説明

タップ

【課題】四角部におけるサイドスルー溝の有効溝面積を効果的に増大して内部供給されたクーラントを十分な量で加工ポイントに供給・浸透させることができる汎用性の高いサイドスルー方式のタップを提供する。
【解決手段】ねじ部11の外周に形成された少なくとも1本のタップ溝15に連通するようにシャンク部12の外周にサイドスルー溝16を形成すると共に、前記シャンク部12の後端に設けられた四角部14における前記サイドスルー溝16を、当該四角部14のコーナーに形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クーラントがねじ部とシャンク部の外周に一連に形成した溝を介して刃先部分(加工ポイント)に供給される所謂、サイドスルー方式のタップに関する。尚、クーラントとは、冷却剤,水溶性又は不水溶性切削油剤,ミスト(気体中に含まれる液体微粒子),コールドエアー等を含み、タップ(ねじ切り)加工等において加工ポイントの冷却・潤滑と切屑(粉)排出用に供されるものを言う。
【背景技術】
【0002】
一般に、切削タップや盛上げタップによるタップ加工等においては、タップ中心部に形成した油穴より、切削油剤等を加工ポイントに供給・浸透させることで、冷却・潤滑等を良好にしてタップ(工具)の寿命を向上させている。
【0003】
ところが、上述したような所謂、センタースルー方式のタップにおいては、例えばM6未満の小径タップでは、タップ強度が不足することからタップ中心部に油穴を形成することが不可能であった。換言すれば、タップの小径化が図れないという問題点があった。
【0004】
加えて、センタースルー方式のタップには、油止め栓と横出し穴が有ることから再研削が難しいことや、油穴径が小さいために再循環される切削油剤中に含まれて切屑除去用フィルターを通過した切屑が油穴や横出し穴に詰まり、切削油剤が十分に加工ポイントに供給されなかったりして工具寿命を短くするという問題点もあった。
【0005】
そこで、本出願人は、先に、特許文献1で切削油剤がねじ部とシャンク部の外周に一連に形成した溝を介して加工ポイントに供給される所謂、サイドスルー方式のタップを提案した。
【0006】
これは、図6及び図7に示すように、切削タップ100のねじ部101の外周には、切屑排出用と切削油剤供給用を兼ねたタップ溝102が周方向に単数又は複数(図示例では4本)形成されると共に、シャンク部103の外周には、軸部104から四角部105に亘って一連に、前記タップ溝102と連通するサイドスルー溝106が周方向に単数又は複数(図示例では2本)形成される。
【0007】
そして、この切削タップ100の外周には、ねじ部101からシャンク部103の後部寄りに亙って、所定の長さの筒状のカバー107が被嵌され、タップ加工の際に、前記サイドスルー溝106から切削油剤が大気に放散されないようになっている。尚、前記サイドスルー溝106へは当該切削タップ100のシャンク部103をコレットチャック109を介して保持するマシニングセンターのスピンドル(ツーリング)108から内部給油されるようになっている。
【0008】
これによれば、簡単な手段でワークWの通り穴からなる下穴110の加工ポイントに十分かつ確実に切削油剤を供給することができ、冷却・潤滑等が良好に行われて高速加工が可能となると共に工具寿命の延命が図れる。また、センタースルー方式と異なり、油止め栓と横出し穴が無いことからタップの再研削が簡単に行えると共に、サイドスルー溝106によるタップの剛性低下が無いことからM6未満のサイズにも採用できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−154012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、前述したようなサイドスルー方式のタップにあっては、図7に示すように、ねじ部101のタップ溝102と周方向位置が一致されたシャンク部103における四角部105の辺(平面)にサイドスルー溝106が形成されていたため、図9に示すように、各種タップにおける軸−角段差とサイドスルー溝の深さの関係、即ちタップの折損強度の面から四角部の(溝の)深さが例えば0.25mmと浅く形成される。
【0011】
このため、ラバー付きのアジャストスクリュ等のホルダーを用いるマシニングセンターのスピンドル(ツーリング)108にあっては、ホルダーを介して内部給油された切削油剤等がサイドスルー溝106に十分な量で導入されず、加工ポイントに供給・浸透される切削油剤等が不足するという不具合が生じていた。
【0012】
このような不具合は、特に、図8に示すように、センタースルー溝111を有したタップを保持するマシニングセンターのスピンドル108において用いられるトルク伝達用のプリセットドライバ112で、サイドスルー溝106を有したタップにおける四角部105を全周的に緊密に保持した場合に、顕著に表れ(図5の四角部105におけるサイドスルー溝106の有効溝面積参照)、ツーリング(機械の保持部)が制限されて汎用性に欠けるという問題点もあった。
【0013】
そこで、本発明の目的は、四角部におけるサイドスルー溝の有効溝面積を効果的に増大して機械の保持部におけるタップ装着方式如何によらず内部供給されたクーラントを十分な量で加工ポイントに供給・浸透させることができる汎用性の高いサイドスルー方式のタップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するための本発明に係るタップは、
