説明

タグボート用ウインチ

【課題】曳航中にロープに思いがけない緊張力が加わった場合でもロープ断裂などを未然に防ぐことのできるタグボート用ウインチを提供する。
【解決手段】曳航用のロープを巻回するウインチドラムが、正逆回転自在及び回転制動可能に配設されたタグボート用ウインチであって、前記ウインチドラムと一体的に回動するブレーキドラムと、このブレーキドラムに周方向に拡縮自在に巻回され、一端を負荷検出装置を介して固定するとともに、他端をリンク機構を介して付勢手段に連結したブレーキバンドと、前記付勢手段を駆動する油圧回路を制御するブレーキ制御部と、を備え、前記ブレーキ制御部は、前記負荷検出装置の検出結果が所定の値を超えた場合、前記付勢手段の付勢力を低下させて前記ブレーキバンドを弛め、所定の長さを超えない範囲で前記ロープを前記ウインチドラムから繰り出せるように、当該ウインチドラムの制動力を制御することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型船舶などを曳航するためのロープを繰り出し及び巻取り自在に巻回したタグボート用ウインチに関する。
【背景技術】
【0002】
タンカーなどの大型船舶が港湾などを出入りする場合、水先案内のためにタグボートで曳航するが、曳航用ロープ(以下、単に「ロープ」とする場合がある)は、タグボート上に配置されたウインチに巻回されて、繰り出し、巻取り操作がなされている。(例えば、特許文献1を参照。)
【0003】
かかるウインチは、一般的に、ロープを巻回するウインチドラムの回転を制動するブレーキ装置を備えている。
【0004】
ブレーキ装置としては、通常、ウインチドラムと一体的に回動するブレーキドラムに、ブレーキバンドを周方向に拡縮自在に巻回して構成されている。そして、ブレーキバンドの一端を固定する一方、他端を油圧回路により駆動する付勢手段に連結し、この付勢手段の駆動によって、ブレーキバンドを緊締させればウインチドラムが制動され、ブレーキバンドを弛めればウインチドラムは回転自在となる。
【0005】
このようなウインチを用いて大型船舶を曳航する場合、ロープを所定長さ繰り出した状態でウインチを制動し、ロープに一定の緊張力が加わった回転不可状態を保持したままタグボートを操舵していく。なお、このようなロープの緊張状態を含め、船の操舵は船長などの操縦者の技量に任されている。
【0006】
しかし、曳航時には、波や潮流などの影響もあって、想定外の力がロープに加わることがあり、その場合は時としてロープが断裂することもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−269683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した従来のタグボート用のウインチでは、ロープの緊張力の調整なども含め、ウインチの操作についてはあくまでも操舵者の技量に依存していた。したがって、思いがけない緊張力が加わったことによるロープ断裂などには対応することができなかった。
【0009】
そのため、不慮のロープ断裂事故に備え、通常は使用することがないにしても、予備としてのウインチを備えておかざるを得ないのが現状である。
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、上記課題を解決することのできるタグボート用ウインチを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明は、曳航用のロープを巻回するウインチドラムが、正逆回転自在及び回転制動可能に配設されたタグボート用ウインチであって、前記ウインチドラムと一体的に回動するブレーキドラムと、このブレーキドラムに周方向に拡縮自在に巻回され、一端を負荷検出装置を介して固定するとともに、他端をリンク機構を介して付勢手段に連結したブレーキバンドと、前記付勢手段を駆動する油圧回路を制御するブレーキ制御部と、を備え、前記ブレーキ制御部は、前記負荷検出装置の検出結果が所定の値を超えた場合、前記付勢手段の付勢力を低下させて前記ブレーキバンドを弛め、所定の長さを超えない範囲で前記ロープを前記ウインチドラムから繰り出せるように、当該ウインチドラムの制動力を制御することとした。
【0012】
