説明

タンパク質間の滑り運動を利用するための組成物及びその利用

【課題】生体におけるタンパク質間の滑り運動の外部出力に適した構造体を得るための組成物を提供する。
【解決手段】三次元表面を有する微小キャリアと、前記微小キャリアの表面に一端が固定された1又は2以上の第1のタンパク質と、を有する第1のユニットと、前記第1のタンパク質に対して滑り運動を発現する第2のタンパク質を2以上有する第2のユニットと、を含有する、組成物とする。第1のユニットと、第2のユニットと、を含有することから、一定条件下、これらタンパク質は会合して、第1のユニットが第2にユニットを介して集約した集合体を形成できる。また、本組成物によれば、一定条件下、これらタンパク質間の相互作用としての滑り運動を生じさせることができ、生じた滑り運動により集合体において収縮や膨張等の運動を誘起させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、タンパク質間の滑り運動を利用するための組成物及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
生体筋肉を構成する最小単位は、アクチンとミオシンと呼ばれる巨大タンパク質である。アクチンは自己集合することで巨大な繊維状集合体(アクチンフィラメント)を形成し、ミオシン分子のヘッド部分がATPの加水分解エネルギーを利用してアクチンフィラメントをレールのように滑り運動を行うことによって、応力・歪みを発生させていると考えられている。ミオシンヘッドは、ATP結合時と解離時でその構造が異なり、タンパク質の立体構造変化を滑り運動の駆動源としている。また、アクチンフィラメントとミオシンとがサルコメアを形成し、これが階層的に集合することで筋原繊維を構成している。さらに、、筋原繊維が階層的に集合することで筋繊維を形成し、最終的に筋繊維が階層的に集合することによって生体筋肉を構成している。つまり階層的構造がミオシン1分子の数ナノメートルのわずかな滑り運動を増幅させて、大きな歪みを生みだし筋肉の収縮運動を生じさせている。
【0003】
このようなアクチン−ミオシン相互作用を利用した生体モーターによる運動発現に関していくつかの報告がなされている。例えば、ポリスチレンビーズに結合したアクチンフィラメント上で滑り運動するミオシン分子の動きをミオシンに結合したビーズを用いて可視化した例が報告されている(非特許文献1)。また、バンドル化したミオシンフィラメントからミオシンゲルを作製し、このミオシンゲル上でアクチンフィラメントが滑り運動する状態が報告されている(非特許文献2)。
【0004】
一方、アクチン分子(G−アクチン)を光応答性のアゾ色素を有するアゾポリマーの薄膜表面に向きを揃えて固定し、これを基点としてアクチン分子を重合することで基板上に直鎖状のアクチンフィラメントを取得したことが開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−321719号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biophysical Journal vol.86, June 2004, p3804-3810
【非特許文献2】Advanced Material Vol.14, Issue 16, Augst,2002, p1124-1126
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記非特許文献1、2は、基板上を分子が運動する生体分子モーターによる運動発現に関し、しかも、モータータンパク質の分子レベルでの運動発現・解析が主体であった。また、上記特許文献1は、基板表面、すなわち、二次元平面へのアクチンフィラメントの配向固定に関している。こうした二次元平面への固定では、アクチン−ミオシン間相互作用による運動は、基板上におけるミオシン若しくはアクチンフィラメントの二次元的な運動にとどまる。こうした二次元平面上での分子の運動は、集約することができない。したがって、こうした構造体では、タンパク質を利用した現実的なアクチュエーターとしては機能しえなかった。
【0008】
このように、現状においては、アクチン−ミオシン等のように生体におけるタンパク質間の相互作用に基づいて発現される運動を集約して外部に出力できる人工的な構造体は得られていない。
