説明

タンパク質分子のアミノ酸置換部位選択装置、置換アミノ酸選択装置、アミノ酸置換部位選択方法、置換アミノ酸選択方法、プログラムおよび記録媒体

【課題】タンパク質におけるアミノ酸置換部位を適切に選択可能で、高機能な変異型タンパク質を得ることができる、タンパク質分子のアミノ酸置換部位選択装置を提供する。
【解決手段】タンパク質とリガンドとの複合体の立体構造を取得する手段102と、前記構造の各原子に力場パラメータを付与する手段130と、分子シミュレーションを実施する手段140と、前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基のリストを作成する手段150と、前記アミノ酸残基と前記リガンドとの静電的相互作用エネルギーとファン・デル・ワールス斥力エネルギーとの和エネルギーを計算する手段160と、前記各アミノ酸残基と前記各和エネルギーとを対応させたリストを作成する手段170と、前記和エネルギーが大きいアミノ酸残基から順に優先的にアミノ酸置換部位として選択する手段180とを含むアミノ酸置換部位選択装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質分子のアミノ酸置換部位選択装置、置換アミノ酸選択装置、アミノ酸置換部位選択方法、置換アミノ酸選択方法、プログラムおよび記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質や酵素には、多様な生物種に由来する多種多様なものがある。その中には、化成品(コモデティケミカル)の合成や、化学合成では困難な医薬品などの合成に使用されているものがある。酵素法(酵素を用いた物質生産方法)は、環境への負荷が少ないことから、近年、酵素法への期待が高まりつつある。しかし、野生型タンパク質(以下、単に「野生型」ということがある)のままでは、活性の微弱さ、副反応による不純物生成の問題などの理由で、工業的には生産性が不十分であり実用に不適な場合が多い。
【0003】
そのため、従来から、野生型のタンパク質・酵素にアミノ酸残基の置換や挿入・削除を行うことで変異型タンパク質(以下、単に「変異型」ということがある)を作成し、その変異型の中から優れたものを探すという試みがなされてきた。
【0004】
しかし、活性・副反応抑制などの観点で高機能化された変異型を得るのは、現実には困難で手間のかかる場合が多い。これは、タンパク質にアミノ酸変異を入れる場合の数が膨大であるためである。例えば、100残基のタンパク質では、前記場合の数は、20100通りとなる。これら全通りを実験的に評価し、高機能化されたものを判別することは現実には不可能である。このため、例えば、実験的手法に基づき、または、計算機を用いて、前記場合の数を現実的な数まで絞り込む試みがなされている。
【0005】
実験的手法としては、タンパク質と、その基質(リガンド)や基質アナログの複合体の結晶化に成功し、その立体構造情報を得ることに成功すると、基質が結合する部位が明らかとなる。この複合体の立体構造から、アミノ酸と基質の接触部位において、認識に関与すると考えられるアミノ酸が特定される場合がある。特許文献1においては、糖鎖のグルコシド結合を加水分解する酵素において、その酵素の結晶構造の解析と類縁酵素との詳細な構造比較とに基づいて認識部位を特定している。これらの認識部位が、アミノ酸置換を行う部位の候補となりうる。
【0006】
また、計算機を用いた変異型タンパク質の設計方法としては、例えば、特許文献2および非特許文献1〜3に記載の方法がある。以下、これらについて説明する。なお、以下において述べる設計法は、タンパク質・酵素の立体構造に基づくものであり、アミノ酸配列情報のみに頼るものではない。また、以下において、当業者の慣用表現に基づき、アミノ酸残基を単に「アミノ酸」と呼ぶ場合がある。また、ここでの設計法では、アミノ酸の挿入や削除を対象とはしていない。
【0007】
分子力学モデル
分子シミュレーションでは、いわゆる分子力学(MM;Molecular Mechanics)モデルが広く用いられている(非特許文献1)。この分子力学モデルを簡単に説明すると、対象とする分子であるタンパク質や水分子を、バネで繋がれたビーズ(珠)で表現し、ビーズすなわち分子を構成する原子には電荷が割り振られているものである。分子力学モデルを用いる場合、分子系のエネルギーUは、結合相互作用と非結合相互作用によるエネルギーの和となる。このうち、結合相互作用エネルギーUbondedは、結合長・結合角・結合捩れ角などの変化に伴うエネルギーである。一方、非結合相互作用には、静電すなわちクーロン(Coulomb)相互作用エネルギーUEleやファン・デル・ワールス(van der Waals、以下、「vdw」ということがある)相互作用エネルギーUvdwが含まれる。結局、この系のエネルギーUは、下記式(1)のとおり、前述のエネルギーの和として表される。

U=UEle+Uvdw+Ubonded (1)
【0008】
分子力学モデルは、力場(Force Field)とよばれる経験的ポテンシャルに基づくものである。力場には、ポテンシャルの関数形やパラメータ値、分子系に対するパラメータの割り振りのルール集が含まれる。力場は、多数のモデル分子に対する分子軌道(Molecular Orbital)法などの理論的手法や、実験データとのフィティングに基づく経験的手法で決定されたものである。この分子力学モデルは、精度に関しては非経験的分子軌道法ほど高くはないが、巨大分子であっても、きわめて高速にシミュレーションが行えるという利点がある。
【0009】
分子力学モデルにおける静電相互作用

この分子力学モデルに対しては、静電エネルギーは下記式(2)で与えられる。

Ele=ΣΣ/rij (2)
【0010】
ここで、rijは原子iと原子jの間の距離であり、i,jに関する和計算は、i<jの条件下で行うものとする。qは原子iの帯びた電荷であり部分電荷ともよばれる。qの値は、量子化学計算あるいは力場のルール集を使って決定される。
【0011】
分子力学モデルにおけるvdw相互作用
タンパク質の対象としているアミノ酸とリガンド(化合物)の相互作用のうち、無極性のvdw相互作用は、下記の通り、Lennard-Jones 型の関数で近似的に表わされることが知られている。

V(r)=ε[(σ/r)12−2(σ/r)] (3)
【0012】
ここで、rは原子間距離、σはvdw半径であり、εは相互作用の強さである(ε≧0)。特に、ポテンシャルV(r)はr=σの時に最少値(−ε)をとる。対象としている系の全vdwエネルギーは、下記式(4)で表される。
【0013】
vdw=ΣΣij(rij
=ΣΣεij[(σij/rij12−2(σij/rij] (4)
【0014】
前記式(4)でも、前記式(2)と同様にi,jに関する和計算は、i<jの条件下で行うものとする。σijは、原子のペアi、jに対する半径を表し、εijは、原子のペアi、jに対する相互作用の強さを表している。
【0015】
vdw相互作用における斥力項と引力項
上記のV(r)は、Lennard-Jones型のポテンシャルであり、rのマイナス12乗に比例する項は原子核反発に由来する斥力項と呼ばれ、rのマイナス6乗に比例する項は分散力に由来する引力項と呼ばれている。その関数形を図1に点線で示した。図1は、パラメータとして炭素原子相当のσ=3.7Å、ε=0.1kcal/molを用いて描かれている。
【0016】
タンパク質のような生体分子の分子シミュレーションでは、Lennard-Jones型の関数形が使われることが多い。それ以外の関数形に対しては、斥力項と引力項への分離は自明ではないが、以下で述べるWeeks-Chandlerの方法に従えば、より汎用性のある考え方で、分離することが可能である(非特許文献2)。
【0017】
一般にvdw相互作用に対する原子間ポテンシャルV(r)は、定性的には図1と同様に、2原子間距離rがゼロに近い時には大きな正値をとり、r=σで最小値(−ε)をとり、さらにrが増大するとゼロに漸近するという特徴がある。このような形状のポテンシャルに対しては、下記式(5)および(6)に従って、r=σを境として、斥力項V(r)と引力項V(r)に分割するのがWeeks-Chandlerの方法である。
【0018】
(r)=V(r)+ε (r≦σの場合)
=0 (r>σの場合) (5)

(r)=−ε (r≦σの場合)
=V(r) (r>σの場合) (6)

特に、Lennard−Jones型のポテンシャルに対しては、斥力項V(r)と引力項V(r)は、下記式(7)および(8)で表される。
【0019】
(r)=ε[(σ/r)12−2(σ/r)]+1 (r≦σの場合)
=0 (r>σの場合) (7)

(r)=−ε (r≦σの場合)
=ε[(σ/r)12 − 2(σ/r)] (r>σの場合) (8)
【0020】
このようにして得られた斥力項と引力項を、図1に、それぞれ、実線と細い破線で示した。なお、Weeks-Chandlerの方法でポテンシャルを分割すると、液体の構造は斥力項でほぼ決まり、引力項はそれに対する摂動として働くという描像で、液体構造を理論的にうまく記述できることが知られている。
【0021】
厳密法を用いた自由エネルギー変化の推計
アミノ酸Aを別のアミノ酸Bに置換する際の自由エネルギー変化ΔFを分子シミュレーションから推計する代表的な方法として、TI(熱力学積分)法、FEP(自由エネルギー摂動)法、始点λ=λからのTaylor展開法等がある。実数パラメータλがλからλに変化するにつれて、MMモデルの枠内で、アミノ酸Aが連続的にアミノ酸Bに連続的に変化するものとすると、その際の自由エネルギー変化は、それぞれ、下記式(9)〜(11)で表される。
【0022】
ΔF=∫<(dU/dλ)>λdλ (TI法)(9)

ΔF=<exp[−(UB−UA)/kT]>A (FEP法)(10)

ΔF=<dU/dλ>A+(1/2)[<(dU/dλ)>A
−<(dU/dλ−<dU/dλ>)>A/kT] (λ−λ
+[(λ−λ)の2次以上の項でUの高次微係数を含む]