(2)本発明は、上記(1)のタグボート用ウインチにおいて、前記ブレーキ制御部は、前記付勢手段の付勢力を低下させた後、前記負荷検出装置の検出結果が所定の値以内に復帰した場合、前記付勢手段の付勢力を再度低下前に復帰させることを特徴とする。
【0013】
(3)本発明は、前記負荷検出装置の検出結果を表示する表示手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のタグボート用ウインチ。
【0014】
(4)本発明は、上記(1)〜(3)のいずれかのタグボート用ウインチにおいて、前記負荷検出装置の検出結果が所定の値を超えたことを報知する報知手段を備えることを特徴とする。
【0015】
(5)本発明は、上記(1)又は(2)のタグボート用ロープウインチにおいて、前記負荷検出装置の検出結果を表示する表示手段と前記負荷検出装置の検出結果が所定の値を超えたことを報知する報知手段とを、船体のデッキ内に配設したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、曳航作業中、ロープに思いがけない緊張力が加わったとしても自動的に緊張力が弛められるため、ロープ断裂などの発生を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係るウインチを備えるタグボートの側面視による説明図である。
【図2】同平面視による説明図である。
【図3】本実施形態に係るウインチの説明図である。
【図4】同ウインチの制動状態を示す説明図である。
【図5】同ウインチのリリース状態を示す説明図である。。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態に係るタグボート用ウインチ(以下、単に「ウインチ」という場合がある)2について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0019】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るタグボート1は、船首側の甲板上に、前側からロープ案内装置10と本実施形態の要部となるウインチ2とを順に立設している。すなわち、本実施形態に係るタグボート1は、後進しながら大型船などを曳航するタイプのものである。また、11は船体側部に配設した古タイヤなどからなる防舷材であり、これを介して大型船に船体を接触させて押すことにより所定位置に移動させることができる。
【0020】
図中、符号3は曳航部を示し、ロープ案内装置10と左右2基のウインチ2とから構成している。このように、本実施形態に係るタグボート1は、2基のウインチ2を備え、2本の曳航用ロープ(以下、単に「ロープ」とする場合がある)4,4を選択的に操作可能としているが、必ずしも曳航部3は2基のウインチ2を備える必要ななく、1基のみのウインチ2としてもよい。
【0021】
左右一対で配設されたウインチ2,2は、実質的に同一構成であるため、以下では一方のウインチ2についてのみ説明し、他方のウインチ2に関する説明は省略する。
【0022】
図3に示すように、ウインチ2は、駆動源である油圧回路5(図4及び図5参照)の油圧モータ(不図示)に連動連結し、ロープ4を巻回するウインチドラム21を取付けた軸体22を備えており、この軸体22は、支持フレーム24,24の上端をはじめ、所定個所にそれぞれ設けられた複数の調芯機能付きの複数の軸受25により支持されている。
【0023】
また、軸体22には、ウインチドラム21と一体的に回動するブレーキドラム23が並んで取付けられている。そして、このブレーキドラム23の周面には、周方向に拡縮自在にブレーキバンド26が巻回されている。
【0024】
このブレーキバンド26は、例えば亜鉛メッキされた金属帯からなり、その一端を負荷検出装置としてのロードセル6を介して固定するとともに、他端を第1のリンク機構71を介して付勢手段であるシリンダ8に連結している。なお、図3中、符号72はブレーキバンド26の一端とロードセル6との間に介設された第2のリンク機構である。
【0025】
シリンダ8内には、ブレーキバンド26を緊締する方向に付勢するコイルスプリング81と、このコイルスプリング81を圧縮させて、逆にブレーキバンド26を弛緩させる方向に付勢する油圧駆動のピストン82とを備えている。
