説明

タバコの吸殻の分解処理方法及び分解処理装置

【課題】微生物によってタバコを分解することができ、さらに、同時に生ゴミを処理することができるタバコの吸い殻の分解処理方法及び分解処理装置を提供すること。
【解決手段】タバコの吸殻と、微生物を培養してなる培養土と、生ゴミとを混合して混合物8を作り、空気を投入しながら撹拌し、目標温度に近づくように電気式ヒータ5により調温し、水を供給する。電気式ヒータ5は目標温度と混合物の実際の温度との差が大きいほど大きい電流を流す。水の供給は混合物の調温中において供給した際に混合物の含水率が増加する最大供給量と、供給量が0あるいは混合物の調温中において供給しても混合物の含水率が低下する最小供給量とを、ステップ的に繰り返し切り替えながら行う。切り替えは、電気式ヒータ5に通電される電流値が、電流下限値にまで達した際に最大供給量とし、再び電流値が上昇して電流上限値に達した際に最小供給量とすることによって行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タバコの吸殻を分解処理する方法、及び、分解処理する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タバコの吸殻は、廃棄物焼却処分されてきた。しかしながら、近年地球温暖化の主たる原因とされているCO2の抑制、及び焼却時に発生するダイオキシンの抑制の観点から、タバコの吸殻の焼却処理量を減らすことが望まれている。
【0003】
タバコの吸殻の焼却処理以外の処理方法としては、タバコの吸い殻を微生物及び/又は酵素を利用して分解処理し、しかも分解段階で発生する臭気の脱臭作用を持たせることによって空気清浄機として利用可能な吸い殻回収・分解装置が報告されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1には、微生物及び/又は酵素を利用してタバコの吸い殻を分解するものであり、微生物及び/又は酵素の働きを活発化するために、ある程度の空気を取り込むこと、及び微生物が活発化しやすい温度条件が記載されている。しかしながら、特許文献1の吸い殻回収・分解装置においては、酸素及び温度については言及しているが、菌の活性に必要なその他の因子に関しては触れていない。そのため、特許文献1の吸い殻回収・分解装置では、タバコの吸い殻の分解を十分に行えず、処理率が低いという問題があった。
【0005】
また、焼却処分されることが主流である生ゴミについて、近年では、堆肥化方式、乾燥方式、消滅方式等の様々な処理方式が提案されており、微生物による処理方法も報告されている。
例えば、回転軸の支持部の腐食がなく、種として残した微生物群を含む堆肥化した生ゴミの状態に応じて、吸水剤等の添加を全く必要とせずに、安定した発酵を促進できる生ゴミ処理装置がある(特許文献2)。
【0006】
特許文献2の生ゴミ処理装置は、好気性の好熱菌を利用して生ゴミを発酵させ処理する装置であって、加熱、撹拌、酸素供給を行うことで、生ゴミを処理するものである。
そして、この生ゴミ処理装置では、水分調整装置がなく、また、好熱菌を使用して処理を行うために高温を維持することから、処理槽内が乾燥し易く、菌の活性に必要な水分を調整することができず、手作業による水分調整が必要であり、十分に処理できるものではない。また、生ゴミ処理を目的としており、タバコの吸殻の処理を行おうとする場合には大幅な時間が必要になるため、タバコの吸殻の処理は対象外となっている。
【0007】
【特許文献1】特開2005−118646号公報
【特許文献2】特開平11−90404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、微生物によってタバコを分解処理することができ、さらに、同時に生ゴミを処理することができるタバコの吸い殻の分解処理方法及び分解処理装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、タバコの吸殻と、該吸殻を分解するための微生物を培養してなる培養土と、生ゴミとを混合して混合物を作り、
該混合物内に空気を投入しながら該混合物を撹拌し、
該混合物が所定の目標温度に近づくように電気式ヒータにより上記混合物を調温し、
該混合物に水を供給し、
上記電気式ヒータとしては、上記目標温度と上記混合物の実際の温度との差が大きいほど大きい電流を流すよう構成されたものを用い、
上記水の供給は、上記混合物の調温中において供給した際に該混合物の含水率が増加する供給量である最大供給量と、供給量が0あるいは上記混合物の調温中において供給しても該混合物の含水率が低下する供給量である最小供給量とを、ステップ的に繰り返し切り替えながら行い、
