説明

タンパク質抽出方法

【課題】 生体の状態を反映するタンパク質をヒト皮膚の角層から迅速かつ簡便に抽出し、高感度に分析する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 テープストリッピング法により採取した角層が粘着している粘着テープを、粘着面の反対の面が容器の内壁に接するように円筒容器に入れ、ラウリル硫酸ナトリウムを含有する抽出バッファーを入れて、ホモジナイゼーション用のペッスルを回転させて粘着面を擦ることを特徴とするタンパク質の抽出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚からテープストリッピング法を利用してタンパク質を抽出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の発現が、生体の状態を反映することが知られており、タンパク質の発現を調べて、生体の状態を評価するために、簡便、かつ、迅速にタンパク質を抽出する方法が必要とされている。手術で切り取ったヒトの皮膚を免疫染色することにより、maspinが老化に伴い増加することが見出されている(非特許文献1:NICKOLOFF,B.J. et al., Cancer Research, (2004), Vol.64, pp.2956-2961)。ヒト前腕の皮膚を切り取り、[35S]メチオニンで同位体ラベルし、2次元電気泳動で測定することにより、加齢に伴ってMx-A、Mn-SOD、tryptophanyl-tRNA synthetase、the p85β subunit of phosphatidylinositol 3-kinase、the proteasome regulator PA28-α、the eukaryotic initiation factor 5A, NM23H2, cyclophilin A and its variant, proteasomal protein SSP 0107, HSP60の発現が増加し、annexin I, plasminogen activator inhibitor 2の発現が減少することが見出されている(非特許文献2:GROMOV, P. et al., Mol. Cell. Proteomics, (2003), Vol.2, No.2, pp.70-84)。ヒトさい帯静脈内皮細胞のタンパク質を2次元電気泳動法で分析することにより、老化に伴ってcytokeratin 7が減少することが見出されている(非特許文献3:Martina Wei-Fen CHANG et al., Experimental Cell Res., (Jun.2005), Vol.309, pp.121-136)。免疫染色法により表皮細胞中のcytokeratin 15が老化に伴って減少することが見出されている(非特許文献4:LYLE, S. et al., J. Invest. Dermatol., (1999), Vol.112, No.4, pp.623)。しかしながら、これらの研究は手術で切り取った皮膚やヒトさい帯静脈内皮細胞、あるいは培養細胞を用いており、一般人の老化の状態を簡便に評価することは困難である。これらの老化に伴って変化するタンパク質を抗体を用いて分析するにあたり、迅速、かつ、簡便に抽出する方法は開発されていない。
アトピー患者及び非アトピー患者の皮膚を切り取り、2次元電気泳動法を用いてアトピー患者に多く発現するタンパク質、少なく発現するタンパク質が見出されている。(非特許文献5:PARK YD, et al., Proteomics, 2004, vol.4, no.11, pp.3446-3455)。タンパク質の発現を評価することにより、アトピー症状を評価することができるが、タンパク質を迅速、かつ、簡便に抽出する方法は示されていない。
【0003】
