説明

タンパク質含有液状食品の膜生成抑制剤

【課題】牛乳や豆乳などのタンパク質を含有する液状食品において、加熱した際に液体表面に生じる膜の生成を顕著に抑制し、加熱下においても液状食品の滑らかな口当りを維持することのできる、タンパク質含有液状食品の膜生成抑制剤を提供する。
【解決手段】タンパク質含有液状食品の膜生成抑制剤に、発酵セルロースを含有する。更には、高分子物質と複合化された発酵セルロースを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵セルロースを含有することを特徴とするタンパク質含有液状食品の膜生成抑制剤に関する。詳細には、牛乳や豆乳などのタンパク質を含有する液状食品を加熱した際に、液体表面に生じる膜の生成を抑制することのできる膜生成抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、牛乳や豆乳といったタンパク質を含有した液状食品は、加熱と共に液体表面に被膜を形成し、口当りが悪くなる、食感がべとつく、外観が悪くなるといった問題を抱えていた。これは「ラムスデン現象」と呼ばれる現象であり、乳原料などのタンパク質を含有した液状食品を加熱した際に、液状食品の表面で水分が蒸発するために、タンパク質由来の各種成分が濃縮凝固し、膜となって表面に形成されるものである。そして、この被膜は、加熱時間と共に膜が厚くなり、食感に悪影響を与える、また被膜はいったん取り除いた場合であっても、加熱調理を行うことにより再度形成されることから、製造上の取り扱いが不便であるといった各種問題を抱えていた。
【0003】
一方、微生物由来のセルロースである発酵セルロースは、その分散安定性、懸濁安定性の高さから、各種乳入り飲料に利用されてきた。例えば、特許文献1には、発酵セルロース及びカルボキシメチルセルロースのアルカリ塩を含有する被加熱殺菌処理食品用の分散安定化組成物が記載されており、分散安定性食品として豆乳飲料が記載されている。同様にして、特許文献2には、ネイティブジェランガム、ペクチン及び大豆多糖類からなる群から選択される少なくとも一種の高分子物質と発酵セルロースを含有する食品の分散安定化組成物を豆乳飲料、カルシウム強化飲料に添加すること、特許文献3には、セルロース複合体が懸濁安定剤、乳化安定剤として豆乳飲料に適用できることが記載されている。また、特許文献4には、発酵セルロース及びハイメトキシルペクチン、大豆多糖類およびカルボキシメチルセルロースから選ばれる1種又は2種以上を酸性乳飲料に添加することにより、酸性条件下における乳原料中のタンパク質の凝集、沈殿等を抑制できることが開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1〜4には、発酵セルロースを豆乳飲料や乳入り飲料、酸性乳飲料に適用できる旨、及びレトルト殺菌などの加熱処理を行ってもよいことが記載されているが、実施例で開示されているのは、ココア等の不溶性固形分の分散安定化効果及び、酸性によるタンパク凝集効果のみであって、豆乳飲料や乳入り飲料などの加熱による膜生成については一切記載も示唆もされていない。同様にして、特許文献5にも微生物が産生するセルロースの解離物を含有するペースト状調味料が記載されているが、開示されているのは微生物由来のセルロースが有する、ペースト状調味料を計測する際の作業性、特に曳糸性の改善効果のみであって、本発明の課題であるタンパク質を含有する液状食品を加熱した際に発生する膜については一切記載も示唆もされていない。
【0005】
また、特許文献6には、澱粉や油脂、乳成分を含有する液状食品の膜生成抑制方法として、水溶性ヘミセルロースを添加することが記載されている。しかし、特許文献6における対象食品は、澱粉を0.1〜10重量%含有することを特徴とするカレーやシチュー、スープなどの澱粉の糊化を利用して調理した液状の食品であって、例えば豆乳飲料などの粘度の低い液状食品に使用した場合は、十分な効果を示すものではなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平11−178516号公報
【特許文献2】特開平11−178517号公報
【特許文献3】特開2000−178377号公報
【特許文献4】特開2005−245217号公報
【特許文献5】特開昭64−85052号公報
