タンタル容器の浸炭処理方法
【課題】タンタル容器の各箇所における浸炭処理の厚みを容易に制御することができ、均一な厚みで浸炭処理することができるタンタル容器の浸炭処理方法を提供する。
【解決手段】タンタルまたはタンタル合金からなるタンタル容器1に炭素を浸透させる浸炭処理方法であって、タンタル容器1を、チャンバー3内に設けられた支持部材5,6で支持し、チャンバー3内に配置する工程と、チャンバー3内を減圧及び加熱する工程とを有し、浸炭処理されにくい箇所の近傍に炭素源を設けることを特徴としている。
【解決手段】タンタルまたはタンタル合金からなるタンタル容器1に炭素を浸透させる浸炭処理方法であって、タンタル容器1を、チャンバー3内に設けられた支持部材5,6で支持し、チャンバー3内に配置する工程と、チャンバー3内を減圧及び加熱する工程とを有し、浸炭処理されにくい箇所の近傍に炭素源を設けることを特徴としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンタルまたはタンタル合金からなるタンタル容器に、該容器の表面から内部に向かって炭素を浸透させる浸炭処理を施すための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は、ケイ素(Si)やガリウムヒ素(GaAs)等の従来の半導体材料では実現できない高温、高周波、耐電圧・耐環境性を実現することが可能であるとされており、次世代のパワーデバイス、高周波デバイス用半導体材料として期待されている。
【0003】
特許文献1においては、単結晶炭化ケイ素基板の表面を熱アニールする際、及び単結晶炭化ケイ素基板の上に炭化ケイ素の単結晶を結晶成長させる際に、表面に炭化タンタル層が形成されたタンタル容器をチャンバーとして用いることが提案されている。表面に炭化タンタル層を有するタンタル容器内に、単結晶炭化ケイ素基板を収納し、その表面を熱アニールしたり、あるいはその表面上に炭化ケイ素単結晶を成長させることにより、表面が平坦化され、かつ欠陥の少ない単結晶炭化ケイ素基板または炭化ケイ素単結晶層を形成することができる旨報告されている。
【0004】
特許文献2及び特許文献3においては、タンタルもしくはタンタル合金の表面に存在する自然酸化膜であるTa2O5を昇華させて除去させた後、炭素を浸透させて表面にタンタル炭化物を形成する浸炭処理方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、チャンバー内で減圧及び加熱して浸炭処理する際、チャンバー内を真空排気ポンプにより排気することにより、チャンバー内に気流が発生し、炭素源からの炭素がこれに沿って移動するため、タンタル容器の表面を均一に浸炭処理することができないという問題があった。
【0006】
また、タンタル容器表面を均一に浸炭処理する方法について、具体的な提案は従来なされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−16691号公報
【特許文献2】特開2005−68002号公報
【特許文献3】特開2008−81362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、チャンバー内にタンタル容器を設置し、減圧を行いながらの各箇所における浸炭処理の厚みを容易に制御することができ、均一な厚みで浸炭処理することができるタンタル容器の浸炭処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の浸炭処理方法は、タンタルまたはタンタル合金からなるタンタル容器に炭素を浸透させる浸炭処理方法であって、タンタル容器を、チャンバー内に設けられた支持部材で支持し、チャンバー内に配置する工程と、チャンバー内を減圧及び加熱する工程とを有し、浸炭処理されにくい箇所の近傍に炭素源を設けることを特徴としている。
【0010】
浸炭処理されにくい箇所の近傍としては、該箇所から0〜50mmの範囲であることが好ましく、さらには0.5〜50mmの範囲であることが好ましく、さらには5〜50mmの範囲であることが好ましい。本発明においては、タンタル容器における浸炭処理されにくい箇所を予め特定するため、上記炭素源を設ける工程より前に、タンタル容器の配置されたチャンバー内を減圧及び加熱し、上記炭素源を設けずにタンタル容器の浸炭処理を行うことにより、タンタル容器の浸炭処理されにくい箇所を特定してもよい。
【0011】
本発明において、タンタル容器としては、例えば、底面部と、側壁部と、開口部とによって形成されているものを挙げることができる。このようなタンタル容器において、浸炭処理されにくい箇所としては、タンタル容器内側の底面部及び側壁部が挙げられる。タンタル容器内側の底面部及び側壁部が、浸炭処理されにくい箇所である場合には、上記炭素源を、タンタル容器の内側に配置することが好ましい。
【0012】
また、上記タンタル容器において、浸炭処理されにくい箇所が、タンタル容器内側の底面部と側壁部から形成されるコーナ部である場合には、コーナ部の近傍に、上記炭素源が配置されていることが好ましい。
【0013】
また、本発明において、タンタル容器は、開口部が下方になるように、チャンバー内に配置されていることが好ましい。この場合、支持部材が、タンタル容器内側の底面部を支持することにより、タンタル容器が支持されていることが好ましい。
【0014】
本発明において、上記炭素源としては、連続開気孔を有する炭素源を用いることが好ましい。連続開気孔を有する炭素源としては、カーボンフォームを挙げることができる。
【0015】
本発明において上記連続開気孔を有する炭素源として用いるカーボンフォームは、網目状の形態を有しており、表面積が大きな炭素源であるので、タンタル容器の所定の箇所に充分な炭素を供給することができる。また、様々な形状に容易に加工することができ、チャンバー内の所望の箇所に配置させることができる。従って、浸炭処理を促進したいタンタル容器の箇所の近傍に炭素源としてのカーボンフォームを配置することにより、所望の箇所への浸炭処理を促進することができる。このため、タンタル容器の各箇所における浸炭処理の厚みを容易に制御することができる。
【0016】
本発明においては、チャンバー及び支持部材を炭素源から形成することが好ましい。この場合の炭素源としては、例えば黒鉛などの炭素材を挙げることができる。チャンバー及び支持部材は、少なくとも一部が炭素源であればよく、チャンバーはチャンバー内の内側面、すなわち内壁が炭素源であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に従い、浸炭処理されにくい箇所の近傍に炭素源を設けることにより、タンタル容器の各箇所における浸炭処理の厚みを容易に制御することができ、均一な厚みで浸炭処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に従う実施例1の浸炭処理方法を説明するための断面図。
【図2】図1に示す実施例1におけるカーボンフォーム及び支持棒の位置を示す平面図。
【図3】図1に示す実施例1において用いるタンタル容器を示す斜視図。
【図4】図3に示すタンタル容器に用いられるタンタル蓋を示す斜視図。
【図5】図3に示すタンタル容器の断面図。
【図6】図4に示すタンタル蓋の断面図。
【図7】図5に示すタンタル容器に、図6に示すタンタル蓋を取り付けた状態を示す断面図。
【図8】タンタル容器の底面部における浸炭処理の厚みの測定箇所を示す平面図。
【図9】タンタル容器の側壁部における浸炭処理の厚みの測定箇所を示す斜視図。
【図10】本発明に従う実施例1におけるタンタル容器の内面及び外面の各測定箇所における浸炭処理層の厚みを示す図。
【図11】比較例1における浸炭処理方法を説明するための断面図。
【図12】比較例1におけるタンタル容器の内面及び外面の各測定箇所における浸炭処理層の厚みを示す図。
【図13】本発明に従う実施例2における浸炭処理方法を説明するための断面図。
【図14】図13に示す実施例2におけるカーボンフォーム及び支持棒の位置を示す平面図。
【図15】本発明に従う実施例2におけるタンタル容器の内面及び外面の各測定箇所における浸炭処理層の厚みを示す図。
【図16】本発明に従う実施例3における浸炭処理方法を説明するための断面図。
【図17】図16に示す実施例3におけるカーボンフォーム及び支持棒の位置を示す平面図。
【図18】本発明に従う実施例3におけるタンタル容器の内面及び外面の各測定箇所における浸炭処理層の厚みを示す図。
【図19】本発明に従う実施例1における浸炭処理を説明するための断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をより具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0020】
(実施例1)
図1は、本発明に従う実施例1における浸炭処理方法を説明するための断面図である。
【0021】
タンタル容器1は、チャンバー容器3a及びチャンバー蓋3bからなるチャンバー3内に配置されている。
【0022】
図3は、タンタル容器1を示す斜視図である。図4は、図3に示すタンタル容器1を密閉するのに用いるタンタルまたはタンタル合金からなるタンタル蓋2を示す斜視図である。
