説明

タンパク質格子

3次元で反復している反復単位を有する規則的な構造を有するタンパク質格子(1)は、例えば、X線結晶構造解析で高分子存在物の配列を支持するなど、多数の使用法を有する可能性がある。反復単位はタンパク質プロトマー(2)を含み、このプロトマーはそれぞれ、互いに融合している少なくとも2つのモノマー(5、6)を含む。モノマー(5、6)は、プロトマーが集合して格子となるために、モノマーが集合して生じるそれぞれのオリゴマーアセンブリ(3、4)の各モノマーである。第1のオリゴマーアセンブリ(3)は、3次元中に延びる1組の回転対称軸を有する。前記プロトマー(2)中で、前記第1のモノマー(5)と融合しているさらなるモノマー(6)は、前記第1のオリゴマーアセンブリ(3)の前記1組の回転対称軸のそれぞれの軸と同じ位数の回転対称軸を有するそれぞれのさらなるオリゴマーアセンブリ(4)のモノマーである。したがって、反復単位は、プロトマー(2)の第1のモノマー(5)が集合して前記第1のオリゴマーアセンブリ(3)となり、かつ前記1組の回転対称軸のそれぞれの軸に関して、それぞれの第1のモノマー(3)と融合しているプロトマー(2)のさらなるモノマー(6)が集合して、それぞれのさらなるオリゴマーアセンブリ(4)となったプロトマー(2)を含む。オリゴマーアセンブリ(3、4)が対称である結果、前記それぞれのさらなるオリゴマーアセンブリ(4)の前記回転対称軸は、前記第1のオリゴマーアセンブリ(3)のそれぞれの回転対称軸と並ぶ。したがって、オリゴマーアセンブリ(3、4)間にN重の融合が生じ、オリゴマーアセンブリ(3、4)の回転対称軸が格子の対称性を規定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元で反復している規則的な構造を有するタンパク質格子に関する。このタンパク質格子は、オリゴマーアセンブリのモノマーから自己集合可能な対称的なオリゴマーアセンブリに基づいている。このようなタンパク質格子は、ナノメートルから数百ナノメートル程度の大きさの孔(pore)を有することがある。したがって、タンパク質格子は、例えば、X線結晶構造解析においてマトリックスとして高分子存在物(entity)を支持するなど多くの潜在的な用途を有するナノ構造である。
【0002】
WO−00/68248は、自己集合することができる対称的なオリゴマーアセンブリに基づく規則的なタンパク質構造を開示している。特に、WO−00/68248は、それぞれの対称的なオリゴマーアセンブリの各モノマーである少なくとも2つのモノマー(WO−00/68248では「oligomerization domain」と称する)を含むタンパク質プロトマー(WO−00/68248では「fusion protein」と称する)から形成される構造を開示している。オリゴマーアセンブリを形成するためのモノマーの自己集合が、規則的な構造自体の形成を引き起こす。離散構造、ならびに1、2および3次元中に広がる構造を含む、いくつかの異なるタイプの構造が開示されている。
【0003】
WO−00/68248では、プロトマー内でのモノマーの相対配向は、自己集合による所望の規則的構造をもたらすように選択される。モノマーは、プロトマー内でモノマーの必要な相対配向をもたらすように慎重に選択されたリジッドな結合基を介して互いに融合する。例えば、WO−00/68248中で報告された実験的生成物では、プロトマーの選択は、連続的な、介在αへリックスセグメントの形の結合基によって結合したモノマーを徐々に長さを増加させることによってモデル化するコンピュータプログラムを用いることによって行われた。したがって、WO−00/68248で示唆された、3次元で反復している規則的な構造を有する格子は、単一の回転軸について対称的であるそれぞれの二量体または三量体オリゴマーアセンブリの2つのモノマーを含むプロトマーから形成される。2つのモノマーの相対配向は、2つのオリゴマーアセンブリの回転対称軸間で特定の交差角をもたらすように選択される。したがって、2つのオリゴマーアセンブリの間で単一の融合が存在し、また、オリゴマーアセンブリの相対配向は、融合をもたらす結合基を慎重に選択することによって制御される。
【0004】
WO−00/68248は、離散的なケージおよび1次元で延びるフィラメントからなるタンパク構造の実験的生成物を報告しているだけである。WO−00/68248の教示を3次元で反復するタンパク質格子に適用しようとすると、以下の難点にぶつかると予想される。第1に、格子の構築に適したプロトマー内でのモノマーの相対配向を選択する必要から生じる設計上の難点が存在すると予想される。これによって、タンパク質格子の形成に利用可能なオリゴマーアセンブリの種類がおそらく減少し、したがって適切なタンパク質を同定するのが困難となる。第2に、集合させる間に実際的な難点にぶつかると予想される。WO−00/68248中で開示された構造は、オリゴマーアセンブリ間の単一の融合を形成するプロトマーにおけるモノマー間の融合の剛直性(rigidity)に依存している。WO−00/68248は、プロトマー内のモノマーの相対配向が、得られた構造内のオリゴマーアセンブリの相対配向を制御することを教示し、そのため、所望の相対配向から離れた融合の変動が自己集合の信頼性を低下すると予想される。このような問題は、反復単位のサイズが増大するにつれてより重大となり、したがって、孔のサイズが比較的大きな格子の確実な生成が実際上制限されると予想される。
【0005】
したがって、この予想される問題を軽減することができる、異なるタイプの構造を有するタンパク質格子を提供することが望ましいと考えられる。
【0006】
本発明の第1の態様によれば、3次元で反復している反復単位を含む規則的な構造を有するタンパク質格子が提供され、当該反復単位が、それぞれ少なくとも2つの融合しているモノマーを含む複数のタンパク質プロトマーを含み、当該モノマーがそれぞれ、当該プロトマーが集合して格子となるためにモノマーが集合してなるそれぞれのオリゴマーアセンブリのモノマーであり、当該反復単位が、3次元で対称的な第1のオリゴマーアセンブリのモノマーである少なくとも一つの第1のモノマーを含むプロトマーを含む。
【0007】
3次元で対称的な、少なくとも1つの第1のオリゴマーアセンブリを使用した結果、反復単位の、さらにタンパク質格子の構造が、オリゴマーアセンブリの対称性から得られる。特に、これは、プロトマー内でのモノマーの相対配向に依存しない。したがって、少なくとも第1のオリゴマーアセンブリが3次元で反復する格子を構築するのに適した3次元対称性を有するオリゴマーアセンブリを選択することによって、本発明に係るタンパク質格子を設計することができる。それで、プロトマーは選択したオリゴマーアセンブリのモノマーが互いに融合する複数のモノマーを含むように形成される。続いて、プロトマーを適切な条件下で自己集合させる。後でより詳細に説明するように、選択されたオリゴマーアセンブリの対称性によって、プロトマーが自己集合してタンパク質格子が生じる。
【0008】
理解を助けるために、後でより詳細に説明するような本発明の具体例であるタンパク質格子1を示す図1を参照されたい。特に、タンパク質格子1は、この例の中では8面体対称性を有するヒト重鎖フェリチンである、3次元で対称的な第1のオリゴマーアセンブリ3を含む反復単位を含む規則的な構造を有する。第1オリゴマーアセンブリ3の各モノマー5は、この例中では2面体上の点Dの群4に属する対称性を有するE.Coli PurEである、さらなるオリゴマーアセンブリ4のさらなるモノマー6と融合する。さらなるモノマー6は、集合してさらなるオリゴマーアセンブリ4となり、そのアセンブリは、その4回回転対称軸が第1のオリゴマーアセンブリ3の4回回転対称軸に沿って並ぶように配置される。したがって、反復単位の、さらにタンパク質格子1の対称性は、後でより詳細に説明するように、1組の4回回転対称軸の対称性と同じである。
【0009】
したがって、本発明は、WO−00/68248中で使用されたものと異なるクラスのオリゴマーアセンブリを使用するものであり、プロトマー内でのモノマーの相対配向の選択によって制限されないという利点をもたらす。したがって、プロトマー内でのモノマーの相対配向がそれほど重要な制約にならないという点でタンパク質格子の設計の助けとなると予想される。それと同様に、以下で詳細に説明するように、タンパク質格子のより確実な集合が可能となると予想される。
【0010】
本発明の他の態様によれば、このようなタンパク質格子を形成する自己集合が可能な単独なプロトマーまたは複数のプロトマー、このようなプロトマーをコードするポリヌクレオチド、このようなプロモーターを発現させることができるベクターおよび宿主細胞、ならびにこのプロトマーを作成する方法が提供される。
