説明

タンパク質製造のための改良されたベクターおよび酵母株:Ca2+ATPアーゼ過剰発現

内因性または異種Ca2+ ATPアーゼが過剰発現される下等真核宿主細胞を記載する。カルレチクリンおよび/またはERp57タンパク質が過剰発現される下等真核宿主細胞も記載する。これらの宿主細胞は、軽減したO−グリコシル化を有する組換え糖タンパク質を製造するのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(1)発明の分野
本発明は、Ca2+ATPアーゼ、小胞体レクチンシャペロン、例えばカルレチクリン(calreticulin)(CRT)もしくはカルネキシン(calnexin)(CRX)および/またはERp57タンパク質をコードする1以上の核酸分子を含む宿主細胞、ならびに軽減したO−グリコシル化を有する組換え糖タンパク質の製造のためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(2)関連技術の記載
糖タンパク質は、触媒、シグナリング、細胞−細胞コミュニケーションならびに分子認識および会合を含む、ヒトおよび他の哺乳動物における多数の必須機能を媒介する。糖タンパク質は真核生物における非サイトゾルタンパク質の大部分を構成する(LisおよびSharon,Eur.J.Biochem.218:1−27(1993))。多数の糖タンパク質が治療目的に利用されており、過去20年間に、天然に存在する糖タンパク質の組換え体がバイオテクノロジー産業の主要部分となっている。治療剤として使用される組換えグリコシル化タンパク質の具体例には、エリスロポエチン(EPO)、治療用モノクローナル抗体(mAb)、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)、インターフェロン−β(IFN−β)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)5およびヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCH)(Gummingら,Glycobiology 1:115−130(1991))が含まれる。潜在的予防剤および治療剤として製造された組換えタンパク質は臨床使用に近づいているため、組換え的に製造された糖タンパク質のグリコシル化パターンの変化は、最近、科学界において非常に注目されている話題である。
【0003】
一般に、糖タンパク質オリゴ糖のグリコシル化構造は、それを産生させるために使用される宿主によって様々である。非ヒト宿主細胞において産生された治療用タンパク質は、ヒトにおいて免疫原性応答を惹起しうる非ヒトグリコシル化、例えば、酵母における高マンノシル化(hypermannosylation)(Ballou,Methods Enzymol.185:440−470(1990))、植物におけるα(1,3)−フコースおよびβ(1,2)−キシロース(Cabanes−Macheteauら,Glycobiology 9:365−372(1999))、チャイニーズハムスター卵巣細胞におけるN−グリコリルノイラミン酸(Noguchiら,J.Biochem.117:5−62(1995))、およびマウスにおけるGalα−1,3Galグリコシル化(Borrebaeckら,Immunol.Today,14:477−479(1993))を含有する可能性がある。
【0004】
非ヒト哺乳類細胞により産生された糖タンパク質のオリゴ糖構造は、ヒト糖タンパク質のものに、より密接に関連している傾向にあるため、ほとんどの市販糖タンパク質は哺乳類細胞において産生される。しかし、哺乳類細胞はタンパク質産生用宿主細胞としての幾つかの重要な欠点を有する。哺乳類細胞におけるタンパク質の製造方法は、高い費用を要することに加えて、異種集団の糖形態を産生し、低い容量測定力価を示し、継続的なウイルス抑制を要すると同時に安定な細胞系を作製するための相当な時間を要する。2000年頃までは、ヒト様N−グリコシル化パターンを有する組換え糖タンパク質を産生させるのに適した下等真核宿主細胞は実現不可能であった。その後、Gerngrossは米国特許第7,029,872号において、ヒト様N−グリコシル化パターンを有する糖タンパク質を製造しうる組換え下等真核宿主細胞の製造方法を開示した。したがって、現在、組換え糖タンパク質を製造するために下等真核宿主細胞を使用することに相当な関心が持たれている。
【0005】
N−結合グリコシル化の経路は多くの分析の対象となっているが、O−結合グリコシル化の過程および機能も十分には理解されていない。N−結合グリコシル化とは対照的に、O−グリコシル化は翻訳後事象であり、これはシスゴルジにおいて生じることが公知である(Varki,Glycobiol.,3:97−130(1993))。N−結合グリコシル化の場合と同様のO−結合グリコシル化のためのO−結合グリコシル化コンセンサスアクセプター配列は存在しないようであるが、幾つかの糖タンパク質の多数のO−結合グリコシル化部位のアミノ酸配列の比較は、グリコシル化残基と比較した場合の−1および+3におけるプロリン残基の頻度の増加ならびにセリン、トレオニンおよびアラニン残基の著しい増加を示している(Wilsonら,Biochem.J.,275:529−534(1991))。糖タンパク質におけるセリンおよびトレオニン残基の伸長はO−グリコシル化のための潜在的部位でもありうる。酵母由来組換えタンパク質は、しばしば、それらの天然対応物と比較して追加的な非天然O−グリカンを含有することが示されている(Van den Steenら,Crit.Reviews in Biochem.and Mole.Biol.33:151−208,(1998))。これらの非天然O−グリカンは、望ましくない免疫原性または異常活性を有するタンパク質を与えうる。したがって、O−グリコシル化が軽減している又はそれを伴わない酵母および他の下等真核生物におけるタンパク質の製造方法を開発することが必要とされている。
【0006】
Tannerらは米国特許第5,714,377号において、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のPMT1およびPMT2遺伝子、ならびに組換えタンパク質が産生されるようPMT遺伝子の1以上が遺伝的に修飾されている真菌細胞を使用する軽減したO−結合グリコシル化を有する組換えタンパク質の製造方法を記載している。
【0007】
Ngらは米国公開特許出願第20020068325号において、アンチセンスもしくは共抑制の使用またはO−結合グリコシル化に関連した遺伝子(特にPMT遺伝子の1以上)における機能喪失突然変異を有する酵母宿主株の操作によるO−グリコシル化の抑制を開示している。
【0008】
Clausenは米国公開特許出願第20030186850号において、ポリペプチドGalNAc−トランスフェラーゼのレクチンを選択的に抑制するための及びO−グリカン生合成に関与する他のグリコシルトランスフェラーゼの基質として働かないようにするためのGalNAc−ベータ−ベンジルの使用を開示している。
【0009】
Orchardらは米国特許第7,105,554号において、ベンジリデンチアゾリジンジオンおよび抗真菌剤としてのそれらの使用を記載している。例えば、BobrowiczらがWO2007061631において示している抗真菌剤は、軽減したO−結合グリコシル化を有する組換えタンパク質の製造のための宿主細胞に致死的ではない様態で使用されうる。
【0010】
Konradらは米国公開特許出願第20020128235号において、組織または細胞におけるO−結合タンパク質グリコシル化を薬理学的に抑制することにより糖尿病を治療または予防するための方法を開示している。
【0011】
Kojimaらは米国特許第5,268,364号において、白血球または腫瘍細胞によるSLexまたはSLeaの発現を阻止して内皮細胞および血小板へのこれらの細胞の接着を抑制するための、O−α−GalNAcの蓄積を招くO−グリコシル化の伸長を抑制するベンジル−α−N−アセチルガラクトサミンのような化合物を使用するO−グリコシル化の抑制のための治療用組成物を開示している。
【0012】
Boimeらは米国特許第6,103,501号において、グリコシル化部位のアミノ酸配列を修飾することによりO−結合グリコシル化が改変されたホルモンの変異体を開示している。
【0013】
しかし、O−グリコシル化が軽減された又はそれを伴わないタンパク質を産生する組換え宿主細胞を製造するための前記の試みを考慮したとしても、軽減したO−グリコシル化を有する組換えタンパク質を産生しうる宿主細胞が尚も必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第7,029,872号明細書
【特許文献2】米国特許第5,714,377号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0068325号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2003/0186850号明細書
【特許文献5】米国特許第7,105,554号明細書
【特許文献6】国際公開第2007/061631号
【特許文献7】米国特許出願公開第2002/0128235号明細書
【特許文献8】米国特許第5,268,364号明細書
【特許文献9】米国特許第6,103,501号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】LisおよびSharon,Eur.J.Biochem.218:1−27(1993)
【非特許文献2】Gummingら,Glycobiology 1:115−130(1991)
【非特許文献3】Ballou,Methods Enzymol.185:440−470(1990)
【非特許文献4】Cabanes−Macheteauら,Glycobiology 9:365−372(1999)
【非特許文献5】Noguchiら,J.Biochem.117:5−62(1995)
【非特許文献6】Borrebaeckら,Immunol.Today,14:477−479(1993)
【非特許文献7】Varki,Glycobiol.,3:97−130(1993)
【非特許文献8】Wilsonら,Biochem.J.,275:529−534(1991)
【非特許文献9】Van den Steenら,Crit.Reviews in Biochem.and Mole.Biol.33:151−208,(1998)
【発明の概要】
【0016】
発明の簡潔な概要
本発明者らは、軽減したO−グリコシル化を有する組換え宿主細胞における組換えタンパク質の発現が、該組換え宿主細胞において内因性または外因性Ca2+ ATPアーゼを過剰発現させることによりもたらされうることを見出した。内因性または外因性Ca2+ ATPアーゼを過剰発現する宿主細胞は、該Ca2+ ATPアーゼを過剰発現しない同じ細胞と比較して軽減したO−グリコシル化を有する組換えタンパク質を産生する。実施例に示されているとおり、異種または内因性Ca2+ ATPアーゼをコードする発現カセットを含む組換え宿主下等真核宿主細胞は、内因性または外因性Ca2+ ATPアーゼを過剰発現しない細胞と比較してO−グリカン占有度が4倍まで減少した組換えタンパク質を産生することが可能であった。
【0017】
したがって、本発明は、少なくとも1つの内因性または外因性Ca2+ ATPアーゼをコードする核酸分子が導入されている下等真核宿主細胞であって、該核酸分子が該宿主細胞内で発現され、該Ca2+ ATPアーゼの発現が異所性である、下等真核宿主細胞を提供する。特定の態様においては、該Ca2+ ATPアーゼは、該宿主細胞において機能的であり該Ca2+ ATPアーゼの構成的または調節可能な発現をもたらしうる異種調節配列に機能的に連結されたオープンリーディングフレームによりコードされている。更なる態様においては、該下等真核宿主細胞は酵母または糸状菌宿主細胞である。更に詳細な態様においては、該宿主細胞はメチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)である。特定の態様においては、該Ca2+ ATPは、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PMR1およびアラビドプシス・サリアナ(Arabidopsis thaliana)ECA1よりなる群から選ばれる。
【0018】
更なる態様においては、本発明の下等真核宿主細胞は、下等真核宿主細胞由来の調節性ヌクレオチド配列と、前記宿主細胞により産生されるべき選択された哺乳類タンパク質をコードするコード配列とを含む組換えベクターで更に形質転換される。ある態様においては、選択された哺乳類タンパク質は治療用タンパク質であり、抗体(これに限定されるものではない)を含む糖タンパク質でありうる。
【0019】
更なる実施形態においては、該宿主細胞は、少なくとも1つの内因性または外因性Ca2+ ATPアーゼをコードするベクターが宿主細胞に導入され宿主細胞において発現される、酵母または糸状菌宿主細胞、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)細胞であることが可能であり、該宿主細胞は更に、該宿主細胞内に導入された例えば抗体のようなヒト治療用糖タンパク質をコードするオープンリーディングフレームに機能的に連結された、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)細胞に由来し該細胞において機能性である調節性ヌクレオチド配列を含む核酸分子を発現する。
【0020】
また、該下等真核宿主細胞におけるカルレチクリン(calreticulin)およびERp57タンパク質の過剰発現はO−グリカン占有度の減少をももたらしうることが判明している。したがって、異所性発現されるカルレチクリン(calreticulin)および/またはERp57タンパク質をコードする1以上の核酸分子を含む下等真核宿主細胞も提供する。更なる実施形態においては、該宿主細胞は、少なくとも1つの内因性または外因性Ca2+ ATPアーゼをコードする核酸分子を含み、ここで、該Ca2+ ATPアーゼの発現は異所性である。一般に、該下等真核宿主細胞は更に、組換えタンパク質をコードする核酸分子を含み、該タンパク質は、特定の態様においては糖タンパク質であり、これは、更なる態様においては抗体またはそのフラグメント、例えばFcもしくはFabである。
【0021】
更なる実施形態においては、前記宿主細胞のいずれかは、機能性PMT遺伝子を有する宿主細胞と比較して軽減したO−グリコシル化を有する組換えタンパク質を産生しうる宿主細胞を得るために、タンパク質O−マンノシルトランスフェラーゼ(PMT)タンパク質をコードする少なくとも1つの内因性ピチア・パストリス(Pichia pastoris)遺伝子の機能を軽減または排除するために操作される。更なる態様においては、該PMTタンパク質は、PMT1およびPMT4よりなる群から選ばれる。更なる態様においては、該宿主細胞は更に、PMT遺伝子発現またはPMTタンパク質機能のインヒビターの1以上と接触される。
【0022】
更なる実施形態においては、内因性シャペロンタンパク質をコードする遺伝子が軽減、欠失または破壊され、異種シャペロンタンパク質をコードする核酸分子が該細胞内に導入される。特定の態様においては、該シャペロンタンパク質はPDI1タンパク質である。
【0023】
前記宿主細胞の更なる態様においては、該宿主細胞は、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)、ピチア・フィンランディカ(Pichia finlandica)、ピチア・トレハロフィラ(Pichia trehalophila)、ピチア・コクラメ(Pichia koclamae)、ピチア・メンブラネファシエンス(Pichia membranaefaciens)、ピチア・ミヌタ(Pichia minuta)(オガタエア・ミヌタ(Ogataea minuta)、ピチア・リンドネリ(Pichia lindneri))、ピチア・オプンチエ(Pichia opuntiae)、ピチア・サーモトレランス(Pichia thermotolerans)、ピチア・サリクタリア(Pichia salictaria)、ピチア・グエルクウム(Pichia guercuum)、ピチア・ピエペリ(Pichia pijperi)、ピチア・スチピチス(Pichia stipitis)、ピチア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピチア属種(Pichia sp.)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス属種(Saccharomyces sp.)、シゾサッカロミセス属種(Schizosaccharomyces sp.)、シゾサッカロミセ・ポンベ(Schizosaccharomyce pombe)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クルイベロミセス属種(Kluyveromyces sp.)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルス・ニジュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、トリコデルマ・レーゼイ(Trichoderma reesei)、クリソスポリウム・ルクノウェンス(Chrysosporium lucknowense)、フザリウム属種(Fusarium sp.)、フザリウム・グラミネウム(Fusarium gramineum)、フザリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)、フィスコミトレラ・パテンス(Physcomitrella patens)およびニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、ピチア属種(Pichia sp.)、いずれかのサッカロミセス属種(Saccharomyces sp.)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、いずれかのクライベロミセス属種(Kluyveromyces sp.)、いずれかのアスペルギルス属種(Aspergillus sp.)、トリコデルマ・レーゼイ(Trichoderma reesei)、クリソスポリウム・ルクノウェンス(Chrysosporium lucknowense)、いずれかのフザリウム属種(Fusarium sp.)およびニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)よりなる群から選ばれる。
