説明

タンパク質のリフォールディング剤及びタンパク質の製造方法

【課題】凝集しやすいタンパク質をリフォールディングするリフォールディング剤およびタンパク質の製造方法を提供する。
【解決手段】
一般式(1)で示される基を有するリン含有化合物(A)と、非イオン性界面活性剤(B)と、チオール基含有アミノ酸、チオール基含有ペプチド及びこれらのチオール基同士がジスルフィド結合で結合した化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(T)とを必須成分とするリフォールディング剤(I);
又は、カルボキシル基、カルボキシレートアニオン基及びエステル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有するオキシカルボニル基含有化合物(C)と、(B)と、1種の化合物(T)とを必須成分とするリフォールディング剤(II)を使用する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質のリフォールディング剤及びタンパク質の製造方法に関し、詳しくはアンフォールディングされたタンパク質を活性のあるタンパク質構造へと巻き戻すために使用されるリフォールディング剤及びタンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の機能・構造の解明・解析は、例えば、病気の治療や創薬に直結し、極めて重要である。このため、種々のタンパク質を様々な方法で合成・生産し、それらの構造を調べ、生体内における作用機構と役割を解明することが活発に行われている。そして、今や、タンパク質の機能は、それらを構成するアミノ酸の配列・鎖長のみならず、それらの取る秩序だった立体構造(高次構造)によって決まることは周知のこととなっている。
【0003】
工業的にも、遺伝子工学の発展により、さまざまなタンパク質を組換え体として大量に調製し、医薬品製造や食品加工、臨床診断等の多岐にわたる産業に利用されてきた。特に、ベクター技術の開発によって大腸菌や酵母の菌体内で、標的とするタンパク質を大量に産生させる技術が、少ない資源で簡単に再現性良く実行できるようになってきた。
しかし、組換え体で発現させたタンパク質の多くは立体構造に秩序が無く、高次構造が制御されておらず、不活性な封入体(インクルージョンボディ)と呼ばれる小粒子顆粒を形成することが多い。このため、大腸菌による生産プロセスでは、インクルージョンボディを解きほぐし(アンフォールディング)、高次構造を整え、秩序だった立体構造を持つ可溶性タンパク質に変換する操作、すなわち、インクルージョンボディをアンフォールディングし、さらにリフォールディング(巻き戻し)することが必要である。
【0004】
この種のリフォールディングは、大腸菌や酵母による生産タンパク質のみならず、熱履歴等の、ある種の原因で失活したタンパク質の再生にも応用でき、極めて重要な技術である。したがって、従来から、このリフォールディングは透析法や希釈法を中心に盛んに研究され、種々の方法が提案されているが、それらのほとんどは、リフォールディング率が低いうえに、ある限定されたタンパク質(特に、分子量の低い特定タンパク質)に対して偶発的に好ましい結果が得られたに過ぎないことが多く、現在、このリフォールディングは、種々のタンパク質に適用可能な、一般性、普遍性のある、しかも、リフォールディング率の高い効率的で経済的な方法とはなっていない。
【0005】
発明者は、特定のリン酸塩もしくはカルボン酸塩をリフォールディング剤として使用することで、高い生産性を得ることができるリフォールディング方法を既に見いだした(特許文献1、2)。
【0006】
しかしながら、これらの方法では、リパーゼなどの構造が比較的単純なタンパク質は巻き戻るものの、リゾチームなどの分子内にジスルフィド結合(以下、S−S結合と略す場合がある)を含むタンパク質に対して使用すると、リフォールディング中にS−S結合が正しく再結合されずに誤った3次元構造となり、タンパク質が凝集することが頻繁に起こる。その結果、活性を持つタンパク質の収量が極端に減少する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−126391号公報
【特許文献2】特開2007−145801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、分子内にS−S結合を含むタンパク質に対して使用しても、タンパク質の凝集が起こりにくいリフォールディング剤及びタンパク質の製造方法を提供し、活性を持つタンパク質の収量を向上させることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は以上の問題点を解決するため鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明のリフォールディング剤は、アンフォールディングされたタンパク質のリフォールディング剤であって、一般式(1)で示される基を有するリン含有化合物(A)と、非イオン性界面活性剤(B)と、チオール基含有アミノ酸、チオール基含有ペプチド及びこれらのチオール基同士がジスルフィド結合で結合した化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(T)とを必須成分とするリフォールディング剤(I)であることを要旨とする。
また、本発明のリフォールディング剤は、アンフォールディングされたタンパク質のリフォールディング剤であって、カルボキシル基、カルボキシレートアニオン基及びエステル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有するオキシカルボニル基含有化合物(C)と、非イオン性界面活性剤(B)と、チオール基含有アミノ酸、チオール基含有ペプチド及びこれらのチオール基同士がジスルフィド結合で結合した化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(T)を必須成分とするリフォールディング剤(II)であることを要旨とする。
また、本発明のタンパク質の製造方法は、タンパク質を前記リフォールディング剤(I)又は(II)でリフォールディングする工程を含むタンパク質の製造方法であることを要旨とする。
【0010】
【化1】

【発明の効果】
【0011】
本発明のリフォールディング剤は、タンパク質のリフォールディングに使用する際に、従来よりもリフォールディング時のタンパク質の凝集を抑制することができ、活性のあるタンパク質を多く得ることができる。
本発明のタンパク質の製造方法は、従来よりもリフォールディング時のタンパク質の凝集を抑制することができ、活性のあるタンパク質を多く得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のリフォールディング剤は、アンフォールディングされたタンパク質のリフォールディング剤であり、大別して、第1発明であるリン含有化合物(A)と、非イオン性界面活性剤(B)と、チオール基含有アミノ酸、チオール基含有ペプチド及びこれらのチオール基同士がジスルフィド結合で結合した化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(T)とを必須成分とするリフォールディング剤(I)と、第2発明であるオキシカルボニル基含有化合物(C)と、非イオン性界面活性剤(B)と、化合物(T)を必須成分とするリフォールディング剤(II)の2種である。すなわち、下記一般式(1)で示される基を有するリン含有化合物(A)と、非イオン性界面活性剤(B)と、化合物(T)とを必須成分とするリフォールディング剤(I)と、カルボキシル基、カルボキシレートアニオン基及びエステル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有するオキシカルボニル基含有化合物(C)と、非イオン性界面活性剤(B)と、化合物(T)とを必須成分とするリフォールディング剤(II)である。
【0013】
本願の第1の発明のリフォールディング剤(I)は、リン含有化合物(A)と、非イオン性界面活性剤(B)と、チオール基含有アミノ酸、チオール基含有ペプチド及びこれらのチオール基同士がジスルフィド結合で結合した化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(T)とを必須成分とする。このリン含有化合物(A)は、下記一般式(1)で示される基を有する化合物である。
【0014】
【化2】

【0015】
一般式(1)におけるPはリン原子を表し、Oは酸素原子を表す。リン含有化合物(A)としては、無機リン酸及びその塩(A1);リン酸アルキルエステル及びアルキルホスホン酸アルキルエステル及びそれらの塩(A2);並びに糖リン酸エステル及びその塩(A3)などが挙げられる。
リン含有化合物(A)は、1種であってもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