【0023】
図5は、タンタル容器1を示す断面図である。図5に示すように、タンタル容器1は、底面部1aと、底面部1aの周縁から底面部1aに対して略垂直方向に延びる側壁部1bを有している。側壁部1bの端部1cによって、タンタル容器1の開口部1dが形成されている。ここで、「略垂直方向」には、90°±20°の方向が含まれる。
【0024】
図6は、図5に示すタンタル容器1の開口部1dを密閉するためのタンタル蓋2を示す断面図である。図6に示すように、タンタル蓋2は、上面部2aと、上面部2aから略垂直方向に延びる側壁部2bを有している。
【0025】
図7は、図5に示すタンタル容器1の側壁部1bの端部1cの上に、図6に示すタンタル蓋2を載せ、タンタル容器1を密閉した状態を示す断面図である。図7に示すように、タンタル容器1の側壁部1bが、タンタル蓋2の側壁部2bの内側に配置されることにより、タンタル容器1の上に、タンタル蓋2が載せられ、タンタル容器1が密閉される。
【0026】
図7に示すように、タンタル容器1の側壁部1bは、タンタル蓋2の側壁部2bの内側
に位置するので、図6に示すタンタル蓋2の側壁部2b内側の内径Dは、図5に示すタンタル容器1の外径dより若干大きくなるように設計される。通常、タンタル蓋2の内径Dは、タンタル容器1の外径dより0.1mm〜4mm程度大きくなるように設計される。
【0027】
タンタル容器1及びタンタル蓋2は、タンタルまたはタンタル合金から形成される。タンタル合金は、タンタルを主成分として含む合金であり、例えば、タンタル金属にタングステン又はニオブなどを含有した合金などが挙げられる。
【0028】
タンタル容器1及びタンタル蓋2は、例えば、切削加工、薄板からの絞り加工、板金加工などから製造される。切削加工は、1個のタンタル金属の塊を削り出して容器状にする加工方法であり、高精度の形状を製作できる一方、切削される金属が多くなり材料コストは高くなる。絞り加工は、1枚のタンタル金属板を変形させて一度に容器状にする加工方法である。容器製造用のダイスとパンチの間に板状の金属を載置してパンチをダイスに向かって押し込むと、材料はダイスに押し込まれる形で変形して容器状となる。金属板が押し込まれていく時、外側にある金属板がシワにならないようにシワ押さえを設置しておく。切削加工に比べて短時間で仕上がり、削り屑の発生が少ないのでコスト等を抑えることができる。板金加工は、1枚の金属板を切る、曲げる、溶接することにより容器形状にする加工方法である。切削加工よりも材料面でコストを抑えることはできるが、絞り加工よりも製造時間は長くなる。
【0029】
タンタル容器1及びタンタル蓋2をそれぞれ浸炭処理することにより、その表面から炭素を内部に浸透させ、炭素を内部に拡散することができる。炭素が浸透することにより、Ta2C層、TaC層などが形成される。表面に炭素含有率の高いタンタルカーバイド層が形成されるが、炭素が容器内部へ拡散することにより、表面はタンタル含有率の高いタンタルカーバイド層となることで、更に炭素を吸蔵させることができる。従って、浸炭処理したタンタル容器及びタンタル蓋からなるルツボ内で、炭化ケイ素の液相成長や気相成長を行うことにより、成長プロセス時に発生した炭素蒸気をルツボ壁内で吸蔵することができ、ルツボ内に不純物濃度の低いシリコン雰囲気を形成することができ、単結晶炭化ケイ素表面の欠陥を低減でき、表面を平坦化することができる。また、このようなルツボ内で単結晶炭化ケイ素基板の表面を熱アニーリングすることにより、欠陥を低減させ、表面を平坦化させることができる。
【0030】
図1に戻り、本実施例における浸炭処理について説明する。
【0031】
図1に示すように、チャンバー容器3a及びチャンバー蓋3bからなるチャンバー3内に、上記のタンタル容器1が配置されている。タンタル容器1は、チャンバー3内において、側壁部1bの端部1cが下方になるように配置されている。タンタル容器1は、タンタル容器1内側の底面部1aを、複数の支持棒6で支持することにより、チャンバー3内で支持されている。
【0032】
図1に示すように、支持棒6の先端部6aは、先に近づくにつれて径が細くなるテーパー状に形成されている。先端部6aをテーパー状に形成することにより、支持棒6の先端部6aとタンタル容器1の底面部1aとの接触面積を小さくすることができる。本実施例における支持棒6の先端部6aと底面部1aとの接触面積は0.28mm2である。先端部6aの接触面積は、0.03〜12mm2の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜8mm2の範囲内であり、さらに好ましくは0.2〜5mm2の範囲内である。
【0033】
タンタル容器に浸炭される炭素は、炭素源の表面から発生するため、タンタル容器の側壁に対向する形で炭素源をタンタル容器側面の近傍に設置することが好ましい。しかし、
浸炭処理されにくい箇所の近傍に炭素源を多量に設置しても、タンタル容器と炭素源との間において、炭素の拡散する空間が減少すると浸炭速度の大幅な向上は望めない。これは、タンタル容器と炭素源の接触している箇所においては炭素の発生が抑制されたり、他の箇所で発生した炭素の供給を当該炭素源によって阻害されるためと考えられる。このため、タンタル容器と炭素源との間に、炭素の拡散する空間を確保することでより効率的に浸炭処理を促進することができる。
【0034】
浸炭処理されにくい箇所の近傍に設置する上記炭素源としては、上述のように、連続開気孔を有する炭素源がより好ましい。ここで、連続開気孔を有するとは、開気孔同士が炭素源の内部で繋がった多孔質材(例えばカーボンフォーム)のことをいう。なぜならば、同一の体積において炭素を発生する表面積が多く、炭素の拡散する多くの気孔を炭素源が有しているためである。連続開気孔を有する炭素源を用いると、例えばチャンバー内壁に使われる黒鉛などのような炭素源に比べ、浸炭処理されにくい箇所の近傍に設置する量が少なくとも所望の浸炭速度を得ることが可能となる。
【0035】
また、図1に示すように、支持棒6の間に、カーボンフォーム10が本発明における連続開気孔を有する炭素源として配置されている。
【0036】
図2は、カーボンフォーム10及び支持棒6の配置状態を示す平面図である。図2に示すように、13本の支持棒6が、底面部1aに対し均等に分散した状態で配置されている。
【0037】
カーボンフォーム10は、番号(1)で示す支持棒6と、番号(2)〜(5)で示す4本の支持棒6との間に挟まるように配置されている。
【0038】
カーボンフォーム10は、本実施例において、網目ガラス状炭素(RETICULATED VITREOUS CARBON:RVC)から形成されている。RVCは、ERG MATERIALS AND AEROSPACE CORPORATIONなどから市販されている。RVCは、ポリウレタン樹脂の発泡体を焼成し、炭化する方法により製造されるものである。
【0039】
本発明において用いるカーボンフォームは、炭素材料からなり、連続開気孔を有する炭素源として用いることができるものであれば特に限定されるものではない。このような連続開気孔を有する炭素源としては、ガラス状カーボンのものが好ましく用いられる。このようなガラス状カーボンとしては、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等の樹脂発泡体を焼成する方法、フェノール樹脂やフラン樹脂硬化物を用いる方法、C/C複合材料前躯体から製造する方法などが知られており、本発明においてはこのような連続開気孔を有するガラス状カーボンをカーボンフォームとして用いることができる。
【0040】
実施例において用いているカーボンフォーム10は、上述のように、RVCから形成されたものであり、柱状形状(30mm(縦)30mm(横)、25mm(高さ))の形状を有している。本実施例において用いているカーボンフォーム10は、図2に示すように、番号(1)で示す支持棒6の周りに、番号(2)〜(5)で示す支持棒6との間で挟むようにして配置している。図2においては、模式的にカーボンフォーム10の状態を示している。
【0041】
RVCとしては、密度のグレードが80PPIであるものを用いた。また、本実施例においては、柱状のカーボンフォーム10を、10本用いた。
【0042】
図2に示すように、支持棒6の先端部は、タンタル容器1の内側の底面部1aをほぼ均
等に支持するように、13本の支持棒6が分散して配置されている。本発明においては、タンタル容器1の底面部1a全体を各支持棒6の先端部6aがほぼ均等に支持するように、複数の支持棒6が分散して配置されていることが好ましい。これにより、浸炭処理によるタンタル容器1の変形を小さくすることができ、底面部の平坦度を良好な状態にすることができる。特に、底面部の面積1500mm2あたり1本以上の支持棒によって底面部1aが支持されていることが好ましい。
【0043】
支持棒6は、図1に示すように、支持台5によって支持されている。本実施例においては、支持台5に孔を開けることにより、この孔に支持棒6の下方端を挿入し、支持棒6を支持台5によって支持している。支持棒6と支持台5により、本発明における支持部材が構成されている。
【0044】
本実施例においては、チャンバー3、すなわち、チャンバー容器3a及びチャンバー蓋3bが黒鉛から形成されている。従って、本実施例においては、チャンバー3が主たる炭素源となっている。