【0024】
更なる実施形態は、本明細書に開示されている遺伝的修飾を含まない組換え糖タンパク質と比較して軽減したO−グリコシル化またはO−グリカン占有度を有する組換えタンパク質の製造方法を含む。組換えタンパク質は、抗体およびそのフラグメントを含む治療上重要なタンパク質および糖タンパク質を含む。
【0025】
したがって、組換えタンパク質の製造方法であって、(a)内因性または外因性Ca2+ ATPアーゼをコードする核酸分子を含む下等真核宿主細胞(該宿主細胞における該Ca2+ ATPアーゼの発現は異所性である)を準備し、(b)該組換えタンパク質をコードする核酸分子を該宿主細胞内に導入し、(c)該組換えタンパク質の製造に適した条件下、該宿主細胞を増殖させることを含む製造方法を提供する。
【0026】
更に、組換えタンパク質の製造方法であって、(a)CRTまたはERp57の少なくとも1つをコードする核酸分子を含む下等真核宿主細胞(該宿主細胞における該CRTおよび/またはERp57の発現は異所性である)を準備し、(b)該組換えタンパク質をコードする核酸分子を該宿主細胞内に導入し、(c)該組換えタンパク質の製造に適した条件下、該宿主細胞を増殖させることを含む製造方法を提供する。
【0027】
更に、組換えタンパク質の製造方法であって、(a)内因性または外因性Ca2+ ATPアーゼおよびCRTまたはERp57の少なくとも1つをコードする核酸分子を含む下等真核宿主細胞(該宿主細胞における該Ca2+ ATPアーゼの発現は異所性であり、該宿主細胞における該Ca2+ ATPアーゼ、CRTおよび/またはERp57は異所性である)を準備し、(b)該組換えタンパク質をコードする核酸分子を該宿主細胞内に導入し、(c)該組換えタンパク質の製造に適した条件下、該宿主細胞を増殖させることを含む製造方法を提供する。
【0028】
更なる実施形態においては、機能性PMT遺伝子を有する宿主細胞と比較して軽減したO−グリコシル化を有する組換えタンパク質を産生しうる宿主細胞を得るための、タンパク質O−マンノシルトランスフェラーゼ(PMT)タンパク質をコードする少なくとも1つの内因性ピチア・パストリス(Pichia pastoris)の機能。更なる態様においては、該PMTタンパク質は、PMT1およびPMT4よりなる群から選ばれる。更なる態様においては、該宿主細胞は更に、PMT遺伝子発現またはPMTタンパク質機能のインヒビターの1以上と接触される。
【0029】
更なる実施形態においては、内因性シャペロンタンパク質をコードする遺伝子が軽減、欠失または破壊され、異種シャペロンタンパク質をコードする核酸分子が該細胞内に導入される。特定の態様においては、該シャペロンタンパク質はPDI1タンパク質である。
【0030】
更に詳細な態様においては、本明細書に開示されている宿主細胞のいずれかはPMT遺伝子のインヒビターの存在下で増殖されうる。
【0031】
本発明における方法は、抗体(これに限定されるものではない)を含む治療上重要なタンパク質を製造するのに特に有用である。したがって、治療上重要なタンパク質を製造するための、本発明における宿主細胞のいずれかの使用を提供する。特定の態様においては、抗体を製造するための、本発明における宿主細胞のいずれかの使用。
【0032】
前記方法の更なる態様においては、該宿主細胞は、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)、ピチア・フィンランディカ(Pichia finlandica)、ピチア・トレハロフィラ(Pichia trehalophila)、ピチア・コクラメ(Pichia koclamae)、ピチア・メンブラネファシエンス(Pichia membranaefaciens)、ピチア・ミヌタ(Pichia minuta)(オガタエア・ミヌタ(Ogataea minuta)、ピチア・リンドネリ(Pichia lindneri))、ピチア・オプンチエ(Pichia opuntiae)、ピチア・サーモトレランス(Pichia thermotolerans)、ピチア・サリクタリア(Pichia salictaria)、ピチア・グエルクウム(Pichia guercuum)、ピチア・ピエペリ(Pichia pijperi)、ピチア・スチピチス(Pichia stipitis)、ピチア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピチア属種(Pichia sp.)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス属種(Saccharomyces sp.)、シゾサッカロミセス属種(Schizosaccharomyces sp.)、シゾサッカロミセ・ポンベ(Schizosaccharomyce pombe)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クルイベロミセス属種(Kluyveromyces sp.)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルス・ニジュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、トリコデルマ・レーゼイ(Trichoderma reesei)、クリソスポリウム・ルクノウェンス(Chrysosporium lucknowense)、フザリウム属種(Fusarium sp.)、フザリウム・グラミネウム(Fusarium gramineum)、フザリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)、フィスコミトレラ・パテンス(Physcomitrella patens)およびニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、ピチア属種(Pichia sp.)、いずれかのサッカロミセス属種(Saccharomyces sp.)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、いずれかのクライベロミセス属種(Kluyveromyces sp.)、いずれかのアスペルギルス属種(Aspergillus sp.)、トリコデルマ・レーゼイ(Trichoderma reesei)、クリソスポリウム・ルクノウェンス(Chrysosporium lucknowense)、いずれかのフザリウム属種(Fusarium sp.)およびニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)よりなる群から選ばれる。
【0033】
更に、本明細書に開示されている宿主細胞により製造される組換えタンパク質を提供する。
【0034】
特定の実施形態においては、前記宿主細胞のいずれかは更に、主に特定のNグリカン構造体またはNグリカン構造体の特定の混合物を有する糖タンパク質を該宿主細胞が産生するのを可能にする遺伝的修飾を含みうる。例えば、該宿主細胞は、ManGlcNAcまたはManGlcNAcコア構造を有するNグリカン(これは、特定の態様においては、1以上の追加的な糖、例えばGlcNAc、ガラクトースまたはシアル酸を非還元末端に、そして場合によっては、還元末端のGlcNAc上にフコースを含む)を産生するよう遺伝的に操作されている。したがって、Nグリカンは、二アンテナ(bi−antennary)および多アンテナ(multi−antennary)糖形態ならびに二分枝状(bisected)の糖形態の両方を含む。Nグリカンの具体例には、ManGlcNAc、ManGlcNAc、ManGlcNAc、ManGlcNAc、GlcNAcManGlcNAc、GalGlcNAcManGlcNAc、NANAGalGlcNAcManGlcNAc、ManGlcNAc、GlcNAc(1−4)ManGlcNAc、Gal(1−4)GlcNAc(1−4)ManGlcNAc、NANA(1−4)Gal(1−4)GlcNAc(1−4)ManGlcNAcが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
定義
本明細書中で特に定められていない限り、本発明に関して用いる科学技術用語および表現は、当業者に一般に理解されている意義を有するものとする。さらに、文脈に矛盾しない限り、単数形の用語は複数形を含むものとし、複数形の用語は単数形を含むものとする。一般に、本明細書に記載の生化学、酵素学、分子細胞生物学、微生物学、遺伝学ならびにタンパク質および核酸の化学およびハイブリダイゼーションに関して用いる名称、ならびにそれらの技術は、当技術分野においてよく知られており一般に用いられているものである。一般に、本発明の方法および技術は、特に示さない限り、当技術分野でよく知られている通常の方法に従い、ならびに本明細書中に引用され記載されている種々の全般的およびより具体的な参考文献に記載されているとおりに行われる。例えば、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2d ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989);Ausubelら,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates(1992,and Supplements to 2002);HarlowおよびLane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1990);TaylorおよびDrickamer,Introduction to Glycobiology,Oxford Univ.Press(2003);Worthington Enzyme Manual,Worthington Biochemical Corp.,Freehold,NJ;Handbook of Biochemistry:Section A Proteins,Vol I,CRC Press(1976);Handbook of Biochemistry:Section A Proteins,Vol II,CRC Press(1976);Essentials of Glycobiology,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1999)を参照されたい。
【0036】
本明細書に記載の全ての刊行物、特許および他の参考文献の全体を、参照により本明細書に組み入れることとする。
【0037】
以下の用語は、特に示さない限り、以下の意義を有すると理解されるものとする。
【0038】
本明細書中で用いる「N−グリカン」および「糖形態」なる語は互換的に用いられ、N−結合オリゴ糖を意味し、例えば、ポリペプチドのアスパラギン残基にアスパラギン−N−アセチルグルコサミン結合により結合しているオリゴ糖を意味する。N−結合糖タンパク質は、該タンパク質中のアスパラギン残基のアミド窒素に結合したN−アセチルグルコサミン残基を含有する。糖タンパク質上で見出される主な糖としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、N−アセチルガラクトサミン(GalNAc)、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸(例えば、N−アセチル−ノイラミン酸(NANA))が挙げられる。N−結合糖タンパク質の場合、糖基のプロセシングは翻訳と共に小胞体の内腔(ERルーメン)で生じ、ゴルジ装置内で継続する。
【0039】
N−グリカンはManGlcNAcの共通の五糖コアを有する(「Man」はマンノースを意味し、「Glc」はグルコースを意味し、「NAc」はN−アセチルを意味し、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン)。N−グリカンは、「トリマンノースコア」、「五糖コア」または「小マンノース(paucimannose)コア」とも称されるManGlcNAc(「Man3」)コア構造に付加される末梢糖(例えば、GlcNAc、ガラクトース、フコースおよびシアル酸)を含む分枝(アンテナ)の数に関して異なる。N−グリカンは、それらの分枝構成成分に従い分類される(例えば、高マンノース、複合またはハイブリッド)。「高マンノース」型N−グリカンは5以上のマンノース残基を有する。「複合」型N−グリカンは、典型的には、1,3マンノース・アームに結合した少なくとも1つのGlcNAc、および「トリマンノース」コアの1,6マンノース・アームに結合した少なくとも1つのGlcNAcを有する。複合N−グリカンはまた、ガラクトース(「Gal」)またはN−アセチルガラクトサミン(「GalNAc」)残基を有することが可能であり、該残基は、場合によっては、シアル酸または誘導体(例えば、「NANA」または「NeuAc」;ここで、「Neu」はノイラミン酸を意味し、「Ac」はアセチルを意味する)で修飾されうる。複合N−グリカンはまた、コア・フコース(「Fuc」)および「二分岐(bisecting)」GlcNAcを含む鎖内置換を有しうる。複合N−グリカンはまた、「トリマンノース・コア」上に複数の分枝を有することが可能であり、これは、しばしば、「多アンテナグリカン」と称される。「ハイブリッド」N−グリカンは、該トリマンノース・コアの1,3マンノース・アームの末端に少なくとも1つのGlcNAcを、そして該トリマンノース・コアの1,6マンノース・アーム上に0個以上のマンノースを有する。これらの種々のN−グリカンは「糖形態(glycoform)」とも称される。
【0040】
本明細書中で用いる略語は、当技術分野で一般に用いられているものである。例えば、前記の糖の略語を参照されたい。他の一般的な略語には、「PNGアーゼ」または「グリカナーゼ」または「グルコシダーゼ」が含まれ、これらは全て、ペプチドであるN−グリコシダーゼF(EC3.2.2.18)を意味する。
【0041】
本明細書中で用いる「ベクター」なる語は、それに連結された別の核酸分子を運搬しうる核酸分子を意味すると意図される。1つのタイプのベクターは「プラスミドベクター」であり、これは、追加的なDNA断片が連結されうる環状二本鎖DNAループを意味する。他のベクターには、コスミド、細菌人工染色体(BAC)および酵母人工染色体(YAC)が含まれる。もう1つのタイプのベクターは、追加的なDNA断片がウイルスゲノム内に連結されうるウイルスベクターである(後記において更に詳しく説明する)。あるベクターは、それが導入される宿主細胞において自律複製することが可能である(例えば、該宿主細胞内で機能する複製起点を有するベクター)。他のベクターは宿主細胞内への導入の際に宿主細胞のゲノム内に組込まれることが可能であり、それにより、宿主ゲノムと共に複製される。さらに、ある好ましいベクターは、それが機能的に連結されている遺伝子の発現を導きうる。そのようなベクターは本明細書中では「組換え発現ベクター」(または単に「発現ベクター」)と称される。
【0042】
本明細書中で用いる「関心のある配列」または「関心のある遺伝子」なる語は、宿主細胞内で通常は産生されない、タンパク質を典型的にはコードする核酸配列を意味する。本明細書に開示されている方法は、宿主細胞ゲノム内に安定に組込まれた1以上の関心のある配列または関心のある遺伝子の効率的発現を可能にする。関心のある配列の非限定的な具体例には、酵素活性を有する1以上のポリペプチド、例えば、宿主におけるN−グリカン合成に影響を及ぼす酵素、例えばマンノシルトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、UDP−N−アセチルグルコサミントランスポーター、ガラクトシルトランスフェラーゼ、UDP−N−アセチルガラクトシルトランスフェラーゼ、シアリルトランスフェラーゼおよびフコシルトランスフェラーゼが含まれる。
【0043】
「マーカー配列」または「マーカー遺伝子」なる語は、宿主細胞内の配列の存在または非存在に関する正または負の選択を可能にする活性を発現しうる核酸配列を意味する。例えば、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)URA5遺伝子はマーカー遺伝子である。なぜなら、該遺伝子を含有する細胞がウラシルの非存在下で増殖しうることにより、その存在が選択されうるからである。その存在は、該遺伝子を含有する細胞が5−FOAの存在下で増殖し得ないことによっても選択されうる。マーカー配列または遺伝子は、正および負の両方の選択性を示すことを必ずしも要しない。ピチア・パストリス(Pichia pastoris)由来のマーカー配列または遺伝子の非限定的な具体例には、ADE1、ARG4、HIS4およびURA3が含まれる。抗生物質耐性マーカー遺伝子の場合、カナマイシン、ネオマイシン、ゲネティシン(geneticin)(またはG418)、パロモマイシンおよびヒグロマイシン耐性遺伝子が、これらの抗生物質の存在下での増殖を可能にするために一般に使用される。
【0044】
「機能的に連結」された発現制御配列は、関心のある遺伝子を制御するよう、関心のある遺伝子に隣接して連結された発現制御配列、ならびに関心のある遺伝子を制御するよう、トランスで又は或る距離を隔てて作用する発現制御配列を意味する。
【0045】
「発現制御配列」または「調節配列」なる語は互換的に用いられ、本明細書中で用いられる場合には、それが機能的に連結されているコード配列の発現に影響を及ぼすのに必要なポリヌクレオチド配列を意味する。発現制御配列は、核酸配列の転写、転写後事象および翻訳を制御する配列である。発現制御配列には、適当な転写開始配列、終結配列、プロモーター配列およびエンハンサー配列;効率的なRNAプロセッシングシグナル、例えばスプライシングおよびポリアデニル化シグナル;細胞質mRNAを安定化する配列;翻訳効率を増加させる配列(例えば、リボソーム結合部位);タンパク質安定性を増強する配列;ならびに望ましい場合には、タンパク質分泌を促進する配列が含まれる。そのような制御配列の性質は宿主生物によって異なり、原核生物においては、そのような制御配列には、一般に、プロモーター、リボソーム結合部位および転写終結配列が含まれる。「制御配列」なる語は、少なくとも、発現のために存在が必須である全ての成分を含むと意図され、存在することが有利である追加的な成分、例えばリーダー配列および融合相手の配列をも含みうる。
