説明

タフテッドカーペット用一次基布

【課題】 カーペット用一次基布に適用しうるポリ乳酸系重合体を用いた長繊維不織布であって、熱安定性や耐熱性を具備しうるタフテッドカーペット用一次基布を提供する。
【解決手段】 アルキレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジオールが共重合した重合体で融点が180〜230℃の結晶性の芳香族ポリエステル共重合体と、ポリ乳酸系重合体とが複合された複合長繊維を構成繊維とし、該複合長繊維が集積した長繊維不織布によって構成され、複合長繊維の単糸繊度が5〜12デシテックスであり、長繊維不織布を構成する複合長繊維同士は、ポリ乳酸系重合体が少なくとも軟化することによって熱接着しているタフテッドカーペット用一次基布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タフテッドカーペット用一次基布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、石油を原料とする合成繊維は、焼却時の発熱量が多いため、地球環境保護の見地から見直しが必要とされている。これに鑑み、自然界において生分解する脂肪族ポリエステルからなる繊維が開発されており、環境保護への貢献が期待されている。脂肪族ポリエステルの中でも、石油を原料とせず、植物由来の高分子であるポリ乳酸系重合体は、比較的高い融点を有することから、広い分野に使用されることが期待されている。また、ポリ乳酸系重合体は生分解性ポリマーの中では、力学特性、コストバランスが最も優れている。それに伴い、これを利用した繊維の開発が急ピッチで行われている。
【0003】
しかしながら、最も有望視されているポリ乳酸系重合体にも、高温力学特性に劣るという問題がある。ここで、高温力学特性に劣るとは、ポリ乳酸系重合体を高温下、すなわち、ポリ乳酸系重合体のガラス転移温度(Tg)である60℃を超える状態におくと、重合体が急激に軟化することを指す。実際に、雰囲気温度を変更してポリ乳酸系重合体からなる長繊維不織布の引張試験を行うと、70℃以上で急激に長繊維不織布の強力が低下することが分かっている。したがって、ポリ乳酸系重合体からなる長繊維不織布は、高温での力学特性に劣るため、常温下で用いる場合は問題ないが、高温雰囲気下では変形やへたりが生じる。
【0004】
一方、長繊維群が集積されてなる不織布を、タフテッドカーペット用一次基布として用いることは知られている。この一次基布は、パイル糸をタフティング(パイル糸を植え込む)する際の支持体として用いられるものであり、カーペットの製造工程では、一次基布に所望のパイル糸を用いてタフトすることにより生機を得、バッキング処理を行うことによりカーペットが得られ、得られたカーペットは必要に応じて所望の成型が行われる。
【0005】
バッキング処理工程は、通常、熱溶融したバッキング材をラミネートあるいはコーティングし、その後、オーブンにて乾燥させてバッキング材を固めるというものであり、一次基布には、熱溶融したバッキング材と接することにより高熱が付与され、また、その後の乾燥工程でも熱が付与される。したがって、一次基布には、バッキング工程での高熱に耐え、熱変形しにくい熱安定性が求められる。
【0006】
上記したように、ポリ乳酸系重合体からなる長繊維不織布では、高温での力学特性に劣るため、カーペット用一次基布に適用した場合には、バッキング工程で付与される熱や自重、応力に耐え得ることができず変形するなどの問題がある。
【0007】
本出願人は、ポリ乳酸系重合体からなる長繊維不織布における上記した問題を解決するために、特定の重合体とポリ乳酸系重合体とを特定の位置に配置させて複合することにより、耐熱性が向上した繊維を提案している(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−206984号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、カーペット用一次基布に適用しうるポリ乳酸系重合体を用いた長繊維不織布であって、上記にて提案した方法以外の手段にて、熱安定性や耐熱性を具備しうるタフテッドカーペット用一次基布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、アルキレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジオールが共重合した重合体で融点が180〜230℃の結晶性の芳香族ポリエステル共重合体と、ポリ乳酸系重合体とが複合された複合長繊維を構成繊維とし、該複合長繊維が集積した長繊維不織布によって構成され、複合長繊維の単糸繊度が5〜12デシテックスであり、長繊維不織布を構成する複合長繊維同士は、ポリ乳酸系重合体が少なくとも軟化することによって熱接着していることを特徴とするタフテッドカーペット用一次基布を要旨とする。