【特許文献6】特開2004−313122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みて開発されたものであり、牛乳や豆乳といったタンパク質を含有する液状食品を加熱した際に発生する膜の生成を抑制する、膜生成抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み鋭意研究を重ねていたところ、牛乳や豆乳といったタンパク質を含有する液状食品に発酵セルロースを含有することにより、液状食品を加熱した際に液体表面に生じる膜の生成を顕著に抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、以下の態様を有するタンパク質含有液状食品の膜生成抑制剤、及びタンパク質を含有する液状食品の膜生成抑制方法に関する;
項1.発酵セルロースを含有することを特徴とする、タンパク質含有液状食品の膜生成抑制剤。
項2.発酵セルロースが高分子物質と複合化された発酵セルロース複合体である、項1に記載のタンパク質含有液状食品の膜生成抑制剤。
項3.発酵セルロース複合体が、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム及びグァーガムから選ばれる1種又は2種以上の高分子物質と複合化された発酵セルロース複合体である項2に記載のタンパク質含有液状食品の膜生成抑制剤。
項4.項1〜3のいずれかに記載の膜生成抑制剤を含有することにより、加熱時におけるタンパク質由来の膜生成が抑制された、タンパク質含有液状食品。
項5.タンパク質が、牛乳、又は豆乳由来のものである項4に記載の膜生成が抑制されたタンパク質含有液状食品。
項6.項1〜3のいずれかに記載の膜生成抑制剤を含有又は添加することを特徴とする、タンパク質含有液状食品の膜生成抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、牛乳や豆乳などのタンパク質を含有する液状食品において、加熱した際に液体表面に生じる膜の生成を顕著に抑制でき、加熱下においても口当りの滑らかな液状食品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のタンパク質含有液状食品の膜生成抑制剤は、発酵セルロースを含有することを特徴とする。ここで、膜生成抑制剤とは、タンパク質を含有した液状食品を加熱した際に、タンパク質やその他の成分が加熱により複合的に作用して生じる、液体表面の膜の生成を顕著に抑制することのできるものであり、結果として加熱条件下においても、タンパク質を含有した液状食品の滑らかな口当りや食感を維持できるものである。
【0012】
本発明の原料で用いられる発酵セルロースは、セルロース生産菌が生産するセルロースであれば特に限定されない。通常、セルロース生産菌を既知の方法、例えば特開昭61−212295号公報、特開平3−157402号公報、特開平9−121787号公報に記載される方法に従って培養し、得られる発酵セルロースを所望に応じて適宜精製することによって製造することができる。
【0013】
セルロース生産菌としては、アセトバクター属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属等に属する細菌が挙げられるが、好適にはアセトバクター属である。発酵セルロースを生産するアセトバクター属の細菌として、より具体的には、アセトバクター・パスツリアヌス株(例えば、ATCC10245等)、アセトバクター・エスピーDA株(例えば、FERM P−12924等)、アセトバクター・キシリナム株(例えば、ATCC23768、ATCC23769、ATCC10821、ATCC1306−21等)を挙げることができる。好ましくは、アセトバクター・キシリナム株である。
【0014】
かかるセルロース生産菌を培養する培地及び条件としては、特に限定されず、常法に従うことができる。例えば、培地は、基本的に窒素源、炭素源、水、酸素及びその他の必要な栄養素を含有しており、上記微生物が増殖して目的の発酵セルロースを産生することができるものであればよく、例えばHestrin−Schramm培地を挙げることができる。なお、セルロースの生産性を向上させるために、培地中にセルロースの部分分解物、イノシトール、フィチン酸等を添加することもできる(特開昭56−46759号公報、特開平5−1718号公報)。培養条件としては、例えばpH5〜9、培養温度20〜40℃の範囲が採用され、発酵セルロースが十分産生されるまで培養が続けられる。培養方法は、静置培養、攪拌培養、通気培養のいずれでもよいが、好適には通気攪拌培養である。
【0015】
