説明

タンパク質の固定化方法

【課題】非特異的吸着が少なく安定したタンパク質固定化方法の提供。
【解決手段】タンパク質のC末端側にLPXTGで示されるアミノ酸配列を有するペプチドを導入し、該ペプチドが導入されたタンパク質を、ソルテースの存在下で固相担体と接触させ、該固相担体に結合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンパク質の固定化方法、特に酵素の固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素の固定化の手法として、従来より、酵素の反応性官能基を担体表面の反応し得る官能基と化学的に反応させて共有結合により結合することは行われているが、担体に対する酵素の結合部位が非特異的であるため、十分な活性発現率が得られないという問題があった。
【0003】
一方、タンパク質の部位特異的固定化の手法として、マルトース結合タンパク質(MBP)−アミロースやビオチン−アビジンなどのタンパク質のアフィニティーを利用した方法が知られているが、担体との結合は共有結合ではなく、より安定した固定化方法が望まれていた。
【0004】
タンパク質の安定した部位特異的固定化を志向して、酵素を利用したタンパク質の修飾法が検討されている。そのような修飾法として、グルタミン残基に特異的に修飾可能なトランスグルタミナーゼ(非特許文献1)、スプライシングタンパク質であるインテイン(非特許文献2)、翻訳後修飾のひとつであるC末端システイン残基へのプレニル化を触媒するファルネシル転移酵素(非特許文献3)などを用いた手法が報告されている。しかし、これらの手法では十分な特異性が得られなかったり、複雑な基質の合成を必要としたりしていた。
【0005】
ソルテース(Sortase)は、グラム陽性菌の表面に存在するトランスペプチダーゼであり、細胞内より分泌されてきた特定のタンパク質を細胞壁に担持する役割を担っている。ソルテースは分泌タンパク質のC末端領域にある共通配列を認識し、特定の部位で切断した後、基質タンパク質とアシル中間体を形成する。次に細胞壁前駆体であるRipid IIに含まれるペンタグリシンがアシルアクセプターとなってアミド結合を形成することにより、基質タンパク質が細胞壁に担持される(非特許文献4)。
【0006】
最近、Staphylococcus aureus由来ソルテースAの反応メカニズムを利用し、部位特異的にペプチド−ペプチド、タンパク質−ペプチドおよびタンパク質−タンパク質を結合する手法が報告された(非特許文献5)。しかし、これらの結合にはアシルアクセプターとして天然型のグリシンが1残基以上必要であった。また、最近、ソルテースを用いたグリシン残基を含まない非天然のアクセプターを利用した固定化方法が報告された(非特許文献6)。ここでは、ソルテースを利用して部位特異的に共有結合による固定化がなされていたが、固定化効率の評価はなく、使用した担体への非特異的な吸着が多いなどの問題点があった。
【0007】
【非特許文献1】Biochemistry 35 13072 1996, JACS 126 14013 2004
【非特許文献2】Angew.Chem.int.Ed 45 4286 2006
【非特許文献3】JACS 128 9274 2006
【非特許文献4】Microbiol.Mol.Biol.Rev. 70 192 2006
【非特許文献5】JACS 126 2670 2004
【非特許文献6】Bioconjugate Chem., 18 (2), 469−476, 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、非特異的吸着が少なく、より安定したタンパク質の固定化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
(1)LPXTG(Lはロイシン、Pはプロリン、Xは任意のアミノ酸、Tはスレオニン、Gはグリシンを表す)で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を、ソルテースの存在下で高分子多糖を含む固相担体と接触させ、該固相担体に結合させる工程を含むタンパク質の固定化方法;
(2)タンパク質の固定化方法であって、
該タンパク質のC末端側にLPXTG(Lはロイシン、Pはプロリン、Xは任意のアミノ酸、Tはスレオニン、Gはグリシンを表す)で示されるアミノ酸配列を導入する工程;および
該ペプチドが導入されたタンパク質を、ソルテースの存在下で高分子多糖を含む固相担体と接触させ、該固相担体に結合させる工程
を含む方法;