【0045】
チャンバーを炭素源として用いる場合、例えば、少なくとも表面が黒鉛から形成されたチャンバーを用いることにより、チャンバーを炭素源として機能させることができる。チャンバーは高温で熱処理されるものであるので、黒鉛としては、等方性黒鉛材が好ましく用いられる。また、ハロゲン含有ガスなどを使用して高純度処理された高純度黒鉛材がさらに好ましい。黒鉛材中の灰分含有量は20ppm以下が好ましく、さらに好ましくは5ppm以下である。かさ密度は1.6以上が好ましく、1.8以上がさらに好ましい。かさ密度の上限値としては、例えば、2.1である。等方性黒鉛材の製造方法の一例としては、石油系、石炭系のコークスをフィラーとして数μm〜数十μmに粉砕し、これにピッチ、コールタール、コールタールピッチなどの結合材を添加して混練する。得られた混練物を、原料フィラーの粉砕粒径よりも大きくなるように数μm〜数十μmに粉砕して粉砕物を得る。また、粒子径が100μmを超えるような粒子は除去しておくことが好ましい。上記粉砕物を成形、焼成、黒鉛化して黒鉛材料を得る。その後、ハロゲン含有ガスなどを使用して高純度化処理を行い、黒鉛材料中の灰分量を20ppm以下にすることで、黒鉛材料からタンタル容器への不純物元素の混入を抑制することが出来る。
【0046】
また、カーボンフォーム10も、上記と同様にして、高純度化処理が行われている。本発明においては、浸炭処理されにくい箇所に配置される炭素源についても、高純度化処理を行うことが好ましい。
【0047】
容器1の外側表面と、チャンバー3との間の間隔は、全体においてほぼ均等になるように、チャンバー3の寸法形状が設定されていることが好ましい。容器1の外側表面とチャンバー3との間の間隔は、5.0〜50mmの範囲であることが好ましい。これにより、炭素源であるチャンバーからの距離を全体においてほぼ同程度とすることができ、容器1の外側表面を全体にわたって均等に浸炭処理することができる。
【0048】
また、タンタル容器1の側壁部1bの端部1cの下方には、隙間Gが形成されていることが好ましい。隙間Gが形成されることにより、タンタル容器1の内側にも、タンタル容器1の外側から炭素を供給することができる。隙間Gは、2mm〜20mmの範囲であることが好ましい。隙間が小さすぎると、タンタル容器内側に十分に炭素を供給することができず、タンタル容器内側の浸炭処理が不十分になる場合がある。また、隙間が上記の上限値より大きくなりすぎても、隙間をそれ以上に大きくすることによる効果が得られない。
【0049】
本実施例において、支持棒6及び支持台5は、等方性黒鉛から形成されている。従って
、支持棒6及び支持台5も主たる炭素源となっている。本発明においては、上述のように、支持部材の少なくとも一部が炭素源であればよく、例えば支持棒6のみが炭素源であってもよい。
【0050】
上記のようにして、タンタル容器1をチャンバー3内に配置し、チャンバー3内を減圧した後、加熱することにより、浸炭処理を施すことができる。
【0051】
例えば、真空容器内にチャンバー3を配置して蓋をし、真空容器内を排気することにより、チャンバー3内を減圧することができる。チャンバー3内の圧力は、例えば、10Pa以下に減圧される。
【0052】
次に、チャンバー3内を所定の温度に加熱する。加熱温度としては、1700℃以上の範囲が好ましく、さらに好ましくは、1750℃〜2500℃の範囲であり、さらに好ましくは、2000℃〜2200℃の範囲である。このような温度に加熱することにより、チャンバー3内は、一般に10−2Pa〜10Pa程度の圧力となる。
【0053】
上記所定の温度を保持する時間は、0.1〜8時間の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、0.5〜5時間の範囲であり、さらに好ましくは、1時間〜3時間の範囲である。保持温度により浸炭速度が変わるため、目標とする浸炭処理の厚みにより保持時間を調整する。
【0054】
昇温速度及び冷却速度は、特に限定されるものではないが、一般に昇温速度は、100℃/時間〜2000℃/時間の範囲が好ましく、さらに好ましくは、300℃/時間〜1500℃/時間であり、さらに好ましくは、500℃/時間〜1000℃/時間である。冷却速度は40℃/時間〜170℃/時間の範囲が好ましく、さらに好ましくは、60℃/時間〜150℃/時間、さらに好ましくは80℃/時間〜130時間/時間である。冷却は、一般には自然冷却で行われる。
【0055】
図1に示すチャンバー3を用いて、タンタル容器1を浸炭処理した。タンタル容器1としては、図3に示す外径dが158mm、高さhが60mm、厚みtが3mmのものを用いた。従って、タンタル容器1の内側の底面部1aの内径は152mmであり、面積は18136mm2である。
【0056】
本実施例においては、図2に示すように底面部1aに対し13本の支持棒6を配置している。従って、底面部1aの面積1395mm2あたり1本の支持棒6によって底面部1aが支持されている。
【0057】
チャンバー3としては、その内部が、直径210mm、高さ90mmの円柱状の空間となるチャンバー3を用いた。チャンバー容器3a及びチャンバー蓋3bの材質としては、かさ密度が1.8の等方性黒鉛材を用いた。
【0058】
支持棒6は、直径6mm、長さ75mmのものを用いた。先端部6aのテーパー状部分の長さは、15mmである。また、先端部6aの接触面積は0.28mm2である。支持棒6及び支持台5の材質としては、上記と同様の等方性黒鉛を用いた。
【0059】
タンタル容器1の側壁部1bの端部1cの下方の隙間Gは、13mmであった。
【0060】
このようにしてタンタル容器1をチャンバー3内に配置し、そのチャンバー3を、φ800mm×800mmのSUS製の真空容器8内に配置した。図19は、チャンバー3を真空容器8に配置したときの状態を示す断面図である。図19に示すように、真空容器8
内には、断熱材9が設けられており、断熱材9内に形成された空間23内にチャンバー3が配置されている。断熱材9としては、商品名「DON−1000」(大阪ガスケミカル社製、かさ密度0.16g/cm3)を用いた。この断熱材は、ピッチ系炭素繊維に樹脂を含浸させて成形、硬化、炭化、黒鉛化処理したものであり、多孔質の断熱材である。
【0061】
断熱材9によって囲まれた空間23の上方には、カーボンヒーター22が配置されており、カーボンヒーター22は、カーボンヒーター22に電流を流すための黒鉛電極21によって支持されている。カーボンヒーター22に電流を流すことにより、断熱材9によって覆われた空間23内を加熱することができる。
【0062】
真空容器8には、真空容器8内を排気するための排気口20が形成されている。排気口20は、図示しない真空ポンプに接続されている。
【0063】
真空容器8内を排気してチャンバー3内を0.1Pa以下となるように減圧した後、カーボンヒーター22により710℃/時間の昇温速度で2150℃までチャンバー3内を加熱した。2150℃を2時間保持し、浸炭処理を行った。チャンバー3内は、0.5〜2.0Pa程度の圧力であった。
【0064】
浸炭処理後、自然冷却で室温まで冷却した。冷却時間は約15時間であった。
【0065】
浸炭処理後のタンタル容器1の内側表面(内面)及び外側表面(外面)における浸炭処理層の厚みを以下のように測定した。
【0066】
浸炭処理層の厚みは、エルコメーター(Elcometer)社のエルコメーター456を用い、ブローブで発生させた高周波電界により渦電流の振幅及び位相の計測値(μm)を測定した後、浸炭TaCの膜厚として係数6.9を乗算して換算し、算出を行なった。本係数6.9は、エルコメーター456にて算出された値と、実際に断面との測定値との相関関係より導き出したものである。
【0067】
図8は、タンタル容器1の底面部1aにおける測定箇所を示す平面図である。図9は、タンタル容器1の側壁部1bにおける浸炭処理層の厚みの測定箇所を示す斜視図である。
【0068】
図10は、本実施例における各測定箇所での浸炭処理層の厚みを示す図である。図10において一点鎖線はタンタル容器1の内面における浸炭処理層の厚みを示しており、実線はタンタル容器1の外面における浸炭処理層の厚みを示している。図10に示す1〜13の測定箇所は、図8に示すように、底面部1aにおける測定箇所を示している。図10に示す14〜21の測定箇所は、図9に示すように、底面部1a近傍の側壁部1bの測定箇所を示しており、22〜29の測定箇所は、開口部1d近傍の側壁部1bの測定箇所を示している。
【0069】
図10に示すように、本実施例においては、タンタル容器の内面及び外面がほぼ同程度の浸炭処理層の厚みとなるように浸炭処理がなされている。
【0070】
(比較例1)
図11は、比較例1における浸炭処理方法を説明するための断面図である。
【0071】
図11に示すように、本比較例においては、カーボンフォーム10をチャンバー3内に配置しないこと以外は、上記実施例1と同様にしてタンタル容器1の浸炭処理を行った。
【0072】
図12は、本比較例における浸炭処理後の浸炭処理層の厚みを示す図である。図12に
示す点線はタンタル容器の内面における浸炭処理層の厚みを示しており、実線はタンタル容器の外面における浸炭処理層の厚みを示している。
