説明

タンパク質分解処理方法及びタンパク質分解処理用組成物

【課題】タンパク質分解菌によるタンパク質分解速度を向上させる。
【解決手段】タンパク質分解菌とメタン生成菌の共培養環境下でタンパク質またはタンパク質含有物を分解処理するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質分解処理方法及びタンパク質分解処理用組成物に関する。さらに詳述すると、本発明は、例えばタンパク質を多く含む食品系廃棄物等に用いて好適なタンパク質分解処理方法及びタンパク質分解処理用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質処理方法に関する従来技術としては、例えば特許文献1に記載の方法が知られている。具体的には、バチルスステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)等のバチルス属に属する好熱性タンパク質分解菌の存在下で、タンパク質を含む有機性廃棄物を分解処理することが記載されている。
【0003】
このように、好熱性タンパク質分解菌を用いることで、50℃以上の温度で分解処理を行うことができることから、有機性廃棄物に含まれる植物性油脂や動物性油脂を溶解させて、タンパク質分解菌とタンパク質の接触面積を増加させることができ、タンパク質を分解し易くできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−274936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の好熱性タンパク質分解菌によるタンパク質分解処理方法では、好熱性タンパク質分解菌自体のタンパク質分解能が低く、タンパク質分解処理を効率よく行えない問題があった。
【0006】
また、従来のタンパク質分解処理方法では、タンパク質を含む廃棄物等の分解処理はできるものの、そこからエネルギーを回収することはできなかった。
【0007】
本発明は、タンパク質分解菌によるタンパク質分解速度を向上させることのできるタンパク質分解処理方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、植物性油脂や動物性油脂が溶解する50℃以上の温度において、好熱性タンパク質分解菌によるタンパク質分解速度を向上させることのできるタンパク質分解処理方法を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、タンパク質分解菌によるタンパク質分解速度を向上させながらも、エネルギーを回収することのできる方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、タンパク質を効率よく分解させつつ、エネルギーを回収することのできるタンパク質分解処理用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため本願発明者等が鋭意検討を行った結果、本願発明者等が単離した好熱性タンパク質分解菌(CT−1株)と好熱性水素資化性メタン生成菌であるメタノサーモバクター サームオートトロフィカス(Methanothermobacter thermautotrophicus)との共培養環境下でタンパク質を分解処理すると、好熱性タンパク質分解菌(CT−1株)の単独培養下でタンパク質を分解処理した場合と比較して、タンパク質の分解速度が大幅に向上することを知見するに至った。さらには、好熱性水素資化性メタン生成菌によりメタンガスを含むバイオガスが生成されて、これをエネルギーとして回収できることを知見するに至った。
【0012】
本願発明者等は、上記知見に基づき、タンパク質分解菌全般とメタン生成菌全般との共培養環境下においても、タンパク質分解菌の単独培養下よりもタンパク質の分解速度を大幅に向上できる可能性が導かれることを知見し、本願発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、請求項1に記載のタンパク質分解処理方法は、タンパク質分解菌とメタン生成菌の共培養環境下でタンパク質またはタンパク質含有物を分解処理するようにしている。
【0014】
ここで、請求項2に記載したように、請求項1に記載のタンパク質分解処理方法において、タンパク質分解菌を好熱性タンパク質分解菌とし、メタン生成菌を好熱性メタン生成菌とし、共存環境の温度を50℃以上とすることが好ましい。
【0015】
また、請求項3に記載したように、好熱性タンパク質分解菌は、16S rRNA遺伝子の塩基配列が配列番号1に示される塩基配列を含むコプロサーモバクター(Coprothermobacter)属の微生物であることが好ましい。または、請求項4に記載したように、受領番号FERM AP−21909で受領されているコプロサーモバクター(Coprothermobacter)属の微生物であることが好ましい。
