4)タウタンパク質の代謝/クリアランスが、モノマータウへのシフトを促進する化合物によって促進されえる。これら経路の1つまたは2つ以上を介して機能する抗タウオリゴマー候補薬剤は、疾患緩和薬剤(DMD)の開発のために実質的な潜在性を有する。
最近の研究は、可溶性オリゴマー、Aβの場合はおそらくはトリマー(不可逆的に互いに結合した3つの同一タンパク質(Townsend, 2006))またはドデカマー(不可逆的に互いに結合した12の同一タンパク質(Lesne, 2006))が神経毒性の主要な仲介物質であり、ADのマウスモデルでのAβ原線維形成の促進は、可溶性オリゴマーの減少のために機能欠如を緩和させることを示している。したがって、可溶性Aβオリゴマーの増加の代償としてAβ原線維を減少させる薬剤は有害であるはずである(Cheng et al. 2007)。
【0021】
AD用薬剤発見の標的としてのタウタンパク質の有効性は、ADのためのマウスモデルでの最近の実験(タウレベルの低下はマウスをAβ誘発認知障害から防御することを示した)によって強力に支持されている(Roberson et al. 2007;Boston Globe Articleを参照されたい;Scienceの記事、”A New Take on Tau”を参照されたい)。タウ低下はまた、トランスジェニックおよび非トランスジェニックマウスの両マウスを興奮毒性(excitotoxicity)に対して防御した。著者らは、タウの低下はAβ誘発およびエキサイトトキシン誘発ニューロン機能不全を阻止することができ、さらにADおよび関連症状の治療のための有効な戦術でありえると結論した。リン酸化タウを減少させるための治療アプローチには、細胞性タンパク質の再折畳み/分解経路の操作(Goryunov et al. 2007)および免疫療法(Asumi et al. 2007)が含まれる。(ADおよび関連疾患におけるタウ仲介神経変性のごく最近の論評についてはBallatoreら(2007)の論文を参照されたい)。
タウおよび他のアミロイド凝集物と結合しさらにその分布を変化させることによって、ニューロンに対するそれらの毒性作用を破壊することができる。これは多数の異なる方法で生じえる:例えば、1)化合物はモノマーまたは神経毒性を誘発する凝集物よりも小さな凝集物を安定化させ、それによって毒性凝集物プールを減少させることができる;2)化合物は毒性凝集物と結合し、ニューロンにおけるそれらの有害な相互作用を阻止することができる;3)毒性凝集物と結合して、化合物はより小さく無毒な凝集物へとそれらの分解を促進することができる;4)Aβの代謝/クリアランスは、より小さな凝集サイズへのシフトを促進する化合物によって促進されえる。これらの経路の1つまたは2つ以上を介して機能する抗Aβ候補薬剤にはトラミプロセート(Kisilversky, Szarek & Weaver, 1997-2005;Gervais et al. 2006)およびイノシトールの異性体(McLaurin et al. 2006)が含まれる。
【0022】
試験化合物
試験化合物は、小分子、分子性化合物ライブラリー由来の分子、タンパク質、ペプチド、核酸、合成分子、炭水化物、ペプチド模倣体、脂質などが可能である。試験化合物はまた抗体でもよい。いくつかのタウ結合抗体が報告されていて、これらには表3に記載される抗体が含まれる。しかしながら、記憶低下がADおよび他のタウ障害の主要な臨床的特徴であるので、タウ誘発シナプス機能不全を調停するだけでなくタウ誘発記憶欠損を改善する化合物もアッセイすることができる。同様に、試験化合物はまた、タウP301Lマウスでタウオリゴマー形成およびタウリン酸化を阻害する能力について判定することができる。
【0023】
表3:タウ結合抗体

【0024】
本明細書に記載する方法でアッセイされる化合物は、無作為にまたは合理的に選択または設計することができる。化合物は、他の認定された活性化合物の構造を考慮することなく無作為に選択することができる。無作為に選択される化合物の例は、化学物質ライブラリー、ペプチドのコンビナトリアルライブラリー、生物の増殖ブロス、または植物抽出物の使用である。化合物はまた作為的基準で選択してもよい。合理的選択は、作用の標的または以前に認定された活性化合物の構造を基準にすることができる。特に、化合物は、アルツハイマー病の治療で使用するために現在研究されている化合物の構造を利用することによって、合理的に選択または合理的に設計することができる。
試験化合物は、例えばペプチド、小分子、およびビタミン誘導体とともに炭水化物であってもよい。試験化合物は、核酸、天然若しくは合成ペプチドまたはタンパク質複合体、または融合タンパク質であってもよい。それらはまた、抗体、有機若しくは無機分子または組成物、薬剤、および前記の物質のいずれかの任意の組合せであってもよい。それらは、検査、診断または治療目的に用いることができる。当業者は、本発明で有用な試験化合物の構造的特性に関しては制限が存在しないことを容易に理解できよう。
いくつかの化合物(例えば一般的な検査分子、例えばクルクミン、(-)-エピカテキン-3-ガレート、アズールB、モリンおよび/または前記の類似体もしくは誘導体を含む)は、本発明の方法を用いて試験することができる。
【0025】
タウオリゴマーは精製することができる。化合物はオリゴマー構造の破壊についてスクリーニングすることができる。例えば、タウオリゴマーは、サイズ選別クロマトグラフィーによってタウ412+RNA促進因子反応混合物から単離することができる。高分子量標準物(Amersham)を用いて、セファリルS-300カラム(1 x 31cm)の目盛定めを実施することができる。タウオリゴマー反応混合物のクロマトグラフィーをカラムで実施し、予め規定した時間間隔で(例えば6分毎に)1mL分画を採集することができる。タウエピトープに対する抗体(例えばアミノ酸159−163に対するmAb MN1000(Pierce)またはタウエピトープアミノ酸194−198に対するmAb MN1010(Pierce))を用いる標準的なサンドイッチELISAを用いて、タウピークを含む分画を検出することができる。オリゴマーピークの分子量を標準曲線から計算することができる。オリゴマーピークを含む分画をプールして濃縮することができる。本明細書に記載したELISAを用いて、化合物をオリゴマー構造のモノマーへの変換についてスクリーニングすることができる。
将来合成される化合物の選択は、現在進行している生物学的試験から拾い集めた構造-活性データから導き出すことができる。多様な構造を合成および試験することによって、分子の多様性を熟慮し、良好なPKプロフィルを与える化学的骨組みの中で最適な抗アミロイド原性活性の発見の蓋然性を高めることができる。合成は、適切に保護した二環式芳香族(例えば1-トシル-3-スタンニルインドール、2-メトキシナフタレン-6-ボロニックアシッド)のアリール臭化物またはアリールヨウ化物(例えば2-ブロモキノリン、6-ヨードナフタレン-2-オール)とのStilleまたはSuzukiカップリングを含むことができる。或いは3,3'-結合二インドール化合物のために、置換インドールを置換イサチン反応させることができる。所望の場合は、続いて前記の誘導物を生成することができる。