【0073】
図12に示すように、チャンバー3内に炭素源としてのカーボンフォームを配置していない本比較例においては、タンタル容器1の内面における浸炭処理層の厚みが薄くなっており、浸炭処理が充分になされていないことがわかる。
【0074】
上記実施例1においては、炭素源となるカーボンフォーム10を、タンタル容器1の開口部1dの内側に配置しているので、カーボンフォーム10から炭素をタンタル容器1の内面に供給することができる。このため、タンタル容器1の内面の浸炭処理を促進することができ、タンタル容器1の外面と同程度に、タンタル容器1の内面においても浸炭処理することができる。
【0075】
(実施例2)
図13は、本発明に従う実施例2における浸炭処理方法を説明するための断面図である。図13に示すように、本実施例においては、柱状のカーボンフォーム10に代えて、円筒状のカーボンフォーム11をチャンバー3内に配置している。
【0076】
円筒状のカーボンフォーム11としては、外径180mm、内径140mm、高さ25mmの円筒状のカーボンフォームを用いた。
【0077】
図14は、図13に示す実施例2におけるカーボンフォーム11の配置状態を示す平面図である。
【0078】
図14に示すように、円筒状のカーボンフォーム11は、6〜13で示す支持棒6の先端部に当てて突き刺し、その後下方に移動させるようにして、チャンバー3内に配置されている。なお、カーボンフォーム11は、上記実施例1における柱状のカーボンフォーム10と同様の材質から形成している。
【0079】
図15は、本実施例における各測定箇所の浸炭処理層の厚みを示す図である。
【0080】
図15に示すように、比較例1に比べ、タンタル容器1の内面が、タンタル容器1の外面と同様に浸炭処理されていることがわかる。
【0081】
実施例1(図10)と比較すると、タンタル容器1の底面部1aの内面(1〜13で示す測定箇所)及びタンタル容器1の開口部1dに近い側壁部1bの内面(22〜29で示す測定箇所)において、浸炭処理層の厚みが厚くなっている。これは、本実施例においては、円筒状のカーボンフォーム11を用い、タンタル容器1の側壁部1bに近い位置において、側壁部1bに沿うようにカーボンフォームが配置されているためであると考えられる。
【0082】
一方、図15から明らかなように、タンタル容器1の底面部1aに近い側壁部1bの内面(14〜21で示す測定箇所)においては、他の箇所に比べ、浸炭処理層の厚みが薄くなっている。これは、タンタル容器1の底面部1aに近い側壁部1bの内面に、炭素が供給されにくく、浸炭処理されにくい箇所になっているためであると考えられる。
【0083】
(実施例3)
図16は、本発明に従う実施例3における浸炭処理方法を説明するための断面図である。本実施例においては、図16に示すようなカーボンフォーム12をチャンバー3内に配置している。
【0084】
図17は、底面部1aに対するカーボンフォーム12の配置状態を示す平面図である。図17に示すように、本実施例におけるカーボンフォーム12は、円筒状のカーボンフォーム12aと、円筒状のカーボンフォーム12aの上に載せる柱状のカーボンフォーム12bから構成されている。図17に示すように、柱状のカーボンフォーム12bは、6〜13で示す8本の支持棒6にそれぞれ突き刺して挿入するように配置されている。従って、8個の柱状のカーボンフォーム12bが用いられている。カーボンフォーム12bは、縦30mm、横20mm、高さ10mmの寸法形状を有している。
【0085】
カーボンフォーム12aは、円筒状のカーボンフォームであり、外径180mm、内径40mm、高さ50mmの寸法形状を有している。
【0086】
まず、円筒状のカーボンフォーム12aを、6〜13で示す支持棒6の先端部に配置し、支持棒6の先端部に突き刺した後、下方に移動させる。次に、6〜13で示す支持棒6の先端部のそれぞれに柱状のカーボンフォーム12bを配置し、突き刺した後下方に移動させる。これにより、図16及び図17に示すカーボンフォーム12を構成することができる。
【0087】
以上のように、カーボンフォーム10に代えて、カーボンフォーム12を用いる以外は、実施例1と同様にして、タンタル容器1の浸炭処理を行った。
【0088】
図18は、タンタル容器1の内面及び外面の各測定箇所における浸炭処理層の厚みを示す図である。
【0089】
図18に示すように、本実施例においては、タンタル容器1の内面とタンタル容器1の外面において、同程度の浸炭処理層の厚みとなるように、浸炭処理を行うことができる。
【0090】
実施例2(図15)と比較すると、タンタル容器1の底面部1aに近い側壁部1b(底面部1aと側壁部1bから構成されるコーナ部)の内面(14〜21に示す測定箇所)において、特に浸炭処理が促進され、浸炭処理層の厚みが厚くなっていることがわかる。これは、本実施例において用いたカーボンフォーム12が、タンタル容器1の底面部1aの近傍の側壁部1b(底面部1aと側壁部1bから構成されるコーナ部)の内面に近い位置に、その一部が存在しているため、当該箇所における浸炭処理が促進されたものと考えられる。すなわち、カーボンフォーム12の円筒状のカーボンフォーム12aの高さが、実施例2のカーボンフォーム11よりも高く、かつその上に柱状カーボンフォーム12bが設けられているためであると考えられる。
【0091】
以上のことから、本発明によれば、炭素源であるカーボンフォームの配置を調整することにより、タンタル容器の各箇所における浸炭処理層の厚みを容易に制御できることがわかる。浸炭処理されにくい箇所と炭素源との間の間隔は5.0〜50mmの範囲内であることが好ましい。
【0092】
本発明において用いる炭素源は、上記実施例において用いたカーボンフォームに限定されるものではなく、黒鉛なども用いることができる。
【符号の説明】
【0093】
1…タンタル容器
1a…タンタル容器の底面部
1b…タンタル容器の側壁部
1c…タンタル容器の側壁部の端部
1d…タンタル容器の開口部
2…タンタル蓋
2a…タンタル蓋の上面部
2b…タンタル蓋の側壁部
3…チャンバー
3a…チャンバー容器
3b…チャンバー蓋
5…支持台
6…支持棒
6a…支持棒の先端部
7…支持棒
8…SUS製の真空容器
9…断熱材
10,11,12,12a,12b…カーボンフォーム
20…排気口
21…黒鉛電極
22…カーボンヒーター
23…断熱材によって覆われた空間
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンタルまたはタンタル合金からなるタンタル容器に、該容器の表面から内部に向かって炭素を浸透させる浸炭処理を施すための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は、ケイ素(Si)やガリウムヒ素(GaAs)等の従来の半導体材料では実現できない高温、高周波、耐電圧・耐環境性を実現することが可能であるとされており、次世代のパワーデバイス、高周波デバイス用半導体材料として期待されている。
【0003】
特許文献1においては、単結晶炭化ケイ素基板の表面を熱アニールする際、及び単結晶炭化ケイ素基板の上に炭化ケイ素の単結晶を結晶成長させる際に、表面に炭化タンタル層が形成されたタンタル容器をチャンバーとして用いることが提案されている。表面に炭化タンタル層を有するタンタル容器内に、単結晶炭化ケイ素基板を収納し、その表面を熱アニールしたり、あるいはその表面上に炭化ケイ素単結晶を成長させることにより、表面が平坦化され、かつ欠陥の少ない単結晶炭化ケイ素基板または炭化ケイ素単結晶層を形成することができる旨報告されている。
【0004】
特許文献2及び特許文献3においては、タンタルもしくはタンタル合金の表面に存在する自然酸化膜であるTa2O5を昇華させて除去させた後、炭素を浸透させて表面にタンタル炭化物を形成する浸炭処理方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、チャンバー内で減圧及び加熱して浸炭処理する際、チャンバー内を真空排気ポンプにより排気することにより、チャンバー内に気流が発生し、炭素源からの炭素がこれに沿って移動するため、タンタル容器の表面を均一に浸炭処理することができないという問題があった。
【0006】
また、タンタル容器表面を均一に浸炭処理する方法について、具体的な提案は従来なされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−16691号公報
【特許文献2】特開2005−68002号公報
【特許文献3】特開2008−81362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、チャンバー内にタンタル容器を設置し、減圧を行いながらの各箇所における浸炭処理の厚みを容易に制御することができ、均一な厚みで浸炭処理することができるタンタル容器の浸炭処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の浸炭処理方法は、タンタルまたはタンタル合金からなるタンタル容器に炭素を浸透させる浸炭処理方法であって、タンタル容器を、チャンバー内に設けられた支持部材で支持し、チャンバー内に配置する工程と、チャンバー内を減圧及び加熱する工程とを有し、浸炭処理されにくい箇所の近傍に炭素源を設けることを特徴としている。