(始点からのTaylor展開法) (11)
【0023】
前記式(9)〜(11)において、kは、Boltzmann定数、Tは絶対温度、<…>Aは状態Aにおける平均を表わす。この方法はいわゆる熱力学サイクル法と組み合わせることで、アミノ酸を野生型から変異型に置換する際の活性の予測に用いられている。なお、通常は、λ=0、λ=1に規格化することが多い(非特許文献1.式(9)は、p568のeq.(11.18); 式(10)はp565のeq.(11.6); 式(11)はp592のeq(11.45))。
【0024】
簡便法を用いた自由エネルギー変化の推計
また、前記厳密法における式(9)や(10)に粗い近似を導入した方法として、LIE(Linear Interaction Energy)法や、COMBINE法という簡便法が提案されている(非特許文献1および3)。これらの方法は、前記厳密法と比較すると、統計的収束が容易で計算時間が短縮可能である。
【0025】
すなわち、LIE法では、アミノ酸置換に伴う自由エネルギー変化ΔFを下記式(12)で近似する。

ΔF=αΔEvdw + βΔEEle (LIE法) (12)
【0026】
ここで、ΔEvdwは野生型A、変異型Bのそれぞれにおける平均vdwエネルギーの差、すなわち、<E>B−<E>Aであり、同様にΔEEleはA、Bのそれぞれにおける平均静電エネルギーの差である。βはもともとの理論では0.5であるが、実際には、αもβも0から1の間の値をとるAdjustable Parameterと扱われており、自由エネルギーΔFの実験値ができるだけ良好に再現するように割り当てられる。これら2つのエネルギー項成分を、さらに、アミノ酸残基ごとに分割し、実験データをさらに正確に説明しようとするのが、COMBINE法である(非特許文献3)。
【0027】
ΔF=Σvdwvdw+wEleEle

(COMBINE法) (13)
【0028】
前記式(13)において、uvdwは、野生型A、変異型Bのそれぞれにおけるアミノ酸残基jの平均vdwエネルギーの差であり、同様にuEleはA、Bのそれぞれにおけるアミノ酸残基jの静電エネルギーの差である。なお、アミノ酸残基当たりの相互作用エネルギーを計算するには、例えば、式(2)や式(4)において、原子iは当該アミノ酸残基の構成原子に対して和をとり、原子jはリガンドである化合物の構成原子に対して和を取ればよい。アミノ酸構成原子に対して和を取る場合には、通常、アミノ酸残基単位全体を含めるが、主鎖からの寄与はアミノ酸の種類によって変動が小さいので省いて、側鎖からの寄与に限定する場合もある。
【0029】
その他のタンパク質の設計方法
その他、アミノ酸配列上で選択された複数の一連の部位に対して、アミノ酸種の最適化解を算出する方法として、Dead-end-eliminationを活用した方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】WO08/015861
【特許文献2】特開2001−184381
【非特許文献】
【0031】
【非特許文献1】A. R. Leach, Molecular Modeling, 2nd Ed., 2001, Prentice-Hall, Chapter 11.
【非特許文献2】J. D. Weeks, D. Chandler, H. C. Andersen, J. Chem. Phys., Vol. 54, 5237 (1971).
【非特許文献3】T. Wang and R. C. Wade, J. Med. Chem. Vol. 44, 961 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
タンパク質にアミノ酸変異を入れる前記場合の数を、現実的な数まで絞り込むために最も効果的な方法は、アミノ酸置換を行う部位を絞り込むことである。例えば、前述のように、100残基のタンパク質では、前記場合の数は、20100通りとなるが、前記アミノ酸置換部位を、例えば、5個に絞りこむことができれば、場合の数は20通りに減少し、現実的な場合の数に近づく。実際に、5箇所程度のアミノ酸残基に網羅的に変異をかけて変異型の巨大なランダムライブラリーを作成し、その中から高機能な変異型をスクリーニングすることは、すでに行われている。しかし、前記アミノ酸置換部位の選択は、研究者の直感等に頼っている。これは、従来の方法では、高機能な変異型タンパク質が得られるアミノ酸置換部位を適切に選択することが困難なためである。
【0033】
すなわち、まず、特許文献1等の実験的手法では、アミノ酸と基質(リガンド)の接触を判断するしきい値は、例えば、5Å(0.5nm)程度である。しかし、通常のタンパク質では多数のアミノ酸がリガンドに接触していることが多く、その多数の接触アミノ酸から認識部位を絞り込むのは簡単ではない。とりわけ、化学反応の起こる酵素の場合には、酵素もリガンドも反応過程で構造変化を起こすことが多く、その分の余裕を保つために、大きなしきい値を採用する必要がある。もし、アミノ酸の接触を7Å(0.7nm)のしきい値で判断した場合には、リガンドサイズが大きい化合物の場合には、50−100個以上の多数のアミノ酸部位が候補になることもある。この多数の部位候補の中からコンピュータシミュレーション支援で効率的に候補を絞りこむことができれば、実験で作成する変異型の個数を大幅に削減でき、また部位選択プロセスの自動化も可能になるので、有用な変異型タンパク質の開発に大きな貢献をすることができる。
【0034】
このため、計算機を利用して効率的に、また、できるだけ自動化して、高機能な変異型の開発を行うことが要求される。しかし、前記従来の計算方法では、アミノ酸置換部位を適切に選択することは、やはり困難である。
【0035】
すなわち、まず、タンパク質とリガンド(化合物)の間の相互作用は複雑であって、その相互作用がどのように、タンパク質とリガンドの親和性(結合の強弱)や、酵素の反応活性に影響を及ぼすかは、分子の立体構造の時間的変化だけをたどる単純な分子シミュレーションで予測することは困難である。
【0036】
前記厳密法(自由エネルギー変化を厳密に推計する分子シミュレーション)を用いれば、原理的には前記相互作用を予測可能であるが、計算量の膨大さ、および統計的収束の困難性のため、実用が困難である。
【0037】
前記厳密法の問題点を解決するためのLIE法およびCOMBINE法は、いずれも、実験値と良好な一致が得られる場合、および良好ではない場合がともに報告されており、満足な方法とは言い難い。また、ある分子系に対して決定された係数α、β、wvdw、wEleは、別の分子系(すなわち別のタンパク質系)には転用(transfer)できないという根本的な難点もある。さらに、上記のLIE法、COMBINE法はいずれも、アミノ酸置換部位の選択手法ではなく、むしろ前記置換部位におけるアミノ酸種(置換アミノ酸)を決めるための計算手法である。すなわち、置換部位は何らかの別の方法を用いてあらかじめ決めておき、その次の段階で、どの種類のアミノ酸に置換すると活性が向上するかを、実際にさまざまな変異型Bのシミュレーションを行って予測するために使用する手法である。
【0038】
特許文献2の方法は、前記の通り、アミノ酸置換部位における置換アミノ酸(アミノ酸種)を選択するための方法であり、アミノ酸置換部位の選択方法ではない。
【0039】
さらに、従来技術においては、置換アミノ酸(アミノ酸種)の選択にも、十分な精度のあるものが存在しない。
【0040】
そこで、本発明は、タンパク質におけるアミノ酸置換部位を適切に選択可能で、高機能な変異型タンパク質を得ることができる、タンパク質分子のアミノ酸置換部位選択装置およびアミノ酸置換部位選択方法を提供することを目的とする。また、本発明は、前記アミノ酸置換部位における置換アミノ酸を適切に選択可能な置換アミノ酸選択装置および置換アミノ酸選択方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0041】
前記目的を達成するために、本発明による、タンパク質分子のアミノ酸置換部位選択装置は、
タンパク質と、前記タンパク質と結合するリガンドとの複合体の少なくとも一部の立体構造を取得する構造取得手段と、
前記複合体立体構造における各原子に力場パラメータを付与する力場パラメータ付与手段と、
前記力場パラメータに基づき、分子シミュレーションを実施する分子シミュレーション手段と、
前記分子シミュレーションに基づき、前記タンパク質を構成するアミノ酸残基の中で前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基のリストを作成するアミノ酸残基リスト作成手段と、
前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基と前記リガンドとの静電的相互作用エネルギーとファン・デル・ワールス斥力エネルギーとの和エネルギーを、前記アミノ酸残基ごとに計算する和エネルギー計算手段と、
前記リガンドと接触可能な各アミノ酸残基と前記各和エネルギーとを対応させたリストを作成する和エネルギーリスト作成手段と、
前記和エネルギーが大きいアミノ酸残基から順に優先的にアミノ酸置換部位として選択するアミノ酸置換部位選択手段と、
を含むことを特徴とする。
【0042】
本発明による、タンパク質分子の置換アミノ酸選択装置は、
前記本発明のアミノ酸置換部位選択装置と、アミノ酸種リスト作成手段と、置換アミノ酸選択手段とを含み、
前記アミノ酸置換部位選択装置において、アミノ酸置換部位を選択するとともに、前記タンパク質の前記和エネルギーリストと、前記アミノ酸置換部位のアミノ酸を種々の異なるアミノ酸種で置換した変異型タンパク質の前記和エネルギーリストとを作成し、
前記アミノ酸種リスト作成手段において、前記タンパク質および前記各変異型タンパク質における前記アミノ酸置換部位のアミノ酸種と、前記アミノ酸置換部位の前記和エネルギーとを対応させたリストを作成し、
前記置換アミノ酸選択手段において、前記和エネルギーが小さいアミノ酸種から順に優先的に置換アミノ酸として選択することを特徴とする。
【0043】
本発明による、タンパク質分子のアミノ酸置換部位選択方法は、
タンパク質と、前記タンパク質と結合するリガンドとの複合体の少なくとも一部の立体構造を取得する構造取得工程と、
前記複合体立体構造における各原子に力場パラメータを付与する力場パラメータ付与工程と、
前記力場パラメータに基づき、分子シミュレーションを実施する分子シミュレーション工程と、
前記分子シミュレーションに基づき、前記タンパク質を構成するアミノ酸残基の中で前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基のリストを作成するアミノ酸残基リスト作成工程と、
前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基と前記リガンドとの静電的相互作用エネルギーとファン・デル・ワールス斥力エネルギーとの和エネルギーを、前記アミノ酸残基ごとに計算する和エネルギー計算工程と、
前記リガンドと接触可能な各アミノ酸残基と前記各和エネルギーとを対応させたリストを作成する和エネルギーリスト作成工程と、
前記和エネルギーが大きいアミノ酸残基から順に優先的にアミノ酸置換部位として選択するアミノ酸置換部位選択工程と、
を含むことを特徴とする。
【0044】
本発明による、タンパク質分子の置換アミノ酸選択方法は、
前記本発明のアミノ酸置換部位選択方法によりアミノ酸置換部位を選択する、アミノ酸置換部位選択方法実施工程と、アミノ酸種リスト作成工程と、置換アミノ酸選択工程とを含み、
前記アミノ酸置換部位選択方法実施工程において、アミノ酸置換部位を選択するとともに、前記タンパク質の前記和エネルギーリストと、前記アミノ酸置換部位のアミノ酸を種々の異なるアミノ酸種で置換した変異型タンパク質の前記和エネルギーリストとを作成し、
前記アミノ酸種リスト作成工程において、前記タンパク質および前記各変異型タンパク質における前記アミノ酸置換部位のアミノ酸種と、前記アミノ酸置換部位の前記和エネルギーとを対応させたリストを作成し、
前記置換アミノ酸選択工程において、前記和エネルギーが小さいアミノ酸種から順に優先的に置換アミノ酸として選択することを特徴とする。
【0045】
さらに、本発明は、前記本発明のアミノ酸置換部位選択方法または置換アミノ酸選択方法を、コンピュータ上で実行可能なことを特徴とするプログラムを提供する。
【0046】
さらに、本発明は、前記本発明のプログラムを記録していることを特徴とする記録媒体を提供する。
【発明の効果】
【0047】
本発明のタンパク質分子のアミノ酸置換部位選択装置またはアミノ酸置換部位選択方法によれば、タンパク質におけるアミノ酸置換部位を適切に選択可能で、高機能な変異型タンパク質を得ることができる。また、本発明の置換アミノ酸選択装置または置換アミノ酸選択方法によれば、前記アミノ酸置換部位における置換アミノ酸を適切に選択可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】van der Waals(vdw)相互作用の斥力成分と引力成分への分割の一例を説明する図である。
【図2】タンパク質とリガンドとの間の相互作用のアミノ酸残基単位への分割を説明するための模式図である。
【図3】本発明のアミノ酸置換部位選択装置および置換アミノ酸選択装置の一例を模式的に示すブロック図である。
【図4】本発明のアミノ酸置換部位選択方法および置換アミノ酸選択方法の一例を模式的に示すフローチャート図である。
【図5】本発明のアミノ酸置換部位選択装置および置換アミノ酸選択装置の別の一例を模式的に示すブロック図である。
【図6】本発明のアミノ酸置換部位選択方法および置換アミノ酸選択方法の別の一例を模式的に示すフローチャート図である。
【図7】酵素P450SU―1の(a)結晶構造、(b)反応前複合体(RC)、(c)反応遷移状態(TS)、における主要アミノ酸とリガンドの配置を模式的に示す図である。
【図8】酵素P450SU―1において、ビタミンD3に接触するアミノ酸のリスト(7Å以内)を例示する図である。
【図9】酵素P450SU―1において、変異型の酵素活性の測定値を例示する図である。
【図10】酵素反応前の酵素とリガンドとの複合体(RC)での静電エネルギーとvdw斥力エネルギーの和を、リガンドに接触可能なアミノ酸(接触アミノ酸)残基番号に対してプロットした図の一例である。
【図11】図10の一部の拡大図である。
【図12】遷移状態(TS)の酵素とリガンドとの複合体における、静電エネルギーとvdw斥力エネルギーの和を、接触アミノ酸残基番号に対してプロットした図の一例である。
【図13】酵素反応前の酵素とリガンドとの複合体(RC)の全vdwエネルギーを、接触アミノ酸残基番号に対してプロットした図の一例である
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
【0050】
本発明者らは、以下に述べるように、vdw相互合作用のうち、斥力項が特別の意味を持つことを利用して、変異型設計手法を構築することを見出した。
【0051】
前述のように、アミノ酸を置換に伴う自由エネルギー差は、始点からのTaylor展開法で原理的には推計できる。アミノ酸置換は、簡単にいうと、λを構成原子の半径σに等しくおいて、λ=σをσからσに変化させることに対応している。ところで、前記式(11)中の導関数を、全ポテンシャルエネルギーUに含まれるひとつの項V(r)に対して、斥力項の意味が分かりやすいように書き下してみると、以下のようになる。
【0052】
dV/dσ=(6/σ){V(r)+(σ/r)12} (14)