無機リン酸及びその塩(A1)としては、リン酸、次亜リン酸、亜リン酸、次リン酸、ピロリン酸、ピロ亜リン酸、メタリン酸、トリポリリン酸、ポリリン酸、及びこれらの塩が挙げられる。
塩としてはアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩など)、アンモニウム塩、アミン塩(1級アミン塩、2級アミン塩、3級アミン塩)、及び4級アンモニウム塩(テトラアルキルアンモニウム塩など)が挙げられる。
【0017】
塩としては、(A1)が含有する酸基が複数の場合は、酸基の全てが塩になっていてもよく、酸基の一部が塩になっていてもよい。
【0018】
(A1)のうちの塩の具体例としては、リン酸1水素2ナトリウム塩、リン酸2水素1ナトリウム塩、リン酸1水素2カリウム塩、リン酸2水素1カリウム塩、リン酸アンモニウム塩、リン酸テトラメチルアンモニウム塩、リン酸テトラエチルアンモニウム塩、リン酸トリエチルアミン塩及びリン酸トリエタノールアミン塩などのリン酸塩;亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸アンモニウム塩、亜リン酸テトラメチルアンモニウム塩、亜リン酸テトラエチルアンモニウム塩、亜リン酸トリエチルアミン塩及び亜リン酸トリエタノールアミン塩などの亜リン酸塩;ピロリン酸ナトリウム塩、ピロリン酸カリウム塩、ピロリン酸テトラメチルアンモニウム塩、ピロリン酸テトラエチルアンモニウム塩、ピロリン酸トリエチルアミン塩及びピロリン酸トリエタノールアミン塩などのピロリン酸塩などが挙げられる。
【0019】
リン酸アルキルエステル及びアルキルホスホン酸アルキルエステル及びそれらの塩(A2)としては、リン酸アルキル(炭素数1〜12)エステル及びアルキル(炭素数1〜12)ホスホン酸アルキル(炭素数1〜12)エステル(A21)、ピロリン酸アルキル(炭素数1〜12)エステル(A22)並びにトリポリリン酸アルキル(炭素数1〜12)エステル(A23)などが挙げられる。
リン酸アルキルエステル及びアルキルホスホン酸アルキルエステル(A21)としては、リン酸モノアルキルエステル、リン酸ジアルキルエステル、リン酸トリアルキルエステル、アルキルホスホン酸モノアルキルエステル及びアルキルホスホン酸ジアルキルエステルが含まれる。リン酸モノアルキルエステルとしては、リン酸メチルエステル、リン酸エチルエステル、リン酸プロピルエステル、リン酸2−プロピルエステル、リン酸ブチルエステル、リン酸2−ブチルエステル、リン酸t−ブチルエステル、リン酸ペンチルエステル、リン酸ヘキシルエステル、リン酸シクロヘキシルエステル、リン酸オクチルエステル、リン酸ノニルエステル、リン酸デシルエステルなどが挙げられる。リン酸ジアルキルエステルとしては上記リン酸アルキルエステルのジエステルが挙げられ、リン酸トリアルキルエステルとしては上記リン酸アルキルエステルのトリエステルが挙げられる。アルキルホスホン酸モノアルキルエステルとしては、メチルホスホン酸メチルエステル、メチルホスホン酸エチルエステル、エチルホスホン酸メチルエステル及びエチルホスホン酸エチルエステルなどが挙げられる。アルキルホスホン酸ジアルキルエステルとしては上記アルキルホスホン酸のジエステルが挙げられる。
【0020】
ピロリン酸アルキル(炭素数1〜12)エステル(A22)としては、ピロリン酸モノアルキルエステル、ピロリン酸ジアルキルエステル、ピロリン酸トリアルキルエステルが含まれる。ピロリン酸モノアルキルエステルとしては、ピロリン酸メチルエステル、ピロリン酸エチルエステル、ピロリン酸プロピルエステル、ピロリン酸2−プロピルエステル、ピロリン酸ブチルエステル、ピロリン酸2−ブチルエステル、ピロリン酸t−ブチルエステル、ピロリン酸ペンチルエステル、ピロリン酸ヘキシルエステル、ピロリン酸シクロヘキシルエステル、ピロリン酸オクチルエステル、ピロリン酸ノニルエステル、ピロリン酸デシルエステルなどが挙げられる。ピロリン酸ジアルキルエステルとしては上記ピロリン酸アルキルエステルのジエステルが挙げられ、ピロリン酸トリアルキルエステルとしては上記ピロリン酸アルキルエステルのトリエステルが挙げられる。
【0021】
トリポリリン酸アルキル(炭素数1〜12)エステル(A23)としては、トリポリリン酸モノアルキルエステル、トリポリリン酸ジアルキルエステル、トリポリリン酸トリアルキルエステルが含まれる。トリポリリン酸モノアルキルエステルとしては、トリポリリン酸メチルエステル、トリポリリン酸エチルエステル、トリポリリン酸プロピルエステル、トリポリリン酸2−プロピルエステル、トリポリリン酸ブチルエステル、トリポリリン酸2−ブチルエステル、トリポリリン酸t−ブチルエステル、トリポリリン酸ペンチルエステル、トリポリリン酸ヘキシルエステル、トリポリリン酸シクロヘキシルエステル、トリポリリン酸オクチルエステル、トリポリリン酸ノニルエステル、トリポリリン酸デシルエステルなどが挙げられる。トリポリリン酸ジアルキルエステルとしては上記トリポリリン酸アルキルエステルのジエステルが挙げられ、トリポリリン酸トリアルキルエステルとしては上記トリポリリン酸アルキルエステルのトリエステルが挙げられる。
【0022】
上記(A21)〜(A23)の塩としては、前述の(A1)で挙げた塩と同様のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩及び4級アンモニウム塩が挙げられる。
塩としては、(A21)〜(A23)が含有する酸基が複数の場合は、酸基の全てが塩になっていてもよく、酸基の一部が塩になっていてもよい。
【0023】
糖リン酸エステル及びその塩(A3)としては、アデノシン3リン酸(ATP)、アデノシン2リン酸(ADP)、アデノシン1リン酸(AMP)及び環状アデノシンモノリン酸(c−AMP)並びにそれらのナトリウム塩、カリウム塩、トリエチルアミン塩、トリエタノールアミン塩などが挙げられる。
【0024】
リン含有化合物(A)のうち、タンパク質の凝集低減及び/又は活性タンパク質の収量向上の観点から、(A1)、(A21)及び(A3)が好ましく、さらに好ましいのは、リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、アデノシン3リン酸、アデノシン2リン酸、アデノシン1リン酸及びそれらの塩、メチルホスホン酸アルキルエステル及びエチルホスホン酸アルキルエステルである。
【0025】
リフォールディング工程において、系中の(A)の濃度は、タンパク質の凝集低減及び/又は活性タンパク質の収量向上の観点から、0.1〜6モル/Lが好ましく、さらに好ましくは0.2〜6モル/Lである。
【0026】
ここで系とは、水、タンパク質、変性剤及びリフォールディング剤が混合された状態を指す。系中の濃度とは、水、タンパク質、変性剤及びリフォールディング剤の混合溶液の容量又は重量に対するリフォールディング剤の濃度を指し、以下の記載において同様である。
なお、変性剤とは、ミスフォールディング状態のタンパク質の3次元構造を解きほぐすための薬剤のことを指し、タンパク質の水素結合及びジスルフィド結合を切断する物質が用いられる。具体的には6モル/L塩酸グアニジン水溶液や8モル/L尿素水溶液が挙げられる。ジスルフィド結合を完全に切断するためにメルカプトエタノールやジチオスレイトール等を添加して使用しても良い。
【0027】
本発明のリフォールディング剤(I)における必須成分である非イオン性界面活性剤(B)としては、高級アルコールのアルキレンオキサイド(以下、AOと略記する。)付加物(B1)、炭素数6〜24のアルキル基を有するアルキルフェノールのAO付加物(B2)、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド(以下、EOと略記する。)付加物(B3)、ポリエチレングリコールプロピレンオキサイド(以下、POと略記する。)付加物(B4)、脂肪酸AO付加物(B5)、及び多価アルコール型非イオン性界面活性剤(B6)などが含まれる。
【0028】
ここでAOとは、アルキレンオキサイドを指し、具体的にエチレンオキサイド(EO)、プロピレンオキサイド(PO)及びブチレンオキサイド等が挙げられる。
【0029】
高級アルコールのAO付加物(B1)としては、炭素数8〜24の高級アルコール(デシルアルコール、ドデシルアルコール、ヤシ油アルキルアルコール、オクタデシルアルコール及びオレイルアルコールなど)のEO1〜20モル付加物などや、同じく炭素数8〜24の高級アルコールのPO1〜40モル付加物などが挙げられる。タンパク質の凝集及び/又はタンパク質の収量向上の観点で、炭素数8〜24の高級アルコールのEO1〜20モル付加物が好ましく、さらに好ましくはオレイルアルコールのEO18モルである。
【0030】
アルキルフェノールのAO付加物(B2)としては、炭素数7〜36のアルキルフェノール(ノニルフェノール及びセチルフェノールなど)のEO1〜40モル付加物などや、同じく炭素数7〜36のアルキルフェノールのPO1〜40モル付加物などが挙げられる。タンパク質の凝集及び/又はタンパク質の収量向上の観点で、炭素数7〜36のアルキルフェノールのEO1〜40モル付加物が好ましく、Triton−X100、Triton−X300などが容易に入手できる。