一方、皮膚からタンパク質を簡便に採取する方法としてテープストリッピングが提案されている。テープストリッピングを用いて角層を採取し、角層が付着している粘着テープを直径90mmの培養皿に並べて、バッファーに浸し、緩やかに20分間攪拌することによりタンパク質を抽出する手法が知られているが(非特許文献6:J. J. Thiele et al., J. Invest. Dermatol. 1999, vol.113, no.3, pp.335-339)、タンパク質を迅速に、かつ、簡便に抽出する方法は検討されていない。
【0004】
【非特許文献1】NICKOLOFF,B.J. et al., Cancer Research, (2004), Vol.64, pp.2956-2961
【非特許文献2】GROMOV, P. et al., Mol. Cell. Proteomics, (2003), Vol.2, No.2, pp.70-84
【非特許文献3】Martina Wei-Fen CHANG et al., Experimental Cell Res., (Jun.2005), Vol.309, pp.121-136
【非特許文献4】LYLE, S. et al., J. Invest. Dermatol., (1999), Vol.112, No.4, pp.623
【非特許文献5】PARK YD, et al., Proteomics, 2004, vol.4, no.11, pp.3446-3455
【非特許文献6】J. J. Thiele et al., J. Invest. Dermatol. 1999, vol.113, no.3, pp.335-339
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生体の状態を反映するタンパク質をヒト皮膚の角層から迅速かつ簡便に抽出し、高感度に分析する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)ヒト皮膚タンパク質を抗体反応により分析するために、ヒト皮膚タンパク質を抽出する方法であって、テープストリッピング法により採取した角層が粘着している粘着テープを、粘着面の反対の面が容器の内壁に接するように円筒容器に入れ、ラウリル硫酸ナトリウムを含有する抽出バッファーを入れて、ホモジナイゼーション用のペッスルを回転させて粘着面を擦ることを特徴とするタンパク質の抽出方法。
(2)抽出バッファーに含有させるラウリル硫酸ナトリウムの濃度が0.1〜1%(w/v)であることを特徴とする(1)に記載のタンパク質の抽出方法。
(3)ヒト皮膚タンパク質がケラチン7および/又はケラチン15および/又はマスピン(maspin)であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のタンパク質の抽出方法。
【発明の効果】
【0007】
1.テープストリッピング法により被験者の角層を採取するので、被験者を傷つけることが無く、簡便である。
2.角層からタンパク質を5分以内に抽出することができる。
3.生体の状態を反映するタンパク質として、皮膚老化を反映するケラチン7、ケラチン15、マスピン(maspin)を高感度に検出することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
(1)テープストリッピング法による角層の採取
テープストリッピング法とは皮膚に粘着テープを貼り付けて、粘着テープを剥がすことにより、粘着面に粘着した角層を採取する方法である。
市販の粘着テープを用いて、例えばヒト頬部に粘着テープを押し付けることにより、角層を粘着テープに粘着させて採取することができる。市販の粘着テープとしてはアサヒバイオメッド社製角質チェッカー、モリテックス社製角層シール、PROMOTOOL社製角質チェッカー(ディスクタイプW、ディスクタイプG、PROタイプ)、Integral社製Corneofix、3M社製透明テープ、3M社製透明両面テープ等が挙げられる。
【0009】
(2)抽出バッファー
粘着テープに粘着した角層からタンパク質を抽出するために抽出バッファーを用いる。抽出バッファーとして例えば以下の組成を挙げることができる。組成:50mM Tris-HCl
(pH7.5)、120mM NaCl(塩化ナトリウム), 1mM Na3VO4(オルトバナジン酸ナトリウム)。