【0011】
次に、非限定的な実施例によって、添付図面を参照しながら、本発明をより詳細に説明する。
【0012】
本発明に係るタンパク質格子は、少なくとも第1のオリゴマーアセンブリが3次元で対称的であり、互いに融合して3次元で反復することができる反復単位を生成する、オリゴマーアセンブリを選択することによって設計することができる。反復単位の、したがって格子全体の対称性は、オリゴマーアセンブリの対称性に依存するので、この方法では、適当な対称性をもたらす4次構造を有するオリゴマーアセンブリを選択する。オリゴマーアセンブリの対称性は一般に、タンパク質に関する科学文献中で、例えば、H.M.Berman,J.Westbrook,Z.Feng,G.Gilliland,T.N.Bhat,H.Weissig,I.N.Shindyalov & P.E.Bourne;Nucleic Acids Research,28 pp.235−242(2000)の、生体高分子の構造データの唯一の世界的なアーカイブであり、http://www.rcsb.orgなどのウェブサイトを介して利用することもできるタンパク質データバンク(The Protein Data Bank)から入手可能であるので、これは簡単な作業である。
【0013】
ある種の格子では、反復単位は、格子全体にわたって同じ方向で反復する。他の格子では、2つ以上の隣り合った反復単位が一緒になって、格子全体にわたって同じ方向で反復する単位格子を形成するが、単位格子内でその反復単位は異なる方向で配置される。
【0014】
3次元で反復する反復単位を有する格子を生成するオリゴマーアセンブリの例を以下に示す。
【0015】
有利には、第1のオリゴマーアセンブリは、3次元中に延びる1組の回転対称軸を含む4次構造を有する。その結果、前記反復単位は、プロトマーの第1のモノマーが集合して第1のオリゴマーアセンブリとなり、かつ前記1組の回転対称軸のそれぞれの軸に関して、それぞれの第1のモノマーと融合しているプロトマーのさらなるモノマーが前記1組の回転対称軸の前記それぞれの軸の周りに対称的に配置されている、プロトマーを含む。
【0016】
したがって、反復単位の、したがって格子全体の配置は、第1のオリゴマーアセンブリの対称性に依存する。特に、集合した第1のオリゴマーアセンブリ中には、必然的にかつ定義上、第1のオリゴマーアセンブリの1組の回転対称軸の各軸の周りに対称的に配置された第1のモノマー群が存在する。これは、対称性が、同一のモノマーが回転対称軸の周りにこのように配置されていることから生じるからである。
【0017】
さらなるモノマーが第1のそれぞれのモノマーとそれぞれ融合するので、さらなるモノマー群も1組の回転対称軸の各軸の周りに対称的に配置されることになる。さらなるモノマーは、第1のオリゴマーアセンブリ中の第1のモノマーに付着することにより、この対称的な配置に保持される。第1のオリゴマーアセンブリと融合している、対称的に配置されたさらなるモノマーからなるこれらの群は、他のモノマー(これは他の反復単位の対応するさらなるモノマーでもよく、同じ単位格子の異なる部分中にあるモノマーでもよい)と自己集合して、さらなるオリゴマーアセンブリを形成し、このアセンブリも、第1のオリゴマーアセンブリの1組の回転対称軸の周りに対称的に配置される。
【0018】
したがって、反復単位の、したがって格子全体の配置は、第1のオリゴマーアセンブリの対称性に依存し、個々のプロトマー内でのモノマーの相対配向に依存しない。言い換えると、本発明は、タンパク質格子の3次元構造が、単にオリゴマーアセンブリの対称性に基づくだけでよいという利点を提供する。これは、タンパク質格子の設計上の利点を提供する。すなわち、反復単位の、したがって格子全体の設計は、オリゴマーアセンブリの対称性に基づくものでよい。これにより、タンパク質格子に使用する適当なオリゴマーアセンブリを選択することが容易となる。
【0019】
望ましくは、第1のオリゴマーアセンブリは、3次元中に延びる1組の回転対称軸を含む4次構造を有し、前記プロトマー中で、前記第1のモノマーと融合しているさらなるモノマーは、前記第1のオリゴマーアセンブリの前記1組の回転対称軸のそれぞれの軸と同じ位数の回転対称軸を有するそれぞれのさらなるオリゴマーアセンブリのモノマーである。その結果、前記反復単位は、プロトマーの第1のモノマーが集合して前記第1のオリゴマーアセンブリとなり、かつ前記1組の回転対称軸のそれぞれの軸に関して、それぞれの第1のモノマーと融合しているプロトマーのさらなるモノマーが集合して、前記それぞれのさらなるオリゴマーアセンブリの前記回転対称軸が前記第1のオリゴマーアセンブリのそれぞれの回転対称軸と並んだそれぞれのさらなるオリゴマーアセンブリとなる、プロトマーを含む。
【0020】
したがって、反復単位の、したがって格子全体の配置は、第1のおよびさらなるオリゴマーアセンブリの対称性に依存する。特に、上記に記載のように、第1のオリゴマーアセンブリ中には、1組の回転対称軸の各軸の周りに対称的に配置された第1のモノマー群が存在し、その結果、第1のオリゴマーアセンブリの1組の回転対称軸の各軸の周りに同様に対称的に配置された、第1のモノマーと融合しているさらなるモノマー群が生じる。第1のオリゴマーアセンブリと融合している、対称的に配置されたさらなるモノマーのこの群は、他のモノマーと自己集合して、さらなるオリゴマーアセンブリを形成する。このさらなるモノマーは、他の反復単位のさらなるモノマーでもよく、同じ反復単位の異なる部分中にあるモノマーでもよい。
【0021】
第1のオリゴマーアセンブリと融合しているさらなるモノマーが第1のオリゴマーアセンブリの回転対称軸の周りに対称的に配置されていると、融合しているさらなるモノマー群が第1のオリゴマーアセンブリのその回転対称軸の周りでやはり対称的に保持されるとともに、さらなるオリゴマーアセンブリが保持されることになる。しかし、必然的にかつ定義上、さらなるモノマーも、さらなるオリゴマーアセンブリ内で、さらなるオリゴマーアセンブリの回転対称軸の周りの対称的な配置で集合する。したがって、第1のオリゴマーアセンブリの1組の回転対称軸と同じ位数の回転対称軸を有するさらなるオリゴマーアセンブリが生じる結果、第1のおよびさらなるオリゴマーアセンブリが、その対称軸が互いに並んだ状態で集合する。オリゴマーアセンブリが両方とも対称性があることから、これは、最も安定した配置であることになる。これにより、第1とさらなるオリゴマーアセンブリの間にN重の融合が生じる。ここでNは、第1のオリゴマーアセンブリのそれぞれの回転対称軸およびさらなるオリゴマーアセンブリの回転対称軸の位数に等しい複数である。第1のおよびさらなる各オリゴマーアセンブリ内では、N個のモノマーが回転対称軸の周りに配置され、各モノマーがそれぞれのプロトマー内で他方のオリゴマーアセンブリのモノマーと融合する。
【0022】
したがって、1組の回転対称軸は、第1のオリゴマーアセンブリの回転対称軸をすべて含むわけではない。そうではなくて、この1組の回転対称軸は、さらなるオリゴマーアセンブリの回転対称軸と同じ位数の第1のオリゴマーアセンブリの回転対称軸を含む。例えば、図1の例では、さらなるオリゴマーアセンブリ4が4回回転対称軸を有するため、第1のオリゴマーアセンブリ3の1組の回転対称軸は、3回回転対称軸または2回回転対称軸ではなく、4回回転対称軸である。さらなる例を以下に示す。
【0023】
第1のおよびさらなるオリゴマーアセンブリの対称性を特定のものに選択した結果、プロトマーが集合して格子となったとき、並んだこの回転対称軸を用いてオリゴマーアセンブリが構築される。このことは、反復単位の、したがって格子全体の配置が、個々のプロトマー内でのモノマーの相対配向ではなく、第1のおよびさらなるオリゴマーアセンブリの対称性によって制御されることを意味する。言い換えると、本発明は、タンパク質格子の3次元構造が、単にオリゴマーアセンブリの対称性に基づくものでもよいという利点を提供する。これは、タンパク質格子の設計において有利である。反復単位の、したがって格子全体の3次元構造をオリゴマーアセンブリの対称性に基づくものとすることにより、格子を形成するのに適したオリゴマーアセンブリを選択することが容易となる。設計中、集合しない形での個々のプロトマー内でのモノマーの相対配向は、例えばWO−00/68248の場合より制約がはるかに小さくなる。
【0024】
格子の自己集合中に利益が得られることも予想される。特に、2つの所与のオリゴマーアセンブリ間でN重の融合が形成されると、その2つのオリゴマーアセンブリ間の結合は相対的に堅くなる。このことから、集合プロセス中、オリゴマーアセンブリの相対運動が小さくなると予想される。このことは、オリゴマーアセンブリが正しい相対位置にある格子を確実に形成する際の助けとなると予想される。