【0026】
透過電子顕微鏡(TEM)アッセイを用いて、タウ二重らせん線維(PHF)形成の阻害を測定することができる。例えばトリス緩衝液(50mM、pH7.4)中のタウ441の凍結アリコット(8.3mg/mL、60μL)を融解し、トリス緩衝液(50mM、pH7.4)で4μMに希釈することができる。72時間インキュベートした後、Cohenらの方法(Biochemistry 2006, 45:4727-35)を用いてTEMによって分析することができる。略記すれば、10μLのサンプルを炭素安定化Formvarフィルムで被覆した400メッシュの銅グリッド上に置き、60秒間静置する。続いて過剰な液を取り除き、続いて酢酸ウラニル(10μL、2%溶液)を用いて60秒間陰性染色することができる。再度過剰な液を除去し、グリッドを30分乾燥させ、80kVで電子顕微鏡を作動させてサンプルを観察した。活性な化合物は、コントロールと比較してタウPHFの数を減少させるか、および/または形態を変化させる。
チオフラビンS(ThS)アッセイを用いて、タウ凝集の阻害を測定することができる。例えば、タウ441を調製し、凍結アリコット(8.3mg/mL、60μL)としてトリス緩衝液(50mM、pH7.4)中で使用まで-78℃で保存することができる。化合物がタウ441の凝集を阻害するか否かを決定するために、タンパク質(4μM)を緩衝液(50mMトリス(pH7.4)、1mMジチオスレイトール、5μMチオフラビンS(ThS))中で37℃にてTecan Geniosマイクロプレートリーダーで48時間までインキュベートすることができる。原線維形成を誘発するために、緩衝液はヘパリン(4μg/mL)を含むことができる。インキュベーションは、黒色の96ウェルポリスチレンマイクロプレートでタウ溶液(200μL)を添加し、続いてDMSO中の化合物ストック溶液(2μL)またはベヒクルを添加することによって実施することができる。蛍光は、測定実施前に15秒浸透さらに10秒休止の後で15分毎に測定することができる(λex=450nm、λem=480nm)。タウ凝集を阻害する化合物は、コントロールのインキュベーションと比較して蛍光増加の低下によって認定することができる。
【0027】
海馬薄片
ある特徴では、本発明は、可溶性タウモノマーおよびオリゴマー(いずれもタウの可溶性マルチマー種)、並びに不溶性タウ凝集物のアルツハイマー病における長期増強およびシナプス機能不全に対する影響を、海馬薄片のタウ含有溶液による灌流によって判定する方法を提供する。
本明細書で用いられる、脳薄片とは、培養で維持される脳組織の切片または外植片に該当する。当業者は、本発明で使用するために、公知技術の脳薄片培養方法を容易に利用することができる。脳薄片培養は、全脳組織の切片または脳の特定領域から得られた外植片を利用することができる。任意の領域を用いて、脳薄片培養を作製することができる。前記脳薄片培養には、脳の特定領域(例えば海馬領域)から得られた外植片の脳薄片培養が含まれるが、ただし前記に限定されない。
本発明で用いられる脳薄片培養を作製するために用いられる外植片の組織供給源として、任意の哺乳動物を用いることができるが、ただし前記動物が組織供給源として役立ち、さらに薄片培養が樹立され、さらに本発明の実施に十分な期間維持することができる場合に限られる。そのような哺乳動物には、ヒト、ラット、マウス、モルモット、サルおよびウサギが含まれるが、ただしこれらに限定されない。本発明の方法は、哺乳動物から脳薄片を入手するか、または脳薄片培養を提供する工程をさらに含むことができる。本方法はさらに、トランスダクションまたはトランスフェクション前に脳薄片を培養する工程を含むことができる。
組織供給源として用いられる哺乳動物は野生型哺乳動物でもよいが、または導入遺伝子を含みそれを発現するように遺伝的に変異させた哺乳動物でもよい。例えば、動物は、β-アミロイド前駆体タンパク質の神経産生を発現するように改変させたトランスジェニック動物(例えばトランスジェニックマウス)であってもよい(Quon et al. 1991, Nature 35:598-607;Higgins et al. 1995, Proc Natl Acad Sci USA 92:4402-4406)。ある実施態様では、組織供給源として用いられる哺乳動物は、タウタンパク質またはその変種を発現するように遺伝的に変異させたトランスジェニック動物ではない。
組織供給源として用いられる哺乳動物は任意の齢であることができる。ある実施態様では、哺乳動物の組織供給源は新生児期の哺乳動物であろう。
全脳組織を用いて脳薄片培養を樹立させることができる。或いは、脳の特定区域または領域を外植片供給源として用いることができる。脳薄片培養の供給源のための好ましい領域は海馬および皮質である。
多様な方法を利用して、脳組織の切片を作製または脳組織を分割することができる。例えば、切片作製装置を利用してもよい。組織切片のサイズ/厚さは主として組織供給源および切片作製/分割に用いられる方法に左右される。
【0028】
長期増強
LTPは、数分から数日持続する、ケミカルシナプスの強度の増加である。前記は、記憶が形成され脳に保存される主要なメカニズムの1つと考えられる。LTPは、in vitroの実験的調製物および生きた動物(in vivo)の両方で観察されている。実験的条件下では、一連の短い高頻度電気刺激をシナプスに適用することによって、前記シナプスを数分から数時間の間強化または増強することができる。生きた細胞では、LTPは自然に発生し、数時間から数日、数ヶ月および数年持続することができる。LTPは、多様な他の神経構造物(大脳皮質、小脳、扁桃、および他の多くのものを含む)で観察されている。LTPは、哺乳動物の脳の全ての興奮性シナプスで発生しえる(Malenka R, Bear M 2004, Neuron 44(1):5-21)。
LTPを経たシナプスと連結されたニューロンは、同時に活動性を示す傾向を有する。すなわち、シナプスがLTPを経た後、ある細胞に適用されたその後の刺激は、前記シナプスに接続される細胞で活動電位を誘引することができる。LTPは生きた動物でシナプス可塑性に寄与し、高度に順応性の神経系のための基盤を提供すると考えられる。シナプス強度の変化が記憶の形成の基礎となりえるので、LTPは行動学習で決定的な役割を果たすと考えられる。
ニューロン間で提示されるLTPのタイプは、LTPの一因となる多様なシグナリング経路のために、部分的にはLTPが観察される解剖学的位置に左右される。例えば、シェファー側副経路(ここで海馬のCA3錐体細胞が伸ばす軸索側副枝は海馬のCA1領域に向けて発射される)のLTPはNMDAレセプター依存性であり、一方、苔状線維経路のLTPはNMDAレセプター非依存性である。その予想可能な構成および容易に誘発し得るLTPの結果として、CA1海馬は、哺乳動物のLTP研究の標準部位となった。成人のCA1海馬のNMDAレセプター依存性LTPはもっとも広範囲に研究されたLTPタイプである。
【0029】