【0046】
本明細書中で用いる「組換え宿主細胞」(「発現宿主細胞」、「発現宿主系」、「発現系」または単に「宿主細胞」)なる語は、組換えベクターが導入された細胞を意味すると意図される。そのような用語は、その特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の後代をも意味すると意図されると理解されるべきである。後の世代においては突然変異または環境の影響により或る修飾が生じうるため、そのような後代は実際には親細胞と同一でない可能性があるが、本明細書中で用いる「宿主細胞」なる語の範囲内に尚も含まれる。組換え宿主細胞は、培養内で増殖した単離された細胞または細胞系であることが可能であり、あるいは、生きた組織または生物に存在する細胞でありうる。
【0047】
「真核生物」なる語は有核細胞または生物を意味し、昆虫細胞、植物細胞、哺乳類細胞、動物細胞および下等真核細胞を意味する。
【0048】
「下等真核細胞」なる語は、酵母および糸状菌を含む。酵母および糸状菌は、限定的なものではないが、以下のものを含む:ピチア・パストリス(Pichia pastoris)、ピチア・フィンランディカ(Pichia finlandica)、ピチア・トレハロフィラ(Pichia trehalophila)、ピチア・コクラメ(Pichia koclamae)、ピチア・メンブラネファシエンス(Pichia membranaefaciens)、ピチア・ミヌタ(Pichia minuta)(オガタエア・ミヌタ(Ogataea minuta)、ピチア・リンドネリ(Pichia lindneri))、ピチア・オプンチエ(Pichia opuntiae)、ピチア・サーモトレランス(Pichia thermotolerans)、ピチア・サリクタリア(Pichia salictaria)、ピチア・グエルクウム(Pichia guercuum)、ピチア・ピエペリ(Pichia pijperi)、ピチア・スチピチス(Pichia stipitis)、ピチア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピチア属種(Pichia sp.)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス属種(Saccharomyces sp.)、シゾサッカロミセス属種(Schizosaccharomyces sp.)、シゾサッカロミセ・ポンベ(Schizosaccharomyce pombe)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クルイベロミセス属種(Kluyveromyces sp.)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルス・ニジュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、トリコデルマ・レーゼイ(Trichoderma reesei)、クリソスポリウム・ルクノウェンス(Chrysosporium lucknowense)、フザリウム属種(Fusarium sp.)、フザリウム・グラミネウム(Fusarium gramineum)、フザリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)、フィスコミトレラ・パテンス(Physcomitrella patens)およびニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、ピチア属種(Pichia sp.)、いずれかのサッカロミセス属種(Saccharomyces sp.)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、いずれかのクライベロミセス属種(Kluyveromyces sp.)、いずれかのアスペルギルス属種(Aspergillus sp.)、トリコデルマ・レーゼイ(Trichoderma reesei)、クリソスポリウム・ルクノウェンス(Chrysosporium lucknowense)、いずれかのフザリウム属種(Fusarium sp.)およびニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)。
【0049】
タンパク質をコードする遺伝子の機能が「軽減」していると言えるのは、その遺伝子が例えば1以上のヌクレオチドの欠失、挿入、突然変異または置換により修飾されていて、そのような修飾を伴わない対応遺伝子によりコードされるタンパク質と比較して、標準的なアッセイで測定された場合に少なくとも20%〜50%低い活性、特定の態様においては、少なくとも40%低い活性または少なくとも50%低い活性を有するタンパク質を該修飾遺伝子がコードしている場合である。タンパク質をコードする遺伝子の機能が「排除」されていると言えるのは、その遺伝子が例えば1以上のヌクレオチドの欠失、挿入、突然変異または置換により修飾されていて、そのような修飾を伴わない対応遺伝子によりコードされるタンパク質と比較して、標準的なアッセイで測定された場合に少なくとも90%〜99%低い活性、特定の態様においては、少なくとも95%低い活性または少なくとも99%低い活性を有するタンパク質を該修飾遺伝子がコードしている場合である。
【0050】
特に示さない限り、本明細書中で用いる全ての科学技術用語は、本発明に関連する分野の当業者により一般に理解されているのと同じ意義を有する。典型的な方法および物質(材料)を以下に説明するが、本明細書に記載されているものと類似または同等の方法および物質も本発明の実施において使用可能であり、当業者に明らかであろう。本明細書に記載されている全ての刊行物および他の参考文献の全体を参照により本明細書に組み入れることとする。矛盾する場合には、定義を含めて本明細書が優先される。該材料、方法および実施例(具体例)は例示に過ぎず、何ら限定的ではないと意図される。
【0051】
発明の詳細な説明
本発明は、本明細書に開示されている遺伝的に操作されていない宿主細胞と比較して軽減したO−グリコシル化を有する組換えタンパク質を産生しうる組換え宿主細胞を提供する。一般に、1以上の内因性または外因性Ca2+ ATPアーゼの異所性発現のための1以上の核酸分子を含む組換え宿主細胞、および軽減したO−グリコシル化を有する糖タンパク質を製造するための、該組換え宿主細胞の使用を提供する。
【0052】
本発明者らは、組換え宿主細胞における内因性または外因性Ca2+ ATPアーゼの過剰発現が、内因性または外因性Ca2+ ATPアーゼを過剰発現しない宿主細胞と比較して軽減したO−グリコシル化を有する組換えタンパク質の製造を可能にすることを見出した。実施例3および4に示すとおり、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)ゴルジCa2+ ATPアーゼ(PpPMR1)またはアラビドプシス・サリアナ(Arabidopsis thaliana)ER Ca2+ ATPアーゼ(AtECA1)の過剰発現は、いずれのCa2+ ATPアーゼをも発現しない宿主細胞株と比較してO−グリカン占有度における4倍以上の減少をもたらした。したがって、内因性または外因性ゴルジまたはER Ca2+ ATPアーゼ(ここで、該Ca2+ ATPアーゼは異種プロモーターに機能的に連結されている)をコードする1以上の核酸分子を含む組換え宿主細胞は、軽減したO−グリコシル化を有する組換え糖タンパク質を産生しうる宿主細胞を与えるであろう。これらの宿主細胞は、タンパク質上のO−グリコシル化の量が軽減することが望まれる組換えタンパク質を製造するために使用されうる。好適な他のCa2+ ATPアーゼには、ヒトSERCA2bタンパク質(ATP2A2 ATPアーゼ、Ca++輸送、心筋、緩縮2)およびピチア・パストリス(Pichia pastoris)COD1タンパク質(サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)SPF1のホモログ)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
カルレチクリン(Calreticulin)(CRT)は、小胞体の内腔における主要Ca(2+)結合性(貯蔵)タンパク質として作用する多機能性タンパク質である。それは核においても見出され、このことは、それが転写調節において何らかの役割を果たしうることを示唆している。カルレチクリンは合成ペプチドKLGFFKR(配列番号47)に結合し、これは核内受容体のスーパーファミリーのDNA結合ドメインにおけるアミノ酸配列とほぼ同一である。カルレチクリンは、抗Ro/SSA抗体を含有する全身性ループスおよびシェーグレン患者の或る血清における抗体に結合し、それは種間で高度に保存されており、それは小胞体および筋小胞体に位置し、それらの部位においてそれはカルシウムに結合しうる。カルレチクリンは、ミスフォールドしたタンパク質に結合し、小胞体からゴルジ装置へそれらが輸出されるのを妨げる。好適な他のタンパク質には、ヒトUGGT(UDP−グルコース:糖タンパク質グルコシルトランスフェラーゼ)タンパク質およびヒトREp27タンパク質が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
ERp57は、新たに合成された糖タンパク質のフォールディングをモジュレーションするためにレクチンシャペロンであるカルレチクリンおよびカルネキシン(calnexin)と相互作用する小胞体のシャペロンタンパク質である。該タンパク質はかつてはホスホリパーゼであると考えられていたが、該タンパク質は実際にはタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ活性を有することが実証されている。したがって、ERp57は小胞体(ER)の内腔タンパク質であり、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)ファミリーのメンバーである。レクチンとこのタンパク質との複合体は、それらの糖タンパク質基質におけるジスルフィド結合の形成を促進することによりタンパク質フォールディングを媒介すると考えられている。原型PDIとは対照的に、ERp57は、新たに合成された糖タンパク質と特異的に相互作用する。
【0055】
本発明者らは更に、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)におけるヒトCRTおよびヒトERp57の過剰発現が、hCRTおよびhERp57を発現しない株と比較してO−グリカン占有度における約3分の1の軽減を引き起こすことを見出した。
【0056】
したがって、宿主細胞における異所性発現のためのカルレチクリンタンパク質および/またはERp57タンパク質をコードする1以上の核酸分子を含む組換え宿主細胞を更に提供する。これらの宿主細胞は、タンパク質上のO−グリコシル化の量が軽減されることが望ましい組換えタンパク質を製造するために使用されうる。該宿主細胞が、内因性または異種Ca2+ ATPアーゼをコードする1以上の核酸分子を更に含む場合、これらの宿主細胞はO−グリコシル化における更なる軽減を伴う。実施例4に示すとおり、内因性Ca2+ ATPアーゼまたは外因性Ca2+ ATPアーゼを過剰発現しヒトカルレチクリンタンパク質およびヒトERp57タンパク質を過剰発現する組換え宿主細胞の提供は、該宿主細胞により産生された組換えタンパク質のO−グリコシル化における更なる軽減をもたらした。したがって、内因性または異種Ca2+ ATPアーゼをコードする1以上の核酸分子とカルレチクリンタンパク質および/またはERp57タンパク質をコードする1以上の核酸分子とを含む組換え宿主細胞を更に提供する。これらの宿主細胞は、軽減したO−グリコシル化を有する糖タンパク質を製造するために使用されうる。
【0057】
分子シャペロンは抗体のフォールディングおよび分泌において決定的に重要な役割を果たしている。1つのシャペロンタンパク質、特にタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)は、抗体重鎖および軽鎖を連結するジスルフィド間および内結合形成を触媒するよう機能する。タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)は、非触媒化反応と比較してジスルフィド含有タンパク質の回収における相当な増加または相当な減少を引き起こしうる。すなわち、小胞体(ER)における高濃度のPDIがジスルフィド含有タンパク質の発現に必須である(PuigおよびGilbert,J.Biol.Chem.269:7764−7771(1994))。実施例に示すとおり、内因性PDI1シャペロン遺伝子がヒトPDIシャペロン遺伝子で置換されている細胞は、軽減したO−グリコシル化を有していた。これらの細胞が内因性または外因性Ca2+ ATPアーゼおよび/またはCRTおよび/またはERp57タンパク質の異所性過剰発現を更に伴う場合、O−グリコシル化の更なる軽減が認められた(実施例3および4を参照されたい)。
【0058】
したがって、Ca2+ ATPアーゼおよび/またはCRTおよび/またはERp57タンパク質を異所性発現する宿主細胞が更に含まれ、ここで、内因性シャペロンタンパク質をコードする1以上の遺伝子が欠失している又は破壊されており、異種シャペロンタンパク質をコードする核酸分子が該シャペロンタンパク質の異所性発現のために導入されている。更なる実施形態は、追加的な異種コシャペロンタンパク質、例えばERO−1αおよび/またはGRP94タンパク質も該細胞において発現される前記細胞を含む。
【0059】
下等真核細胞、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)およびピチア・パストリス(Pichia pastoris)は、分泌タンパク質のセリルおよびトレオニル残基へのマンノースの転移に関与するタンパク質O−マンノシルトランスフェラーゼ(PMT)として公知の遺伝子のファミリーを含有する。本発明者らは、1以上のヒト化またはキメラシャペロン遺伝子を発現するよう遺伝的に改変されているピチア・パストリス(Pichia pastoris)細胞系が、細胞増殖またはタンパク質発現にほとんど又は全く影響を及ぼすことなく、より良好に1以上のPMT遺伝子の欠失に耐えうることを見出した。欠失されうるPMT遺伝子には、PMT1、PMT2、PMT4、PMT5およびPMT6が含まれる。一般に、OCH1遺伝子およびPMT遺伝子の両方が欠失しているピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞は増殖不良を示すか又は全く増殖しない。OCH1遺伝子の欠失または機能的ノックアウトは、ヒト様N−グリカンを有するヒト糖タンパク質を産生しうる組換えピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞の構築に必要である。O−グリコシル化を有さない又は軽減したO−グリコシル化を有するヒト糖タンパク質を製造することが望ましいため、ヒト様N−グリカンを有するヒト糖タンパク質をも産生しうる組換えピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞におけるO−グリコシル化を軽減するための手段を見出すことが必要とされている。したがって、更なる実施形態において、1以上のPMT遺伝子の欠失または破壊を更に含む宿主細胞を提供する。
【0060】
更なる態様においては、該過剰発現遺伝子産物は分泌遺伝子産物である。過剰発現遺伝子産物が分泌されるかどうかを観察するための方法は当業者に容易に利用可能である。例えば、Goeddel(編)1990,Gene Expression Technology,Methods in Enzymology,Vol 185,Academic PressおよびSambrookら,1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Vol.1−3,Cold Spring Harbor Press,N.Y.。
【0061】
過剰発現遺伝子産物を分泌させるためには、該過剰発現遺伝子産物の分泌に十分な条件下、該宿主細胞を培養する。そのような条件は、該細胞による分泌を可能にする温度、栄養および細胞密度条件を含む。更に、そのような条件は、該細胞が転写、翻訳、および1つの細胞画分から別の細胞画分へのタンパク質の移行の基本的細胞機能を行いうる条件であり、当業者に公知である。
【0062】
更に、当業者に公知のとおり、分泌遺伝子産物は、現在の宿主細胞を維持するため又は増殖させるために使用される培地内で検出されうる。該培地は、公知方法、例えば遠心分離または濾過により、該宿主細胞から分離されうる。ついで該過剰発現遺伝子産物は、該過剰発現遺伝子産物の公知特性を利用することにより無細胞培地内で検出されうる。そのような特性には、該過剰発現遺伝子産物の特徴的な免疫学的、酵素的または物理的特性が含まれうる。例えば、過剰発現遺伝子産物が特有の酵素活性を有する場合、該宿主細胞により利用される培地上でその活性に関するアッセイが行われうる。更に、与えられた過剰発現遺伝子産物に対して反応性である抗体が利用可能である場合には、いずれかの公知の免疫学的アッセイで該遺伝子産物を検出するために、そのような抗体が使用されうる(Harloweら,1988,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい)。
【0063】
また、分泌遺伝子産物は融合タンパク質であることが可能であり、この場合、該遺伝子産物は、該遺伝子産物の分泌を促進する異種シグナルまたはリーダーペプチドを含む。分泌シグナルペプチドは特有のアミノ酸配列であり、これは、該宿主細胞が遺伝子産物を内部および外部細胞膜を介して細胞外環境へ導くのを可能にする。分泌シグナルペプチドは、分泌のための新生ポリペプチド遺伝子産物のN末端に存在する。追加的な真核分泌シグナルも、特異的アミノ酸に結合した炭水化物の形態(すなわち、グリコシル化分泌シグナル)で、該遺伝子産物のポリペプチド鎖に沿って存在しうる。
【0064】
