説明

タングステンカーバイドの再利用

本発明は、鉄および/またはタングステンを含む粉末または粉末塊を製造する製法に関し、該製法は、タングステンカーバイドを含有する粉末を含む少なくとも第1の粉末部分を、酸化鉄粉および/またはタングステン酸化物を含有する粉末、および、随意に鉄粉を含む第2の粉末部分と混合する工程a)を含み、第1の粉末部分の重量は、混合物の50−90重量%の範囲であり、第2の粉末部分の重量は、混合物の10−50重量%の範囲であり、該製法は、工程a)に由来する混合物を、400−1300°C、好ましくは、1000−1200°Cの範囲の温度まで加熱する工程b)を含む。本発明は、同様に、鉄および/またはタングステンを含む粉末または粉末塊に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金粉末、純粋なWC、または、タングステン鉱から始まる、鉄およびタングステンを含む材料を製造する製法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結したタングステンカーバイド材料は、しばしば硬合金と呼ばれる非常に固い工具材料の群であり、これは、鉄、ニッケル、クロム、モリブデンなどの他の焼結または結合材料が使用されることもあるが、通常はコバルトまたはコバルトの豊富な合金であるバインダーマトリックス(binder matrix)中でタングステンモノカーバイド(WC)粒子を液相焼結することによって得られる。通常、マトリックス材料の含有量は、焼結したタングステンカーバイドの総重量の約3−8wt%に達するが、わずか約1wt%でもよく、約20wt%ほど高くてもよい。このような焼結したタングステンカーバイド工具材料からの廃物からのタングステンの回収は、世界のタングステン供給において重要な因子であるが、回収したコバルトの価値もこのことに関連して認識されなければならない。
【0003】
今日、タングステンは、酸化とその後の化学処理によって、廃物の焼結したタングステンカーバイド粉末から主として回収される。この源から、フェロタングステンなどの他の売買可能なタングステン原料を生産することができる。鉄鋼生産では、タングステンで合金にする場合にフェロタングステンが主に使用される。市場で取引可能な中間物になるように、このようなタングステンカーバイド廃物をコスト効率の高いやり方で再利用できれば望ましい。
【0004】
フェロタングステンで合金にする場合に生じる問題は、フェロタングステンが溶解物の底に集まってしまい、そこで炉の内張と反応し、その反応が溶解物内のタングステンの均一性だけでなく、その濃度にも影響を与えかねないということである。
【0005】
特許文献1は、30−60wt%のW(タングステン)と残りの鉄(balance iron)を含む粉末を含有する鉄およびタングステンを含有する粉末について開示している。粉末は鉄粉をWO3粉末と混合させることによって作られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2008091210号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コスト効率の高いやり方で、焼結したタングステンカーバイド廃物、および/または、純粋なWC粉末、および/または、タングステン鉱石から価値を回復することが本発明の目的である。
【0008】
鉄鋼生産において、タングステンで合金にする場合に使用可能な合金材料を提供すること、および、合金材料を生産するための方法を提供することが本発明の別の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的の少なくとも1つは、粉末ケーキ、または、砕いた粉末ケーキなどの、鉄および/またはタングステンを含む粉末または粉末塊(powder agglomerate)を生成するための製法によって解決し、該製法は、a)タングステンカーバイドを含有する粉末を含む少なくとも第1の粉末部分(powder fraction)を、酸化鉄粉および/またはタングステン酸化物を含む粉末と随意で鉄粉を含む少なくとも第2の粉末部分と混合させる工程を含み、第1の粉末部分の重量は、混合物の50−90重量%の範囲であり、第2の粉末部分の重量は混合物の10−50重量%の範囲であり、該製法はさらに、b)400−1300°Cの範囲で、好ましくは、1000−1200°Cの範囲の温度まで、工程a)に由来する混合物を加熱する工程を含む。
【0010】