(3)ソルテースがStaphylococcus aureus由来ソルテースAである、上記(1)または(2)記載の方法;
(4)Xがリジンを表する、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法;
(5)前記タンパク質が生物活性を有する、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法;
(6)前記タンパク質が酵素である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法;
(7)前記タンパク質が酵素と他のタンパク質との融合タンパク質である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法;
(8)他のタンパク質がマルトース結合タンパク質である、上記(7)記載の方法;
(9)酵素が糖転移酵素である、上記(6)〜(8)のいずれかに記載の方法;
(10)糖転移酵素がβ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼまたはα−2,6−シアリルトランスフェラーゼである、上記(9)記載の方法;
(11)高分子多糖を含む固相担体が、その表面に1級アミノ基を有する、上記(1)〜(10)のいずれかに記載の方法。
(12)高分子多糖を含む固相担体がアガロース誘導体またはセルロース誘導体からなる、上記(11)記載の方法;
(13)上記(1)〜(12)のいずれかに記載の方法によって得られる、タンパク質固定化担体;
(14)式:R1−LPXT−CO−NH−Y
(式中、R1は任意のアミノ酸配列を表し、Lはロイシン、Pはプロリン、Xは任意のアミノ酸、Tはスレオニンを表し、Yは高分子多糖を含む固相担体を表す)
で示される、タンパク質固定化担体(ここで、式中の「−CO−」は、T由来のカルボニル基であり、式中の「−NH−」はYのアミノ基に由来する);
(15)R1が生物活性を有するタンパク質である、上記(14)記載のタンパク質固定化担体;
(16)R1が酵素である、上記(15)記載のタンパク質固定化担体;
(17)R1が酵素と他のタンパク質との融合タンパク質である、上記(15)記載のタンパク質固定化担体;
(18)他のタンパク質がマルトース結合タンパク質である、上記(17)記載のタンパク質固定化担体;
(19)酵素が糖転移酵素である、上記(16)〜(18)のいずれかに記載のタンパク質固定化担体;
(20)糖転移酵素がβ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼまたはα−2,6−シアリルトランスフェラーゼである、上記(19)記載のタンパク質固定化担体;
(21)Xがリジンを表する、上記(14)〜(20)のいずれかに記載のタンパク質固定化担体;および
(22)高分子多糖を含む固相担体がアガロース誘導体またはセルロース誘導体からなる、上記(14)〜(21)のいずれかに記載のタンパク質固定化担体
である。
(23)式:R2−LPXTG−Zn
(式中、R2は酵素または酵素と他のタンパク質との融合タンパク質を含み、Lはロイシン、Pはプロリン、Xは任意のアミノ酸、Tはスレオニン、Gはグリシンを表し、Zはそれぞれ独立して任意のアミノ酸を表し、nは0または1以上の整数を表す)
で示される、化合物。
(24)酵素が糖転移酵素である、上記(23)に記載の化合物。
(25)糖転移酵素がβ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼまたはα−2,6−シアリルトランスフェラーゼである、上記(24)に記載の化合物。
(26)ZnがHis−Tagである、上記(23)〜(25)のいずれかに記載の化合物。
【発明の効果】
【0010】
通常の化学的固定化方法では活性回収率、活性発現率が低いタンパク質においても部位特異的で、非特異吸着が少なく、安定な固定化酵素を調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書中、LPXTGで示されるアミノ酸配列とは、ロイシン、プロリン、任意のアミノ酸、スレオニンおよびグリシンからなるアミノ酸配列(以下、「LPXTGモチーフ」と称する場合もある)を意味する。Xで示されるアミノ酸としてはタンパク質を構成する任意のアミノ酸が挙げられ、具体的には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジンからなる群から選択される。
【0012】