発酵セルロースを大量生産するためには、多段階接種法が好ましい。この場合、通常、2段階の予備接種プロセス、一時接種発酵プロセス、二次接種発酵プロセス及び最終発酵プロセスからなる5段階の発酵プロセスが採用され、各プロセスで増殖された細菌について細胞の形態およびグラム陰性であることを確認しながら、次プロセスの発酵器に継代される。
【0016】
発酵後、産生された発酵セルロースは培地から分離処理され、洗浄されて、適宜精製される。精製方法は特に限定されないが、通常、培地から回収した発酵セルロースを洗浄後、脱水し、再度水でスラリー化した後に、アルカリ処理によって微生物を除去し、次いで該アルカリ処理によって生じた溶解物を除去する方法が用いられる。具体的には、次の方法が例示される。
【0017】
まず、微生物の培養によって得られる培養物を脱水し、固形分約20%のケーキとした後、このケーキを水で再スラリー化して固形分を1から3%にする。これに水酸化ナトリウムを加えて、pH13程度にして攪拌しながら数時間、系を65℃に加熱して、微生物を溶解する。次いで、硫酸でpHを6〜8に調整し、該スラリーを脱水して再度水でスラリー化し、かかる脱水・スラリー化を数回繰り返す。精製された発酵セルロースは、必要に応じて乾燥処理を施すことができる。乾燥処理としては特に制限されることなく、自然乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥、スプレードライ、ドラムドライ等の公知の方法を用いることができる。好ましくはスプレードライ法、ドラムドライ法である。
【0018】
かくして得られる発酵セルロースは、白色から黄褐色の無臭の物質であり、水に急速に分散できる非常に繊細な繊維性粒子からなる。なお、本発明で用いられる発酵セルロースは、上記方法で調製される発酵セルロースと同一若しくは類似の性質を有し、本発明の目的を達成しえるものであれば、その調製方法によって限定されるものではない。
【0019】
また、本発明の発酵セルロースは、更に高分子物質と複合化されていることが好ましい。ここで、上記高分子物質と発酵セルロースを複合化させる方法としては、特開平9−121787号公報に記載される2種類の方法が挙げられる。第一の方法は、微生物を培養して発酵セルロースを産生させるにあたり、培地中に高分子物質を添加して培養を行い、発酵セルロースと高分子物質とが複合化した発酵セルロース複合化物として得る方法である。
【0020】
第二の方法は、微生物の培養によって生産された発酵セルロースのゲルを高分子物質の溶液に浸漬して、高分子物質を発酵セルロースのゲルに含浸させて複合化する方法である。発酵セルロースのゲルは、そのままか、あるいは常法により均一化処理を行ったのちに高分子物質の溶液に浸漬する。均一化処理は、公知の方法で行えばよく、例えばブレンダー処理や500kg/cmで40回程度の高圧ホモジナイザー処理、1000kg/cmで3回程度のナノマイザー処理などを用いた機械的解離処理が有効である。浸漬時間は30分以上24時間程度、好ましくは1夜であり、浸漬終了後は遠心分離や濾過などの方法で浸漬液を除去することが望ましい。さらに、水洗いなどの処理を行って過剰の高分子物質を除去することにより、発酵セルロースと高分子物質の比率が一定になり、複合化に利用されないで残存する高分子物質の影響を抑えることができるため好ましい。
【0021】
なお、発酵セルロースとの複合化に使用される高分子物質としては、特に限定されず、例として、キサンタンガム、ガラクトマンナン(グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム等)、カラギナン、カシアガム、グルコマンナン、ネイティブ型ジェランガム、脱アシル型ジェランガム、タマリンドシードガム、ペクチン、サイリウムシードガム、ゼラチン、トラガントガム、カラヤガム、アラビアガム、ガティガム、サイリウムシードガム、マクロホモプシスガム、寒天、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩)、カードラン、プルラン、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等のセルロース誘導体、水溶性ヘミセルロース、大豆多糖類、加工・化工でん粉、未加工でん粉(生でん粉)といった各種高分子物質を挙げることができる。
【0022】