このような鉄および/またはタングステンを含む粉末または粉末塊は、鉄鋼生産においてタングステンで合金にする場合に、伝統的に製造されてきたフェロタングステン合金の代わりとして使用可能である。特に、タングステンカーバイドを含有する粉末がタングステンカーバイド廃物(例えば、超硬合金廃物)から提供される場合、コスト効率の高いやり方でそのタングステンの価値を回復させることができる。
【0011】
好ましくは、第1粉末部分は、基本的に、タングステンカーバイドを含む粉末からなる。
【0012】
好ましくは、第2の粉末部分は、基本的に、酸化鉄粉および/またはタングステン酸化物を含有する粉末、および、随意に鉄粉からなる。したがって、酸化鉄粉は、タングステン酸化物を含有する粉末によって、部分的にまたは完全に置き換え可能である。しかしながら、第2の部分は、同様に、基本的には、酸化鉄粉からなり、すなわち、タングステン酸化物粉末を含まないそのような実施形態ではそうである。好ましくは、タングステン酸化物を含有する粉末は、使用される際、鉄およびタングステン酸化物を含有する粉末であり、さらに好ましくは、鉱物の鉄重石(Ferberite)の形状のタングステン酸鉄である。好ましくは、酸化鉄粉は、使用される際、基本的には磁鉄鉱および/または赤鉄鉱である。鉄粉は、酸化鉄粉および/またはタングステン酸化物を含有する粉末が存在しない第2の部分中では使用されない。
【0013】
上記の製法は、鉄および/またはタングステンを含有する粉末または粉末塊を有意に提供し、該粉末または粉末塊は、50−99重量%のタングステン、0−50重量%の鉄、0−10重量%のコバルト、10重量%未満の酸素、1重量%未満の炭素、および、偶発的な不純物を含む。
【0014】
1つの実施形態によれば、鉄およびタングステンを含有する粉末または粉末塊が提案され、該粉末または粉末塊は、60<W≦95重量%のタングステン、10重量%未満の酸素、1重量%未満の炭素、残りの鉄、および、偶発的な不純物を含む。このような粉末または粉末塊は、特にタングステン含有量が多いため、鉄鋼生産においてタングステンで合金にする場合に適している。
【0015】
別の実施形態によれば、鉄およびタングステンを含有する粉末または粉末塊が提案され、該粉末または粉末塊は、50−99重量%のタングステン、1−10重量%のコバルト、10重量%未満の酸素、1重量%未満の炭素、残りの鉄、および、偶発的な不純物を含む。このような粉末または粉末塊は、例えば、鉄鋼生産では、タングステンおよびコバルトで合金にする場合に使用されてもよい。
【0016】
本発明の別の態様において、鉄およびタングステンを含有する粉末は、ケース(casing)または容器で提供される。このようなケースまたは容器は、例えば、中空チューブまたはワイヤー、あるいは、缶であっても構わない。中身の詰まったケースまたは容器は鋼の製造で使用可能であり、ここで、中身の詰まったケースまたは容器またはその一部は、制御されたやり方で、タングステンで溶解させた鋼を合金にするために、溶鋼に供給される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の粉末塊と比較した、市販のフェロタングステン・グレードの溶解速度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、従来の市販のフェロタングステン・グレードの代わりに使用可能な、粉末ケーキ、または、砕いた粉末ケーキの欠片などの、鉄および/またはタングステンを含む粉末または粉末塊を生成する新規な方法に関する。この新規な方法は、以下の工程:
a)タングステンカーバイドを含有する粉末を含む少なくとも第1の粉末部分を、酸化鉄粉および/またはタングステン酸化物を含有する粉末、および、随意に鉄粉を含む第2の粉末部分と混合する工程を含み、第1の粉末部分の重量は、混合物の50−90重量%の範囲であり、第2の粉末部分の重量は、混合物の10−50重量%の範囲であり、該方法は、
b)鉄およびタングステンを含有する粉末または粉末塊が形成されるように、工程a)に由来する混合物を、400−1300°C、好ましくは、1000−1200°Cの範囲の温度まで加熱する工程を含む。
【0019】
工程b)では、第2の粉末部分の酸化鉄粉および/またはタングステン酸化物を含有する粉末からの酸素は、第1の粉末部分のタングステンカーバイドを含有する粉末中の炭素と反応してCOまたはCOを形成し、その一方で、タングステンと鉄は反応して、タングステンカーバイドの残基が(あるとしても)少ない鉄および/またはタングステンを含有する粉末を形成する。第2の部分は、酸化物を運搬する粉末(すなわち、酸化鉄粉および/またはタングステン酸化物を含有する粉末)との組み合わせで酸化鉄粉を含有する。鉄粉は鉄およびタングステンカーバイドを含有する粉末中の鉄の相対量を制御するために使用可能である。工程a)において、第2の粉末部分がFeを欠いたタングステン酸化物を含有する粉末、例えば、WO3粉末である場合、Feを本質的に欠く粉末または粉末塊が生成される。