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明のタフテッドカーペット用一次基布は、結晶性の芳香族ポリエステル共重合体とポリ乳酸系重合体とが複合された複合長繊維を構成繊維とする。
【0012】
本発明に用いる芳香族ポリエステル共重合体は、180〜230℃の融点を有し、アルキレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジオールが共重合した重合体である。
【0013】
アルキレンテレフタレートとしては、エチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレートなどのアルキレンテレフタレートが挙げられる。このアルキレンテレフタレートに、共重合する脂肪族ジカルボン酸としては、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などが挙げられ、脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。本発明においては、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位としイソフタル酸が共重合体してなる共重合体、あるいは、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位としブタンジオールが共重合してなる共重合体を好ましく用いることができる。
【0014】
本発明で用いる芳香族ポリエステル共重合体は、結晶性であるため、明確な結晶融点(融解吸熱曲線を描いた際に、明確な融点ピークを示す。)を有し、この芳香族ポリエステル共重合体を骨格成分とする繊維は、熱が付与された場合に、熱収縮が生じにくい。したがって、この繊維からなる不織ウェブに熱接着処理を施して不織布を得る場合の熱接着処理によって繊維が熱収縮することがなく、寸法安定性が良好である。また、得られた不織布は、高温雰囲気下でも繊維の強度、伸度の低下が少なく、安定した品質を保つことができる。
【0015】
芳香族ポリエステル共重合体の融点は、180〜230℃である。融点を230℃以下とすることにより、複合紡糸の際の紡糸温度を250℃以下に設定でき、複合紡糸中にポリ乳酸系重合体が熱分解することなく、製糸性が良好となる。また180℃以上に設定することによって、重合体の高い結晶性を保持することができ、耐熱性および熱安定性を有する繊維および不織布を得ることができ、熱処理時の熱収縮が発生しにくく、カーペットの製造において高温の熱が付与されるバッキング工程や、成形カーペットを得る場合の成形温度(約130〜140℃)にも耐え得る機械的物性を保持することができる。
【0016】
芳香族ポリエステル共重合体の溶融粘度は、芳香族ジカルボン酸を共重合したポリエステル共重合体の場合、紡糸温度における、剪断速度1000秒−1の溶融粘度が、1000〜2000dPa・sであることが好ましく、脂肪族ジオールを共重合したポリエステル共重合体の場合、紡糸温度における剪断速度1000秒−1の溶融粘度が、1000〜3000dPa・sであることが好ましい。このように粘度の低い重合体を用いることにより、高速で溶融紡糸して得られる繊維の結晶性を高め、より熱収縮が小さく熱安定性に優れた不織布を得ることができる。なお、紡糸温度における芳香族ポリエステル共重合体とポリ乳酸系重合体との溶融粘度差は小さい方がよいので、ポリ乳酸系重合体の紡糸温度における剪断速度1000秒−1の溶融粘度もまた1000〜2000dPa・sの範囲にあることが好ましい。
【0017】
本発明に用いるポリ乳酸系重合体は、ポリ−D−乳酸、ポリ−L−乳酸、D−乳酸とL−乳酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、D−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体との郡から選ばれる重合体、あるいはこれらのブレンド体が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸を共重合する際のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられるが、これらの中でも特に、ヒドロキシカプロン酸やグリコール酸が低コスト化の点から好ましい。