N末端シグナルペプチドは、約2〜約10アミノ酸の短い荷電ドメインに続いて存在しうる約10〜約30アミノ酸の疎水性ドメインを含む。更に、該シグナルペプチドは分泌のための遺伝子産物のN末端に存在する。一般に、シグナル配列の個々の配列は決定的に重要ではないが、シグナル配列は、アラニン(Ala)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、プロリン(Pro)、フェニルアラニン(Phe)、トリプトファン(Trp)、メチオニン(Met)などのような疎水性アミノ酸に富む。
【0065】
多数のシグナルペプチドが公知である(Michaelisら,Ann.Rev.Microbiol.36:425(1982))。例えば、酵母酸ホスファターゼ、酵母インベルターゼおよび酵母α因子シグナルペプチドが異種ポリペプチドコード領域に結合されており、該異種ポリペプチドの分泌のために成功裏に使用されている(例えば、Satoら,Gene 83:355−365(1989);Changら,Mol.Cell.Biol.6:1812−1819(1986);およびBrakeら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:4642−4646(1984)を参照されたい)。したがって、5’末端にシグナルペプチドをも有する過剰発現遺伝子産物のコード領域をコードする核酸を当業者は容易に設計または入手することが可能である。
【0066】
好ましくは本方法により分泌される過剰発現遺伝子産物の具体例には、哺乳類遺伝子産物、例えば酵素、サイトカイン、増殖因子、ホルモン、ワクチン、抗体などが含まれる。より詳しくは、過剰発現遺伝子産物には、エリスロポエチン、インスリン、ソマトトロピン、成長ホルモン放出因子、血小板由来成長因子、上皮増殖因子、トランスフォーミング増殖因子α、トランスフォーミング増殖因子β、上皮増殖因子、繊維芽細胞増殖因子、神経成長因子、インスリン様増殖因子I、インスリン様増殖因子II、凝固因子VIII、スーパーオキシドジスムターゼ、α−インターフェロン、γ−インターフェロン、インターロイキン1、インターロイキン2、インターロイキン3、インターロイキン4、インターロイキン5、インターロイキン6、顆粒球コロニー刺激因子、多系統コロニー刺激活性、顆粒球−マクロファージ刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、T細胞増殖因子、リンホトキシン、免疫グロブリン、抗体などのような遺伝子産物が含まれるが、これらに限定されるものではない。免疫グロブリンまたは抗体の定常領域に融合されたペプチドおよびポリペプチド(これらに限定されるものではない)を含む融合タンパク質が更に含まれる。特に有用な過剰発現遺伝子産物はヒト遺伝子産物である。
【0067】
「抗体」および「免疫グロブリン」なる語は、組換えDNA技術により産生された任意の組換えモノクローナル抗体を含み、更にヒト化およびキメラ抗体を含むと意図される。
【0068】
本方法は、ワクチンとして使用されうる任意の過剰発現遺伝子産物の分泌を増強するために容易に適合化されうる。ワクチンとして使用されうる過剰発現遺伝子産物には、哺乳類病原体の任意の構造的、膜会合、膜結合または分泌遺伝子産物が含まれる。哺乳類病原体には、哺乳類に感染し又は哺乳類を攻撃しうるウイルス、細菌、単細胞または多細胞寄生生物が含まれる。例えば、ウイルスワクチンには、例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)、リケッチア・リケッチイ(R.rickettsii)、ワクシニア、シゲラ(Shigella)、ポリオウイルス、アデノウイルス、インフルエンザ、A型肝炎、B型肝炎、デングウイルス、日本脳炎B、水痘・帯状疱疹、サイトメガロウイルス、A型肝炎、ロタウイルスのようなウイルスに対するワクチン、ならびにライム病、麻疹、黄熱病、流行性耳下腺炎、狂犬病、ヘルペス、インフルエンザ、パラインフルエンザなどのようなウイルス疾患に対するワクチンが含まれうる。細菌ワクチンには、ビブリオ・コレレ(Vibrio cholerae)、サルモネラ・ティフィ(Salmonella typhi)、ボルデテラ・ペルツッシス(Bordetella pertussis)、ストレプトコッカス・ニゥモニエ(Streptococcus pneumoniae)、ヘモフィルス・インフルエンザ(Hemophilus influenza)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、コリネバクテリウム・ジフセリエ(Corynebacterium diphtheriae)、マイコバクテリウム・レプレ(Mycobacterium leprae)、ナイセリア・ゴノレエ(Neisseria gonorrhoeae)、ナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitidis)、コクシジオイデス・イミティス(Coccidioides immitis)などのような細菌に対するワクチンが含まれうる。
【0069】
一般に、本発明の過剰発現タンパク質(例えば、Ca2+ ATPアーゼ、ERp57、カルレチクリン)および組換えタンパク質は、組換え的に、すなわち、過剰発現タンパク質または組換えタンパク質をコードする核酸分子を発現カセット内に配置することにより発現される。そのような発現カセットは少なくとも調節配列を含有し、これは、該タンパク質をコードする核酸分子に該配列が機能的に連結されている場合に該タンパク質の発現をもたらす。ついで該発現カセットを、複製起点、選択マーカー、転写または終結シグナル、動原体、自律的複製配列などのような追加的要素をも含有しうるプラスミドのようなベクター内に挿入して、発現ベクターを得る。
【0070】
発現ベクターは複製可能または複製不能な発現ベクターでありうる。複製可能な発現ベクターは、宿主細胞染色体DNAから独立して複製可能であり、あるいは宿主細胞染色体DNA内にそのようなベクターが組込まれているため複製可能である。組込み発現ベクターは、該ベクターが後に組込まれる宿主細胞ゲノム内の特定の位置へと該発現ベクターを標的化する標的化配列を含む。宿主細胞染色体DNA内に組込まれると、そのような発現ベクターは幾つかの構造要素を喪失しうるが、過剰発現または組換えタンパク質をコードする核酸分子および該過剰発現または組換えタンパク質の発現をもたらしうるセグメントを保有する。したがって、本発明における発現ベクターは染色体組込み性または染色体非組込み性発現ベクターでありうる。
【0071】
更なる態様においては、宿主細胞内への組込み性または非組込み性発現ベクターの導入により、該宿主細胞において1以上の過剰発現または組換えタンパク質を過剰発現させる。少なくとも1つの過剰発現または組換えタンパク質をコードする少なくとも1つの発現ベクターの導入の後、該遺伝子産物をコードする内因性遺伝子の発現を誘導することにより、あるいは該遺伝子産物をコードする発現ベクターを宿主細胞内に導入することにより、該遺伝子産物を過剰発現させる。もう1つの実施形態においては、少なくとも1つの異種シャペロンタンパク質を構成的に又は誘導可能な様態で発現する細胞系を樹立する。過剰発現すべき遺伝子産物をコードする発現ベクターをそのような細胞系内に導入して、該過剰発現遺伝子産物の分泌を亢進させる。
【0072】
発現ベクターが該過剰発現または組換えタンパク質の発現を可能にして、選択された宿主細胞型におけるそのような遺伝子産物の分泌を促進する限り、本発現ベクターは1つの宿主細胞型(例えば、大腸菌(Escherichia coli))においては複製可能であるが別の宿主細胞型(例えば、真核宿主細胞)においてはほとんど又は全く複製を受けないことが可能である。
【0073】
本明細書に記載されている発現ベクターは、所望の遺伝子、すなわち、該過剰発現または組換えタンパク質をコードする遺伝子の制御発現のために操作されたDNAまたはRNA分子を含む。そのようなベクターは、該過剰発現または組換えタンパク質をコードする核酸分子に機能的に連結された核酸分子セグメントをもコードしうる。この文脈における機能的に連結されたは、そのようなセグメントが、該過剰発現または組換えタンパク質をコードする核酸分子の発現をもたらしうることを意味する。これらの核酸配列は、プロモーター、エンハンサー、上流制御要素、転写因子またはリプレッサー結合部位、終結シグナル、および意図される宿主細胞における遺伝子発現を制御しうる他の要素を含む。好ましくは、該ベクターは、ベクター、バクテリオファージ、コスミドまたはウイルスである。
【0074】
本発明の発現ベクターは酵母または哺乳類細胞において機能する。酵母ベクターには、酵母2μサークルおよびその誘導体、酵母自律的複製配列をコードする酵母ベクター、酵母ミニ染色体、任意の酵母組込みベクターなどが含まれうる。多数のタイプの酵母ベクターの包括的一覧がParentら(Yeast 1:83−138(1985))に記載されている。
【0075】
遺伝子産物の発現をもたらしうる要素または核酸調節配列には、プロモーター、エンハンサー要素、上流活性化配列、転写終結シグナルおよびポリアデニル化部位が含まれる。全てのそのようなプロモーターおよび転写調節要素が、単独で又は組合されて、本発現ベクターにおいて使用されると想定される。更に、遺伝的に操作された及び突然変異した調節配列も想定される。
【0076】
プロモーターは、遺伝子発現を制御するためのDNA配列要素である。特に、プロモーターは転写開始部位を特定し、TATAボックスおよび上流プロモーター要素を含みうる。選択されるプロモーターは、選択された個々の宿主系において機能しうると予想されるものである。例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)またはピチア・パストリス(Pichia pastoris)のような酵母宿主細胞が使用される場合には、酵母プロモーターが本発現ベクターにおいて使用されるが、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)またはトリコデルマ・レーゼイ(Trichoderma reesei)のような宿主細胞においては真菌プロモーターが使用されるであろう。酵母プロモーターの具体例には、GAPDH、AOX1、GAL1、PGK、GAP、TPI、CYC1、ADH2、PHO5、CUP1、MFα1、PMA1、PDI、TEFおよびGUT1プロモーターが含まれるが、これらに限定されるものではない。Romanosら(Yeast 8:423−488(1992))は酵母プロモーターおよび発現ベクターの総説を記載している。
【0077】
本明細書に開示されている核酸分子に機能的に連結されるプロモーターは構成的プロモーターまたは誘導プロモーターでありうる。誘導プロモーターは、転写因子の結合に際して、増加または減少した速度での転写を導くプロモーターである。本明細書中に記載の転写因子には、プロモーターの調節または制御領域に結合して転写に影響を及ぼしうる任意の因子が含まれる。宿主細胞における転写因子のプロモーター結合能または合成は、該宿主を誘導因子にさらす又は宿主細胞培地から誘導因子を除去することにより制御されうる。したがって、誘導プロモーターの発現を調節するためには、誘導因子を宿主細胞の増殖培地に加えるか又は該増殖培地から除去する。そのような誘導因子には、糖、ホスファート、アルコール、金属イオン、ホルモン、熱、寒冷などが含まれうる。例えば、酵母において一般的に用いられる誘導因子はグルコース、ガラクトースなどである。
【0078】
選択される転写終結配列は、選択された個々の宿主細胞において機能しうるものである。例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)またはピチア・パストリス(Pichia pastoris)のような酵母宿主細胞が使用される場合には、酵母転写終結配列が本発現ベクターにおいて使用されるが、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)またはトリコデルマ・レーゼイ(Trichoderma reesei)のような宿主細胞においては真菌転写終結配列が使用されるであろう。転写終結配列には、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)CYC転写終結配列(ScCYC TT)、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)ALG3転写終結配列(ALG3 TT)およびピチア・パストリス(Pichia pastoris)PMA1転写終結配列(PpPMA1 TT)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0079】
本発明の発現ベクターは選択マーカーをもコードしうる。選択マーカーは、選択マーカーを含有するベクターで形質転換された細胞が非形質転換細胞から識別されうるよう、同定可能な形質を宿主細胞に付与する遺伝的機能体である。また、該マーカーに連結された遺伝的機能体が宿主細胞集団において保有されることを保証するために、ベクター内への選択マーカーの導入が用いられうる。そのような選択マーカーは、いずれかの容易に同定される優性形質、例えば薬物耐性、細胞栄養素などを合成または代謝する能力などを付与しうる。
【0080】
酵母選択マーカーは、薬物耐性マーカー、および必須細胞栄養素(例えば、アミノ酸)を酵母宿主細胞が合成するのを可能にする遺伝的機能体を含む。酵母において一般に使用される薬物耐性マーカーには、クロラムフェニコール、カナマイシン、メトトレキセート、G418(ゲネティシン(geneticin))などが含まれる。酵母宿主細胞が必須細胞栄養素を合成するのを可能にする遺伝的機能体が、対応ゲノム機能における栄養要求性突然変異体を有する利用可能な酵母株と共に使用される。一般的な酵母選択マーカーは、ロイシン(LEU2)、トリプトファン(TRP1およびTRP2)、プロリン(PRO1)、ウラシル(URA3、URA5、URA6)、ヒスチジン(HIS3)、リシン(LYS2)、アデニン(ADE1またはADE2)などを合成するための遺伝的機能を付与する。他の酵母選択マーカーには、亜ヒ酸塩の存在下で増殖される酵母に亜ヒ酸塩耐性を付与するサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来のARR3遺伝子が含まれる(Bobrowiczら,Yeast,13:819−828(1997);Wysockiら,J.Biol.Chem.272:30061−30066(1997))。幾つかの適当な組込み部位は、米国公開出願第2007/0072262号に列挙されているものを含み、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)および他の酵母または真菌に関して公知の遺伝子座に対するホモログを含む。酵母内にベクターを組込むための方法はよく知られている。例えば、米国特許第7,479,389号、WO2007136865およびPCT/US2008/13719を参照されたい。挿入部位の具体例には、ピチア(Pichia)ADE遺伝子、ピチア(Pichia)TRP(TRP1〜TRP2を含む)遺伝子、ピチア(Pichia)MCA遺伝子、ピチア(Pichia)CYM遺伝子、ピチア(Pichia)PEP遺伝子、ピチア(Pichia)PRB遺伝子およびピチア(Pichia)LEU遺伝子が含まれるが、これらに限定されるものではない。ピチア(Pichia)ADE1およびARG4遺伝子はLin Cereghinoら,Gene 263:159−169(2001)および米国特許第4,818,700号に記載されており、HIS3およびTRP1遺伝子はCosanoら,Yeast 14:861−867(1998)に記載されており、HIS4はGenBankアクセッション番号X56180に記載されている。
【0081】
したがって、本発現ベクターは、培養内に存在する細胞集団内のベクター含有宿主細胞を特定し維持するのに有用な選択マーカーをコードしうる。幾つかの場合においては、選択マーカーは、発現ベクターのコピー数を増幅するためにも使用されうる。過剰発現または組換えタンパク質をコードするRNAを産生させるために本発現ベクターから転写を誘導した後、該RNAは細胞因子により翻訳されて該過剰発現または組換えタンパク質を与える。
【0082】
酵母および他の真核生物においては、メッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳は、該mRNAの5’キャップへのリボソーム結合、およびポリペプチド合成が開始されうる最初のAUG開始コドンへの該mRNAに沿った該リボソームの移動により開始される。酵母および哺乳類細胞における発現は、原核生物発現系において時には必要とされるような、リボソーム結合部位と開始コドンとの間の特定の数のヌクレオチドを一般には要しない。しかし、酵母または哺乳類宿主細胞における発現の場合、mRNAにおける最初のAUGコドンは、好ましくは、所望の翻訳開始コドンである。
【0083】
更に、酵母宿主細胞において発現が行われる場合、長い(例えば、50〜100ヌクレオチドより長い)非翻訳リーダー配列の存在は、mRNAの翻訳を軽減しうる。酵母mRNAリーダー配列は約50ヌクレオチドの平均長を有し、アデニンに富み、二次構造をほとんど有さず、ほぼ常に最初のAUGを開始に利用する。これらの特徴を有さないリーダー配列はタンパク質翻訳の効率を軽減しうるため、好ましくは、酵母リーダー配列が酵母宿主細胞における過剰発現遺伝子産物またはシャペロンタンパク質の発現に使用される。多数の酵母リーダー配列の配列が公知であり、Ciganら(Gene 59:1−18(1987))を参照して当業者に利用可能である。
【0084】
得られる発現のレベルに影響を及ぼしうる要因には、プロモーター、リボソーム結合部位および開始コドンの位置に加えて、複製可能な発現ベクターのコピー数が含まれる。ベクターのコピー数は、一般に、該ベクターの複製起点およびそれに関連したいずれかのシス作用性制御要素により決定される。例えば、調節性動原体をコードする酵母エピソームベクターのコピー数の増加は、該動原体に近接して配置されたプロモーターからの転写を誘導することにより達成されうる。更に、酵母ベクターにおける酵母FLP機能のコード化も該ベクターのコピー数を増加させうる。
【0085】
そのような調節要素をコードする核酸分子を合成し又は新たな調節要素を本ベクター内にクローニングし配置することにより、入手可能なベクターからのDNA断片を組合せることにより、前記配列を含む発現ベクターを、当業者は容易に設計し製造することが可能である。発現ベクターの製造方法はよく知られている。過剰発現DNA法は遺伝的操作に関する多数の標準的な実験マニュアルのいずれかに見出される。