【0020】
工程b)の加熱工程は、0.5−10時間の間に、好ましくは0.5−4時間の間に、より好ましくは0.5−3時間の間に、もっとも好ましくは0.5−2時間の間に行なわれる。加熱時間が短ければ、製造コストが抑えられるという利点がある。加熱は、バッチ(batch)または連続加熱炉で行なうことができる。
【0021】
工程b)内での雰囲気は、好都合に中性かまたは弱還元性であり、好ましくは、雰囲気は80−100vol%Nおよび20−0vol%Hを含む。しかしながら、(H、CO、CO、HO、Nなどの1つ以上を含有する)例えば、一部が燃焼した天然ガスなどからのガスを含む中性か弱還元性のいずれかの他の雰囲気も同様に十分に使用することができる。
【0022】
工程a)の混合物の1つの実施形態において、工程a)の混合物が、60−90wt%タングステンカーバイドを含有する粉末と40−10wt%酸化鉄粉を、好ましくは、70−80wt%タングステンカーバイドを含有する粉末と30−20wt%酸化鉄粉を含むような相対的な容量で、第1の部分は、本質的にタングステンカーバイドを含有する粉末からなり、第2の部分は、本質的に酸化鉄粉からなる。酸化鉄粉は、赤鉄鉱(Fe)粉末、または、磁鉄鉱(Fe)粉末、または、その混合物であってもよい。
【0023】
酸化鉄粉が赤鉄鉱である場合、タングステンカーバイドを含有する粉末との反応は基本的に次のとおりである:
3WC+Fe−>(3W+2Fe)+3CO(g)
【0024】
酸化鉄粉が磁鉄鉱である場合、タングステンカーバイドを含有する粉末との反応は基本的に次のとおりである:
4WC+Fe−>(4W+3Fe)+4CO(g)
【0025】
別の実施形態では、酸化鉄粉は、タングステン酸化物を含有する粉末、好ましくは、鉄重石(FeWO)粉末に部分的または全体的に置き換えられる。タングステンカーバイドを含有する粉末との反応は基本的に次のとおりである:
4WC+FeWO−>(4W+Fe)+4CO(g)
【0026】
タングステンカーバイドを含有する粉末がコバルトおよび/または他のマトリックス金属を含んでいる場合、混合工程a)の前に材料を除去することができる。少なくともコバルトの場合、鉄またはタングステンを含有する粉末または粉末塊が、コバルトおよび/または他のマトリックス金属を本質的に含まない方が望ましいのであれば、工程a)の混合前に、マトリックス金属は浸出(leaching)によって除去される。あるいは、制御された量のコバルトおよび/または他のマトリックス金属を含む、鉄およびタングステンを含有する粉末または粉末塊を生成することができる。
【0027】
コバルト浸出の場合は、製法は、さらに下記工程の1以上を含む:
−c)タングステンカーバイドを含有する粉末中のCo含有量および/または他のマトリックス金属が、1wt%未満、好ましくは0.5wt%未満、さらに好ましくは、0.2wt%未満でもたらされるように、浸出剤を用いることで、工程a)での混合の前にタングステンカーバイドを含有する粉末からコバルトおよび/または他のマトリックス金属を浸出する工程、
−d)工程c)の後であるが混合工程a)の前に、浸出したコバルトおよび/または他のマトリックス金属を含有する浸出剤から、タングステンカーバイドを含有する粉末を分離する工程、
−e)工程d)の後であるが混合工程a)の前に、水媒体でタングステンカーバイドを含有する粉末を洗浄する工程。
【0028】
1つの実施形態では、工程a)の混合は、湿潤状態で、好ましくは粉末が水媒体に含有されている間に、行なわれる。このことは、タングステンカーバイドを含有する粉末がコバルトおよび/または他のマトリックス金属を除去するために浸出されている場合、すなわち、混合前に浸出した粉末を乾かす必要を取り除いた場合に、とりわけ適している。別の利点は、水媒体の中にある間の混合は、均一な混合を達成することが一層容易になるということである。好ましくは、湿潤状態での混合の後であるが工程b)によって混合物を加熱する前に、製法は工程f):水媒体の含有量を少なくするために、かつ、混合粉末のろ過ケーキ(filter cake)を形成するために、混合粉末を濾過する工程を含む。その結果として、工程b)での加熱の際、混合物中の粉末は少なくとも部分的にはともに焼結して、それによって粉末ケーキ(粉末塊)を形成し、この粉末ケーキ(粉末塊)を、その好ましい用途に依存して、砕いたりすりつぶしたりして大きな欠片または細かな欠片にすることができる。粒子は緩慢に焼結するだけなので、これを行うのは容易である。例えば、溶解した鋼で合金にする際、10−50mmの範囲の平均直径を有する、緩慢に焼結した粒子を使用することができるが、その一方で、他の用途では、粉末塊をすりつぶして微粉にすることが望ましいこともある。