粘着テープで採取されてくる皮膚の角質層は角化細胞が分化したもので、細胞骨格系のタンパク質を多く含む。そのためタンパク質の抽出効率を上げるには、この抽出バッファーに適当な界面活性剤を含有させることが必要である。さらに、界面活性剤としてはSDS(ラウリル硫酸ナトリウム、CH3(CH2)11OSO3Na)を使用することが必要である。SDSを用いると、タンパク質を分析する際の抗体の反応性が際立って高くなる。また、抽出バッファー中のSDSの濃度は0.1%(w/v)以上1%(w/v)以下が好ましい。0.1%未満であるとタンパク質の抽出量が不十分の場合があり、1%(w/v)を超えるとタンパク質を分析する際に抗体の反応を阻害する場合がある。
【0010】
本発明の抽出法を用いることにより、皮膚老化を反映するケラチン7、ケラチン15、マスピンを迅速かつ高感度に検出することができる。
ケラチン7は分子質量51,287Daの細胞骨格タンパク質で中間系フィラメントの成分である。腺細胞を含む多様な上皮細胞で発現が見られる。尿管の移行上皮、胆管、肺、乳腺上皮でも発現している。一部、腫瘍マーカーとしても使用されている。遺伝子配列情報(Keratin 7,J.Cell Biol.107:1337−1350,1988,AF509887)。アミノ酸配列情報(Keratin,type II cytoskeletal 7,P08729)。ケラチン7は老化に伴って発現が減少することが知られている。
ケラチン15は分子質量49,167Daの細胞骨格タンパク質である。中間系フィラメントの成分である。主に上皮基底層に局在している。遺伝子配列情報(Keratin 15, J.Cell Biol.106:1249−1261,1988,X07696)。アミノ酸配列情報(Keratin,type I cytoskeletal 15,P19012)。ケラチン15は老化に伴って発現が上昇することが知られている。
マスピンは分子質量42,138Daの分泌タンパク質である。腫瘍抑制因子(tumor suppressor)として機能し、哺乳動物の癌細胞のgrowth,invasion, metastaticを抑制する。セルピン(serpin)様の構造を持つが、セリンプロテアーゼ阻害効果は見られない細胞外へ分泌されており、主に正常上皮細胞に存在する。遺伝子塩基配列情報(Maspin, Science 263:526-529(1994), U04313)。アミノ酸配列情報(Maspin, J.Biol.Chem. 270:15832-15837(1995), P36952)。マスピンは老化に伴って発現が上昇することが知られている。
【0011】
(3)タンパク質の抽出
角層を採取した粘着テープを円筒容器に入れて、高速回転するホモジナイゼーション用のペッスル(以下、「ペッスル」と呼ぶ)を用いて粘着面を擦ることにより迅速なタンパク質の抽出が可能である。従来は、角層を採取した粘着テープを抽出バッファーに浸して手作業によりスクレーパーで擦ってタンパク質を抽出していたが、以下に示すペッスルを用いる攪拌方法により5分以内にスクレーパー法の1.5倍以上のタンパク質を抽出することができる。このことは、振盪法や超音波照射法では困難である。
【0012】
角層を採取した粘着テープ並びに抽出バッファーを入れる容器の内径は5mm以上15mm以下が好ましい。内径が5mm未満であると、ペッスルの掻きとり部の直径を小さくしなければならず、粘着面を擦る効率が悪くなり、タンパク質の抽出効率が悪い。また、粘着テープを容器に入れることが困難である。内径が15mmを超えると、粘着テープを内壁に沿わせて保持することが困難となる。
粘着テープは粘着面を円筒容器内側に向けて、粘着面の反対面を円筒容器の内側に沿わせるようにして、円筒容器に入れる。粘着テープを粘着面の反対面を円筒容器の内側に沿わせて入れることにより、ペッスルにより容易に粘着面を擦ることができる。粘着テープは湾曲性のある素材を使用する。粘着テープを円筒容器に挿入する際に、挿入する方向と垂直の方向の粘着テープの幅は、円筒容器内周の60%以上100%以下が好ましい。粘着テープの幅が円筒容器内周の60%未満であると、粘着テープの湾曲性によって粘着テープを円筒容器内面に沿って接触させることが困難となり、100%を超えると粘着テープが重なって好ましくない。