【0086】
本発明の発現ベクターは、プロモーターおよび遺伝子発現を制御するために使用される他の配列要素に対して適切な配向で過剰発現または組換えタンパク質コード領域を連結することにより製造されうる。本発現ベクターの構築の後、そのようなベクターを、該過剰発現遺伝子産物および該過剰発現または組換えタンパク質が発現されうる宿主細胞内に形質転換する。酵母および他の下等真核細胞を発現ベクターで形質転換するための方法はよく知られており、当業者に容易に利用可能である。例えば、発現ベクターは、酢酸リチウム、スフェロプラスト、エレクトロポレーションおよび類似方法を含む幾つかの方法のいずれかにより、酵母細胞内に形質転換されうる。
【0087】
酵母複製可能発現ベクターと共に使用されうる酵母宿主細胞には、分泌能を有する酵母の任意の野生型または突然変異株が含まれる。そのような株は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)、シゾサッカロミセ・ポンベ(Schizosaccharomyce pombe)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)および酵母の関連種に由来しうる。一般に、酵母の有用な突然変異株には、選択マーカーをコードする酵母ベクターと共に用いられうる遺伝的欠損を有する株が含まれる。多数のタイプの酵母株がYeast Genetics Stock Center(Donner Laboratory,University of California,Berkeley,Calif.94720)、American Type Culture Collection(12301 Parklawn Drive,Rockville,Md.20852,以下、ATCC)、National Collection of Yeast Cultures(Food Research Institute,Colney Lane,Norwich NR4 7UA,UK)およびCentraalbureau voor Schimmelcultures(Yeast Division,Julianalaan 67a,2628 BC Delft,Netherlands)から入手可能である。
【0088】
一般に、酵母のような下等真核生物は糖タンパク質の発現に有用である。なぜなら、それらは経済的に培養され、高収率を与え、適切に修飾されると適切にグリコシル化されうるからである。酵母は特に、確立された遺伝学的特徴を示し、迅速な形質転換、試験されるタンパク質局在化法、および簡便な遺伝子ノックアウト技術を可能にする。適当なベクターは、所望により、発現制御配列、例えば3−ホスホグリセリン酸キナーゼまたは他の解糖酵素を含むプロモーター、複製起点、終結配列などを有する。
【0089】
種々の酵母、例えばクルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)、ピチア・メタノリカ(Pichia methanolica)およびハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)が細胞培養に有用である。なぜなら、それらは高い細胞密度まで増殖可能であり、大量の組換えタンパク質を分泌しうるからである。同様に、糸状菌、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、フザリウム属種(Fusarium sp.)、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)などが本発明の糖タンパク質を工業的規模で製造するために使用されうる。
【0090】
下等真核生物、特に酵母は、該グリコシル化パターンがヒト様である又はヒト化されている糖タンパク質をそれらが発現するよう、遺伝的に修飾されうる。Gerngrossら,US 20040018590に記載されているとおり、選択された内因性グリコシル化酵素を排除し、および/または外因性酵素を供給することにより、それは達成されうる。例えば、宿主細胞は、糖タンパク質上のN−グリカン上にマンノース残基を付加する1,6−マンノシルトランスフェラーゼ活性が喪失するよう選択され又は操作されうる。
【0091】
1つの実施形態においては、該宿主細胞は更にα1,2−マンノシダーゼ触媒ドメインを含み、これは、該1,2−マンノシダーゼ活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するよう選択された、該触媒ドメインに通常は付随しない細胞標的化シグナルペプチドに融合されている。該宿主細胞のERまたはゴルジ装置を介した組換え糖タンパク質の移動は、ManGlcNAc糖形態を含む組換え糖タンパク質、例えば、主にManGlcNAc糖形態を含む組換え糖タンパク質組成物を与える。例えば、米国特許第7,029,872号ならびに米国公開特許出願第2004/0018590号および第2005/0170452号は、ManGlcNAc糖形態を含む糖タンパク質を産生しうる下等真核宿主細胞を開示している。
【0092】
更なる実施形態においては、直前の宿主細胞は更にGlcNAcトランスフェラーゼI(GnT I)触媒ドメインを含み、これは、該GlcNAcトランスフェラーゼI活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するよう選択された、該触媒ドメインに通常は付随しない細胞標的化シグナルペプチドに融合されている。該宿主細胞のERまたはゴルジ装置を介した該組換え糖タンパク質の移動は、GlcNAcManGlcNAc糖形態を含む組換え糖タンパク質、例えば、主にGlcNAcManGlcNAc糖形態を含む組換え糖タンパク質組成物を与える。米国特許第7,029,872号ならびに米国公開特許出願第2004/0018590号および第2005/0170452号は、GlcNAcManGlcNAc糖形態を含む糖タンパク質を産生しうる下等真核宿主細胞を開示している。前記細胞において産生された糖タンパク質をヘキサミニダーゼでインビトロで処理して、ManGlcNAc糖形態を含む組換え糖タンパク質を得ることが可能である。
【0093】
更なる実施形態においては、直前の宿主細胞は更にマンノシダーゼII触媒ドメインを含み、これは、マンノシダーゼII活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するよう選択された、該触媒ドメインに通常は付随しない細胞標的化シグナルペプチドに融合されている。該宿主細胞のERまたはゴルジ装置を介した該組換え糖タンパク質の移動は、GlcNAcManGlcNAc糖形態を含む組換え糖タンパク質、例えば、主にGlcNAcManGlcNAc糖形態を含む組換え糖タンパク質組成物を与える。米国特許第7,029,872号および米国公開特許出願第2004/0230042号は、マンノシダーゼII酵素を発現し主にGlcNAcManGlcNAc糖形態を有する糖タンパク質を産生しうる下等真核宿主細胞を開示している。前記細胞において産生された糖タンパク質をヘキサミニダーゼでインビトロで処理して、ManGlcNAc糖形態を含む組換え糖タンパク質を得ることが可能である。
【0094】
更なる実施形態においては、直前の宿主細胞は更にGlcNAcトランスフェラーゼII(GnT II)触媒ドメインを含み、これは、該GlcNAcトランスフェラーゼII活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するよう選択された、該触媒ドメインに通常は付随しない細胞標的化シグナルペプチドに融合されている。該宿主細胞のERまたはゴルジ装置を介した該組換え糖タンパク質の移動は、GlcNAcManGlcNAc糖形態を含む組換え糖タンパク質、例えば、主にGlcNAcManGlcNAc糖形態を含む組換え糖タンパク質組成物を与える。米国特許第7,029,872号ならびに米国公開特許出願第2004/0018590号および第2005/0170452号は、GlcNAcManGlcNAc糖形態を含む糖タンパク質を産生しうる下等真核宿主細胞を開示している。前記細胞において産生された糖タンパク質をヘキサミニダーゼでインビトロで処理して、ManGlcNAc糖形態を含む組換え糖タンパク質を得ることが可能である。
【0095】
更なる実施形態においては、直前の宿主細胞は更にガラクトシルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含み、これは、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するよう選択された、該触媒ドメインに通常は付随しない細胞標的化シグナルペプチドに融合されている。該宿主細胞のERまたはゴルジ装置を介した該組換え糖タンパク質の移動は、GalGlcNAcManGlcNAcまたはGalGlcNAcManGlcNAc糖形態またはそれらの混合物を含む組換え糖タンパク質、例えば、主にGalGlcNAcManGlcNAc糖形態またはGalGlcNAcManGlcNAc糖形態またはそれらの混合物を含む組換え糖タンパク質組成物を与える。米国特許第7,029,872号および米国公開特許出願第2006/0040353号は、GalGlcNAcManGlcNAc糖形態を含む糖タンパク質を産生しうる下等真核宿主細胞を開示している。前記細胞において産生された糖タンパク質をガラクトシダーゼでインビトロで処理して、GlcNAcManGlcNAc糖形態を含む組換え糖タンパク質、例えば、主にGlcNAcManGlcNAc糖形態を含む組換え糖タンパク質組成物を得ることが可能である。
【0096】
更なる実施形態においては、直前の宿主細胞は更にシアリルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含み、これは、シアリルトランスフェラーゼ活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するよう選択された、該触媒ドメインに通常は付随しない細胞標的化シグナルペプチドに融合されている。該宿主細胞のERまたはゴルジ装置を介した該組換え糖タンパク質の移動は、主にNANAGalGlcNAcManGlcNAc糖形態またはNANAGalGlcNAcManGlcNAc糖形態またはそれらの混合物を含む組換え糖タンパク質を与える。酵母および糸状菌のような下等真核宿主細胞の場合、該宿主細胞が更に、N−グリカンへの転移のためのCMP−シアル酸を供給する手段を含むことが有用である。米国公開特許出願第2005/0260729号は、CMP−シアル酸合成経路を有するよう下等真核生物を遺伝的に操作するための方法を開示しており、米国公開特許出願第2006/0286637号は、シアル酸化糖タンパク質を産生するよう下等真核生物を遺伝的に操作するための方法を開示している。前記細胞において産生された糖タンパク質をニューロミニダーゼでインビトロで処理して、主にGalGlcNAcManGlcNAc糖形態またはGalGlcNAcManGlcNAc糖形態またはそれらの混合物を含む組換え糖タンパク質を得ることが可能である。
【0097】
前宿主細胞はいずれも、例えば米国公開特許出願第2004/074458および第2007/0037248号に開示されているような二分枝(bisected)(GnT III)および/または多アンテナ(multiantennary)(GnT IV、V、VIおよびIX)N−グリカン構造を有する糖タンパク質を産生させるために、GnT III、GnT IV、GnT V、GnT VIおよびGnT IXよりなる群から選択される1以上のGlcNAcトランスフェラーゼを更に含みうる。
【0098】
更なる実施形態においては、主にGlcNAcManGlcNAc N−グリカンを有する糖タンパク質を産生する宿主細胞は更にガラクトシルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含み、これは、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するよう選択された、該触媒ドメインに通常は付随しない細胞標的化シグナルペプチドに融合されている。該宿主細胞のERまたはゴルジ装置を介した該組換え糖タンパク質の移動は、主にGalGlcNAcManGlcNAc糖形態を含む組換え糖タンパク質を与える。
【0099】
更なる実施形態においては、主にGalGlcNAcManGlcNAc N−グリカンを有する糖タンパク質を産生する直前の宿主細胞は更にシアリルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含み、これは、シアリルトランスフェラーゼ活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するよう選択された、該触媒ドメインに通常は付随しない細胞標的化シグナルペプチドに融合されている。該宿主細胞のERまたはゴルジ装置を介した該組換え糖タンパク質の移動は、NANAGalGlcNAcManGlcNAc糖形態を含む組換え糖タンパク質を与える。
【0100】
種々の前宿主細胞は更に、1以上の糖輸送体、例えばUDP−GlcNAc輸送体(例えば、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)およびムス・ムスクルス(Mus musculus)UDP−GlcNAc輸送体)、UDP−ガラクトース輸送体(例えば、ドロソフィラ・メラノガスター(Drosophila melanogaster)UDP−ガラクトース輸送体)およびCMP−シアル酸輸送体(例えば、ヒトシアル酸輸送体)を含む。下等真核宿主細胞、例えば酵母および糸状菌は前記輸送体を欠いているため、下等真核宿主細胞、例えば酵母および糸状菌を、前記輸送体を含むよう遺伝的に操作することが好ましい。
【0101】
前記宿主細胞の更なる実施形態においては、該宿主細胞は更に、β−マンノシルトランスフェラーゼ遺伝子(BMT2)を欠失させ又は破壊することにより(米国公開特許出願第2006/0211085号を参照されたい)α−マンノシダーゼ耐性N−グリカンを有する糖タンパク質を排除するよう、およびホスホマンノシルトランスフェラーゼ遺伝子PNO1およびMNN4Bの一方または両方を欠失させ又は破壊することにより(米国特許第7,198,921号および第7,259,007号を参照されたい)ホスホマンノース残基を有する糖タンパク質を排除するよう、遺伝的に操作されている。前記宿主細胞の更なる実施形態においては、該宿主細胞は更に、タンパク質O−マンノシルトランスフェラーゼ(Dol−P−Man:タンパク質(Ser/Thr)マンノシルトランスフェラーゼ遺伝子)(PMT)の1以上を欠失させ又は破壊することにより(米国特許第5,714,377号を参照されたい)糖タンパク質のO−グリコシル化を排除するよう遺伝的に修飾されているか、あるいは公開国際出願第WO2007061631号に開示されているPmt−1、Pmti−2およびPmti−3のようなインヒビターの存在下で増殖され、あるいはそれらの両方に付される。
【0102】
したがって、糖タンパク質を産生するよう遺伝的に修飾された宿主細胞を提供し、ここで、該糖タンパク質上の主要N−グリカンは、ManGlcNAc、ManGlcNAc、ManGlcNAc、ManGlcNAc、GlcNAcManGlcNAc、GalGlcNAcManGlcNAc、NANAGalGlcNAcManGlcNAc、ManGlcNAc、GlcNAc(1−4)ManGlcNAc、Gal(1−4)GlcNAc(1−4)ManGlcNAc、NANA(1−4)Gal(1−4)GlcNAc(1−4)ManGlcNAcを含むが、これらに限定されるものではない。更に、糖タンパク質上に前記N−グリカンの特定の混合物を有する該糖タンパク質を産生する宿主細胞が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1A】図1Aは、本発明を例示するために実施例に記載されている酵母株の系譜を示す。
【図1B】図1Bは、本発明を例示するために実施例に記載されている酵母株の系譜を示す。
【図2A】図2Aは、ヒトPDI1(hPDI)をコードしピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1遺伝子座を標的化するプラスミドベクターpGLY642の構築を例示する。
【図2B】図2Bは、ヒトPDI1(hPDI)をコードしピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1遺伝子座を標的化するプラスミドベクターpGLY642の構築を例示する。
【図3】図3は、ヒトERO1α(hERO1α)をコードしピチア・パストリス(Pichia pastoris)PrB1遺伝子座を標的化するプラスミドベクターpGLY2232の構築を例示する。
【図4】図4は、ヒトGRP94をコードしピチア・パストリス(Pichia pastoris)PEP4遺伝子座を標的化するプラスミドベクターpGLY2233の構築を例示する。
【図5】図5は、トリコデルマ・レーゼイ(T.reesei)α−1,2マンノシダーゼ(TrMNS1)およびマウスα−1,2マンノシダーゼIA(FB53)をコードしピチア・パストリス(Pichia pastoris)PRO遺伝子座を標的化するプラスミドベクターpGLY1896およびpGFI207tの構築を例示する。
【図6】図6は、トリコデルマ・レーゼイ(T.reesei)α−1,2マンノシダーゼ(TrMNS1)をコードしピチア・パストリス(Pichia pastoris)PRO遺伝子座を標的化するプラスミドベクターpGLY1162の構築を例示する。
【図7】図7は、抗DKK1抗体重鎖(GFI710H)および軽鎖(GFI710L)をコードしピチア・パストリス(Pichia pastoris)TRP2遺伝子座を標的化しピチア・パストリス(Pichia pastoris)TRP2遺伝子座を標的化するプラスミドベクターpGLY2260およびpGLY2261の地図である。
【図8】図8は、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PMR1をコードしピチア・パストリス(Pichia pastoris)URA6遺伝子座を標的化するプラスミドベクターpGLY3822の地図である。