【0026】
すなわち、図4及び図5に示すように、シリンダ8は、油圧モータを具備する油圧回路5に連通連結してピストン82を油圧により駆動するようにしている。そして、油圧回路5は、ロードセル6と電気的に接続したブレーキ制御部9により電気的に制御されている。
【0027】
したがって、例えば、大型船を曳航する場合、ウインチ2からロープ4を所定長さ繰り出し、コイルスプリング81の付勢力によってウインチドラム21を制動状態に保持した状態で船体を後進させることになるが、ロープ4に加わる荷重はロードセル6により検出され、検出された値を示す荷重信号がブレーキ制御部9に送られる。すなわち、ブレーキ制御部9では、ロープ4に加わる荷重を常時監視しているのである。
【0028】
このように、曳航状態にある場合、油圧回路5からの油圧は発生しておらず、コイルスプリング81の付勢力によってウインチドラム21は制動状態になっている。かかる状態においてウインチドラム21の制動力を弛める場合は、ブレーキ制御部9からの指示信号により油圧回路5からシリンダ8のピストン82に油圧を発生させてコイルスプリング81を圧縮させることになる。
【0029】
ブレーキ制御部9は、タグボート1の船橋内に設けられた操作盤A内に配設されており、CPUなどの演算装置やROM、RAMなどのメモリーを備えたマイクロコンピュータから構成されている。そして、ロードセル6及び油圧回路5と電気的に接続されている。
【0030】
かかる構成により、本実施形態に係るウインチ2では、ブレーキ制御部9がロードセル6の検出結果が、所定の設定値である閾値を超えた場合、前記ロープ4が、所定の長さを超えない範囲でウインチドラム21から繰り出せるように、シリンダ8のコイルスプリング81による付勢力を低下させてブレーキバンド26を弛めるようにしている。したがって、ウインチドラム21は所定のリリース角度分だけ回転し、その分だけロープ4が繰り出されるため、ロープ4に係っている緊張力が小さくなる。
【0031】
したがって、本実施形態では、曳航作業中にロープ4に思いがけない緊張力が加わったとしても、ブレーキ制御部9が機能して自動的にロープ4の緊張力を弛めることができるため、ロープ4が断裂してしまうなどの不慮の事故が発生することを未然に防止することができる。
【0032】
ところで、ブレーキ制御部9は、シリンダ8のコイルスプリング81による付勢力を低下させた後、ロードセル6の検出結果が前記閾値以内に復帰した場合、コイルスプリング81による付勢力を再度低下前に復帰させるようにしている。つまり、油圧回路5に油圧を解除する指示信号を送信するのである。したがって、ロープ4が断裂する危険性の無い状態で曳航作業を継続することができる。
【0033】
なお、ブレーキバンド26を弛める基準となる閾値、すなわちロードセル6の検出値に設定される閾値は、ロープ4の性状(材質、径など)などに応じて適宜設定することができる。
【0034】
また、本実施形態に係るウインチ2は、ロードセル6の検出結果を表示する表示手段である荷重計B1を、図4及び図5に示すように、船橋内の操作盤Aに設けている。本実施形態における荷重計B1は、数値で表示されるデジタルタイプと針の振れにより表示するアナログタイプとが並設されているが、いずれか一方であってもよい。
【0035】
また、操作盤Aには、ロードセル6の検出結果が所定の値(閾値)を超えたことを報知する報知手段としてのランプB2が配設されている。
【0036】
したがって、ウインチ2の操縦者は、荷重計B1を視認してロープ4へ加わっている凡その荷重を推定することができるとともに、思いがけない緊張力が加わったこともランプB2の点灯などで知ることができる。なお、報知手段としては、音により報知する警報器(不図示)などを備える構成としてもよい。
【0037】
上述した実施形態から、以下のタグボート用ウインチが実現できる。
【0038】
