説明

タンパク質およびポリペプチド多量体の分離のための活性化型ポリマーの使用

本発明は、複数のポリペプチドサブユニットを含む非共有結合的に会合したポリペプチド多量体を、複数のポリペプチドサブユニットへと分離するための、活性化型ポリマーの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は活性化型ポリマーの使用に関する。具体的には、本発明は、ポリペプチドおよび/またはタンパク質の調製の分野における、活性化型ポリマーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
組換え体の発現後、ポリペプチドおよび/またはタンパク質分子は1つまたは複数のアイソフォームで存在することが多く、つまりこれらの分子は、生成物の不均質性を呈することが多い。特によく研究された例として、単鎖抗体、すなわちscFvは、組換え体の発現後に、単量体の種と多量体、主に二量体の種との混合物として存在することが知られている。単量体の種は、同じポリペプチド鎖上にある抗体可変領域が、互いに共有結合的または非共有結合的に会合することによって生じる。一方、二量体の種は、例えば2つの互いに相補的な抗体可変領域AおよびBをそれぞれ含む第1および第2のポリペプチド鎖が、第1のポリペプチド鎖の可変領域Aが第2のポリペプチド鎖の可変領域Bと会合する(またはその逆)ように、第1および第2のポリペプチド鎖が会合することによって生じる。この種は二重特異性抗体(diabody)として一般的に知られている(Hudson et al. (1999) J. Immunol. Met. 231, 177-189(非特許文献1))。
【0003】
不均質生成物は特有の生物学的活性または薬物動態特性を呈することが多いため、ポリペプチドが後の治療的使用を目的としている場合には、そのような生成物の不均質性は一般に望ましくない。ポリペプチド治療薬を開発する際は、このポリペプチドがインビボでどのように作用するか(すなわち、質的な作用機序)、ならびにこの生物学的活性の規模(すなわち、量的な効力および体内における分布)が予測可能であることが重要である。不均質生成物に対して確実にそのような予測を立てることは困難であることが多い(Moore et al. (1999) Biochemistry. 38, 13960-13967(非特許文献2))。
【0004】
しかし、均質であり続ける均質生成物の作製もまた問題を含みうる。これは、ポリペプチドの不均質性が、単量体ポリペプチドと多量体ポリペプチドとの間の熱力学的平衡に起因することが多いためであり;種の1つを除去すると、両種間における平衡は再構築される(Lee et al. (2002) J. Mol. Biol. 320, 107-127(非特許文献3))。このことは、残存画分と除去された画分の両方に対して当てはまり、ポリペプチド両種間または全種間の異性体平衡化に起因する単量体:多量体比が、クロマトグラフィー分離後のある時期に各画分でほぼ同一に示される。不均質生成物に対しては固有の熱力学的動因がしばしば存在するので、1つのポリペプチド種の単純なクロマトグラフィー除去では、その後に、生成物の不均質性の問題に対して一過的な解決しか示されないことが多い。この問題は、所望の精製生成物を、アイソフォーム間の熱力学的平衡がもはや起こりえない形態、例えば凍結乾燥物(lyophilisate)に変換することにより回避することができる。この凍結乾燥物は、その後、治療の際の投与直前に再構成され、所望でない熱力学的平衡および生成物不均質性の付随的な増加を解消する、または少なくとも絶対最小値で維持する。しかしながら、不均質混合物からの所望でないアイソフォームの分離は、ポリペプチド生成物の有意な損失を招くことが多い。
【0005】
ポリペプチドの不均質性の問題とは無関係に、治療用ポリペプチドの開発者は、投与を目的とするポリペプチドの薬物動態特性および/または免疫原性特性を調節する必要性にしばしば直面する。例えば、治療を目的とするポリペプチドは、患者の血清からの消失が急速すぎて、いかなる治療効果も引き出すことができない可能性があり、これは一般に、ポリペプチドの分子量が小さくなればなるほど解決困難になる問題である。患者の血清から治療用ポリペプチドが消失する速度は、ポリペプチドが免疫原性応答を誘発する場合、つまり患者の免疫系が外来物質に対する免疫応答を備えている場合、不要に加速されうる。これらの各理由から、血清半減期が延長し、かつポリペプチドの免疫原性が低下する(前者は少なくとも一部後者に起因するが)ように、患者への投与を目的とするポリペプチドを誘導体化することがしばしば望ましい。
【0006】
これらの目的は、伸張有機ポリマーを治療用ポリペプチドに接合することによって対処されてきた。文献における一例を挙げると、この目的のために、ポリペプチドとポリエチレングリコール(「PEG」)の接合が使用されている(Roberts et al. (2002) Adv. Drug Delivers Rev. 54, 459-476(非特許文献4))。伸張有機ポリマーとの接合は、ポリペプチドの有効分子量を増加させ、一方で同時に免疫系による認識からポリペプチドを遮蔽する−これらのそれぞれが、ポリペプチドの血清半減期を有利に延長する効果を有する。
【0007】
したがって、治療用ポリペプチドの開発者は、均質生成物を作製し、一方でこの生成物の薬物動態特性および/または免疫原性特性を改善するという二重の挑戦にしばしば直面する。総合すると、これらの考慮すべき問題は、単離、精製、および接合の多数の連続した段階を必要とし、それぞれの段階が生成物および時間の損失、ならびに一般に産生プロセス全体にわたる更なる複雑性および費用を招く。
【0008】
【非特許文献1】Hudson et al. (1999) J. Immunol. Met. 231, 177-189
【非特許文献2】Moore et al. (1999) Biochemistry. 38, 13960-13967
【非特許文献3】Lee et al. (2002) J. Mol. Biol. 320, 107-127
【非特許文献4】Roberts et al. (2002) Adv. Drug Delivers Rev. 54, 459-476
【発明の開示】
【0009】
故に、本発明のねらいは、上述の問題への取り組みにより合致した代替法を提供することにある。
【0010】
驚くべきことに、本発明者らは、目下、ポリペプチドと伸張ポリマーの接合が、そのようなポリマーについて既に認識されている利点(すなわち、生成物の薬物動態特性および/または免疫原性特性の改善)だけではなく、恒久的な様式での多量体ポリペプチドの接合単量体ポリペプチドへの分離ももたらすことを見いだした。
【0011】
したがって、本発明の1つの局面は、複数のポリペプチドサブユニットを含む非共有結合的に会合したポリペプチド多量体を、該複数のポリペプチドサブユニットへと分離するための、活性化型ポリマーの使用に関係する。
【0012】