本発明の方法において用いられるソルテースは、LPXTGモチーフを認識してスレオニン残基とグリシン残基との間を切断し、そこへGly−Gly末端を有する別のタンパク質/ペプチドを連結する反応を触媒する。本発明の方法において用いられる好ましいソルテースとしては、例えば、Staphylococcus aureus由来のソルテースA(J. Biol. Chem. 2004 279: 31383−31389)が挙げられる。
【0013】
本明細書中、「固相担体」とは、本発明の方法により固定化されるタンパク質を担持するための反応媒体に不溶な固体の支持体である。本発明の固相担体は、ビ−ズ、チュ−ブ、ファイバーまたはプレ−ト等の任意の形状をとることができる。本発明の固相担体は、本発明の方法によって固定化されるタンパク質と反応し得る活性な基を表面に有する。そのような活性な基としては、例えばアミノ基、より好ましくは一級アミノ基、が挙げられる。本発明の固相担体は、例えば、高分子多糖(例えば、アガロースやセルロースなど)、無機材料(例えば、磁気ビーズ、シリカ、ガラス、セラミックなど)、合成樹脂(例えば、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、これらの共重合体または修飾体など)、天然樹脂(ラテックスなど)などの材料から、当分野において周知の方法によって誘導することができる。本発明の方法において好ましい固相担体としては、高分子多糖を含む固相担体が挙げられる。当分野で一般に使用されている市販品は本発明の固相担体として使用することができ、また、必要に応じてこれら市販品の担体表面に存在する官能基に適当な修飾を加えることもできる。
【0014】
本発明において用いることができる市販で入手可能な固相担体の例としては、例えば、アミノーセルロファイン(セルロース、生化学工業)、EAH−セファロース(アガロース、GEヘルスケア バイオサイエンス)、アフィゲル102(アガロース、バイオラッド)、MagnaBind(磁気ビーズ、PIERCE)、B−2021(シリカ、オルガノ)、LCA−CPG(シリカガラス、ミリポア)、BioMag(磁気ビーズ、Polysciences)、200−A(セラミックス、東洋電化)、Therma−Max Lam Amine(磁気ビーズ、マグナビート社)、WA−20(架橋ポリスチレン、三菱化学)、CR−20(架橋ポリスチレン、三菱化学)、ELISA用プレート(住友ベークライト)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
本発明の方法は、任意のタンパク質を固相担体に固定化することができる。本発明の方法により固定化されるタンパク質としては、例えば、酵素、抗原、抗体、生体内の情報伝達に関与するタンパク質ホルモンや受容体等、生物活性を有するタンパク質またはそれらの断片が挙げられる。
【0016】
本発明の一態様では、本発明の方法により固定化されるタンパク質は酵素である。そのような酵素としては、例えば、酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、リアーゼ、異性化酵素、リガーゼ、糖転移酵素等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0017】
さらなる態様では、本発明のタンパク質は、酵素と他のタンパク質との融合タンパク質であってよい。他のタンパク質としては、チオレドキシン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、およびマルトース結合タンパク質等が挙げられる。本発明においては、大腸菌由来のタンパク質であるマルトース結合タンパク質との融合タンパク質が特に好ましい。マルトース結合タンパク質は、大腸菌における高発現が期待でき、アミロースを保持した担体に結合しマルトースで溶出することにより容易に精製できるので、タンパク質発現用のタグとして市販され広く用いられている(NEW ENGLAND BioLabs)。
【0018】
本発明の方法において、LPXTGで示されるアミノ酸配列を有するペプチドを導入する工程は、固定化するタンパク質に該ペプチドを化学的ライゲーションにより連結させるか、あるいは遺伝子クローニング等の手法を用いて該タンパク質と該ペプチドをコードする核酸を含む発現ベクターを調製し適当な発現系において発現させた後、得られた組換えタンパク質を単離することによって行うことができる。LPXTGで示されるアミノ酸配列を有するペプチドは、好ましくは、タンパク質の活性部位に影響を及ぼさない位置、例えばC末端側に導入する。固定化されるタンパク質が既にLPXTGモチーフを有している場合は、LPXTGモチーフを導入する工程を省略し、本発明の方法にそのまま使用することができる。
【0019】