【0029】
工程f)では、ろ過はプレスフィルターを用いて行うことができ、それによって、粉末ケーキの多孔度を変えることができる、すなわち、それによって、粉末ケーキ(粉末塊)の密度を制御する。
【0030】
(タングステンカーバイドを含有する粉末)
工程a)で第1の粉末部分として提供されるタングステンカーバイドを含有する粉末は、金属マトリックスに含有されるタングステンカーバイドを含む粉末である。好ましくは、タングステンカーバイドを含有する粉末は、タングステン超硬合金廃物から得られる。好ましくは、タングステンカーバイドを含有する粉末は、1−10重量%の炭素、残りのタングステン、および、偶発的な不純物を含む。タングステンカーバイドを含有する粉末は、同様に、焼結したタングステンカーバイド材料用にマトリックス(結合剤)を形成した合金元素を含む。カーバイド相の割合は一般的に化合物の総重量の70−97%である。炭素は、タングステンカーバイド粒の形状をした粉末粒子で存在し、粒度は平均で0.10μmから15μmであるのが一般的である。とりわけ、粒径が大きい場合、任意の粉末粒子は複数のタングステンカーバイド粒を含む。さらに、タングステンカーバイドを含有する粉末は、任意のタングステンカーバイド粒を欠いた粉末粒子を含むが、しかしながら、ほとんどの粉末粒子は、タングステンカーバイドの1つ以上の粒を含むであろう。
【0031】
用途によっては、1−10wt%、好ましくは3−8wt%の量で、鉄およびタングステンを含有する粉末中にコバルトを有するのが望ましい。したがって、このような用途のために、タングステンカーバイドを含有する粉末はコバルトを含むことを許可される。このことは、例えば、経済的に興味深い。なぜなら、市場で入手可能な廃物からのタングステンカーバイドを含有する粉末の多くが、1−10wt%のCoの量、通常は、3−8wt%のCoの量でコバルトを含むためである。例えば、回路基板ドリルでの工具材料は、コバルトマトリックス中に存在する、粒子の細かい焼結したタングステンカーバイドを含むのが一般的であり、その量は、工具材料の総重量の6%に相当する。その一方で、焼結したカーバイド材料のコバルト含有量が約10重量パーセントである場合、粗粒のタングステンカーバイド材料は鉱山用ドリルの工具材料に使用されるのが一般的である。1つの実施形態では、タングステンカーバイドを含有する粉末は、WCとCoとごくわずかの微量元素を含有する、信頼できるグレードのタングステンカーバイド粉末である。
【0032】
あるいは、低コバルト含有量が望まれる場合、少量のコバルトを有するか、または、コバルトを欠いた、すなわち、好ましくは1wt%未満のCo、より好ましくは0.5wt%未満のCo、さらに好ましくは0.2wt%未満のCoを含むタングステンを含有する粉末を使用することができる。
【0033】
あるいは、1−10wt%のCo、通常は3−8wt%の量のCoを含む廃物からの市販のタングステンカーバイドを含有する粉末に湿式製錬浸出(hydrometallurgical leached)を行うことで、コバルト含有量を1wt%Co未満、好ましくは0.5wt%未満、さらに好ましくは、0.2wt%未満まで減らすことができる。浸出製法からのコバルトを再利用することができ、かつ、それ自体、商品として使用することができる。
【0034】
1つの実施形態によれば、鉄およびタングステンを含有する粉末を生成するために使用されるタングステンカーバイドを含有する粉末は微粉であり、ここで、少なくとも80重量%の粒子、好ましくは少なくとも90wt%の粒子は、0.1−20μm、好ましくは0.1−12μmの範囲の粒径を有する。
【0035】
別の実施形態によれば、鉄およびタングステンを含有する粉末を生成するために使用されるタングステンカーバイドを含有する粉末は粗粉末であり、ここで、少なくとも80重量%の粒子、好ましくは少なくとも90wt%の粒子は、20−150μm、好ましくは20−100μmの範囲の粒径を有する。
【0036】
(酸化鉄粉)
酸化鉄粉は、主として赤鉄鉱(Fe)粉末、または、磁鉄鉱(Fe)粉末、または、赤鉄鉱と磁鉄鉱の粉末の混合物からなるのが好ましい。
【0037】
1つの実施形態によれば、酸化鉄粉は、少なくとも60wt%Fe、好ましくは少なくとも80wt%Fe、さらに好ましくは少なくとも90wt%Fe、もっとも好ましくは、少なくとも99wt%Feを含む。好ましくは、残りは、他の酸化鉄、さらに好ましくは主にFe、および、偶発的な不純物である。
【0038】