本発明のこの局面によれば、ポリマー、好ましくは有機ポリマーは、活性化型の形態で使用される。「活性化型」とは、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体中のポリペプチドサブユニットとポリマーとが共有結合しうる化学部分を含む、任意のポリマー形態を意味する。このような部分を含むポリマーは、ポリペプチドサブユニットと共有結合した後もこの部分を保持すると考えられるので、本明細書で使用される「活性化型ポリマー」という用語は、ポリペプチドサブユニットとのカップリング前およびカップリング後の両方のポリマーを指す、つまり、既にポリペプチドサブユニットと共有結合を形成している活性化型ポリマーは依然として「活性化型ポリマー」と呼ばれると考えられる。好ましくは、ポリペプチドに共有結合するための化学部分は、生理学的もしくはほぼ生理学的(near-physiological)な条件下、または少なくとも非共有結合的に会合したポリペプチド多量体のポリペプチドサブユニットに対して有害とはならない条件下で、反応すると考えられる。
【0013】
「非共有結合的に会合したポリペプチド多量体」という用語は、いかなる共有化学結合も切断することなく互いから分離可能な少なくとも2つのポリペプチド鎖を含む任意のポリペプチド種を包含するとして理解される。会合は、規則的性質のもの、例えば、立体的におよび/または静電的に互いに相補的な2つのポリペプチド間でみられるタイプのものであってよい。そのような規則的会合の非限定的な例としては、二量体の単鎖抗体(すなわち「二重特異性抗体」)についての文脈中で上述した種類のポリペプチドホモ二量体が想定されうる。または、会合は、不規則的性質のもの、例えば、個々のポリペプチド鎖が凝塊形成して水溶液に不溶性となるようなポリペプチド沈殿物において認められるタイプのものであってよい。そのような不規則的会合の非限定的な例としては、ポリペプチドの組換え発現から生じる不溶性封入体が想定されうる。
【0014】
しかし、本発明の使用は、ポリペプチド多量体が規則的様式で会合しているか、または不規則的様式で会合しているかには無関係である。非共有結合的に会合したポリペプチド多量体の複数のポリペプチドサブユニットの少なくとも1つ、好ましくはそれぞれと、上述の活性化型ポリマーの少なくとも1つの分子との間での共有結合反応の際には、これらの複数のポリペプチドサブユニットは、相互の非共有結合的な会合の境界に沿って互いに分離することになる。
【0015】
「分離する」(動詞として意図される)という用語は、溶液中、既に非共有結合的に会合している2つのポリペプチドサブユニットの間に、もはやこれら2つのサブユニット間にいかなるまたはいかなる有意な引力性の分子相互作用も存在しなくなるように十分な距離を導入する行為として理解されるべきである。分離前に非共有結合的に会合した2つのポリペプチドサブユニット間に存在しうる分子相互作用には、例えば、水素結合相互作用、ファンデルワールス相互作用、非局在π軌道の重なり、疎水性相互作用、および静電的/イオン性相互作用の1つまたは複数が含まれうる。活性化型ポリマーとの反応後、本明細書において下記に詳しく述べる理由により、これら2つのポリペプチドサブユニット間の総引力がゼロまたは少なくともほとんど無いくらいに小さくなるまで減少するように、2つのポリペプチドサブユニットそれぞれの間の距離が増加する。
【0016】
「2つのポリペプチドサブユニット」という言及は、制限的に理解されるべきではなく、むしろ、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体中の、非共有結合的に会合した任意の2つの所与のポリペプチドサブユニットに生じる分離を例証するものとして理解されるべきである。したがって、本発明の使用は、非共有結合的に会合したわずか2つのポリペプチドサブユニットしか含まない非共有結合的に会合したポリペプチド多量体、ならびに、非共有結合的に会合した2つ、または2つを上回る、つまり3つ、4つ、5つ、6つ、もしくはさらに多数のポリペプチドサブユニットを含む非共有結合的に会合したポリペプチド多量体に適用できる。後者の場合では、多数のポリペプチドサブユニットのそれぞれが、1つまたは複数の他のポリペプチドサブユニットに非共有結合的に会合していると考えられ;前記の段落に記載した分離プロセスは、任意の2つの各ポリペプチドサブユニットの間にある所与の境界面における本発明の使用の効果を例証するものとして理解されるべきである。よって、非共有結合的に会合した単一のポリペプチド多量体という観点からみると、この多量体をその構成要素である複数のポリペプチドサブユニットへと分離するプロセスは、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体中に含まれるサブユニット-サブユニット境界面それぞれの間で連続的におよび/または同時に起こる多数のそのような分子の分離を伴うものと考えられる。
【0017】
本発明の使用はいくつかの利点を伴う。最も顕著には、治療用ポリペプチドの薬物動態特性および/または免疫原性特性を改善するためだけでなく、異性体不均質(isomerically heterogeneous)ポリペプチド混合物を単量体中で(つまり、単一の定義された種で)均質化するために活性化型ポリマーを使用できるようにすることの実現において、本発明者らは、治療的使用を目的とするポリペプチドの産生ではこれまで見られなかった協奏性(concertedness)のレベルを達成した。ポリマーへの接合によって、投与を目的とするポリペプチドの薬物動態特性および/または免疫原性特性が既知の方法で改善されうるだけでなく、接合体へのこの転換は、所望の単量体ポリペプチド異性体をその様々な多量体の種から最初に分離する必要なしに実施されうる。これは、これだけで治療用ポリペプチドの全体的な産生の合理化を意味し、これまで複数の処理段階の実施によってしか得られなかった結果を1つの処理段階で出せるように導くものである。しかし、本発明の使用は、その使用を特に治療用ポリペプチドの産生に適合させるようなさらなる効果を有する。ポリマーへの接合はまた、単量体ポリペプチド種と多量体ポリペプチド種との間の熱力学的平衡の望ましくない再構築を防ぐようである。つまり、各ポリペプチドサブユニットが、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体から一旦分離されれば、このサブユニットは分離したままでいる傾向があり、他のサブユニットと再び会合して新しいポリペプチド多量体を再形成することはないと考えられる。したがって本発明の使用は、単量体ポリペプチドにおける望ましい生成物均質性を確立するだけでなく維持することも可能にする。
【0018】
一言で言うと、本発明の使用は、ポリマーに結合した均質なポリペプチドを1段階で獲得することを可能にし、このポリペプチド-ポリマー接合体は、その後、治療的使用のためにさらに精製されうる。
【0019】