NMDAレセプター依存性LTPは、数連続の高頻度刺激(持続性筋強直刺激)を2つのニューロン間の結合またはシナプス前細胞に適用することによって実験的に誘発することができる。1つのシナプスへ続く単一経路の強い持続性筋強直刺激の他に、LTPはまた多くの弱い刺激により協調的に誘発することもできる。1つにシナプスへ続くある経路を弱く刺激したとき、前記は不十分なシナプス後脱分極を生じLTPを誘発する。対照的に、弱い刺激が、シナプス後膜のただ1つの小区画に集中する多くの経路に適用されたとき、生じた個々のシナプス後脱分極は、1つにまとまってシナプス後細胞を脱分極させ、これは協調的にLTPを誘発するために十分である。
ケミカルシナプスは、神経系全体におけるニューロン間の機能的接続である。典型的なシナプスでは、情報は、第一の(シナプス前)ニューロンから第二の(シナプス後)ニューロンへシナプス伝達を介して伝えられる。実験的操作により、非持続性筋強直刺激をシナプス前細胞に適用して前記細胞に神経伝達物質(典型的にはグルタメート)をシナプス後細胞の膜上に遊離させることができる。そこでグルタメートはシナプス後膜に埋め込まれているAMPAレセプター(AMPAR)と結合する。AMPAレセプターは、脳内の主要な興奮性レセプターの1つであり、迅速で一瞬の興奮性活性の大半を生じる(17)。AMPAへのグルタメートの結合は主としてナトリウムイオンのシナプス後細胞への流入を誘発して、興奮性シナプス後電位(EPSP)と称される短命の脱分極を引き起こす。
この脱分極の大きさが、LTPがシナプス後細胞で誘発されえるか否かを決定する。単一刺激はLTPを誘発することができるEPSPを発生させないが、一方、高頻度で与えられた反復刺激は、EPSP総数の結果としてシナプス後細胞を次第に脱分極させる。すなわち先のEPSPが衰微する前にシナプス後細胞に到達する各EPSPにより連続するEPSPが先のEPSPによって引き起こされた脱分極に加わる。NMDAレセプター依存性LTPを示すシナプスでは、十分な脱分極が、NMDAレセプター(NMDAR)(グルタメートと結合したときカルシウムを細胞内に流入させるレセプター)の封鎖を解除する。NMDARが大半のシナプス後膜に存在するが、休止膜電位ではそれらはマグネシウムイオンによって封鎖されている(マグネシウムイオンはシナプス後細胞へのカルシウムの侵入を妨げる)。EPSPの総数による十分な脱分極はNMDARのマグネシウム封鎖を解除しカルシウムの流入を可能にする。細胞内カルシウム濃度の急激な上昇は、特にその初期層でLTPの維持および発現を誘発する。
【0030】
LTPの測定
海馬薄片の調製は記載(Son et al. Learn Mem 1998, Jul-Aug; 5(3):231-45)にしたがって実施することができる。略記すれば、マウス(C57/Bl6)を断頭し、それらの海馬を取り出した。厚さ400μmの海馬横断薄片を組織細断装置で作成し、仲介チャンバーに移す(前記チャンバーで薄片を29℃で維持することができる)。それら薄片を、95%O2および5%CO2で持続的に泡立てた食塩水溶液(124.0mMのNaCl/4.4mMのKCl/1.0mMのNa2HPO4/25.0mMのNaHCO3/2.0mMのCaCl2/2.0mMのMgSO4/10mMのグルコース)により灌流させることができる。記録の前に少なくとも90分間、薄片を回復させることができる。白金イリジウム同心円性二極電極および食塩水溶液(5mΩ抵抗)を満たした低抵抗ガラス記録電極をCA1放線層(stratum radiatum)に置いて、細胞外野の興奮性シナプス後電位(fEPSP)を記録した。
インプット-アウトプット曲線を用いて、基準線fEPSPを約35%の最大スロープで設定した。実験開始前に15分基準線刺激を毎分(0.01ms持続パルス)デリバーして、応答の安定性を確認することができる。種々の濃度のタウまたはタウオリゴマーを交互挿入実験で灌流薄片に20分間添加することができる。LTPは、θバースト刺激を用いることによって誘発することができる(100Hzで4パルス、バーストは5Hzで反復され、各持続性筋強直は間に15秒を挟み、一続き10バーストで3続きを含む)。持続性筋強直後1時間の間応答を記録することができる。データの解析はポストhoc修正によりファクトリアルANOVAを用いて実施することができる。結果は平均±SEMとして表すことができる。
この系は、細胞外タウタンパク質の本質的な神経毒性作用を表すことができる、LTPに対する可溶性タウの影響を緩和する化合物のスクリーニングのためのex vivoアッセイとして用いることができる。このアッセイの利点は、アルツハイマー病および他のタウ障害のトランスジェニックモデルでの更なる試験に進む前に化合物の有効性を判定することができるということである。さらにまた、細胞外タウタンパク質を標的とすることによってADおよび他のタウ障害の神経病理学における初期工程を示すことができ、タウ原線維のもつれを標的とする従来の方法論を凌ぐ明瞭な利点がこの系に付与される。
【0031】
候補化合物は、正常なLTPを再確立させるそれらの能力を基準にしてスクリーニングすることができる。海馬薄片アッセイは、タウオリゴマーで処理した薄片で試験化合物の存在下および非存在下におけるLTPレベルの測定を含むことができる。タウオリゴマーは市販の供給源から入手しても、または化学的に合成してもよい。例えば、15分基準線の入手に続いて、選択した試験化合物と30分間前インキュベーションを実施したタウオリゴマーを含む溶液で薄片を灌流させることができる。別々の実験で、薄片をタウだけで処理することができる。別のコントロール薄片はタウタンパク質を含まない溶液で処理することができる。他の薄片は試験化合物だけで処理することができる。タウオリゴマーを灌流させた化合物処理薄片とベヒクル処理薄片との間で、LTPレベルに相違が観察されなければ、この化合物は、海馬薄片におけるタウオリゴマーによる損傷後にシナプス機能を再確立または救済することができると結論することができる。同様に、試験化合物で処理されなかった薄片と比較して試験化合物で処理した薄片でシナプス機能が増加したならば、試験化合物はシナプス機能を増加させることができることを示している。これらの実験は、合成タウを使用するかまたは天然に生成されたタウを使用して実施することができる。試験化合物は、タウ変異体、切端生成物のタウフラグメントまたはタウリンタンパク質のLTP低下作用を緩和するそれらの能力を基準にスクリーニングすることができる。これらの実験が合成タウに対する試験化合物の作用と合致するという前提で、天然のタウに対するこれら化合物の作用の性状をさらに調べて、そのような化合物がタウP301Lマウスのシナプス機能不全に対して有益な作用を有するか否かを決定することができる。そのような分析は、例えば基礎的なシナプス伝達およびLTPがトランスジェニック(Tg)マウスで障害されているか否かを決定することによって実施することができる。タウP301LマウスはNFT関連シナプス変化を示すという観察(Katsuse et al. 2006)に基づいて、Tgマウスの薄片でBSTおよび/またはLTPの低下を、試験化合物を20分間灌流することにより観察して、試験化合物がシナプスの不足を救済するか否かを決定することができる。コントロールは、ベヒクル処理P301Lマウス、および化合物またはベヒクル処理WTマウスの薄片で実施することができる。いずれかの試験化合物がTg薄片で正常なシナプスの機能的LTPを再確立したら、それら化合物を更なる行動試験のために選択することができる。