【0025】
第1のオリゴマーアセンブリの回転対称軸と同じ位数の回転対称軸を有するさらなるオリゴマーアセンブリを使用する際に特定の利点は存在するが、これは必須ではない。あるいは、第1のオリゴマーアセンブリの回転対称軸の周りに対称的に配置されたさらなるモノマーが、別個のオリゴマーアセンブリの、例えばダイマーのオリゴマーアセンブリ(ヘテロまたはホモ)のモノマーであることも可能であるはずである。この場合、さらなるオリゴマーアセンブリは、第1のオリゴマーアセンブリの回転対称軸と位数が同じである別個のダイマーのオリゴマーアセンブリ群で有効に置き換えられ、別個のダイマーのオリゴマーアセンブリは、第1のオリゴマーアセンブリの回転対称軸のN回対称性を有してもよく有さなくてもよい配置で、第1のオリゴマーアセンブリの回転対称軸の周りに保持されることになる。
【0026】
プロトマーの形態および生成を次に説明する。本発明が、WO−00/68248と異なるモノマーの選択物が互いに融合しているプロトマーを使用する以外、プロトマー自体の形態および生成、ならびにプロトマーをコードするポリヌクレオチドは、WO−00/68248中で開示されているものと同じでもよく、したがってこれを参照により本明細書に組み込む。
【0027】
モノマー自体の性質を次に説明する。
【0028】
このモノマーは、適当な条件下で自己集合してタンパク質格子を生成することができる、オリゴマーアセンブリのモノマーである。モノマーが集合して必要な対称性を有する4次構造となる場合、その2次および3次構造はそれ自体重要でない。しかし、異種発現系(例えばE.Coli中でプラスミド発現ベクターを用いる系)中で、このタンパク質が容易に発現され折り畳まれるなら有利である。
【0029】
モノマーは、天然に存在するタンパク質でもよく、各モノマーが集合してそれぞれのオリゴマーアセンブリとなるのにほとんど影響を与えないという条件で、天然に存在するタンパク質からペプチド成分を欠如させる、そのタンパク質中でペプチド成分を置き換える、またはそのタンパク質にペプチド成分を加えることによって修飾されていてもよい。本発明のモノマーに適用することができる、異なるいくつかの目的によるそのような修飾は、それ自体周知である。言い換えると、このモノマーは、天然に存在するタンパク質の相同体および/または断片および/または融合タンパク質である。
【0030】
このモノマーは、化学修飾されているもの、例えば翻訳後に修飾されているものでもよい。例えば、これは糖鎖付加されていてもよく、修飾されたアミノ酸残基を含むものでもよい。
【0031】
原理上、化学的融合など他の融合も可能であるが、このモノマーは、遺伝子上で融合しているものが好ましい。
【0032】
このモノマーは互いに直接融合することができるが、好ましくは、このモノマーは、ペプチドまたは非ペプチド成分からなる結合基によって融合する。一般に、結合基によって2つのタンパク質を結合させるステップは、他の目的によるものについて周知であり、このような結合基は、本発明に適用することができる。
【0033】
適当なオリゴマーアセンブリを選択する際の他のファクターは、(a)その自然形態で(すなわちさらなるオリゴマーアセンブリと融合せずに)第1のオリゴマーアセンブリ中に配置されるときの第1のモノマーの末端、および(b)その自然形態で(すなわち第1のオリゴマーアセンブリと融合せずに)さらなるオリゴマーアセンブリ中に配置されるときのさらなるモノマーの末端の位置および方向である。一般に、その自然形態におけるオリゴマーアセンブリ中での末端の配置に関するこのような情報は、例えば上記に示したタンパク質データバンクにあるオリゴマーアセンブリでは入手可能である。集合したタンパク質格子内でこれらの末端が互いに融合して、回転対称軸の周りに対称的に配置されたN重の融合を構成することになるので、理想的には、これらの末端は、同じ分離間隔および向きを有するべきである。そうではあるが、N重の融合の近くにあるモノマーを変形させ、かつ/または結合基を使用することによってどんな違いも調節することができるので、同様に区切られ同方向に向いていることは不可欠ではない。したがって、一般に、N重の融合において互いに融合することになる両方のオリゴマーアセンブリの末端が、オリゴマーアセンブリの、したがってタンパク質格子の集合を妨げずに融合することが可能なオリゴマーアセンブリを選択すべきである。
【0034】
上記で述べたN重の融合の近くでモノマーが変形することを考慮すると、集合プロセスの信頼性を低下させる傾向があるそのような変形を最小限にすることが望ましい。しかし、モノマー間に結合基が融合している場合、少なくとも部分的に、結合基自体がこのような変形を行うことができる。そのためモノマーの変形が少なくなり、それによって自己集合の信頼性が増大する。結合基が、天然に存在するタンパク質の一部でないことから、集合プロセスに関与しないからである。結合基を使用すると、特定の利点が得られる。
【0035】
さらに、結合基は、第1およびさらなるモノマーの末端の位置および/または方向のそのような違いを小さくするために、集合させる前に、その自然形態でのプロトマー内における第1のおよびさらなるモノマーに対して配向するように、特に設計することができる。上記で論じたように、オリゴマーアセンブリについて一般に利用可能である、その自然形態での第1のおよびさらなるオリゴマーアセンブリ内における第1のおよびさらなるモノマーの末端の位置および方向を使用すると、従来のモデル化技術を用いて適当な結合基を設計することが可能である。
【0036】
通常、モノマーはその末端で融合する。あるいは、モノマーは、天然に存在するオリゴマーアセンブリの天然の折り畳みおよび対称性が依然として同じである限り、ポリペプチド鎖中の代替位置で融合することもできる。例えば、モノマーの一方を、他方のモノマーの構造的に寛容な部分、例えばオリゴマーアセンブリから延びているループの中に挿入することができる。また、モノマーの切断も実現可能であり、構造の検討によってそれを推定することができる。
【0037】
タンパク質格子を生成するオリゴマーアセンブリの対称性のいくつかの例を挙げると、以下の通りである。
【0038】
この例では、3次元で対称的な第1のオリゴマーアセンブリは、4面体点群、8面体点群、または2面体点群に属する。
【0039】
タンパク質格子のクラスによっては、プロトマーは、モノマーに関して相同であり、すなわちタンパク質格子内に単一のタイプのプロトマーしか存在しない。例えば、表1に、タンパク質格子を形成することができるいくつかの単一のホモプロトマーを表す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1では、各プロトマーを、そのプロトマーのそれぞれのモノマーを表す文字で示す。具体的には、この文字は、そのモノマーのオリゴマーアセンブリが属する点群を示す。各文字について、下付きの数字は、その点群の位数を表す。文字pは、プラトン立体上の点群を表し、したがってpは4面体点群を表し、pは8面体点群を表す。文字dは2面体点群を表す。
【0042】
表の最後の2列中に、第1のオリゴマーアセンブリ内の第1のモノマーの数M、および第1のオリゴマーアセンブリの1組の回転対称軸の位数Nを示す。Nは、第1のオリゴマーアセンブリのそれぞれの回転対称軸と並んださらなるオリゴマーアセンブリの回転対称軸の位数でもあり、その軸の周りで第1のおよびさらなるオリゴマーアセンブリ間のN重の融合が形成される。
【0043】
プロトマーは、参照の便宜上、タンパク質のモノマーの性質に従って名付けられたクラスに分けられる。
【0044】
プラトン立体クラスおよび混合クラスでは、第1のオリゴマーアセンブリはどちらも、4面体点群または8面体点群である、プラトン立体上の点群に属する。
【0045】
混合クラスでは、さらなるモノマーは、2面体点群に属するオリゴマーアセンブリのモノマーである。各場合において、2面体点群の位数Nは、2面体点群の主要な回転対称軸の位数であり、第1のオリゴマーアセンブリの1つの回転対称軸の位数に等しい。これは、第1のオリゴマーアセンブリの主要な回転対称軸でもよく、第1のオリゴマーアセンブリの位数の低い回転対称軸の1つでもよい。したがって、第1オリゴマーアセンブリのN回回転対称軸が、第1オリゴマーアセンブリの1組の回転対称軸を構成する。第1のおよびさらなるオリゴマーアセンブリの対称性によって、2面体点群に属するさらなる各オリゴマーアセンブリの主要な回転対称軸が、プラトン立体上の点群の1組のN回回転対称軸の1つと並び、上記に記載のようにその間にN重の融合が生じる単位格子が形成される。
【0046】