別の実施形態によれば、酸化鉄粉は少なくとも60wt% Fe、好ましくは少なくとも80wt%Fe、さらに好ましくは少なくとも90wt%Fe、もっとも好ましくは少なくとも99wt%Feを含む。好ましくは、残りは、他の酸化鉄、さらに好ましくは主にFe、および、偶発的な不純物である。
【0039】
好ましくは、酸化鉄粉の少なくとも80重量%の粒子、さらに好ましくは、少なくとも90wt%粒子は、1−100μm、好ましくは1−20μmの範囲の粒径を有する。
【0040】
(タングステン酸化物を含有する粉末)
1つの実施形態では、タングステン酸化物を含有する粉末は、鉄およびタングステン酸化物を含有する粉末であり、さらに好ましくは、鉱物の鉄重石の形をしたタングステン酸鉄酸である。粒子の少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90wt%が、1−150μm、好ましくは1−100μmの範囲の粒径を有するように、鉄重石を粉砕することができる。
【0041】
酸化鉄粉を鉄重石粉末で部分的にまたは全体的に置き換えることによって、工程a)でタングステンカーバイドを含有する粉末と混合する場合に、鉄およびタングステンを含有する粉末中のタングステン含有量をそれに応じて増やすことができる。
【0042】
代替的な実施形態では、タングステン酸化物を含有する粉末は、WO3粉末であるか、または、タングステン酸鉄(iron tungstate)粉末とWO3粉末の混合物である。第1の部分がWC粉末からなり、第2の部分がWO3粉末からなる場合、多かれ少なかれ、純粋なタングステン粉末を生成することができる。
【0043】
(鉄粉)
随意に、第2の部分は、酸化物を運搬する材料(すなわち、タングステン酸化物粉末を含有する粉末および/または酸化鉄粉)との組み合わせで非酸化鉄粉を含有することができる。それによって、鉄およびタングステンを含有する粉末における鉄の相対量を制御することができる。
【0044】
好ましくは、鉄粉の粒子の少なくとも80重量%、さらに好ましくは、少なくとも90wt%は、1−100μm、好ましくは1−20μmの範囲の粒径を有する。
【0045】
(鉄および/またはタングステンを含有する粉末または粉末塊)
方法にしたがって生成することができる鉄および/またはタングステンを含有する粉末または粉末塊は、本発明の1つの態様によって、50−99wt%W、0−50wt%Fe、0−10wtCo、10wt%未満のO、1wt%未満のC、および、偶発的な不純物を含む。工程a)で、第2の粉末部分がFeを欠いたタングステン酸化物を含有する粉末、例えば、WO3粉末である場合、Feを本質的に欠いた粉末または粉末塊が生成される。しかしながら、好ましくは、鉄および/またはタングステンを含有する粉末または粉末塊は、かなりの量の鉄、好ましくは少なくとも5wt%Feを有する鉄および/またはタングステンを含有する粉末または粉末塊である。
【0046】
用途によっては、l−10wt%、好ましくは3−8wt%の量で、鉄および/またはタングステンを含有する粉末または粉末塊中にコバルトを有するのが望ましい。しかしながら、他の用途ではコバルトは望ましくなく、そのような用途については、Coの含有量は1wt%未満、好ましくは0.2wt%未満でなければならない。
【0047】
酸素の存在について、酸素は上記のように10wt%未満でなければならない。好ましくは、Oの含有量は、5wt%未満、さらに好ましくは、3wt%未満、さらに一層好ましくは、2wt%未満、もっとも好ましくは1wt%未満である。
【0048】
炭素の存在について、炭素は上記のように1wt%未満でなければならない。好ましくは、Cの含有量は、0.5wt%未満、さらに好ましくは0.3wt%、もっとも好ましくは0.1wt%未満である。
【0049】
タングステンの含有量に関して、含有量は好ましくは60<W≦95重量%である。さらに好ましくは、Wの含有量は、65−90wt%の範囲であり、もっとも好ましくは、Wの含有量は70−90wt%の範囲である。
【0050】
工程b)からの粉末および/または粉末塊を砕いたり、すりつぶしたりして、平均的な大きさを小さくする。
【0051】
本発明の1つの実施形態によって、鉄およびタングステンを含有する粉末または粉末塊は、微細粉であり、粒子の少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90wt%が、0.1−25μmの、好ましくは0.1−15μmの範囲の粒径を有する。好ましくは、粉末の見掛け密度は、6g/cm以下であり、好ましくは5g/cm以下、さらに好ましくは2−4g/cmの範囲内である。このような粉末は、例えば、従来のプレスおよび焼結技術で使用されるが、MIM技術中でも使用される。
【0052】