V/dσ=(30/σ){V(r)+(17/5)(σ/r)12} (15)
【0053】
このように、高次導関数は、一般に、V(r)と斥力項(σ/r)12とを用いて表わすことができることが分かる。特に、斥力項(σ/r)12は、高次導関数では寄与が増大している。したがって、斥力項へのΔFへの寄与は、vdw項全体を表わすV(r)とは異なっており、むしろ斥力項の方が主体になると考えるのが妥当である。このことから、ΔFを近似的に表現する場合には、vdw項のV(r)項のみでは良い近似法を原理的に構成不能であり、斥力項を別個にむしろ主体な項として採用すべきことが分かる。
【0054】
さらに、本発明者らは、実際に野生型酵素等のタンパク質に対して分子シミュレーションを実施して、リガンドとリガンドに接触するアミノ酸間のエネルギー解析を行った。その結果、アミノ酸ごとの非結合的相互作用エネルギーは、全ファン・デル・ワールス(vdw)エネルギーと静電的相互作用エネルギー(静電エネルギー、以下「静電項」ということがある)とに分割可能であり、全vdwエネルギーは、さらに、ファン・デル・ワールス引力エネルギー(以下、「vdwの引力項」または単に「引力項」ということがある)およびファン・デル・ワールス斥力エネルギー(以下、「vdwの斥力項」または単に「斥力項」ということがある)に分割できることを見出した。そして、特に、静電項とvdwの斥力項との和(和エネルギー)が、タンパク質とリガンドとの親和性や酵素反応活性と相関が高いという経験則を発見した。なお、本発明において、「リガンド」は、タンパク質と特異的に結合する物質をいい、例えば、酵素に結合する基質、補酵素、調節因子等をいう。
【0055】
本発明では、この知見に基づき、例えば、野生型タンパクに対して分子シミュレーションを実施することによって、リガンド(化合物)とタンパク質の相互作用エネルギーをアミノ酸ごとに計算し、静電項とvdwの斥力項との和エネルギーが大きい部位を、優先的に置換を行う部位として選択可能である。すなわち、本発明におけるアミノ酸置換部位選択方法は、立体的・静電的観点で、リガンドとタンパク質の反発が大きい部位を置換の狙い筋として選択する、変異型タンパク質の設計方法であるということができる。
【0056】
なお、前述のCOMBINE法においては、前記エネルギー成分項のほかに、さらに、分子の表面積や水素結合項、回転可能ボンドの個数などを加えて拡張した線形近似式を構成した例も報告されている。しかし、vdw成分を引力項と斥力項に分けた例は報告されていない。
【0057】
また、本発明において、置換アミノ酸の種類を選択するには、例えば、野生型の立体構造に基づいて、置換部位をさまざまなアミノ酸に置換した変異型の立体構造を計算機上に構築し、それぞれの変異型に対する分子シミュレーションを実施し、静電項とvdwの斥力項との和エネルギーが、できるだけ小さくなるアミノ酸種を選択すれば良い。
【0058】
本発明によれば、アミノ酸置換部位、さらには置換アミノ酸を適切に選択することで、例えば、活性・副反応抑制などが高機能化された変異型タンパク質を得ることができる。なお、本発明において、アミノ酸置換部位または置換アミノ酸を選択する前記タンパク質は、野生型でも良いが、変異型であっても良い。
【0059】
本発明において、前記タンパク質は、特に限定されないが、酵素であることが好ましい。
【0060】
前記分子シミュレーションは、特に限定されないが、例えば、古典的分子動力学計算を用いて行うことができる。前記分子シミュレーションは、例えば、前記非特許文献1〜3等に記載の方法を応用しても良い。前記厳密法を用いても良いが、他の方法を用いた方が、計算量が少なく、統計的収束が容易という観点から好ましい。なお、力場は経験的かつ近似的なものであるため、たとえ計算手法が厳密であっても、最終的な自由エネルギー変化が実験と完全に一致するとは限らない。しかし、本発明によれば、最終的な自由エネルギー変化が実験と完全に一致しなくても、タンパク質におけるアミノ酸置換部位または前記アミノ酸置換部位における置換アミノ酸を適切に選択可能である。
【0061】
また、前記アミノ酸残基リスト作成手段または前記アミノ酸残基リスト作成工程において、例えば、前記リガンド構成原子との最小距離が所定のしきい値よりも小さいアミノ酸残基を、前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基として選択してもよい。例えば、図2に模式的に示すとおり、アミノ酸1〜9のうち、リガンド構成原子との最小距離が所定のしきい値よりも小さいアミノ酸残基(アミノ酸1以外)を、前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基として選択する。なお、本発明において、前記リガンドと接触可能な(または、実際に接触している)アミノ酸残基を、便宜上、単に「接触アミノ酸」ということがある。
【0062】
本発明において、前記和エネルギーリストまたは前記アミノ酸種リストは、例えば、前記アミノ酸置換部位または置換アミノ酸(アミノ酸種)を、前記和エネルギーに対してプロットしたものでもよい。この場合において、前記アミノ酸置換部位または置換アミノ酸(アミノ酸種)は、例えば、番号等で表してもよい。
【0063】
本発明によれば、例えば、野生型タンパク質に対してのみ分子シミュレーションを行うことで、どの部位にアミノ酸置換を行えば良いかを簡単に予測することができる。例えば、典型的な酵素の系では、50−100程度の候補の中から、10個程度に変異部位の候補を絞りこむことも可能である。本発明の方法は、研究者の直感に頼る方法ではないので、自動的に(すなわち、効率よく)候補を選抜することが可能である。選択された複数の置換部位に対して、アミノ酸置換体のライブラリーを作成すれば、そのライブラリーの中から、高機能化された変異型を実験的手法によってスクリーニングすることが可能である。
【0064】
[実施形態1]
本発明のアミノ酸置換部位選択装置および置換アミノ酸選択装置は、例えば、図3のブロック図のように表すことができる。図示の通り、この置換アミノ酸選択装置(アミノ酸置換部位選択装置)100は、タンパク質と、前記タンパク質と結合するリガンドとの複合体の少なくとも一部の立体構造を取得する構造取得手段102と、データ処理装置101と、出力手段200とを含む。データ処理装置101は、前記複合体立体構造における各原子に力場パラメータを付与する力場パラメータ付与手段130と、前記力場パラメータに基づき、分子シミュレーションを実施する分子シミュレーション手段140と、前記分子シミュレーションに基づき、前記タンパク質を構成するアミノ酸残基の中で前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基のリストを作成するアミノ酸残基リスト作成手段150と、前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基と前記リガンドとの静電的相互作用エネルギーとファン・デル・ワールス斥力エネルギーとの和エネルギーを、前記アミノ酸残基ごとに計算する和エネルギー計算手段160と、前記リガンドと接触可能な各アミノ酸残基と前記各和エネルギーとを対応させたリストを作成する和エネルギーリスト作成手段170と、前記和エネルギーが大きいアミノ酸残基から順に優先的にアミノ酸置換部位として選択するアミノ酸置換部位選択手段180とを含む。データ処理装置101は、さらに、アミノ酸種リスト作成手段191と、置換アミノ酸選択手段192とを含み、アミノ酸置換部位選択装置100において、アミノ酸置換部位を選択するとともに、前記タンパク質の前記和エネルギーリストと、前記アミノ酸置換部位のアミノ酸を種々の異なるアミノ酸種で置換した変異型タンパク質の前記和エネルギーリストとを作成し、アミノ酸種リスト作成手段191において、前記タンパク質および前記各変異型タンパク質における前記アミノ酸置換部位のアミノ酸種と、前記アミノ酸置換部位の前記和エネルギーとを対応させたリストを作成し、前記置換アミノ酸選択手段192において、前記和エネルギーが小さいアミノ酸種から順に優先的に置換アミノ酸として選択する。
【0065】
なお、同図の装置100は、アミノ酸種リスト作成手段191と、置換アミノ酸選択手段192とを含まないアミノ酸置換部位選択装置であっても良いが、アミノ酸種リスト作成手段191と、置換アミノ酸選択手段192とを含み、置換アミノ酸選択装置としても使用可能であることが好ましい。構造取得手段102は、特に限定されない。構造取得手段102は、例えば、後述の実施形態2のように、データベースからデータをダウンロードする手段を含んでいても良いし、または、データ処理装置101に、タンパク質とアミノ酸との複合体の立体構造を入力するための、キーボード等であっても良い。また、出力手段200は、必須ではないが、あることが好ましい。出力手段200も特に限定されず、例えば、ディスプレイ、プリンター等であっても良い。
【0066】
また、本発明のアミノ酸置換部位選択装置および置換アミノ酸選択装置において、各手段は、それぞれ別でもよいが、1つの手段が複数の手段の機能を兼ね備えていてもよい。
【0067】
また、本発明のアミノ酸置換部位選択方法および置換アミノ酸選択方法は、例えば、図4のフローチャート図のようにして行うことができる。すなわち、まず、タンパク質と、前記タンパク質と結合するリガンドとの複合体の少なくとも一部の立体構造を取得する(S101)。この構造取得工程S101は、例えば、構造取得手段102によって実行できる。つぎに、前記複合体立体構造における各原子に力場パラメータを付与する(S102A)。この力場パラメータ付与工程S102Aは、例えば、力場パラメータ付与手段130によって実行できる。そして、前記力場パラメータに基づき、分子シミュレーションを実施する(S102B)。この分子シミュレーション工程S102Bは、例えば、分子シミュレーション手段140によって実行できる。さらに、前記分子シミュレーションに基づき、前記タンパク質を構成するアミノ酸残基の中で前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基のリストを作成する(S104)。このアミノ酸残基リスト作成工程S104は、例えば、アミノ酸残基リスト作成手段150によって実行できる。つぎに、前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基と前記リガンドとの静電的相互作用エネルギーとファン・デル・ワールス斥力エネルギーとの和エネルギーを、前記アミノ酸残基ごとに計算する(S105)。この和エネルギー計算工程S105は、例えば、和エネルギー計算手段160によって実行できる。そして、前記リガンドと接触可能な各アミノ酸残基と前記各和エネルギーとを対応させたリストを作成する(S106)。この和エネルギーリスト作成工程S106は、例えば、和エネルギーリスト作成手段170によって実行できる。さらに、前記和エネルギーが大きいアミノ酸残基から順に優先的にアミノ酸置換部位として選択する(S107)。このアミノ酸置換部位選択工程S107は、例えば、アミノ酸置換部位選択手段180によって実行できる。さらに、置換アミノ酸(アミノ酸種)の選択を行うか行わないかを決定する(S107’)。置換アミノ酸(アミノ酸種)の選択を行わない場合は、データ処理を終了し、必要に応じ、前記アミノ酸部位選択の結果を出力する(S109)。この出力工程S109は、例えば、出力手段200によって実行できる。以上のようにして、本実施形態のアミノ酸置換部位選択方法を実施することができる。
【0068】
また、同図において、アミノ酸置換部位選択工程S107後、工程S107’において、置換アミノ酸(アミノ酸種)の選択を行うと決定した場合は、選択したアミノ酸置換部位を種々の異なるアミノ酸種で置換した変異型タンパク質とリガンドとの複合体の立体構造を取得する(S101)。その後、前記種々の変異型タンパク質複合体について、前記工程S101〜106を繰り返し、前記工程S106において、前記変異型タンパク質複合体の和エネルギーリストを作成する。その後、前記タンパク質および前記各変異型タンパク質における前記アミノ酸置換部位のアミノ酸種と、前記アミノ酸置換部位の前記和エネルギーとを対応させたリストを作成する(S108A)。このアミノ酸種リスト作成工程S108Aは、例えば、アミノ酸種リスト作成手段S191を用いて行うことができる。さらに、前記和エネルギーが小さいアミノ酸種から順に優先的に置換アミノ酸として選択する(S108B)。この置換アミノ酸選択工程108Bは、例えば、置換アミノ酸選択手段192を用いて行うことができる。さらに、必要に応じ、前記置換アミノ酸選択の結果を出力する(S109)。この出力工程S109は、例えば、出力手段200によって実行できる。以上のようにして、本実施形態の置換アミノ酸選択方法を実施することができる。
【0069】
[実施形態2]
次に、本発明のさらに別の実施形態について説明する。
【0070】
図5は、本実施形態の装置の構成を模式的に示すブロック図である。同図において、図3と同様の部分には同一の符号を付している。また、本実施形態では、タンパク質などの生体高分子の分子シミュレーションを対象として本発明を適用する場合を説明する。
【0071】
説明の便宜上、以下において、前記和エネルギーを、下記式(16)のように略記する。