【図9】図9は、アラビドプシス・サリアナ(Arabidopsis thaliana)ECA1(AtECA1)をコードしピチア・パストリス(Pichia pastoris)URA6遺伝子座を標的化するプラスミドベクターpGLY3827の地図である。
【図10】図10は、ヒトCRT(hCRT)およびヒトERp57(hERp57)をコードしピチア・パストリス(Pichia pastoris)HIS3遺伝子座を標的化するプラスミドベクターpGLY1234の地図である。
【発明を実施するための形態】
【0104】
以下の実施例においては、種ピチア・パストリス(Pichia pastoris)の宿主細胞において異種ヒトタンパク質を発現させる。これらの実施例は本発明の特定の実施形態に関して本発明を実証するものであり、何ら限定的なものと解釈されるべきではない。本明細書における開示および実施例を読んだ当業者は、記載されている方法および材料に対する多数の変更、修飾および改良が、本発明の実施から逸脱することなく可能である、と認識するであろう。
【実施例1】
【0105】
本実施例は、ManGlcNAc N−グリカンを有する組換えタンパク質を産生する組換えピチア・パストリス(Pichia pastoris)の構築を示す。
【0106】
発現/組込みプラスミドベクターpGLY642の構築は以下のとおりであり、図2に示されている。該プラスミドベクターは、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1をコードする遺伝子を、ヒトPDIをコードする核酸分子で置換するために、ヒトPDIタンパク質をコードする発現カセットと、該プラスミドベクターをピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1遺伝子座へと標的化する核酸分子とを含む。プライマーhPDI/UPl:5’AGCGCTGACGCCCCCGAGGAGGAGGACCAC 3’(配列番号1)およびhPDI/LP−PacI:5’CCTTAATTAATTACAGTTCATCATGCACAGCTTTCTGATCAT 3’(配列番号2)、PfuターボDNAポリメラーゼ(Stratagene,La Jolla,CA)ならびにヒト肝cDNA(BD Bioscience,San Jose,CA)を使用するPCRにより、ヒトPDI1をコードするcDNAを増幅した。該PCR条件は、95℃で2分間の1サイクル、95℃で20秒間、58℃で30秒間および72℃で1.5分間の25サイクルならびにそれに続く72℃で10分間の1サイクルであった。得られたPCR産物をプラスミドベクターpCR2.1内にクローニングしてプラスミドベクターpGLY618を得た。ヒトPDI1のヌクレオチドおよびアミノ酸配列(それぞれ配列番号19および20)を表9に示す。
【0107】
ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1のヌクレオチドおよびアミノ酸配列(それぞれ配列番号21および22)を表9に示す。ピチア・パストリス(Pichia pastoris)ゲノムDNAからの領域のPCR増幅により、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1 5’および3’領域を含む核酸分子の単離を行った。プライマーPB248:5’ATGAA TTCAG GCCAT ATCGG CCATT GTTTA CTGTG CGCCC ACAGT AG 3’(配列番号3);PB249:5’ATGTT TAAAC GTGAG GATTA CTGGT GATGA AAGAC 3’(配列番号4)を使用して、該5’領域を増幅した。プライマーPB250:5’AGACT AGTCT ATTTG GAGAC ATTGA CGGAT CCAC 3’(配列番号5);PB251:5’ATCTC GAGAG GCCAT GCAGG CCAAC CACAA GATGA ATCAA ATTTT G−3’(配列番号6)を使用して、該3’領域を増幅した。ピチア・パストリス(Pichia pastoris)株NRRL−Y11430ゲノムDNAをPCR増幅に使用した。該PCR条件は、95℃で2分間の1サイクル、95℃で30秒間、55℃で30秒間および72℃で2.5分間の25サイクルならびにそれに続く72℃で10分間の1サイクルであった。得られたPCR断片PpPDI1(5’)およびPpPDI1(3’)を別々にプラスミドベクターpCR2.1内にクローニングして、それぞれプラスミドベクターpGLY620およびpGLY617を得た。pGLY678を構築するために、組込みプラスミドベクターpGLY24のDNA断片PpARG3−5’およびPpARG−3’[これは、該プラスミドベクターをピチア・パストリス(Pichia pastoris)ARG3遺伝子座に標的化する]を、プラスミドベクターpGLY678をPDI1遺伝子座に標的化しPDI1遺伝子座の発現を破壊するそれぞれDNA断片PpPDI(5’)およびPpPDI(3’)で置換した。
【0108】
ついで、ヒトPDIをコードする核酸分子をプラスミドベクターpGLY678内にクローニングして、ヒトPDIをコードする核酸分子がピチア・パストリス(Pichia pastoris)GAPDHプロモーター(PpGAPDH)の制御下に配置されているプラスミドベクターpGLY642を得た。5’末端のNotI制限酵素部位および平滑3’末端を有するサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)アルファ接合因子プレ−シグナルペプチド(ScαMFプレ−シグナルペプチド(配列番号18))をコードする核酸分子(配列番号7)と、AfeIおよびPacIでプラスミドベクターpGLY618から遊離されたヒトPDIをコードする核酸分子を含む発現カセットとを、平滑5’末端および3’末端のPacI部位を有する核酸分子を得るためにNotIおよびPacIで消化されたプラスミドベクターpGLY678内に連結することにより、発現/組込みプラスミドベクターpGLY642を構築した。得られた組込み/発現プラスミドベクターpGLY642は、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)プロモーターと、PDI1遺伝子座の破壊およびPDI1遺伝子座内への該発現カセットの組込みのために該プラスミドをピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1遺伝子座に標的化するための核酸分子配列とに機能的に連結された、ヒトPDI1/ScαMFプレ−シグナルペプチド融合タンパク質をコードする発現カセットを含む。図2はプラスミドベクターpGLY642の構築を例示する。ScαMFプレ−シグナルペプチドのヌクレオチドおよびアミノ酸配列をそれぞれ配列番号17および18に示す。
【0109】
ヒトERO1αタンパク質をコードする発現/組込みベクターpGLY2232の構築は以下のとおりであり、図3に示されている。ヒトERO1αタンパク質をコードする核酸分子がGene Art AG(Regensburg,Germany)により合成され、それを使用してプラスミドベクターpGLY2224を構築した。ヒトERO1αタンパク質のヌクレオチドおよびアミノ酸配列(それぞれ配列番号23および24)を表9に示す。ヒトERO1αタンパク質をコードする核酸分子を、制限酵素AfeIおよびFseIを使用して該プラスミドベクターから遊離させ、ついで、前記のとおり5’NotIおよび3’平滑末端を有するScαMPプレ−シグナルペプチドをコードする核酸分子と共に、NotIおよびFseIで消化されたプラスミドベクターpGLY2228内に連結した。プラスミドベクターpGLY2228はまた、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PRB1遺伝子の5’および3’領域(それぞれPpPRB1−5’およびPpPRB1−3’領域)を含む核酸分子を含んでいた。得られたプラスミドベクターpGLY2230をBglIIおよびNotIで消化し、ついで、BglIIおよびNotIで消化されたプラスミドベクターpGLY2187から得たピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1プロモーター(PpPDIプロモーター)を含有する核酸分子に連結した。PpPDIプロモーターのヌクレオチド配列は5’−AACACGAACACTGTAAATAGAATAAAAGAAAACTTGGATAGTAGAACTTCAATGTAGTGTTTCTATTGTCTTACGCGGCTCTTTAGATTGCAATCCCCAGAATGGAATCGTCCATCTTTCTCAACCCACTCAAAGATAATCTACCAGACATACCTACGCCCTCCATCCCAGCACCACGTCGCGATCACCCCTAAAACTTCAATAATTGAACACGTACTGATTTCCAAACCTTCTTCTTCTTCCTATCTATAAGA−3’(配列番号31)である。得られたプラスミドベクターpGLY2232は、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1プロモーター制御下にヒトERO1α融合タンパク質をコードする発現カセットを含有する発現/組込みベクターであり、PRB1遺伝子座の破壊およびPRB1遺伝子座内への該発現カセットの組込みのためにゲノムのPRB1遺伝子座に該プラスミドベクターを標的化するためのピチア・パストリス(Pichia pastoris)PRB1遺伝子の5’および3’領域を含む。図3はプラスミドベクターpGLY2232の構築を例示する。
【0110】
ヒトGRP94タンパク質をコードする発現/組込みベクターpGLY2233の構築は以下のとおりであり、図4に示されている。プライマーhGRP94/UP1:5’−AGCGC TGACG ATGAA GTTGA TGTGG ATGGT ACAGT AG−3’(配列番号15)およびhGRP94/LP1:5’−GGCCG GCCTT ACAAT TCATC ATGTT CAGCT GTAGA TTC 3’(配列番号16)でヒト肝cDNA(BD Bioscience)からヒトGRP94をPCR増幅した。該PCR条件は、95℃で2分間の1サイクル、95℃で20秒間、55℃で20秒間および72℃で2.5分間の25サイクルならびにそれに続く72℃で10分間の1サイクルであった。該PCR産物をプラスミドベクターpCR2.1内にクローニングしてプラスミドベクターpGLY2216を得た。ヒトGRP94のヌクレオチドおよびアミノ酸配列(それぞれ配列番号25および26)を表9に示す。
【0111】
ヒトGRP94をコードする核酸分子をプラスミドベクターpGLY2216からAfeIおよびFseIで遊離させた。ついで該核酸分子を、前記のとおりNotIおよび平滑末端を有するScαMPプレ−シグナルペプチドをコードする核酸分子、ならびにピチア・パストリス(Pichia pastoris)PEP4 5’および3’領域(それぞれPpPEP4−5’およびPpPEP4−3’領域)を含む核酸分子を含有するNotIおよびFseIで消化されたプラスミドベクターpGLY2231に連結して、プラスミドベクターpGLY2229を得た。プラスミドベクターpGLY2229をBglIIおよびNotIで消化し、PpPDI1プロモーターを含有するDNA断片をBglIIおよびNotIでプラスミドベクターpGLY2187から取り出し、該DNA断片をpGLY2229内に連結して、プラスミドベクターpGLY2233を得た。プラスミドベクターpGLY2233はピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDIプロモーターの制御下にヒトGRP94融合タンパク質をコードしており、PEP4遺伝子座の破壊および発現カセットの組込みのために該プラスミドベクターをゲノムのPEP4遺伝子座に標的化するためのピチア・パストリス(Pichia pastoris)PEP4遺伝子の5’および3’領域を含む。図4はプラスミドベクターpGLY2233の構築を例示する。
【0112】
プラスミドベクターpGLY1162、pGLY1896およびpGFI207tの構築は以下のとおりであった。全てのトリコデルマ・レーゼイ(Trichoderma reesei)α−1,2−マンノシダーゼ発現プラスミドベクターをpGFI165から誘導した。これは、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)αMATプレシグナルペプチドに融合されたトリコデルマ・レーゼイ(T.reesei)α−1,2−マンノシダーゼ触媒ドメイン(公開国際出願第WO2007061631号を参照されたい)をコードしており、この場合、発現はピチア・パストリス(Pichia pastoris)GAPプロモーターの制御下にあり、該プラスミドベクターの組込みはピチア・パストリス(Pichia pastoris)PRO1遺伝子座に標的化され、選択は、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)URA5遺伝子を用いるものである。プラスミドベクターpGFI165の地図を図5に示す。
【0113】
pGFI165におけるGAPプロモーターをピチア・パストリス(Pichia pastoris)AOX1(PpAOX1)プロモーターで置換することにより、プラスミドベクターpGLY1162を作製した。これは、pGLY2028からのEcoRI(平滑化される)−BglII断片としてPpAOX1プロモーターを単離し、NotI(平滑化される)およびBglIIで消化されたpGFI165内に挿入することにより達成された。該プラスミドベクターの組込みはピチア・パストリス(Pichia pastoris)PRO1遺伝子座に対するものであり、選択は、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)URA5遺伝子を用いるものである。プラスミドベクターpGLY1162の地図を図6に示す。
【0114】
プラスミドベクターpGLY1896は、プラスミドベクターpGFI165内に挿入されたサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)MNN2膜挿入リーダーペプチド融合タンパク質(Choiら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:5022(2003)を参照されたい)に融合したマウスα−1,2−マンノシダーゼ触媒ドメインをコードする発現カセットを含有する(図5)。これは、XhoIで消化され(そして平滑末端化され)PmeIで消化されたpGLY1433からGAPp−ScMNN2−マウスMNSI発現カセットを単離し、PmeIで消化されたpGFI165内に該断片を挿入することにより達成された。該プラスミドベクターの組込みはピチア・パストリス(Pichia pastoris)PRO1遺伝子座に対するものであり、選択は、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)URA5遺伝子を用いるものである。プラスミドベクターpGLY1896の地図を図5に示す。
【0115】
亜ヒ酸塩に対する耐性を付与するサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ARR3(ScARR3)遺伝子でURA5選択マーカーが置換されたこと以外は、プラスミドベクターpGFI207tはpGLY1896に類似している。これは、AscI(平滑末端化される)およびBglIIで消化されたpGFI166からScARR3遺伝子を単離し、SpeI(平滑末端される)およびBglIIで消化されたpGLY1896内に該断片を挿入することにより達成された。該プラスミドベクターの組込みはピチア・パストリス(Pichia pastoris)PRO1遺伝子座に対するものであり、選択は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)ARR3遺伝子を用いるものである。プラスミドベクターpGFI207tの地図を図5に示す。
【0116】
抗DKK1抗体発現/組込みプラスミドベクターpGLY2260およびpGLY2261(図7)の構築は以下のとおりであった。抗DKK1抗体は、Wntシグナリング経路に関与するリガンドであるディッコフ(Dickkopf)タンパク質1を認識する抗体である。抗DKK1抗体をコードする発現/組込みプラスミドベクターpGLY2260およびpGLY2261を作製するために、α−アミラーゼ(アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来)シグナルペプチドをコードする核酸分子に対してそれぞれがインフレームである重鎖(HC;VH+IgGm4を含有する融合タンパク質)および軽鎖(LC;VL+Lλ定常領域を含有する融合タンパク質)融合タンパク質をコードするコドン最適化核酸分子がGeneArt AGにより合成された。α−アミラーゼシグナルペプチドのヌクレオチドおよびアミノ酸配列を配列番号48および49に示す。HCのヌクレオチド配列を配列番号27に示し、アミノ酸配列を配列番号28に示す。LCのヌクレオチド配列を配列番号29に示し、アミノ酸配列を配列番号30に示す。IgGm4イソタイプは米国公開出願第2007/0148167号および米国公開出願第2006/0228349号に開示されている。ユニーク5’−EcoRIおよび3’−FseI部位を用いて、HCおよびLC融合タンパク質をコードする核酸分子を別々に発現プラスミドベクターpGLY1508内にクローニングして、それぞれプラスミドベクターpGLY1278およびpGLY1274を得た。これらのプラスミドベクターは、HCおよびLC融合タンパク質をコードする核酸分子に機能的に連結されたゼオシン耐性マーカーおよびTRP2組込み部位およびピチア・パストリス(Pichia pastoris)AOX1プロモーターを含有していた。該LC融合タンパク質発現カセットをBglIIおよびBamHIでpGLY1274から取り出し、BglIIで消化されたpGLY1278内にクローニングして、プラスミドベクターpGLY2260を得た。これは該HCおよびLC融合タンパク質をコードしており、TRP2遺伝子座内への該発現カセットの組込みのために該発現カセットをTRP2遺伝子座に標的化する。プラスミドベクターpGLY2261はプラスミドベクターpGLY2260内に追加的なLCを含有する(図7)。