【0016】
さらに、請求項5に記載したように、好熱性メタン生成菌はメタノサーモバクター サームオートトロフィカス(Methanothermobacter thermautotrophicus)であることが好ましい。
【0017】
また、請求項11に記載したように、請求項1〜5のいずれか1つに記載のタンパク質分解処理方法において、タンパク質分解処理時に発生したメタンガスを含むバイオガスを回収することが好ましい。
【0018】
次に、請求項6に記載のタンパク質分解処理用組成物は、タンパク質分解菌とメタン生成菌とを含有するものである。
【0019】
ここで、請求項7に記載したように、請求項6に記載のタンパク質分解処理用組成物において、タンパク質分解菌が好熱性タンパク質分解菌であり、メタン生成菌が好熱性メタン生成菌であることが好ましい。
【0020】
また、請求項8に記載したように、好熱性タンパク質分解菌は、16S rRNA遺伝子の塩基配列が配列番号1に示される塩基配列を含むコプロサーモバクター(Coprothermobacter)属の微生物であることが好ましい。または、請求項9に記載したように、受領番号FERM AP−21909で受領されているコプロサーモバクター(Coprothermobacter)属の微生物であることが好ましい。
【0021】
さらに、請求項10に記載したように、好熱性メタン生成菌はメタノサーモバクター サームオートトロフィカス(Methanothermobacter thermautotrophicus)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のタンパク質分解処理方法によれば、タンパク質分解菌単独でタンパク質分解処理を行う場合と比較して、タンパク質分解速度を大幅に向上させることが可能となる。したがって、タンパク質を多く含む有機性廃棄物、例えば食品系廃棄物を従来よりも効率よく分解処理して減容化を図ることが可能となる。
【0023】
また、好熱性タンパク質分解菌と好熱性メタン生成菌を用いた本発明のタンパク質分解処理方法によれば、植物性油脂や動物性油脂が溶解する50℃以上の温度において、好熱性タンパク質分解菌単独でタンパク質分解処理を行う場合と比較して、タンパク質分解処理速度を大幅に向上させることが可能となる。したがって、有機性廃棄物に含まれる植物性油脂や動物性油脂を溶解して、タンパク質分解菌とタンパク質の接触面積を増加させることができ、タンパク質の分解処理をさらに効率よく行うことができる。
【0024】
さらに、本発明のエネルギー回収方法によれば、タンパク質分解菌とメタン生成菌の共培養環境下でタンパク質を分解させるようにしているので、メタン生成菌により生成されるメタンガスを含むバイオガスをエネルギーとして回収することができる。したがって、タンパク質の分解処理速度を向上させながらも、メタンガスをエネルギーとして回収でき、タンパク質またはタンパク質含有物の資源としての有効利用を図ることが可能となる。
【0025】
また、本発明のタンパク質分解処理用組成物によれば、タンパク質分解菌とメタン生成菌とを含有しているので、タンパク質の分解を促進させながらも、エネルギーとしてメタンガスの回収が可能な環境を容易に形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】培養試験における菌数の経時変化を示す図である。
【図2】培養試験におけるカゼイン培地のアンモニウムイオン濃度の経時変化を示す図である。
【図3】培養試験におけるカゼイン培地のTOC濃度の経時変化を示す図である。
【図4】培養試験におけるカゼイン培地の低級脂肪酸(VFA)濃度の経時変化を示す図である。
【図5】タンパク質からのメタンガスの生成過程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
本発明のタンパク質分解処理方法は、タンパク質分解菌とメタン生成菌の共培養環境下でタンパク質またはタンパク質含有物を分解処理するようにしている。
【0029】
タンパク質分解菌とメタン生成菌の共培養環境下でタンパク質またはタンパク質含有物を分解処理することで、タンパク質分解菌によりタンパク質が分解されて生成される水素や低級脂肪酸、二酸化炭素がメタン生成菌に消費され、その結果としてタンパク質分解菌の増殖が促進され、タンパク質分解処理速度が向上する。
【0030】
本発明のタンパク質分解処理方法において処理対象となるのは、タンパク質またはタンパク質含有物である。タンパク質含有物としては、タンパク質を多く含む食品系廃棄物等の有機性廃棄物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
タンパク質分解菌としては、例えば、コプロサーモバクター(Coprothermobacter)属の微生物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、タンパク質分解菌は一種のみならず二種以上を併用してもよい。