【0032】
シナプスの強度の変化が記憶の変化を引き起こしえると仮定すれば海馬背面(学習および記憶に必要とされる種類の顕著な可塑性を示す脳の領域)へのタウオリゴマーの注入は、マウスで記憶行動の遂行を障害しえる。別の特徴では、本発明は、可溶性タウ、タウ凝集物およびタウオリゴマーの学習および記憶に対する影響を、タウ含有溶液を海馬背面に注入することによって判定する方法を提供する。候補化合物は、正常な記憶を再確立させるそれらの能力を基準にスクリーニングすることができる。マウスを20mg/kgのアベルチンで麻酔し、26ゲージの誘導カニューレを海馬の背面部分に移植した(座標:P=2.4mm、L=1.5mm、深さ1.3mm)(G. Paxinos, 1998. Mouse brain in stereotaxic coordinates, New York, Academic Press)。カニューレは歯科用アクリルセメント(Paladur)で頭蓋骨に固定することができる。注入は、ポリエチレンチューブによって微小注射筒に連結した輸液カニューレにより6-8日後に実施することができる。全輸液工程には約1分を要し、ストレスを最小限にするために動物を丁寧に扱う。タウオリゴマーと化合物、タウのみ、またはベヒクルもしくは化合物のみを、1μLの体積で1分にわたって両側性に注入した。注射後、拡散させるために針を同じ場所にさらに1分放置することができる。タウオリゴマーは市場の供給業者から入手するか、または化学的に合成することができる。例えば、選択した試験化合物と30分間前インキュベーションを実施するか、または注入時に選択試験化合物と混合したタウオリゴマー、またはタウオリゴマーのみまたはベヒクル若しくは化合物のみを15分間注入した後で、条件付けチャンバーで記憶恐怖条件付けのためのトレーニングを実施した。この連想記憶試験は、トレーニングと試験に多くの日数を必要とする他の行動労役よりもはるかに迅速である(B. Gong, O.V. Vitolo, F. Trinchese, S. Liu, M. Shelanski and O. Aranchio, Persistent improvement in synaptic and cognitive functions in an Alzheimer mouse model following rolipram treatment, J Clin Invest 2004, 114:p.1624-1634)。条件付けチャンバーは音響減弱箱に置くことができる。この条件付けチャンバーは、36本のバーを有する取り外し可能な絶縁ショックグリッドの付いた床を有する。キュー付与条件付け実験およびコンテクスト条件付け実験のために、不連続トーン(CS)(2800Hzおよび85dBで30秒持続する音)の開始前にマウスを条件付けチャンバーに2分間置くことができる。最後の2秒間のCSでマウスに0.50mAのフットショック(US)を床のバーにより2秒間与えることができる。CS/US組合せの実施後、マウスをさらに30秒間条件付けチャンバーに留め、その後これらマウスのホームケージに戻すことができる。硬直観察ソフト(MED Ass. Inc.)を用いて、硬直行動(呼吸に必要な運動以外の全ての運動の欠如と定義される)を評価することができる。コンテクスト恐怖学習を評価するために、トレーニング後24時間マウスをトレーニングすることができるチャンバーで5分間(連続して)硬直を測定することができる。キュー付与恐怖学習を評価するために、コンテクスト試験に続いて、マウスを新しいコンテクスト(滑らかで平坦な床およびバニラ臭をもつ三角形のケージ)に2分間置き(前CS試験)、その後、マウスをCSに3分間暴露し(CS試験)、硬直を測定することができる。ショックの感覚器による認知を、以下に記載されたように、閾値評価により決定することができる(B. Gong, O.V. Vitolo, F. Trinchese, S. Liu, M. Shelanski and O. Aranchio, Persistent improvement in synaptic and cognitive functions in an Alzheimer mouse model following rolipram treatment, J Clin Invest 2004, 114:p.1624-1634)。タウオリゴマー注入化合物処理マウスとベヒクル処理マウスとの間で、硬直パーセントに相違が観察されない場合、化合物は、タウオリゴマーによるマウスの損傷の後で記憶機能を再確立させることができるかまたは記憶機能を救済することができると結論することができる。同様に、試験化合物で処理されなかったマウスと比較して、試験化合物処理マウスで記憶機能の上昇が存在する場合、これは、試験化合物は記憶機能を高めることができることを示す。
以下の実施例は本発明を例証し、本発明の理解を容易にするために説明するものであり、特許請求の範囲で規定される本発明の範囲をいかなる態様によっても制限するものと解してはならない。
【0033】
(実施例1)
タウオリゴマーの蓄積とADの進行
最近の刊行物は、可溶性タウの過剰発現はタウのマウスモデルでニューロンの減少および記憶障害を引きこし、一方、NFTはこれらの表現型に付随しないことを示している(SantaCruz et al. 2005;Spires et al. 2006;Yoshiyama et al. 2007)。原線維のもつれが発達する前に神経毒性タウタンパク質種が形成されえるか否かを決定するために、ADのBraak 0−V期における脳標本でタウオリゴマーの死後調査を実施した。結果は、タウオリゴマーの蓄積とADの進行との間に相関性を示した(図3;Maeda et al. 2006)。
【0034】
(実施例2)
タウオリゴマーはシナプス機能不全を引き起こす
ADは、時間をかけて徐々に脳のより大きな領域を巻き込むシナプスの異常として始まる(Masliah, 1995)。一般的に可溶性細胞外タウまたは特に可溶性タウオリゴマーがシナプス機能不全を引き起こすのか否かを決定するために、一連の実験を実施した。この実験では、タウオリゴマーの短時間適用が、3−5ヶ月齢のWTマウスの海馬のシェーファ側副枝ニューロンとCA1椎体ニューロンとの間の結合でLTPの欠如を生じることができるか否かを試験した。シェーファ側副枝経路の持続性筋強直刺激によりLTPを誘発する前に、海馬薄片をタウタンパク質(412aaアイソフォーム)含有溶液(2μM)で20分間灌流した。ベヒクル処理薄片の増強は、タウ処理薄片の場合よりもはるかに強かった(LTPレベル:タウ処理薄片は持続性筋強直120分後に約130%に等しく、それに対してベヒクル処理薄片では約250%。両薄片でn=6、ツーウェイANOVA:F(1, 10)=21.98;p=0.001)(図4)。