特に、本発明で使用する発酵セルロースは、カルボキシメチルセルロースナトリウム(以下、CMC−Naと略す。)、キサンタンガム、グァーガムから選ばれる1種又は2種以上の高分子物質によって複合化された発酵セルロース複合体を用いることが好ましい。また上記組み合わせの中でも、CMC−Naとキサンタンガム、又はCMC−Naとグァーガムの組み合わせによって複合化された発酵セルロースを用いることがより好ましく、更にはCMC−Naとグァーガムの組み合わせによって複合化された発酵セルロースを用いることが好ましい。前述の複合化された発酵セルロース複合体を用いることにより、更に加熱条件下における膜の発生を顕著に抑制することができる。
【0023】
なお、ここで発酵セルロースに対する各高分子物質の割合は、複合化させる高分子物質により適宜調節することが可能であるが発酵セルロースに対し、高分子物質が10〜200重量%、更に好ましくは15〜100重量%となるように複合化させることができる。また、高分子物質の中でもCMC−Naとキサンタンガム、若しくはCMC−Naとグァーガムを用いて複合化を行う場合は、発酵セルロースに対し、CMC−Naを10〜200重量%、キサンタンガム又はグァーガムを10〜200重量%、より好ましくはCMC−Naを15〜100重量%、キサンタンガム又はグァーガムを15〜100重量%となるように複合化させることが好ましい。なお、上記複合化物は商業上入手可能であり、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のサンアーティスト[商標]PX、サンアーティスト[商標]PGなどが挙げられる。
【0024】
そして、本発明に係る膜生成抑制剤が対象とする、タンパク質含有液状食品とは、牛乳、脱脂粉乳、全粉乳、濃縮乳、クリームなどの乳成分由来の乳由来タンパク質や、豆乳、大豆等の豆由来のタンパク質を含有する液状の食品をいい、具体的には、牛乳、前述した乳成分を含有する乳入り飲料、豆乳飲料、豆乳鍋などの鍋の素や、乳成分や豆乳を含有したごまだれなどの液体調味料、シチューなどが挙げられ、特には豆乳、豆乳鍋の素、牛乳などに好適に挙げられる。
【0025】
なお、液状食品中のタンパク質の含有量は、特には限定されないが、本発明の膜生成抑制剤は液状食品中にタンパク質成分を0.1〜10重量%、より好ましくは0.5〜7重量%含有するタンパク質含有液状食品に対する膜生成抑制効果が高いことを特徴とする。このように、液状食品中のタンパク質成分の含有量が高いと、加熱処理を行った際に被膜が形成しやすくなるが、本発明の膜生成抑制剤を添加することにより、係る液状食品に対しても顕著に膜の生成を抑制することができる。
【0026】
そして、本発明に係る膜生成抑制剤を、タンパク質含有液状食品に添加することにより、タンパク質含有液状食品を加熱処理を行った際に生じる被膜の形成を顕著に抑制することができる。なお、ここでタンパク質含有液状食品の膜生成抑制剤は、粉末状、フレーク状、粒状、ペースト状、液状いずれの形態でも用いることができる。
【0027】
なお、タンパク質含有液状食品への本発明の膜生成抑制剤の添加量は、添加する液状食品中のタンパク質含有量やその他の成分などによって適宜調節することができるが、発酵セルロースがタンパク質に対して、0.005〜5重量%、好ましくは0.01〜1重量%となるように配合することができる。ここで、当該膜生成抑制剤の添加量が0.005重量%より極端に少ないと、タンパク質含量が多い液状食品を加熱した際の膜生成を抑制することができない場合があり、また、一方で膜生成抑制剤の添加量が5重量%より極端に多くなると、タンパク質含有液状食品の粘度が高くなり過ぎて、食感や舌触りに影響を与える場合や、フレーバーリリースが悪くなり液状食品の風味に影響を与える場合がある。また、液状食品に対する発酵セルロースの添加量は、液状食品が含有するタンパク質含有量に応じて適宜調節することができるが、0.01〜5重量%、より好ましくは0.05〜3重量%を例示することができる。
【0028】
そして、本発明の膜生成抑制剤の添加方法としては、最終的にタンパク質含有液状食品中に本発明の膜生成抑制剤が添加されていれば特に限定されず、各種添加方法をとることができる。例えば、本発明の膜生成抑制剤を、牛乳や豆乳などのタンパク質と共に水溶液に溶解して液状食品を調製しても良く、また、別個で調製した膜生成抑制剤の溶液を、豆乳などのタンパク質含有液状食品に添加しても良い。
【0029】