【0018】
本発明においては、上記ポリ乳酸系重合体であって融点が150℃以上のもの、あるいは融点が150℃以上の重合体のブレンド体を用いるとよい。融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体は、結晶性が高いため、耐熱性に優れた不織布となり、熱処理加工を安定して行うことができる。
【0019】
ポリ乳酸のホモポリマーであるポリ−L−乳酸やポリ−D−乳酸の融点は、約18 0℃である。ポリ乳酸系重合体として、ホモポリマーではなく、共重合体を用いる場合には、共重合体の融点が150℃以上となるようにモノマー成分の共重合比率を決定する。L−乳酸とD−乳酸との共重合体の場合であると、L−乳酸とD−乳酸との共重合比がモル比で、(L−乳酸)/(D−乳酸)=5/95〜0/100、あるいは(L−乳酸)/(D− 乳酸)=95/5〜100/0のものを用いる。共重合比率が、前記範囲を外れると、共重合体の融点が150℃未満となり、非晶性が高くなり、本発明の目的を達成し得ないこととなる。
【0020】
ポリ乳酸系重合体には、他の成分をブレンドしてもよい。他の成分としては、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸とを構成成分とする脂肪族ポリエステル共重合体(例えば、三菱化学社製の商品名「GSPla」)や、脂肪族ジオールと芳香族カルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とを縮合して得られる生分解性脂肪族−共重合芳香族ポリエステル重合体(例えば、ノバモント社製の商品名「イースターバイオGP」、BASF社製の商品名「ECOFLEX」)などが挙げられる。
【0021】
本発明の複合長繊維を構成する重合体には、本発明の目的が達成される範囲において、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、末端封鎖剤、可塑剤、滑剤、離形剤、帯電防止剤、充填剤等を添加してもよい。例えば、結晶核剤としてのタルクを配合することが好適である。
【0022】
本発明における複合長繊維の複合形態は、ポリ乳酸系重合体が熱接着成分として機能することができる形態として、ポリ乳酸系重合体が繊維表面の一部を形成するものとするのがよい。より好ましい形態は、芳香族ポリエステル共重合体が芯部を形成しポリ乳酸系重合体が鞘部を形成してなる芯鞘型、または、芳香族ポリエステル共重合体が芯部を形成しポリ乳酸系重合体が芯部の外周を取り囲むように複数の突起状の葉部を形成した多葉型である。芯鞘型あるいは多葉型である。芯鞘型または多葉型とすることにより、ポリ乳酸系重合体を熱接着成分として機能させる熱接着処理を容易に行うことができる。
【0023】
複合長繊維における芳香族ポリエステル共重合体とポリ乳酸系重合体との複合比(質量比)は、ポリ乳酸系重合体/芳香族ポリエステル共重合体=3/1〜1/3であることが好ましい。ポリ乳酸系重合体/芳香族ポリエステル共重合体の比率を3/1以下とすることにより、得られる不織布の高温下での機械的強度を十分に保持することができ、ポリ乳酸系重合体/芳香族ポリエステル共重合体の比率が1/3以上とすることにより、ポリ乳酸系重合体の熱接着剤として十分に機能することができ、不織布の形態保持性が良好となる。
【0024】
複合長繊維の単糸繊度は、5〜12デシテックスである。単糸繊度が5〜12デシテックスというように、比較的大きな繊度を採用することによって、パイル糸を基布に打ち込む際に繊維自身がダメージを受けにくい。また、単糸繊度を5デシテックス以上とすることにより、不織布の厚み方向(表面層および内層)における繊維は繊維形態を十分に保持でき、植設したパイル糸を良好に把持できる。すなわち、単糸繊度が5デシテックス未満であると、繊維同士を熱接着する際の熱接着処理の際に、繊維に熱が伝わりやすく、不織布全面において厚み方向全体の繊維同士が熱融着する傾向となって、繊維形態を良好に保持できず、植設したパイル糸を良好に把持できず、タフト保持性に劣る傾向となる。一方、単糸繊度が12デシテックスを超えると、溶融紡糸工程において、紡糸糸条の冷却性に劣り、糸条同士が密着しやすくなる。