上記最大供給量と上記最小供給量との切り替えは、上記電気式ヒータに通電される電流値が、予め定めた電流下限値にまで達した際に上記最大供給量とし、再び電流値が増加して予め定めた電流上限値に達した際に上記最小供給量とすることによって行うことを特徴とするタバコの吸殻の分解処理方法にある(請求項1)。
【0010】
タバコの吸殻は、タバコの巻紙と、葉、フィルターからなる。そして、上記タバコの巻紙と葉の成分は、主にセルロース(天然高分子)である。該セルロースとは、植物細胞の細胞壁や繊維の主成分で、地球上で最も多く存在する炭水化物(多糖類)である。そして、上記フィルターの成分は、酢酸セルロース(半合成高分子)である。該酢酸セルロースは、天然高分子であるセルロースの水酸基を酢酸エステル化することにより得られる半合成高分子である。
【0011】
上記セルロースは、微生物により酵素的に分解することができる。まず、菌体外酵素α(セルラーゼ:菌が分泌する酵素)により低分子化され、低分子化したものは、微生物の代謝(菌体内へ取り入れエネルギーに変換する)によって二酸化炭素と水に分解される。
また、上記酢酸セルロースも、微生物により酵素的に分解することができる。まず、菌体外酵素β(エステラーゼ)により、アセチル基が分解され、次に、菌体外酵素α(セルラーゼ)により、低分子化され、低分子化したものは、微生物の代謝によって、二酸化炭素と水に分解される。
【0012】
本発明の上記分解処理方法は、上述した微生物の酵素的分解能力を積極的に利用してタバコを酵素的に分解するものである。微生物の活性に必要な因子としては、温度、酸素、微生物への栄養、水分が挙げられる。そして、本発明では、上記の温度、酸素、微生物への栄養、水分のいずれも、微生物の活性に適当な条件を整えることができ、タバコの吸殻の分解処理を良好に行うことができる。
【0013】
すなわち、目標温度と混合物の実際の温度との差が大きいほど大きい電流を流すよう構成された電気式ヒータを用いることにより、上記混合物が所定の目標温度に近づくように調温することができる。
また、混合物内に空気を投入しながら該混合物を撹拌するため、微生物の活性化に必要な酸素を確保することができる。
【0014】
また、生ゴミを上記微生物への栄養として用いることができる。これにより、微生物を活性化させることができ、タバコの吸殻の分解処理を行うと同時に生ゴミの処理も行うことができる。そのため、タバコの吸殻だけでなく、生ゴミの焼却処理量の削減にもつながり、CO2の削減に寄与することができる。
【0015】
また、上記混合物への水の供給は、上記混合物の調温中において供給した際に該混合物の含水率が増加する供給量である最大供給量と、供給量が0あるいは上記混合物の調温中において供給しても該混合物の含水率が低下する供給量である最小供給量とを、ステップ的に繰り返し切り替えながら行う。そして、上記最大供給量と上記最小供給量との切り替えは、上記電気式ヒータに通電される電流値が、予め定めた電流下限値にまで達した際に上記最大供給量とし、再び電流値が増加して予め定めた電流上限値に達した際に上記最小供給とすることによって行う。これにより、微生物の活性に必要な含水率を維持することができる。
【0016】
混合物の調温と含水率の制御は相関している。微生物の活性を維持するためには、混合物の含水率を維持するために定期的に水を追加していくことが必要であり、また、混合物の温度を一定の範囲内に制御しておくことも必要である。しかし、混合物の含水率を増加させるために、最大供給量で水を供給する際には、混合物の温度の低下を引き起こし、混合物の温度と目標温度に差が生じることになる。
【0017】
そこで、上記混合物の温度が目標温度を維持できるように上記電気式ヒータが大きい電流を流す。そして、最大供給量での水の供給中に電流値が予め定めた電流上限値に達したとき、水の供給を最小供給量の供給に切り替える。つまり、電流値が電流上限値に達したとき、混合物の含水量は最大値となる。
【0018】
その後は、混合物の温度を目標温度で維持するための電流が必要であるが、最小供給量を供給中の混合物は、含水率が低下していくため、必要な電流も減少していく。そして、電流値が予め定めた電流下限値に達したとき、水の供給を最大供給量に切り替えて再び混合物の含水率を増加させる。つまり、電流値が電流下限値に達したとき、混合物の含水率が最小値となる。そして、このような供給量の切り替えを繰り返し行っていく。
これにより、上記混合物の温度を目標温度付近で維持し続けることができ、また、必要な含水率も常に維持し続けることができる。そのため、微生物の活性状態を良好に維持することができる。
【0019】
このように、本発明によれば、微生物によってタバコを分解することができ、さらに、同時に生ゴミを処理することができるタバコの吸殻の分解処理方法を提供することができる。
【0020】