【0010】
浸炭処理されにくい箇所の近傍としては、該箇所から0〜50mmの範囲であることが好ましく、さらには0.5〜50mmの範囲であることが好ましく、さらには5〜50mmの範囲であることが好ましい。本発明においては、タンタル容器における浸炭処理されにくい箇所を予め特定するため、上記炭素源を設ける工程より前に、タンタル容器の配置されたチャンバー内を減圧及び加熱し、上記炭素源を設けずにタンタル容器の浸炭処理を行うことにより、タンタル容器の浸炭処理されにくい箇所を特定してもよい。
【0011】
本発明において、タンタル容器としては、例えば、底面部と、側壁部と、開口部とによって形成されているものを挙げることができる。このようなタンタル容器において、浸炭処理されにくい箇所としては、タンタル容器内側の底面部及び側壁部が挙げられる。タンタル容器内側の底面部及び側壁部が、浸炭処理されにくい箇所である場合には、上記炭素源を、タンタル容器の内側に配置することが好ましい。
【0012】
また、上記タンタル容器において、浸炭処理されにくい箇所が、タンタル容器内側の底面部と側壁部から形成されるコーナ部である場合には、コーナ部の近傍に、上記炭素源が配置されていることが好ましい。
【0013】
また、本発明において、タンタル容器は、開口部が下方になるように、チャンバー内に配置されていることが好ましい。この場合、支持部材が、タンタル容器内側の底面部を支持することにより、タンタル容器が支持されていることが好ましい。
【0014】
本発明において、上記炭素源としては、連続開気孔を有する炭素源を用いることが好ましい。連続開気孔を有する炭素源としては、カーボンフォームを挙げることができる。
【0015】
本発明において上記連続開気孔を有する炭素源として用いるカーボンフォームは、網目状の形態を有しており、表面積が大きな炭素源であるので、タンタル容器の所定の箇所に充分な炭素を供給することができる。また、様々な形状に容易に加工することができ、チャンバー内の所望の箇所に配置させることができる。従って、浸炭処理を促進したいタンタル容器の箇所の近傍に炭素源としてのカーボンフォームを配置することにより、所望の箇所への浸炭処理を促進することができる。このため、タンタル容器の各箇所における浸炭処理の厚みを容易に制御することができる。
【0016】
本発明においては、チャンバー及び支持部材を炭素源から形成することが好ましい。この場合の炭素源としては、例えば黒鉛などの炭素材を挙げることができる。チャンバー及び支持部材は、少なくとも一部が炭素源であればよく、チャンバーはチャンバー内の内側面、すなわち内壁が炭素源であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に従い、浸炭処理されにくい箇所の近傍に炭素源を設けることにより、タンタル容器の各箇所における浸炭処理の厚みを容易に制御することができ、均一な厚みで浸炭処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に従う実施例1の浸炭処理方法を説明するための断面図。
【図2】図1に示す実施例1におけるカーボンフォーム及び支持棒の位置を示す平面図。
【図3】図1に示す実施例1において用いるタンタル容器を示す斜視図。
【図4】図3に示すタンタル容器に用いられるタンタル蓋を示す斜視図。
【図5】図3に示すタンタル容器の断面図。
【図6】図4に示すタンタル蓋の断面図。
【図7】図5に示すタンタル容器に、図6に示すタンタル蓋を取り付けた状態を示す断面図。
【図8】タンタル容器の底面部における浸炭処理の厚みの測定箇所を示す平面図。
【図9】タンタル容器の側壁部における浸炭処理の厚みの測定箇所を示す斜視図。
【図10】本発明に従う実施例1におけるタンタル容器の内面及び外面の各測定箇所における浸炭処理層の厚みを示す図。
【図11】比較例1における浸炭処理方法を説明するための断面図。
【図12】比較例1におけるタンタル容器の内面及び外面の各測定箇所における浸炭処理層の厚みを示す図。
【図13】本発明に従う実施例2における浸炭処理方法を説明するための断面図。
【図14】図13に示す実施例2におけるカーボンフォーム及び支持棒の位置を示す平面図。
【図15】本発明に従う実施例2におけるタンタル容器の内面及び外面の各測定箇所における浸炭処理層の厚みを示す図。
【図16】本発明に従う実施例3における浸炭処理方法を説明するための断面図。
【図17】図16に示す実施例3におけるカーボンフォーム及び支持棒の位置を示す平面図。
【図18】本発明に従う実施例3におけるタンタル容器の内面及び外面の各測定箇所における浸炭処理層の厚みを示す図。
【図19】本発明に従う実施例1における浸炭処理を説明するための断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をより具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0020】
(実施例1)
図1は、本発明に従う実施例1における浸炭処理方法を説明するための断面図である。
【0021】
タンタル容器1は、チャンバー容器3a及びチャンバー蓋3bからなるチャンバー3内に配置されている。
【0022】
図3は、タンタル容器1を示す斜視図である。図4は、図3に示すタンタル容器1を密閉するのに用いるタンタルまたはタンタル合金からなるタンタル蓋2を示す斜視図である。
【0023】
図5は、タンタル容器1を示す断面図である。図5に示すように、タンタル容器1は、底面部1aと、底面部1aの周縁から底面部1aに対して略垂直方向に延びる側壁部1bを有している。側壁部1bの端部1cによって、タンタル容器1の開口部1dが形成されている。ここで、「略垂直方向」には、90°±20°の方向が含まれる。
【0024】
図6は、図5に示すタンタル容器1の開口部1dを密閉するためのタンタル蓋2を示す断面図である。図6に示すように、タンタル蓋2は、上面部2aと、上面部2aから略垂直方向に延びる側壁部2bを有している。
【0025】
図7は、図5に示すタンタル容器1の側壁部1bの端部1cの上に、図6に示すタンタル蓋2を載せ、タンタル容器1を密閉した状態を示す断面図である。図7に示すように、タンタル容器1の側壁部1bが、タンタル蓋2の側壁部2bの内側に配置されることにより、タンタル容器1の上に、タンタル蓋2が載せられ、タンタル容器1が密閉される。
【0026】
図7に示すように、タンタル容器1の側壁部1bは、タンタル蓋2の側壁部2bの内側
に位置するので、図6に示すタンタル蓋2の側壁部2b内側の内径Dは、図5に示すタンタル容器1の外径dより若干大きくなるように設計される。通常、タンタル蓋2の内径Dは、タンタル容器1の外径dより0.1mm〜4mm程度大きくなるように設計される。
【0027】
タンタル容器1及びタンタル蓋2は、タンタルまたはタンタル合金から形成される。タンタル合金は、タンタルを主成分として含む合金であり、例えば、タンタル金属にタングステン又はニオブなどを含有した合金などが挙げられる。
【0028】
タンタル容器1及びタンタル蓋2は、例えば、切削加工、薄板からの絞り加工、板金加工などから製造される。切削加工は、1個のタンタル金属の塊を削り出して容器状にする加工方法であり、高精度の形状を製作できる一方、切削される金属が多くなり材料コストは高くなる。絞り加工は、1枚のタンタル金属板を変形させて一度に容器状にする加工方法である。容器製造用のダイスとパンチの間に板状の金属を載置してパンチをダイスに向かって押し込むと、材料はダイスに押し込まれる形で変形して容器状となる。金属板が押し込まれていく時、外側にある金属板がシワにならないようにシワ押さえを設置しておく。切削加工に比べて短時間で仕上がり、削り屑の発生が少ないのでコスト等を抑えることができる。板金加工は、1枚の金属板を切る、曲げる、溶接することにより容器形状にする加工方法である。切削加工よりも材料面でコストを抑えることはできるが、絞り加工よりも製造時間は長くなる。
【0029】
タンタル容器1及びタンタル蓋2をそれぞれ浸炭処理することにより、その表面から炭素を内部に浸透させ、炭素を内部に拡散することができる。炭素が浸透することにより、Ta2C層、TaC層などが形成される。表面に炭素含有率の高いタンタルカーバイド層が形成されるが、炭素が容器内部へ拡散することにより、表面はタンタル含有率の高いタンタルカーバイド層となることで、更に炭素を吸蔵させることができる。従って、浸炭処理したタンタル容器及びタンタル蓋からなるルツボ内で、炭化ケイ素の液相成長や気相成長を行うことにより、成長プロセス時に発生した炭素蒸気をルツボ壁内で吸蔵することができ、ルツボ内に不純物濃度の低いシリコン雰囲気を形成することができ、単結晶炭化ケイ素表面の欠陥を低減でき、表面を平坦化することができる。また、このようなルツボ内で単結晶炭化ケイ素基板の表面を熱アニーリングすることにより、欠陥を低減させ、表面を平坦化させることができる。
【0030】
図1に戻り、本実施例における浸炭処理について説明する。
【0031】