混合クラスのタンパク質格子は、視覚化するのが最も容易である。特に、プラトン立体のある点群に属する第1のオリゴマーアセンブリは、1組のN回回転対称軸がそこから外側へ延びている節として視覚化することができる。2面体点群は、2面体点群の主要な回転対称軸が第1のオリゴマーアセンブリの1組のN回回転対称軸の1つと並んだ直線の結合部として視覚化することができる。このように、オリゴマーアセンブリ間のそれぞれの空間に孔を有する格子の形成を視覚化することは容易である。
【0047】
図1に、混合クラスに属し、特にpで表されるプロトマー2を有するタンパク質格子1の具体例を示す。第1のオリゴマーアセンブリ3は、ヒトフェリチン重鎖(HFH)であり、8面体点群に属する。さらなるオリゴマーアセンブリは、E.Coli PurEであり、位数4の2面体上の点Dの群に属する。このプロトマーは、互いに融合している、第1のオリゴマーアセンブリ3の第1のモノマー5、およびさらなるオリゴマーアセンブリ4のさらなるモノマー6を含む。集合後、プロトマー2は、例えば、第1のオリゴマーアセンブリ3の1つ、ならびに第1のオリゴマーアセンブリ1の第1のモノマー5と融合しているさらなるモノマー6によって形成される、格子1を形成する。この格子中の隣り合った第2のオリゴマーアセンブリ4の各半分を(単位格子でもある)反復単位とみなすことができる。第1のオリゴマーアセンブリ3およびさらなるオリゴマーアセンブリ4の対称性に基づくタンパク質格子1の対称性は、図1から明らかに認められる。特に、さらなるオリゴマーアセンブリ4の4回回転対称軸が第1のオリゴマーアセンブリ3の1組の4回回転対称軸と並んでいるので、格子の対称性は、この1組の回転対称軸の対称性と同じとなる。
【0048】
プラトン立体クラスでは、さらなるオリゴマーアセンブリは、第1のオリゴマーアセンブリと同様にプラトン立体上の点群に属する。
【0049】
プロトマーが同じ位数のプラトン立体上の点群に属する第1の2つのタンパク質格子中では、第1のおよびさらなるオリゴマーアセンブリは同一でもよく、この場合第1のおよびさらなるモノマーも同一であり、あるいは、同一の点群に属する異なるオリゴマーアセンブリでもよい。N重の融合がその周りに形成されている1組のN回回転対称軸が、2つのオリゴマーアセンブリの主要な回転対称軸である。
【0050】
第1のおよびさらなるオリゴマーアセンブリがそれぞれ4面体および8面体点群に属する(またはその逆である)プラトン立体クラスの第3のタンパク質格子では、N重の融合がその周りで行われるN回回転対称軸は、2つのオリゴマーアセンブリの3回回転対称軸である。この場合、これらのオリゴマーアセンブリのどちらかを、第1のオリゴマーアセンブリとみなすことができる。4面体点群に属するオリゴマーアセンブリを第1のオリゴマーアセンブリとみなす場合、1組の回転対称軸は主要な回転対称軸である。8面体点群に属するオリゴマーアセンブリを第1のオリゴマーアセンブリとみなす場合、1組の回転対称軸は1組の3回回転対称軸である。それが4面体点群に属するさらなるオリゴマーアセンブリの回転対称軸の位数だからである。
【0051】
各オリゴマーアセンブリを、1組のN回回転対称軸がそこから外側へ延び、他方のタイプのオリゴマーアセンブリの回転対称軸と結合する節とみなすことによって、プラトン立体クラスを視覚化することができる。
【0052】
最後に、2面体クラスでは、プロトマーは、2面体点群に属する3つのモノマーすべてを含む。位数3、4または6の2面体点群に属する第1のオリゴマーアセンブリの第1のモノマーを中心的なモノマーとみなすことができる。第1のオリゴマーアセンブリの各末端と融合しているモノマーを、それぞれさらなるモノマーとみなすことができる。さらなるモノマーの1つは、第1のオリゴマーアセンブリの2面体点群と同じ位数の2面体点群に属するさらなるオリゴマーアセンブリのモノマーである。したがって、第1のオリゴマーアセンブリおよびさらなるオリゴマーアセンブリが対称性を有する結果、両方のオリゴマーアセンブリの主要な回転対称軸(すなわち、2面体点群と同じ位数の回転対称軸)が並んでいる反復単位が形成される。したがって、タンパク質格子中で、これらのオリゴマーアセンブリは、第1のおよびさらなるオリゴマーアセンブリがそれに沿って交互に配置される列として配置される。
【0053】
その他のさらなるモノマーは、位数2の2面体点群に属するオリゴマーアセンブリのモノマーであり、そのため、第1のオリゴマーアセンブリの2回回転対称軸に等しい2回回転対称軸を有する。第1のオリゴマーアセンブリのこのような回転対称軸は、第1のオリゴマーアセンブリが属する2面体点群と位数が等しく、2面体点群の主要な回転対称軸に対して垂直に延び、その主要な回転対称軸の周りに対称的に配置される。したがって、位数2の2面体点群に属するさらなるオリゴマーアセンブリは、その主要な回転対称軸が第1のオリゴマーアセンブリの今説明した2回回転対称軸と並んで、集合したタンパク質格子中に配置される。後者の回転対称軸は第1のオリゴマーアセンブリの主要な回転対称軸に対して垂直に延びているので、位数2の2面体点群に属するさらなるオリゴマーアセンブリは、上記に記載のオリゴマーアセンブリの列の間の結合部とみなすことができる。
【0054】
言い換えると、第1のオリゴマーアセンブリのこの1組の回転対称軸は、位数3、4または6の主要な回転対称軸、ならびにこの主要な回転対称軸に対して垂直な2回回転対称軸を含む。
【0055】
タンパク質格子の他のクラスでは、そのプロトマーはそのモノマーに関してヘテロであり、すなわち、そのタンパク質格子内に2つ以上のタイプのプロトマーが存在する。2つのタイプのプロトマーがどんなものでもそれを集合させるために、2つのタイプのプロトマーは、同じヘテロオリゴマーアセンブリの異なるモノマーを含む。したがって、異なるタイプのプロトマーを集合させるとき、ヘテロオリゴマーアセンブリが集合し、それによって2つのタイプのプロトマーが結合する。しかし、ホモプロトマーと異なり、単一タイプのプロトマーがそれ自体で集合して、タンパク質格子全体となることができない。ヘテロオリゴマーアセンブリの個々のモノマーは、ヘテロオリゴマーアセンブリの他の異なるモノマーが存在しない場合、自己集合してこのヘテロアセンブリ全体となることができない。このことは、タンパク質格子を製造する際に利点を提供する。普通ならプロトマーの生成に支障をきたす恐れのあるタンパク質格子全体の集合を行わずに、各タイプのプロトマーを別々に生成することができるからである。このことにより、2段階のプロセスでの生成が可能となるが、このことを後でより詳細に説明する。
【0056】
好ましくは、ヘテロオリゴマーアセンブリは、環状点群に属する。この場合、ヘテロオリゴマーアセンブリは、集合した格子内でN重の融合により第1のオリゴマーアセンブリと融合するさらなるオリゴマーアセンブリを構成することができる。
【0057】
最も単純なタイプのタンパク質格子では、ヘテロプロトマーは、それぞれさらに、ホモオリゴマーアセンブリのモノマーを含み、このアセンブリは第1のオリゴマーアセンブリでよい。個々のタイプのプロトマーは、ホモオリゴマーアセンブリのモノマーが自己集合した結果、集合して単位格子のそれぞれ別々の成分となることができる。この成分が一緒にされるまで格子の集合が回避できるので、これはヘテロプロトマーの利点である。そうでなければ、格子の集合により、プロトマー自体の生成が妨害される恐れがある。
【0058】
例えば、表2は、タンパク質格子を形成することができるいくつかの単純なヘテロプロトマーを表す。
【0059】
【表2】

【0060】
表2では、タンパク質格子が第1列に示した2つのタイプのプロトマーから形成されるように、環状点群に属する単一のヘテロオリゴマーアセンブリのモノマーを使用する。各プロトマーは、ヘテロオリゴマーアセンブリのモノマーの1つを含む。
【0061】
表2では、各プロトマーのモノマーを表1の場合と同様に小文字で示す。小文字pおよびdは表1の場合と同じ意味である。さらに、小文字cは、環状点群に属するヘテロオリゴマーアセンブリのモノマーを表す。下付きの数字はやはり、点群の位数を表す。下付きの大文字AおよびAを使用して、同じヘテロアセンブリの2つの異なるモノマーを示す。
【0062】
表2では、第2列に、各タイプのプロトマーの集合から得られる成分が属する点群を示す。大文字を使用して成分の点群を指していることを示す点以外は、同様の表記をプロトマーのモノマーに関しても使用する。したがって、大文字Pは、その成分がプラトン立体上の点群に属することを示し、したがってPは4面体点群を表し、Pは8面体点群を表す。大文字Dは、その成分が2面体点群に属することを示す。表1と同様に、該当する場合、各プロトマーに関して、第1のオリゴマーアセンブリ内のモノマーの数M、およびさらなるオリゴマーアセンブリの回転対称軸と並んでいる、第1のオリゴマーアセンブリの1組の回転対称軸の位数Nを最後の列に示す。