また、上記タバコの吸殻の分解処理方法を実施するための分解処理装置としては、例えば、下記の第2の発明のタバコの吸殻の分解処理装置がある。
【0021】
第2の発明は、タバコの吸殻を含む混合物を収容する処理槽と、
該処理槽内に収容された上記混合物を撹拌するための撹拌手段と、
上記混合物内に空気を供給するための空気供給手段と、
上記混合物の温度が所定の目標温度に近づくように調温する電気式ヒータと、
上記混合物に水を供給するための水供給手段とを有し、
上記電気式ヒータは、上記目標温度と上記混合物の実際の温度との差が大きいほど大きい電流を流すよう構成されており、
上記水供給手段は、上記混合物の調温中において供給した際に該混合物の含水率が増加する供給量である最大供給量と、供給量が0あるいは上記混合物の調温中において供給しても該混合物の含水率が低下する供給量である最小供給量とを、ステップ的に繰り返し切り替え可能であり、
上記最大供給量と上記最小供給量との切り替えは、上記電気式ヒータに通電される電流値が、予め定めた電流下限値にまで達した際に上記最大供給量とし、再び電流値が増加して予め定めた電流上限値に達した際に上記最小供給量とすることによって行うよう構成されていることを特徴とするタバコの吸殻の分解処理装置にある(請求項6)。
【0022】
上記タバコの吸殻の分解処理装置を用いることによって、混合物の撹拌、空気の投入、混合物の調温、混合物の含水率の調整を行うことができ、上述のタバコの吸殻の分解処理方法を実施することができる。そのため、上述したように、微生物の活性に適した条件を整え、タバコの吸殻の分解処理を良好に行うことができると共に、生ゴミの処理も行うことができる。
このように、本発明によれば、微生物によってタバコを分解することができ、さらに、同時に生ゴミを処理することができるタバコの吸い殻の分解処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
第1の発明のタバコの吸殻の分解処理方法は、上述したように、タバコの吸殻と、該吸殻を分解するための微生物を培養してなる培養土と、生ゴミとを混合して混合物を作り、該混合物内に空気を投入しながら該混合物を撹拌し、該混合物が所定の目標温度に近づくように電気式ヒータにより上記混合物を調温し、該混合物に水を供給しながら行われる。
【0024】
上記微生物を培養してなる培養土、生ゴミ、空気、水のいずれかひとつでも欠ける場合、及び上記混合物の温度が適性に調温されない場合には、タバコの吸殻を十分に分解処理することができない。
【0025】
上記微生物としては、中等度好熱菌を用いることが好ましい。上記中等度好熱菌は、有機物を取り込んで自分の体を合成して増殖する。このとき、好気性微生物は、酸素を取り込み、二酸化炭素と水を生成し、生物体を構成するたんぱく質を合成する。
また、上記中等度好熱菌の中でも、分解反応が高く、雑菌(大腸菌)の繁殖が少ない(高温生育)点と、温度領域(菌の生息領域)が広いという点から、通気性好熱菌を用いることがより好ましい。
このような微生物を含んだ培養土としては、例えば、有効菌を定着させたおがくず等の多孔質チップに栄養分などを加えて、適度な温度で処理し、有効菌を増殖させて土状のものとしたものを用いることができる。また、培養土は、例えば、後述する実施例に示すような市販されているものを利用することができる。
【0026】
そして、上記混合物は、タバコの吸い殻、微生物を培養してなる培養土、生ゴミを、重量比で1:1:1の割合で混合することが好ましい。もちろん実際の運用では、正確な混合比を管理することは困難であり、あくまでも目標値として管理する程度でよい。
【0027】
また、上記混合物の調温は、電気式ヒータを用い、目標温度を設定して行うものである。そして、上記目標温度は、55〜65℃程度に設定することが好ましく、特に60℃程度とすることが好ましい。
上記目標温度が低すぎる場合には、微生物反応速度が小さくなるおそれがあり、一方、目標温度が高すぎる場合には、熱変性による酵素の失活のおそれがある。
【0028】
上記水の供給は、上記混合物の調温中において供給した際に該混合物の含水率が増加する供給量である最大供給量と、供給量が0あるいは上記混合物の調温中において供給しても該混合物の含水率が低下する供給量である最小供給量とを、ステップ的に繰り返し切り替えながら行う。
上記最大供給量と上記最小供給量の具体的流量は、実験によって適性範囲か否かを確認することによって容易に決定することもできる。最も簡単な決め方としては、上記最小供給量は0、つまり完全に水の供給をストップすることとし、最大供給量のみ実験で決める方法である。
上記最大供給量は上記混合物の含水率の範囲を40〜80%程度に保てる量であることが好ましい。つまり、上述の混合物の含水率の最小値が40%、最大値が80%となるように、水の供給を行うことが好ましい。また、上記最小供給量は0であることが好ましい。