別の実施形態によれば、鉄およびタングステンを含有する粉末または粉末塊は、粗粉末であり、粒子の少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90wt%は、25−170μm、好ましくは25−120μmの範囲の粒径を有する。好ましくは、粉末の見掛け密度は、6g/cm以下、さらに好ましくは5g/cm以下、もっとも好ましくは2−4g/cmの範囲内である。このような粉末は、例えば、従来のプレスおよび焼結技術で使用される。
【0053】
微粉または粗粉末はケースまたは容器でも提供することができる。このようなケースまたは容器は、例えば、中空チューブまたはワイヤー、缶であってもよい。中身の詰まったケースまたは容器は、鋼の製造で使用可能であり、中身の詰まったケースまたは容器またはそれらの一部は、制御されたやり方で、タングステンで溶解させた鋼を合金にするために、溶鋼に供給される。
【0054】
さらに別の実施形態によって、鉄またタングステンを含有する粉末または粉末塊は、粉末ケーキの形状で処理される。粉末ケーキを砕いたり、つぶしたりして大きなまたは小さな欠片にし、用途に依存して粉末の大きさを小さくしてもよい。粉末ケーキの密度は、実際の組成に依存するが、それが濾過の間にどれだけプレスされるか、および、工程b)の加熱温度および加熱時間にも依存する。したがって、粉末ケーキの多孔度は様々であり、つまり、粉末ケーキの密度は、一般的には約15−16g/cmの従来の利用可能なフェロタングステンの密度よりもかなり低くすることができる。鋼溶解物中で合金にする際、出願人は、密度、粉末ケーキおよび/または粉末ケーキの砕いた欠片の密度が、好ましくは12g/cm以下であり、さらに好ましくは、10g/cm以下であり、もっとも好ましくは、6−9g/cmの範囲内であることを発見した。鋼溶解物中で合金にする際、粉末ケーキは、その欠片の少なくとも80重量%が、5−100mmの範囲の、さらに好ましくは10−50mmの範囲の、もっとも好ましくは20−40mmの範囲の平均直径を有するように砕かれるのが好ましい。同じくらい低い密度であるため、欠片は徐々に溶解物に染み込み、砕いた欠片は粉末粒子の塊からなるので、角砂糖がティーカップの中で溶けるのと同じように鋼溶解物中で溶解する。その結果として、すべてではなくともその大部分は、溶解物の底に達する前に完全に溶解し、タングステンの濃度と、溶解物中のその均質性を制御することがより容易である。したがって、この種の材料は従来のフェロタングステンよりも増強された溶解速度を有している。
【実施例】
【0055】
<実施例1>
図1は、本発明の鉄およびタングステンを含有する粉末塊、すなわち、新規なフェロタングステン・グレードと比較した、従来の市販のフェロタングステン・グレード(例えば、基準ISO5450による)の溶解速度を示す。Minelco AB会社(www.minelco.com)からの25重量%の磁鉄鉱粉末(Fe)と、75重量%のタングステンカーバイドを含有する粉末とを混合させることによって、混合物を調整する。タングステンカーバイドを含有する粉末は、組成:98wt% WC、0.7wt%Co、および、微量元素を有する。両方の粉末の粒径は20μm未満であった。その混合物を、毎週の還元性雰囲気下で、6時間にわたって、1100°Cの温度でバッチ炉のなかで加熱処理した。粉末ケーキの形で結果として生じた鉄およびタングステンを含有する粉末は、以下の組成:75wt%W、23wt%Fe、1wt%O、0.5wt%Co、0.5wt%C、および、微量元素を有していた。粉末ケーキは、直径が平均で1−5cmの欠片に砕かれ、各々の欠片は、ともに緩慢に焼結した小さな粉末粒子を含み、つまり、新規なフェロタングステン・グレードを提供する。各欠片の密度は、7−9g/cmの範囲であった。
【0056】
この実験の目的は、鉄およびタングステン粉末塊の焼結構造が、従来の市販のフェロタングステン・グレードよりも早い溶解速度を有しているかどうかを判断するものであった。
【0057】
この焼結構造の別の利点は、沈む速度が遅いため、「沈子(sinkers)」、すなわち、欠片が溶解物の底まで沈み、炉の内張と反応することを回避することができるということである。
【0058】