【0117】
前記発現/組込みベクターでの酵母形質転換は以下のとおりであった。ピチア・パストリス(Pichia pastoris)株を、約0.2〜6のODまで、50mL YPD培地(酵母エキス(1%)、ペプトン(2%)、デキストロース(2%))内で一晩増殖させた。氷上で30分間のインキュベーションの後、2500〜3000rpmで5分間の遠心分離により細胞をペレット化した。培地を除去し、該細胞を氷冷無菌1M ソルビトールで3回洗浄した後、0.5mlの氷冷無菌1M ソルビトールに再懸濁させた。10μLの線状化DNA(5〜20μg)および100μLの細胞懸濁液をエレクトロポレーションキュベット内で一緒にし、氷上で5分間インキュベートした。予め設定されたピチア・パストリス(Pichia pastoris)プロトコール(2kV、25μF、200Ω)に従い、Bio−Rad GenePulser Xセル内でエレクトロポレーションを行い、その直後に、1mLのYPDS回収培地(YPD培地+1M ソルビトール)を加えた。該形質転換細胞を室温(24℃)で4時間〜一晩にわたって回収した後、該細胞を選択培地上にプレーティングした。
【0118】
細胞系の作製は以下のとおりであり、図1Aおよび1Bに示されている。既に記載されている方法(例えば、NettおよびGerngross,Yeast 20:1279(2003);Choiら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:5022(2003);Hamiltonら,Science 301:1244(2003)を参照されたい)を用いて、株yGLY24−1(ura5Δ::MET1 och1Δ::lacZ bmt2Δ::lacZ/KlMNN2−2/mnn4L1Δ::lacZ/MmSLC35A3 pno1Δmnn4Δ::lacZ met16Δ::lacZ)を構築した。BMT2遺伝子はMilleら,J.Biol.Chem.283:9724−9736(2008)および米国公開出願第20060211085号に開示されている。PNO1遺伝子は米国特許第7,198,921号に開示されており、mnn4L1遺伝子(mnn4bとも称される)は米国特許第7,259,007号に開示されている。mnn4はmnn4L2またはmnn4aを意味する。遺伝子型においては、KlMNN2−2はクルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)GlcNAc輸送体であり、MmSLC35A3はムス・ムスクルス(Mus musculus)GlcNAc輸送体である。URA5の欠失はyGLY24−1株をウラシルに関して栄養要求性にし(米国公開出願第2004/0229036号を参照されたい)、これを使用して、以下のヒト化シャペロン株を構築した。種々の発現カセットが本明細書の実施例におけるピチア・パストリス(Pichia pastoris)ゲノムの特定の遺伝子座内に組込まれたが、本発明の実施は、組込みに用いられる遺伝子座には無関係であると理解される。本明細書に開示されているもの以外の遺伝子座が該発現カセットの組込みに用いられうる。適当な組込み部位には、米国公開出願第20070072262号に列挙されているものが含まれ、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)および他の酵母または真菌に関して公知の遺伝子座に対するホモログが含まれる。
【0119】
対照株yGLY645(PpPDI1)を構築した。株yGLY645はトリコデルマ・レーゼイ(Trichoderma reesei)マンノシダーゼ1(TrMNS1)およびマウスマンノシダーゼ1A(MuMNS1A)を発現し、それぞれはPpGAPDHプロモーターの制御下で構成的に発現され、天然ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1遺伝子座は無傷である。該プラスミドベクターをピチア(Pichia)プロリン1(PRO1)遺伝子座に標的化するプラスミドベクターpGLY1896でyGLY24−1を形質転換することにより、株yGLY24−1から株yGLY645を作製した。プラスミドベクターpGLY1896は、トリコデルマ・レーゼイ(Trichoderma reesei)マンノシダーゼ1(TrMNS1)およびマウスマンノシダーゼ1A(FB53、MuMNS1A)(それぞれ、PpGAPDHプロモーターの制御下で構成的に発現される)をコードする発現カセットを含有する。
【0120】
内因性ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1遺伝子の非存在下でピチア・パストリス(Pichia pastoris)細胞から発現されたヒトPDIの有効性を試験するために、株yGLY702およびyGLY704を作製した。株yGLY702およびyGLY704(hPDI)は以下のとおりに構築した。構成的PpGAPDHプロモーターの制御下でヒトPDIをコードする発現カセットを含有するプラスミドベクターpGLY642でyGLY24−1を形質転換することにより、株yGLY702を作製した。プラスミドベクターpGLY642は、株yGLY702をウラシルに関して原栄養性にするピチア・パストリス(Pichia pastoris)URA5をコードする発現カセットをも含有していた。5−FOAプレート上でpGLY702を対抗選択することにより、URA5発現カセットを取り出して、株yGLY704を得た。該株においては、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1遺伝子がヒトPDI遺伝子で安定に置換されており、該株はウラシルに関して栄養要求性である。
【0121】
プラスミドベクターpGLY642を使用するヒトPDIでのピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1の置換は、PpPDI1 ORFのみに特異的な以下のプライマーを使用するコロニーPCRにより確認された:PpPDI/UPi−1,5’−GGTGA GGTTG AGGTC CCAAG TGACT ATCAA GGTC−3’;(配列番号7);PpPDI/LPi−1,5’−GACCT TGATA GTCAC TTGGG ACCTC AACCT CACC−3’;(配列番号8);PpPDI/UPi−2,5’CGCCA ATGAT GAGGA TGCCT CTTCA AAGGT TGTG−3’;(配列番号9);およびPpPDI/LPi−2,5’−CACAA CCTTT GAAGA GGCAT CCTCA TCATT GGCG−3’;(配列番号10)。したがって、PCR産物の非存在はPpPDI1のノックアウトを示す。該PCR条件は、95℃で2分間の1サイクル、95℃で20秒間、58℃で20秒間および72℃で1分間の25サイクルならびにそれに続く72℃で10分間の1サイクルであった。
【0122】
PCRプライマー:PpPDI−5’/UP,5’−GGCGA TTGCA TTCGC GACTG TATC−3’;(配列番号11);およびhPDI−37LP 5’−CCTAG AGAGC GGTGG CCAAG ATG−3’;(配列番号12)を使用して、PpPDI1遺伝子座におけるpGLY642の二重交差を確認するために、追加的なPCRを用いた。PpPDI−5’/UPは、pGY642のPpPDI1(5’)には存在しないPpPDI1の上流領域をプライマー化し、hPDI−3’/LPはpGLY642におけるヒトPDI ORFをプライマー化する。該PCR条件は、95℃で2分間の1サイクル、95℃で20秒間、50℃で30秒間および72℃で2.5分間の25サイクルならびにそれに続く72℃で10分間の1サイクルであった。
【0123】
ノックアウト(すなわち、二重交差事象)としての又は「ロール・イン(roll−in)」(すなわち、ゲノム内への該プラスミドベクターの単一組込み)としてのプラスミドベクターの組込み効率は、ベクターと宿主染色体DNA上の対応遺伝子との間の相同領域の数および長さ、選択マーカー、関心のある遺伝子の役割ならびに内因性機能を相補するノック・イン遺伝子の能力を含む幾つかの要因に左右されうる。幾つかの場合には、pGLY642は二重交差として組込まれてヒトPpPDIでの内因性PpPDI遺伝子の置換をもたらし、他の場合には、pGLY642プラスミドベクターは単一組込みとして組込まれて内因性PpPDI1遺伝子とヒトPpPDI遺伝子との両方の存在をもたらすことを、本発明者らは見出した。これらの事象を識別するために、本発明者らは、本明細書に記載されている配列番号11〜14のPCRプライマーを利用した。pGLY642プラスミドベクターの組込みの後にPpPDI遺伝子が保有されている場合には、内部PpPDIコード配列に向けられたPpPDI−5’/UPおよびhPDI−3’/LPは増幅産物および対応バンドを与えるであろう。ノックアウトまたは二重交差の場合には、これらのプライマーはいずれの増幅産物も与えず、対応バンドは視認されないであろう。
【0124】
以下のプライマーでpGLY642のロール・インが確認された:PpPDI/UPi−1(配列番号7)およびPpPDI/LPi−1(配列番号8)(PpPDI1をコードする)、ならびにhPDI/UP,5’−GTGGC CACAC CAGGG GGCAT GGAAC−3’;(配列番号13);およびhPDI−3’/LP,5’−CCTAG AGAGC GGTGG CCAAG ATG−3’;(配列番号14)(ヒトPDIをコードする)。該PCR条件は、PpPDI1に関しては95℃で2分間の1サイクル、95℃で20秒間、58℃で20秒間および72℃で1分間の25サイクルならびにそれに続く72℃で10分間の1サイクル、そしてヒトPDIに関しては95℃で2分間の1サイクル、95℃で20秒間、50℃で30秒間および72℃で2.5分間の25サイクルならびにそれに続く72℃で10分間の1サイクルであった。
【0125】
ピチア・パストリス(Pichia pastoris)AOX1プロモーター(PpAOX1−TrMNS1)に機能的に連結されたトリコデルマ・レーゼイ(Trichoderma reesei)マンノシダーゼ(TrMNS1)をコードする発現カセットを含むプラスミドベクターpGLY1162をyGLY704のPRO1遺伝子座内に形質転換することにより、株yGLY733を作製した。この株においては、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1をコードする遺伝子が、ヒトPDIをコードする発現カセットで置換されており、PpAOX1−TrMNS1発現カセットがPRO1遺伝子座内に組込まれており、この株はURA5原栄養性である。該細胞をメタノールの存在下で増殖させると、PpAOX1プロモーターは過剰発現を可能にする。
【0126】
プラスミドベクターpGFI207tにおけるピチア・パストリス(Pichia pastoris)GAPDHプロモーターにそれぞれが機能的に連結されているTrMNS1およびマウスマンノシダーゼ1A(MuMNS1A)をコードする発現カセットをピチア・パストリス(Pichia pastoris)ゲノム内の5’PRO1遺伝子座UTRにおいて株yGLY733内に組込むことにより、株yGLY762を構築した。この株においては、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1をコードする遺伝子が、ヒトPDIをコードする発現カセットで置換されており、PpGAPDH−TrMNS1およびPpGAPDH−MuMNS1A発現カセットがPRO1遺伝子座内に組込まれており、この株はURA5原栄養性である。
【0127】
抗DKK1抗体をコードする発現カセットをTRP2遺伝子座に標的化する組込み/発現プラスミドpGLY2260で株yGLY645を形質転換することにより、株yGLY2263を作製した。
【0128】
5−FOAプレート上でyGLY733を対抗選択することにより、株yGLY2674を作製した。この株においては、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1をコードする遺伝子が、ヒトPDIをコードする発現カセットで置換されており、PpAOX1−TrMNS1発現カセットがPRO1遺伝子座内に組込まれており、この株はURA5栄養要求性である。
【0129】
5−FOAプレート上でyGLY762を対抗選択することにより、株yGLY2677を作製した。この株においては、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1をコードする遺伝子が、ヒトPDIをコードする発現カセットで置換されており、PpAOX1−TrMNS1発現カセットがPRO1遺伝子座内に組込まれており、PpGAPH−TrMNS1およびPpGAPDH−MuMNS1A発現カセットがPRO1遺伝子座内に組込まれており、この株はURA5栄養要求性である。
【0130】
ヒトERO1αタンパク質をコードするプラスミドベクターpGLY2232をPRB1遺伝子座内に組込むことにより、株yGLY2690を作製した。この株においては、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1をコードする遺伝子が、ヒトPDIをコードする発現カセットで置換されており、PpAOX1−TrMNS1発現カセットがPRO1遺伝子座内に組込まれており、ヒトERO1α発現カセットがPRB1遺伝子座内に組込まれており、この株はURA5原栄養性である。
【0131】
ヒトGRP94タンパク質をコードするプラスミドベクターpGLY2233をPEP4遺伝子座内に組込むことにより、株yGLY2696を作製した。この株においては、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1をコードする遺伝子が、ヒトPDIをコードする発現カセットで置換されており、PpAOX1−TrMNS1発現カセットがPRO1遺伝子座内に組込まれており、PpGAPDH−TrMNS1およびPpGAPDH−MuMNS1A発現カセットがPRO1遺伝子座内に組込まれており、ヒトGRP94がPEP4遺伝子座内に組込まれており、この株はURA5原栄養性である。
【0132】
抗DKK1抗体をコードする発現カセットをTRP2遺伝子座に標的化する組込み/発現プラスミドpGLY2261で株yGLY2696を形質転換することにより、株yGLY3628を作製した。
【0133】
抗DKK1抗体をコードする発現カセットをTRP2遺伝子座に標的化する組込み/発現プラスミドpGLY2261で株yGLY2690を形質転換することにより、株yGLY3647を作製した。
【0134】
表1は、主にManGlcNAc N−グリカンを有する糖タンパク質を産生するよう遺伝的に操作された酵母において、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1をコードする遺伝子を、ヒトPDIをコードする発現カセットで置換することが、O−グリコシル化占有度の減少およびN−グリコシル化の増加をもたらすことを示している。
【0135】
【表1】

【実施例2】
【0136】
抗体産生のための該形質転換株の細胞増殖条件は一般には以下のとおりであった。
【0137】
該形質転換酵母株に関するタンパク質発現を、1% 酵母エキス、2% ペプトン、100mM リン酸カリウムバッファー(pH6.0)、1.34% 酵母窒素塩基、4×10−5% ビオチンおよび1% グリセロールよりなる緩衝化グリセロール−複合培地(BMGY)を使用して振とうフラスコにおいて24℃で行った。タンパク質発現のための誘導培地は、BMGYにおけるグリセロールの代わりに1% メタノールよりなる緩衝化メタノール−複合培地(BMMY)であった。該誘導培地を加えた時点で、メタノール中のPmtインヒビターPmti−3を18.3μMの最終濃度まで該増殖培地に加えた。細胞を回収し、2,000rpmで5分間遠心分離した。
【0138】
SixFors発酵槽スクリーニング法は、表2に示すパラメータに従った。
【0139】
【表2】

【0140】
接種後約18時間の時点で、350mLの培地A(後記表6を参照されたい)+4% グリセロールを含有するSixFors容器に、関心のある株を接種した。少量(100% メタノール中の0.2mg/mLの0.3mL)のPmti−3(5−[[3−(1−フェニル−2−ヒドロキシ)エトキシ)−4−(2−フェニルエトキシ)]フェニル]メチレン]−4−オキソ−2−チオキソ−3−チアゾリジン酢酸)(公開国際出願第WO2007061631号を参照されたい)を接種物と共に加えた。約20時間の時点で、17mLの50% グリセロール溶液(グリセロール・フェッドバッチ供給;後記表7を参照されたい)+より大量(4mg/mLの0.3mL)のPmti−3のボーラスを容器ごとに加えた。溶存酸素(DO)濃度における正のスパイクにより示される、該グリセロールが消費された約26時間の時点で、メタノール供給(後記表6を参照されたい)を0.7mL/時間で連続的に開始した。同時に、別用量のPmti−3(4mg/mL ストックの0.3mL)を容器ごとに加えた。約48時間の時点で、別用量(4mg/mLの0.3mL)のPmti−3を容器ごとに加えた。接種後約60時間の時点で培養を回収し、加工した。
【0141】
【表3】

【0142】
【表4】

【0143】
【表5】

【0144】
【表6】

【0145】
以下のとおりにDionex−HPLC(HPAEC−PAD)を使用してO−グリカンの測定を行った。O−グリコシル化の軽減を測定するために、プロテインAクロマトグラフィー(Liら,Nat.Biotechnol.24(2):210−5(2006))を用いて、該増殖培地からタンパク質を精製し、アルカリ除去(ベータ脱離)(Harvey,Mass Spectrometry Reviews 18:349−451(1999))により該O−グリカンをタンパク質から遊離させ分離した。この方法はまた、遊離したO−グリカン(オリゴマンノースまたはマンノース)の新たに生じた還元末端をマンニトールへと還元する。したがって、該マンニトール基は各O−グリカンの特有の指標として働く。100μLの容量のPBSバッファー中に含有されている0.5nmolまたはそれ以上のタンパク質がベータ脱離に必要であった。該サンプルを25μLのアルカリ性ボロヒドリド試薬で処理し、50℃で16時間インキュベートした。約20μLのアラビトール内部標準を加え、ついで10μLの氷酢酸を加えた。ついで該サンプルを、SEPABEADSおよびAG 50W−X8樹脂を含有するMilliporeフィルターを介して遠心分離し、水で洗浄した。洗液を含む該サンプルをプラスチックオートサンプラーバイアルに移し、遠心エバポレーター内で蒸発乾固させた。150μLの1% AcOH/MeOHを該サンプルに加え、該サンプルを遠心エバポレーター内で蒸発乾固させた。この最終工程を更に5回繰返した。200μLの水を加え、100μLの該サンプルを、脈動電気化学的検出−Dionex HPLCと組合された高pHアニオン交換クロマトグラフィー(HPAEC−PAD)により分析した。回収されたマンニトールの量に基づき、平均O−グリカン占有度を決定した。