【0063】
参照の便宜上、ホモプロトマーから形成されるタンパク質格子の分類と同様に、タンパク質格子をその成分の対称性に基づくクラスに分類する。各場合において、ヘテロプロトマーは、表1における対応するホモプロトマークラスに属するプロトマーに由来するものでよい。
【0064】
混合クラスおよびプラトン立体クラスでは、2つのタイプのプロトマーはどちらも、
(a)対応するホモプロトマーのモノマーのそれぞれと同じ点群に属するホモオリゴマーアセンブリのモノマーと、
(b)環状点群に属するヘテロオリゴマーアセンブリのそれぞれの2つの異なるモノマーであるモノマーとを含む。
【0065】
ヘテロオリゴマーアセンブリが属する、環状点群の位数は、対応するホモプロトマーから形成されるタンパク質格子のオリゴマーアセンブリ間にあるN重の融合の次数Nと同じであり、これは、第1のオリゴマーアセンブリのそれぞれの回転対称軸の位数である。
【0066】
したがって、以下の場合以外、集合したタンパク質格子内で、反復単位は、基本的にその対応するホモプロトマーの反復単位と同じ配置となる。ホモプロトマーの2つのホモオリゴマーアセンブリ間にあるN重の融合の代わりに、ホモオリゴマーアセンブリ間の結合部が、ヘテロオリゴマーアセンブリの挿入によって延びている。したがって、ヘテロオリゴマーアセンブリの反復単位が、第1のオリゴマーアセンブリ間の反復単位の結合部の長さ分有効に延びていることが認められることになり、このことは、このタンパク質格子の留意点とみなすことができる。したがって、このタンパク質格子内での孔のサイズも、対応するホモプロトマーを使用するのと比べて増大する。このように孔のサイズが増大することは、ヘテロプロトマーを使用するとかなりの利点が得られることを表している。
【0067】
図2に、混合クラスに属し、特にそれぞれp3Aおよびd3A*で表されるそれぞれのプロトマー8および9を有するタンパク質格子7の具体例を示す。第1プロトマー8は、第1のホモオリゴマーアセンブリ11の第1のモノマー10を含み、このモノマーはすなわちE. Coli dpsであり、4面体点群に属する。さらなるヘテロオリゴマーアセンブリ13のさらなるモノマー12は、第1プロトマー8内にある第1のモノマー10と融合し、このモノマーはすなわちバクテリオファージT4 gp5およびgp27であり、位数3の環状点群に属する。集合後、第1プロトマー8は、第1のモノマー10が互いに集合することによって、第1成分14を形成する。第1成分14は、第1プロトマー8の第1のオリゴマーアセンブリ11と同じ対称性を有する。
【0068】
第2のプロトマー9は、モノマー15を含み、このモノマーは、第1プロトマー8のさらなるモノマー12と異なる種類の、第1プロトマー8のさらなるオリゴマー13の他方のモノマーである。第2プロトマー9はまた、ホモオリゴマーアセンブリ17のモノマーであるモノマー16を含み、このモノマーはすなわちヒトPTPSであり、位数3の2面体上の点Dの群に属する。集合後、第2プロトマー9は、ホモモノマー16が互いに集合することによって、第2成分18を形成する。
【0069】
第1および第2成分14および18を一緒にしたとき、ヘテロオリゴマーアセンブリ13が集合することにより、これらは集合してタンパク質格子7を形成する。タンパク質格子7の対称性が、ホモオリゴマーアセンブリ11および17のホモにどのように基づいているかが、図2から明らかに認められる。特に、第2プロトマー9のヘテロオリゴマーアセンブリ13とホモオリゴマーアセンブリ17の3回回転対称軸はどちらも、第1プロトマー8の第1のオリゴマーアセンブリ11の1組の3回回転対称軸と並んでいる。ヘテロオリゴマーアセンブリ13のせいでどのように第1のオリゴマーアセンブリ11間の結合部の長さが実際に延びているかは、図2からさらに明らかである。格子7中で、例えば、第1成分14の1つ、および隣接する各第2成分18の半分を反復単位とみなすことができる。この場合、単位格子は、多数のこのような反復単位が互いに結合することによって形成される。
【0070】
2面体クラスのヘテロプロトマーは、2面体クラスの対応するホモプロトマーに由来するものでよい3つのモノマーを含んでいるプロトマーを含む。特に、2つのタイプのプロトマーは、対応するホモプロトマーのさらなるモノマーのどちらかが(またはどちらも)、置き換えられるモノマーのオリゴマーアセンブリが属する2面体点群と同じ位数の環状点群に属するヘテロオリゴマーアセンブリのそれぞれのモノマーで置き換えられた、対応するホモプロトマーを含む。
【0071】
タンパク質格子の上記の例は、タンパク質格子を形成することができる最も単純な形のプロトマーを表すと思われ、その理由で好ましい。しかし、適当な対称性を有するオリゴマーアセンブリのモノマーから形成された他のプロトマーもタンパク質格子を形成することができることが理解されるであろう。例えば、表1に列挙したより多数のモノマーを有する他のホモプロトマーも、タンパク質格子を形成することができる。それと同様に、他のヘテロプロトマーも、タンパク質格子を形成することができる。これは、表2の例より多数のモノマーを有する2つのタイプのプロトマーを含んでもよく、2つより多いタイプのプロトマーを含んでもよい。
【0072】
各モノマーについて、必要な対称性を有するオリゴマーアセンブリの広い選択肢が存在する。原理上、必要な対称性を示す4次構造を有するどんなオリゴマーアセンブリも使用することができるので、本発明は、特定のオリゴマーアセンブリに限られるものではない。しかし、例として、表1および2の点群に関するオリゴマーアセンブリのいくつかの可能な選択肢を表3に列挙する。
【0073】
【表3】

【0074】
したがって、本発明は、集合してタンパク質格子となることができる1つまたは複数のタンパク質プロトマーを提供する。プロトマーのモノマーは、どんな長さでもよいが、通常、長さ5〜1000アミノ酸であり、好ましくは、少なくとも20アミノ酸および/または多くとも500アミノ酸である。
【0075】
本発明はまた、本発明のタンパク質プロトマーをコードするポリヌクレオチドをも提供する。ポリヌクレオチドは通常、コード配列の5および/または3末端より先の追加の配列を含む。ポリヌクレオチドの長さは通常、コードされるプロトマーの長さの少なくとも3倍である。ポリヌクレオチドは、RNAでもよく、ゲノムDNA、合成DNAまたはcDNAを含めたDNAでもよい。ポリヌクレオチドは、一本鎖でもよく、二本鎖でもよい。
【0076】
ポリヌクレオチドは、メチルスルホン酸およびホスホロチオエートの骨格、分子の3’および/または5’末端でのアクリジンまたはポリリシン鎖の付加など、合成または修飾ヌクレオチドを含むことができる。
【0077】
このようなポリヌクレオチドは、標準的な技術を用いて、生成し使用することができる。例えば、WO−00/68248中で核酸およびその使用についてなされた解説が、本発明のポリヌクレオチドにも同様に適用される。
【0078】
モノマーは通常、遺伝子レベルでそれぞれの遺伝子を融合させることにより(例えば、5’側の遺伝子の終止コドンを除去し、3’側の遺伝子へとフレームを合わせて読み取らせることにより)結合されてプロトマーとなる。この場合、組換え遺伝子を単一ポリペプチドとして発現させる。あるいは、これらの遺伝子は、オリゴマーアセンブリが有する4次構造がほとんど影響を受けないままである限り、その末端以外の位置で融合させてもよい。具体的には、1つの遺伝子を第2の遺伝子の構造的に寛容な領域内に挿入して、フレームが合った融合を生じさせる。
【0079】
遺伝子レベルでの融合の代替方法としてポリペプチド鎖の化学的融合を使用することもできる。この場合、共有結合によって、ただし特にインテイン化学融合の利用によってポリペプチドを翻訳後に融合させる。
【0080】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドを含み、本発明のタンパク質プロトマーを発現させることができる発現ベクターをも提供する。このようなベクターは、例えば、タンパク質を発現させるために正しい向きに置かれた、適当なイニシエーター、プロモーター、エンハンサー、および必要となる可能性があるポリアデニル化シグナルなど他の成分も含むことができる。
【0081】
したがって、ベクター内のコード配列は、(通常、細胞内で)コード配列の発現をもたらすように、そのような成分と作動的に連結している。「作動的に連結」という用語は、記載の成分がそれぞれ、その意図されたように機能することができる位置関係にあるような並び方を指す。
【0082】