ねじ部の外周に形成された少なくとも1本のタップ溝に連通するようにシャンク部の外周にサイドスルー溝を形成すると共に、
前記シャンク部の後端に設けられた四角部における前記サイドスルー溝を、当該四角部のコーナーに形成したことを特徴とする。
【0015】
また、
前記四角部の前記サイドスルー溝が形成されたコーナーと前記ねじ部の少なくとも1本のタップ溝との周方向位置が一致していることを特徴とする。
【0016】
また、
前記四角部の後端面に、機械の保持部側から内部供給されたクーラントを前記サイドスルー溝に導入するための導入部を形成したことを特徴とする。
【0017】
また、
前記導入部は、前記四角部の後端面に形成されたセンター穴又はザグリ穴と前記サイドスルー溝とを連通する導入溝であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
前記構成の本発明によれば、シャンク部の四角部におけるサイドスルー溝の有効溝面積を効果的に増大させられるので、ツーリング(機械の保持部)側から内部供給されたクーラントを十分な量で刃先部分(加工ポイント)に供給・浸透させることができる。即ち、ツーリング(機械の保持部)におけるタップ装着方式を問わない汎用性に富んだタップを提供することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例1を示す通り穴用切削タップがマシニングセンターのスピンドルに装着された状態の側断面図である。
【図2】同じく通り穴用切削タップの背面図である。
【図3】同じく通り穴用切削タップがプリセットドライバに保持された状態図である。
【図4】本発明の実施例2を示す通り穴・止まり穴共用切削タップの背面図である。
【図5】四角部におけるサイドスルー溝の有効溝面積の比較説明図である。
【図6】従来の通り穴・止まり穴共用切削タップがマシニングセンターのスピンドルに装着された状態の断面図である。
【図7】同じく通り穴・止まり穴共用切削タップの背面図である。
【図8】プリセットドライバを用いたマシニングセンターのスピンドルの要部断面図である。
【図9】各種タップにおける各部の寸法を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るタップを実施例により図面を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は本発明の実施例1を示す通り穴用切削タップがマシニングセンターのスピンドルに装着された状態の側断面図、図2は同じく通り穴用切削タップの背面図、図3は同じく通り穴用切削タップがプリセットドライバに保持された状態図、図5は四角部におけるサイドスルー溝の有効溝面積の比較説明図である。
【0022】
図1及び図2に示すように、後述するサイドスルー方式の通り穴用切削タップ10がマシニングセンター(機械)のスピンドル(保持部:ツーリング)20にコレットチャック21を介して装着される。コレットチャック21は、シール部材22を介してナット23をスピンドル20にねじ込むことで、切削タップ10を回転不能に保持し得るようになっている。
【0023】
図1中24はスピンドル20の内部供給孔25にねじ込まれたスリーブ(アジャストスクリュ等のホルダー)で、切削タップ10の後端面が付き当てられることで当該切削タップ10の軸方向取付位置を調整可能にするものである。尚、切削タップ10はマシニングセンターのスピンドル20に代えて、タッピングマシーン等の機械の保持部(ツーリング)にホルダーを介して装着される場合もある。
【0024】
そして、前記内部供給孔25には、機外のタンク26内の水溶性又は不水溶性の切削油剤(クーラント)がモータ27に駆動されるポンプ28によりバルブ29の開弁時に供給されるようになっている。
【0025】
前記切削タップ10は、図示しないワークの下穴にねじ切りを施すためのねじ部11とシャンク部12とからなると共に、シャンク部12における軸部13の後端には前記スピンドル20とは保持方式が異なるスピンドルに回り止めされて係合するための四角部14が形成される。
【0026】
前記ねじ部11の外周には、切屑(粉)排出用と冷却・潤滑用の切削油剤供給用を兼ねたタップ溝15が周方向に4本形成されると共に、前記シャンク部12の外周には、軸部13から四角部14に亘って一連に、前記4本のタップ溝15とそれぞれ連通する4本のサイドスルー溝16が周方向に形成される。即ち、サイドスルー溝16は、図2に示すように、前記ねじ部11のタップ溝数と同数形成され、全部のタップ溝15及びサイドスルー溝16が冷却・潤滑用の切削油剤供給用となるのである。
【0027】
そして、本実施例では、図7に示した従来のタップと異なり、図2に示すように、前記四角部14の4つのコーナーが前記ねじ部11の4本のタップ溝15とそれぞれ周方向位置が一致して形成され、四角部14におけるサイドスルー溝16が当該四角部14の4つのコーナー(4隅)にそれぞれ所定の深さで形成されている。
【0028】
また、本実施例では、前記シャンク部12における四角部14の後端面に、スピンドル20の内部供給孔25から内部給油された切削油剤を後述するセンター穴17を介して前記サイドスルー溝16に導入するための導入溝(導入部)18が形成される。即ち、導入溝18は、通り穴用切削タップの場合は、全てのサイドスルー溝16に切削油剤を導入できるように、サイドスルー溝16の溝数が4本であれば十文字状に4本形成されるのである(図2参照)。