いくつかの有利なシナリオが本発明の使用の適用に対して想定できる。第一に、異性体平衡がずっと多量体側に寄っている、均質またはほぼ均質な非共有結合的に会合したポリペプチド多量体を所有しているが、しかし単量体の種がポリマーに接合した形態であることが所望される。この場合、次の反応が想定されうる(ここで、多量体は、説明のために、2つの単量体サブユニットを含むホモ二量体とし、「AP」は活性化型ポリマーを表し、「SU」は単量体サブユニットを表す)。

【0020】
または、(ここで再び)ある平衡比のホモ二量体ポリペプチドと単量体ポリペプチドを含む、異性体不均質ポリペプチド混合物を所有していてもよく、ここで、二量体は同一サブユニットを2つ含み、単量体は、二量体の2つのサブユニットのそれぞれと同一のポリペプチドを含む(略称は上記のとおり)。

【0021】
上述の2つの非網羅的なシナリオのそれぞれにおいては、活性化型ポリマーの本発明の使用により、単量体中で均質化され、かつ治療薬として後に使用するためにポリマーに適切に接合された生成物が、1段階でもたらされる。さらなるシナリオが想定でき、これらはさらに詳細に以下に記載する。
【0022】
理論に縛られるわけではないが、本発明者らは、本発明の使用の有利な効果が、任意のポリペプチド溶液において経時的に起こる動力学的な変動に関係しうると考える。具体的には、所与のポリペプチド構造は、異なる立体構造状態、すなわちサブ構造(substructure)の間で絶えず遷移することが知られている。この遷移の速度はいくつかの因子、なかでもポリペプチドの特定のアミノ酸配列および媒質の温度に依存する。非限定的な例としては、単鎖抗体技術の分野において、ポリペプチド連結配列によって互いに接続した2つの分子内会合抗体可変領域が、溶液中で絶えず開閉することが知られており;「分子の呼吸(molecular breathing)」と言われている。非共有結合的に会合した2つのポリペプチドサブユニットについての特定の文脈においては、そのような「呼吸」は、同じポリペプチド鎖上に位置する2つのポリペプチド領域間ではなく、2つの別個のポリペプチドサブユニットに属する、別個の、しかし非共有結合的に会合した2つのポリペプチド鎖間で生じる。本発明の使用におけるように、これら2つのポリペプチドサブユニットの少なくとも1つが活性化型ポリマーの少なくとも1つの分子と接合するようになった事象においては、これらが2つの立体構造間を遷移し、そうすることで互いにさらに離れていく場合、構造化されていないポリマーの一部が、2つのポリペプチドサブユニットの間に滑り込む可能性がある。隣接したポリペプチドサブユニットの間にポリマー構造が介在するようになった領域においては、ポリマーが間に介在するようになっていない他の領域ではまだ大部分会合したままであるとしても、ポリマー介在領域においてポリペプチドサブユニットは互いに再接近できない。次の立体構造遷移で、2つのポリペプチドサブユニットのまだ会合している部分が再び互いに離れていく際、既に部分的に挿入されたポリマーは、2つのポリペプチドサブユニットのより多くの表面の再会合等を妨げるように、2つのポリペプチドサブユニット間により深く滑り込む。本発明者らは、ポリペプチド多量体のポリペプチドサブユニット2つの間における一種のくさびとしてのポリマーの漸進的な介在が、やがてポリペプチド多量体をほぐしてその構成要素であるポリペプチドサブユニットにするようはたらき、最終的にはそのそれぞれが、各自の少なくとも1つの活性化型ポリマーと接合するまたは接合するようになると考える。
【0023】
本発明の1つの態様によれば、活性化型ポリマーは少なくとも3,000g/molの分子量を有し、かつ極性原子を25〜70重量%含む。上述のような有利な効果を達成するのに必要な活性化型ポリマーの分子量は、一般に、多量体化をもたらすポリペプチドサブユニット中の疎水性部分の大きさに正比例して変化すると考えられる。そのような疎水性部分の大きさは、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体中のポリペプチドサブユニットの大きさには正比例的に変化しないと考えられるので、分離されるポリペプチドサブユニットの分子量の予備知識を得たとしても、最適な結果をもたらすためにどの分子量の活性化型ポリマーを使用すべきかを事前に正確に予測することは容易に可能ではない。しかし、本発明の好ましい態様は、3,500g/mol、5,000g/mol、20,000g/mol、または40,000g/molの分子量を有する活性化型ポリマーの使用を構想している。ここで、高分子化学の分野で一般的であるように、本明細書中で与えられる分子量値が平均分子量値を表すことは理解される必要がある。つまり、本明細書中に与えられる分子量値は、活性化型ポリマー試料中の多数の分子量の正規分布において、最も頻繁に遭遇する分子量を表す。そのため、本明細書中の分子量としての特定の値の表示は、活性化型ポリマーの試料中で、ポリマー分子が、表示された分子量より大きい分子量および小さい分子量のいずれにおいても存在するというシナリオを除外するものではない。
【0024】
本発明の好ましい態様は、27〜60重量%の極性分子、特に32〜45重量%の極性分子、35〜38重量%の極性分子;36〜37重量%の極性分子;27〜28重量%の極性分子;48〜50重量%の極性分子;または54〜56重量%の極性分子を含む活性化型ポリマーを使用することを構想している。これらの極性分子含量範囲を有する活性化型ポリマーは、一般に、観察される効果の原因と思われる特徴を呈すると考えられる。
【0025】
「極性原子」という用語は、水溶液中で水分子との水素結合相互作用に加わり、したがって「親水性」として当技術者によって一般に分類される特性を呈するポリマーに寄与する原子を意味するとして、理解されるべきである。この原子クラスの主要なメンバーには、酸素、硫黄、フッ素、塩素、リン、および窒素が含まれる。当業者は一般に、患者への投与を目的とする治療用分子への包含にも適合する極性原子の選択が制限されると理解するであろう。
【0026】
異なるサブ構造間で遷移するポリペプチド多量体が、活性化型ポリマーの漸進的な介在によってほぐされて、その構成要素であるポリペプチドサブユニットになるという提言された上記の機序に照らして、極性分子の上記含量を有する活性化型ポリマー、すなわち高親水性の活性化型ポリマーが、ポリペプチド多量体のポリペプチドサブユニットを分離するのに特によく適している理由が理解されうる。水性媒質中では、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体のポリペプチドサブユニットは、通常、疎水性の境界面で互いに会合する(Bahadur et al. (2004) J. Mol. Biol. 336, 943-955)。そのような境界面間における活性化型ポリマーの漸進的な挿入は、2つのポリペプチドサブユニットの向かい合った表面の間の内部環境を根本的な方法で変化させる:ポリペプチドサブユニット間の以前は疎水性であった環境は、親水性ポリマー構造の存在により、次第に親水性になる。そのようなシナリオでは、2つのポリペプチドサブユニットの疎水性表面はもはや相互作用できず、これらのポリペプチドサブユニットが会合する傾向は大いに低下するかまたは全て失われる。