ベクターは、例えば、プラスミド、ウイルスまたはファージベクターでもよい。通常、ベクターは複製起点を有する。ベクターは、1つまたは複数の選択マーカー遺伝子、例えば、細菌プラスミドの場合のアンピシリン耐性遺伝子、酵母(fungal)ベクターの場合の耐性遺伝子を含むことができる。
【0083】
プロモーターおよび他の発現制御シグナルは、発現が設計される宿主細胞に適合するものを選択することができる。例えば、酵母プロモーターには、S.cerevisiaeのGAL4およびADHプロモーター、S.pombeのnmt1およびadhプロモーターがある。哺乳動物プロモーターには、カドミウムなどの重金属に反応して誘発することができるメタロチオネインプロモーターがある。SV40ラージT抗原プロモーター、アデノウイルスプロモーターなどのウイルスプロモーターも使用することができる。
【0084】
β−アクチンプロモーターなどの哺乳動物プロモーターも使用することができる。組織特異的プロモーターが特に好ましい。ウイルスプロモーター、例えば、モロニー(Moloney)ネズミ白血病ウイルス末端長反復配列(MMTV LTR)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター、SV40プロモーター、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)IEプロモーター、アデノウイルス、(HSV IEプロモーターなどの)HSVプロモーター、またはHPVプロモーター、特にHPV上流制御領域(URR)も使用することができる。
【0085】
タンパク質プロトマーの発現に使用することができる他の方法は、例えば、細菌、酵母または哺乳動物の無細胞発現である。
【0086】
本発明はまた、本発明のプロトマーを発現するように改変された細胞をも含む。このような細胞には、哺乳動物細胞、または例えばバキュロウイルス発現システムを用いる昆虫細胞などの一時的なもしくは好ましくは安定な高等真核細胞系統、酵母などの下等真核細胞、あるいは細菌細胞などの原核細胞が含まれる。本発明に係るポリペプチドをコードするベクターの挿入によって改変することができる細胞の具体例には、哺乳動物のHEK293T、CHO、HeLaおよびCOS細胞がある。好ましくは、選択された細胞系統は、安定であるだけでなく、ポリペプチドの成熟した糖鎖付加も可能なものである。形質転換卵母細胞中で発現を行うことができる。
【0087】
本発明のタンパク質プロトマー、ポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞は、実質的に分離した形で存在してもよい。これはまた、実質的に精製された形であってもよく、この場合、これは一般に、タンパク質、ポリヌクレオチド、細胞または乾燥調製物を少なくとも90%、例えば、少なくとも95%、98%または99%含む。
【0088】
プロトマーは、ベクターおよび宿主細胞を使用し、標準的な技術を使用して調製することができる。例えば、プロトマーを調製する方法に関してWO−00/68248中でなされた解説(WO−00/68248中で「融合タンパク質」として示されている)が、本発明に係るプロトマーの調製にも同様に適用される。
【0089】
プロトマーからタンパク質格子への集合は、オリゴマーアセンブリのモノマーの自己集合に適した条件下にプロトマーを単に置くだけで行うことができる。通常は、溶液中、好ましくは水溶液中にプロトマーを入れることによってこれを行う。通常、適当な条件は、天然に存在するタンパク質が自然に自己集合する条件に相当する。適当な条件は、WO−00/68248中に具体的に開示されているものでよい。
【0090】
ホモプロトマーの場合、その結果、タンパク質格子が直接集合する。
【0091】
ヘテロプロトマーの場合、好ましくは、集合を複数の段階で行う。第1段階で、各タイプのプロトマーを別々に集合させてそれぞれ別々の成分を生成する。第2段階で、別々の成分を一緒にし、集合させてタンパク質格子を生成する。複数のヘテロプロトマーを使用する場合、それぞれ別々の成分を一緒にし、集合させて、より大きな中間成分を生成する、さらなる段階が第1段階と第2段階の中間に存在してもよい。
【0092】
図1で示した特定のタイプのタンパク質格子は、以下の方法を用いて調製された。
【0093】
ヒトフェリチン重鎖(HFH)およびE.coli PurE遺伝子を、それぞれヒトcDNAおよびE.coli gDNAからPCRによって増幅した。フェリチン遺伝子の増幅用プライマーは、5’−CCTTAGTCGAATTCATGACGACCGCGTCCACC−3’、および5’−GGGAAATTAGCCCTCGAGTTAGCTTTCATTATC−3’であった。PurE遺伝子の増幅用プライマーは、5’−GTTTTAAGACCCATGGCTTCCCGCAATAATCCG−3’、および5’−CGCAAACCTGGATCCTGCCGCACCTCGCGG−3’であった。NcoI部位とBamHI部位の間で、pET−28bベクター(Novagen)中にPurE遺伝子をクローン化した。EcoRI部位とXhoI部位の間で、得られたベクター中にHFH遺伝子をクローン化して、T7lacプロモーターの制御下にある、フレームを合わせた2つの遺伝子の融合体を作成した。
【0094】
発現用E. coli株B834(pLysS)をこのベクターで形質転換した。以下の通りに発現を誘導した。(30μg/mlカナマイシンを含むLB培地中の)発現株の一晩培養物10mlを、30μg/mlカナマイシンを含む新鮮LB培地で1:100で希釈した。OD6000.6に相当する密度まで37℃で振盪して細胞を増殖させ、次いで、終濃度1mMになるまでIPTGを加えることにより、標的タンパク質の発現を誘導した。37℃で振盪しながら培養をさらに3時間維持した後、遠心分離(5000g、10分、4℃)によって細胞を回収した。細胞ペレットをバッファーA(300mM NaCl、1mM EDTA、50mM HEPES、pH7.5)20ml中に再懸濁させた。超音波処理によって細胞を溶解させ、遠心分離(25,000g、30分、4℃)によって不溶性分画を回収した。この分画を8Mの尿素中に溶解させ、遠心分離(25,000g、30分、4℃)して、不溶性の粒子を除去した。尿素に可溶性の物質を、16mg/mlに濃縮し、0.22μmのフィルターを通過させた。次いで、この物質の液滴(1μl)をバッファーAのより大きな液滴(5μl)中に直接注入した。タンパク質格子粒子が1時間以内に観察された。図3は、直径約0.6mmである1つのタンパク質格子粒子の写真である。μPIXE技術を用いて、タンパク質格子の元素組成を限定した。
【0095】
本発明に係るタンパク質格子は、多くの異なる使用法を有する。一般に、そのような使用は、格子内の規則的な反復構造および孔を利用するものである。本発明に係る格子は、数ナノメートルから数百ナノメートル程度と予想される大きさの孔を有するように設計することができる。所望の使用に適した孔のサイズで、格子を設計することができる。
【0096】
タンパク質格子の、非常に明確で、異常な大きさで、精密に制御された孔のサイズ、ならびにその格子構造の安定性は、今述べた範囲の孔のサイズを有する微孔性物質を必要とする適用分野に理想的である。一例として、これらの格子は、濾過または分離プロセスに関するフィルター成分または分子篩として有用であると予想される。この使用の場合、孔のサイズが実現可能であり、孔のサイズを設計できるなら、特に有利であるはずである。
【0097】
他のクラスの使用法では、高分子存在物をタンパク質格子に付着させる。従来技術を用いて、そのような付着を行うことができる。高分子存在物は、例えば、タンパク質、ポリヌクレオチド、非生体性の物体など適当なサイズのどんな物体でもよい。そのようなものとして、タンパク質格子は、高分子存在物を運搬するための、例えば、薬物送達に使用するための、または高分子存在物を結晶化させるための生体マトリックスとして有用であると予想される。
【0098】
タンパク質格子への高分子存在物の付着は、タンパク質プロトマーまたは対象の高分子存在物、あるいはその両方を「タグ付け」することによって行うことができる。ここにおいて、タグ付けとは、タンパク質プロトマーまたは標的の高分子存在物あるいはその両方に、標的構造と強い相互作用が生じる、タグとして知られる構造を共有結合で付加させることである。標的構造は、他のタンパク質プロトマーまたは標的高分子存在物に付着したさらなるタグでもよく、またタンパク質プロトマーまたは標的高分子存在物の一部でもよい。タンパク質プロトマー、またはタンパク質である高分子存在物の場合、これは、例えばその末端の一方に、またはループ領域中に、タグを構成するペプチド成分の追加配列を運搬するように遺伝子改変されたタンパク質を発現させることによって達成することができる。タグを付加する代替方法には、インテイン技術などの技術による、発現後のタンパク質の共有結合による修飾がある。