【0032】
メタン生成菌としては、水素資化性メタン生成菌であるメタノサーモバクター(Methanothermobacter)属の微生物等、酢酸資化性メタン生成菌であるメタノサルシナ(Methanosarcina)属の微生物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、メタン生成菌は一種のみならず二種以上を併用してもよい。例えば、二種以上の水素資化性メタン生成菌を併用するようにしてもよいし、二種以上の酢酸資化性メタン生成菌を併用するようにしてもよい。また、一種以上の水素資化性メタン生成菌と一種以上の酢酸資化性メタン生成菌とを併用するようにしてもよい。
【0033】
ここで、タンパク質分解菌とメタン生成菌は、好熱性であることが好ましい。この場合には、共培養環境を50℃以上とすることができるので、有機性廃棄物等のタンパク質含有物に含まれる植物性油脂や動物性油脂を溶解させて、タンパク質分解菌とタンパク質の接触面積を高めることができ、タンパク質をより効率よく分解処理することが可能になる。
【0034】
好熱性タンパク質分解菌としては、例えば、コプロサーモバクター(Coprothermobacter)属の微生物等が挙げられ、16S rRNA遺伝子の塩基配列が配列番号1に示される塩基配列からなるコプロサーモバクター(Coprothermobacter)属のタンパク質分解菌、具体的には、受領番号FERM AP−21909で受領されているコプロサーモバクター(Coprothermobacter)属のタンパク質分解菌が好適であるが、これらに限定されるものではない。また、好熱性タンパク質分解菌は一種のみならず二種以上を併用してもよい。
【0035】
本発明で使用する好熱性メタン生成菌としては、例えば、好熱性水素資化性メタン生成菌であるメタノサーモバクター(Methanothermobacter)属の微生物等、好熱性酢酸資化性メタン生成菌であるメタノサルシナ(Methanosarcina)属の微生物等が挙げられ、メタノサーモバクター サームオートトロフィカス(Methanothermobacter thermautotrophicus)が好適であるが、これらに限定されるものではない。また、好熱性メタン生成菌は一種のみならず二種以上を併用してもよい。例えば、二種以上の好熱性水素資化性メタン生成菌を併用するようにしてもよいし、二種以上の好熱性酢酸資化性メタン生成菌を併用するようにしてもよい。また、一種以上の好熱性水素資化性メタン生成菌と一種以上の好熱性酢酸資化性メタン生成菌とを併用するようにしてもよい。
【0036】
タンパク質分解菌とメタン生成菌の共培養環境としては、例えば、これらの菌に必要な栄養源、微量元素、ビタミン類等を含む培養液が挙げられる。この場合、タンパク質またはタンパク質含有物を培養液に懸濁させて処理することができ、タンパク質またはタンパク質含有物とタンパク質分解菌とを接触させ易い。但し、共培養環境は培養液には限定されず、寒天培地等の固体培地であってもよいし、汚泥等であってもよい。また、タンパク質分解菌とメタン生成菌の共培養液をタンパク質またはタンパク質含有物に散布して含浸等させることによりタンパク質分解処理を行うこともできる。また、タンパク質分解菌を含む環境や処理設備にメタン生成菌を添加して共培養環境を形成するようにしてもよい。この場合にも、環境や処理設備中のタンパク質分解菌の増殖を促進して、タンパク質分解処理速度を向上させることができる。また、メタン生成菌を含む環境や処理設備にタンパク質分解菌を添加して共培養環境を形成するようにしてもよい。この場合には、メタン生成菌を含む環境や処理設備にタンパク質分解処理能を付与して、効率よくタンパク質を分解処理することが可能となる。
【0037】
ここで、好熱性タンパク質分解菌と好熱性メタン生成菌とを用いる場合には、共培養環境の温度を50℃以上とすることができるが、温度を高めすぎるとこれらの菌が失活する場合があるので、共培養環境の温度は50℃〜100℃未満とすることが好適であり、50℃〜80℃とすることがより好適であり、50℃〜70℃とすることがさらに好適である。
【0038】
尚、本発明のタンパク質分解処理方法においては、メタン生成菌を用いていることから、タンパク質分解菌によりタンパク質が分解されて生成した水素、酢酸等の低級脂肪酸を消費してメタンガスを含むバイオガスが生成される。したがって、タンパク質からメタンガスをエネルギーとして回収できる利点もある。
【0039】
次に本発明のタンパク質分解処理用組成物について説明する。
【0040】
本発明のタンパク質分解処理用組成物は、上記のタンパク質分解菌とメタン生成菌とを含有するものであり、その形態は特に限定されない。例えば、生育に必要な栄養源や微量元素、ビタミン類等を含む培養液等にタンパク質分解菌とメタン生成菌が添加されて凍結保存状態とされた凍結保存品、生育に必要な栄養源や微量元素、ビタミン類等を含む培養液等にタンパク質分解菌とメタン生成菌が添加された液剤、タンパク質分解菌とメタン生成菌が生育に必要な栄養源や微量元素、ビタミン類と共に凍結乾燥処理されたフリーズドライ品等、種々の形態とすることができる。