【0013】
ペッスルは、棒の先端に掻き取り可能な突起状、あるいはヘラ状の構造を有するものであればよい。ペッスルの構造としては、例えば、棒の先端に、棒の直径より大きい同心円筒を接続し、その円筒に軸と平行に複数の欠失部を設けることにより、円筒の円周上に並んだ複数のヘラ状構造(掻きとり部)を設けることができ、そのヘラで粘着テープを擦ることができる。市販品としてはHandy pestle (TOYOBO社、code HMX-301)等を用いることができる。Handy pestle (TOYOBO社、code HMX-301)の掻きとり部の直径は約7mmである。
ペッスルの回転数は6000rpm〜9000rpmが好ましい。6000rpm未満であるとタンパク質の抽出効率が必ずしも十分ではなく、9000rpmを超えると、泡立ちが激しくなり好ましくない。
ペッスルで粘着面を擦る時間は2分以上5分以下が好ましい。2分未満であるとタンパク質の抽出効率が必ずしも十分ではなく、5分を超えて攪拌してもタンパク質の抽出量は殆ど変わらない。
例えば、内径1.1cmの円筒容器に角層を採取した粘着テープと200μLの抽出バッファーを入れ、直径7mmの掻きとり部を有するペッスルを用いて、9000rpmの回転数で4分間粘着面を擦ることによりタンパク質を効率的に抽出することが可能である。
【0014】
(4)タンパク質抽出液の採集
タンパク質抽出液を約1分間静置し、泡を沈静化し、その後、円筒容器からタンパク質抽出液を吸引して採集することが好ましい。
【0015】
(5)タンパク質の分析
得られたタンパク質抽出液中のタンパク質は、ELISA法、抗体チップ法、FRET法により定量分析することができる。
【0016】
タンパク質の抽出方法の検討
テープストリッピングにより採取した角層から、タンパク質を迅速に抽出するための方法を検討した。
1.テープストリッピング
粘着テープとしてアサヒバイオメッド社製角質チェッカー(2.5cm×2.5cm)を用いて前腕内側部および顔面頬部の角層を採取した。具体的には、被験者の前腕内側部および顔面頬部に角質チェッカーを貼り、指先で軽く擦り付けて角層を角質チェッカーの粘着面に粘着させた。
2.抽出操作の比較
従来、スクレーパーを用いて手作業で粘着テープを擦りながら攪拌し、タンパク質を抽出しており、再現性が良いことを確認している。そこで、スクレーパーを用いたタンパク質の抽出を標準操作として、振盪器、超音波、ペッスルそれぞれの方法で抽出した際の抽出効率を比較した。
3.タンパク質量の測定
タンパク質抽出液に含まれるタンパク質の量はDC protein Assay Kit(BIO-RAD社)を用いて測定した。
【0017】
(1)振盪器によるタンパク質の抽出検討
比較例1、標準操作1について抽出バッファーは以下の組成のものを用いた。抽出バッファーの量は300μLとした。
抽出バッファー:50mM Tris-HCl (pH7.5)、120mM NaCl, 1mM Na3VO4, 1%(w/v)SDS
比較例1、標準操作1について抽出容器は直径11mmの円筒容器を用いた。
比較例1、標準操作1について、同一被験者からテープストリッピングにより角層を採取し、各操作方法について3枚の粘着テープからタンパク質を抽出し、平均値を求めた。
【0018】
比較例1 振盪器によるタンパク質の抽出
円筒容器に粘着テープを粘着面の反対の面が容器の内壁に沿うようにして入れ、抽出バッファーを入れてTuple mixer (IWAKI社 code TWIN3-28N)を用いて1分、3分、5分、10分、15分、30分、60分振盪し、タンパク質を抽出した。
標準操作1 標準操作によるタンパク質の抽出
粘着面を上にして粘着テープをパラフィルムの上に置き、抽出バッファーをのせて、プラスチックスクレーパーで5分間粘着面を擦り、タンパク質を抽出した。
【0019】