【0025】
本発明における長繊維不織布を構成する複合長繊維同士は、ポリ乳酸系重合体が少なくとも軟化することによって熱接着している。熱接着は、構成繊維同士の接点におけるポリ乳酸系重合体が熱接着しているものや、熱エンボス加工により、部分的に熱と圧力が加えられた箇所のポリ乳酸系重合体が少なくとも軟化することによって繊維同士を熱接着しているもの等が挙げられる。繊維同士が熱接着していることによって、不織布として機械的強度や形態安定性を良好に保持でき、製造工程中の巻き取り等に十分耐えうることができる。複合長繊維同士が熱接着した長繊維不織布の形態は、両表層が、ポリ乳酸系重合体の軟化によって構成繊維同士が熱接着されており、内層は、複合長繊維が概ね熱接着されずに繊維集合体で存在しているか、もしくは、熱接着しているが、タフト工程等の物理的な力が加わることで接着状態が解除されてばらばらの繊維が堆積した状態となる仮接着状態となっているものでもよい。内層の複合長繊維が繊維形態を保持することによって、タフテッドカーペット用一次基布として、良好にパイル糸を把持できるのである。
【0026】
本発明のタフテッドカーペット用一次基布は、目付が80〜150g/m2であることが好ましく、より好ましくは100〜120g/m2である。目付が80g/m2未満であると、本発明のタフテッドカーペット用一次基布を成形カーペットとして用いる場合、成形時に破れが生じやすくなる。一方、目付が150g/m2を超えると、繊維量が多すぎてしまい、パイル高さが不均一となったり、タフト間隔が不揃いになったりしやすい。また、コスト面でも不利である。
【0027】
本発明のタフテッドカーペット用一次基布には、必要に応じて、バインダー樹脂を付与して、構成繊維同士をバインダー樹脂によっても接着させてもよい。バインダー樹脂としては、上述した不織布を構成するポリ乳酸系重合体と同様のものを好適に用いることができる。また、ポリビニルアルコールや天然物であるデンプン等の多糖類、タンパク質、キトサン等を用いてもよい。その他にも、従来から使用されているアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリロニトリル、スチレンなどのモノマーを二種類以上組み合わせて所望のモル比で共重合した共重合体を採用することもできる。また、これらの共重合体をメラミン樹脂、フェノール樹脂等の架橋剤によって架橋している架橋型のバインダー樹脂を用いてもよい。バインダー樹脂の付着量は、繊維質量に対して20質量%以下とすることが好ましい。
【0028】
本発明のタフテッドカーペット用一次基布は、140℃、5分間における乾熱収縮率が、タテ方向、ヨコ方向とも5%以下であることが好ましい。乾熱収縮率を5%以下にすることによって、後述するバッキング工程において収縮の小さいタフテッドカーペットが得られる。ここで、乾熱収縮率の評価を140℃で行うのは、バッキング材が生分解性を有する材料にて形成されている場合を考慮したためである。バッキング材として用いる生分解性樹脂は、融点は80〜130℃のものが好ましい。バッキング材を設ける際に、通常、高温の溶融状態のバッキング材を押し出して溶融状態のまま基布に貼り合わせるが、バッキング材の融点が130℃を超えると、溶融状態のバッキング材の温度が160℃を超えてしまう可能性があり、このようなバッキング材を貼り合せる際、基布を構成しているポリ乳酸系重合体が溶融又は軟化してしまい、基布の損傷が大きくなるため好ましくない。一方、融点が80℃未満であると、例えば、本発明のタフテッドカーペット用一次基布を用いたカーペットを自動車のオプションマット等に使用した場合、炎天下における自動車室内の温度によって、バッキング材が溶融または軟化してしまう恐れがある。
【0029】
本発明では、上記したタフテッドカーペット用一次基布にパイル糸を植設することによって、タフテッドカーペットを得ることができる。
【0030】
また、タフテッドカーペットのパイル面と反対面に設けるバッキング材は、上述したように融点が80〜130℃の生分解性樹脂によって形成されることが好ましい。生分解性樹脂としては、L−乳酸とD−乳酸との共重合体からなるポリ乳酸系重合体が挙げられる。この場合、L−乳酸とD−乳酸との共重合比が、モル比で、(L−乳酸)/(D−乳酸)=8/92〜12/88、あるいは(L−乳酸)/(D−乳酸)=88/12〜92/8のものであることが好ましい。また、生分解性樹脂として、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸および脂肪族ジヒドロキシカルボン酸を構成成分とする脂肪族ポリエステル共重合体(三菱化学社製の商品名「GSPla」)や、脂肪族ジオールと芳香族カルボン酸および脂肪族ジカルボン酸を縮合して得られる生分解性脂肪族−芳香族共重合ポリエステル共重合体(ノバモント社製の商品名「イースターバイオGP」、BASF社製の商品名「ECOFLEX」)などを挙げられる。