【0041】
本発明のタンパク質分解処理用組成物を、例えば培養液等に投入することで、タンパク質分解菌とメタン生成菌の共培養環境を容易に形成することができる。したがって、タンパク質分解処理能が高く、しかもメタンガスを含むバイオガスをエネルギーとして回収することのできるタンパク質分解処理環境を容易に形成することができる。
【0042】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【実施例】
【0043】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0044】
(実施例1)
タンパク質分解菌とメタン生成菌の共培養環境下におけるタンパク質分解処理能について検討を行った。
【0045】
(1)タンパク質分解菌
本実施例では、メタン発酵液中に存在していたタンパク質分解菌を単離して使用した。
【0046】
メタン発酵液は、容積2L、温度55℃運転されていた好熱性メタン発酵槽から採取した。尚、このメタン発酵槽から発生するバイオガスのメタン含有率は61%であり、メタン発酵液の低級脂肪酸濃度は3.2mMであり、化学的酸素要求量除去率は76%であった。
【0047】
タンパク質分解菌の単離は、集積培養と固体培養を利用して行った。
【0048】
集積培養は、バイアル瓶に入れた液体培地に採取したメタン発酵液を接種し、液面上部のヘッドスペースにNとCO(N:CO=80:20(体積比))を充填して蓋をし、温度55℃で行った。
【0049】
集積培養に用いた液体培地は、以下に示す組成の基本培地中に、カゼイン(シグマ社製)3g/Lと酵母エキス(和光純薬工業株式会社製)1.0g/Lを添加したものを用いた。以降の説明では、この液体培地をカゼイン培地と呼ぶ。カゼイン培地には、還元剤としてシステイン−HCl・HOを1.0g/LとNaS・9HOを1.0g/L添加した。また、微量元素溶液には、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen and Zellkulturen)製のミディアム131微量元素溶液を用い、ビタミン溶液にはDSMZ製のミディアム141ビタミン溶液を用いた。
[基本培地の組成(蒸留水1L中の組成)]
・KHPO:0.8g
・KHPO:1.6g
・NHCl:1.0g
・NaHCO:2.0g
・MgCl・6HO:0.1g
・CaCl・2HO:0.2g
・NaCl:0.8g
・レザズリン:0.1mg
・微量元素溶液:10mL
・ビタミン溶液:10mL
【0050】
集積培養を行った後、タンパク質分解菌によりカゼインが分解されて生成したアンモニウムイオンがカゼイン培地に存在していることをインドフェノール法により確認した後、カゼイン培地の一部を寒天培地に接種して固体培養を行った。
【0051】
固体培養は、AnaeroPack(三菱ガス化学株式会社製)を用い、55℃の嫌気環境下で行った。10日後にコロニーをピックアップし、これを同一培地に再度塗抹してコロニーを発生させる処理を2回行った。
【0052】
固体培養に用いた寒天培地には、上記の基本培地にゼラチン(シグマ社製)3.0g/Lとゲランガム10.0g/Lを添加したものを用いた。
【0053】
最終的に得られたコロニーをカゼイン培地に入れて集積培養と同様の条件に培養を行った結果、アンモニウムイオンの生成がインドフェノール法により確認された。つまり、単離した微生物によりカゼインが分解されてアンモニウムイオンが生成していることが確認された。この結果から、単離された微生物がタンパク質分解能を持つタンパク質分解菌であることが確認できた。また、55℃でタンパク質分解能を有することから、好熱性のタンパク質分解菌であることも確認できた。
【0054】
次に、単離されたタンパク質分解菌について、16S rRNA遺伝子の塩基配列の解析を行った。具体的には、プライマー27fと1492rを用いて16S rRNA遺伝子のPCR増幅を行った(参考文献1参照)。また、内部16S rRNAプライマーBac806Rを全長塩基配列解析のために用いた(参考文献2参照)。得られた塩基配列は、BLASTプログラムによりGenBank/EMBL/DDBJの塩基配列データベース中の塩基配列と比較した。
・参考文献1:Lane, D. J.: 16S/23S rRNA sequencing. p.115-175. In Stackebrandt, E. and Goodfellow, M. (eds.), Nucleic acid techniques in bacterial systematics. John Wiley & Sons, New York (1991).