【0009】
そこで、本明細書の開示は、生体におけるタンパク質間の滑り運動の外部出力に適した構造体を得るための組成物及びその利用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した課題を解決するために、種々検討したところ、球状等の微粒子の三次元表面を利用可能な微小なキャリアに対して滑り運動を発現するための一方のタンパク質を固定し、当該固定したタンパク質を他方のタンパク質と接触させることで、三次元表面を有する微小キャリアを基点としたこれらタンパク質の集約構造を形成できるという知見を得た。さらに、この構造体に、滑り運動を生じさせる条件を付与することで、これらタンパク質間相互作用による滑り運動を生じさせ、さらに、構造体において収縮等の運動を誘起させ得るという知見を得た。本明細書の開示は、これらの知見に基づき以下のとおり提供される。
【0011】
本明細書の開示によれば、三次元表面を有する微小キャリアと、前記微小キャリアの表面に一端が固定された1又は2以上の第1のタンパク質と、を有する第1のユニットと、前記第1のタンパク質に対して滑り運動を発現する第2のタンパク質を2以上有する第2のユニットと、を含有する、組成物が提供される。
【0012】
前記滑り運動は、前記第2のタンパク質が前記第1のタンパク質の自由端側から固定端側に向かう滑り運動とすることができる。また、2以上の前記第1のタンパク質の他端は前記微小キャリアの外側を指向していてもよい。さらに、異なる第1のユニットの前記第1のタンパク質が、前記第2のユニットを介して連結された構造を有していてもよい。さらにまた、前記第1のユニットは、3以上の前記第1のタンパク質が固定された前記微小キャリアを含有し、複数の前記第1のユニットが前記第2のユニットを介して連結した3次元ネットワーク構造を有していてもよい。
【0013】
前記第2のユニットは、2以上の前記第2のタンパク質が固定された微小キャリアを含有していてもよい。前記第1のタンパク質は、アクチンフィラメント、微小管及びこれらを構成するタンパク質から選択される1種又は2種以上とすることができる。このとき、前記第2のタンパク質は、ミオシン及びミオシンフィラメントから選択される1種又は2種以上とすることができる。さらに、前記第1のタンパク質はアクチンフィラメントであり、前記微小キャリアの表面に前記アクチンフィラメントのプラス端と特異的に結合する第3のタンパク質を介して前記微小キャリア表面に固定されているものであってもよい。この態様において、前記第3のタンパク質はゲルソリンとすることができる。さらにまた、前記第1のタンパク質が微小管及びその構成タンパク質から選択される1種又は2以上とすることができる。このとき、前記第2のタンパク質は、キネシン及びダイニンから選択される1種又は2種以上とすることができる。前記第1のタンパク質は微小管であり、前記微小キャリアの表面に前記微小管のプラス端と特異的に結合する第3のタンパク質を介して前記微小キャリア表面に固定されているものであってもよい。この態様において、前記第3のタンパク質はγ−チューブリン(リングコンプレックス)とすることができる。
【0014】
前記微小キャリアが以下の(1)〜(4)からなる群から選択される1種又は2種以上とすることができる。
(1)少なくとも、金属、金属酸化物、磁性体、半導体及びセラミックスからなる群から選択される1種又は2種以上からなる微粒子を含む無機材料粒子
(2)プラスチック粒子を含有する有機材料粒子
(3)予め高分子量の有機分子が結合された前記(1)又は(2)の微粒子。
(4)脂質二分子膜からなる、球状、管状又は平面状の微粒子。
【0015】
また、前記微小キャリアは、光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生じる光応答性成分を含有する光応答性材料とすることができる。さらに、前記微小キャリアがアゾベンゼン骨格を含む高分子材料を含有するものであってもよい。さらにまた、本組成物は、水分を含有するゲル状体であってもよい。
【0016】