【0027】
本発明のさらなる態様によれば、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体中に含まれる各ポリペプチドサブユニットは、1つのポリペプチド単鎖および/または少なくとも2つのポリペプチド単鎖の群を含み、ここで、少なくとも2つのポリペプチド単鎖は互いに共有結合して群を形成する。各ポリペプチドサブユニットがポリペプチド単鎖を含む場合、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体は、互いに非共有結合的に会合した2つまたはそれ以上の別個のポリペプチド鎖の集合体として理解されうる。非限定的な例としては、上記で考察したような「二重特異性抗体」としての、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体が想定されうる。そのような場合、本発明の使用は、それぞれが活性化型ポリマーの少なくとも1つの分子に共有結合する、2つの別個のscFv分子が生じるように、2つの個々のscFvポリペプチド鎖を互いから分離させると考えられる。
【0028】
本発明の特に好ましい態様によれば、ポリペプチドサブユニットはポリペプチド単鎖を含み、このポリペプチド単鎖は、単鎖抗体、すなわちscFv分子である。したがって、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体においてscFv分子がすでに非共有結合的に会合していた場合、本発明のこの態様では、少なくとも1つの分子に、好ましくは1つの活性化型ポリマー分子にそれぞれが共有結合した複数の別個のscFv分子がもたらされる。
【0029】
本発明の特に好ましい別の態様によれば、ポリペプチドサブユニットは、例えば、単独の抗原に特異的に結合可能な、すなわち別の抗体可変領域と対になることがない抗体可変領域などの、ただ1つの抗体可変領域を含む。ここでさらに、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体は、多数の非共有結合的に会合した抗体可変ドメインを含み、そのそれぞれは、独立して抗原に結合可能であり、すなわちそのそれぞれは「単一ドメイン抗体」である。
【0030】
各ポリペプチドサブユニットが少なくとも2つのポリペプチド単鎖の群を含む場合、本発明の使用により、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体は、ポリペプチド単鎖の少なくとも2つの群(すなわち、2つのサブユニット)へと分離されると考えられ、ここで各群は、少なくとも2つのポリペプチド単鎖を含み、そのそれぞれは、同じサブユニット中で少なくとも1つの他のポリペプチド単鎖と共有結合している。そのような共有結合は、最も一般的には、2つのポリペプチド鎖の各々の上にあるシステイン残基の間でジスルフィド結合の形態をとると考えられる。共有結合した少なくとも2つのポリペプチド単鎖を含むポリペプチドサブユニットの非限定的な例としては、互いにジスルフィド結合した抗体重鎖と抗体軽鎖とを含むFab分子が想定されうる。ここで、互いに非共有結合的に会合した複数のFab分子を含む非共有結合的に会合したポリペプチド多量体を、本発明の使用によって、複数の別個のFab分子へと分離することができ、そのそれぞれは、活性化型ポリマーの少なくとも1つの分子に共有結合する。
【0031】
共有結合した少なくとも2つのポリペプチド単鎖の群を含むポリペプチドサブユニットの別の非限定的な例としては、完全な抗体分子、すなわち、2つのポリペプチド重鎖と2つのポリペプチド軽鎖とを含むIgG分子を想定でき、各軽鎖は、1つの重鎖に対して共有結合的に、すなわちジスルフィド結合しており、2つのポリペプチド重鎖は互いにジスルフィド結合している。ここで、互いに非共有結合的に会合した複数のIgG分子を含む非共有結合的に会合したポリペプチド多量体を、本発明の使用により、複数の別個のIgG分子へと分離することができ、その分子のそれぞれは、活性化型ポリマーの少なくとも1つの分子に共有結合する。
【0032】
さらなる態様によれば、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体は、2つの異なる種類のポリペプチドサブユニットを含みうる:1種類は、上述のポリペプチド単鎖を含み、もう1種類は、上述の、共有結合した2つまたはそれ以上のポリペプチド鎖の群を含む。そのような非共有結合的に会合したポリペプチド多量体において、ポリペプチド単鎖を含むポリペプチドサブユニットは、共有結合した複数のポリペプチド鎖を含むポリペプチドサブユニットのポリペプチド鎖と非共有結合的に会合していてもよい。この場合、本発明の使用は、活性化型ポリマーとの接合による分離の後、少なくとも1つの分子、好ましくは1つの活性化型ポリマー分子に共有結合した単鎖ポリペプチドサブユニットと、これとは独立に、少なくとも1つの分子、好ましくは1つの活性化型ポリマー分子に群全体として共有結合した共有結合ポリペプチド単鎖の群とをもたらすであろう。
【0033】
本発明のさらなる態様によれば、各ポリペプチドサブユニットは、ポリペプチドサブユニット中に含まれるアミノ基、スルフヒドリル基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基を介して活性化型ポリマーに共有結合する。当業者には公知のように、大多数のポリペプチドは、一般的なアミノ酸側鎖部分であるアミノ基、カルボキシル基、および/またはヒドロキシル基の少なくとも1つを含むと考えられる。本発明の使用に用いられる活性化型ポリマーがアミノ基、カルボキシル基、および/またはヒドロキシル基と共有結合的に反応するポリマーである場合、分離したポリペプチドサブユニットは、その結果、2つ以上の活性化型ポリマー分子に共有結合する可能性が高い。しかし、特に好ましいのは、ポリペプチド多量体中に含まれるポリペプチドサブユニットのスルフヒドリル基と共有結合を形成する活性化型ポリマーの使用であり、それは、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体からの分離後、ポリペプチドサブユニットに2つ以上の活性化型ポリマーが共有結合しないよう、ポリペプチド中のそのような基の数を(システイン残基の組込みまたは除外によって)しばしば調整することができるためである。治療的適用に関しては、有利な生成物均質性のために、治療用ポリペプチドに付着する活性化型ポリマーの数を一定数に制限することが多い。ポリペプチドサブユニットに最終的に共有結合する活性化型ポリマーの数を1つに制限することは、一般に、活性化型ポリマーの本発明の使用の目的のためには十分である。
【0034】