図1に実験結果を示す。振盪器を用いた場合は、30分振盪で33.6μg/粘着テープ、のタンパク質が抽出され、標準操作1(33.6μg/粘着テープ)と同程度の抽出量となった。しかし、5分でのタンパク質の抽出量(8.7μg/粘着テープ)は標準操作の1/3以下である。従って、振盪器による攪拌は迅速な抽出操作に適さない。
【0020】
(2)超音波装置によるタンパク質の抽出検討
比較例2、標準操作2について抽出バッファーは以下の組成のものを用いた。抽出バッファーの量は300μLとした。
抽出バッファー:50mM Tris-HCl (pH7.5)、120mM NaCl, 1mM Na3VO4, 1%(w/v)SDS
比較例2、標準操作2について抽出容器は直径11mmの円筒容器を用いた。
比較例2、標準操作2について、同一被験者からテープストリッピングにより角層を採取し、各操作方法について3枚の粘着テープからタンパク質を抽出し、平均値を求めた。
【0021】
比較例2 超音波装置によるタンパク質の抽出
円筒容器に粘着テープを粘着面の反対の面が容器の内壁に沿うようにして入れ、抽出バッファーを入れて超音波装置(SHARP UT-205)を用いて1分、3分、5分、10分、15分、30分、60分超音波をかけて、タンパク質を抽出した。
標準操作2 標準操作によるタンパク質の抽出
粘着面を上にして粘着テープをパラフィルムの上に置き、抽出バッファーをのせて、プラスチックスクレーパーで5分間粘着面を擦り、タンパク質を抽出した。
【0022】
図2に実験結果を示す。洗浄用超音波装置を用いた場合には10分で34.65μg/粘着テープ、のタンパク質が抽出され、標準操作2(36μg/粘着テープ)とほぼ同等のタンパク質の抽出量となったが、5分でのタンパク質の抽出量(8.1μg/粘着テープ)は標準操作2の1/3以下であり、迅速な抽出操作に適さない。
【0023】
(3)ペッスルを用いたタンパク質の抽出 粘着テープの入れ方の検討
比較例4、5、実施例1、標準操作4について抽出バッファーは以下の組成のものを用いた。抽出バッファーの量は200μLとした。
抽出バッファー:50mM Tris-HCl (pH7.5)、120mM NaCl, 1mM Na3VO4, 0.1%(w/v)SDS
比較例4、5、実施例1、標準操作4について抽出容器は直径11mmの円筒容器を用いた。
比較例4,5、実施例1、標準操作4について、同一被験者からテープストリッピングにより角層を採取し、各操作方法について3枚の粘着テープからタンパク質を抽出し、平均値を求めた。
【0024】
比較例4 ペッスルによるタンパク質の抽出
円筒容器に粘着テープを丸めて入れ、抽出バッファーを入れて、ミニ・コードレスグラインダー(フナコシ社 CG−4A)にペッスルとしてHandy pestle (TOYOBO社、code HMX-301)を接続し、ペッスルを9000rmpで回転させて、円筒容器内の抽出バッファーを攪拌した。攪拌時間は30秒、60秒とした。
比較例5 ペッスルによるタンパク質の抽出
円筒容器に粘着テープをペッスルで押し込んでシワを寄らせて入れ、抽出バッファーを入れて、ミニ・コードレスグラインダー(フナコシ社 CG−4A)にペッスルとしてHandy pestle (TOYOBO社、code HMX-301)を接続し、ペッスルを9000rmpで回転させて、円筒容器内の抽出バッファーを攪拌した。攪拌時間は30秒、60秒とした。
実施例1 ペッスルによるタンパク質の抽出
円筒容器に粘着テープを粘着面の反対の面が容器の内壁に沿うようにして入れ、抽出バッファーを入れて、ミニ・コードレスグラインダー(フナコシ社 code13753E)にペッスルとしてHandy pestle (TOYOBO社、code HMX-301)を接続し、ペッスルを9000rmpで回転させて、円筒容器内壁に沿わせた粘着テープの粘着面を擦った。攪拌時間は30秒、60秒とした。
標準操作4 標準操作によるタンパク質の抽出
粘着面を上にして粘着テープをパラフィルムの上に置き、抽出バッファーをのせて、プラスチックスクレーパーで5分間粘着面を擦り、タンパク質を抽出した。
【0025】