【0031】
ポリプロピレングリコールEO付加物(B3)としては、プルロニック型界面活性剤が挙げられ、プロピレンオキシドの繰り返し単位が10〜100個のポリプロピレングリコールのEO2〜40モル付加物が挙げられる。タンパク質の凝集防止及び/又はタンパク質の収率向上の観点で、プロピレンオキシドの繰り返し単位が20〜50個のポリプロピレングリコールEO10モル付加物、プロピレンオキシドの繰り返し単位が20〜50個のポリプロピレングリコールEO25モル付加物が好ましい。
【0032】
ポリエチレングリコールPO付加物(B4)としては、エチレンオキシドの繰り返し単位が10〜100個のポリエチレングリコールのPO2〜20モル付加物が挙げられ、タンパク質の凝集防止及び/又はタンパク質の収率向上の観点で、エチレンオキシドの繰り返し単位が10〜50個のポリエチレングリコールPO10モル付加物が好ましい。
【0033】
脂肪酸AO付加物(B5)としては、炭素数8〜24の高級脂肪酸(ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸など)のEO1〜25モル付加物などが挙げられる。タンパク質の凝集防止及び/又はタンパク質の収率向上の観点で、ラウリル酸EO10モル付加物、ステアリン酸EO20モル付加物及びオレイン酸EO20モル付加物が好ましい。
なお(B5)は、オキシカルボニル基含有化合物(C)と併用する際には(C)として取り扱い、それ以外の場合には(B5)として取り扱うものとする。
【0034】
多価アルコール型非イオン性界面活性剤(B6)としては、分子内に水酸基を2個以上含むアルコールのEO付加物等が挙げられる。タンパク質の凝集防止及び/又はタンパク質の収率向上の観点で、ソルビタンアルキルエステルEO6〜40モル付加物やグリセリンアルキルエステルEO2〜40モル付加物が好ましく、さらに好ましくはソルビタンアルキルエステルEO6〜40モル付加物であり、TWEEN20、TWEEN40、TWEEN60、TWEEN80などが容易に入手できる。
【0035】
これらの中で、タンパク質の凝集防止の観点で、高級アルコールのAO付加物(B1)、及び多価アルコールのAO付加物(B6)が好ましく、さらに好ましくは(B1)である。
好ましい具体例としては、炭素数8〜24の高級アルコール(オレイルアルコール、デシルアルコール、ドデシルアルコール、ヤシ油アルキルアルコール、オクタデシルアルコールなど)のEO1〜20モル付加物;ソルビタンアルキルエステルEO付加物などが挙げられる。
【0036】
リフォールディング剤(I)を使用するリフォールディング工程において、タンパク質の凝集防止の観点から、系中の非イオン性界面活性剤(B)の濃度は、0.001〜10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.01〜1重量%である。
【0037】
リフォールディング工程において系中の(B)の濃度(重量%)に対する(A)の濃度(重量%)の比率{(A)の濃度/(B)の濃度}は、タンパク質の凝集防止の観点から、0.05〜50,000(重量%/重量%)が好ましく、さらに好ましくは1〜5,000(重量%/重量%)である。
【0038】
本発明のリフォールディング剤(I)において、チオール基含有アミノ酸、チオール基含有ペプチド及びこれらのチオール基同士がジスルフィド結合で結合した化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(T)を必須成分とする。
【0039】
チオール基含有アミノ酸としては、チオール基を有するアミノ酸であれば特に限定はなく、具体的には、システインが含まれる。タンパク質の凝集防止及びタンパク質の収率向上の観点から、システインが好ましい。
【0040】
本発明において、チオール基含有ペプチドとは、チオール基を少なくとも1個有するペプチドを意味する。チオール基の個数は、タンパク質の凝集防止及びタンパク質の収量向上の観点から、1〜3個が好ましく、さらに好ましくは1〜2個であり、最も好ましくは1個である。
本発明において、ペプチドとはアミノ酸数が2〜50個のポリペプチドを意味する。ペプチドのアミノ酸数は、タンパク質のリフォールディング効率の観点から、2〜50個が好ましく、さらに好ましくは2〜10個であり、最も好ましくは3個である。
【0041】
チオール基含有ペプチドとしては、チオール基含有アミノ酸及びその他のアミノ酸を構成アミノ酸とするペプチドである。
チオール基含有アミノ酸としては、チオール基を有するアミノ酸であれば特に限定はなく、具体的にはシステインが含まれる。
【0042】
その他のアミノ酸としては、グルタミン酸、グリシン、アラニン、メチオニン、アスパラギン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、セリン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファン等が含まれる。これらのアミノ酸のうち、タンパク質のリフォールディング効率の観点から、グルタミン酸、グリシン、アスパラギン酸及びアラニンが好ましく、さらに好ましくはグルタミン酸及びグリシンである。
【0043】
チオール基含有ペプチドの構成アミノ酸として、チオール基含有アミノ酸は少なくとも1個含有することが必要であり、タンパク質の凝集防止及びタンパク質の収量向上の観点から、1〜3個有することが好ましく、さらに好ましくは1〜2個であり、最も好ましくは1個である。複数個のチオール基含有アミノ酸を含有する場合、これらは同一のチオール基含有アミノ酸であっても異なっていてもよい。
【0044】
チオール基含有ペプチドの構成アミノ酸として、その他のアミノ酸を複数個含有する場合、これらは同一のアミノ酸であっても異なっていてもよい。
【0045】
チオール基含有ペプチドのアミノ酸配列として、チオール基含有アミノ酸は、どの位置に含有されていてもよい。タンパク質の凝集防止及びタンパク質の収量向上の観点から、チオール基含有アミノ酸は、ペプチドのアミノ酸配列の両末端より内側に含有されていることが好ましい。
【0046】
チオール基含有ペプチドの具体例としては、還元型グルタチオンが含まれる。
【0047】
これらのチオール基同士がジスルフィド結合で結合した化合物とは、上記のチオール基含有アミノ酸又はチオール基含有ペプチド同士が、その含有するチオール基同士でジスルフィド結合した化合物を意味する。結合するチオール基含有アミノ酸及びチオール基含有ペプチドとしては、異なったチオール基含有アミノ酸及びチオール基含有ペプチドであってもよいが、タンパク質の凝集防止及びタンパク質の収量向上の観点から、同一のチオール基含有アミノ酸及びチオール基含有ペプチドを結合させることが好ましい。
チオール基同士のジスルフィド結合は、チオール基含有ペプチド又はチオール基含有ペプチドが、一分子に複数のチオール基を有する場合、分子内でジスルフィド結合が形成した分子でもよいし、2分子間でジスルフィド結合が形成した化合物でもよい。タンパク質の凝集防止及びタンパク質の収量向上の観点から、2分子間でジスルフィド結合が形成した化合物が好ましい。
【0048】
チオール基同士がジスルフィド結合で結合した化合物としては、タンパク質の凝集防止及びタンパク質の収率向上の観点から、酸化型グルタチオン及びシスチンが好ましく、さらに好ましくは酸化型グルタチオンである。
【0049】
化合物(T)としては、タンパク質の凝集防止及びタンパク質の収量向上の観点から、酸化型グルタチオン、還元型グルタチオン、システイン及びシスチンが好ましく、さらに好ましくは酸化型グルタチオン及び還元型グルタチオンである。
【0050】
化合物(T)は、タンパク質の凝集防止及びタンパク質の収量向上の観点から2種以上の併用が好ましく、チオール基含有アミノ酸又はチオール基含有ペプチドと、これらのチオール基同士がジスルフィド結合で結合した化合物との併用が好ましい。具体的には、酸化型グルタチオンと還元型グルタチオンとの併用、及びシステインとシスチンとの併用などが挙げられ、最も好ましくは酸化型グルタチオンと還元型グルタチオンとの併用である。
【0051】
本発明のリフォールディング剤(I)中における化合物(T)の合計濃度は0.00001〜0.1(重量%)であり、酸化型グルタチオン又は還元型グルタチオンの場合、タンパク質の凝集防止及び活性収率向上の観点から、好ましくは0.0001〜0.1であり、さらに好ましくは0.001〜0.1である。
【0052】
本発明のリフォールディング剤(I)中における酸化型グルタチオンと還元型グルタチオンの重量比(酸化型グルタチオン/還元型グルタチオン)は、タンパク質の活性収率向上の観点から、0.01〜10が好ましく、0.05〜5がさらに好ましく、最も好ましくは 0.1〜2である。
【0053】