2つの鋼溶解物(第1および第2)を調整し、それらの組成を分析した。第1の鋼溶解物は、4.3wt% Cr、6.1wt% Mo、3.1wt% V、0.2wt Si、0.1のNi、1.5wt% C、残りのFe、および、0.5wt%未満の微量元素の総重量を含む。Wの含有量は0 wt%であった。第2の鋼溶解物は、4.3wt% Cr、6.1wt% Mo、3.3wt% V、0.2wt Si、0.1のNi、0.1wt% W、1.6wt% C、残りのFe、および、0.5 wt%未満の微量元素の総重量を含む。両方の鋼溶解物は約1550°Cの温度で保持された。第1の溶解物に、鉄およびタングステンを含有した塊(粉末ケーキの砕いた欠片)に調製された形状の、すなわち、新規なフェロタングステン・グレードのWを加え、第2の溶解物に従来のフェロタングステン・グレードを加えた。従来の市販のフェロタングステン・グレードは76wt% W、残りのFeを含む組成を有し、その密度を15.4g/cmまで測定した。従来のフェロタングステンと新規なフェロタングステンの両方について、すべての含有量は1つのバッチで加えられた。その後、W含有量を測定するために、サンプルを30秒ごとに得た。各溶解物について、10のサンプルを得た。図1は、Wの含有量が各溶解物に関して時間とともにどのように変わるかを示している。見てわかるように、Wの含有量は、従来のフェロタングステンよりも新規なフェロタングステンのほうがはるかに迅速に増加し、すなわち、新規なフェロタングステンの溶解速度は、従来のフェロタングステンの溶解速度よりも大きい。
【0059】
<実施例2>
【0060】
【表1】

【0061】
WO3粉末、WC粉末、および、Fe粉末を表1に示されるような量で混合した。WC粉末は、98wt% WC、0.7wt%Co、および、微量元素の組成を有する。混合物を4時間1050Cの温度でるつぼ(crucible)内で加熱した。雰囲気には95vol%のNおよび5vol%のHが含まれていた。混合物を室温まで冷却した。その結果物は、鉄とタングステンを含有する、ゆるく詰められた粉末塊であった。粉末塊中の炭素と酸素の含有量を分析し、0.01wt%のC、および、0.7wt%のOの含有量を示した。
【0062】
<実施例3>
【0063】
【表2】

【0064】
WO3粉末、WC粉末、および、Fe粉末を表2で示されるような量で混合した。その混合物を4時間1050Cの温度でるつぼ内で加熱した。雰囲気には95vol%のNおよび5vol%のHが含まれた。混合物を室温まで冷却した。その結果物は鉄とタングステンを含有する、ゆるく詰められた粉末塊であった。粉末塊中の炭素と酸素の含有量を分析し、0.08wt%のCおよび2.0wt%のOの含有量を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末ケーキなどの、鉄および/またはタングステンを含む粉末または粉末塊を製造するための製法であって、
該製法は、a)タングステンカーバイドを含有する粉末を含む少なくとも第1の粉末部分を、酸化鉄粉および/またはタングステン酸化物を含む粉末と随意で鉄粉を含む少なくとも第2の粉末部分と混合させる工程を含み、第1の粉末部分の重量は、混合物の50−90重量%の範囲であり、第2の粉末部分の重量は混合物の10−50重量%の範囲であり、
該製法はさらに、
b)400−1300°Cの範囲の、好ましくは、1000−1200°Cの範囲の温度まで、工程a)に由来する混合物を加熱する工程を含むことを特徴とする製法。
【請求項2】
工程b)内での雰囲気が中性かまたは弱還元性であり、好ましくは、雰囲気は80−100vol%Nおよび20−0vol%Hを含むことを特徴とする請求項1に記載の製法。
【請求項3】
工程b)の加熱工程は、0.5−10時間の間に、好ましくは0.5−4時間の間に、さらに好ましくは0.5−3時間の間に、もっとも好ましくは0.5−2時間の間に行なわれることを特徴とする請求項1または2に記載の製法。
【請求項4】
酸化鉄粉は、少なくとも60wt%Fe粉末、好ましくは、少なくとも99wt%Fe粉末を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の製法。
【請求項5】
酸化鉄粉は、少なくとも60wt%Fe粉末、好ましくは、少なくとも99wt%Fe粉末を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の製法。
【請求項6】
タングステンカーバイドを含有する粉末が1−10重量%のCと、残りのタングステンおよび偶発的な不純物を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の製法。
【請求項7】
工程a)において、工程a)の混合物が、60−90wt%タングステンカーバイドを含有する粉末と40−10wt%酸化鉄粉を、好ましくは、70−80wt%タングステンカーバイドを含有する粉末と30−20wt%酸化鉄粉を含むような相対的な容量で、第1の部分は、本質的にタングステンカーバイドを含有する粉末からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の製法。
【請求項8】