用量応答実験を実施することができる。ACSF灌流緩衝液中のタウオリゴマーのパーセンテージを海馬薄片に前記を適用する前に決定し、LTPを阻害する濃度および特異的なタウ構造を判断することができる。これらの実験は、約1pMから約5μMの濃度の種々のタウアイソフォームおよびタウタンパク質の種々の部分を用いて実施することができる。
【0035】
(実施例3)
タウタンパク質調製物
タウ412のcDNAをOriGeneから購入し、細菌発現ベクターpET21Bでサブクローニングし、C-末端6X Hisタグをもつタウ412タンパク質を生成した。
タンパク質の発現には細菌株BL21(DE3)を用いた。細胞およびベクターの販売業者(Novagen)から入手した標準的なプロトコルを用いて細胞を増殖させ、タンパク質を発現させた。略記すれば、LBアンピシリンプレートに細胞をストリーキングし、単一コロニーを採取し、2mLの2XYT培養液(グルコースおよび100mg/mLのカルベニシリンを含む)で一晩増殖させた。この一晩培養を用いて500mL培養に接種し、前記を光学密度0.8U/mL(波長600nm)まで増殖させた。タンパク質の発現は1mMのIPTGで4時間誘発し、この時点で細胞を6000gで遠心することによって4℃でペレットを生成した。ペレットは-80℃で一晩保存した。細胞溶解物は、製造業者(Sigma)のプロトコルにしたがい細胞溶解B緩衝液、リゾチーム、ベンゾナーゼおよびプロテアーゼ阻害剤を用いて調製した。陽イオン交換樹脂SP-セファロース(CE Healthcare)を精製の第一工程のために用い、300mMのNaClを用いてタウタンパク質を溶出させた。第二の精製工程はHis結合樹脂(Novagen)を用いhisタグ付きタウタンパク質を結合させ、前記をイミダゾールにより溶出させた。50mMトリス塩酸(pH7.4)への緩衝液交換はAmicon超遠心装置(Millipore)を用いて実施した。タンパク質濃度はBCAアッセイ(Biorad)を用いて決定した。タウオリゴマーは、トリス緩衝液(pH7.4)中の5μMタウを100mMのNaClとともに37℃でインキュベートすることによって生成した。図5は、オリゴマーを形成するためにインキュベートする前およびインキュベートした後の典型的なタウ412タンパク質調製物を示す。
オリゴマーの形成は、種々の抗体を用いるイムノアッセイ、およびサイズ選別クロマトグラフィーによって確認することができる。タウオリゴマーの生物学的な関連性はCSFを用いた予備実験によって示される(図6)。これらの結果は、このアプローチがex vivoおよびin vivoで候補薬剤の有効性を試験するためにも用いることができることを示している。タウオリゴマーを生成し測定するこの方法は、この病理学的プロセスを阻害することができる化合物を識別するために、簡単で鋭敏な処理量の高いスクリーニングを容易にする。この反応は中性pH、37℃で実施することができ、したがって試験化合物の安定性に対する高温またはpHの影響を排除することができる。タウオリゴマーはゲルろ過による単離および精製に適しており、したがってオリゴマー構造を破壊することができる化合物のスクリーニングおよび識別のためのツールを提供する。
この簡単で鋭敏なin vitroの系は、化合物ライブラリーの高処理量スクリーニング(HTS)へとアッセイを変換して、オリゴマー形成を阻害する化合物の識別を容易にする。オリゴマー構造を破壊する化合物のスクリーニング用オリゴマー基質を提供するために用いることができるサイズ選別クロマトグラフィーによってオリゴマーを単離するために、この方法を標準化した。
RNAの存在下でインキュベートしたタウ412およびRNAの非存在下でインキュベートしたタウ412のセファロースS-300の溶出プロフィルは図7に示されている。RNA促進因子の存在下でインキュベートしたタウ412は、主として680kDaの高分子量ピークおよび730kDaの小ピークを形成し、一方、RNAの非存在下でインキュベートしたタウ412はこれらの高分子量種を形成せず、したがってRNAはタウ412のオリゴマー化を促進することを指摘している。
タウオリゴマー形成アッセイはクルクミンの濃度を増加させながら実施し、オリゴマーはELISA(A)で検出した。オリゴマー形成50%阻害は約10fMのクルクミンで達成された。B)タウオリゴマー形成(SDS-PAGEによって解析)を用いて、ツール化合物を試験し、化合物ライブラリーをスクリーニングした。図8に示すように、結果は、ツール化合物2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン(THB)(えび茶色の棒線)およびアミノ1,1'-アゾベンゼン-3,4'-ジスルホン酸(AAD)(青色の棒線)についてのものである。RNA促進因子を用いて生成したタウオリゴマーは、ポリクローナル抗体A11(オリゴマータンパク質の構造に特異的である(Kayed et al. 2003))と増幅ELISAで反応性を示した。
【0036】
(実施例4)
タウの過剰発現はマウスモデルで記憶の低下と一緒にタウオリゴマーの形成を引き起こす
そのレベルが記憶低下と相関性を有するタウ構造物を見出すために、マウスモデルの脳組織で生化学的分析を実施した。2つの形態のタウマルチマー(140および170kDa)がマウスモデルで見出され(その分子量はオリゴマー凝集物を指し示している)、病変の初期に蓄積された(図10)。類似のタウマルチマーが、別のタウ障害のマウスモデル並びにADおよびFTDP-17の患者の脳標本で検出された。さらにまた、タウマルチマーレベルは、条件付けタウP301Lマウスモデルの種々の齢において記憶低下と常に相関性を示した。これらの発見は、NFTの形成前における初期の凝集タウ種の蓄積が、タウ障害の病変進行時の機能欠如の進行と密接に関係することを示している(Berger et al. 2007)。
【0037】
(実施例5)
150の二重芳香族化合物の化学合成
195の二重芳香族化合物のライブラリーを合成し、チオフラビンS(ThS)色素結合蛍光アッセイでタウ凝集阻害に対する活性について評価した。多数の化合物が、1:1の低い化合物対タンパク質比で、タウの自己アッセンブリの阻害において活性を有した。タウ凝集阻害はSDS-PAGEを用いて確認された。SDS-PAGEでは、化合物は、10から100μMの濃度でタウオリゴマー化を阻害することが判明した。
小数の代表的標準物の二インドール化合物についてマウスで薬物動力学(PK)試験を実施し、いくつかの他の化合物についても試験中である。得られた毒性プロフィル、半減期(t1/2)、血液脳関門透過性、および生体利用性情報は明白であった。すなわち、マウスに投与された(IPまたはPO投与)化合物は、300mg/kgまでの用量で毒性がなく、投与後4時間を越えて脳に存在した。
in vitro試験から、表4に示すように、4つの模範化合物がトランスジェニック動物試験に先駆けて認定された(化合物QR-0109、QR-0161、QR-0194およびQR-0212)。各化合物のin vitro活性およびPKデータがここにまとめられている。既存および新規合成化合物の抗アミロイド原性活性およびPKプロフィルに関する新規なデータは継続的に収集されているので、模範化合物の選別は頻繁に再評価され、時に変更されえる。したがって、トランスジェニック動物試験の開始時における4つのもっとも有望な化合物は先進的なものである。