和エネルギー=Ele+Rep (16)

(和エネルギー:アミノ酸残基ごとに計算された静電的相互作用エネルギー(静電エネルギー)とファン・デル・ワールス斥力エネルギー(vdwエネルギーの斥力項)の和)
【0072】
図5に示すとおり、本実施形態のアミノ酸置換部位選択装置(置換アミノ酸選択装置)500は、インターネット12を介して、シミュレーション対象となる分子(タンパク質とリガンドとの複合体)の立体構造データ(分子を構成する各原子の座標データなど)を格納する初期データ格納部(記憶部)11に接続されている。本実施形態の装置500においては、構造取得手段102が、構造取得部(構造データ取得手段)110と、複合体構造モデル作成部(複合体構造モデル作成手段)120とを含む。構造データ取得手段110は、インターネット12を介して、記憶部11から、前記複合体の少なくとも一部の、前記複合体立体構造データを取得することができる。本実施形態では、前記複合体立体構造として、前記複合体立体構造データに基づき作成された複合体構造モデルを用いて解析する。前記複合体立体構造データは、例えば、実験により得られた複合体立体構造データであってもよい。複合体構造モデル作成手段120は、構造データ取得手段110が取得した前記複合体立体構造データに基づいて前記複合体構造モデルを作成することで、前記複合体立体構造を取得する。
【0073】
なお、記憶部11は、例えば、サーバ等の一部または全部であってもよい。また、記憶部11は、例えば、図5のように、インターネット等を通じて接続された外部データベースでもよいが、装置500内部に格納されたデータベースであってもよい。
【0074】
複合体構造モデル作成部(複合体構造モデル作成手段)120は、前記の通り、記憶部11から取得(ダウンロード)した前記タンパク質複合体の立体構造データに基づき、前記複合体の構造モデルを作成することができる。前記立体構造データは、後述するように、前記タンパク質のアミノ酸置換体である変異型の複合体のデータであることが多いが、野生型の複合体のデータでもよい。前記複合体構造モデルは、酵素反応開始前の前記複合体の構造モデルを含むことが好ましく、酵素反応の遷移状態における前記複合体の構造モデルを含むことがさらに好ましく、その両方を含むことが特に好ましい。力場パラメータ付与手段130は、経験的ポテンシャル(力場)に基づいて構成原子に部分電荷などの力場パラメータをアサイン(付与)することができる。分子シミュレーション手段(演算部)140は、分子動力学シミュレーションを実施して分子系の形態の時間変化をシミュレートすることができる。また、本実施形態においては、前記分子シミュレーションが、前記酵素反応における前記複合体構造モデルの分子の形態の時間的変化のシミュレーションである。アミノ酸残基リスト作成手段(接触アミノ酸リスト作成部)150は、リガンドに接触しうるアミノ酸部位番号のリストを作成可能である。同図の装置500では、和エネルギー計算手段(演算部)160は、非結合相互作用エネルギー計算手段161と、非結合相互作用エネルギー分割手段162とを含む。非結合相互作用エネルギー計算手段161は、前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基と前記リガンドとの非結合相互作用エネルギーを前記アミノ酸残基ごとに計算することが可能である。非結合相互作用エネルギー分割手段162は、前記非結合相互作用エネルギーを、静電的相互作用エネルギー(静電項)と、ファン・デル・ワールス斥力エネルギー(vdw相互作用の斥力項)と、ファン・デル・ワールス引力エネルギー(vdw相互作用の引力項)とに分割することができる。和エネルギーリスト作成手段(リスト作成部)170は、前記Ele+Rep(和エネルギー)の時間平均値を計算し、前記和エネルギー時間平均値の接触アミノ酸番号に対するリスト(和エネルギーリスト)を作成することができる。置換部位の選択部(アミノ酸置換部位選択手段)180は、前記和エネルギーリスト中、前記Ele+Repの時間平均値が大きいアミノ酸残基から順に優先的にアミノ酸置換部位候補として選択することができる。置換部位に対するアミノ酸種の選択部190は、アミノ酸種リスト作成手段191と、置換アミノ酸(アミノ酸種)選択手段192を含み、前記置換部位に対する前記Ele+Repの時間平均値が小さなアミノ酸種から順に優先的に置換アミノ酸候補して選択することができる。出力部(出力手段)200は、前記アミノ酸置換部位または置換アミノ酸(アミノ酸種)の選択結果を出力することができる。
【0075】
本実施形態での実際の計算手順は、例えば、前述の理論に基づき、図6のフローチャート図に従って行うことができる。すなわち、まず、構造データ取得部(構造データ取得手段)110により、インターネット12を通じて、シミュレーション対象の分子(タンパク質とリガンドとの複合体)の立体構造データ(座標データ)を、初期データ格納部11から読み出す(この工程は、図6には示さず)。前記立体構造データは、例えば、結晶構造解析等の実験的手法により得られた、タンパク質とリガンドとの複合体の立体構造(3D構造)であってもよい。また、例えば、つぎの複合体構造モデル作成工程(S101)を行わずに、前記実験的手法により得られた立体構造データをそのまま解析に用いてもよい。しかしながら、酵素の野生株を用いるとリガンドに化学変化が起こってしまうため、結晶構造解析による立体構造データの多くは、基質アナログや反応性を無くした変異株と前記リガンドとの複合体のデータである。そのような結晶構造は、前記野生種の、真の酵素反応前複合体の立体構造を反映していない。また、酵素反応の遷移状態については、結晶構造解析等の実験的手法により酵素とリガンドとの複合体構造を決定できることは、きわめてまれである。このような観点から、つぎの複合体構造モデル作成工程(S101)により、複合体構造モデルを作成して解析に用いることが好ましい。複合体構造モデル作成工程(S101)は特に限定されず、例えば、前記複合体に対してSievegeneやAutoDockなどのドッキングソフトを使用し、リガンドのドッキング構造を探索して複合体構造モデルを作成すれば良い。なお、複合体構造モデルを作成するための、複合体の立体構造データは、前記のように、実験的手法により得られたデータでもよいが、例えば、分子模型等に基づいて得られたごく粗いデータでもよい。
【0076】
変異部位(アミノ酸置換部位)予測(選択)においては、まず、野生株に対する分子動力学シミュレーションを実施する(S102)。この工程S102は、実施形態1と同様、力場パラメータ付与工程S102Aと、分子シミュレーション工程S102Bとを含む。また、予測(選択)した前記変異部位(アミノ酸置換部位)に対するアミノ酸種(置換アミノ酸)の予測においては、まず、アミノ酸種を変えた様々な変異型に対して分子動力学シミュレーションを実施する(S103)。いずれの場合も、リガンド原子とアミノ酸原子の最小距離が7Å(0.7nm)程度のしきい値より小さいものを接触アミノ酸(リガンドに接触可能なアミノ酸残基)として選択することが好ましい(S104)。この工程S104において、接触アミノ酸リスト(アミノ酸残基リスト)を作成する。なお、工程S103は、後述するように、工程S107の後に行う。
【0077】
前記分子動力学シミュレーションは、例えば、AmberやmyPresto、Gromacsのようなソフトを使用して実施することができる。つぎに、前記分子動力学シミュレーションで得られた原子の軌跡の座標に基づいて、接触アミノ酸とリガンド間の相互作用を、静電項とvdw相互作用の引力項と斥力項との3つに分割して計算する(S105)。そして、前記Ele+Repエネルギー(和エネルギー)の時間平均値を、工程S104で作成した接触アミノ酸リスト(アミノ酸残基リスト)中の接触アミノ酸の番号に対してリストまたはプロットする(S106)。置換部位選択(アミノ酸置換部位選択工程)においては、前記Ele+Repの時間平均値がより大きい部位(アミノ酸残基)から順に、優先的にアミノ酸置換部位として選択する(S107)。さらに、置換アミノ酸(アミノ酸種)の選択を行うか行わないかを決定する(S107’)。置換アミノ酸(アミノ酸種)の選択を行わない場合は、データ処理を終了し、必要に応じ、前記アミノ酸置換部位選択の結果を出力する(S109)。
【0078】
工程S107の後、工程S107’において、置換アミノ酸(アミノ酸種)の選択を行うと決定した場合は、前記アミノ酸置換部位におけるアミノ酸種を変えた変異型タンパク質(変異型酵素)に対し、複合体構造モデルを作成し、分子動力学シミュレーションを実施する(S103)。S103は、S102と同様に、力場パラメータ付与工程および分子シミュレーション工程を含む。その後、工程S104〜S106を、前記野生型の複合体と同様に行う。その後、前記アミノ酸置換部位に対する置換アミノ酸種を選択する(S108)。この置換アミノ酸(アミノ酸種)選択工程S108は、前記アミノ酸置換部位を様々なアミノ酸に置換して得られた変異体に対して、前記アミノ酸置換部位に対する前記Ele+Repの時間平均を計算し、その値がより小さいものを優先的に置換アミノ酸種として選択する。
【0079】
なお、本発明のアミノ酸置換部位選択装置、置換アミノ酸選択装置、アミノ酸置換部位選択方法、または置換アミノ酸選択方法において、前記和エネルギー(Ele+Rep)に代えて、前記斥力項すなわちファン・デル・ワールス斥力エネルギー(Rep)を用いてもよい。例えば、酵素によっては、活性ポケット内部が、疎水環境になっており、静電気的相互作用に重要な水分子が存在せず、酸性および塩基性アミノ酸(すなわち、荷電アミノ酸)も、無いか、または稀な場合が有る。そのような場合には、静電項はノイズとなりうるので省いて、斥力項の大きさだけでアミノ酸置換部位または置換アミノ酸の選択を行うことができる。
【0080】
また、前記式(13)で示した従来のCOMBINE法は、計算精度等の性能が低いが、本発明に用いれば、COMBINE法の性能を十分に発揮することが可能である。その要点は、全vdwエネルギーに加えて、vdwエネルギーの斥力項(repulsiveのrepで示す)を採用することにより、近似性能を向上する点である。これを表現したのが下記式(17)である。

ΔF=Σvdwvdw+wvdw,repvdw,rep
+wElele(COMBINE法, modified) (17)
【0081】
前記式(17)の右辺第2項が、前記式(13)に追加された項である。上添字「vdw」で示したアミノ酸残基当たりの項は、全vdwエネルギーであることを示し、上添字「vdw、rep」で示した項は、vdwの斥力項のエネルギーであることを示している。
【0082】
前記式(17)を本発明に用いる場合は、例えば、以下のようにすることができる。
【0083】
係数wの決定方法
活性や副反応比率などの測定結果から得られる自由エネルギーΔFに関して、十分多数の変異型の実験データが有る場合には、まず、個々の変異型に対して分子シミュレーションを行って式(17)中の各エネルギー項uを計算する。次に、各変異型に対するΔFの実験値とエネルギー項uから、係数wを、すべての変異型の実験値が最良に再現される条件で決定する。実験データの個数が少なすぎて、係数wの決定が困難な場合には、vdw全体の項を無視することが好ましい。
【0084】
置換アミノ酸種の活性予測
すでに測定済みの変異型の置換部位のひとつに、新たに別のアミノ酸種を導入すると、活性が向上するか否かを予測するために使用する。まず、そのアミノ酸種に対する分子シミュレーションを実施することによりエネルギー項uを計算し、次に決定済みの係数wを用いて自由エネルギーΔFの推定値を計算する。このΔFの予測値がより小さいアミノ酸種を優先的に候補として選択する。
【0085】
多重置換型
多重置換型のアミノ酸変異に関しては、実験結果は点置換型のアミノ酸変異の効果の重ね合わせで説明できたと主張する報告が多いが、重ね合わせでは説明できないという報告も多い。このように、多重置換の結果を点置換の結果だけから推定することは困難を伴う。しかし、式(17)を用いれば、多重置換の結果を予測することが可能である。まず、多重置換型の変異タンパク質に対して分子シミュレーションを実施し、各エネルギー項uを計算し、決定済みの係数wを用いて自由エネルギーΔFの推定値を(17)式から計算する。このΔFの推定値が小さい変異型を優先的に、多重置換型の候補として選択する。
【実施例】
【0086】
酵素P450SU―1に対する適用
酵素P450SU―1の変異型データ(下記参考文献1および2)に本発明を適用し、アミノ酸置換部位(アミノ酸残基)および置換アミノ酸(アミノ酸種)の選択を行った。アミノ酸置換部位選択装置および置換アミノ酸選択装置は、適宜なコンピュータに、本発明のアミノ酸置換部位選択方法および置換アミノ酸選択方法を実行可能なプログラムをインストールして組み立てた。