・参考文献2:Takai, K. and Horikoshi, K.: Rapid detection and quatification of members of archaeal community by quantitative PCR using fluorogenic probes. Appl. Environ. Microbiol., 66, 5066-5072 (2000).
【0055】
単離されたタンパク質分解菌の16S rRNA遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号1に示す。単離されたタンパク質分解菌は、コプロサーモバクター(Coprothermobacter)属に属する微生物であり、タンパク質を基質として利用するタンパク質分解菌であることが報告されているコプロサーモバクター プロテオリティカス(Coprothermobacter proteolyticus:Accession number;CP001145、参考文献3及び参考文献4参照)と99.4%の相同性を16S rRNA遺伝子に有している近縁種であることが明らかとなった。以降の説明では、単離されたタンパク質分解菌をCT−1株と呼ぶ。
・参考文献3:Ollivier, B. M., Mah RA, Ferguson TJ, Boone DR, Garcia JL, Robinson R (1985). Emendation of the genus Thermobacteroides: Thermobacteroides proteolyticus sp. nov., a proteolytic acetogen from a methanogenic enrichment. Int. J. Syst. Bacteriol. 35: 425-248.
・参考文献4:Kersters, I., Maestrojuan GM, Torck U, Vancanneyt M, Kersters K and Verstraete W (1994). Isolation of Coprothermobacter proteolyticus from an anaerobic digest and further characterization of the species. Syst. Appl. Microbiol. 17: 289-295.
【0056】
CT−1株を光学顕微鏡で観察した結果、直線ロッド形状で、時々わずかに湾曲しているものが見られるグラム陰性菌であることがわかった。この点においてもコプロサーモバクター プロテオリティカスと類似していた(参考文献4)。
【0057】
CT−1株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成22年2月9日付けで受領番号FERM AP−21909で受領された。
【0058】
(2)メタン生成菌
本実施例では、メタン生成菌として、好熱性水素資化性メタン生成菌であるメタノサーモバクター サームオートトロフィカス(Methanothermobacter thermautotrophicus、JCM1004)を用いた。以降の説明では、メタノサーモバクター サームオートトロフィカスをMT株と呼ぶ。
【0059】
(3)共培養試験
120mL用のセラムバイアル瓶に、還元剤としてシステイン−HCl・HOを1.0g/LとNaS・9HOを1.0g/L添加したカゼイン培地を60mL収容し、以下の3条件で培養試験を実施した。培地の初期pHは7.8とし、温度は55℃とした。また、液面上部のヘッドスペースにNとCO(N:CO=80:20(体積比))を充填して蓋をした。培養期間は7日間とした。
・条件1:菌体添加なし
・条件2:CT−1株のみ添加
・条件3:CT−1株とMT株を添加
【0060】
条件2及び3におけるCT−1株の初期添加密度は、7.1×10cells/mLとした。条件3におけるMT株の初期添加密度は、2.4×10cells/mLとした。
【0061】
測定項目を、(a)菌数の経時変化、(b)生成ガス組成、(c)アンモニウムイオン濃度の経時変化、(d)カゼインの不溶画分分解率、(e)TOC濃度の経時変化、(f)低級脂肪酸濃度の経時変化として、培養試験を実施した。
【0062】
(a)菌数の経時変化