【0029】
上記最大供給量と上記最小供給量との切り替えは、上記電気式ヒータに通電される電流値が、予め定めた電流下限値にまで達した際に上記最大供給量とし、再び電流値が増加して予め定めた電流上限値に達した際に上記最小供給量とすることによって行う。
上述したように、上記電流上限値は、混合物の含水率が最大値を示す時点の電流値であり、また、上記電流下限値は、混合物の含水率が最小値を示す時点の電流値である。そのため、上記電流上限値、上記電流下限値についても、混合物の所望の含水率に応じて定めることが好ましい。
【0030】
そして、上記電流下限値と上記電流上限値とは、上記混合物の調温状態が定常状態にある場合において、上記混合物の含水率が40〜80%の範囲内となるように設定することが好ましい(請求項5)。
また、処理槽内の含水率を維持することで、微生物が活性する含水率を良好に保つことができ、微生物の活性状態を維持することができる。
【0031】
また、上記混合物の含水率が40%未満の場合には、微生物が失活するおそれがあり、上記混合物の含水率が80%を越える場合にも、微生物が失活するおそれがある。
【0032】
上記分解処理方法において、上記吸殻は、収集したままの状態のものよりも細かくする粉砕処理を施してから上記混合物として用いることが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記吸殻を粉砕して投入することにより、上記吸殻と微生物との接触面積が増大し、微生物との反応が促進され、上記吸殻の分解処理の処理率を向上させることができる。
また、粉砕後の吸殻は、1mm以下であることがより好ましい。
【0033】
また、上記吸殻の粉砕処理は、下臼と上臼とを重ねた状態で該下臼を相対的に回転させることによって両者の間に供給された被処理材を粉砕する挽き臼型粉砕機を用いて行うことが好ましい(請求項3)。
この場合には、上記吸殻を良好に粉砕することができる。
【0034】
また、上記混合物には、定期的に生ゴミを追加供給することが好ましい(請求項4)。
この場合には、微生物の活性に必要な栄養を定期的に与えることができ、微生物の失活を防ぎ、微生物の活性状態を良好に維持することができる。
また、生ゴミの定期的な追加供給は混合物の温度に影響を与えるが、上述の混合物の調質や含水率の制御にほとんど影響しない。
【0035】
第2の発明のタバコの吸殻の分解処理装置は、上記吸殻を収集したままの状態のものよりも細かくする粉砕処理装置を有することが好ましい(請求項7)。
この場合には、上記吸殻を粉砕して投入することができるため、上記吸殻と、微生物との接触面積を増大させることができ、微生物との反応が促進され、上記吸殻の分解処理の処理率を向上させることができ、短時間で分解処理を行うことができる。
また、粉砕後の吸殻は、1mm以下であることがより好ましい。
【0036】
また、上記粉砕処理装置は、下臼と上臼とを重ねた状態で該下臼を相対的に回転させることによって両者の間に供給された被処理材を粉砕する挽き臼型粉砕機よりなることが好ましい(請求項8)。
この場合には、上記吸殻を良好に粉砕することができる。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
本例は、本発明のタバコの吸殻の分解処理方法、及び分解処理装置にかかる実施例について、図1〜図7を用いて説明する。
図1に示すタバコの吸殻の分解処理装置1を用いて、タバコの吸殻の分解処理を行った。同図は、説明の都合上、後述する処理槽2の内部を透視した状態で示した。
【0038】
分解処理装置1は、タバコの吸殻を含む混合物8を収容する処理槽2と、該処理槽2内に収容された上記混合物8を撹拌するための撹拌手段3と、上記混合物8内に空気を供給するための空気供給手段4と、上記混合物8の温度Tが所定の目標温度Tmに近づくように調温する電気式ヒータ5と、上記混合物に水を供給するための水供給手段6とを有している。
また、上記電気式ヒータ5は、目標温度Tmとこれよりも温度が低い混合物8の実際の温度T(T≦Tm)との差が大きいほど大きい電流を流すよう構成されている。
【0039】
上記水供給手段6は、上記混合物の調温中において供給した際に混合物8の含水率が増加する供給量である最大供給量と、供給量が0あるいは混合物8の調温中において供給しても混合物8の含水率が低下する供給量である最小供給量とを、ステップ的に繰り返し切り替え可能である。本例では、最小供給量は0、つまり、水の供給を完全にストップすることとした。
【0040】