上記のとおりLPXTGモチーフが導入されたタンパク質は、ソルテースの存在下で固相担体と接触させて該固相担体に結合させることができる。LPXTGモチーフを導入したタンパク質と固相担体は、水性媒体中、ソルテースの酵素活性に適した条件下、例えばpH3〜10、0〜50℃にて、少なくとも0.5時間接触させる。「水性媒体」とは、ソルテースの酵素活性に必要なカルシウムイオンを供給するための適当なカルシウム源(例えば、塩化カルシウム、炭酸カルシウム等)を含む水溶液である。また、ソルテースの酵素活性に適当な条件を達成、維持するため、適宜、緩衝液、安定化剤等の成分を添加してもよい。
【実施例】
【0020】
以下に記載する実施例により、本発明をさらに詳細に記載する。
【0021】
実施例1
LPXTGモチーフを有するタンパク質(MBP−GalT)の調製
J.Biosci. Bioeng 91 85 2001に記載の方法に従い、ヒト腎臓cDNAよりβ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ(GalT)をクローニングし、pMal−p2Xベクターに導入した。プライマー1:ggagaattccggaccggagggg(配列番号1)およびプライマー2:tagctcgaggccggtttccggaaggtcgacgctcggtgtcccgatgtc(配列番号2)を用い、GalT遺伝子を増幅後、EcoRI及びXhoIで消化し、pET−23bのEcoRI−XhoI間に導入した。さらに、上記プライマー1、およびプライマー3:acgaagctttcagtggtggtggtggtggtgctcgaggccggtttcc(配列番号3)を用い、GalT遺伝子を増幅後、EcoRI及びHindIIIで消化し、pMal−p2XのEcoRI−HindIII間に導入し、LPXTGモチーフを有するマルトース結合蛋白質とGalTとの融合蛋白質(MBP−GalT)の発現プラスミドを構築した。構築したプラスミドで大腸菌JM109株を形質転換した。形質転換体を50μg/mlカルベニシリンを含むLB培地にて培養し、OD650の値が約0.7になった時点でIPTGを添加し、タンパク質の発現を誘導した。その後、20℃で一晩培養した。菌体を破砕後、上清液をNiアフィニティークロマトグラフィー、DEAEイオン交換クロマトグラフィーにより精製し、MBP−GalTを単離した(図1参照)。
【0022】
実施例2
MBP−GalTと担体との反応(1)
実施例1で得たMBP−GalTと、表面に1級アミノ基を有する固相担体(EAH−セファロース;GEバイオサイエンス)とを、ソルテースの存在下で反応させた(1.7mg/mL MBP−GalT、50mM Tris−HCl(pH7.5)、0.1M NaCl、5mM CaCl2、0.05% TritonX−100、15mg/ml ソルテース、37℃)。反応の間、上清液をサンプリングし、SDS−PAGEにより分析した。SDS−PAGEの結果は、上清中のMBP−GalTが経時的に減少し(図2)、MBP−GalTが担体に結合していることを示した。
【0023】
実施例3
MBP−GalTとアミノ基を有する担体との反応(2)
MBP−GalTとEAH−セファロースをソルテースの存在下で反応させ(1.7mg/mL MBP−GalT、1mM 2−メルカプトエタノール、50mM Tris−HCl(pH7.5)、0.1M NaCl、5mM CaCl2、0.05% TritonX−100、15mg/ml ソルテース、37℃、14時間)、反応終了後の固相担体と上清液の活性を測定し、活性の分布を調べた。その結果、約30%の活性が担体に認められた(図3)。ソルテース活性不在下で反応を行った場合(ソルテース無添加あるいはEDTA添加)は、固相担体上にほとんど活性が認められなかった。
【0024】
実施例4
MBP−GalTと各種担体との反応
MBP−GalTと市販のアミノ基を有する各種担体をソルテースの存在下で反応させた(1.7mg/mL MBP−GalT、1mM 2−メルカプトエタノール、50mM Tris−HCl(pH7.5)、0.1M NaCl、5mM CaCl2、0.05% TritonX−100、15mg/mL ソルテース、37℃、14時間)。担体への活性回収率と活性発現率を調べた。結果を以下の表に示す。
【表1】

EAH−セファロース、アフィゲル102、アミノセルロースファインを用いた場合、回収率も高く、非特異的吸着も少なかった。
【0025】
実施例5
長期安定性