培養2日目、4日目、7日目に、バイアル瓶内からカゼイン培地を採取し、顕微鏡により全菌数をカウントした。また、メタン生成菌(MT株)の菌数については、蛍光顕微鏡を用いて、コエンザイムF420からの自己蛍光とDAPI(4',6-diamino-2-phenylindole)の蛍光の比から決定した。タンパク質分解菌(CT−1株)の菌数については、全菌数からメタン生成菌数を引いて求めた。菌数の経時変化を図1に示す。◆が条件2におけるCT−1株の菌数であり、■が条件3におけるCT−1株の菌数であり、▲が条件3におけるMT株の菌数である。この結果から、CT−1株とMT株を共培養することで、CT−1株のみを単独で培養した場合よりも4倍程度CT−1株の増殖量を高められることが明らかとなった。
【0063】
(b)生成ガス組成
培養7日目に生成ガスの組成をガスクロマトグラフィー(GLサイエンス製、GC390B)により分析した。結果を表1に示す。CT−1株のみを単独で培養した条件2においては、水素と共に二酸化炭素が検出されたが、メタンガスは検出されなかった。これに対し、CT−1株とMT株を共培養した条件3においては、水素は検出されず、メタンガスと二酸化炭素が検出された。この結果から、CT−1株とMT株を共培養した条件3においては、CT−1株によりカゼインが分解されて生成した水素がMT株によって消費されてメタンガスが生成されていることが明らかとなった。
【0064】
【表1】

【0065】
(c)アンモニウムイオン濃度の経時変化
培養2日目、4日目、7日目に、バイアル瓶内からカゼイン培地を採取し、アンモニウムイオン濃度を測定した。アンモニウムイオン濃度の測定は、0.2μmの孔径のメンブレンによる濾過後、CS16カチオンカラムを備えるイオン交換クロマトグラフィー(ICS−1500、Dionex製)により行った。結果を図2に示す。CT−1株のみを単独で培養した条件2と比較して、CT−1株とMT株を共培養した条件3の方が圧倒的にアンモニウムイオン濃度が高いことが明らかとなった。
【0066】
(d)カゼインの不溶画分分解率
条件2と条件3の培養7日目のカゼイン培地について、勢いよく振とうしてから1時間静置して得られた沈殿物を未消化のカゼインとし、条件1の沈殿物の量と比較した。具体的には懸濁液を注意深く除去して沈殿物をガラス繊維フィルター(0.45μm)で濾過した後、105℃で90分間乾燥し、乾燥重量を測定した。そして、各条件において得られた乾燥重量から、カゼインの不溶画分分解率を計算した。結果を表2に示す。CT−1株のみを単独で培養した条件2と比較して、CT−1株とMT株を共培養した条件3の方が圧倒的にカゼインの不溶画分分解率が高いことが明らかとなった。
【0067】
【表2】

【0068】
(e)TOC濃度の経時変化
培養2日目、4日目、7日目に、バイアル瓶内からカゼイン培地を採取し、TOC濃度を測定した。TOC濃度は、TOCアナライザー(東レ製、TNC−6000)により測定した。結果を図3に示す。CT−1株のみを単独で培養した条件2と比較して、CT−1株とMT株を共培養した条件3の方が圧倒的にTOC濃度が高いことが明らかとなった。
【0069】
(f)低級脂肪酸濃度の経時変化
培養2日目、4日目、7日目に、バイアル瓶内からカゼイン培地を採取し、低級脂肪酸濃度を測定した。低級脂肪酸濃度は、高圧液体クロマトグラフィー(GLサイエンス製、GL-7400)により測定した。結果を図4に示す。CT−1株のみを単独で培養した条件2と比較して、CT−1株とMT株を共培養した条件3の方が圧倒的に低級脂肪酸濃度が高いことが明らかとなった。
【0070】
(g)まとめ
培養試験の結果から、CT−1株のみを単独で培養した条件2と比較して、CT−1株とMT株を共培養した条件3の方が、CT−1株の増殖を促進できることが明らかとなった。また、アンモニウムイオン濃度、TOC濃度、低級脂肪酸濃度が高まり、カゼインの不溶画分の分解率も向上することが明らかとなった。したがって、CT−1株とMT株を共培養することで、CT−1株の増殖を促進させてタンパク質の分解を促進することができ、タンパク質の分解が促進された結果として、タンパク質の分解生成物たるアンモニウムイオン、TOC、低級脂肪酸の濃度が向上することがわかった。
【0071】
また、生成ガス組成の分析結果から明らかなように、CT−1株とMT株を共培養することで、タンパク質の分解生成物たる水素が消費されてメタンガスに変換されたことから、タンパク質の分解生成物が消費されることによって、タンパク質の分解が促進されるものと考えられた。