【0099】
したがって、高分子存在物をタンパク質格子に付着させるために、タンパク質プロトマーは、プロトマーの所定の位置に、対象となる高分子存在物に付着する親和性タグを含んでもよい。
【0100】
あるいは、対象の高分子存在物が、プロトマー内の所定の位置に、高分子存在物に付着する親和性タグを有していてもよい。
【0101】
タンパク質格子の成分が既知のペプチド配列と強く相互作用することが知られているとき、そのペプチド配列をタグとして使用して、標的高分子存在物に付加することができる。そのような堅い結合相手が知られていない場合は、スクリーニングによって、適当なタグを同定することができる。可能なスクリーニングのタイプは、ファージディスプレイ技術、または多数の異なる短い(例えば3〜50アミノ酸)ペプチドを生成する重複化学物質ライブラリーによる手法である。標準的な技術、例えばファージディスプレイを行ったライブラリーの場合は増幅および配列決定を用いて、あるいは重複ライブラリーの場合はペプチドスクリーニングによって、最も堅い結合ペプチド成分を同定することができる。
【0102】
格子上、または高分子存在物上の親和性タグを用いて、高分子存在物をタンパク質格子に付着させるために、例えば、結合させる高分子存在物をアニーリングすることにより、予め形成させたタンパク質格子中に高分子存在物を拡散させ、それによって格子に付着させて、タンパク質格子内でエネルギーが最も低い構造にすることができる。これは、液体窒素の低温気流における調節された冷却を用いて行うことができる。あるいは、タンパク質格子形成の間に、高分子存在物をプロトマーと混合して、格子と集合させることができる。
【0103】
他のクラスの使用法では、有用な特性を有するタンパク質を、プロトマーの1つとして組み込むことができる。
【0104】
物体をタンパク質格子に付着させる使用目的は、高分子存在物のX線結晶構造解析を行うためである。この場合、タンパク質格子の規則的な構造によって、規則的な配列および規則的な向きで高分子存在物が保持されるように、反復単位と相対的な所定の位置で、配列中に高分子存在物を保持することができる。X線結晶構造解析は、生化学研究、および合理的な薬剤設計において重要である。
【0105】
標準的なX線結晶構造解析技術を用いて、高分子存在物の配列が支持されているタンパク質格子を研究することができる。X線結晶構造解析における支持体としてのタンパク質格子の使用は、以下の点を含めて、X線結晶構造解析の現在の技術およびプロトコルに勝る、多くの重要な利点を提供すると予想される。
(1) (おそらくミリグラムではなくマイクログラム程度の)かなり少ない量の高分子しか必要としない。そのため、以前は扱い難かったいくつかの標的の決定が可能となる。
(2) 親和性タグの使用によって、通常は必要な多数の精製ステップを必要とせずに構造決定が可能となる。
(3) 高分子存在物を結晶化させる必要がなくなる。従来のX線による構造決定において、これは、困難であり、たまには克服できないこともあるステップである。
(4) 必要な位相の情報を得るために、新規の各結晶構造について結晶誘導体を得る必要がなくなる。散乱物質の大部分がそれぞれの場合に既知のタンパク質格子であるため、構造決定を自動化し、結晶構造分析の経験がほとんどまたは全くないコンピュータ使用者によって、迅速に達成することができる。
(5) 全く新しい結晶化条件を必要とせずに、化学物質(基質/薬剤)とのタンパク質複合体または他のタンパク質とのタンパク質複合体を調べることができる。
(6) この方法は、極めて迅速であり、また普遍的に適用可能であると予想され、これによって、時間および費用が大きく節約される。
【0106】
生体内変換を触媒する際に使用する場合、酵素を、タンパク質格子に付着させることもでき、タンパク質格子内に組み込むこともできる。
【0107】
データ記憶の際に使用する場合、光学的にまたは電子的に活性なタンパク質を付着させることが可能であるかもしれない。一例はバクテリオロドプシンであるが、他の多くのタンパク質をそのようなタンパク質として使用することもできる。この場合、タンパク質格子は、付着したタンパク質を高度に整った配列の状態で保持し、それによって、その配列をアドレス指定することが可能となるはずである。タンパク質格子は、データ記憶の際に使用する場合、タンパク質を保持するための既存のマトリックスのサイズ上の制限を克服することができると予想される。
【0108】
表示の際に使用する場合、光活性または蛍光タンパク質を付着させることが可能であるかもしれない。この場合、タンパク質格子は、付着したタンパク質を高度に整った配列の状態で保持し、それによって、画像を表示するためにその配列をアドレス指定することが可能となるはずである。
【0109】
電荷分離の際に使用する場合、電荷分離プロセスを実施することができるタンパク質を、タンパク質格子に付着させることもでき、タンパク質格子内に組み込むこともできる。次いで、例えば、クロロフィルなどの光活性中心、またはロドプシンなどの光活性タンパク質の場合、ATPなどの「燃料」によって生化学的に、または光学的にそのタンパク質に分離を実施させることができる。様々な電荷分離プロセス、例えば、イオンポンピングまたは光起電力充電法の開発をこのようにして行うことができる。
【0110】
ナノワイヤとして使用する場合、電気伝導能を有するタンパク質を、タンパク質格子に付着させることもでき、タンパク質格子内に組み込むこともできる。異方性タンパク質格子を用いて、特定の方向に電流を運搬する能力をもたらすことができる。
【0111】
モーターとして使用する場合、誘導によって伸縮することができるタンパク質をタンパク質格子内に組み込むことができる。
【0112】
タンパク質格子を鋳型として使用することができる。例えば、ケイ素を拡散させ、またはその他の方法でタンパク質格子の孔に注入し、それによって部分的にまたは完全に格子の空間を満たすことができる。次いで、必要な場合、例えば加水分解溶液の使用により、元の格子を含むタンパク質物質を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】第1のタンパク質格子について、2つのオリゴマーアセンブリに基づくホモプロトマーの設計、および格子自体の生成を概略的に示す図である。
【図2】第2のタンパク質格子について、3つのオリゴマーアセンブリに基づく2つのヘテロプロトマーの設計、および格子自体の生成を概略的に示す図である。
【図3】図1に示したタイプの実験的に生成されたタンパク質格子の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元で反復している反復単位を有する規則的な構造を有するタンパク質格子であって、
前記反復単位が、それぞれ少なくとも2つの融合しているモノマーを含む複数のタンパク質プロトマーを含み、前記モノマーがそれぞれ、前記プロトマーが集合して格子となるためにモノマーが集合してなるそれぞれのオリゴマーアセンブリのモノマーであり、
前記反復単位が、3次元で対称的な第1のオリゴマーアセンブリのモノマーである少なくとも一つの第1のモノマーを含むプロトマーを含むタンパク質格子。
【請求項2】
前記第1のオリゴマーアセンブリが1組の3次元中に延びる回転対称軸を有し、
それによって前記反復単位が、プロトマーの前記第1のモノマーが集合して前記第1のオリゴマーアセンブリとなり、かつ前記1組の回転対称軸のそれぞれの軸に関して、それぞれの第1のモノマーと融合しているプロトマーのさらなるモノマーが、前記1組の回転対称軸の前記それぞれの軸の周りに対称的に配置されているプロトマーを含む、請求項1に記載のタンパク質格子。
【請求項3】
前記プロトマー中、前記さらなるモノマーが、前記第1のオリゴマーアセンブリの前記1組の回転対称軸のそれぞれの軸と同じ位数の1つの回転対称軸を有するさらなるオリゴマーアセンブリのモノマーであり、
それによって前記反復単位が、前記さらなるモノマーが集合して、それぞれのさらなるオリゴマーアセンブリの前記回転対称軸が前記第1のオリゴマーアセンブリの前記1組の回転対称軸の前記それぞれの軸に沿って、それぞれさらなるオリゴマーアセンブリとなる前記プロトマーを含む、請求項2に記載のタンパク質格子。
【請求項4】
第1のオリゴマーアセンブリが3次元中に延びる1組の回転対称軸を有し、前記プロトマー中、前記第1のモノマーと融合しているさらなるモノマーが、前記第1のオリゴマーアセンブリの前記1組の回転対称軸のそれぞれの軸と同じ位数の1つの回転対称軸を有するそれぞれのさらなるオリゴマーアセンブリのモノマーであり、