【0031】
本発明のタフテッドカーペット用一次基布は、スパンボンド法によって長繊維不織布を得ることにより効率よく製造することができる。
【0032】
まず、ポリ乳酸系重合体と上述した芳香族ポリエステル共重合体とを用意する。用意したそれぞれの重合体を個別に計量し、所望の複合紡糸口金を用いて、溶融紡糸する。本発明においては、芳香族ポリエステル共重合体が芯部を形成し、ポリ乳酸系重合体が鞘部を形成する芯鞘型複合紡糸口金を介して溶融紡糸するか、あるいは、芳香族ポリエステル共重合体が芯部を形成し、ポリ乳酸系重合体が葉部を構成する多葉型複合紡糸口金を介して溶融紡糸する。紡出した糸条は、従来公知の横吹き付けや環状吹き付け等の冷却装置を用いて冷却せしめた後、エアージェット等の牽引装置を用いて牽引細化して引き取る。
【0033】
牽引する際の牽引速度は、3500〜5500m/分が好ましい。牽引速度が3500m/分未満であると、糸条において十分に分子配向が促進されず、得られる長繊維不織布の寸法安定性や熱安定性に劣る傾向となる。一方、牽引速度が5500m/分を超えて高くなりすぎると紡糸安定性に劣る。
【0034】
牽引細化した長繊維は、公知の開繊器具にて開繊した後、スクリーンコンベアなどの移動式捕集面上に開繊堆積させて、構成繊維がランダムに堆積した不織ウエブを形成する。次いで、このウエブに熱接着処理を施すことによって、本発明のタフテッドカーペット用一次基布を得る。熱接着処理の方法としては、熱風処理を行う方法、熱圧接装置に通して熱圧接する方法等が挙げられる。熱圧接装置としては、エンボスロールとフラットロールとからなるものや一対のエンボスロールからなるもの、一対のフラットロールからなるものが挙げられる。また、これら熱圧接装置を複数組み合わせて用いてもよい。本発明においては、エンボスロールを用いた熱エンボス加工を施すことが好ましい。
【0035】
熱圧接を行うのに際して、熱圧接温度(ロール設定温度)とロール間の線圧を適宜選択することが重要である。熱圧接温度は、ポリ乳酸系重合体の融点をTmとしたとき、(Tm−90)℃〜(Tm−60)℃とすることが好ましい。熱圧接温度を(Tm−90)℃より低い温度に設定すると、処理速度にもよるが、ポリ乳酸系重合体が十分に軟化せず、繊維間を十分に熱接着できず、得られる一次基布の機械的性能が劣るものとなる。一方、熱圧接温度を(Tm−60)℃を超えて高い温度に設定すると、軟化したポリ乳酸系重合体がロールに融着してしまい、操業性を著しく損なう傾向となる。また、熱の影響によって、得られる一次基布が熱硬化した粗剛なものとなったり、一次基布の内層まで熱が伝わりすぎて構成繊維同士が全体的に融着した状態となってしまい、タフティング時にタフト針の貫通抵抗が大きくなったり、タフト保持性に劣る傾向になったりする。
【0036】
熱圧接処理の際のロール間の線圧は、90〜300N/cm程度とするのがよい。90N/cm以上とすることにより、ポリ乳酸系重合体を十分に軟化させて接着剤として機能させることができ、また300N/cm以下とすることで、内層まで熱が伝わりすぎて不織布の全体が融着してしまうことがなく、繊維形態を十分に保持することが可能となる。
【0037】
エンボスロールを用いる場合は、熱圧接処理の際にエンボスロールの凸部に当接するウエブの部位が熱圧接部となる。この凸部の面接がエンボスロール全体の面積に対して4%以上の範囲であるエンボスロールを用いることが好ましい。4%未満であると、不織布の全面積に対して熱圧接される面積があまりに少ないため、タフテッドカーペット用基布として必要な強度の確保を期待しにくくなってしまい、タフティング、染色、バッキング等の二次加工時の引張応力に対する所要強度を得にくくなる。熱圧接部の面積の上限は、50%程度が好ましい。圧接点の密度は、20〜65個/cm2であることが好ましい。エンボスロールの凸部の先端部の形状は、熱圧接部の形状となるが、この形状は、特に限定されない。例えば、丸形、楕円形、菱形、三角形、T字形、井形、長方形、正方形等の種々の形状を採用できる。この凸部の先端部面積は、0.1〜1.0mm程度であればよい。