【0072】
ここで、タンパク質分解菌とメタン生成菌を共培養した際のタンパク質の分解過程は図5のように表すことができる。本実施例では、タンパク質分解菌としてCT−1株を用い、メタン生成菌としてMT株を用いて、CT−1株によるタンパク質の分解生成物たる水素をMT株に消費させ、CT−1株の増殖を促進させてCT−1株によるタンパク質分解を促進することに成功した。この結果から、メタン生成菌としてMT株のような水素を消費する水素資化性メタン生成菌に限らず、低級脂肪酸を消費する酢酸資化性メタン生成菌を用いても同様の効果が奏されるものと考えられた。また、本実施例では、好熱性タンパク質分解菌と好熱性メタン生成菌を用いたが、図5に示すタンパク質分解過程は好熱性タンパク質分解菌と好熱性メタン生成菌を共培養した場合に限定される反応過程ではなく、一般的なタンパク質分解菌とメタン生成菌とを共培養した場合にも生じうる反応過程であることから、タンパク質分解菌全般を使用した場合にも、CT−1株を使用した場合と同様の効果が奏され、メタン生成菌全般を使用した場合にも、MT株を使用した場合と同様の効果が奏されるものと考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質分解菌とメタン生成菌の共培養環境下でタンパク質またはタンパク質含有物を分解処理することを特徴とするタンパク質分解処理方法。
【請求項2】
前記タンパク質分解菌を好熱性タンパク質分解菌とし、前記メタン生成菌を好熱性メタン生成菌とし、前記共培養環境の温度を50℃以上とする請求項1に記載のタンパク質分解処理方法。
【請求項3】
前記好熱性タンパク質分解菌は16S rRNA遺伝子の塩基配列が配列番号1に示される塩基配列からなるコプロサーモバクター(Coprothermobacter)属の微生物である請求項2に記載のタンパク質分解処理方法。
【請求項4】
前記好熱性タンパク質分解菌は受領番号FERM AP−21909で受領されているコプロサーモバクター(Coprothermobacter)属の微生物である請求項2に記載のタンパク質分解処理方法。
【請求項5】
前記好熱性メタン生成菌はメタノサーモバクター サームオートトロフィカス(Methanothermobacter thermautotrophicus)である請求項2に記載のタンパク質分解処理方法。
【請求項6】
タンパク質分解菌とメタン生成菌とを含有することを特徴とするタンパク質分解処理用組成物。
【請求項7】
前記タンパク質分解菌は好熱性タンパク質分解菌であり、前記メタン生成菌が好熱性メタン生成菌である請求項6に記載のタンパク質分解処理用組成物。
【請求項8】
前記好熱性タンパク質分解菌は16S rRNA遺伝子の塩基配列が配列番号1に示される塩基配列からなるコプロサーモバクター(Coprothermobacter)属の微生物である請求項7に記載のタンパク質分解処理用組成物。
【請求項9】
前記好熱性タンパク質分解菌は受領番号FERM AP−21909で受領されているコプロサーモバクター(Coprothermobacter)属の微生物である請求項7に記載のタンパク質分解処理用組成物。
【請求項10】
前記好熱性メタン生成菌がメタノサーモバクター サームオートトロフィカス(Methanothermobacter thermautotrophicus)である請求項7に記載のタンパク質分解処理用組成物。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法によるタンパク質分解処理時に発生したメタンガスを含むバイオガスを回収することを特徴とするバイオガス回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−172542(P2011−172542A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40894(P2010−40894)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年8月25日 社団法人 日本生物工学会発行の「第61回 日本生物工学会大会講演要旨集」に発表
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】