[参考文献1] H. Sugimoto, R. Shinkyo, K. Hayashi, S. Yoneda, M. Kamakura, S. Ikushiro, Y.Shiro, and T. Sakaki, Biochemistry, Vol. 47, 4017 (2008)
[参考文献2] K. Hayashi, H. Sugimoto, R, Shinkyo, M. Yamada, S. Ikeda, S. Ikushiro, M. Kamakura, Y. Shiro, T. Sakaki, Biochemistry, Vol. 47, 11964(2008)
【0087】
[構造データ取得工程]
P450SU―1は、本来の基質や生物学的機能は不明であるが、ビタミンD3を水酸化する働きをもつ。しかし、野生型ではその水酸化活性はごく微弱である。すでに、X線結晶構造解析により、野生株の酵素P450SU―1とリガンドとの複合体構造は決定済みであり、前記論文で報告されている。図7(a)に、その複合体結晶構造の主要部を示す。同図において、玉付きのスティックがビタミンD3であり、それ以外はアミノ酸とポルフィリンである。しかし、この複合体構造では、リガンド(基質)であるビタミンD分子は、反応を引き起こす鉄原子から遠く離れており、化学反応が起こることは不可能であった。
【0088】
[構造取得工程(複合体構造モデルの作成)]
そこで、自作のMM/PB(Molecular Mechanics/Poisson Boltzmann)計算ソフトを使用して化合物(ビタミンD3)位置の構造探索を行った。なお、この構造探索は、前記MM/PBソフト以外を用いても可能である。また、いわゆるタンパク質に結合している化合物(リガンド)の構造の位置を探索するためのドッキングソフトとして公開されているAutoDockやSievegeneのようなソフトを用いても、同様に実行できる。構造探索を行うと様々な複合体構造が検索され、順位づけられてソフトから出力されてくる。それらの複合体構造の中から、ビタミンD3の酸化を受ける炭素(図7(a)中で→で示した)が、酵素P450SU−1中のポルフィリンの鉄原子の5Å(0.5nm)以内の距離に近付くものを選択した。このようにして、Reactant Complex(RC、反応物の複合体)の粗い立体構造モデルを構築した。
【0089】
[力場パラメータ付与工程および分子シミュレーション工程]
前記粗い複合体構造を初期構造として、酵素反応前の複合体すなわち反応物の複合体(RC)に対して、約2ナノ秒の古典的分子動力学(MD)シミュレーションを行った。計算には、著名な分子動力計算ソフトであるAmberやmyPrestoを使用した。なお、反応物の複合体の場合には、MDソフトの標準的なプロトコルで力場パラメータをアサインし、MD計算を実施することができる。MD計算は、反応物複合体(RC)のほかに遷移状態(Transition State, TS)に対しても行うのが望ましい。本実施例では、遷移状態に対しては、反応物複合体(RC)に対して得られた構造を出発点として、RydeらのグループによってP450用に提案されている力場を使用して行った。Rydeらの力場は、RCならびにTSの両方に適用できるのが特徴である(下記参考文献3)。P450以外の酵素に関しては、遷移状態の力場が提案されている例はあるが(下記参考文献4)、適用範囲が十分広くは無い。そこで、P450以外のタンパク質に対しては、例えば、まず、低分子モデル系に対して詳細な量子化学計算を行って遷移状態を決定し、その遷移状態におけるボンド長やボンド結合角などの幾何情報やバネ定数などを用いて、前記酵素反応の遷移状態の力場パラメータを決定してもよい。なお、前記Rydeらの力場パラメータも、このような方法で決定されたものである。