活性化型ポリマーが、ポリペプチドサブユニット中に含まれるアミノ基と共有化学結合を形成できる場合、活性化型ポリマーは、ヒドロキシスクシンイミジル基、カルボキシル基、エポキシド基、ケト基、またはアルデヒド基を有利に含む。これらの基は全て、生理学的またはほぼ生理学的な条件下でアミンと共有結合的に反応することができる。活性化型ポリマーが、ポリペプチドサブユニット中に含まれるスルフヒドリル基と共有化学結合を形成できる場合、活性化型ポリマーは、マレイミド基、ビニルスルホン基、またはスルフヒドリル基、好ましくはマレイミド基を有利に含む。これらの基は全て、生理学的またはほぼ生理学的な条件下でスルフヒドリルと共有結合的に反応することができる。活性化型ポリマーが、ポリペプチドサブユニット中に含まれるカルボキシル基と共有化学結合を形成できる場合、活性化型ポリマーは、アミノ基またはヒドロキシル基を有利に含む。これらの基は両方とも、生理学的またはほぼ生理学的な条件下でカルボキシルと共有結合的に反応することができる。活性化型ポリマーが、ポリペプチドサブユニット中に含まれるヒドロキシル基と共有化学結合を形成できる場合、活性化型ポリマーは、カルボキシル基、アルデヒド基、またはケト基を有利に含み、カルボキシル基が特に好ましい。これらの基は、生理学的またはほぼ生理学的な条件下でヒドロキシルと共有結合的に反応することができる。
【0035】
本発明のさらなる態様によれば、各ポリペプチドサブユニットは、ポリペプチドサブユニット中に含まれる糖質を介して活性化型ポリマーに共有結合してもよく、この糖質は、少なくとも1つのアルデヒド基を含むようにあらかじめ化学的に修飾されている。当業者は、例えば弱い(約10mM)過ヨウ素酸ナトリウムで処理することにより糖質をアルデヒドに変換する方法を承知している。真核細胞において、多数のポリペプチドは、発現したポリペプチドの、糖質によるグリコシル化、すなわち官能基化(functionalization)を含む、翻訳後修飾を受け、その形態はいくつかの事例ではかなり複雑でありうる。非共有結合的に会合したポリペプチド多量体は、組換えポリペプチドが真核宿主の発現系、例えば酵母またはチャイニーズハムスター卵巣細胞(「CHO」)系において発現した結果であってもよく、したがってそのようなグリコシル化パターンを生じうる。遊離アミノ基を含む活性化型ポリマーは、少なくとも一部アルデヒドに変換されている糖質と反応して、安定なシッフ塩基を形成し、それはその後、還元的アミノ化を介して安定な第2のアミンに変換されうるので、グリコシル化されたポリペプチドサブユニットを含むそのようなポリペプチド多量体もまた本発明の使用が可能である。もちろん、ある程度の翻訳後修飾を受けたポリペプチドサブユニットは、アルデヒドとして再官能基化したその糖質基を介して活性化型ポリマーに共有結合する必要はなく;上記で言及した任意の他の化学反応を介した活性化型ポリマーへのカップリング、すなわちポリペプチドサブユニットのアミノ酸がもつ基と活性化型ポリマーとの間の直接カップリングも可能である。そのように、アルデヒド官能基化糖質を介した、翻訳後修飾ポリペプチドと活性化型ポリマーのカップリングは、本発明の使用におけるカップリングの追加的な様式を表すにすぎない。
【0036】
本発明のさらなる態様によれば、活性化型ポリマーは、活性化型ポリアルキレングリコール、活性化型ポリアミン、活性化型ポリビニルピロリドン、活性化型多糖(activated polysugar)、または活性化型ポリアミノ酸からなる群より選択される。ここで、ポリアルキレングリコールが好ましく、特に活性化型ポリエチレングリコール(「PEG」)が好ましい。活性化型PEGは、例えばmPEG-SPA(mPEG-スクシンイミジルプロピオネート)、mPEG-SBA(mPEG-スクシンイミジルブタノエート)、mPEG-SMB(mPEG-スクシンイミジルα-メチルブタノエート)、mPEG2-NHS(mPEG2-N-ヒドロキシスクシンイミド)、mPEG-OPTE(mPEG-チオエステル)、mPEG-CM-HBA-NHS(mPEG-カルボキシメチル-3-ヒドロキシブタン酸-N-ヒドロキシスクシネート)、mPEG-ACET(mPEG-アセトアルデヒドジエチルアセタール)、mPEG2-アセトアルデヒド(mPEG2-ジエチルアセタールと同等)、mPEG-プロピオンアルデヒド、mPEG2-プロピオンアルデヒド、mPEG-ブチルアルデヒド、mPEG2-ブチルアルデヒド、mPEG-ACET、mPEG-ケトン、mPEG-MAL(mPEG-マレイミド)、mPEG2-MAL(mPEG2-マレイミド)、およびmPEG-チオール(これらのポリマーは全て、Nektar Therapeutics, San Carlos, CA, USより市販されている)などの多数の市販形態をとっていてもよい。共有結合カップリングが起こりうる非共有結合性ポリペプチド多量体のポリペプチドサブユニット中に、相補的な化学基が存在すれば、全てが、本発明の態様における活性化型ポリマーとして特に好ましい。
【0037】
本発明のさらなる態様によれば、活性化型多糖は、有利には活性化型ポリデキストランまたは活性化型アルギネートでありうる。活性化型ポリアミノ酸は、有利には活性化型ポリ-L-リジンであってもよい。
【0038】
本発明のさらなる態様によれば、活性化型ポリマーは、生理学的条件下で典型的には共有化学結合に近い強度を呈する非共有結合相互作用により、ポリペプチドサブユニットに付着しうる。そのような強い非共有結合の例は、ビオチンとアビジンまたはストレプトアビジンとの高親和性相互作用でありうる。一般に知られているように、ビオチンとアビジン、またはビオチンとストレプトアビジンは、それらの複合体が典型的な生理学的条件下で会合したままであるような、互いに対する高い結合親和性を呈する。この場合、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体中の個々のポリペプチドサブユニットは、意図される非共有結合複合体の一方のメンバーで官能基化する必要があり、その一方で、活性化型ポリマーは、この複合体の他方のメンバーで官能基化する必要がある。これは、官能基化された活性化型ポリマーを、官能基化された各ポリペプチドサブユニットと接触させるときに、その2つのメンバー間の強い非共有結合相互作用によって、ポリペプチド多量体中の各ポリペプチドサブユニットが活性化型ポリマーの少なくとも1つの分子に結合するという結果が実質的にもたらされるように行う必要がある。
【0039】
ここで、非限定的な実施例によって、本発明をさらに詳細に説明する。
【0040】
実施例1:本発明の概略的な説明
図1は、本発明による使用の概略図を一般的形態で示すものであり、ここで文字Aは、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体を表し、文字Bは、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体A中のポリペプチドサブユニットを表し(例えば、ポリペプチドサブユニットBの各々は、scFvポリペプチドでありうる)、さらに文字Cは、活性化型ポリマー1分子を表す。