本明細書の開示によれば、光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生じる光応答性成分を含有する光応答性材料を、少なくとも表面に有する微小キャリアと、前記微小キャリアの表面に一端が固定され、他端が前記微小キャリア表面から外方を指向する2以上の第1のタンパク質と、を含有する、組成物が提供される。前記第1のタンパク質は、アクチンフィラメント及び微小管を構成するタンパク質から選択される1種又は2種以上とすることができる。また、前記第1のタンパク質はアクチンフィラメントであり、前記微小キャリアの表面に前記アクチンフィラメントのプラス端と特異的に結合するアクチンフィラメント特異的結合タンパク質を介して、前記第1のタンパク質が固定されていてもよい。さらに、前記アクチンフィラメント特異的結合タンパク質はゲルソリンとすることができる。前記第1のタンパク質は微小管であり、前記微小キャリアの表面に前記微小管のプラス端と特異的に結合する第3のタンパク質を介して前記微小キャリア表面に固定されているものであってもよい。この態様において、前記第3のタンパク質はγ−チューブリン(リングコンプレックス)とすることができる。
【0017】
本明細書の開示によれば、液状媒体中で、前記第1のユニットと前記第2のユニットとを接触させる工程、を備える、本組成物の製造方法が提供される。
【0018】
本明細書の開示によれば、上記組成物を含み、上記組成物に対して1又は2以上の化合物を供給することにより駆動される、デバイスが提供される。前記化合物は、ATP又はCaged-ATPとすることができる。また、人工筋肉や調光デバイスとして利用できる。
【0019】
本明細書の開示によれば、タンパク質の力学的特性の評価キットであって、三次元表面を有する微小キャリアと、微小キャリアの表面に一端が固定された第1の比験タンパク質と、を有する第1のユニットを有する、キットが提供される。さらに、このキットは、前記第1の比験タンパク質に対して滑り運動を発現可能な第2の比験タンパク質を2以上有する第2のユニットと、を有していてもよい。さらに、本明細書の開示によれば、三次元表面を有する微小キャリアと、微小キャリアの表面に一端が固定され、滑り運動の発現に関与する第1のタンパク質と、を有する第1のユニットを有する、タンパク質の力学的特定の評価キットも提供される。
【0020】
本明細書の開示によれば、タンパク質の力学的特性の評価方法であって、上記キットを用いて、キット中のタンパク質による滑り運動を生じさせて前記滑り運動を検出する工程、を備える方法が提供される。本評価方法においては、前記検出工程は、微小キャリアを捕捉可能な光ピンセットを用いる工程とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】組成物によるタンパク質間の相互作用を利用した運動の集約/出力機構の一例を示す図であり、図1(a)には、本組成物における第1のユニット及び第2のユニットの一例を示し、図1(b)には、筋肉組織中のアクチン−ミオシン複合体であるサルコメアを示す。
【図2】組成物によるタンパク質間の相互作用を利用した運動の集約/出力機構の一例を示す図であり、図2(a)には、本組成物が会合状態にあるときの、第1のユニットと第2のユニットとが形成する集合体を示し、図2(b)には、図1(a)の集合体における滑り運動の発現及び収縮運動の誘起状態を示す。
【図3】ゲルソリンの光固定化濃度とアクチンフィラメントの付着濃度との関係示す(a)とアクチンフィラメントの蛍光顕微鏡観察結果を示す図である。
【図4】両端を蛍光色素で標識したアクチンフィラメントの蛍光色素の方向の確認によるアクチンフィラメントの極性配向制御の確認結果を示す図である。
【図5】基板上における両端を蛍光色素で標識したアクチンフィラメントの蛍光顕微鏡観察結果を示す図である。
【図6】アゾポリマー微小球へのアクチンフィラメントを固定した星型構造体の蛍光顕微鏡観察結果を示す図であり、図6(a)はゲルソリンを用いてアクチンフィラメントを固定した微小球の観察結果を示し、図6(b)はゲルソリンを光固定しない以外は同様に操作した微小球の観察結果を示す。
【図7】星型構造体とミオシンミニフィラメントの複合体に対してATPを供給したときの微小球の蛍光顕微鏡観察結果を示す図である。
【図8】微粒子への抗体固定量を蛍光強度で評価した結果を示す図である。