【0038】
本発明の一次基布には、必要に応じて、バインダー樹脂を付与する。バインダー樹脂を付与する場合は、熱接着処理により構成繊維同士を熱接着させた後にバインダー樹脂を付与するとよい。すなわち、水中に乳化分散させたバインダー樹脂液に、熱接着処理を施した不織布を含浸させて乾燥処理を施す方法、あるいは熱接着処理を施した不織布にバインダー樹脂液をスプレー等の手法で付与して乾燥処理を施す方法等を採用することができる。バインダー樹脂の付着量は、上述したように繊維質量に対して20質量%とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0039】
本発明のタフテッドカーペット用一次基布は、長繊維不織布によって構成されるものであり、長繊維不織布を構成する繊維は、ポリ乳酸系重合体とアルキレンテレフタレートに芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジオールが共重合した融点180〜230℃の芳香族ポリエステル共重合体とが複合した繊維である。本発明のタフテッドカーペット用一次基布によれば、芳香族ポリエステル共重合体は、結晶性が高く、これが繊維の骨格部として繊維形態を維持し、かつ、繊維表面のポリ乳酸系重合体によって繊維同士が熱接着してなるものであり、さらに、複合長繊維の繊度が5〜12デシテックスで比較的大きな繊度を選択しているため、熱安定性に優れ、カーペット製造工程におけるバッキング工程で付与される熱や自重、応力に耐え得ることができて変形等が生じにくいカーペットを得ることができる。
【実施例】
【0040】
次に、実施例に基づき、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例における各種物性値は、以下の方法により測定した。
【0041】
(1)メルトフローレート(g/10分):ASTM−D−1238(E)に記載の方法に準じて、温度210℃、荷重2160gfで測定した。以降、メルトフローレートを「MFR」と記す。
【0042】
(2)溶融粘度(dPa・S):東洋精機製キャピログラフ1C型を用いて、温度190℃、剪断速度1000秒−1、オリフィス径1mmの条件で溶融粘度を測定した。
【0043】
(3)融点 (℃): 示差走査型熱量計(パーキンエルマ社製、DSC−2型)を用い、試料質量を5mg、昇温速度を10℃/分で測定し、得られた融解吸熱曲線の最大値を与える温度を融点(℃)とした。
【0044】
(4)繊度(デシテックス):不織ウェブより50本の繊維の繊維径を光学顕微鏡で測定し、密度補正して求めた平均値を繊度とした。
【0045】
(5)目付(g/m):標準状態の試料から試料長が10cm、試料幅が5cmの試料片10点を作成し、各試料片の質量(g)を秤量し、得られた値の平均値を単位面積あたりに換算して、目付(g/m)とした。
【0046】
(6)乾熱収縮率(%):幅20cm×長さ20cmの試験片を切り出し、その試験片を温度140℃の雰囲気下にて5分間放置して加熱した後、室温にて冷却し、下記の数式からMD方向(機械方向)およびCD方向(機械方向と直行する方向)の乾熱収縮率をそれぞれ求めた。
不織布の乾熱収縮率(%)={(A−A)/A}×100
上式中、Aは、初期の試験片の幅寸法または長さ寸法(cm)、Aは、140℃の雰囲気下に5分間加熱した後に取り出して室温に冷却したときの試験片の幅寸法または長さ寸法(cm)を示す。
【0047】
実施例1
ポリ乳酸系重合体として、融点168℃、MFR20g/10分の、L−乳酸/D−乳酸=98.6/1.4モル%のL−乳酸/D−乳酸共重合体(以下「P1」)を用意した。
【0048】
一方、芳香族ポリエステル共重合体として、エチレンテレフタレートを繰り返し単位とし、これにイソフタル酸が共重合してなる共重合体で、融点が230℃、850dPa・Sである共重合ポリエステルを用意した。
【0049】
共重合ポリエステルを芯部、P1を鞘部とし、芯部/鞘部=1/1(質量比)である芯鞘複合断面となるように、また鞘成分のP1の溶融重合体中にタルク0.5wt%となるように、個別に計量した後、それぞれを個別のエクストルーダー型溶融押出機を用いて、温度245℃で溶融し、単孔吐出量3.5g/分の条件で溶融紡糸した。
【0050】