リフォールディング工程において系中の(A)の濃度(重量%)に対する(T)の濃度(重量%)の比率{(T)の濃度/(A)の濃度}は、タンパク質の凝集防止の観点から、0.000001〜0.01(重量%/重量%)が好ましく、さらに好ましくは0.00001〜0.005(重量%/重量%)である。
【0054】
リフォールディング工程において系中の(B)の濃度(重量%)に対する(T)の濃度(重量%)の比率{(T)の濃度/(B)の濃度}は、タンパク質の凝集防止の観点から、0.00001〜10(重量%/重量%)が好ましく、さらに好ましくは0.0001〜5(重量%/重量%)である。
【0055】
本願の第2の発明のリフォールディング剤(II)は、オキシカルボニル基含有化合物(C)と、非イオン性界面活性剤(B)と、化合物(T)を必須成分とし、このオキシカルボニル基含有化合物(C)はカルボキシル基、カルボキシレートアニオン基及びエステル基からなる群から選ばれる1種以上の基を有する化合物である。
このオキシカルボニル基含有化合物(C)は、いずれも分子内にオキシカルボニル基(−COO−)を有する。
【0056】
オキシカルボニル基含有化合物(C)としては、分子内に少なくとも1個のカルボキシル基(−COOH)もしくは少なくとも1個のカルボキシレートアニオン基(−COO−)を有する化合物(C1)、並びに、分子内に少なくとも1個のエステル基(−COOR)を有する化合物(C2)が挙げられる。なお、これらのオキシカルボニル基と水酸基を同時に有する乳酸等のオキシカルボン酸も、本発明のオキシカルボニル基含有化合物(C)に含まれる。
【0057】
分子内に少なくとも1個のカルボキシル基もしくはカルボキシレートアニオン基を有する化合物(C1)としては、ポリオキシアルキレン基を分子内に有しない通常のカルボン酸(C11)、ポリオキシアルキレン基含有カルボン酸(C12);及びそれらの塩が挙げられる。
【0058】
カルボン酸(C11)としては、炭素数1〜36(カルボニル基の炭素原子も含む。以下同様)の脂肪族カルボン酸(C111)及び炭素数7〜36の芳香族カルボン酸(C112)等が挙げられる。
【0059】
脂肪族カルボン酸(C111)としては、炭素数1〜36の脂肪族飽和モノカルボン酸(蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ベラルゴン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、2−エチルヘキサン酸など);炭素数3〜36の脂肪族不飽和モノカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、オレイン酸など);炭素数3〜36の脂肪族ヒドロキシモノカルボン酸(グリコール酸、乳酸、酒石酸、グルコン酸など);炭素数2〜36の脂肪族飽和ジカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸など)及びそれらのモノアルキルエステル;炭素数4〜36の脂肪族不飽和ジカルボン酸(マレイン酸、フマール酸、イタコン酸など);並びに、3価以上(好ましくは3〜12価)の脂肪族多価カルボン酸(クエン酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸など);などが挙げられる。
【0060】
芳香族カルボン酸(C112)としては、炭素数7〜36の芳香族モノカルボン酸(安息香酸、桂皮酸、ヒドロキシ安息香酸など);炭素数8〜36の芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸など);炭素数9〜36の芳香族トリカルボン酸及びテトラカルボン酸(トリメリット酸、ピロメリット酸など);芳香族ヒドロキシカルボン酸(サリチル酸等)等が挙げられる。
【0061】
カルボン酸(C11)としては、さらに、上記のジカルボン酸又は3価以上の多価カルボン酸の部分アルキル(アルキル基としては炭素数1〜12のもの)エステル(シュウ酸モノメチル、コハク酸モノメチル、マレイン酸モノメチル、シュウ酸モノエチル、クエン酸モノメチル、クエン酸ジメチルなど)が挙げられる。
【0062】
ポリオキシアルキレン基含有カルボン酸(C12)としては、一般式(2)で示されるエーテルカルボン酸化合物が挙げられる。
【0063】
R1−O−(R2O)p−R3COOH (2)
(式中、R1は炭素数1〜36の炭化水素基、R2は炭素数2〜4のアルキレン基、R3は炭素数1〜3のアルキレン基、pは1〜50の整数を表す。)
【0064】
R1は炭素数1〜36の炭化水素基であって、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、2−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などが挙げられる。
なお、R1の水素の一部が水酸基で置換されていてもよい。
R2は、炭素数2〜4のアルキレン基であって、エチレン基、1,2−プロピレン基、1,3−プロピレン基、1,2−ブチレン基、1,4−ブチレン基などが挙げられる。
R3は、炭素数1〜3のアルキレン基であって、メチレン基、エチレン基、1,3−プロピレン基、1,2−プロピレン基が挙げられる。pは1〜50の整数であって、タンパク質の収率向上の観点から、1〜20が好ましく、さらに好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜4である。
【0065】
エーテルカルボン酸の具体例としては、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンオクチルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンノニルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンデシルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンドデシルエーテル酢酸、ポリオキシプロピレンヘキシルエーテル酢酸、ポリオキシプロピレンオクチルエーテル酢酸、ポリオキシプロピレンノニルエーテル酢酸、ポリオキシプロピレンデシルエーテル酢酸、ポリオキシプロピレンドデシルエーテル酢酸などが挙げられる。
なお、エーテルカルボン酸は、高級アルコールにアルキレンオキサイドを付加した後、モノクロルカルボン酸を反応させて製造することができる。
【0066】
分子内に少なくとも1個のカルボキシレートアニオン基を有する化合物(C1)としては、カルボン酸(C11)又はポリオキシアルキレン基含有カルボン酸(C12)の塩も含まれる。
塩としては、(A1)で挙げた塩と同様のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、及び4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0067】
カルボン酸(C11)の塩の具体例としては、上記の炭素数1〜36の脂肪族飽和モノカルボン酸塩(ギ酸ナトリウム、ギ酸アンモニウム、ギ酸グアニジウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、酢酸グアニジウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸アンモニウム、プロピオン酸グアニジウム、酪酸ナトリウム、カプロン酸ナトリウムなど);炭素数3〜36の脂肪族不飽和モノカルボン酸(アクリル酸ナトリウムなど);炭素数3〜36の脂肪族ヒドロキシモノカルボン酸塩(グリコール酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、乳酸アンモニウム、乳酸グアニジウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酒石酸アンモニウム、酒石酸グアニジウム、グルコン酸ナトリウムなど);炭素数2〜36の脂肪族飽和ジカルボン酸塩(シュウ酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、グルタル酸ナトリウムなど);炭素数4〜36の脂肪族不飽和ジカルボン酸塩(マレイン酸ナトリウムなど);上記のジカルボン酸又は3価以上の多価カルボン酸の部分アルキルエステルの塩(シュウ酸モノメチルナトリウム、コハク酸モノメチルナトリウム、マレイン酸モノメチルカリウム、シュウ酸モノエチルナトリウム、クエン酸モノメチルナトリウム、クエン酸ジメチルナトリウムなど)が挙げられる。
【0068】