【図9】微粒子へ固定した抗体の活性を蛍光強度で評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書の開示は、生体におけるタンパク質間の相互作用に基づく運動を利用するための組成物、当該組成物の製造方法、当該組成物を有するデバイス、キット、当該組成物を利用した評価方法等に関する。
【0023】
本明細書に開示される組成物によれば、第1のユニットと、第2のユニットと、を含有することから、一定条件下、これらタンパク質は会合して、第1のユニットが第2のユニットを介して集約した集合体を形成できる。また、本組成物によれば、一定条件下、これらタンパク質間の相互作用としての滑り運動を生じさせることができる。そして、本組成物によれば、生じた滑り運動により集合体において収縮や膨張等の運動を誘起させることができる。したがって、本組成物によれば、生体におけるタンパク質間の相互作用を利用した運動を集約して外部出力することができる。
【0024】
本明細書に開示される組成物によるタンパク質間の相互作用を利用した運動の集約/出力機構の一例を図1及び図2を参照して説明する。この例は、タンパク質間相互作用による滑り運動を収縮運動として外部に出力する機構に関している。図1(a)には、本組成物における第1のユニット及び第2のユニットの一例を示す。この第1のユニットにおいては、球状の微小キャリアの表面にアクチンフィラメントのプラス端が固定され、各アクチンフィラメントのマイナス端が自由端として微小キャリア表面から外方を指向するように放射状に固定されている。また、第2のユニットは、アクチンフィラメントと相互作用して滑り運動を生じるミオシンヘッドを有する第2のタンパク質を有している。ここで、図1(b)には、筋肉組織中のアクチン−ミオシン複合体であるサルコメアを示す。サルコメアにおいては、アクチンフィラメントのマイナス端が自由端となっており、ミオシンフィラメントと2つのアクチンフィラメントのマイナス端とが会合した状態となっている。そして、ATPが供給されることで、ミオシンフィラメントのミオシンヘッドの立体構造が変化してミオシンフィラメントがアクチンフィラメントのマイナス端からプラス端へと移動する滑り運動を生じ、結果としてアクチンフィラメントがプラス端からマイナス端へと移動してミオシンフィラメントのマイナス端同士が近接するという滑り運動を生じ、全体として収縮が誘起される。ここで、図1に示す第1のユニットに対して第2のユニットを供給すると、一定条件下で、図2(a)に示す会合状態を形成し、第1のユニットと第2のユニットとが集約した集合体を形成する。なお、この集合体は、タンパク質がその活性を発揮可能な条件下、すなわち、所定の液状媒体の存在下に形成されている。そして、さらに、ここにATPを供給すると、図2(b)に示すように、マイナス端が近接する滑り運動を生じ、最終的には、微小キャリア間距離が縮まるような収縮が集合体に誘起されることになる。このように、本組成物によれば、第1のユニット及び第2のユニットとから会合体を形成することで、これらのユニット内のタンパク質間相互作用による滑り運動を生じさせ集約して外部に出力することができる。
【0025】
本明細書の開示によれば、また、光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生じる光応答性成分を含有する光応答性材料を、少なくとも表面に有する微小キャリアと、前記微小キャリアの表面に一端が固定され、他端が前記微小キャリア表面から外方を指向する2以上の第1のタンパク質と、を含有する、組成物が提供される。本組成物によれば、こうした第1のユニットを有するため、前記第1のタンパク質に対して滑り運動を発現する第2のタンパク質を2以上有する第2のユニットを供給すると、これらのユニットの会合体を容易に形成できる。
【0026】
以下、本明細書の開示に関する各種実施形態について適宜図面を参照しながら説明する。
【0027】
(組成物)
本明細書に開示される組成物は、第1のユニットと、第2のユニットとを含有している。
【0028】
(第1のユニット)
(微小キャリア)