また、上記最大供給量と上記最小供給量との切り替えは、上記電気式ヒータ5に通電される電流値が、予め定めた電流下限値Iaにまで達した際に上記最大供給量とし、再び電流値が増加して予め定めた電流上限値Ibに達した際に上記最小供給量とすることによって行う。このため、上記水供給手段6は、次のように構成して、電気式ヒータ5の電流値に基づく制御を実現してある。
【0041】
すなわち、上記水供給手段6は、具体的には、図1、図2に示すように、クランプ式センサ61と、信号変換機62と、デジタルメータリレー63と、ソレノイドバルブよりなる給水バルブ64を有してなる。そして、水供給手段6は、クランプ式センサ61を用いて電気式ヒータ5のヒータ電流値の測定を行い、信号変換機62による電流値の信号変換を行い、デジタルメータリレー63によって給水信号を発信し、給水バルブ64の開閉を調整することにより最大供給量と最小供給量の切り替えを行うよう構成されている。
また、図2に示すごとく、水供給手段6には、カレンダータイマー60が備えられており、後述するような週間スケジュールにのっとった制御が可能になっている。
【0042】
撹拌手段3は、撹拌槽2の中央部に鉛直方向に向けて挿入された回転軸31と、回転軸31の側面から水平方向に延設された撹拌棒32、33と、一方の撹拌棒33に固定されたすくい板34とを有する。撹拌棒31は、撹拌槽2の上方に配設されたモータ30に連絡されており、これにより矢印A方向に回転可能に構成されている。
【0043】
また、上記空気供給手段4は、空気供給ファン41と、撹拌手段3の撹拌棒33に設けられた空気孔42とからなり、上記空気供給ファン41を用いて空気を取り込み、上記空気孔42から混合物中に空気(酸素)を供給するものである。撹拌棒33に空気孔42を設けることにより、撹拌時においてすくい板34によって混合物8が押しのけられてできた空間に空気を供給することができ、混合物8への均一な空気の拡散が容易に実現できる。
【0044】
また、上記分解処理装置1は、吸殻を収集したままの状態のものよりも細かくする粉砕処理装置7を上記処理槽2の上部に有している。該粉砕処理装置7は、タバコ吸殻投入口71から投入されたタバコの吸殻が所定の大きさに吸殻を粉砕され、粉砕後の吸殻が上記処理槽2に投入されるように配設してある。上記粉砕処理装置7としては、タバコ吸殻投入口71を有し、その下方にひき臼型の粉砕機(図示略)を備えた形状のものである。本例では、市販の増幸産業株式会社製のもの(型式MKCA6−2)を改造して、処理槽2に配置した。その仕様は、モーター1.5KW.3相、グラインダー(臼)直径φ150mm、標準能力(湿)30〜100kg/Hr(乾)1〜10kg/Hrというものである。なお、粉砕処理装置7を別設備として用意し、予め吸殻を粉砕処理することも可能である。
また、上記分解処理装置1は、タバコの分解処理中に発生する臭気の消臭を行う消臭装置9が設けてある。
【0045】
次に、タバコの吸殻の分解処理方法について、図1、図2、及び図3のフローチャートを用いて説明する。
図3に示すように、本例においては、水供給手段6に備えられたカレンダータイマー60を用いて、週間スケジュールにのっとった制御も行っている。
【0046】
まずは、上記処理槽2に微生物を培養してなる培養土と、生ゴミを投入した。その後、タバコの吸殻を、粉砕処理装置7のタバコ吸殻投入口71より投入し、吸殻の大きさが5mm以下になるように粉砕した後上記処理槽2に投入した。これにより、タバコの吸殻と、該吸殻を分解するための微生物を培養してなる培養土と、生ゴミとの混合物8を作った。
上記培養土としては、『つちカエル』専用菌(中等度好熱菌)(株式会社サイメックス製)を含んだ培養土を用いた。
上記生ゴミとタバコの吸殻と培養土の混合比の目標値は、重量比で1:1:1とした。
【0047】
次に、上記処理槽2内に収容された上記混合物8を撹拌するための撹拌手段3と、上記混合物8内に空気を供給するための空気供給手段4とを用いて、上記混合物8内に空気を投入しながら該混合物8を撹拌した。
なお、分解処理開始時の混合物の含水率が60%となるように予め水を供給しておき、分解処理開始時の水の供給量は最小供給量とした。
【0048】
そして、上記電気式ヒータ5と、上記水供給手段6とを用いて、上記混合物の調温、及び含水率の調整を行って分解処理を開始するために、下記の設定を行った。
上記混合物8の調温は、混合物8の目標温度Tmを60℃に設定した。
また、上記水供給手段6において、上記最大供給量は、電流値が5.5Aとなった際の上記混合物の含水率が60%となる量(1.0L/min)とし、上記最小供給量を0とした。
そして、ヒータ電流値の電流上限値Iaを6.0A、電流下限値Ibを5.0Aに設定した。
【0049】
そして、図3のフローチャートに示す工程を行って、週間スケジュールにのっとって、上記混合物の調温、及び含水率の調整を開始し、分解処理を開始した。