ポリオキシアルキレン基含有カルボン酸(C12)の塩の具体例としては、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンデシルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシプロピレンヘキシルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシプロピレンオクチルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシプロピレンノニルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシプロピレンデシルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシプロピレンドデシルエーテル酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0069】
本発明のオキシカルボニル基含有化合物(C)のうちのもう1つの、分子内に少なくとも1個のエステル基を有する化合物(C2)としては、カルボン酸アルキルエステル(C21)、カルボン酸のアルキレンオキサイド付加物(C22)などが含まれる。
【0070】
カルボン酸アルキルエステル(C21)を構成するカルボン酸としては、前述の分子内に少なくとも1個のカルボキシル基もしくはカルボキシレートアニオン基を有する化合物(C1)として例示したのと同様のカルボン酸が挙げられる。
また、アルキルエステル基を構成するアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、2−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などの炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐の脂肪族アルキル基が挙げられる。
【0071】
カルボン酸アルキルエステル(C21)の具体例としては、モノカルボン酸アルキルエステル(蟻酸メチル、酢酸メチル、蟻酸エチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ステアリン酸メチル及びステアリン酸n−ブチルなど);ジカルボン酸ジアルキルエステル(シュウ酸ジメチル、コハク酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、コハク酸ジエチル及びアジピン酸ジメチルなど);3価以上の脂肪族多価カルボン酸の全てのカルボキシル基がエステル化されているもの(クエン酸トリメチル及びエチレンジアミン四酢酸テトラメチルなど)などが挙げられる。
【0072】
カルボン酸のアルキレンオキサイド付加物(C22)としては、前述の(C1)で挙げたカルボン酸の炭素数2〜4のアルキレンオキサイド1〜50モル付加物などが挙げられる。
アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドが挙げられる。
【0073】
カルボン酸のアルキレンオキサイド付加物の具体例としては、モノカルボン酸のEO付加物(ギ酸EO1〜10モル付加物、酢酸EO1〜10モル付加物、プロピオン酸EO10モル付加物、酪酸EO1〜10モル付加物、カプロン酸EO2〜20モル付加物、ラウリル酸EO1〜20モル付加物など);オキシカルボン酸のEO付加物(グリコール酸EO1〜20モル付加物、乳酸EO1〜20モル付加物、酒石酸PO1〜5モル付加物など);脂肪族多価カルボン酸のEO付加物(シュウ酸EO1〜20モル付加物、マロン酸EO1〜20モル付加物、コハク酸EO1〜20モル付加物、グルタル酸EO1〜20モル付加物、クエン酸EO1〜20モル付加物、マレイン酸EO1〜20モル付加物など);芳香族多価カルボン酸のEO付加物(フタル酸EO1〜30モル付加物、テレフタル酸EO1〜30モル付加物など);が挙げられる。
【0074】
これら化合物(C)のうち、タンパク質の凝集防止及び/又はタンパク質の収率向上の観点から、(C1)及びこの塩が好ましく、さらに好ましくは脂肪族カルボン酸(C11)及びこの塩、特に好ましくは炭素数1〜8の脂肪族カルボン酸(例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、酒石酸)及びこの塩である。
【0075】
リフォールディング工程において、系中の(C)の濃度は、タンパク質の凝集防止及び/又はタンパク質の収率向上の観点から、0.001〜6モル/Lが好ましく、さらに好ましくは0.01〜6モル/Lである。
【0076】
本発明のリフォールディング剤(II)における必須成分の非イオン性界面活性剤(B)は、前述のリフォールディング剤(I)で示した非イオン性界面活性剤(B)と同様のものが使用でき、好ましいものも同様である。
【0077】
リフォールディング剤(II)を使用するリフォールディング工程において、系中の(B)の濃度は、タンパク質の凝集防止の観点から、0.001〜10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.01〜1重量%である。
【0078】
リフォールディング工程において系中の(B)の濃度に対する(C)の濃度の比率{(C)の濃度/(B)の濃度}は、タンパク質の凝集防止の観点から、0.01〜60,000(重量%/重量%)が好ましく、さらに好ましくは1〜6,000(重量%/重量%)である。
【0079】
本発明のリフォールディング剤(II)における必須成分の化合物(T)は、前述のリフォールディング剤(I)で示した化合物(T)と同様のものが使用でき、好ましいものも同様である。
【0080】
リフォールディング工程において系中の(C)の濃度(重量%)に対する(T)の濃度(重量%)の比率{(T)の濃度/(C)の濃度}は、タンパク質の凝集防止の観点から、0.00001〜10(重量%/重量%)が好ましく、さらに好ましくは0.0001〜5(重量%/重量%)である。
【0081】
本発明のリフォールディング剤(I)又は(II)には、必要に応じて水、塩、及び緩衝剤等を含有させることもできる。
【0082】
水を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、化合物リン含有化合物(A)、非イオン性界面活性剤(B)並びに化合物(T)の合計重量、又はオキシカルボニル基含有化合物(C)、(B)及び(T)の合計重量に対し、操作性の観点から、100〜10,000重量%が好ましく、さらに好ましくは200〜5,000重量%である。
【0083】
塩としては、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カリウム等が挙げられ、その含有量は、化合物(A)、(B)及び(T)の合計重量、または(C)、(B)及び(T)の合計重量に対し、タンパク質の収率向上の観点から、1〜10重量%が好ましく、さらに好ましくは1〜3重量%である。
【0084】
緩衝剤としては、トリスバッファー、HEPESバッファー等が挙げられ、その含有量は、化合物(A)、(B)及び(T)の合計重量、または(C)、(B)及び(T)の合計重量に対し、タンパク質の収率向上の観点から、1〜30重量%が好ましく、さらに好ましくは1〜10重量%である。
【0085】
対象とするタンパク質は、分子内にS−S結合を含むタンパク質(例えばリゾチームなど)である場合が本発明の効果が顕著であるので好ましい。その場合リフォールディングされるものは塩酸グアニジンまたは尿素と共に、さらに2−メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、シスチン、チオフェノール等の還元剤を加えてアンフォールディングされたタンパク質である。
【0086】
本発明におけるタンパク質は分子内にジスルフィド結合を含むタンパク質(P1)と分子内にジスルフィド結合を含まないタンパク質(P2)に分類できる。
分子内にジスルフィド結合を含むタンパク質(P1)として、リゾチーム、βラクトグロブリン、アルカリ性フォスファターゼ、リボヌクレアーゼ、トリプシン、キモトリプシン、インターフェロン、インスリン、ナトリウム利尿ペプチド及び抗体等が挙げられる。
分子内にジスルフィド結合を含まないタンパク質(P2)として、リパーゼ、ホスホリパーゼ及び2〜10個のアミノ酸で構成されたペプチド等が挙げられる。
これらのうち、本発明の対象となるタンパク質としては、本発明の効果が顕著である点から、分子内にS−S結合を含むタンパク質(P1)が好ましい。分子内のS−S結合の個数はタンパク質の凝集に大きく関与し、一般的に個数が大きいほど凝集しやすい。本発明の対象となるタンパク質分子内のS−S結合の数は1個〜10個が好ましく、さらに好ましくは2個〜4個である。具体的にはリゾチーム(4個)、βラクトグロブリン(2〜3個)、トリプシン(2個)等が挙げられる。
【0087】
本発明におけるタンパク質の分子量は1,000〜300,000であり、リフォールディングのしやすさの観点から好ましくは10,000〜250,000である。ここで分子量とはSDSゲル電気泳動法によって推定された分子量を指す。