【0038】
表4:本実験のための予備的模範化合物

【0039】
(実施例6)
タウはまたAβ神経毒性にとって必須である
二重芳香族化合物を、ADのトランスジェニックAβ動物モデル(例えばAPP/PSEN1マウスモデル、前記モデルではマウスはAβを発達させるがタウ障害は生じない)で試験することができる。このアプローチを用いて、抗Aβメカニズムにより作用する化合物を識別することができる。タウオリゴマー化およびその結果生じる神経毒性に対抗する化合物の有効性を決定するために、トランスジェニックタウ障害モデル(例えばタウP301Lマウス)で化合物を試験することができる。このアプローチを用いて、二重芳香族化合物の生物学的活性の性状を決定することができる。総合すれば、この2つの痴呆モデルを用いて、化合物の抗Aβおよび抗タウ活性に対するそれぞれ別個の寄与を識別し、したがって更なる薬剤最適化の試みに向けて機械力学的洞察を提供することができる。
ADのための薬剤開発標的としてのタウタンパク質の有効性は、タウレベルの低下がAβ誘発認知障害からマウスを保護することを示した、ADマウスモデルにおける実験によって支持される(図11;以下を参照されたい:Roberson et el. 2007;Boston Globe Article, Appendix III;Science article, “A New Take on Tau”)。タウの減少はまた、トランスジェニックおよび非トランスジェニックマウスの両マウスを興奮毒性に対して防御する。これらの結果はまた、タウの減少はAβ誘発およびエキサイトトキシン誘発ニューロン機能不全を阻止し、さらにADおよび関連症状の治療に有効な方法でありえることを示した(ADおよび関連疾患のタウ仲介神経変性に関するつい最近の概説のためにはBallatoreら(2007)の論文を参照されたい)。
タウオリゴマーはin vitroで生成して、前記プロセスを阻害する化合物のスクリーニングに用いることができる。この技術はまた、臨床標本でのタウオリゴマーの測定で重要である。これらの技術を用いて、タウ可溶性オリゴマーの生成を阻害する化合物のサブセットを、Aβ、タウおよびα-シヌクレインの不溶性凝集物の生成を阻害することが既に示されている化合物のライブラリーから識別し、さらにin vivoにおけるそれらの有効性を決定することができる。
毒性を発揮するAβ、タウおよびα-シヌクレイン凝集物のサイズに関係なく、凝集物と結合してその分布を変化させることによって、ニューロンに対するそれら凝集物の毒性作用が破壊されえる。これは多数の別個の方法によって生じえる:1)化合物はモノマーまたは神経毒性を誘発するものよりも小さい凝集物を安定化させ、それによって毒性凝集物プールを減少させることができる;2)化合物は毒性凝集物と結合し、ニューロンにおけるそれらの有害な相互作用を阻止することができる;3)有毒な凝集物との結合で、化合物はより小さく無害な凝集物へのそれら凝集物の分解を促進することができる;4)Aβの代謝/クリアランスが、より小さな凝集物サイズへのシフトを促進する化合物によって促進されえる。これら経路の1つまたは2つ以上を介して機能する抗Aβ薬剤候補物には、トラミプロセート(Kisilversky, Szarek & Weaver, 1997-2005;Gervais et al. 2006)およびイノシトールの異性体(McLaurin et al. 2006)が含まれる。
このアプローチを用いて、AD治療薬を発見しこれを最適化することができる。この薬剤発見のゴールは、ADに関係する3つアミロイド原性タンパク質(すなわちAβ、タウおよびα-シヌクレイン)の全凝集物と結合し、これを調節することができる最近開発された小有機分子(すなわち“二重芳香族物質”)を最適化し、これらをさらに動物モデルで試験することによって示すことができる(Carter et al. 米国特許出願11/443,396号(2006))。トラミプロセート(Gervais et al. 2006)およびイノシトール(McLaurin et al. 2006)と異なり(前記はAβに対してのみ作用した)、二重芳香族物質は相乗作用の利点を有し(すなわちADの3つの別個の標的で作用することによって)、前記化合物の正味の作用は個々の作用の合計より強力でありえる。このプログラムで選択される化合物は、トラミプロセートと異なり、ex vivoでのシナプス可塑性およびin vivoでの行動欠如に対する影響について前臨床スクリーニングでさらに別の利点を有することができる。
【0040】
(実施例7)
タウ可溶性オリゴマーの形成を阻害する化合物のスクリーニング
タウオリゴマー形成阻害分析のために、RNAを用いて、種々の濃度の試験化合物の存在下でのタウオリゴマー形成を促進し、形成されたオリゴマーをELISAにより測定することができる。タウオリゴマー形成のために、20 pmolのタウ412および4 pmolのRNA促進因子を50μLの50mMトリスHCl(pH7.4)中で37℃にて1時間インキュベートした。RNAを緩衝液で置き換えた陰性コントロールを併行して用いる。化合物は1nMから1mMの濃度範囲でオリゴマー形成条件を用いて試験することができる。4つの模範化合物(QR-0109、QR-0161、QR-0194およびQR-0212)を先ず初めに試験し、さらに追加の化合物はそれらが合成されデリバーされたときに試験することができる。タウオリゴマー測定のためのELISAは、抗タウMN1000捕捉抗体(Pierce)、レポータ抗体A11(Invitrogen)(オリゴマーの形状に特異的)、ビオチニル化抗ウサギIgG、およびFluoroskan IIフルオロメーター(励起325nm、発光420nm)を用いる蛍光検出用Quanta-blu基質(Pierce)とともにニュートラビジン-HRPを利用することができる。捕捉抗体およびレポータ抗体の両方のためにmAb MN1000を利用するELISAを用いてタウの可溶性凝集物を測定し、A11 ELISAの結果を確認することができる。タウ-タウ相互作用に対する化合物の作用に関する追加のデータを得るために、37℃で48時間インキュベートした後SDSおよびβ-メルカプトエタノールを含む緩衝液中で安定なタウオリゴマーの形成を測定するアッセイをSDS-PAGEを用いて実施することができる(Neuroscience 2006, poster(付録)を参照されたい)。
【0041】
(実施例8)
P310Lマウスでの試験化合物のスクリーニング
タウオリゴマー処理海馬薄片で試験化合物をスクリーニングし、それら化合物が正常なシナプス機能を再確立させることができるか否かを決定した後で、この化合物を半接合体のタウP301Lマウス(Taconic)で行動異常の救済について試験することができる。タウオリゴマーレベルについてトランスジェニックマウスの脳およびCSFサンプルを評価し、化合物の有効性とオリゴマー負荷との間に相関性があるか否かを決定することができる。