紡出糸条を公知の冷却装置にて冷却した後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアサッカーに牽引速度4000m/分で牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上にウエブとして捕集堆積させた。堆積させた複合長繊維の単糸繊度は8.1デシテックスであった。
【0051】
次いで、このウエブをエンボスロールとフラットロールとからなる熱エンボス装置に通して熱処理を施し、目付120g/m2の長繊維不織布を得、これをタフテッドカーペット用一次基布とした。熱エンボスの条件としては、両ロールの表面温度を90℃、線圧を98N/cmとし、エンボスロールは、織目柄の彫刻模様で、機械方向のピッチ2.5mm、圧接面積率が37%のものを用いた。得られたタフテッドカーペット用一次基布の乾熱収縮率は、MD方向が1%、CD方向が1%であり、熱安定性に優れたものであった。
【0052】
実施例2
実施例1において、単孔吐出量を4.0g/分としたこと以外は、実施例1と同様にして、単糸繊度11.0デシテックスの長繊維不織布を得、これをタフテッドカーペット用一次基布とした。得られたタフテッドカーペット用一次基布の乾熱収縮率は、MD方向が1%、CD方向が1%であり、熱安定性に優れたものであった。
【0053】
実施例3
ポリ乳酸系重合体として、「P1」を用意した。
共重合ポリエステル重合体として、エチレンテレフタレートを繰り返し単位とし、これにブタンジオールが共重合してなる共重合体で、融点が200℃、温度230℃、剪断速度1000秒−1における溶融粘度が、1200dPa・Sである共重合ポリエステルを用意した。
【0054】
共重合ポリエステルを芯部、P1を鞘部として、芯部/鞘部=1/1(質量比)である芯鞘複合断面となるように、また鞘成分P1の溶融重合体中にタルク0.5質量%となるように、個別に計量した後、それぞれを個別のエクストルーダー型溶融押出機を用いて、温度220℃で溶融し、単孔吐出量3.5g/分にて、溶融紡糸した。引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアサッカーに牽引速度4000m/分で牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上にウエブとして捕集堆積させた。堆積させた複合長繊維の単糸繊度は8.1デシテックスであった。
【0055】
次いで、このウエブをエンボスロールとフラットロールとからなる熱エンボス装置に通して、実施例1と同様の熱エンボス条件にて熱処理を施し、目付120g/m2の長繊維不織布を得、これをタフテッドカーペット用一次基布とした。得られたタフテッドカーペット用一次基布の乾熱収縮率は、MD方向が2%、CD方向が2%であり、熱安定性に優れたものであった。
【0056】
比較例1
実施例1において、単孔吐出量1.38g/分としたこと、エアサッカーによる牽引速度を4200m/分としたこと、熱エンボス処理の際の両ロールの表面温度を110℃に設定したこと以外は、実施例1と同様にして、長繊維不織布を得た。不織布を構成する複合長繊維の単糸繊度は3.3デシテックスであった。得られた長繊維不織布は、不織布の内層まで繊維が熱融着して繊維形態が保持できずに潰れた状態であった。したがって、パイル糸を植設するタフト工程を通すと基布の強度を保持することができないことが想像でき、タフテッドカーペット用一次基布に適用でき得るものではなかった。
【0057】
得られた実施例1〜3のタフテッドカーペット用一次基布および比較例1の長繊維不織布にパイル糸を植設して、一次基布にパイルが植設されたカーペット生機を得た。タフトの条件は、次の通りとした。すなわち、1890デシテックス/108フィラメントのナイロン捲縮糸をパイル糸として用い、タフティングマシンにより、ゲージ10本/2.54cm、10ステッチ/2.54cm、パイル高さ5mmとして、パイル糸447g/mの条件にてタフティングを行った。
【0058】
得られたカーペット生機について、以下の評価を行い、評価結果を表1に示した。
[室温下の引張強力(N/5cm幅)および伸度(%)];
JIS−L−1906に記載の引張強力に準じて測定した。すなわち、幅5cm×長さ20cmの短冊状試験片を10個準備し、定速伸張型引張試験機(オリエンテック社製テンシロンUT M−4−1−100)を用いて、つかみ間隔10cm 、引張速度20cm/分で引張試験を行い、JIS−L−1906に準じて測定し、伸張−荷重曲線を描いた。得られた伸張−荷重曲線から求められる最大荷重値(N/5cm幅)についての10点の平均値を引張強力(N/5cm幅)とし、破断時の伸度についての10点の平均値を伸度(%)とした。なお、測定時の温度(室温)は、25℃であった。