一般に分子量の大きさとリフォールディングのしにくさには相関があり、分子量の大きなタンパク(分子量10,000以上程度)になるとリフォールディングが著しく困難になるとされている。本発明のリフォールディング方法はリフォールディング効果が優れるので、分子量10,000以上の高分子量タンパク質に対しても非常に有効な方法となる。
【0088】
本発明における「アンフォールディング」とは、タンパク質の水素結合、ジスルフィド結合を切断し、タンパク質本来の3次元構造を崩すことを指し、タンパク質変性剤をインクルージョンボディに作用させタンパク質を変成させ可溶化することでおこなわれる。
【0089】
本発明における「リフォールディング工程」とは、アンフォールディングされたタンパク質とリフォールディング剤とを撹拌・混合する工程であり、その後、リフォールディングをより充分に進めるために必要により一定時間静置することも含まれる。アンフォールディングされたタンパク質とリフォールディング剤を撹拌・混合する際には、ほとんど不均一部分が無くなるまで撹拌混合することが好ましい。静置時間は特に限定されないが、例えば1〜50時間である。また処理工程時の温度は、特に限定されないが、例えば4〜30℃である。
【0090】
本発明のリフォールディング剤を使用してリフォールディングする工程は、リフォールディング剤で処理する工程において、さらにpH調整剤(D)、タンパク質安定化剤(E)を使用してもよい。
pH調整剤(D)としては、Tris(N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノエタンスルホン酸)、HEPES(N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸)などが挙げられる。
【0091】
なお、従来のリン酸緩衝剤(例えば、リン酸1水素2ナトリウム+塩酸水溶液、またはリン酸2水素1ナトリウム+水酸化ナトリウム水溶液)を使用する場合は、リン酸緩衝剤がリン酸塩であるため本発明における(A)と重複する。しかし、従来のpH調整が目的で使用するリン酸緩衝剤の添加濃度の上限は高くても0.05モル/Lであり、本発明のリフォールディング剤としてのリン系化合物(A)と従来のpH調整が目的のリン酸緩衝剤とは使用する際の濃度が明確に異なる。従来のリン酸緩衝剤は、本発明においては、リン含有化合物(A)として取り扱う。
【0092】
一般的にリフォールディング操作はpH7〜8で行われ、pH調整剤(D)の使用量は、この範囲に調整するためであれば、特に限定されないが、(A)又は(C)の重量に対し、タンパク質の凝集防止の観点から、20重量%以下が好ましく、さらに好ましくは0.001〜20重量%、次にさらに好ましくは0.01〜20重量%である。
【0093】
タンパク質安定化剤(E)としては、ポリオール、金属イオン、キレート試薬などが挙げられる。
ポリオールとしてはグリセリン、ブドウ糖、ショ糖、エチレングリコール、ソルビトール及びマンニトールなどが挙げられる。
金属イオンとしてはマグネシウムイオン、マンガンイオン及びカルシウムイオンなどの2価金属イオンが挙げらる。
キレート試薬としてはエチレンジアミン4酢酸(EDTA)及びグリコールエーテルジアミン−N,N,N’,N’−4酢酸(EGTA)などが挙げられる。
【0094】
タンパク質安定化剤(E)の使用量は、(A)又は(C)の重量に対し、タンパク質の凝集防止及びタンパク質の収率向上の観点から、10重量%以下が好ましく、さらに好ましくは0.001〜10重量%、次にさらに好ましくは0.01〜5重量%である。
【0095】
本発明のリフォールディング方法において、アンフォールディングされたタンパク質の系中の濃度は、0.2〜30mg/mLが好ましく、さらに好ましくは0.2〜20mg/mL、特に好ましくは0.25〜5mg/mLである。0.2mg/mL以上であればタンパク質の生産効率の観点から好ましく、30mg/mL以下であれば系内の粘度が高くなりすぎることが少ないため生産効率が低下しないので好ましい。
また、(A)又は(C)の、タンパク質の重量に対する使用量(重量)は、タンパク質の凝集防止及びタンパク質の収率向上の観点から、タンパク質1重量部に対して5〜2,000重量部が好ましく、さらに好ましくは10〜1,000重量部である。
【0096】
本発明のタンパク質の製造方法は、上記のリフォールディング剤でリフォールディングする工程を含むタンパク質の製造方法である。
本発明のタンパク質の製造方法で得られるタンパク質は、上記のリフォールディング剤を使用して得られるため、リフォールディング工程中の凝集が少なく、収率が著しく向上する。
本発明のタンパク質の産生方法としては、例えば、以下のような順序の工程による産生方法が挙げられる。
(1)タンパク質の培養工程:大腸菌などのタンパク質生産体に酵素又は組み換えタンパク質を培養させる。
(2)溶菌工程:溶菌剤などの使用によってタンパク質生産体内のインクルージョンボディを取り出す。
(3)アンフォールディング工程:インクルージョンボディ懸濁液(例えば10mgタンパク質/mL)に0.5モル/L以上のアンフォールディング剤及び20ミリモル/L以下の還元剤を加え軽くかきまぜ室温で数時間放置する。
(4)リフォールディング工程:アンフォールディングされたタンパク質溶液に、(I)又は(II)を加えて軽くかき混ぜ、室温で1晩放置しリフォールディングを行う。
(5)分離・取り出し工程:懸濁液から目的とするリフォールディングされたタンパク質をカラムクロマトグラフィーなどによって分離して取り出す。
【0097】
上記の(1)のタンパク質の培養工程におけるタンパク質生産体としては、以下の細菌細胞、エシェリヒア属菌及びバチルス属菌などが挙げられる。
細菌細胞としては、連鎖球菌属(streptococci)、ブドウ球菌属(staphylococci)、エシェリヒア属菌(Escherichia)、ストレプトミセス属菌(streptomyces)及びバチルス属菌(Bacillus)細胞、真菌細胞:例えば酵母細胞及びアスペルギルス属(Aspergillus)細胞、昆虫細胞:例えばドロソフィラS2(DrosophilaS2)、スポドプテラSf9(SpodopteraSf9)細胞、動物細胞:例えば、CHO、COS、Hela、C127、3T3、BHK、293及びボウズ(Bows)メラノーマ細胞、並びに植物細胞等が挙げられる。
エシェリヒア属菌(Escherichia)としては、大腸菌(E.coli)K12DH1〔プロシージング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.)60巻、160頁(1968年)を参照〕、JM103〔ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research)9巻、309頁(1981年)を参照〕、JA221〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)120巻、517頁(1978年)を参照〕、HB101〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)41巻、459頁(1969年)を参照〕、C600〔ジェネティックス(Genetics)39巻、440頁(1954年)を参照〕、MM294〔ネイチャー(Nature)217巻、1110頁(1968年)を参照〕などが挙げられる。
バチルス属菌(Bacillus)としては、枯草菌(Bacillussubtilis)MI114〔ジーン、24巻、255頁(1983年)を参照〕、207−21〔ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Journal of Biochemistry)95巻、87頁(1984年)を参照〕などが挙げられる。
【0098】
組み換えタンパク質の培養方法として、目的タンパク質をコードするcDNAを含有する発現ベクターは、
(i)目的タンパク産生細胞からメッセンジャーRNA(mRNA)を分離し、該mRNAから単鎖のcDNAを、次に二重鎖DNAを合成し、該相補DNAをファージまたはプラスミドに組み込む。
(ii)得られた組み換えファージ又はプラスミドで宿主を形質転換し、培養後、目的タンパクの一部をコードするDNAプローブとのハイブリダイゼーション、あるいは抗体を用いたイムノアッセイ法により目的とするDNAを含有するファージあるいはプラスミドを単離する。
(iii)その組み換えDNAから目的とするクローン化DNAを切りだし、該クローン化DNA又はその一部を発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することによって製造することができる。
その後、適当な方法により、宿主を発現ベクターで形質転換し培養する。培養は通常15〜43℃で3〜24時間行い、必要により通気、攪拌を加えることもできる。
【0099】
溶菌工程における溶菌方法としては、超音波による物理的破砕、リゾチーム等の溶菌酵素による処理、界面活性剤等の溶菌剤による処理などのいずれもが使用でき、生産性の観点から溶菌剤による処理が好ましく、有用タンパクを変性させないといった観点から特に特開2006−320313号公報記載の溶菌剤による処理が好ましい。