それによって前記反復単位が、プロトマーの前記第1のモノマーが集合して前記第1のオリゴマーアセンブリとなり、かつ前記1組の回転対称軸のそれぞれの軸に関して、それぞれの第1のモノマーと融合しているプロトマーのさらなるモノマーが集合して、前記それぞれのさらなるオリゴマーアセンブリの前記回転対称軸が前記第1のオリゴマーアセンブリのそれぞれの回転対称軸に沿って、それぞれのさらなるオリゴマーアセンブリとなるプロトマーを含む、請求項1に記載のタンパク質格子。
【請求項5】
前記1組の回転対称軸の回転対称軸の位数がそれぞれ2、3、4または6である、請求項2〜4のいずれか1項に記載のタンパク質格子。
【請求項6】
前記それぞれのオリゴマーアセンブリの前記各モノマーが、天然に存在するタンパク質であるか、または、前記それぞれのオリゴマーアセンブリのモノマーの集合に実質的な影響を与えずに、天然に存在するタンパク質にペプチド要素が欠如、置換若しくは付加された天然に存在するタンパク質に基づく、請求項2〜5のいずれか1項に記載のタンパク質格子。
【請求項7】
前記プロトマー中、前記モノマーが結合基によって融合される、請求項6に記載のタンパク質格子。
【請求項8】
前記結合基が、集合した格子において、(a)前記第1のオリゴマーアセンブリ中に、その自然形態で、前記第1のオリゴマーアセンブリの前記1組の回転対称軸の前記それぞれの軸の周りで対称的に配置されるときの前記第1のモノマーの末端、(b)前記さらなるオリゴマーアセンブリ中に、その自然形態で、前記それぞれのさらなるオリゴマーアセンブリの前記回転対称軸の周りで対称的に配置されるときの前記さらなるモノマーの末端、またはその両方の位置若しくは方向における任意の相違を減少するために、プロトマーにおける集合前の自然形態の第1のおよびさらなるモノマーに対して配向している、請求項7に記載のタンパク質格子。
【請求項9】
前記プロトマーがモノマーに関してホモである、請求項3〜8のいずれか1項に記載のタンパク質格子。
【請求項10】
前記第1のオリゴマーアセンブリが4面体点群または8面体点群に属する、請求項9に記載のタンパク質格子。
【請求項11】
前記さらなるオリゴマーアセンブリが、前記第1のオリゴマーアセンブリの前記1組の回転対称軸のそれぞれの軸と同じ位数の2面体点群に属する、請求項10に記載のタンパク質格子。
【請求項12】
前記さらなるオリゴマーアセンブリが、4面体点群または8面体点群に属する、請求項10に記載のタンパク質格子。
【請求項13】
前記第1のオリゴマーアセンブリが、位数3、4または6の2面体点群に属し、かつ前記プロトマーが、それぞれのさらなるモノマーが前記第1のオリゴマーアセンブリの前記第1のモノマーの各末端と融合する少なくとも2つのさらなるモノマーを含む、請求項9に記載のタンパク質格子。
【請求項14】
前記さらなるモノマーの1つが、前記第1のオリゴマーアセンブリが属する2面体点群と同じ位数の2面体点群に属するオリゴマーアセンブリのモノマーである、請求項13に記載のタンパク質格子。
【請求項15】
他の前記さらなるモノマーが、位数2の2面体点群に属するオリゴマーアセンブリのモノマーである、請求項14に記載のタンパク質格子。
【請求項16】
前記プロトマーがモノマーに関してヘテロである、請求項3〜8のいずれか1項に記載のタンパク質格子。
【請求項17】
前記単位格子が2つのタイプのタンパク質プロトマーを含み、前記2つのタイプのプロトマーが同一のヘテロオリゴマーアセンブリの異なるモノマーを含む、請求項16に記載のタンパク質格子。
【請求項18】
少なくとも第1のタイプのプロトマーが、集合して前記第1のオリゴマーアセンブリとなる前記プロトマーのモノマーによって前記プロトマーを構成し、それぞれの第1のモノマーと融合する前記プロトマーの前記さらなるモノマーが同一のヘテロオリゴマーアセンブリの前記異なるモノマーの1つであり、前記ヘテロオリゴマーアセンブリが円状点群に属する、請求項17に記載のタンパク質格子。
【請求項19】
第1のタイプのプロトマーの前記第1のオリゴマーアセンブリが、4面体点群または8面体点群に属する、請求項18に記載のタンパク質格子。
【請求項20】
第2のタイプのプロトマーが、前記ヘテロオリゴマーアセンブリと同じ位数の2面体点群に属するオリゴマーアセンブリのモノマーであるモノマーを含む、請求項19に記載のタンパク質格子。
【請求項21】
第2のタイプのプロトマーが、4面体点群または8面体点群に属するオリゴマーアセンブリのモノマーであるモノマーを含む、請求項18に記載のタンパク質格子。
【請求項22】
高分子存在物が付着するアレイを有する、請求項1〜22のいずれか1項に記載のタンパク質格子。
【請求項23】
前記プロトマーが、前記プロトマー内の所定の位置に、高分子存在物に付着する親和性タグを有する、請求項22に記載のタンパク質格子。
【請求項24】
前記高分子存在物が、タンパク質格子内の前記プロトマーの1つと付着するペプチド親和性タグを有する、請求項22または23に記載のタンパク質格子。
【請求項25】
高分子存在物のX線結晶構造解析における高分子存在物アレイの支持体としての請求項1から24のいずれか1項に記載のタンパク質格子の使用。
【請求項26】
請求項1から24のいずれか1項に記載のタンパク質格子上において高分子存在物アレイを支持するステップと、高分子存在物がその上に支持されている前記格子に対してX線結晶構造解析を行うステップとを含む、X線結晶構造解析を行う方法。
【請求項27】
互いに融合している少なくとも2つのモノマーを含むプロトマーであって、前記モノマーがそれぞれ、3次元で反復している規則的な構造を有するタンパク質格子の反復単位の少なくとも一部を形成するための、自己集合可能なモノマーが集合してなるそれぞれのオリゴマーアセンブリのモノマーであり、前記プロトマー中、少なくとも第1のモノマーが3次元で対称的な第1のオリゴマーアセンブリのモノマーである、タンパク質プロトマー。
【請求項28】
第1のオリゴマーアセンブリが3次元中に延びる1組の回転対称軸を有し、前記プロトマー中、前記第1のモノマーと融合しているさらなるモノマーが、前記第1のオリゴマーアセンブリの前記1組の回転対称軸のそれぞれの軸と同じ位数の回転対称軸を有するそれぞれのさらなるオリゴマーアセンブリのモノマーであり、
それによって前記反復単位が、プロトマーの第1のモノマーが集合して前記第1のオリゴマーアセンブリとなり、かつ前記1組の回転対称軸のそれぞれの軸に関して、それぞれの第1のモノマーと融合しているさらなるモノマーが集合して、前記それぞれのさらなるオリゴマーアセンブリの前記回転対称軸が前記第1のオリゴマーアセンブリのそれぞれの回転対称軸に沿って、それぞれのさらなるオリゴマーアセンブリとなるプロトマーを含む、請求項27に記載のタンパク質プロトマー。
【請求項29】
複数の異なるプロトマーのモノマーが互いに自己集合してタンパク質格子全体を形成することができる、複数の異なる請求項27または28に記載のタンパク質プロトマー。
【請求項30】
請求項27若しくは28に記載のタンパク質プロトマー、または請求項29に記載の複数の異なるタンパク質プロトマーのそれぞれのタンパク質プロトマーをコードするポリヌクレオチド。
【請求項31】
請求項27若しくは28に記載のプロトマー、または請求項29に記載の複数の異なるタンパク質プロトマーのそれぞれのタンパク質プロトマーを発現することができるベクター。
【請求項32】
請求項31に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項33】
宿主細胞内でプロトマーをコードするポリヌクレオチド配列を発現させるステップと、場合によっては、発現したプロトマーを精製するステップとを含む、請求項27若しくは28に記載のタンパク質プロトマー、または請求項29に記載の複数の異なるタンパク質プロトマーのそれぞれのタンパク質プロトマーを作成する方法。
【請求項34】
請求項1から24のいずれか1項に記載のタンパク質格子を作成する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−516185(P2006−516185A)
【公表日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542613(P2004−542613)
【出願日】平成15年10月8日(2003.10.8)
【国際出願番号】PCT/GB2003/004306
【国際公開番号】WO2004/033487
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(503342649)アイシス イノヴェイション リミテッド (13)
【Fターム(参考)】