【0059】
[高温雰囲気下での引張強力(N/5cm幅)、伸度(%)];
130℃の高温雰囲気下にて、上記載の方法と同様にして引張強力および伸度を測定した。高温雰囲気下での測定については、130℃の高温雰囲気下にある定速伸張型引張試験機(オリエンテック社製テンシロンUTM−4−1−100)に、つかみ間隔10cmで試験片を設置して5分間放置した後、引張試験を行い伸張−荷重曲線を描いた。また、伸張−荷重曲線において、10%伸張時における荷重値の10点の平均値を10%伸張時の応力(N/5cm幅)とて求めた。高温雰囲気下で初期伸張時(10%伸張時)に適度な応力を有していると、バッキング工程での熱変形も生じにくいため好ましく、本発明では、10%伸張時の応力がMD方向、CD方向ともに10N/5cm幅以上であることが好ましい。
【0060】
[タフト後強力保持性];
基布のCD方向の引張強力(室温下および高温雰囲気下)を上記載の方法により測定し、得られた値(基布のCD方向引張強力とカーペット生機のCD方向引張強力)から、下記式に基づき、タフト後強力保持率を算出し、タフト後強力保持性について下記3段階評価を行った。なお、CD方向のみ評価した理由は、カーペット製造工程では、タフト後の染色工程、バッキング工程等において、CD方向に外力が加わって変形しやすいためである。
タフト後強力保持率(%)=(カーペット生機のCD方向引張強力/基布のCD方向引張強力)×100
(タフト後強力保持性の評価)
◎:タフト後の強力保持率が120%を超える
○:タフト後の強力保持率が120未満〜100%を超える
△:タフト後の強力保持率が100%未満
【0061】
【表1】

実施例1〜3のカーペット生機は、高温雰囲気下でも強力が高く、初期伸張時にて適度な応力を有するものであり、高温雰囲気下でも容易に変形やへたりが生じにくく、カーペットの製造工程にて付与される熱に対する熱安定性を具備しうるものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジオールが共重合した重合体で融点が180〜230℃の結晶性の芳香族ポリエステル共重合体と、ポリ乳酸系重合体とが複合された複合長繊維を構成繊維とし、該複合長繊維が集積した長繊維不織布によって構成され、複合長繊維の単糸繊度が5〜12デシテックスであり、長繊維不織布を構成する複合長繊維同士は、ポリ乳酸系重合体が少なくとも軟化することによって熱接着していることを特徴とするタフテッドカーペット用一次基布。
【請求項2】
芳香族ポリエステル共重合体が、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、イソフタル酸が共重合してなる共重合体であることを特徴とする請求項1記載のタフテッドカーペット用一次基布。
【請求項3】
芳香族ポリエステル共重合体が、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、ブタンジオールが共重合してなる共重合体であることを特徴とする請求項1記載のタフテッドカーペット用一次基布。
【請求項4】
複合長繊維の複合形態が、芳香族ポリエステル共重合体が芯部を形成しポリ乳酸系重合体が鞘部を形成してなる芯鞘型であるか、または、芳香族ポリエステル共重合体が芯部を形成しポリ乳酸系重合体が芯部の外周を取り囲むように複数の突起状の葉部を形成した多葉型であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のタフテッドカーペット用一次基布。
【請求項5】
長繊維不織布は、熱エンボス加工により、ポリ乳酸系重合体が少なくとも軟化して複合長繊維同士を熱接着していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のタフテッドカーペット用一次基布。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のタフテッドカーペット用一次基布にパイル糸が植設されてなるタフテッドカーペット。


【公開番号】特開2010−18894(P2010−18894A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177895(P2008−177895)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】