図3に実験結果を示す。円筒容器への粘着テープへの入れ方により、タンパク質の抽出効率が変わることがわかった。比較例4、5で用いた粘着テープを丸めて入れる方法やペッスルで押し込んで入れる方法では60秒の攪拌で、標準操作4と比べて約1/10、3/4のタンパク質しか抽出されず、タンパク質の抽出効率が悪いが、実施例1で用いた粘着テープの粘着面の反対面を容器の内壁に沿うようにいれ、ペッスルで粘着面を擦る方法では標準操作4の条件(45μg/粘着テープ)よりも30秒処理(61.8μg/粘着テープ)では約1.4倍、また60秒処理(100.05μg/粘着テープ)では約2.2倍のタンパク質が抽出され、実施例1の操作によるタンパク質の抽出効果が高いことが示された。
【0026】
(4)ペッスルによるタンパク質の抽出 粘着面を擦る時間の検討1
実施例2、標準操作5について抽出バッファーは以下の組成のものを用いた。抽出バッファーの量は200μLとした。
抽出バッファー:50mM Tris-HCl (pH7.5)、120mM NaCl, 1mM Na3VO4, 1%(w/v)SDS
実施例3、標準操作6について抽出バッファーは以下の組成のものを用いた。抽出バッファーの量は200μLとした。
抽出バッファー:50mM Tris-HCl (pH7.5)、120mM NaCl, 1mM Na3VO4, 0.1%(w/v)SDS
実施例2、3、標準操作5、6について抽出容器は直径11mmの円筒容器を用いた。
実施例2,3、標準操作5、6について、同一被験者からテープストリッピングにより角層を採取し、各操作方法について3枚の粘着テープからタンパク質を抽出し、平均値を求めた。
【0027】
実施例2 ペッスルによるタンパク質の抽出
円筒容器に粘着テープを粘着面の反対の面が容器の内壁に沿うようにして入れ、1%(w/v)SDSを含有する抽出バッファーを入れて、ミニ・コードレスグラインダー(フナコシ社 CG−4A)にペッスルとしてHandy pestle (TOYOBO社、code HMX-301)を接続し、ペッスルを9000rmpで回転させて、円筒容器内壁に沿わせた粘着テープの粘着面を擦った。攪拌時間は30秒、60秒、120秒とした。
標準操作5 標準操作によるタンパク質の抽出
粘着面を上にして粘着テープをパラフィルムの上に置き、1%(w/v)SDSを含有する抽出バッファーをのせて、プラスチックスクレーパーで5分間粘着面を擦り、タンパク質を抽出した。
実施例3 ペッスルによるタンパク質の抽出
円筒容器に粘着テープを粘着面の反対の面が容器の内壁に沿うようにして入れ、0.1%(w/v)SDSを含有する抽出バッファーを入れて、ミニ・コードレスグラインダー(フナコシ社 CG−4A)にペッスルとしてHandy pestle (TOYOBO社、code HMX-301)を接続し、ペッスルを9000rmpで回転させて、円筒容器内壁に沿わせた粘着テープの粘着面を擦った。攪拌時間は30秒、60秒、120秒とした。
標準操作6 標準操作によるタンパク質の抽出
粘着面を上にして粘着テープをパラフィルムの上に置き、0.1%(w/v)SDSを含有する抽出バッファーをのせて、プラスチックスクレーパーで5分間粘着面を擦り、タンパク質を抽出した。
【0028】
図4に実験結果を示す。1%(w/v)SDSを含有する抽出バッファーを用いた実施例2、0.1%(w/v)SDSを含有する抽出バッファーを用いた実施例3では、ほぼ同量のタンパク質が抽出されることがわかった。抽出バッファー中のSDSの濃度が0.1〜1%(w/v)で、再現性の良い抽出ができる。また、実施例2,3ともにペッスルで擦る時間60秒で標準操作6のタンパク質量を超え、120秒で標準操作6よりも明らかにタンパク質の抽出量が多くなった。1%(w/v)SDSを含有する抽出バッファーを用いた標準操作5と0.1%(w/v)SDSを含有する抽出バッファーを用いた標準操作6を比較すると、標準操作6のタンパク質抽出量は標準操作5の6割であり、標準操作による抽出タンパク質量は抽出バッファー中のSDSの濃度に影響される。
【0029】
(5)ペッスルによるタンパク質の抽出 粘着面を擦る時間の検討2
実施例4、標準操作7について抽出バッファーは以下の組成のものを用いた。抽出バッファーの量は200μLとした。