まず、ステップS1において、カレンダータイマー60による水分調整装置を起動する。月曜日〜金曜日の間は水分調整装置はONとなり、土曜日〜日曜日の間は水分調整装置はOFFとなる。本例において、分解処理の開始時間は、月曜日の午前零時とした。
また、上記混合物8中の生ゴミは、徐々に分解減少していくので、1日毎に等量ずつ処理槽2内に追加投入した。
【0050】
上記ステップS1において、水分調整装置がONとなっている場合には、ステップS2において、クランプ式センサ61によるヒータ電流値の測定を行う。
そして、ステップS3において、信号変換機62によるヒータ電流値の信号変換を行う。
次に、ステップS4において、デジタルメータリレー63による給水信号の発信を行う、ヒータ電流値が電流下限値Iaである5.0Aまで減少していない場合には、ステップS5において、給水バルブ64を閉めたままとし、水の給水量を最小給水量(本例においては0)のままとし、再びステップS2を行う。一方、ステップS4において、ヒータ電流値が電流下限値Iaである5.0A以下の場合には、ステップS6において、給水バルブ64を開け、最大供給量で水を供給する。
【0051】
次に、ステップS7において、クランプ式センサ61によるヒータ電流値の測定を行う。
そして、ステップS8において、信号変換機62によるヒータ電流値の信号変換を行う。
次に、ステップS9において、デジタルメータリレー63による給水信号の発信を行う。ヒータ電流値が電流上限値Ibである6.0Aを越えていない場合には、ステップS10において、給水バルブ64を開けたままとし、水の給水量を最大給水量のままにして、再びステップS6を行う。一方、ステップS10において、ヒータ電流値が電流上限値Ibである6.0A以上である場合には、ステップS11において、給水バルブ64を閉め、最小供給量で水を供給し、その後、再びステップS2を行う。
【0052】
そして、上記ステップS2〜ステップS11を繰り返して上記混合物8の調温、及び含水率の調整を行うことにより、タバコの吸殻の分解処理を行った。
また、上記最大供給量の供給時間(ステップS6〜ステップS11の時間)は、約10〜20分であった。
【0053】
そして、分解処理開始から120時間経過した際に、ステップS1において水分調整装置がOFFとなり、水の供給が停止した。その後、上記混合物8の温度を60℃に維持して2日間(48時間)撹拌を続け、上記混合物8を乾燥させた。これにより、上記混合物8は取り出し易くなった。また、分解処理後の混合物は、培養土等として用いることができる。つまり、タバコの吸殻、生ゴミを安全に再資源化することができた。
【0054】
そして、図4に、分解処理開始後の、処理時間、電流値、混合物の含水率、温度の推移を示す。図4は、横軸に処理時間、縦軸に混合物の温度(℃)、ヒータ電流値(A)、含水率(%)をとった。図4の曲線Oは混合物の温度を示し、曲線Pはヒータ電流値を示し、曲線Qは混合物の含水率を示す。また、図4において、水の供給量を最大供給量に切り替える点を点Rで示し、最小供給量に切り替える点を点Sで示す。
混合物の含水率の最大値は70%、最小値は50%、電流値が5.5Aとなった際の含水率は60%であった。
【0055】
また、分解処理を開始してから、開始直後、24時間後、168時間(分解処理120時間+乾燥48時間)後におけるタバコの吸殻の分解処理状況を調べた。
図5に、開始直後、24時間後、168時間後におけるフィルター繊維の形状を示す図面代用写真を示す。図5(a)は開始直後、図5(b)は24時間後、図5(c)は168時間後のものである。
分解処理開始から24時間の時点では、フィルターがそのまま残っているが、168時間の時点では、初期に比べてフィルター繊維が短くなり、細かくなっていることが分かる。
【0056】
また、開始直後、24時間後、168時間後におけるフィルターについてFT−IR測定を行い、アセチル基の結合状態を調査した。図6に、FT−IRスペクトルを示す。
図6におけるAは開始直後、Bは24時間後、Cは168時間後のものである。
【0057】
図6に示すように、開始直後と24時間後のFT−IRスペクトルは、ほぼ同様のスペクトルであり、1735cm-1、及び1215cm-1付近にアセチル基に起因する吸収Dが確認された。
168時間後のFT−IRスペクトルは、1735cm-1、及び1215cm-1付近のアセチル基に起因する吸収Dが減少し、開始直後とは異なるスペクトルであった。
このように、酵素β(エステラーゼ)によるフィルターの分解が進行していることを確認できた。
【0058】
また、フィルター(酢酸セルロース)のアセチル基が微生物の酵素βによって分解された量を吸殻処理率として、下記の式(1)をもちいて吸殻処理率を算出した。
吸殻処理率(%)=酵素βにより分解した吸殻量/吸殻投入量・・・(1)