MBP−GalTとEAH−セファロースをソルテースの存在下で反応させ(1.7mg/mL MBP−GalT、1mM 2−メルカプトエタノール、50mM Tris−HCl(pH7.5)、0.1M NaCl、5mM CaCl2、0.05% TritonX−100、15mg/mL ソルテース、37℃、14時間)、担体を回収した。担体を50mM Tris−HCl(pH8)、0.5M NaClで洗浄後、25mM HFPES バッファー(pH7.5)、0.01% TritonX−100に懸濁し、懸濁液のGalT活性を測定した結果、118mU/mlであった。約3ヶ月間、冷蔵保存後、測定した結果、活性は105mU/mlであり、ほぼ活性を維持していた。
【0026】
実施例6
繰り返し使用
上記実施例で得た固定化酵素(0.9mU)を添加して酵素反応を行い(0.5mM 4−メチルウンベリフェリル−N−アセチル−β−D−グルコサミニド、2.5mM UDP−Gal、10mM MnCl2、25mM HEPES(pH7.5)、1mM 2−メルカプトエタノール、0.01% TritonX−100、100μl)、経時変化をHPLCで分析した。反応後、担体をよく洗浄し、同様の組成で再び反応を行った。同様に計5回反応させた。その結果、5回の反応中に活性の大幅な低下は認められなかった。
【0027】
実施例7
LPXTGモチーフを有するタンパク質(MBP−ST6Gal1)の調製
ヒト腎臓cDNAよりα−2,6−シアリルトランスフェラーゼ(ST6Gal1)をプライマー:cctgtggacctgaagggcctg(配列番号4)およびプライマー:gcctgatggagaagagtgaggagcc(配列番号5)を用い増幅後、引き続きプライマー:aggaattccaggtgttaaagagtctggg(配列番号6)およびプライマー:aggtcgacgcagtgaatggtccggaagccag(配列番号7)を用い増幅した。得られた断片をEcoRI及びSalIで消化し、上記、MBP−GalT発現プラスミドのEcoRI−SalI間に挿入し、LPXTGモチーフを有するマルトース結合蛋白質とST6Gal1との融合蛋白質(MBP−ST6Gal1)の発現プラスミドを構築した。構築したプラスミドで大腸菌JM109株を形質転換した。形質転換体を50μg/mlアンピシリンを含むTB培地にて培養し、培養5.5時間後にIPTGを添加し、タンパク質の発現を誘導した。その後、28℃で一晩培養した。菌体を破砕後、上清液をNiアフィニティークロマトグラフィーにより精製し、MBP−ST6Gal1を単離した(図4参照)。
【0028】
実施例8
MBP−ST6Gal1と担体との反応
実施例7で得たMBP−ST6Gal1と、EAH−セファロースを、ソルテースの存在下で反応させ(0.4mg/mL MBP−ST6Gal1、50mM Tris−HCl(pH7.5)、0.1M NaCl、5mM CaCl2、0.05% TritonX−100、15mg/ml ソルテース、37℃)、反応終了後の固相担体と上清液の活性を測定し、活性の分布を調べた。その結果、42%の活性が担体に認められた。ソルテース阻害剤であるEDTA存在下で反応を行った場合、固相担体上にはほとんど活性が認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の方法は、例えば固定化酵素の製造に利用することができる。また、抗原や抗体、あるいは特定の機能性タンパク質などをスクリーニングするための分析用キットの製造にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】SDS−PAGEによるMBP−GalTの精製結果を示す。矢印はMBP−GalTの存在を示す。Ni−Affinity−UF=Niアフィニティークロマトグラフィー後の遠心上清濃縮液、DEAE−UF=DEAEイオン交換クロマトグラフィー後の遠心上清濃縮液。
【図2】反応上清中のMBP−GalT量の経時的変化を示すSDS−PAGEの結果である。
【図3】反応終了後のMBP−GalTの活性の分布を示す。
【図4】SDS−PAGEによるMBP−ST6Gal1の精製結果を示す。矢印はMBP−ST6Gal1の存在を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LPXTG(Lはロイシン、Pはプロリン、Xは任意のアミノ酸、Tはスレオニン、Gはグリシンを表す)で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を、ソルテースの存在下で高分子多糖を含む固相担体と接触させ、該固相担体に結合させる工程を含むタンパク質の固定化方法。
【請求項2】
タンパク質の固定化方法であって、