WTマウスおよび半接合体タウP301Lマウスの両マウスをTaconicから購入することができる(Lewis et al. 2000)。電気生理学的分析はオスで実施することができる(参考文献(Gong et al. 2006)の詳細な説明を参照されたい)。400μmの薄片を組織裁断器で切りとり、記録前の90分の間仲介チャンバーで29℃にて維持することができる。略記すれば、刺激電極および記録電極の両方をCA1放線層に置くことによってCA1 fEPSPを記録することができる。基準線シナプス伝達(BST)は、fEPSPのスロープに対して刺激電圧をプロットするか、またはfEPSPのスロープに対して線維斉射のピーク振幅をプロットすることによって判定することができる。LTP実験のためには、15分基準線を最大誘発応答の約35%を誘発する強度で毎分記録することができる。LTPは、θバースト刺激を用いることによって誘発することができる(100Hzで4パルス、バーストは5Hzで反復され、各持続性筋強直は間に15秒を挟み、1続き10バーストで3続きを含む)。
全ての実験はブラインドで実施することができる。結果は標準誤差平均(SEM)として表すことができる。有意レベルはp<0.05について設定することができる。結果は、ポストhoc修正を用いたANOVAにより解析することができる。
【0042】
(実施例9)
化合物による処置がタウP301Lマウスの行動異常に対し有益な効果を有するか否かの決定
Aβ、タウおよびα-シヌクレイン凝集の同時阻害物質は、6ヶ月齢のタウP301Lマウスで観察される行動欠如を救済し、この凝集阻害物質による処置はタウP301Lマウスの異常行動に対して有益な効果を示すことができる。
行動試験は、本明細書に記載した任意のin vitroスクリーニングで認定した化合物について実施することができる。試験することができる条件には以下が含まれる:凝集阻害物質で処置した半接合体タウP301LおよびWT、ベヒクルで処置した半接合体タウP301LおよびWT。処置は5ヶ月齢で開始することができる。マウスは6ヶ月齢で試験することができる。運動機能は、週2回、さらに運動障害の最初の徴候が明白になったときに1日1回の針金ぶら下がり試験および棒渡り試験によってモニターすることができる(Le Corre et al. 2006)。2日間連続して少なくとも2回続けてぶら下がり試験を失敗した動物および/または2日間連続して2回続けて棒から落下した動物および/または2日間連続してぶら下がり試験で1回失敗し同時に棒から1回落下した動物を重篤な運動欠如と評価し殺すことができる。全試験期間にわたって影響を受けていないように見えるか、または排除のための正式な閾値基準に満たない軽度の運動異常を示す残余のマウスは、試験期間の終了時に殺し、それらの血液および脳をタウオリゴマーレベルの測定に用いた。凝集阻害物質の有効性についてのコントロールとして、タウP301Lマウスの海馬の化合物レベルを化合物の投与後に測定することができる。化合物が有益な作用を有するならば、化合物処置TgおよびWTの同腹仔間で運動に差がないかまたはほとんど差がなく、一方、ベヒクル処置Tgは異常な学習行動を示すであろう。化合物処置WTマウスは正常な行動を示すであろう。そのような場合、これらの結果は、これらの化合物による処置はタウ障害モデルにおける行動異常の進行を防ぐことができることを示している。
6ヶ月齢(このとき原線維のもつれは既に形成が始まっていた)での化合物による処置がタウP301Lマウス(その変異トランスジーンは長期間にわたって発現される)で行動障害を救済するために十分でないならば、薬剤の投与は原線維のもつれが出現する前(4ヶ月)で開始し、行動実験の日まで(6ヶ月)引き伸ばすことができる。
化合物が、急性薬理動力学試験/毒性試験で検出することができない長期毒性を有するならば、この実験の経過中にマウス集団の減少が毒性作用/副作用のために生じえる。タウP301LマウスはいくつかのADの特徴を再現するが、疾患は再現しない。この時点までに、タウ障害のいずれの動物モデルも自然な発症経過を完全には反復していないが、ただし数匹のTgマウスは複数の病変構成要素を進行させた。本明細書に記載の研究およびTg動物を用いる他の研究者の研究の両方における最終的な試験を、この疾患に罹患した個体で実施することができる。
実験はブラインドでオスおよびメスの動物で実施することができる(性別は実験を通して均等化することができる)。マウスを15分間ビデオで撮影した。このビデオを分析のために半分の時間再生することができる。針金ぶら下がり試験は反転させたグリッドから落下する潜伏時間を測定することができる。棒渡り試験のためには、動物のホームケージに続く一方の端のプラットフォームから他方の端まで、130cmの長さの棒を横断するように動物をトレーニングし、下に吊り下げた出っ張りに脚を滑らせた回数を記録することができる。
全ての実験について、遺伝型および処置に関して研究者に分からないようにマウスをコード化することができる。結果は標準誤差平均(SEM)として表すことができる。有意レベルはp<0.05について設定することができる。結果は、主要エフェクトとして薬剤または遺伝型を用い、ポストhoc修正を用いたANOVAにより解析することができる。実験はバランスのとれた方法(balanced fashion)で設計することができる。マウスは3又は4つの別実験において、それぞれ異なる条件にて訓練及び試験することができる。
【0043】
参考文献





















【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験化合物が、神経構造物内の長期増強のタウタンパク質誘発低下を緩和することができるか否かを決定する方法であって、前記方法が、
(a)タウタンパク質を含む溶液および試験化合物と神経構造物を接触させる工程、
(b)神経構造物内のニューロン間の長期増強を刺激する工程、
(c)神経構造物内のニューロン間の長期増強を測定する工程、および
(d)(c)で測定した長期増強を、化合物の非存在下でタウタンパク質と接触させた神経構造物内のニューロンで測定した長期増強と比較する工程を含み、ここで、化合物の非存在下で測定した長期増強と比較して(c)で測定した長期増強が増加すれば、試験化合物が神経構造物内のタウタンパク質誘発長期増強低下を緩和することを示す、前記方法。
【請求項2】
試験化合物が、タウタンパク質による損傷の後で、神経構造物内のシナプス機能を再確立または救済することができるか否かを決定する方法であって、前記方法が、
(a)タウタンパク質を含む溶液および試験化合物と神経構造物を接触させる工程、
(b)神経構造物内のニューロン間の長期増強を刺激する工程、
(c)神経構造物内のニューロン間の長期増強を測定する工程、および
(d)(c)で測定した長期増強を、化合物の非存在下でタウタンパク質と接触させた神経構造物内のニューロンで測定した長期増強と比較する工程を含み、ここで、化合物の非存在下で測定した長期増強と比較して(c)で測定した長期増強が増加すれば、試験化合物が、タウタンパク質による損傷の後で、神経構造物内のシナプス機能を再確立または救済することを示す、前記方法。