【0041】
図1は本発明の使用を一般的形態で図示しており、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体Aが4つのポリペプチドサブユニットBで構成されているシナリオを示す。各ポリペプチドサブユニットBは、得られる非共有結合的に会合したポリペプチド多量体Aが、その構成要素であるポリペプチドサブユニットB間の非共有結合相互作用によって全体的にまとまるように、少なくとも1つの他のポリペプチドサブユニットBと非共有結合的に会合している、すなわちポリペプチドサブユニットBは、いかなる他のポリペプチドサブユニットBとも共有化学結合による接続をしていない。ポリペプチドサブユニットBのそれぞれは、活性化型ポリマーCの少なくとも1つの分子と共有結合を形成できる化学基を含むと仮定する。活性化型ポリマーCの少なくとも1つの分子と各ポリペプチドサブユニットBとの間での共有化学結合の形成に適合した条件下で、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体Aを、活性化型ポリマーCの少なくとも4つの分子と反応させる。この反応の結果、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体Aを構成する個々のポリペプチドサブユニットBが、互いから分離して、それぞれが少なくとも1つの活性化型ポリマーCに共有結合した4つの個々のポリペプチドサブユニットBを生じる。通常、各ポリペプチドサブユニットBは同一であり、これは例えば、宿主細胞からの組換え発現に起因する。しかし、非共有結合的に会合したポリペプチド多量体Aが、例えばポリペプチドサブユニットB、B'、B''などからなっていてもよく、互いに異なるこのサブユニットB、B'、B''などが、例えば、所望の組換えポリペプチドの不完全に発現された変異体でありうる。非共有結合的に会合したポリペプチド多量体Aが、同一のポリペプチドサブユニットBからなるかまたは同一でないポリペプチドサブユニットBからなるかにかかわらず、活性化型ポリマーの少なくとも1つの分子と共有結合を形成することができる限り、前記ポリペプチドサブユニットBは、本発明の使用によって互いから分離されうる。図1に明確に示すとおり、本発明の使用は、所望でないポリペプチド多量体を、複数の、均質な、所望のポリペプチド単量体に分割し、所望の各ポリペプチド単量体が、ポリマーの少なくとも1つの分子に共有結合しているといった効率的な方法を提供する。この方法により、さもなければ単量体の形態に分解できないままのポリペプチドを分解することができ、これにより、ポリマーに結合した状態のこの単量体ポリペプチドの全収量が増加する。
【0042】
実施例2:scFvポリペプチドの産生および精製
scFvポリペプチド(すなわち、ポリペプチドリンカーによって接続されたVH抗体領域およびVL抗体領域を含むポリペプチド単鎖)を、所望のscFvをコードするカナマイシン耐性pBADベクター(Xoma)をトランスフェクトした大腸菌(E. coli)BL21 DE3において発現させた。発現培養物は、50μg/mLカナマイシンを含むLB培地中、300rpm、37℃で12時間インキュベーションした。遺伝子発現は、L-アラビノースを総濃度0.08%(w/v)まで加え、続いて300rpmで15時間、30℃にてさらに撹拌することにより誘導した。
【0043】
細胞はその後、10,000×g、15分間の遠心分離により回収し、総量900mLの1×PBSに再懸濁した。scFvタンパク質は6回の凍結融解サイクルによって抽出した。最後に、懸濁液を16,000×g、4℃で、15分間遠心分離した。透明な上清はその後、粗ペリプラズム調製物として使用した。
【0044】
概して、粗scFvタンパク質を、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)およびゲルろ過を含む2段階の精製プロセスにおいて精製した。クロマトグラフィーにはAkta FPLCシステム(Pharmacia)およびUnicornソフトウェアを使用した。全ての化学物質は研究用等級のものであり、Sigma(Deisenhofen)またはMerck(Darmstadt)から購入した。
【0045】
IMACは、NiSO4を添加したNiNTAカラム(Qiagen)を用いて、製造業者のプロトコルに従って実施した。カラムは緩衝液A(20mM NaPP pH7.5、0.4M NaCl、10mMイミダゾール)で平衡化し、10mMイミダゾールを含むペリプラズム調製物(500 ml)を流量3ml/分でカラム(5 ml)に加えた。カラムを緩衝液Aで洗浄し、結合していない試料を除去した。結合したタンパク質を、100%緩衝液B(20mM NaPP pH7.5、0.4M NaCl、0.5Mイミダゾール)を用いて溶出した。100%緩衝液Bを用いたこの段階からの溶出タンパク質画分を、さらなる精製のためにプールした。
【0046】
結果は図2に示され、約420mlにおいてポリペプチド溶出のピークがある。「M+D」とは、このピークがscFvの単量体形態および(ホモ)二量体形態両方に起因することを示す。IMACは、異なる分子量のポリペプチドを区別せず、むしろヒスチジンタグの付いた全ての種類のタンパク質を結合するため、これらの2つの形態は共に図2の1つのピークを形成する。
【0047】
図2の「M+D」溶出ピークに含まれるポリペプチドはを、次に、20mM Tris pH7.2、250mM NaCl、5% v/vグリセロール、2mM DTTによって平衡化したSuperdex 200 HiPrepカラム(Pharmacia)またはSephadex 400カラムにおいて、流量1ml/分でゲルろ過クロマトグラフィー(すなわち、SEC)に供した。分子量決定用にカラムをあらかじめ較正した(分子量マーカーキット、Sigma MW GF-200)。図3はSuperdex 200 HiPrep SECカラムからの結果を示す。2つの主要なポリペプチドピークが観察され、1つは溶出量約68mlにおいて、もう1つは溶出量約80mlにおいてである。前者は、図3に「D」として表示され、分子量約54kDの二量体形態のscFvポリペプチドに相当する(すなわち、1つのscFv鎖のVHがもう1つのscFv鎖のVLと分子間会合するように、2つの同一scFvポリペプチドが直線的に頭-尾(head-to-tail)で会合している、二重特異性抗体様構造)。一方後者は、図3に「M」として表示され、分子量約27kDの単量体形態のscFvポリペプチドに相当する(すなわち、scFv単鎖のVHとVLが互いに分子内会合しているscFv)。
【0048】