[参考文献3] P. Rydberg, L. Olsen, Per-Ola Norrby, and U. Ryde, J. Chem. Theory Comput., Vol. 3, 1765 (2007).
[参考文献4] A. C. T. van Duin, S. Dasgupta, F. Lorant, W.A. Goddard, J. Phys. Chem., Vol. 105, 9396 (2001).
【0090】
図7(b)と図7(c)は、それぞれ、MD計算で得られたスナップショットであり、反応物複合体(RC)と反応遷移状態(TS)の代表的な構造を表している。化合物の位置は、(a)から(c)に進むにつれて、反応に関与する鉄原子に近づいている。
【0091】
[アミノ酸残基リスト作成工程]
MD計算で得られた原子の軌跡から、20ピコ秒ごとに100個のスナップショットを選んだ。これらのスナップショットにおいて、ビタミンD3に対して7Å(0.7nm)以内に接触しているアミノ酸をリストしたところ、図8に示した78個のアミノ酸残基のリストが得られた。なお、図8では、第1列は接触アミノ酸番号、第2列はアミノ酸種、第3列はProtein Data Bank(PDB)に登録されている立体構造データのアミノ酸番号である。
【0092】
なお、このP450SU−1に対しては、一部のアミノ酸残基に対してALAへの置換による変異型が作成されて活性測定実験が行われている。その結果を、図9に示した。同図において、活性値は1α位の炭素が水酸化されたビタミンD3に対する測定値であり、野生株の活性値は2.6である(前記参考文献1)。ちなみに、図9中に示したアミノ酸は、ALA置換によって活性が向上したアミノ酸部位であり、番号は、接触アミノ酸番号である。
【0093】
[和エネルギーリスト作成工程およびアミノ酸置換部位選択工程]
前記スナップショットの複合体構造に対して、前記接触アミノ酸残基ごとに、化合物(リガンド)と接触アミノ酸残基との相互作用エネルギーを計算し、その相互作用エネルギーの時間平均値を計算した。なお、ここで示す結果は、vdw型の相互作用を、前記のWeeks-Chandler-Andersen(WCA)の方法を用いて、斥力項と引力項に分割して計算した。その結果を、図10から図12に示す。また、図13に、RCに対して、全vdwエネルギーを接触アミノ酸番号に対してプロットした結果を示す。
【0094】
図10から図13中において、クロス印(X)は、実験で得られた活性(前記参考文献1)の傾向を示す活性指標値を示す。すなわち、+2は、活性が野生型の約10倍のもの、+1は、活性が約2倍のもの、0は、同程度のもの、−1は、約1/2のもの、−2は、約1/10および活性が検出限界以下のものが得られた部位である。X印のついてない部位については、変異型実験は行われていないので活性は不明である。活性指標値は図9の最後の列にも記入されている。
【0095】
図10と図11は、酵素反応前の酵素とリガンドとの複合体(RC)の静電エネルギーとvdwの斥力エネルギーの和を接触アミノ酸番号に対してプロットした図である。なお、図11は、図10の一部の拡大図である。
【0096】
図10および11に示したRCでEle+Repが大きなエネルギー値を取るのは7番のアミノ酸であるが、これは、実際に活性が大幅に向上したアミノ酸部位である。図11において、点線で囲んだ部分は、9から78番目のアミノ酸のうち、エネルギーしきい値0.5以上をとった部位を示す。このうち実験が行われたものは8個である。若干であるが活性が向上した1個の変異(58番)は、正しく選択されている。また、活性が非向上の7変異のうち、3個は正しく棄却されている(27、33、41番)。このように、本実施例において、酵素反応前の酵素とリガンドとの複合体(RC)構造モデルに基づく解析は、おおむね良好な結果を示した。ただし、活性が大幅に向上した1番の変異が正しく選択されていなかった。
【0097】
図12は、遷移状態(TS)に関する図であり、図10と同様のプロット図である。TSで大きなエネルギー値になるのは1番と7番のアミノ酸であるが、これは、実際に活性が大幅に向上したアミノ酸である。RCだけからの選択では見落とされていた1番のアミノ酸が、さらにTSを用いた解析では、正しく選択されており、このことは、きわめて重要である。このように、RCの構造とTSの構造は、かなり異なることがあり、RCもTSも双方の安定化が、活性や副反応制御に寄与しうるので、RCと同時にTSの構造を考慮して、残基ごとのエネルギーが高い部位の置換を行うのが特に好ましい。
【0098】
以上の通り、実験において活性が大幅に向上した重要変異部位は、本実施例において、すべて適切に選択可能であった。活性が若干向上した1個の変異部位も選択可能であった。このように、このP450SU−1の系では、本発明の方法は十分、良好に働くことが確認された。
【0099】
なお、図13は、RCに対して、全vdwエネルギーを接触アミノ酸番号に対してプロットした図である。同図から分かるように、活性と全vdwエネルギーの間には全く相関がみられなかった。
【0100】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載しうるが、以下には限定されない。
【0101】
(付記1)
タンパク質と、前記タンパク質と結合するリガンドとの複合体の少なくとも一部の立体構造を取得する構造取得手段と、
前記複合体立体構造における各原子に力場パラメータを付与する力場パラメータ付与手段と、
前記力場パラメータに基づき、分子シミュレーションを実施する分子シミュレーション手段と、
前記分子シミュレーションに基づき、前記タンパク質を構成するアミノ酸残基の中で前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基のリストを作成するアミノ酸残基リスト作成手段と、
前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基と前記リガンドとの静電的相互作用エネルギーとファン・デル・ワールス斥力エネルギーとの和エネルギーを、前記アミノ酸残基ごとに計算する和エネルギー計算手段と、
前記リガンドと接触可能な各アミノ酸残基と前記各和エネルギーとを対応させたリストを作成する和エネルギーリスト作成手段と、
前記和エネルギーが大きいアミノ酸残基から順に優先的にアミノ酸置換部位として選択するアミノ酸置換部位選択手段と、
を含むことを特徴とするタンパク質分子のアミノ酸置換部位選択装置。
【0102】
(付記2)
前記力場パラメータ付与手段において、経験的ポテンシャルに基づいて前記力場パラメータを付与することを特徴とする付記1記載のアミノ酸置換部位選択装置。
【0103】
(付記3)
前記分子シミュレーション手段において、経験的ポテンシャルに基づいて前記分子シミュレーションを実施することを特徴とする付記1または2記載のアミノ酸置換部位選択装置。
【0104】
(付記4)
前記和エネルギー計算手段において、経験的ポテンシャルに基づいて前記和エネルギーを計算することを特徴とする付記1から3のいずれかに記載のアミノ酸置換部位選択装置。
【0105】
(付記5)
前記力場パラメータが、原子間相互作用パラメータを含むことを特徴とする付記1から4のいずれかに記載のアミノ酸置換部位選択装置。
【0106】
(付記6)
前記アミノ酸残基リスト作成手段において、前記リガンド構成原子との最小距離が所定のしきい値よりも小さいアミノ酸残基を、前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基として選択することを特徴とする付記1から5のいずれかに記載のアミノ酸置換部位選択装置。
【0107】
(付記7)
さらに、前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基と前記リガンドとの非結合相互作用エネルギーを前記アミノ酸残基ごとに計算する非結合相互作用エネルギー計算手段と、
前記非結合相互作用エネルギーを、静電的相互作用エネルギーと、ファン・デル・ワールス斥力エネルギーと、ファン・デル・ワールス引力エネルギーとに分割する非結合相互作用エネルギー分割手段と、
を含むことを特徴とする付記1から6のいずれかに記載のアミノ酸置換部位選択装置。
【0108】
(付記8)
前記タンパク質が、酵素であり、
前記リガンドが、前記酵素の基質であり、
前記複合体の形成により、酵素反応が起こり、
前記複合体立体構造が、前記酵素反応開始前の前記複合体の立体構造、および、前記酵素反応の遷移状態における前記複合体の立体構造の少なくとも一方であることを特徴とする付記1から7のいずれかに記載のアミノ酸置換部位選択装置。
【0109】
(付記9)
前記複合体立体構造が、複合体立体構造データ、または、分子シミュレーションにより作成された複合体構造モデルであることを特徴とする付記1から8のいずれかに記載のアミノ酸置換部位選択装置。
【0110】
(付記10)
前記複合体構造モデルが、経験的ポテンシャルに基づいて作成された複合体構造モデルであることを特徴とする付記9記載のアミノ酸置換部位選択装置。
【0111】
(付記11)
前記複合体構造モデルが、複合体立体構造データに基づき作成された複合体構造モデルであることを特徴とする付記9または10記載のアミノ酸置換部位選択装置。
【0112】
(付記12)
前記複合体立体構造が、複合体立体構造データに基づき作成された複合体構造モデルであり、
前記構造取得手段が、構造データ取得手段と、複合体構造モデル作成手段とを含み、
前記構造データ取得手段において、前記複合体の少なくとも一部の、前記複合体立体構造データを取得し、
前記複合体構造モデル作成手段において、前記複合体立体構造データに基づいて前記複合体構造モデルを作成することで、前記複合体立体構造を取得し、