なお、膜生成抑制剤溶液を調製する際には、均質化処理を行うことが好ましい。ここで、均質化処理は一般的な方法を用いることができ、例えば、市販のホモミキサーやホモゲナイザーにて処理する方法を挙げることができるが、2段均質化を行うのが好ましい。均質化条件として、例えば2段均質化を行う場合、60〜80℃で、第一段階 9.8×10Pa(100kgf/cm)、第二段階 4.7×10Pa(50kgf/cm)の計14.7×10Pa(150kgf/cm)を挙げることができる。また、均質化を数回繰り返しても良い。
【0030】
そして、本発明の膜生成抑制剤を含有したタンパク質含有液状食品は、調製時、加熱殺菌を行うことにより、常温、チルド、冷凍などの流通に適した製品とすることができる。なお、加熱殺菌の条件として、100〜150℃、10〜60分程度の加熱を行うレトルト殺菌や、80〜98℃、15〜90分程度のボイル殺菌やスチーム殺菌、UHT殺菌、HTST殺菌、オートクレーブ殺菌等の殺菌方法を挙げることができる。なお、本発明の膜生成抑制剤は、上記加熱殺菌や調理の際の加熱によって生じるタンパク質含有液状食品の膜の生成を顕著に抑制することができる。
【0031】
また、本発明の膜生成抑制剤は、発明の効果を妨げない限りにおいて、各種成分を添加することができる。例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ユッカ抽出物、サポニン、ポリソルベート等の乳化剤や、カラギナン(イオタ、ラムダ、カッパ)、ガラクトマンナン(グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム等)、グルコマンナン、カシアガム、ネイティブ型ジェランガム、脱アシル型ジェランガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、ペクチン、ゼラチン、トラガントガム、カラヤガム、マクロホモプシスガム、寒天、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩)、カードラン、プルラン、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等のセルロース誘導体、水溶性ヘミセルロース、アラビアガム、ガティガム、水溶性大豆多糖類等の増粘多糖類を添加することができる。その他、本発明の効果を妨げない範囲において、カゼインナトリウムや、有機酸及びその塩類、糖類、高甘味度甘味料、香料、色素等を添加することができる。
【0032】
また、本発明は、牛乳や豆乳などのタンパク質含有液状食品を加熱した際に液体表面に生じる膜の生成抑制方法を提供するものである。当該方法は前述するように、発酵セルロースを含有する本発明の膜生成抑制剤を、タンパク質含有液状食品に添加することにより実施することができる、そして、発酵セルロースを含有する膜生成抑制剤をタンパク質含有液状食品に添加する方法としては、上述の方法を取ることができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明は
これらに何ら限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは、「重量部
」を意味するものとする。文中「*」印のものは、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
【0034】
実験例1 豆乳鍋の膜生成抑制試験
表1に示す配合の発酵セルロース複合体を含有する膜生成抑制剤を用いて、豆乳鍋を調製した。また、比較例として、膜生成抑制剤を含有しないで(比較例1)、もしくは本発明の膜生成抑制剤の代わりに微結晶セルロース、水溶性ヘミセルロースを含有した膜生成抑制剤を用いて豆乳鍋を調製した(比較例2〜4)。
【0035】
【表1】

【0036】
豆乳鍋は上記処方に従い、以下の手順によって調製した。まず、表1に記載する濃度となるように膜生成抑制剤溶液を調製し、調製した膜生成抑制剤溶液のうち、発酵セルロース、及び微結晶セルロースを添加した溶液は、60〜80℃で、第一段階 9.8×10Pa(100kgf/cm)、第二段階 4.7×10Pa(50kgf/cm)の計14.7×10Pa(150kgf/cm)の条件下で均質化した。そしてビーカーに調製した膜生成抑制剤溶液、豆乳、だしを加え豆乳鍋を調製した。調製した豆乳鍋は加熱し、沸騰状態で15分、30分後に豆乳鍋表面の膜生成、食感について評価した。評価の結果は、豆乳鍋に対するセルロース添加量、発酵セルロース複合体の内訳と共に、表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