図1に示すように、チャンバー容器3a及びチャンバー蓋3bからなるチャンバー3内に、上記のタンタル容器1が配置されている。タンタル容器1は、チャンバー3内において、側壁部1bの端部1cが下方になるように配置されている。タンタル容器1は、タンタル容器1内側の底面部1aを、複数の支持棒6で支持することにより、チャンバー3内で支持されている。
【0032】
図1に示すように、支持棒6の先端部6aは、先に近づくにつれて径が細くなるテーパー状に形成されている。先端部6aをテーパー状に形成することにより、支持棒6の先端部6aとタンタル容器1の底面部1aとの接触面積を小さくすることができる。本実施例における支持棒6の先端部6aと底面部1aとの接触面積は0.28mm2である。先端部6aの接触面積は、0.03〜12mm2の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜8mm2の範囲内であり、さらに好ましくは0.2〜5mm2の範囲内である。
【0033】
タンタル容器に浸炭される炭素は、炭素源の表面から発生するため、タンタル容器の側壁に対向する形で炭素源をタンタル容器側面の近傍に設置することが好ましい。しかし、
浸炭処理されにくい箇所の近傍に炭素源を多量に設置しても、タンタル容器と炭素源との間において、炭素の拡散する空間が減少すると浸炭速度の大幅な向上は望めない。これは、タンタル容器と炭素源の接触している箇所においては炭素の発生が抑制されたり、他の箇所で発生した炭素の供給を当該炭素源によって阻害されるためと考えられる。このため、タンタル容器と炭素源との間に、炭素の拡散する空間を確保することでより効率的に浸炭処理を促進することができる。
【0034】
浸炭処理されにくい箇所の近傍に設置する上記炭素源としては、上述のように、連続開気孔を有する炭素源がより好ましい。ここで、連続開気孔を有するとは、開気孔同士が炭素源の内部で繋がった多孔質材(例えばカーボンフォーム)のことをいう。なぜならば、同一の体積において炭素を発生する表面積が多く、炭素の拡散する多くの気孔を炭素源が有しているためである。連続開気孔を有する炭素源を用いると、例えばチャンバー内壁に使われる黒鉛などのような炭素源に比べ、浸炭処理されにくい箇所の近傍に設置する量が少なくとも所望の浸炭速度を得ることが可能となる。
【0035】
また、図1に示すように、支持棒6の間に、カーボンフォーム10が本発明における連続開気孔を有する炭素源として配置されている。
【0036】
図2は、カーボンフォーム10及び支持棒6の配置状態を示す平面図である。図2に示すように、13本の支持棒6が、底面部1aに対し均等に分散した状態で配置されている。
【0037】
カーボンフォーム10は、番号(1)で示す支持棒6と、番号(2)〜(5)で示す4本の支持棒6との間に挟まるように配置されている。
【0038】
カーボンフォーム10は、本実施例において、網目ガラス状炭素(RETICULATED VITREOUS CARBON:RVC)から形成されている。RVCは、ERG MATERIALS AND AEROSPACE CORPORATIONなどから市販されている。RVCは、ポリウレタン樹脂の発泡体を焼成し、炭化する方法により製造されるものである。
【0039】
本発明において用いるカーボンフォームは、炭素材料からなり、連続開気孔を有する炭素源として用いることができるものであれば特に限定されるものではない。このような連続開気孔を有する炭素源としては、ガラス状カーボンのものが好ましく用いられる。このようなガラス状カーボンとしては、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等の樹脂発泡体を焼成する方法、フェノール樹脂やフラン樹脂硬化物を用いる方法、C/C複合材料前躯体から製造する方法などが知られており、本発明においてはこのような連続開気孔を有するガラス状カーボンをカーボンフォームとして用いることができる。
【0040】
実施例において用いているカーボンフォーム10は、上述のように、RVCから形成されたものであり、柱状形状(30mm(縦)30mm(横)、25mm(高さ))の形状を有している。本実施例において用いているカーボンフォーム10は、図2に示すように、番号(1)で示す支持棒6の周りに、番号(2)〜(5)で示す支持棒6との間で挟むようにして配置している。図2においては、模式的にカーボンフォーム10の状態を示している。
【0041】
RVCとしては、密度のグレードが80PPIであるものを用いた。また、本実施例においては、柱状のカーボンフォーム10を、10本用いた。
【0042】
図2に示すように、支持棒6の先端部は、タンタル容器1の内側の底面部1aをほぼ均
等に支持するように、13本の支持棒6が分散して配置されている。本発明においては、タンタル容器1の底面部1a全体を各支持棒6の先端部6aがほぼ均等に支持するように、複数の支持棒6が分散して配置されていることが好ましい。これにより、浸炭処理によるタンタル容器1の変形を小さくすることができ、底面部の平坦度を良好な状態にすることができる。特に、底面部の面積1500mm2あたり1本以上の支持棒によって底面部1aが支持されていることが好ましい。
【0043】
支持棒6は、図1に示すように、支持台5によって支持されている。本実施例においては、支持台5に孔を開けることにより、この孔に支持棒6の下方端を挿入し、支持棒6を支持台5によって支持している。支持棒6と支持台5により、本発明における支持部材が構成されている。
【0044】
本実施例においては、チャンバー3、すなわち、チャンバー容器3a及びチャンバー蓋3bが黒鉛から形成されている。従って、本実施例においては、チャンバー3が主たる炭素源となっている。
【0045】
チャンバーを炭素源として用いる場合、例えば、少なくとも表面が黒鉛から形成されたチャンバーを用いることにより、チャンバーを炭素源として機能させることができる。チャンバーは高温で熱処理されるものであるので、黒鉛としては、等方性黒鉛材が好ましく用いられる。また、ハロゲン含有ガスなどを使用して高純度処理された高純度黒鉛材がさらに好ましい。黒鉛材中の灰分含有量は20ppm以下が好ましく、さらに好ましくは5ppm以下である。かさ密度は1.6以上が好ましく、1.8以上がさらに好ましい。かさ密度の上限値としては、例えば、2.1である。等方性黒鉛材の製造方法の一例としては、石油系、石炭系のコークスをフィラーとして数μm〜数十μmに粉砕し、これにピッチ、コールタール、コールタールピッチなどの結合材を添加して混練する。得られた混練物を、原料フィラーの粉砕粒径よりも大きくなるように数μm〜数十μmに粉砕して粉砕物を得る。また、粒子径が100μmを超えるような粒子は除去しておくことが好ましい。上記粉砕物を成形、焼成、黒鉛化して黒鉛材料を得る。その後、ハロゲン含有ガスなどを使用して高純度化処理を行い、黒鉛材料中の灰分量を20ppm以下にすることで、黒鉛材料からタンタル容器への不純物元素の混入を抑制することが出来る。
【0046】
また、カーボンフォーム10も、上記と同様にして、高純度化処理が行われている。本発明においては、浸炭処理されにくい箇所に配置される炭素源についても、高純度化処理を行うことが好ましい。
【0047】
容器1の外側表面と、チャンバー3との間の間隔は、全体においてほぼ均等になるように、チャンバー3の寸法形状が設定されていることが好ましい。容器1の外側表面とチャンバー3との間の間隔は、5.0〜50mmの範囲であることが好ましい。これにより、炭素源であるチャンバーからの距離を全体においてほぼ同程度とすることができ、容器1の外側表面を全体にわたって均等に浸炭処理することができる。
【0048】
また、タンタル容器1の側壁部1bの端部1cの下方には、隙間Gが形成されていることが好ましい。隙間Gが形成されることにより、タンタル容器1の内側にも、タンタル容器1の外側から炭素を供給することができる。隙間Gは、2mm〜20mmの範囲であることが好ましい。隙間が小さすぎると、タンタル容器内側に十分に炭素を供給することができず、タンタル容器内側の浸炭処理が不十分になる場合がある。また、隙間が上記の上限値より大きくなりすぎても、隙間をそれ以上に大きくすることによる効果が得られない。
【0049】
本実施例において、支持棒6及び支持台5は、等方性黒鉛から形成されている。従って
、支持棒6及び支持台5も主たる炭素源となっている。本発明においては、上述のように、支持部材の少なくとも一部が炭素源であればよく、例えば支持棒6のみが炭素源であってもよい。
【0050】
上記のようにして、タンタル容器1をチャンバー3内に配置し、チャンバー3内を減圧した後、加熱することにより、浸炭処理を施すことができる。
【0051】
例えば、真空容器内にチャンバー3を配置して蓋をし、真空容器内を排気することにより、チャンバー3内を減圧することができる。チャンバー3内の圧力は、例えば、10Pa以下に減圧される。
【0052】
次に、チャンバー3内を所定の温度に加熱する。加熱温度としては、1700℃以上の範囲が好ましく、さらに好ましくは、1750℃〜2500℃の範囲であり、さらに好ましくは、2000℃〜2200℃の範囲である。このような温度に加熱することにより、チャンバー3内は、一般に10−2Pa〜10Pa程度の圧力となる。
【0053】