第1のユニットは、三次元表面を有する微小キャリアを有している。微小キャリアは、第1のタンパク質を固定できる三次元表面を有しており、第1のユニット及び第2のユニットの会合を妨げないで会合体を構築できるものであれば特に限定されない。微小キャリアが有する三次元表面の形状は特に限定しないで、球状、柱状、不定形状、管状、平板状等が挙げられる。第1のユニット及び第2のユニットによる会合体形成能を考慮すると、球状等の対称形状であることが好ましい。また、表面積が大きい点及び第1のタンパク質の固定化量を増大しやすい点からも球状が好ましい。
【0029】
微小キャリアの材質は特に限定されない。金属、金属酸化物、磁性体、半導体、セラミックス及びガラスからなる群から選択される1種又は2種以上を含む無機材料を含んでいてもよい。また、例えば各種プラスチックを含む有機材料を含んでいてもよい。さらに、これらの無機材料と有機材料の双方を含んでいてもよい。さらに、こうした粒子表面には、分散性、親水性及び親油性等を調整するための界面活性剤や樹脂等の有機分子が結合されたものであってもよい。さらに、微小キャリアにあっては、脂質二分子膜も材料となりうる。こうした脂質二分子膜も、球状、管状、平板状等の各種三次元表面形状を有するキャリアを構成できる。
【0030】
第1のタンパク質の固定を考慮すると、微小キャリアは、光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生じる光応答性成分を含有する光応答性材料を、少なくとも表面に有することが好ましい。こうした光応答性材料を表面に有することで、第1のタンパク質を当該表面に配して、分子構造の変化又は分子配列の変化を生じさせる光を照射することで、第1のタンパク質を前記表面に固定することができる。こうした光固定によれば、第1のタンパク質の固定操作による変性や活性低下を回避又は抑制して、第1のタンパク質を微小キャリアに固定できる。また、光固定によれば、第1のタンパク質に対して配向性を付与することができるため、滑り運動を発現するタンパク質の固定化に好ましい。
【0031】
光応答性成分としては、例えば、公知の光異性化成分を用いることができる。光異性化成分としては、例えばトランス−シス光異性化を生じる成分、特に代表的にはアゾ基(−N=N−)を有する色素構造、なかでも、アゾベンゼン骨格やその誘導体の構造を持つ成分が挙げられる。
【0032】
光応答性材料は、光応答性成分を含有する他は、有機材料、無機材料、有機−無機複合材料等材料を問わないが、当該材料において光変形を生じさせる観点からは、可塑性を有する材料であることが好ましく、より好ましくは可塑性を有する高分子材料又は高分子材料を含む複合材料であることが好ましい。光応答性材料は、光応答性材料の材料を構成する高分子材料の一部(主鎖、側鎖あるいは修飾基)としてアゾベンゼン骨格などの光応答性成分を含有することができる。この場合、高分子材料としては、特に限定しないで、ビニル系樹脂やポリウレタン等各種の高分子材料を用いることができるが、構成単位中にウレタン基,ウレア基,又はアミド基を含んだものが、更には高分子の主鎖中にフェニレン基のような環構造を備えたものが、耐熱性の点では好ましい。
【0033】
本明細書の開示において使用可能な光応答性材料としては、例えば、特開2003−329682号公報、特開2004−93996号公報、特開2004−251801号公報,特開2006−321719号公報に記載の担体や光固定化材料を用いることができる。また、本明細書には、これらの公報に記載されるすべての事項が引用により取り込まれるものとする。
【0034】
光応答性材料は、光応答性成分をそのマトリックスに添加物(ドーパント)として含有していてもよい。こうしたマトリックス材料としては、上記した各種高分子材料が好ましく用いられる。なお、光応答性材料としては、この他、イオウ,セレン及びテルルのいずれかと、ゲルマニウム,ヒ素及びアンチモンのいずれかとが結合した構造を含みカルコゲナイトガラスと総称されるもの等の無機材料も使用できる。
微小キャリアがアゾベンゼン骨格を含む高分子材料を含有することが好ましい。
【0035】
微小キャリアの大きさは、特に限定されないが、例えば、第1のタンパク質を固定化する観点から、10nm以上100μm以下とすることができる。より好ましくは、10nm以上10μm以下である。
【0036】
(第1のタンパク質)