<膜生成の状態の評価基準>
0←―――――――→ 5 ←――――――→ 10
膜の生成なし 薄い膜を生成 厚い膜を生成
【0039】
表2より、発酵セルロースを含有する膜生成抑制剤を豆乳鍋に添加することにより、顕著に豆乳鍋の膜の生成を抑制することができた。また、同じ発酵セルロースを含有した場合であっても、複合高分子物質としてCMC−Naにキサンタンガムよりもグァーガムを用いて複合化した発酵セルロース複合体の方がより少量で、より高い膜生成抑制効果を示した。一方、膜生成抑制剤を含有しなかった場合や、微結晶セルロースや水溶性ヘミセルロースを含有した膜生成抑制剤を使用した場合は、豆乳鍋の加熱による膜の生成を抑制することはできなかった。また、比較例1〜4の豆乳鍋は実施例に比べ、食した際に豆乳の膜が口の中にへばりつき、ざらついた食感となった。
【0040】
なお、実施例4で調製した豆乳鍋に肉や野菜などの具材を添加して煮込み、具材入り豆乳鍋を調製したところ、豆乳鍋表面に膜が生成したり、具材に膜が張り付くこともなく、具材本来の食感を味わうことができる豆乳鍋となった。更には、いったん冷却した豆乳鍋を再加熱した場合であっても、膜の生成を顕著に抑制することができ、良好な豆乳鍋の状態を保つことができた。
【0041】
実験例2 牛乳入り飲料の膜生成抑制試験
発酵セルロース複合体を含有する膜生成抑制剤を用い、表3の処方に従って牛乳入り飲料を調製し、発酵セルロースの膜生成抑制効果を確認した。詳細には、まず、80℃の水29.25%に発酵セルロース複合体(サンアーティスト※PG*)を0.45重量%添加し、攪拌溶解したものを以下の条件で均質化し、膜生成抑制剤溶液を調製した。(均質化条件:第一段階 9.8×10Pa(100kgf/cm)、第二段階 4.7×10Pa(50kgf/cm)の計14.7×10Pa(150kgf/cm))次に、調製した膜生成抑制剤溶液を室温まで冷却後、70重量%の牛乳と混合して牛乳入り飲料を調製した。そして、調製した牛乳入り飲料をビーカーに移して90℃まで加熱後、室温下に放置して飲料表面の膜生成について評価した。
【0042】
【表3】

【0043】
ここで、発酵セルロース無添加の牛乳であれば、90℃に加熱し室温下に放置後、1分間程度で牛乳の表面全体に膜が生成するが、本発明の膜生成抑制剤を添加することにより、実験例2の牛乳入り飲料は約4分後まで膜の生成が確認できなかった。更には、4分間経過後も表面の膜は部分的に生成する程度であり、飲料表面全体に膜が生成することはなく、顕著に膜の生成を抑制することができた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により、調理などの加熱による膜の生成が顕著に抑制され、ひいては加熱処理による外観、食感の劣化が抑制された牛乳、豆乳などのタンパク質を含有した液状食品を提供することができる。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵セルロースを含有することを特徴とする、タンパク質含有液状食品の膜生成抑制剤。
【請求項2】
発酵セルロースが高分子物質と複合化された発酵セルロース複合体である、請求項1に記載のタンパク質含有液状食品の膜生成抑制剤。
【請求項3】
発酵セルロース複合体が、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム及びグァーガムから選ばれる1種又は2種以上の高分子物質と複合化された発酵セルロース複合体である請求項2に記載のタンパク質含有液状食品の膜生成抑制剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の膜生成抑制剤を含有することにより、加熱時におけるタンパク質由来の膜生成が抑制された、タンパク質含有液状食品。
【請求項5】
タンパク質が、牛乳、又は豆乳由来のものである請求項4に記載の膜生成が抑制されたタンパク質含有液状食品。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の膜生成抑制剤を含有又は添加することを特徴とする、タンパク質含有液状食品の膜生成抑制方法。



【公開番号】特開2008−104(P2008−104A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174937(P2006−174937)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】