【0100】
タンパク質の分離・取り出し工程におけるカラムクロマトグラフィーに使用される充填剤としてはシリカ、デキストラン、アガロース、セルロース、アクリルアミド、ビニルポリマーなどが挙げられ、市販品ではSephadexシリーズ、Sephacrylシリーズ、Sepharoseシリーズ(以上、Pharmacia社)、Bio−Gelシリーズ(Bio−Rad社)等があり入手可能である。
【実施例】
【0101】
以下の実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0102】
製造例1 (アンフォールディング溶液の調製)
6モル/Lの塩酸グアニジン、10ミリモル/Lのジチオスレイトール、150ミリモル/Lの塩化ナトリウム、50ミリモル/Lのトリス緩衝液(pH=8)、1ミリモル/Lのエチレンジアミン4酢酸ナトリウムとなるようにそれぞれ加え、滅菌水で溶解し、アンフォールディング溶液を調製した。
【0103】
実施例1 (リフォールディング剤の調製1)
20mL容の滅菌済みバイアル瓶に、1.0モル/Lリン酸水素ナトリウム、0.10重量%ソルビタンモノオレエートEO付加物(「TWEEN80」:和光純薬製)、50ミリモル/Lのトリス緩衝液(pH=8)、0.005重量%の酸化型グルタチオン、0.005重量%の還元型グルタチオン(ともに和光純薬製)となるようにそれぞれ加え、イオン交換水で溶解しリフォールディング剤(R−1)を調製した。
{(R−1)中の化合物(T)の濃度=0.01重量%;酸化型グルタチオン重量/還元型グルタチオン重量=1}
【0104】
実施例2〜実施例25及び比較例1〜8
実施例1において、表1〜4に示す濃度とする以外は実施例1と同様にして、リフォールディング剤(R−2)〜(R−25)及び比較のリフォールディング剤(R’−1)〜(R’−8)を調整した。
【0105】
上記実施例1〜25及び比較例1〜8で調整したリフォールディング剤(R−1)〜(R−25)及び(R’−1)〜(R’−8)を表1〜4に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
【表3】

【0109】
【表4】

【0110】
実施例26
1.5mL容の滅菌済みエッペンドルフチューブに、2mgのリゾチーム(「塩化リゾチーム」ナカライテスク社製:以下、同様のものを使用)及び製造例1で調整したアンフォールディング溶液を1mL加えて、4℃で12時間放置しリゾチームをアンフォールディングさせた。
このアンフォールディングされたタンパク質溶液0.25mLに、実施例1で調整したリフォールディング剤(R−1)を0.75mL加えて、10℃で12時間放置してリフォールディングを行った。
【0111】
実施例27〜50及び比較例9〜16
実施例26において、(R−1)の代わりにそれぞれ(R−2)〜(R−25)及び(R’−1)〜(R’−8)を使用する以外は実施例26と同様におこないリフォールディングを行った。
【0112】
<リゾチームの凝集性の測定>
実施例26〜50及び比較例9〜16で得られたタンパク質溶液が入ったエッペンドルフチューブをそれぞれ遠心分離器(TOMY社製「PMC−060」)で3000rpmで10分遠心し、得られた上澄みの280nmにおける吸光度(A)を紫外可視分光光度計(島津製作所製、UV−2550)で測定した。また、製造例1に示したアンフォールディング液でリゾチームをアンフォールディングしたアンフォールディング液の280nmにおける吸光度(A’)を測定した。
【0113】
リフォールディング後の凝集防止率は以下の式を用いて算出した。
凝集防止率(%)=(A’×1)/(A×0.25)×100
【0114】
上記実施例26〜50及び比較例9〜16の凝集防止率を表5に示す。なお、凝集防止率は値が大きい程、凝集が防止できており優れていることを示す。
【0115】
<リゾチーム酵素活性の測定>
10mlの滅菌済み試験管に0.5重量%濃度の枯草菌溶液を3ml入れ、実施例26〜50又は比較例9〜16で得られたタンパク質溶液を10μlマイクロピペットで加えて軽くかき混ぜた。タンパク質を加えた直後の450nmにおける吸光度(A0)を紫外可視分光光度計(島津製作所製、UV−2550)で測定し、さらに(A0)を測定して5分後に5分後の吸光度(A5)を測定し、これらの数値から450nmにおける5分間の吸光度変化DA=A0−A5を算出した。
また、実施例26〜50及び比較例9〜16のリゾチーム濃度と同濃度の市販品「リゾチーム」で他に添加剤を加えないブランクの水溶液を調製し、これを用いて上記と同様に、450nmにおける5分間の吸光度変化(DAb)を算出した。
【0116】
リフォールディング後の酵素の活性収率は以下の式を用いて算出した。
活性収率(%)=(DA/DAb) ×100
【0117】
上記実施例26〜50及び比較例9〜16の活性収率を表5に示す。なお、活性収率は値が大きい程、活性があるタンパク質が多く得られており、優れていることを示す。
【0118】
【表5】

【0119】
実施例51
1.5mL容の滅菌済みエッペンドルフチューブに、2mgのβラクトグロブリン(和光純薬工業社製:以下、同様のものを使用)及び製造例1で調整したアンフォールディング溶液を1mL加えて、4℃で12時間放置しβラクトグロブリンをアンフォールディングさせた。
このアンフォールディングされたタンパク質溶液0.25mLに、実施例1で調整したリフォールディング剤(R−1)を0.75mL加えて、10℃で12時間放置してリフォールディングを行った。
【0120】
実施例52〜75及び比較例17〜24
実施例51において、(R−1)の代わりにそれぞれ(R−2)〜(R−25)及び(R’−1)〜(R’−8)を使用する以外は実施例51と同様におこないリフォールディングを行った。
【0121】
<βラクトグロブリンの凝集性の測定>
実施例51〜75及び比較例17〜24で得られたタンパク質溶液が入ったエッペンドルフチューブをそれぞれ遠心分離器(TOMY社製「PMC−060」)で3000rpmで10分遠心し、得られた上澄みの280nmにおける吸光度(A)を紫外可視分光光度計(島津製作所製、UV−2550)で測定した。また、製造例1に示したアンフォールディング液でβラクトグロブリンをアンフォールディングしたアンフォールディング液の280nmにおける吸光度(A’)を測定した。
【0122】
リフォールディング後の凝集防止率は以下の式を用いて算出した。
凝集防止率(%)=(A’×1)/(A×0.25)×100
【0123】
上記実施例51〜75及び比較例17〜24の凝集防止率を表6に示す。なお、凝集防止率は値が大きい程、凝集が防止できており優れていることを示す。
【0124】
<βラクトグロブリン巻き戻し率の測定>
リフォールディングをおこなったβラクトグロブリン溶液の215nmにおけるモル楕円率(Qr)をCDスペクトル(日本分光社製「JASCO J−820」)で測定した。また、リフォールディング前のアンフォールディングされたβラクトグロブリン溶液のモル楕円率(Qu)を同様に測定した。さらに試薬のβラクトグロブリン2mgをイオン交換水1mLに溶解させた溶液のモル楕円率(Q0)を測定した。
【0125】
リフォールディング後のβラクトグロブリンの巻き戻し収率は以下の式を用いて算出した。
巻き戻し収率(%)=(Qr−Qu)/(Q0−Qu) ×100
【0126】
上記実施例51〜75及び比較例17〜24の巻き戻し収率を表6に示す。なお、巻き戻し収率は値が大きい程、活性があるタンパク質が多く得られており、優れていることを示す。
【0127】
【表6】

【0128】
実施例76
1.5mL容の滅菌済みエッペンドルフチューブに、2mgのトリプシン(和光純薬工業社製:以下、同様のものを使用)及び製造例1で調整したアンフォールディング溶液を1mL加えて、4℃で12時間放置しトリプシンをアンフォールディングさせた。
このアンフォールディングされたタンパク質溶液0.25mLに、実施例1で調整したリフォールディング剤(R−1)を0.75mL加えて、10℃で12時間放置してリフォールディングを行った。
【0129】
実施例76〜100及び比較例25〜32
実施例75において、(R−1)の代わりにそれぞれ(R−2)〜(R−25)及び(R’−1)〜(R’−8)を使用する以外は実施例75と同様におこないリフォールディングを行った。
【0130】
<トリプシンの凝集性の測定>
実施例76〜100及び比較例25〜32で得られたタンパク質溶液が入ったエッペンドルフチューブをそれぞれ遠心分離器(TOMY社製「PMC−060」)で3000rpmで10分遠心し、得られた上澄みの280nmにおける吸光度(A)を紫外可視分光光度計(島津製作所製、UV−2550)で測定した。また、製造例1に示したアンフォールディング液でトリプシンをアンフォールディングしたアンフォールディング液の280nmにおける吸光度(A’)を測定した。
【0131】