抽出バッファー:50mM Tris-HCl (pH7.5)、120mM NaCl, 1mM Na3VO4, 1%(w/v)SDS
実施例4、標準操作7について抽出容器は直径11mmの円筒容器を用いた。
実施例4、標準操作7について、同一被験者からテープストリッピングにより角層を採取し、各操作方法について3枚の粘着テープからタンパク質を抽出し、平均値を求めた。
【0030】
実施例4 ペッスルによるタンパク質の抽出
円筒容器に粘着テープを粘着面の反対の面が容器の内壁に沿うようにして入れ、抽出バッファーを入れて、ミニ・コードレスグラインダー(フナコシ社 CG−4A)にペッスルとしてHandy pestle (TOYOBO社、code HMX-301)を接続し、ペッスルを9000rmpで回転させて、円筒容器内壁に沿わせた粘着テープの粘着面を擦った。攪拌時間は0.5分、1分、2分、3分、4分とした。
標準操作7 標準操作によるタンパク質の抽出
粘着面を上にして粘着テープをパラフィルムの上に置き、抽出バッファーをのせて、プラスチックスクレーパーで5分間粘着面を擦り、タンパク質を抽出した。
【0031】
図5に実験結果を示す。粘着面を擦る時間が3分と4分のタンパク質抽出量はほぼ等しく、粘着面を擦る時間は4分で十分であることがわかった。
【0032】
(6)ペッスルによるタンパク質の抽出 抽出バッファーに配合する界面活性剤の検討1
実施例5、比較例6〜10について抽出容器は直径11mmの円筒容器を用いた。円筒容器に粘着テープを粘着面の反対の面が容器の内壁に沿うようにして入れ、抽出バッファーを入れて、ミニ・コードレスグラインダー(フナコシ社 CG−4A)にペッスルとしてHandy pestle (TOYOBO社、code HMX-301)を接続し、ペッスルを9000rmpで回転させて、円筒容器内壁に沿わせた粘着テープの粘着面を擦った。攪拌時間は4分とした。
実施例5、比較例6〜10について、同一被験者からテープストリッピングにより角層を採取し、各操作方法について3枚の粘着テープからタンパク質を抽出し、平均値を求めた。
【0033】
実施例5および比較例6〜10の抽出バッファーの組成を以下に示す。
実施例5 1%SDS含有抽出バッファー
50mM Tris-HCl (pH7.5)、120mM NaCl, 1mM Na3VO4, 1%(w/v)SDS
比較例6 0.4%NP-40含有抽出バッファー
50mM Tris-HCl (pH7.5)、120mM NaCl, 1mM Na3VO4, 0.4%(w/v)NP-40
NP-40:(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)
比較例7 2%NP-40含有抽出バッファー
50mM Tris-HCl (pH7.5)、120mM NaCl, 1mM Na3VO4, 2%(w/v)NP-40
NP-40:(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)
比較例8 2%CHAPS含有抽出バッファー
50mM Tris-HCl (pH7.5)、120mM NaCl, 1mM Na3VO4, 2%(w/v)CHAPS
CHAPS:(3−[ (3−コラシドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルホン酸、C32H58N2O7S)
比較例9 2%ASB-14含有抽出バッファー
50mM Tris-HCl (pH7.5)、120mM NaCl, 1mM Na3VO4, 2%(w/v)ASB-14
ASB-14:(アミドスルホベタイン、C22H46N2O4S)
比較例10 5%TritonX-100含有抽出バッファー
50mM Tris-HCl (pH7.5)、120mM NaCl, 1mM Na3VO4, 5%(w/v)TritonX-100
Triton X-100(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)
【0034】
図6に実験結果を示す。実施例5、比較例6〜10に用いた界面活性剤はいずれもタンパク質の抽出が可能である。