なお、上記酵素βにより分解した吸殻量は、5mmのふるいを使用し、ふるい上に残ったものを吸殻未分解量とし、吸殻投入量から吸殻未分解量を引いた量を分解した吸殻量とした。
その結果、吸殻処理率は91.6%であった。
【0059】
このように、本発明によれば、微生物によってタバコを分解することができ、さらに、同時に生ゴミを処理することができるタバコの吸い殻の分解処理方法、及び分解処理装置を提供することができることがわかる。
【0060】
次に、上記水供給手段における最大供給量を、電流値が5.5Aとなった際の上記混合物の含水率が40%となる量に変更してタバコの吸殻の分解処理を行った。その他は上述の分解処理方法と同様の方法で行った。この場合の吸殻処理率は64.7%であった。
また、上記水供給手段における最大供給量を、電流値が5.5Aとなった際の上記混合物の含水率が70%となる量に変更してタバコの吸殻の分解処理を行った。その他は上述の分解処理方法と同様の方法で行った。この場合の吸殻処理率は80.7%であった。
【0061】
また、図7に、上述の3種類のタバコの分解処理について、含水率と吸殻処理率の関係を示す。図7は、横軸を含水率(%)、縦軸を吸殻処理率(%)とした。また、図7中の曲線E1は本例の結果を示し、曲線E2は後述する実施例2の結果、曲線E3は後述する実施例3の結果、曲線C1は後述する比較例1の結果を示す。
【0062】
(実施例2)
本例は、上記実施例1のタバコの吸殻の粉砕処理を変更した例である。本例では、上記粉砕処理を行わず、大きさが10〜30mmの吸殻の分解処理を行った例である。その他は実施例1の分解処理方法と同様の方法で行った。
【0063】
水供給手段における最大供給量を、電流値が5.5Aとなった際の上記混合物の含水率が40%となる量に設定した際の吸殻処理率は21.2%であった。
また、水供給手段における最大供給量を、電流値が5.5Aとなった際の上記混合物の含水率が60%となる量に設定した際の吸殻処理率は30%であった。
また、水供給手段における最大供給量を、電流値が5.5Aとなった際の上記混合物の含水率が70%となる量に設定した際の吸殻処理率は27.1%であった。
また、本例についても、3種類のタバコの分解処理について、図7に、含水率と吸殻処理率の関係を併せて示す。上述したように、本例の結果は、曲線E2である。
【0064】
(実施例3)
本例は、上記実施例1におけるタバコの吸殻の粉砕処理を変更した例である。本例では、上記粉砕処理において、タバコの吸殻の大きさが20mm以下となるように粉砕処理を行った例である。その他は実施例1の分解処理方法と同様の方法で行った。
【0065】
水供給手段における最大供給量を、電流値が5.5Aとなった際の上記混合物の含水率が40%となる量に設定した際の吸殻処理率は38.8%であった。
また、水供給手段における最大供給量を、電流値が5.5Aとなった際の上記混合物の含水率が60%となる量に設定した際の吸殻処理率は54.9%であった。
また、水供給手段における最大供給量を、電流値が5.5Aとなった際の上記混合物の含水率が70%となる量に設定した際の吸殻処理率は49.6%であった。
また、本例についても、3種類のタバコの分解処理について、図7に、含水率と吸殻処理率の関係を併せて示す。上述したように、本例の結果は、曲線E3である。
【0066】
(比較例1)
本例は、上記実施例1の混合物を変更した例である。本例では、混合物に生ゴミ混合することなく、タバコの吸殻の分解処理を行った例である。その他は実施例1の分解処理方法と同様の方法で行った。
【0067】
水供給手段における最大供給量を、電流値が5.5Aとなった際の上記混合物の含水率が40%となる量に設定した際の吸殻処理率は14%であった。
また、水供給手段における最大供給量を、電流値が5.5Aとなった際の上記混合物の含水率が60%となる量に設定した際の吸殻処理率は19.8%であった。
また、水供給手段における最大供給量を、電流値が5.5Aとなった際の上記混合物の含水率が70%となる量に設定した際の吸殻処理率は17.9%であった。
また、本例についても、3種類のタバコの分解処理について、図7に、含水率と吸殻処理率の関係を併せて示す。上述したように、本例の結果は、曲線C1である。
【0068】
以上の実施例1〜実施例3(E1〜E3)及び比較例1(C1)の結果から、タバコの吸殻は、収集したままの状態のものよりも細かくする粉砕処理を施してから分解処理を行う方が分解処理され易いこと、また、混合物に生ゴミを混合させることにより、分解処理率が向上することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施例1における、分解処理装置を示す説明図。