前記分子シミュレーション手段における前記分子シミュレーションが、前記酵素反応における前記複合体構造モデルの分子の形態の時間的変化のシミュレーションであることを特徴とする付記8から11のいずれか一項に記載のアミノ酸置換部位選択装置。
【0113】
(付記13)
タンパク質と、前記タンパク質と結合するリガンドとの複合体の少なくとも一部の立体構造を取得する構造取得手段と、
前記複合体立体構造における各原子に力場パラメータを付与する力場パラメータ付与手段と、
前記力場パラメータに基づき、分子シミュレーションを実施する分子シミュレーション手段と、
前記分子シミュレーションに基づき、前記タンパク質を構成するアミノ酸残基の中で前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基のリストを作成するアミノ酸残基リスト作成手段と、
前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基と前記リガンドとのファン・デル・ワールス斥力エネルギーを、前記アミノ酸残基ごとに計算するファン・デル・ワールス斥力エネルギー計算手段と、
前記リガンドと接触可能な各アミノ酸残基と前記各ファン・デル・ワールス斥力エネルギーとを対応させたリストを作成するファン・デル・ワールス斥力エネルギーリスト作成手段と、
前記ファン・デル・ワールス斥力エネルギーが大きいアミノ酸残基から順に優先的にアミノ酸置換部位として選択するアミノ酸置換部位選択手段と、
を含むことを特徴とするタンパク質分子のアミノ酸置換部位選択装置。
【0114】
(付記14)
付記1から12のいずれかに記載のアミノ酸置換部位選択装置と、アミノ酸種リスト作成手段と、置換アミノ酸選択手段とを含み、
前記アミノ酸置換部位選択装置において、アミノ酸置換部位を選択するとともに、前記タンパク質の前記和エネルギーリストと、前記アミノ酸置換部位のアミノ酸を種々の異なるアミノ酸種で置換した変異型タンパク質の前記和エネルギーリストとを作成し、
前記アミノ酸種リスト作成手段において、前記タンパク質および前記各変異型タンパク質における前記アミノ酸置換部位のアミノ酸種と、前記アミノ酸置換部位の前記和エネルギーとを対応させたリストを作成し、
前記置換アミノ酸選択手段において、前記和エネルギーが小さいアミノ酸種から順に優先的に置換アミノ酸として選択することを特徴とする、タンパク質分子の置換アミノ酸選択装置。
【0115】
(付記15)
付記13に記載のアミノ酸置換部位選択装置と、アミノ酸種リスト作成手段と、置換アミノ酸選択手段とを含み、
前記アミノ酸置換部位選択装置において、アミノ酸置換部位を選択するとともに、前記タンパク質の前記ファン・デル・ワールス斥力エネルギーリストと、前記アミノ酸置換部位のアミノ酸を種々の異なるアミノ酸種で置換した変異型タンパク質の前記ファン・デル・ワールス斥力エネルギーリストとを作成し、
前記アミノ酸種リスト作成手段において、前記タンパク質および前記各変異型タンパク質における前記アミノ酸置換部位のアミノ酸種と、前記アミノ酸置換部位の前記ファン・デル・ワールス斥力エネルギーとを対応させたリストを作成し、
前記置換アミノ酸選択手段において、前記ファン・デル・ワールス斥力エネルギーが小さいアミノ酸種から順に優先的に置換アミノ酸として選択することを特徴とする、タンパク質分子の置換アミノ酸選択装置。
【0116】
(付記16)
タンパク質と、前記タンパク質と結合するリガンドとの複合体の少なくとも一部の立体構造を取得する構造取得工程と、
前記複合体立体構造における各原子に力場パラメータを付与する力場パラメータ付与工程と、
前記力場パラメータに基づき、分子シミュレーションを実施する分子シミュレーション工程と、
前記分子シミュレーションに基づき、前記タンパク質を構成するアミノ酸残基の中で前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基のリストを作成するアミノ酸残基リスト作成工程と、
前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基と前記リガンドとの静電的相互作用エネルギーとファン・デル・ワールス斥力エネルギーとの和エネルギーを、前記アミノ酸残基ごとに計算する和エネルギー計算工程と、
前記リガンドと接触可能な各アミノ酸残基と前記各和エネルギーとを対応させたリストを作成する和エネルギーリスト作成工程と、
前記和エネルギーが大きいアミノ酸残基から順に優先的にアミノ酸置換部位として選択するアミノ酸置換部位選択工程と、
を含むことを特徴とするタンパク質分子のアミノ酸置換部位選択方法。
【0117】
(付記17)
前記力場パラメータ付与工程において、経験的ポテンシャルに基づいて前記力場パラメータを付与することを特徴とする付記16記載のアミノ酸置換部位選択方法。
【0118】
(付記18)
前記分子シミュレーション工程において、経験的ポテンシャルに基づいて前記分子シミュレーションを実施することを特徴とする付記16または17記載のアミノ酸置換部位選択方法。
【0119】
(付記19)
前記和エネルギー計算工程において、経験的ポテンシャルに基づいて前記和エネルギーを計算することを特徴とする付記16から18のいずれかに記載のアミノ酸置換部位選択方法。
【0120】
(付記20)
前記力場パラメータが、原子間相互作用パラメータを含むことを特徴とする付記16から19のいずれかに記載のアミノ酸置換部位選択方法。
【0121】
(付記21)
前記アミノ酸残基リスト作成工程において、前記リガンド構成原子との最小距離が所定のしきい値よりも小さいアミノ酸残基を、前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基として選択することを特徴とする付記16から20のいずれかに記載のアミノ酸置換部位選択方法。
【0122】
(付記22)
さらに、前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基と前記リガンドとの非結合相互作用エネルギーを前記アミノ酸残基ごとに計算する非結合相互作用エネルギー計算工程と、
前記非結合相互作用エネルギーを、静電的相互作用エネルギーと、ファン・デル・ワールス斥力エネルギーと、ファン・デル・ワールス引力エネルギーとに分割する非結合相互作用エネルギー分割工程と、
を含むことを特徴とする付記16から21のいずれかに記載のアミノ酸置換部位選択方法。
【0123】
(付記23)
前記タンパク質が、酵素であり、
前記リガンドが、前記酵素の基質であり、
前記複合体の形成により、酵素反応が起こり、
前記複合体立体構造が、前記酵素反応開始前の前記複合体の立体構造、および、前記酵素反応の遷移状態における前記複合体の立体構造の少なくとも一方であることを特徴とする付記16から22のいずれかに記載のアミノ酸置換部位選択方法。
【0124】
(付記24)
前記複合体立体構造が、複合体立体構造データ、または、分子シミュレーションにより作成された複合体構造モデルであることを特徴とする付記16から23のいずれかに記載のアミノ酸置換部位選択方法。
【0125】
(付記25)
前記複合体構造モデルが、経験的ポテンシャルに基づいて作成された複合体構造モデルであることを特徴とする付記24記載のアミノ酸置換部位選択方法。
【0126】
(付記26)
前記複合体構造モデルが、複合体立体構造データに基づき作成された複合体構造モデルであることを特徴とする付記24または25記載のアミノ酸置換部位選択方法。
【0127】
(付記27)
前記複合体立体構造が、複合体立体構造データに基づき作成された複合体構造モデルであり、
前記構造取得工程が、構造データ取得工程と、複合体構造モデル作成工程とを含み、
前記構造データ取得工程において、前記複合体の少なくとも一部の、前記複合体立体構造データを取得し、
前記複合体構造モデル作成工程において、前記複合体立体構造データに基づいて前記複合体構造モデルを作成することで、前記複合体立体構造を取得し、
前記分子シミュレーション工程における前記分子シミュレーションが、前記酵素反応における前記複合体構造モデルの分子の形態の時間的変化のシミュレーションであることを特徴とする付記23から26のいずれかに記載のアミノ酸置換部位選択方法。
【0128】
(付記28)
タンパク質と、前記タンパク質と結合するリガンドとの複合体の少なくとも一部の立体構造を取得する構造取得工程と、
前記複合体立体構造における各原子に力場パラメータを付与する力場パラメータ付与工程と、
前記力場パラメータに基づき、分子シミュレーションを実施する分子シミュレーション工程と、
前記分子シミュレーションに基づき、前記タンパク質を構成するアミノ酸残基の中で前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基のリストを作成するアミノ酸残基リスト作成工程と、
前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基と前記リガンドとのファン・デル・ワールス斥力エネルギーを、前記アミノ酸残基ごとに計算するファン・デル・ワールス斥力エネルギー計算工程と、
前記リガンドと接触可能な各アミノ酸残基と前記各ファン・デル・ワールス斥力エネルギーとを対応させたリストを作成するファン・デル・ワールス斥力エネルギーリスト作成工程と、
前記ファン・デル・ワールス斥力エネルギーが大きいアミノ酸残基から順に優先的にアミノ酸置換部位として選択するアミノ酸置換部位選択工程と、
を含むことを特徴とするタンパク質分子のアミノ酸置換部位選択方法。
【0129】
(付記29)