上記所定の温度を保持する時間は、0.1〜8時間の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、0.5〜5時間の範囲であり、さらに好ましくは、1時間〜3時間の範囲である。保持温度により浸炭速度が変わるため、目標とする浸炭処理の厚みにより保持時間を調整する。
【0054】
昇温速度及び冷却速度は、特に限定されるものではないが、一般に昇温速度は、100℃/時間〜2000℃/時間の範囲が好ましく、さらに好ましくは、300℃/時間〜1500℃/時間であり、さらに好ましくは、500℃/時間〜1000℃/時間である。冷却速度は40℃/時間〜170℃/時間の範囲が好ましく、さらに好ましくは、60℃/時間〜150℃/時間、さらに好ましくは80℃/時間〜130時間/時間である。冷却は、一般には自然冷却で行われる。
【0055】
図1に示すチャンバー3を用いて、タンタル容器1を浸炭処理した。タンタル容器1としては、図3に示す外径dが158mm、高さhが60mm、厚みtが3mmのものを用いた。従って、タンタル容器1の内側の底面部1aの内径は152mmであり、面積は18136mm2である。
【0056】
本実施例においては、図2に示すように底面部1aに対し13本の支持棒6を配置している。従って、底面部1aの面積1395mm2あたり1本の支持棒6によって底面部1aが支持されている。
【0057】
チャンバー3としては、その内部が、直径210mm、高さ90mmの円柱状の空間となるチャンバー3を用いた。チャンバー容器3a及びチャンバー蓋3bの材質としては、かさ密度が1.8の等方性黒鉛材を用いた。
【0058】
支持棒6は、直径6mm、長さ75mmのものを用いた。先端部6aのテーパー状部分の長さは、15mmである。また、先端部6aの接触面積は0.28mm2である。支持棒6及び支持台5の材質としては、上記と同様の等方性黒鉛を用いた。
【0059】
タンタル容器1の側壁部1bの端部1cの下方の隙間Gは、13mmであった。
【0060】
このようにしてタンタル容器1をチャンバー3内に配置し、そのチャンバー3を、φ800mm×800mmのSUS製の真空容器8内に配置した。図19は、チャンバー3を真空容器8に配置したときの状態を示す断面図である。図19に示すように、真空容器8
内には、断熱材9が設けられており、断熱材9内に形成された空間23内にチャンバー3が配置されている。断熱材9としては、商品名「DON−1000」(大阪ガスケミカル社製、かさ密度0.16g/cm3)を用いた。この断熱材は、ピッチ系炭素繊維に樹脂を含浸させて成形、硬化、炭化、黒鉛化処理したものであり、多孔質の断熱材である。
【0061】
断熱材9によって囲まれた空間23の上方には、カーボンヒーター22が配置されており、カーボンヒーター22は、カーボンヒーター22に電流を流すための黒鉛電極21によって支持されている。カーボンヒーター22に電流を流すことにより、断熱材9によって覆われた空間23内を加熱することができる。
【0062】
真空容器8には、真空容器8内を排気するための排気口20が形成されている。排気口20は、図示しない真空ポンプに接続されている。
【0063】
真空容器8内を排気してチャンバー3内を0.1Pa以下となるように減圧した後、カーボンヒーター22により710℃/時間の昇温速度で2150℃までチャンバー3内を加熱した。2150℃を2時間保持し、浸炭処理を行った。チャンバー3内は、0.5〜2.0Pa程度の圧力であった。
【0064】
浸炭処理後、自然冷却で室温まで冷却した。冷却時間は約15時間であった。
【0065】
浸炭処理後のタンタル容器1の内側表面(内面)及び外側表面(外面)における浸炭処理層の厚みを以下のように測定した。
【0066】
浸炭処理層の厚みは、エルコメーター(Elcometer)社のエルコメーター456を用い、ブローブで発生させた高周波電界により渦電流の振幅及び位相の計測値(μm)を測定した後、浸炭TaCの膜厚として係数6.9を乗算して換算し、算出を行なった。本係数6.9は、エルコメーター456にて算出された値と、実際に断面との測定値との相関関係より導き出したものである。
【0067】
図8は、タンタル容器1の底面部1aにおける測定箇所を示す平面図である。図9は、タンタル容器1の側壁部1bにおける浸炭処理層の厚みの測定箇所を示す斜視図である。
【0068】
図10は、本実施例における各測定箇所での浸炭処理層の厚みを示す図である。図10において一点鎖線はタンタル容器1の内面における浸炭処理層の厚みを示しており、実線はタンタル容器1の外面における浸炭処理層の厚みを示している。図10に示す1〜13の測定箇所は、図8に示すように、底面部1aにおける測定箇所を示している。図10に示す14〜21の測定箇所は、図9に示すように、底面部1a近傍の側壁部1bの測定箇所を示しており、22〜29の測定箇所は、開口部1d近傍の側壁部1bの測定箇所を示している。
【0069】
図10に示すように、本実施例においては、タンタル容器の内面及び外面がほぼ同程度の浸炭処理層の厚みとなるように浸炭処理がなされている。
【0070】
(比較例1)
図11は、比較例1における浸炭処理方法を説明するための断面図である。
【0071】
図11に示すように、本比較例においては、カーボンフォーム10をチャンバー3内に配置しないこと以外は、上記実施例1と同様にしてタンタル容器1の浸炭処理を行った。
【0072】
図12は、本比較例における浸炭処理後の浸炭処理層の厚みを示す図である。図12に
示す点線はタンタル容器の内面における浸炭処理層の厚みを示しており、実線はタンタル容器の外面における浸炭処理層の厚みを示している。
【0073】
図12に示すように、チャンバー3内に炭素源としてのカーボンフォームを配置していない本比較例においては、タンタル容器1の内面における浸炭処理層の厚みが薄くなっており、浸炭処理が充分になされていないことがわかる。
【0074】
上記実施例1においては、炭素源となるカーボンフォーム10を、タンタル容器1の開口部1dの内側に配置しているので、カーボンフォーム10から炭素をタンタル容器1の内面に供給することができる。このため、タンタル容器1の内面の浸炭処理を促進することができ、タンタル容器1の外面と同程度に、タンタル容器1の内面においても浸炭処理することができる。
【0075】
(実施例2)
図13は、本発明に従う実施例2における浸炭処理方法を説明するための断面図である。図13に示すように、本実施例においては、柱状のカーボンフォーム10に代えて、円筒状のカーボンフォーム11をチャンバー3内に配置している。
【0076】
円筒状のカーボンフォーム11としては、外径180mm、内径140mm、高さ25mmの円筒状のカーボンフォームを用いた。
【0077】
図14は、図13に示す実施例2におけるカーボンフォーム11の配置状態を示す平面図である。
【0078】
図14に示すように、円筒状のカーボンフォーム11は、6〜13で示す支持棒6の先端部に当てて突き刺し、その後下方に移動させるようにして、チャンバー3内に配置されている。なお、カーボンフォーム11は、上記実施例1における柱状のカーボンフォーム10と同様の材質から形成している。
【0079】
図15は、本実施例における各測定箇所の浸炭処理層の厚みを示す図である。
【0080】
図15に示すように、比較例1に比べ、タンタル容器1の内面が、タンタル容器1の外面と同様に浸炭処理されていることがわかる。
【0081】
実施例1(図10)と比較すると、タンタル容器1の底面部1aの内面(1〜13で示す測定箇所)及びタンタル容器1の開口部1dに近い側壁部1bの内面(22〜29で示す測定箇所)において、浸炭処理層の厚みが厚くなっている。これは、本実施例においては、円筒状のカーボンフォーム11を用い、タンタル容器1の側壁部1bに近い位置において、側壁部1bに沿うようにカーボンフォームが配置されているためであると考えられる。
【0082】
一方、図15から明らかなように、タンタル容器1の底面部1aに近い側壁部1bの内面(14〜21で示す測定箇所)においては、他の箇所に比べ、浸炭処理層の厚みが薄くなっている。これは、タンタル容器1の底面部1aに近い側壁部1bの内面に、炭素が供給されにくく、浸炭処理されにくい箇所になっているためであると考えられる。
【0083】
(実施例3)
図16は、本発明に従う実施例3における浸炭処理方法を説明するための断面図である。本実施例においては、図16に示すようなカーボンフォーム12をチャンバー3内に配置している。
【0084】
図17は、底面部1aに対するカーボンフォーム12の配置状態を示す平面図である。図17に示すように、本実施例におけるカーボンフォーム12は、円筒状のカーボンフォーム12aと、円筒状のカーボンフォーム12aの上に載せる柱状のカーボンフォーム12bから構成されている。図17に示すように、柱状のカーボンフォーム12bは、6〜13で示す8本の支持棒6にそれぞれ突き刺して挿入するように配置されている。従って、8個の柱状のカーボンフォーム12bが用いられている。カーボンフォーム12bは、縦30mm、横20mm、高さ10mmの寸法形状を有している。
【0085】
カーボンフォーム12aは、円筒状のカーボンフォームであり、外径180mm、内径40mm、高さ50mmの寸法形状を有している。
【0086】