図3の「D」ピークが実際に、図3の「M」ピークをもたらす非共有結合的に会合した二量体形態のポリペプチドによるものであると確認するために、上述のゲルろ過クロマトグラフィーから得たタンパク質画分について変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を実施した。還元条件下のSDS-PAGEは、既成の4〜12%Bis Trisゲル(Invitrogen)を用いて実施した。試料の調製および適用は製造業者のプロトコルに従った。分子量は、MultiMarkタンパク質スタンダード(Invitrogen)を用いて決定した。ゲルはコロイド状クーマシー(Invitrogen protocol)で染色した。結果を図4に示す。
【0049】
図4のレーン1は分子量ラダーを示す。図4のレーン2は、約68mlにおけるピークより前、すなわち溶出量が約48mlから約62mlの際に溶出した高分子量の凝集物を含む、ゲルろ過溶出画分である。図4のレーン3は、約68mlにおける、scFv二量体に起因するゲルろ過溶出ピークを示す。図4のレーン4は、約80mlにおける、scFv単量体に起因するゲルろ過溶出ピークを示す。図4のレーン5は、溶解した大腸菌細胞から得られる全てのタンパク質生成物を含むIMAC溶出物を示す。図4においてゲルのすぐ右を指す水平矢印は、約27kDのscFvポリペプチド単量体の位置を示す。
【0050】
図4のレーン3および4のタンパク質生成物は、変性および還元ゲル条件下で、それぞれ54kDおよび27kDに相当する容量においてゲルろ過カラムから溶出したが、これらの2つのタンパク質生成物は、還元SDS-PAGEにおいては同じように流れ、これは、scFvポリペプチド単量体の分子量(27kD)に相当した。このことは、細胞溶解物から得て精製したscFv生成物が、2つの形態で、すなわち単量体scFvおよび二量体scFvとして実際に存在し、二量体scFvポリペプチドは、PAGEの変性および還元条件下で、その構成要素である単量体に分離されるということを示す。
【0051】
実施例3:scFv生成物のPEG化
ゲルろ過クロマトグラフィーによって分離したscFv単量体ポリペプチド画分およびscFv二量体ポリペプチド画分を、独立したカップリング反応において、40kDポリエチレングリコールマレイミド(「PEG-MAL 40」)とカップリングさせた。使用したPEG-MALは、それぞれ分子量20kDの2つの鎖をもつ分枝PEG、すなわちmPEG2-MALであった。scFv:PEG-MAL 40のカップリング比が1:1に調節されるよう、scFvポリペプチドを、C末端に遊離システイン残基を含むように設計した。以下の手順は、単量体scFv用および二量体scFv用に独立して実施した。
【0052】
カップリングに使用した緩衝液は、50mM Tris、5vol%グリセロール、2mM DTTを含み、pH7.2に調整された。この調製物はタンパク質を安定化させて溶液中で維持し、望ましくない凝集および沈降を妨げた。DTTは、scFvポリペプチドのC末端における全ての望ましくないシステインジスルフィド結合を切断するために含まれており、PEG-MAL 40のマレイミド基と共有結合的に反応可能な遊離チオール基が存在することを確実にした。PEG化の前に、DTTを、Sephadex G25 Medium(Amersham Biosciences)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーによって除去した。ここで、遊離DTTの漏出を避けるために、添加する容量はカラム容量の10%未満に維持した。カラムは、400mM NaCl、500mMイミダゾール、20mMホスフェートを含みpH7.2に調整した緩衝液で平衡化した。溶出には同じ緩衝液を使用した。
【0053】
溶出物は、タンパク質結合性の低いポリプロピレンで作られた96ウェルプレート中に、90μl画分で収集した。各ウェルから5μlを、その各ウェルがPBSおよびBradford試薬(BioRad)の4:1混合物を含む96ウェルプレートへと移すことにより、タンパク質を含む画分を検出した。タンパク質によってこの混合物の色は淡褐色から青色に変化し、595nmでの吸光度をTecan Spectrafluor Plusプレートリーダーで測定して、タンパク質性物質(proteinaceous material)の存在を確認した。タンパク質含有画分をプールして、280nmでの吸光度を測定し、モル吸光係数を用いることにより、タンパク質濃度を求めた。
【0054】
PEG-MAL 40を計量して2つの丸底反応チューブに入れた。一方のチューブは単量体scFvポリペプチドとPEG-MAL 40との反応用であり、もう一方のチューブは二量体scFvポリペプチドとPEG-MAL 40との反応用である。scFvポリペプチド1分子に対するPEG 5分子という分子過剰量は、最終容量1mlにつきPEGマレイミド最小値2.5mgとして算出した。scFv単量体およびscFv二量体を含むポリペプチド溶液を2つの別々のチューブに移し、ピペットで穏やかに混合してPEGを溶解した。インキュベーションは、暗所中、室温で2時間または5℃で一晩、Dynal反転回転ミキサー(flip-over rotation mixer)上で実施した。
【0055】
実施例4:PEG-MAL 40との個別のカップリング後のscFv単量体およびscFv二量体の比較
scFv-PEG接合体を陽イオン交換クロマトグラフィーにより精製して、遊離PEGおよび未接合ポリペプチドを除去し(結果は示さず)、最終生成物の生物活性を確認した。単量体および二量体のscFvポリペプチドの独立したカップリングから得た最終精製scFv-PEG-MAL 40接合体を、純度についてSDS-PAGEにて試験して、対応する分子量のタンパク質とは異なるようにPEGがSDS-PAGE上を流れるようにする、PEGの非球状特質、すなわち線状特質のため、PEG化した単量体および二量体はいずれも、この検出法による生成物の予測サイズである分子量約100kDに移動した(結果は示さず)。
【0056】
さらに、単量体および二量体のscFvとPEG-MAL 40の独立したカップリングから生じた反応生成物を、SECにより分析した。この比較分析の結果を図5に示すが、ここで「V0」はサイズ排除カラムの空隙容量を示し、「M」はPEG化scFv単量体ポリペプチドに相当するタンパク質ピークを示し、「D」はPEG化scFv二量体ポリペプチドに相当するタンパク質ピークを示す。図5で明確に見られるように、両種類のPEG化scFvポリペプチドは同一のカラム保持時間を呈し(垂直の破線で表示)、これは二量体形態のscFvポリペプチドのPEG化が、相当する単量体形態のscFvポリペプチドのPEG化と同じ生成物、つまりPEG化scFv単量体をもたらすことを意味する。この結果は陽イオン交換クロマトグラフィー分析によってさらに確認され;溶出に必要なイオン強度は、PEG化scFv単量体およびPEG化scFv二量体の両方について同一であった(結果は示さず)。
【図面の簡単な説明】
【0057】
添付の非限定的な図面および例によって、本発明をさらに詳細に説明する。
【図1】本発明の使用の概略図。