【0035】
(7)ペッスルによるタンパク質の抽出 抽出バッファーに配合する界面活性剤の検討2 ケラチン15、ケラチン7、マスピン(maspin)の分析
実施例5、比較例6〜10の手順を用いて抽出したタンパク質中のケラチン15、ケラチン7、マスピンを以下の方法により分析した。
抽出したタンパク質の量をDC protein Assay Kit(BIO-RAD社)を用いて測定した。そのうち2μg分のサンプルを用いて、ケラチン15、ケラチン7、マスピンの抗体を用いて、ケラチン15、ケラチン7、マスピンをELISA法により検出した。
【0036】
ケラチン15の検出結果を図7に、ケラチン7の検出結果を図8に、マスピンの検出結果を図9に示す。
1%(w/v)SDS含有抽出バッファーを用いた実施例5のケラチン15、ケラチン7、マスピンの発現量(検出量)は、他の界面活性剤を含有する抽出バッファーを用いた比較例6〜10と比べて7倍以上であり、抽出バッファーにSDSを含有させることにより、ケラチン15、ケラチン7、マスピンの検出感度が格段に高くなることがわかった。具体的には、ケラチン15について実施例5による発現量は228.4(相対値)であるのに対して、他の界面活性剤の中で最も発現量の多い比較例8(2%CHAPS含有抽出バッファー)で25.2であり、実施例5は他の界面活性剤と比べて9倍以上検出感度が高い。ケラチン7について実施例5による発現量は451.6(相対値)であるのに対して、他の界面活性剤の中で最も発現量の多い比較例10(5%TritonX-100含有抽出バッファー)で61.2であり、実施例5は他の界面活性剤と比べて7倍以上検出感度が高い。マスピンについて実施例5による発現量は302.5(相対値)であるのに対して、他の界面活性剤の中で最も発現量の多い比較例8(2%CHAPS含有抽出バッファー)で30.5であり、実施例5は他の界面活性剤と比べて約10倍以上検出感度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】振盪器によるタンパク質の抽出
【図2】超音波装置によるタンパク質の抽出
【図3】ペッスルを用いたタンパク質の抽出 粘着テープの入れ方によるタンパク質抽出量
【図4】ペッスルによるタンパク質の抽出 粘着面を擦る時間と抽出量
【図5】ペッスルによるタンパク質の抽出 粘着面を擦る時間とタンパク質の抽出量
【図6】ペッスルによるタンパク質の抽出 抽出バッファーに配合する界面活性剤とタンパク質抽出量
【図7】抽出バッファー中の界面活性剤とケラチン15の発現量
【図8】抽出バッファー中の界面活性剤とケラチン7の発現量
【図9】抽出バッファー中の界面活性剤とマスピンの発現量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト皮膚タンパク質を抗体反応により分析するために、ヒト皮膚タンパク質を抽出する方法であって、テープストリッピング法により採取した角層が粘着している粘着テープを、粘着面の反対の面が容器の内壁に接するように円筒容器に入れ、ラウリル硫酸ナトリウムを含有する抽出バッファーを入れて、ホモジナイゼーション用のペッスルを回転させて粘着面を擦ることを特徴とするタンパク質の抽出方法。
【請求項2】
抽出バッファーに含有させるラウリル硫酸ナトリウムの濃度が0.1〜1%(w/v)であることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質の抽出方法。
【請求項3】
ヒト皮膚タンパク質がケラチン7および/又はケラチン15および/又はマスピン(maspin)であることを特徴とする請求項1又は2に記載のタンパク質の抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−249429(P2008−249429A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89737(P2007−89737)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】