【0029】
このように構成されるため、例えば切削タップ10がマシニングセンターのスピンドル20に対し、そのシャンク部12における四角部14の後端面がスピンドル20側におけるスリーブ24の被付当て面に付き当てられて装着された場合、スピンドル20の内部供給孔25より吐出されてセンター穴17に供給された切削油剤は、センター穴17から即溢れ出し四角部14の後端面の四方八方に放散されて元々閉じられ気味であるサイドスルー溝16には導入されにくくなり、シャンク部12の後端面から漏れる虞がある。
【0030】
ところが、本実施例では、図2に示すように、スピンドル20の内部供給孔25から内部給油された切削油剤は、四角部14の後端面に形成したセンター穴17及び導入溝18を介して、所謂漏斗効果(広い場所から狭い場所へ液体を注ぐ)により、十分かつ確実に切削タップ10のサイドスルー溝16に導入され、加工ポイントに供給・浸透させられる。
【0031】
加えて、本実施例では、シャンク部12における四角部14のコーナーと前記ねじ部11のタップ溝15との周方向位置が一致されて、四角部14におけるサイドスルー溝16が当該四角部14のコーナーに形成されているので、図5に示すように、サイドスルー溝16の有効溝面積が、従来の切削タップのように四角部105の辺(平面)にサイドスルー溝106が形成されるのに比べて、はるかに増大される。
【0032】
即ち、ねじ部11におけるタップ溝15による溝底の径より深くせずに、即ちタップの折損強度を保持しつつ四角部14におけるサイドスルー溝16の溝の深さを効果的に増大させられるのである。従って、図3に示すように、マシニングセンターのスピンドル20等の機械の保持部においてプリセットドライバ112によりシャンク部12の四角部14が全周的に緊密に保持されたとしても、切削油剤がサイドスルー溝16に十分な量で導入され、加工ポイントに供給・浸透される切削油剤が不足することはない。
【0033】
これらの結果、刃先部分(加工ポイント)の冷却・潤滑が良好となって高速加工が可能となると共に工具寿命の延命が図れることに加えて、タップ装着方式を問わない汎用性に富んだ切削タップを提供することができる。もちろん、サイドスルー方式であるため、油止め栓と横出し穴が無いことから、タップの再研削が簡単に行える。また、サイドスルー溝16によるタップの剛性低下が無いことからM6未満のサイズにも採用できる。
【実施例2】
【0034】
図4は本発明の実施例2を示す通り穴・止まり穴共用切削タップの背面図である。
【0035】
これは、通り穴・止まり穴共用タップに本発明を適用し、サイドスルー溝16の本数をねじ部11のタップ溝数の半分宛形成した例である。即ち、通り穴・止まり穴共用タップで止まり穴の場合は、半分(図示例では2本)のタップ溝15及びサイドスルー溝16が冷却・潤滑用の切削油剤供給用となり、後の半分(図示例では2本)のタップ溝15が切屑(粉)排出用となると共に、導入溝18が一文字状に2本形成されるのである。
【0036】
この実施例においても、実施例1と同様の作用効果が得られる。
【0037】
尚、本発明は上記各実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、サイドスルー溝及び導入溝の形状・寸法及び溝数変更等各種変更が可能であることはいうまでもない。また、本発明のタップは、切削タップに限らず、盛上げタップにも適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
10 切削タップ
11 ねじ部
12 シャンク部
13 軸部
14 四角部
15タップ溝
16 サイドスルー溝
17 センター穴
18 導入溝
20 スピンドル
21 コレットチャック
22 シール部材
23 ナット
24 スリーブ
25 内部供給孔
26 タンク
27 モータ
28 ポンプ
29 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ部の外周に形成された少なくとも1本のタップ溝に連通するようにシャンク部の外周にサイドスルー溝を形成すると共に、
前記シャンク部の後端に設けられた四角部における前記サイドスルー溝を、当該四角部のコーナーに形成したことを特徴とするタップ。
【請求項2】
前記四角部の前記サイドスルー溝が形成されたコーナーと前記ねじ部の少なくとも1本のタップ溝との周方向位置が一致していることを特徴とする請求項1に記載のタップ。
【請求項3】
前記四角部の後端面に、機械の保持部側から内部供給されたクーラントを前記サイドスルー溝に導入するための導入部を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のタップ。
【請求項4】
前記導入部は、前記四角部の後端面に形成されたセンター穴又はザグリ穴と前記サイドスルー溝とを連通する導入溝であることを特徴とする請求項1,2又は3に記載のタップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−125857(P2012−125857A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277687(P2010−277687)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000151014)株式会社田野井製作所 (8)