【図2】実施例1における、水供給装置を示す説明図。
【図3】実施例1における、タバコの吸殻の分解処理方法を示すフローチャート。
【図4】実施例1における、処理時間、電流値、混合物の含水率、混合物の温度の推移を示す説明図。
【図5】実施例1における、フィルターの分解処理状態を示す図面代用写真。
【図6】実施例1における、フィルターのFT−IR測定結果を示すスペクトル図。
【図7】実施例1〜3及び比較例1における、含水率と吸殻処理率の関係を示す説明図。
【符号の説明】
【0070】
1 分解処理装置
2 処理槽
3 撹拌手段
4 空気供給手段
5 電気式ヒータ
6 水供給手段
7 粉砕処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タバコの吸殻と、該吸殻を分解するための微生物を培養してなる培養土と、生ゴミとを混合して混合物を作り、
該混合物内に空気を投入しながら該混合物を撹拌し、
該混合物が所定の目標温度に近づくように電気式ヒータにより上記混合物を調温し、
該混合物に水を供給し、
上記電気式ヒータとしては、上記目標温度と上記混合物の実際の温度との差が大きいほど大きい電流を流すよう構成されたものを用い、
上記水の供給は、上記混合物の調温中において供給した際に該混合物の含水率が増加する供給量である最大供給量と、供給量が0あるいは上記混合物の調温中において供給しても該混合物の含水率が低下する供給量である最小供給量とを、ステップ的に繰り返し切り替えながら行い、
上記最大供給量と上記最小供給量との切り替えは、上記電気式ヒータに通電される電流値が、予め定めた電流下限値にまで達した際に上記最大供給量とし、再び電流値が増加して予め定めた電流上限値に達した際に上記最小供給量とすることによって行うことを特徴とするタバコの吸殻の分解処理方法。
【請求項2】
請求項1において、上記吸殻は、収集したままの状態のものよりも細かくする粉砕処理を施してから上記混合物として用いることを特徴とするタバコの吸殻の分解処理方法。
【請求項3】
請求項2において、上記吸殻の粉砕処理は、下臼と上臼とを重ねた状態で該下臼を相対的に回転させることによって両者の間に供給された被処理材を粉砕する挽き臼型粉砕機を用いて行うことを特徴とするタバコの吸殻の分解処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、上記混合物には、定期的に生ゴミを追加供給することを特徴とするタバコの吸殻の分解処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、上記電流下限値と上記電流上限値とは、上記混合物の調温状態が定常状態にある場合において、上記混合物の含水率が40〜80%の範囲内となるように設定することを特徴とするタバコの吸殻の分解処理方法。
【請求項6】
タバコの吸殻を含む混合物を収容する処理槽と、
該処理槽内に収容された上記混合物を撹拌するための撹拌手段と、
上記混合物内に空気を供給するための空気供給手段と、
上記混合物の温度が所定の目標温度に近づくように調温する電気式ヒータと、
上記混合物に水を供給するための水供給手段とを有し、
上記電気式ヒータは、上記目標温度と上記混合物の実際の温度との差が大きいほど大きい電流を流すよう構成されており、
上記水供給手段は、上記混合物の調温中において供給した際に該混合物の含水率が増加する供給量である最大供給量と、供給量が0あるいは上記混合物の調温中において供給しても該混合物の含水率が低下する供給量である最小供給量とを、ステップ的に繰り返し切り替え可能であり、
上記最大供給量と上記最小供給量との切り替えは、上記電気式ヒータに通電される電流値が、予め定めた電流下限値にまで達した際に上記最大供給量とし、再び電流値が増加して予め定めた電流上限値に達した際に上記最小供給量とすることによって行うよう構成されていることを特徴とするタバコの吸殻の分解処理装置。
【請求項7】
請求項6において、さらに、上記吸殻を収集したままの状態のものよりも細かくする粉砕処理装置を有することを特徴とするタバコの吸殻の分解処理装置。
【請求項8】
請求項7において、上記粉砕処理装置は、下臼と上臼とを重ねた状態で該下臼を相対的に回転させることによって両者の間に供給された被処理材を粉砕する挽き臼型粉砕機よりなることを特徴とするタバコの吸殻の分解処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−119397(P2009−119397A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297790(P2007−297790)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】