まず、円筒状のカーボンフォーム12aを、6〜13で示す支持棒6の先端部に配置し、支持棒6の先端部に突き刺した後、下方に移動させる。次に、6〜13で示す支持棒6の先端部のそれぞれに柱状のカーボンフォーム12bを配置し、突き刺した後下方に移動させる。これにより、図16及び図17に示すカーボンフォーム12を構成することができる。
【0087】
以上のように、カーボンフォーム10に代えて、カーボンフォーム12を用いる以外は、実施例1と同様にして、タンタル容器1の浸炭処理を行った。
【0088】
図18は、タンタル容器1の内面及び外面の各測定箇所における浸炭処理層の厚みを示す図である。
【0089】
図18に示すように、本実施例においては、タンタル容器1の内面とタンタル容器1の外面において、同程度の浸炭処理層の厚みとなるように、浸炭処理を行うことができる。
【0090】
実施例2(図15)と比較すると、タンタル容器1の底面部1aに近い側壁部1b(底面部1aと側壁部1bから構成されるコーナ部)の内面(14〜21に示す測定箇所)において、特に浸炭処理が促進され、浸炭処理層の厚みが厚くなっていることがわかる。これは、本実施例において用いたカーボンフォーム12が、タンタル容器1の底面部1aの近傍の側壁部1b(底面部1aと側壁部1bから構成されるコーナ部)の内面に近い位置に、その一部が存在しているため、当該箇所における浸炭処理が促進されたものと考えられる。すなわち、カーボンフォーム12の円筒状のカーボンフォーム12aの高さが、実施例2のカーボンフォーム11よりも高く、かつその上に柱状カーボンフォーム12bが設けられているためであると考えられる。
【0091】
以上のことから、本発明によれば、炭素源であるカーボンフォームの配置を調整することにより、タンタル容器の各箇所における浸炭処理層の厚みを容易に制御できることがわかる。浸炭処理されにくい箇所と炭素源との間の間隔は5.0〜50mmの範囲内であることが好ましい。
【0092】
本発明において用いる炭素源は、上記実施例において用いたカーボンフォームに限定されるものではなく、黒鉛なども用いることができる。
【符号の説明】
【0093】
1…タンタル容器
1a…タンタル容器の底面部
1b…タンタル容器の側壁部
1c…タンタル容器の側壁部の端部
1d…タンタル容器の開口部
2…タンタル蓋
2a…タンタル蓋の上面部
2b…タンタル蓋の側壁部
3…チャンバー
3a…チャンバー容器
3b…チャンバー蓋
5…支持台
6…支持棒
6a…支持棒の先端部
7…支持棒
8…SUS製の真空容器
9…断熱材
10,11,12,12a,12b…カーボンフォーム
20…排気口
21…黒鉛電極
22…カーボンヒーター
23…断熱材によって覆われた空間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンタルまたはタンタル合金からなるタンタル容器に炭素を浸透させる浸炭処理方法であって、
前記タンタル容器を、チャンバー内に設けられた支持部材で支持し、チャンバー内に配置する工程と、
前記チャンバー内を減圧及び加熱する工程とを有し、
浸炭処理されにくい箇所の近傍に炭素源を設けることを特徴とするタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項2】
前記チャンバーの少なくとも内壁が炭素源でできていることを特徴とする請求項1に記載のタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項3】
前記支持部材が炭素源でできていることを特徴とする請求項1に記載のタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項4】
前記箇所の近傍に炭素源を設ける工程より前に、前記タンタル容器の配置された前記チャンバー内を減圧及び加熱し、前記タンタル容器の浸炭処理されにくい箇所を予め特定する工程を有することを特徴とする請求項1に記載のタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項5】
前記タンタル容器が、底面部と、側壁部と、開口部とによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項6】
前記浸炭処理されにくい箇所が、前記タンタル容器内側の前記底面部及び前記側壁部であることを特徴とする請求項5に記載のタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項7】
前記炭素源を、前記タンタル容器の内側に配置することを特徴とする請求項6に記載のタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項8】
前記浸炭処理されにくい箇所が、前記タンタル容器内側の前記底面部と前記側壁部から構成されるコーナ部であり、前記コーナ部の近傍に前記炭素源が配置されていることを特徴とする請求項5に記載の炭素容器の浸炭処理方法。
【請求項9】
前記タンタル容器の前記開口部が下方になるように、前記タンタル容器が前記チャンバー内に配置されていることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載のタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項10】
前記支持部材が、前記タンタル容器内側の前記底面部を支持することにより、前記タンタル容器が支持されていることを特徴とする請求項9に記載のタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項11】
前記炭素源が、カーボンフォームであることを特徴とする請求項1に記載のタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項1】
タンタルまたはタンタル合金からなるタンタル容器に炭素を浸透させる浸炭処理方法であって、
前記タンタル容器を、チャンバー内に設けられた支持部材で支持し、チャンバー内に配置する工程と、
前記チャンバー内を減圧及び加熱する工程とを有し、
浸炭処理されにくい箇所の近傍に炭素源を設けることを特徴とするタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項2】
前記チャンバーの少なくとも内壁が炭素源でできていることを特徴とする請求項1に記載のタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項3】
前記支持部材が炭素源でできていることを特徴とする請求項1に記載のタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項4】
前記箇所の近傍に炭素源を設ける工程より前に、前記タンタル容器の配置された前記チャンバー内を減圧及び加熱し、前記タンタル容器の浸炭処理されにくい箇所を予め特定する工程を有することを特徴とする請求項1に記載のタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項5】
前記タンタル容器が、底面部と、側壁部と、開口部とによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項6】
前記浸炭処理されにくい箇所が、前記タンタル容器内側の前記底面部及び前記側壁部であることを特徴とする請求項5に記載のタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項7】
前記炭素源を、前記タンタル容器の内側に配置することを特徴とする請求項6に記載のタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項8】
前記浸炭処理されにくい箇所が、前記タンタル容器内側の前記底面部と前記側壁部から構成されるコーナ部であり、前記コーナ部の近傍に前記炭素源が配置されていることを特徴とする請求項5に記載の炭素容器の浸炭処理方法。
【請求項9】
前記タンタル容器の前記開口部が下方になるように、前記タンタル容器が前記チャンバー内に配置されていることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載のタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項10】
前記支持部材が、前記タンタル容器内側の前記底面部を支持することにより、前記タンタル容器が支持されていることを特徴とする請求項9に記載のタンタル容器の浸炭処理方法。
【請求項11】
前記炭素源が、カーボンフォームであることを特徴とする請求項1に記載のタンタル容器の浸炭処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−117096(P2012−117096A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266312(P2010−266312)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
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