【図2】単量体および二量体のscFv両方を含むピークを示す、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)で精製したscFvポリペプチドの溶出プロファイル。
【図3】図2に示すポリペプチドピークを含む溶出画分のサイズ排除クロマトグラフィー(「SEC」)から生じた、溶出プロファイル。
【図4】図2および図3に示すSEC分析およびIMAC分析から得たscFvポリペプチド画分のSDS-PAGE分析。
【図5】単量体および二量体のscFvポリペプチド画分それぞれを個別立にPEG化した後の、単量体および二量体のscFvポリペプチドの重ね合わせた個別のSEC溶出プロファイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のポリペプチドサブユニットを含む非共有結合的に会合したポリペプチド多量体を、複数のポリペプチドサブユニットへと分離するための、活性化型ポリマーの使用。
【請求項2】
活性化型ポリマーが、少なくとも3,000g/molの分子量を有し、かつ25〜70重量%の極性原子を含む、請求項1記載の使用。
【請求項3】
分離形態の複数のポリペプチドサブユニットのそれぞれが、活性化型ポリマーに結合する、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
分離形態の複数のポリペプチドサブユニットのそれぞれが、活性化型ポリマーに共有結合する、請求項3記載の使用。
【請求項5】
ポリペプチドサブユニットのそれぞれが、ポリペプチド単鎖および/または少なくとも2つのポリペプチド単鎖の群を含み、少なくとも2つのポリペプチド単鎖が互いに共有結合している、前記請求項のいずれか一項記載の使用。
【請求項6】
ポリペプチドサブユニットの少なくとも1つがポリペプチド単鎖を含み、ポリペプチド単鎖が、少なくとも1つの抗体可変領域を含む、好ましくは1つまたは2つの抗体可変領域を含む単鎖抗体である、請求項5記載の使用。
【請求項7】
ポリペプチドサブユニットのそれぞれが、ポリペプチドサブユニットの内部/表面に含まれるアミノ基、スルフヒドリル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、またはアルデヒド基を介して活性化型ポリマーに共有結合している、前記請求項のいずれか一項記載の使用。
【請求項8】
・ポリペプチドサブユニット中に含まれるアミノ基との共有化学結合を形成可能な活性化型ポリマーが、ヒドロキシスクシンイミジル基、カルボキシル基、エポキシド基、ケト基、またはアルデヒド基を含む;
・ポリペプチドサブユニット中に含まれるスルフヒドリル基との共有化学結合を形成可能な活性化型ポリマーが、マレイミド基、ビニルスルホン基、またはスルフヒドリル基を含む;
・ポリペプチドサブユニット中に含まれるカルボキシル基との共有化学結合を形成可能な活性化型ポリマーが、アミノ基またはヒドロキシル基を含む;かつ/または
・ポリペプチドサブユニット中に含まれるヒドロキシル基との共有化学結合を形成可能な活性化型ポリマーが、カルボキシル基、アルデヒド基、またはケト基を含む
、請求項7記載の使用。
【請求項9】
各ポリペプチドサブユニットが、ポリペプチドサブユニット中に含まれる糖質を介して活性化型ポリマーに共有結合し、糖質が、少なくとも1つのアルデヒド基を含むよう化学的に修飾されている、請求項3〜8のいずれか一項記載の使用。
【請求項10】
アルデヒド基含有糖質との共有化学結合を形成可能な活性化型ポリマーが、アミノ基またはヒドラジド基を含む、請求項9記載の使用。
【請求項11】
アルデヒドとアミノ基またはヒドラジド基との間の共有結合が、還元的アミノ化により安定化する、請求項10記載の使用。
【請求項12】
活性化型ポリマーが、活性化型ポリアルキレングリコール、活性化型ポリアミン、活性化型ポリビニルピロリドン、活性化型多糖(activated polysugar)、または活性化型ポリアミノ酸からなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載の使用。
【請求項13】
活性化型ポリアルキレングリコールが活性化型ポリエチレングリコールである、請求項12記載の使用。
【請求項14】
活性化型ポリエチレングリコールが、mPEG-SPA(mPEG-スクシンイミジルプロピオネート)、mPEG-SBA(mPEG-スクシンイミジルブタノエート)、mPEG-SMB(mPEG-スクシンイミジルα-メチルブタノエート)、mPEG2-NHS(mPEG2-N-ヒドロキシスクシンイミド)、mPEG-OPTE(mPEG-チオエステル)、mPEG-CM-HBA-NHS(mPEG-カルボキシメチル-3-ヒドロキシブタン酸-N-ヒドロキシスクシネート)、mPEG-ACET(mPEG-アセトアルデヒドジエチルアセタール)、mPEG2-アセトアルデヒド(mPEG2-ジエチルアセタールと同等)、mPEG-プロピオンアルデヒド、mPEG2-プロピオンアルデヒド、mPEG-ブチルアルデヒド、mPEG2-ブチルアルデヒド、mPEG-ACET、mPEG-ケトン、mPEG-MAL(mPEG-マレイミド)、mPEG2-MAL(mPEG2-マレイミド)、およびmPEG-チオールからなる群より選択される、請求項13記載の使用。
【請求項15】
活性化型多糖が、活性化型ポリデキストランまたは活性化型アルギネートである、請求項12記載の使用。
【請求項16】
活性化型ポリアミノ酸が活性化型ポリ-L-リジンである、請求項12記載の使用。
【請求項17】
活性化型ポリマーが、3,500g/mol、5,000g/mol、20,000g/mol、または40,000g/molの分子量を有する、前記請求項のいずれか一項記載の使用。
【請求項18】
mPEG-MALが、40,000g/molの分子量を有するmPEG-MALまたはmPEG2-MALである、請求項14および17記載の使用。
【請求項19】
活性化型ポリマーが、
・27〜60重量%の極性原子、特に32〜45重量%の極性原子、35〜38重量%の極性原子、または
・36〜37重量%の極性原子;
・27〜28重量%の極性原子;
・48〜50重量%の極性原子;または
・54〜56重量%の極性原子
を含む、前記請求項のいずれか一項記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2008−530163(P2008−530163A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555522(P2007−555522)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【国際出願番号】PCT/EP2006/001359
【国際公開番号】WO2006/087178
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(505298825)マイクロメット アクツィエン ゲゼルシャフト (14)
【Fターム(参考)】