該タンパク質のC末端側にLPXTG(Lはロイシン、Pはプロリン、Xは任意のアミノ酸、Tはスレオニン、Gはグリシンを表す)で示されるアミノ酸配列を導入する工程;および
該ペプチドが導入されたタンパク質を、ソルテースの存在下で高分子多糖を含む固相担体と接触させ、該固相担体に結合させる工程
を含む方法。
【請求項3】
ソルテースがStaphylococcus aureus由来ソルテースAである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
Xがリジンを表する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質が生物活性を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質が酵素である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記タンパク質が酵素と他のタンパク質との融合タンパク質である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
他のタンパク質がマルトース結合タンパク質である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
酵素が糖転移酵素である、請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
糖転移酵素がβ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼまたはα−2,6−シアリルトランスフェラーゼである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
高分子多糖を含む固相担体がその表面に1級アミノ基を有する、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
高分子多糖を含む固相担体がアガロース誘導体またはセルロース誘導体からなる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の方法によって得られるタンパク質固定化担体。
【請求項14】
式:R1−LPXT−CO−NH−Y
(式中、R1は任意のアミノ酸配列を表し、Lはロイシン、Pはプロリン、Xは任意のアミノ酸、Tはスレオニンを表し、Yは高分子多糖を含む固相担体を表す)
で示される、タンパク質固定化担体。
【請求項15】
1が生物活性を有するタンパク質である、請求項14に記載のタンパク質固定化担体。
【請求項16】
1が酵素である、請求項15に記載のタンパク質固定化担体。
【請求項17】
1が酵素と他のタンパク質との融合タンパク質である、請求項15に記載のタンパク質固定化担体。
【請求項18】
他のタンパク質がマルトース結合タンパク質である、請求項17に記載のタンパク質固定化担体。
【請求項19】
酵素が糖転移酵素である、請求項16〜18のいずれかに記載のタンパク質固定化担体。
【請求項20】
糖転移酵素がβ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼまたはα−2,6−シアリルトランスフェラーゼである、請求項19に記載のタンパク質固定化担体。
【請求項21】
Xがリジンを表する、請求項14〜20のいずれかに記載のタンパク質固定化担体。
【請求項22】
高分子多糖を含む固相担体がアガロース誘導体またはセルロース誘導体からなる、請求項14〜21のいずれかに記載のタンパク質固定化担体。
【請求項23】
式:R2−LPXTG−Zn
(式中、R2は酵素または酵素と他のタンパク質との融合タンパク質を含み、Lはロイシン、Pはプロリン、Xは任意のアミノ酸、Tはスレオニン、Gはグリシンを表し、Zはそれぞれ独立して任意のアミノ酸を表し、nは0または1以上の整数を表す)
で示される、化合物。
【請求項24】
酵素が糖転移酵素である、請求項23に記載の化合物。
【請求項25】
糖転移酵素がβ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼまたはα−2,6−シアリルトランスフェラーゼである、請求項24に記載の化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−55837(P2009−55837A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225749(P2007−225749)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】