【請求項3】
試験化合物が、タウタンパク質と接触した神経構造物内のシナプス機能を高めることができるか否かを決定する方法であって、前記方法が、
(a)タウタンパク質を含む溶液および試験化合物と神経構造物を接触させる工程、
(b)神経構造物内のニューロン間の長期増強を刺激する工程、
(c)神経構造物内のニューロン間の長期増強を測定する工程、および
(d)(c)で測定した長期増強を、化合物の非存在下でタウタンパク質と接触させた神経構造物内のニューロンで測定した長期増強と比較する工程を含み、ここで、化合物の非存在下で測定した長期増強と比較して(c)で測定した長期増強が増加すれば、試験化合物が、タウタンパク質と接触した神経構造物内のシナプス機能を高めることを示す、前記方法。
【請求項4】
試験化合物が、対象者のアルツハイマー病を治療することができるか否かを決定する方法であって、前記方法が、
(a)タウタンパク質を含む溶液および試験化合物と神経構造物を接触させる工程、
(b)神経構造物内のニューロン間の長期増強を刺激する工程、
(c)神経構造物内のニューロン間の長期増強を測定する工程、および
(d)(c)で測定した長期増強を、化合物の非存在下でタウタンパク質と接触させた神経構造物内のニューロンで測定した長期増強と比較する工程を含み、ここで、化合物の非存在下で測定した長期増強と比較して(c)で測定した長期増強が増加すれば、試験化合物が対象者のアルツハイマー病を治療することができることを示す、前記方法。
【請求項5】
試験化合物が対象者のタウ障害性疾患を治療することができるか否かを決定する方法であって、前記方法が、
(a)タウタンパク質を含む溶液および試験化合物と神経構造物を接触させる工程、
(b)神経構造物内のニューロン間の長期増強を刺激する工程、
(c)神経構造物内のニューロン間の長期増強を測定する工程、および
(d)(c)で測定した長期増強を、化合物の非存在下でタウタンパク質と接触させた神経構造物内のニューロンで測定した長期増強と比較する工程を含み、ここで、化合物の非存在下で測定した長期増強と比較して(c)で測定した長期増強が増加すれば、試験化合物が対象者のタウ障害性疾患を治療することができることを示す、前記方法。
【請求項6】
神経構造物が脳の薄片である、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
神経構造物が海馬の薄片である、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
神経構造物をタウタンパク質および試験化合物と順次接触させる、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
神経構造物をタウタンパク質および試験化合物と並行して接触させる、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
神経構造物がタウタンパク質および試験化合物と約30分接触される、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
接触工程が神経構造物の灌流を含む、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
方法が、工程(a)の前に長期増強基準示度を入手する追加工程を含む、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
タウタンパク質の濃度が約1pMから約5μMである、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
タウタンパク質が、モノマー、可溶性オリゴマー、不溶性凝集物または前記の任意の組合せである、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
溶液が、神経変性疾患と密接に関係する1つまたは2つ以上のタンパク質をさらに含む、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
タウタンパク質がオリゴマーである、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
タウタンパク質が凝集してある、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
タウタンパク質が、3Rもしくは4Rアイソフォームまたは前記の任意のフラグメントである、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
タウタンパク質が、タウ352、タウ383、タウ381、タウ410、タウ412およびタウ441または前記の任意のフラグメントを含む、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
タウタンパク質が過リン酸化されている、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
タウタンパク質がP301L変異を含む、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
タウタンパク質が、タウタンパク質による微小管結合に影響を及ぼす変異を含む、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
試験化合物が、小分子、分子性化合物ライブラリー由来の分子、タンパク質、ペプチド、核酸、合成分子、炭水化物、ペプチド模倣体、脂質、抗体などである、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
2つ以上の試験化合物を神経構造物と接触させる、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
方法が、神経構造物をキナーゼ阻害剤と接触させる追加の工程を含む、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
方法が、神経構造物をホスファターゼ阻害剤と接触させる追加の工程を含む、請求項1−5のいずれかに記載の方法。

【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2010−538611(P2010−538611A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524224(P2010−524224)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/075584
【国際公開番号】WO2009/033151
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(506118526)ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニヴァーシティ イン ザ シティ オブ ニューヨーク (25)
【Fターム(参考)】