(a)曳航用のロープ4を巻回するウインチドラム21が、正逆回転自在及び回転制動可能に配設され、このウインチドラム21と一体的に回動するブレーキドラム23と、このブレーキドラム23に周方向に拡縮自在に巻回され、一端をロードセル6(負荷検出装置)を介して固定するとともに、他端を第1のリンク機構71を介してシリンダ8(付勢手段)に連結したブレーキバンド26と、シリンダ8を駆動する油圧回路5を制御するブレーキ制御部9と、を備え、ブレーキ制御部9は、ロードセル6の検出結果が所定の値(閾値)を超えた場合、シリンダ8内に配設したコイルスプリング81(付勢手段)の付勢力を低下させてブレーキバンド26を弛め、所定の長さを超えない範囲でロープ4をウインチドラム21から繰り出せるように、当該ウインチドラム21の制動力を制御するるタグボート用ウインチ2。
【0039】
かかる構成によれば、曳航作業中に、大型船などに繋いだロープ4に思いがけない緊張力が加わったとしても、その緊張力を検出したブレーキ制御部9が機能してウインチドラム21の制動力を弱めてロープ4を繰り出せるようにしたため、自動的にロープ4の緊張力を弛めることができ、ロープ4が断裂するような事態を未然に防止することができる。
【0040】
(b)上記構成において、ブレーキ制御部9は、シリンダ8内に配設したコイルスプリング81(付勢手段)の付勢力を低下させた後、ロードセル6(負荷検出装置)の検出結果が所定の値(閾値)以内に復帰した場合、コイルスプリング81の付勢力を再度低下前に復帰させるタグボート用ウインチ。
【0041】
(c)上記構成において、ロードセル6(負荷検出装置)の検出結果を表示する荷重計B1(表示手段)を備えるタグボート用ウインチ。
【0042】
(d)上記構成において、ロードセル6(負荷検出装置)の検出結果が所定の値を超えたことを報知するランプB2や警報器(報知手段)を備えるタグボート用ウインチ。
【0043】
(e)上記構成において、ロードセル6(負荷検出装置)の検出結果を表示する荷重計B1(表示手段)とロードセル6の検出結果が所定の値(閾値)を超えたことを報知するランプB2や警報器(報知手段)とを、船体のデッキ内に配設したタグボート用ウインチ。
【符号の説明】
【0044】
A 油圧回路
B 操作盤
1 タグボート
2 タグボート用ウインチ
4 ロープ
5 油圧回路
6 ロードセル
8 シリンダ
9 ブレーキ制御部
21 ウインチドラム
22 軸体22
23 ブレーキドラム
26 ブレーキバンド
71 第1のリンク機構
81 コイルスプリング
82 ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曳航用のロープを巻回するウインチドラムが、正逆回転自在及び回転制動可能に配設されたタグボート用ウインチであって、
前記ウインチドラムと一体的に回動するブレーキドラムと、
このブレーキドラムに周方向に拡縮自在に巻回され、一端を負荷検出装置を介して固定するとともに、他端をリンク機構を介して付勢手段に連結したブレーキバンドと、
前記付勢手段を駆動する油圧回路を制御するブレーキ制御部と、
を備え、
前記ブレーキ制御部は、
前記負荷検出装置の検出結果が所定の値を超えた場合、前記付勢手段の付勢力を低下させて前記ブレーキバンドを弛め、所定の長さを超えない範囲で前記ロープを前記ウインチドラムから繰り出せるように、当該ウインチドラムの制動力を制御することを特徴とするタグボート用ウインチ。
【請求項2】
前記ブレーキ制御部は、
前記付勢手段の付勢力を低下させた後、前記負荷検出装置の検出結果が所定の値以内に復帰した場合、前記付勢手段の付勢力を再度低下前に復帰させることを特徴とする請求項1記載のタグボート用ウインチ。
【請求項3】
前記負荷検出装置の検出結果を表示する表示手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のタグボート用ウインチ。
【請求項4】
前記負荷検出装置の検出結果が所定の値を超えたことを報知する報知手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のタグボート用ウインチ。
【請求項5】
前記負荷検出装置の検出結果を表示する表示手段と前記負荷検出装置の検出結果が所定の値を超えたことを報知する報知手段とを、船体のデッキ内に配設したことを特徴とする請求項1又は2に記載のタグボート用ロープウインチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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