工程a)において、タングステン酸化物を含有する粉末が鉄重石粉末であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の製法。
【請求項9】
タングステンカーバイドを含有する粉末が、1−10wt%のコバルト、好ましくは、3−8wt%のコバルトをさらに含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1つに記載の製法。
【請求項10】
前記製法がさらに、
タングステンカーバイドを含有する粉末中のコバルトの含有量が、1wt%未満、好ましくは0.5wt%未満、さらに好ましくは、0.2wt%未満に減らされるように、浸出剤を用いることによって、工程a)での混合の前にタングステンカーバイドを含有する粉末からコバルトを浸出する工程c)を含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1つに記載の製法。
【請求項11】
前記製法が、工程c)の後であるが工程a)の混合の前に工程d)をさらに含み、工程d)において、タングステンカーバイドを含有する粉末が、浸出したコバルトを含有する浸出剤から分離することを特徴とする請求項10に記載の製法。
【請求項12】
前記製法が、工程d)の後であるが工程a)の混合の前に、水媒体でタングステンカーバイドを含有する粉末を洗浄する工程e)をさらに含むことを特徴とする請求項11に記載の製法。
【請求項13】
工程a)の混合は、湿潤状態で、好ましくは粉末が水媒体に含有されている間に、行なわれることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1つに記載の製法。
【請求項14】
前記製法が、工程a)の後であるが工程b)の前に、少なくとも部分的に水媒体を取り除いて、混合粉末のろ過ケーキを形成するために、工程a)の混合物をろ過にさらす工程f)をさらに含むことを特徴とする請求項13に記載の製法。
【請求項15】
50−99重量%のタングステン、
0−50重量%の鉄、
0−10重量%のコバルト、
10重量%未満の酸素、
1重量%未満の炭素、および、
偶発的な不純物を含む、請求項1乃至14にしたがって製造された鉄および/またはタングステンを含有する粉末または粉末塊。
【請求項16】
60.1−95重量%のタングステン、
10重量%未満の酸素、
1重量%未満の炭素、
残りの鉄、および、偶発的な不純物を含む、鉄またタングステンを含有する粉末または粉末塊。
【請求項17】
50−95重量%のタングステン、
10重量%未満の酸素、
1重量%未満の炭素、
1−10重量%のコバルト、好ましくは、3−8wt%のコバルト、
残りの鉄、および、偶発的な不純物を含む、鉄またタングステンを含有する粉末または粉末塊。
【請求項18】
コバルトの含有量が、1wt%未満、好ましくは0.2wt%未満であることを特徴とする請求項15または16に記載の粉末または粉末塊。
【請求項19】
タングステンの含有量は、60.1−95wt%の範囲であり、好ましくは、65−90wt%の範囲であり、さらに好ましくは70−90wt%の範囲であることを特徴とする請求項15乃至18のいずれか1つに記載の粉末または粉末塊。
【請求項20】
Feの含有量が少なくとも5wt%であることを特徴とする請求項15乃至19のいずれか1つに記載の粉末または粉末塊。
【請求項21】
粉末または粉末塊は、粉末ケーキ、または、砕かれて欠片になった粉末ケーキであり、前記欠片の少なくとも80wt%が、5mm、好ましくは10mmの平均直径を有し、
粉末ケーキ、または、砕かれた粉末ケーキの欠片の密度は、6−12g/cm、好ましくは、6−9g/cmの範囲内であることを特徴とする請求項15乃至20のいずれか1つに記載の粉末または粉末塊。
【請求項22】
請求項15乃至21のいずれか1つの粉末を含む鋼溶解物中のタングステンで合金にするための容器。

【図1】
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【公表番号】特表2013−508551(P2013−508551A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535169(P2012−535169)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/SE2010/051155
【国際公開番号】WO2011/053231
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(512081317)ミンプロ アクチエボラグ (1)
【Fターム(参考)】