【実施例3】
【0146】
本実施例は、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1の代わりにヒトPDIを発現する前記株において産生されたタンパク質におけるO−グリカンの占有度が、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)ゴルジCa2+ ATPアーゼ(PpPMR1)またはアラビドプシス・サリアナ(Arabidopsis thaliana)ER Ca2+ ATPアーゼ(AtECA1)が該株において過剰発現された場合、有意に減少されうることを実証する。本実施例においては、該効果は、主にManGlcNAc N−グリカンを有する抗体を産生する糖操作されたピチア・パストリス(Pichia pastoris)株を使用して例示されている。
【0147】
PpPMR1遺伝子をコードする発現カセットを以下のとおりに構築した。ピチア・パストリス(P.pastoris)ゴルジCa2+ ATPアーゼ(PpPMR1)のオープンリーディングフレームを、プライマー(PpPMR1/UP:5’−GAATTCATGACAGCTAATGAAAATCCTTTTGAGAATGAG−3’(配列番号36)およびPpPMR1/LP:5’−GGCCGGCCTCAAACAGCCATGCTGTATCCATTGTATG−3’(配列番号37))を使用してピチア・パストリス(P.pastoris)NRRL11430ゲノムDNAからPCR増幅した。該PCR条件は、95℃で2分間の1サイクル;95℃で10秒間、52℃で20秒間および72℃で3分間の5サイクル;95℃で10秒間、55℃で20秒間および72℃で3分間の20サイクル;ならびにそれに続く72℃で10分間の1サイクルであった。得られたPCR産物をpCR2.1内にクローニングし、pGLY3811と命名した。PstIおよびFseIでプラスミドを消化することにより(FseIでの消化の前に該PstI末端をT4 DNAポリメラーゼで平滑化した)、pGLY3811からPpPMR1を取り出した。PpPMR1をコードするDNA断片を、EcoRI(該末端をT4 DNAポリメラーゼで平滑化した)およびFseIで消化されたpGFI30t内にクローニングして、PpPMR1がAOX1プロモーターに機能的に連結されているpGLY3822を得た。プラスミドpGLY3822はピチア・パストリス(Pichia pastoris)URA6遺伝子座を標的化する。プラスミドpGLY3822を図8に示す。PpPMR1のDNA配列を配列番号32に記載し、PpPMR1のアミノ酸配列を配列番号33に示す。
【0148】
アラビドプシス・サリアナ(Arabidopsis thaliana)ER Ca2+ ATPアーゼ(AtECA1)をコードする発現カセットを以下のとおりに構築した。AtECA1をコードするDNAをGeneArt AG(Regensburg,Germany)から合成し、クローニングしてpGLY3306を得た。MlyIおよびFseIで消化し、AtECA1をコードするDNA断片を、EcoRI(該末端をT4 DNAポリメラーゼで平滑化した)およびFseIで消化されたpGFI30t内にクローニングすることにより、合成されたAtECA1をpGLY3306から回収して、組込み/発現プラスミドpGLY3827を得た。プラスミドpGLY3827はピチア・パストリス(Pichia pastoris)URA6遺伝子座を標的化する。プラスミドpGLY3827を図9に示す。AtECA1のDNA配列をピチア・パストリス(Pichia pastoris)における発現に関してコドン最適化し、配列番号34に示す。コードされるAtECA1は、配列番号35に記載されているアミノ酸配列を有する。
【0149】
組込み/発現プラスミドpGLY3822(PpPMR1をコードする発現カセットを含有する)またはpGLY3827(AtECA1をコードする発現カセットを含有する)をSpeIで線状化し、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)株yGLY3647またはyGLY3693内にURA6遺伝子座において形質転換した。URA6遺伝子座におけるpGLY3822またはpGLY3827のゲノム組込みは、以下のプライマーを使用するコロニーPCR(cPCR)により確認された:URA6遺伝子座内へのPpPMR1組込みを確認するためには、5’AOXl(5’−GCGACTGGTTCCAATTGACAAGCTT−3’(配列番号38)およびPpPMR1/cLP(5’−GGTTGCTCTCGTCGATACTCAAGTGGGAAG−3’(配列番号39);URA6遺伝子座内へのAtECA1の組込みを確認するためには、5’AOX1およびAtECA1/cLP(5’−GTCGGCTGGAACCTTATCACCAACTCTCAG−3’(配列番号40)。該PCR条件は、95℃で2分間の1サイクル、95℃で10秒間、55℃で20秒間および72℃で1分間の25サイクルならびにそれに続く72℃で10分間の1サイクルであった。
【0150】
PpPMR1をコードしURA6遺伝子座を標的化する組込み/発現プラスミドpGLY3822で株yGLY3647を形質転換することにより、株yGLY8238を作製した。株yGLY3647においては、実施例1に記載され図1Aおよび1Bに示されているとおり、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1シャペロン遺伝子がヒトPDI遺伝子で置換されている。
【0151】
AtECA1をコードしURA6遺伝子座を標的化するプラスミドpGLY3827で株yGLY3647を形質転換することにより、株yGLY8240を作製した。該株の系譜を図1Aおよび1Bに示す。
【0152】
ヒト化シャペロン株へのPpPMR1またはAtECA1の添加が、該株により産生された抗体のO−グリコシル化の軽減に及ぼす効果に関して、該株を評価した。表7に示すとおり、株yGLY3647内へのPpPMR1またはAtECA1の添加は、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PDI1の代わりにヒトPDIを発現する株yGLY3647、または内因性PDI1しか発現しないが株yGLY3647と同様のManGlcNAc糖形態を有する抗体を産生しうる株yGLY2263と比較して、O−グリコシル化占有度における有意な減少を引き起こした。該結果はまた、その内因性PDI1を発現するがヒトPDI1を発現せずCa2+ ATPアーゼを過剰発現する酵母株が、減少したO−グリカン占有度を有する糖タンパク質を産生することを示唆している。
【0153】
【表7】

【実施例4】
【0154】
自身の天然シグナル配列を伴わないヒトカルレチクリン(hCRT)をコードするDNA断片を、以下のプライマーを使用してヒト肝cDNAライブラリー(BD Biosciences,San Jose,CA)からPCR増幅した:hCRT−BstZ17I−HA/UP:5’−GTATACCCATACGACGTCCCAGACTACGCTGAGCCCGCCGTCTACTTCAAGGAGC−3’(配列番号45)およびhCRT−PacI/LP;5’−TTAATTAACTACAGCTCGTCATGGGCCTGGCCGGGGACATCTTCC−3’(配列番号46)。該PCR条件は、98℃で2分間の1サイクル、98℃で10秒間、55℃で30秒間および72℃で2分間の30サイクルならびにそれに続く72℃で10分間の1サイクルであった。得られたPCR産物をpCR2.1 Topoベクター内にクローニングしてpGLY1224を得た。hCRTをコードするDNAは更に、コードされるトランケート化hCRTがそのN末端におけるHAタグおよびそのC末端におけるHDELを有するように修飾を含んでいた。hCRTをコードするDNAをBstZ171およびPacIでの消化によりpGLY1224から遊離させ、該DNA断片を、NotIおよびPacI適合末端を有するサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)アルファ接合因子プレシグナル配列をコードするDNA断片と共に、NotIおよびPacIで消化された発現ベクターpGLY579内にクローニングして、pGLY1230を得た。このプラスミドは、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)GAPDHプロモーターに機能的に連結されておりピチア・パストリス(Pichia pastoris)のHIS3遺伝子座を標的化するサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)アルファ接合因子プレシグナル配列およびN末端におけるHAタグおよびそのC末端におけるHDEL配列と共にhCRTをコードする組込み/発現プラスミドである。
【0155】
NotIおよびPacI適合末端を有する、ヒトERp57(hERp57)をコードするDNA断片がGeneArt AGにより合成された。ついで該DNA断片を、NotIおよびPacIで消化されたpGLY129内にクローニングして、pGLY1231を得た。このプラスミドは、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)PMA1プロモーターに機能的に連結されたhERp57をコードしている。
【0156】
プラスミドpGLY1231をSwaIで消化し、hERp57をコードするDNA断片を、PmeIで消化されたプラスミドpGLY1230内にクローニングした。したがって、組込み/発現プラスミドpGLY1234はhCRTおよびhERp57の両方をコードしている。プラスミドpGLY1234を図10に示す。
【0157】
5’FOAの存在下で株yGLY2690を対抗選択することにより、株yGLY3642を作製した(URA5栄養要求体)。
【0158】
hCRTおよびhERp57をコードしHIS3遺伝子座を標的化する組込み/発現プラスミドpGLY1234でyGLY3642を形質転換することにより、株yGLY3668を作製した。
【0159】
抗DKK1抗体をコードする発現カセットをTRP2遺伝子座に標的化する組込み/発現プラスミドpGLY2261で株yGLY3668を形質転換することにより、株yGLY3693を作製した。
【0160】
PpPMR1をコードしURA6遺伝子座を標的化する組込み/発現プラスミドpGLY3822で株yGLY3693を形質転換することにより、株yGLY8239を作製した。
【0161】
AtECA1をコードしURA6遺伝子座を標的化する組込み/発現プラスミドpGLY3827で株yGLY3693を形質転換することにより、株yGLY8241を作製した。
【0162】
本実施例に記載されている株の系譜を図1Aおよび1Bに示す。
【0163】
前実施例のPpPMR1またはAtECA1を発現するヒト化シャペロン株へのhCRTおよびhERp57の添加が産生抗体のO−グリカン占有度の更なる減少をもたらしうるかどうかを調べるために、前記株を評価した。表8に示すとおり、hCRTおよびhERp57のみを発現する株yGLY3693においては、O−グリカン占有度における約2倍の減少が認められ、これは、PpPMR1またはAtECA1を更に発現する株においては更に4倍まで減少した。該結果はまた、その内因性PDI1を発現しCa2+ ATPアーゼを過剰発現する酵母株が、減少したO−グリカン占有度を有する糖タンパク質を産生することを示唆している。
【0164】
【表8】

【0165】
【表9】


















【0166】
本発明は、例示されている実施形態に関して本明細書に記載されているが、本発明はそれに限定されないと理解されるべきである。通常の技量を有し本明細書中の教示を利用できる当業者は、その範囲内の追加的な修飾および実施形態を認識するであろう。したがって、本発明は、本明細書に添付されている特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの内因性または外因性Ca2+ ATPアーゼをコードする核酸分子を含む下等真核宿主細胞であって、該宿主細胞における該Ca2+ ATPアーゼの発現が異所性である、下等真核宿主細胞。
【請求項2】
該核酸分子が、異種プロモーターに機能的に連結された該Ca2+ ATPアーゼをコードするオープンリーディングフレームを含む、請求項1記載の下等真核宿主細胞。
【請求項3】
該宿主細胞が、組換えタンパク質をコードする核酸分子を更に含む、請求項1記載の下等真核宿主細胞。
【請求項4】
該組換えタンパク質が抗体である、請求項3記載の下等真核宿主細胞。
【請求項5】
シャペロンタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の機能が軽減、破壊または欠失されており、該シャペロンタンパク質の哺乳類ホモログの少なくとも1つをコードする核酸分子が該宿主細胞において発現される、請求項1記載の下等真核宿主細胞。
【請求項6】
該宿主細胞が、ERp57タンパク質をコードする核酸分子および/またはカルレチクリンタンパク質をコードする核酸分子を更に含む、請求項1記載の下等真核宿主細胞。
【請求項7】
軽減したO−グリコシル化を有する組換えタンパク質の製造方法であって、
(a)少なくとも1つの内因性または外因性Ca2+ ATPアーゼをコードする核酸分子を含む下等真核宿主細胞(該宿主細胞における該Ca2+ ATPアーゼの発現は異所性である)を準備し、
(b)該組換えタンパク質をコードする核酸分子を該宿主細胞内に導入し、
(c)該組換えタンパク質の製造に適した条件下、該宿主細胞を増殖させることを含む製造方法。
【請求項8】
該核酸分子が、異種プロモーターに機能的に連結された該Ca2+ ATPアーゼをコードするオープンリーディングフレームを含む、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
該組換えタンパク質が抗体である、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
シャペロンタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の機能が軽減、破壊または欠失されており、該シャペロンタンパク質の哺乳類ホモログの少なくとも1つをコードする核酸分子が該宿主細胞において発現される、請求項7記載の製造方法。
【請求項11】
該宿主細胞が、ERp57タンパク質をコードする核酸分子および/またはカルレチクリンタンパク質をコードする核酸分子を更に含む、請求項7記載の製造方法。
【請求項12】
ERp57タンパク質をコードする核酸分子および/またはカルレチクリンタンパク質をコードする核酸分子を含む下等真核宿主細胞であって、該宿主細胞における該タンパク質の発現が異所性である、下等真核宿主細胞。
【請求項13】
該宿主細胞が、少なくとも1つの内因性または外因性Ca2+ ATPアーゼをコードする核酸分子を更に含み、該宿主細胞における該Ca2+ ATPアーゼの発現が異所性である、請求項12記載の下等真核宿主細胞。
【請求項14】
該宿主細胞が、組換えタンパク質をコードする核酸分子を更に含む、請求項12記載の下等真核宿主細胞。
【請求項15】
該組換えタンパク質が抗体である、請求項14記載の下等真核宿主細胞。
【請求項16】
シャペロンタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の機能が軽減、破壊または欠失されており、該シャペロンタンパク質の哺乳類ホモログの少なくとも1つをコードする核酸分子が該宿主細胞において発現される、請求項12記載の下等真核宿主細胞。
【請求項17】
軽減したO−グリコシル化を有する組換えタンパク質の製造方法であって、
(a)ERp57タンパク質をコードする核酸分子および/またはカルレチクリンタンパク質をコードする核酸分子を含む下等真核宿主細胞(該宿主細胞における該タンパク質の発現は異所性である)を準備し、
(b)該組換えタンパク質をコードする核酸分子を該宿主細胞内に導入し、
(c)該組換えタンパク質の製造に適した条件下、該宿主細胞を増殖させることを含む製造方法。
【請求項18】
該宿主細胞が、少なくとも1つの内因性または外因性Ca2+ ATPアーゼをコードする核酸分子を更に含み、該宿主細胞における該Ca2+ ATPアーゼの発現が異所性である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
該組換えタンパク質が抗体である、請求項17記載の方法。
【請求項20】
シャペロンタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の機能が軽減、破壊または欠失されており、該シャペロンタンパク質の哺乳類ホモログの少なくとも1つをコードする核酸分子が該宿主細胞において発現される、請求項17記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−530311(P2011−530311A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523061(P2011−523061)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【国際出願番号】PCT/US2009/053247
【国際公開番号】WO2010/019487
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(503007287)グライコフィ, インコーポレイテッド (37)
【Fターム(参考)】