リフォールディング後の凝集防止率は以下の式を用いて算出した。
凝集防止率(%)=(A’×1)/(A×0.25)×100
【0132】
上記実施例76〜100及び比較例25〜32の凝集防止率を表7に示す。なお、凝集防止率は値が大きい程、凝集が防止できており優れていることを示す。
【0133】
<トリプシンの酵素活性測定>
10mlの滅菌済み試験管に0.5重量%濃度のカゼイン溶液を3ml入れ、実施例76〜100又は比較例25〜32で得られたタンパク質溶液を10μlマイクロピペットで加えて軽くかき混ぜた。25℃で10分経過した後に、10%トリクロロ酢酸ナトリウム水溶液3mLを加え、20分静置した。遠心分離器(TOMY社製「PMC−060」)で3000rpmで10分遠心し、上澄み液1mLに、フォーリン試薬(和光純薬工業製)1mLを加え、25℃で20分静置した。この液の上澄みの562nmにおける吸光度(A10)を紫外可視分光光度計(島津製作所製、UV−2550)で測定した。また、カゼイン溶液を加える前にトリクロロ酢酸ナトリウム水溶液を加え、以降同様に実験を行い、上澄みの562nmにおける吸光度(A0)を測定し、これらの数値から562nmにおける吸光度変化DA=A10−A0を算出した。
また、実施例76〜100及び比較例9〜16のトリプシン濃度と同濃度の市販品「トリプシン」で他に添加剤を加えないブランクの水溶液を調製し、これを用いて上記と同様に、562nmにおける吸光度変化(DAb)を算出した。
【0134】
リフォールディング後のトリプシンの酵素活性収率は以下の式を用いて算出した。
酵素活性収率(%)=(DA/DAb) ×100
【0135】
上記実施例76〜100及び比較例25〜32の巻き戻し収率を表7に示す。なお、巻き戻し収率は値が大きい程、活性があるタンパク質が多く得られており、優れていることを示す。
【0136】
【表7】

【0137】
実施例101
1.5mL容の滅菌済みエッペンドルフチューブに、2mgのリパーゼ(和光純薬工業社製:以下、同様のものを使用)及び製造例1で調整したアンフォールディング溶液を1mL加えて、4℃で12時間放置しリパーゼをアンフォールディングさせた。
このアンフォールディングされたタンパク質溶液0.25mLに、実施例1で調整したリフォールディング剤(R−1)を0.75mL加えて、10℃で12時間放置してリフォールディングを行った。
【0138】
実施例102〜125及び比較例33〜40
実施例101において、(R−1)の代わりにそれぞれ(R−2)〜(R−25)及び(R’−1)〜(R’−8)を使用する以外は実施例101と同様におこないリフォールディングを行った。
【0139】
<リパーゼの凝集性の測定>
実施例101〜125及び比較例33〜40で得られたタンパク質溶液が入ったエッペンドルフチューブをそれぞれ遠心分離器(TOMY社製「PMC−060」)で3000rpmで10分遠心し、得られた上澄みの280nmにおける吸光度(A)を紫外可視分光光度計(島津製作所製、UV−2550)で測定した。また、製造例1に示したアンフォールディング液でリパーゼをアンフォールディングしたアンフォールディング液の280nmにおける吸光度(A’)を測定した。
【0140】
リフォールディング後の凝集防止率は以下の式を用いて算出した。
凝集防止率(%)=(A’×1)/(A×0.25)×100
【0141】
上記実施例101〜125及び比較例33〜40の凝集防止率を表8に示す。なお、凝集防止率は値が大きい程、凝集が防止できており優れていることを示す。
【0142】
<リパーゼの酵素活性測定>
10mlの滅菌済み試験管に0.01重量%濃度のp−ニトロフェニルアセテート溶液を3ml入れ、実施例101〜125又は比較例33〜40で得られたタンパク質溶液を10μlマイクロピペットで加えて軽くかき混ぜた。タンパク質を加えた直後の400nmにおける吸光度(A0)を紫外可視分光光度計(島津製作所製、UV−2550)で測定し、さらに(A0)を測定して5分後に5分後の吸光度(A5)を測定し、これらの数値から400nmにおける5分間の吸光度変化DA=A0−A5を算出した。
また、実施例101〜125及び比較例33〜40のリパーゼ濃度と同濃度の市販品「リパーゼ」で他に添加剤を加えないブランクの水溶液を調製し、これを用いて上記と同様に、400nmにおける5分間の吸光度変化(DAb)を算出した。
【0143】
リフォールディング後のリパーゼの酵素活性収率は以下の式を用いて算出した。
酵素活性収率(%)=(DA/DAb) ×100
【0144】
上記実施例101〜125及び比較例33〜40の巻き戻し収率を表8に示す。なお、巻き戻し収率は値が大きい程、活性があるタンパク質が多く得られており、優れていることを示す。
【0145】
【表8】

【0146】
表5によると、凝集防止率の値から、比較例9のリン含有化合物(A)のみや、比較例11のオキシカルボニル基含有化合物(C)のみではリゾチームの凝集を抑えることができない。また、比較例10で非イオン性界面活性剤(B)のみの使用や、比較例12〜13のように非イオン性界面活性剤(B)と組み合わせることで、リゾチームの凝集量は若干改善されるが依然として多い。また、比較例9〜16では、リゾチームがリフォールディングせず活性収率が低いことが表5からわかる。さらに、比較例14〜16のように(A)〜(C)をそれぞれ単独で酸化型グルタチオンや還元型グルタチオンと併用した場合でも、リゾチームの凝集は抑制できない、もしくは活性収率が低いことが分かる。
一方、化合物(T)と、(A)又は(C)と、(B)とを同時に含む実施例26〜50の本発明のリフォールディング剤は、タンパク質としてのリゾチームの凝集が起こりにくく、高収率でリフォールディングできることがわかる。さらに酸化型グルタチオンと還元型グルタチオンを併用するとさらに凝集が起こりにくく、収率もさらに向上することがわかる。
【0147】
同様のことが表6〜8でも見られ、本発明のリフォールディング剤は幅広くタンパク質に対して有効であることが分かる。特に、S−S結合を含むタンパク質(表5〜7)に対しては、S−S結合を含まないタンパク質(表8)に比べて、本発明の効果が顕著に表れている。すなわち、S−S結合を含むタンパク質(表5〜7)においては、比較例は凝集防止率及び活性収率又は巻き戻し収率が極めて低い値であるが、本発明の実施例では、それらが全て高い値となっている。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明のリフォールディング剤、及びタンパク質の製造方法を用いると、有用な各種のタンパク質を、凝集させること無く、高収率で、かつ効率よく産生することができる。
本発明のタンパク質産生方法で得られるタンパク質としては、酵素、組み換えタンパク質などが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンフォールディングされたタンパク質のリフォールディング剤であって、一般式(1)で示される基を有するリン含有化合物(A)と、非イオン性界面活性剤(B)と、チオール基含有アミノ酸、チオール基含有ペプチド及びこれらのチオール基同士がジスルフィド結合で結合した化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(T)とを必須成分とするリフォールディング剤(I)。
【化1】

【請求項2】
アンフォールディングされたタンパク質のリフォールディング剤であって、カルボキシル基、カルボキシレートアニオン基及びエステル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有するオキシカルボニル基含有化合物(C)と、非イオン性界面活性剤(B)と、チオール基含有アミノ酸、チオール基含有ペプチド及びこれらのチオール基同士がジスルフィド結合で結合した化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(T)とを必須成分とするリフォールディング剤(II)。
【請求項3】
化合物(T)が、酸化型グルタチオン及び/又は還元型グルタチオンである請求項1又は2に記載のリフォールディング剤。
【請求項4】
化合物(T)が、酸化型グルタチオン及び還元型グルタチオンである請求項1〜3のいずれかに記載のリフォールディング剤。
【請求項5】
酸化型グルタチオン及び還元型グルタチオンのリフォールディング剤(I)中の合計濃度が0.00001〜0.1(重量%)である請求項3又は4に記載のリフォールディング剤。
【請求項6】
酸化型グルタチオンと還元型グルタチオンの重量比(酸化型グルタチオン/還元型グルタチオン)が0.01〜10である請求項4又は5に記載のリフォールディング剤。
【請求項7】
タンパク質が、分子内にジスルフィド結合を含むタンパク質である請求項1〜6のいずれかに記載のリフォールディング剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のリフォールディング剤でタンパク質をリフォールディングする工程を含むタンパク質の製造方法。