付記16から27のいずれかに記載のアミノ酸置換部位選択方法によりアミノ酸置換部位を選択する、アミノ酸置換部位選択方法実施工程と、アミノ酸種リスト作成工程と、置換アミノ酸選択工程とを含み、
前記アミノ酸置換部位選択方法実施工程において、アミノ酸置換部位を選択するとともに、前記タンパク質の前記和エネルギーリストと、前記アミノ酸置換部位のアミノ酸を種々の異なるアミノ酸種で置換した変異型タンパク質の前記和エネルギーリストとを作成し、
前記アミノ酸種リスト作成工程において、前記タンパク質および前記各変異型タンパク質における前記アミノ酸置換部位のアミノ酸種と、前記アミノ酸置換部位の前記和エネルギーとを対応させたリストを作成し、
前記置換アミノ酸選択工程において、前記和エネルギーが小さいアミノ酸種から順に優先的に置換アミノ酸として選択することを特徴とする、タンパク質分子の置換アミノ酸選択方法。
【0130】
(付記30)
付記28に記載のアミノ酸置換部位選択方法によりアミノ酸置換部位を選択する、アミノ酸置換部位選択方法実施工程と、アミノ酸種リスト作成工程と、置換アミノ酸選択工程とを含み、
前記アミノ酸置換部位選択方法実施工程において、アミノ酸置換部位を選択するとともに、前記タンパク質の前記ファン・デル・ワールス斥力エネルギーリストと、前記アミノ酸置換部位のアミノ酸を種々の異なるアミノ酸種で置換した変異型タンパク質の前記ファン・デル・ワールス斥力エネルギーリストとを作成し、
前記アミノ酸種リスト作成工程において、前記タンパク質および前記各変異型タンパク質における前記アミノ酸置換部位のアミノ酸種と、前記アミノ酸置換部位の前記ファン・デル・ワールス斥力エネルギーとを対応させたリストを作成し、
前記置換アミノ酸選択工程において、前記ファン・デル・ワールス斥力エネルギーが小さいアミノ酸種から順に優先的に置換アミノ酸として選択することを特徴とする、タンパク質分子の置換アミノ酸選択方法。
【0131】
(付記31)
付記16から30のいずれかに記載の方法を、コンピュータ上で実行可能なことを特徴とするプログラム。
【0132】
(付記32)
付記31記載のプログラムを記録していることを特徴とする記録媒体。
【符号の説明】
【0133】
11 データベース(タンパク質(酵素)とリガンドの複合体の立体構造データの格納部)
100、500 アミノ酸置換部位選択装置(置換アミノ酸選択装置)
101 データ処理装置
102 構造取得手段
130 力場パラメータ付与手段
140 分子シミュレーション手段
150 アミノ酸残基リスト作成手段
160 和エネルギー計算手段
170 和エネルギーリスト作成手段
180 アミノ酸置換部位選択手段
191 アミノ酸種リスト作成手段
192 置換アミノ酸選択手段
200 出力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質と、前記タンパク質と結合するリガンドとの複合体の少なくとも一部の立体構造を取得する構造取得手段と、
前記複合体立体構造における各原子に力場パラメータを付与する力場パラメータ付与手段と、
前記力場パラメータに基づき、分子シミュレーションを実施する分子シミュレーション手段と、
前記分子シミュレーションに基づき、前記タンパク質を構成するアミノ酸残基の中で前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基のリストを作成するアミノ酸残基リスト作成手段と、
前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基と前記リガンドとの静電的相互作用エネルギーとファン・デル・ワールス斥力エネルギーとの和エネルギーを、前記アミノ酸残基ごとに計算する和エネルギー計算手段と、
前記リガンドと接触可能な各アミノ酸残基と前記各和エネルギーとを対応させたリストを作成する和エネルギーリスト作成手段と、
前記和エネルギーが大きいアミノ酸残基から順に優先的にアミノ酸置換部位として選択するアミノ酸置換部位選択手段と、
を含むことを特徴とするタンパク質分子のアミノ酸置換部位選択装置。
【請求項2】
前記力場パラメータ付与手段において、経験的ポテンシャルに基づいて前記力場パラメータを付与し、
前記分子シミュレーション手段において、経験的ポテンシャルに基づいて前記分子シミュレーションを実施し、
前記和エネルギー計算手段において、経験的ポテンシャルに基づいて前記和エネルギーを計算することを特徴とする請求項1記載のアミノ酸置換部位選択装置。
【請求項3】
前記タンパク質が、酵素であり、
前記リガンドが、前記酵素の基質であり、
前記複合体の形成により、酵素反応が起こり、
前記複合体立体構造が、前記酵素反応開始前の前記複合体の立体構造、および、前記酵素反応の遷移状態における前記複合体の立体構造の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1または2記載のアミノ酸置換部位選択装置。
【請求項4】
前記複合体立体構造が、複合体立体構造データ、または、分子シミュレーションにより作成された複合体構造モデルであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のアミノ酸置換部位選択装置。
【請求項5】
前記複合体立体構造が、複合体立体構造データに基づき作成された複合体構造モデルであり、
前記構造取得手段が、構造データ取得手段と、複合体構造モデル作成手段とを含み、
前記構造データ取得手段において、前記複合体の少なくとも一部の、前記複合体立体構造データを取得し、
前記複合体構造モデル作成手段において、前記複合体立体構造データに基づいて前記複合体構造モデルを作成することで、前記複合体立体構造を取得し、
前記分子シミュレーション手段における前記分子シミュレーションが、前記酵素反応における前記複合体構造モデルの分子の形態の時間的変化のシミュレーションであることを特徴とする請求項3または4記載のアミノ酸置換部位選択装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のアミノ酸置換部位選択装置と、アミノ酸種リスト作成手段と、置換アミノ酸選択手段とを含み、
前記アミノ酸置換部位選択装置において、アミノ酸置換部位を選択するとともに、前記タンパク質の前記和エネルギーリストと、前記アミノ酸置換部位のアミノ酸を種々の異なるアミノ酸種で置換した変異型タンパク質の前記和エネルギーリストとを作成し、
前記アミノ酸種リスト作成手段において、前記タンパク質および前記各変異型タンパク質における前記アミノ酸置換部位のアミノ酸種と、前記アミノ酸置換部位の前記和エネルギーとを対応させたリストを作成し、
前記置換アミノ酸選択手段において、前記和エネルギーが小さいアミノ酸種から順に優先的に置換アミノ酸として選択することを特徴とする、タンパク質分子の置換アミノ酸選択装置。
【請求項7】
タンパク質と、前記タンパク質と結合するリガンドとの複合体の少なくとも一部の立体構造を取得する構造取得工程と、
前記複合体立体構造における各原子に力場パラメータを付与する力場パラメータ付与工程と、
前記力場パラメータに基づき、分子シミュレーションを実施する分子シミュレーション工程と、
前記分子シミュレーションに基づき、前記タンパク質を構成するアミノ酸残基の中で前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基のリストを作成するアミノ酸残基リスト作成工程と、
前記リガンドと接触可能なアミノ酸残基と前記リガンドとの静電的相互作用エネルギーとファン・デル・ワールス斥力エネルギーとの和エネルギーを、前記アミノ酸残基ごとに計算する和エネルギー計算工程と、
前記リガンドと接触可能な各アミノ酸残基と前記各和エネルギーとを対応させたリストを作成する和エネルギーリスト作成工程と、
前記和エネルギーが大きいアミノ酸残基から順に優先的にアミノ酸置換部位として選択するアミノ酸置換部位選択工程と、
を含むことを特徴とするタンパク質分子のアミノ酸置換部位選択方法。
【請求項8】
請求項7記載のアミノ酸置換部位選択方法によりアミノ酸置換部位を選択する、アミノ酸置換部位選択方法実施工程と、アミノ酸種リスト作成工程と、置換アミノ酸選択工程とを含み、
前記アミノ酸置換部位選択方法実施工程において、アミノ酸置換部位を選択するとともに、前記タンパク質の前記和エネルギーリストと、前記アミノ酸置換部位のアミノ酸を種々の異なるアミノ酸種で置換した変異型タンパク質の前記和エネルギーリストとを作成し、
前記アミノ酸種リスト作成工程において、前記タンパク質および前記各変異型タンパク質における前記アミノ酸置換部位のアミノ酸種と、前記アミノ酸置換部位の前記和エネルギーとを対応させたリストを作成し、
前記置換アミノ酸選択工程において、前記和エネルギーが小さいアミノ酸種から順に優先的に置換アミノ酸として選択することを特徴とする、タンパク質分子の置換アミノ酸選択方法。
【請求項9】
請求項7または8記載の方法を、コンピュータ上で実行可能なことを特徴とするプログラム。
【請求項10】
請求項9記載のプログラムを記録していることを特徴とする記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−83966(P2012−83966A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230117(P2010−230117)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合研究開発機構「微生物機能を活用した高度製造基盤技術開発/微生物反応の多様化・高機能化技術の開発/高効率酵素設計のための酵素反応シミュレーション技術の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)