第1のタンパク質は、特に限定しないで、相互作用により少なくとも一方の滑り運動を生じさせることができる2種類以上のタンパク質の組み合わせのうちの滑り運動における固定体(レール)又は滑り運動における移動体(モータータンパク質)となるタンパク質であればよい。なお、滑り運動の方向性は特に問わないで、後述する第2のタンパク質が第1のタンパク質の自由端側から固定端側に向かう滑り運動であってもよいし、その逆方向であってもよい。本組成物による集合体に収縮運動を誘起させたい場合には、第2のタンパク質が第1のタンパク質の自由端側から固定端側に向かう滑り運動であることが好ましい。こうした滑り運動を生じさせる場合には、第1のタンパク質のどの端部(例えば、プラス端とマイナス端)を微小キャリアに固定するかで調整することができる。
【0037】
タンパク質間の相互作用により滑り運動を生じるタンパク質の組み合わせは、通常、生理的条件下で自己集合して滑り運動可能に会合することができる。
【0038】
こうしたタンパク質としては、例えば、本発明の構造体によれば、アクチンフィラメント又はアクチン、ミオシンフィラメント又はミオシン、各種チューブリンなどの微小管の構成タンパク質及びそのモータータンパク質(キネシン、ダイニン)などの細胞骨格タンパク質が挙げられる。第1のタンパク質は滑り運動のレールとして機能するタンパク質であることが好ましい。第1のタンパク質は、微小キャリアに固定されるため、微小キャリアの運動が本組成物による集合体構造の運動を規定することになるからである。こうした第1のタンパク質としては、アクチン、アクチンフィラメント、チューブリン、微小管が挙げられる。ここで、アクチンは、螺旋状の多量体を形成してマイクロフィラメントの1種であるアクチンフィラメントを構成する球状タンパク質として知られており、G−アクチンとも称される。各種のアクチンがあることが知られている。また、アクチンフィラメントは、こうしたアクチンの重合体であって糸状の重合体である。チューブリンは、微小管を構成するタンパク質であり、α、β及びγがあることが知られている。微小管は、チューブリンは、通常、αチューブリンとβチューブリンが結合したヘテロ二量体を基本ユニットとして繊維状に連結したプロトフィラメントがらせん状に集合した構造を有している。微小管及び微小管構成タンパク質には、微小管結合タンパク質などの微小管及び微小管構成タンパク質以外のタンパク質を含んでいてもよい。
【0039】
第1のタンパク質は、微小キャリアの表面にその一端が固定されている。微小キャリアに固定される第1のタンパク質の種類や個数は特に限定されないが、同種のモータータンパク質に対応するレールタンパク質であることが好ましい。また、第1のタンパク質は、複数が微小キャリアに固定されていることが好ましい。第1のタンパク質は、一端が微小キャリアに固定され他端が自由端として微小キャリア表面に付着などしないで微小キャリアの外側を指向していることが好ましい。こうした固定状態であると、第2のタンパク質と会合し集合体を形成しやすく、滑り運動を生じやすいからである。
【0040】
3以上の第1のタンパク質が微小キャリアに固定されていることが好ましい。微小キャリアに第1のタンパク質が3以上固定されることで、第2のユニットとともに微小キャリアを起点とする三次元ネットワーク構造を有する集合体構造を容易に形成することができるからである。こうしたネットワーク構造は、集合体の形状維持及び滑り運動の外部出力に適している。
【0041】
第1のタンパク質の微小キャリアへの固定手段は特に限定しない。共有結合を利用してもよいし、水素結合、疎水結合、イオン結合等の各種相互作用を利用してもよい。こうした結合を形成するには、必要に応じ微小キャリアの表面への修飾等が必要になるが、固相表面へのタンパク質の結合は当業者であれば適宜実施することができる。第1のタンパク質の微小キャリアへの固定方法は、すでに説明したように、光応答性材料を少なくとも表面に有する微小キャリアを用い、当該表面に対して第1のタンパク質を光固定することが好ましい。光固定によれば、第1のタンパク質の活性の低下を回避又は抑制して微小キャリアに固定することができる。
【0042】
微小キャリアへの固定に際し、第1のタンパク質がレールとなるタンパク質であるとき、第1のタンパク質の極性が考慮される。第1のタンパク質のプラス端が微小キャリアに固定されるとき、モータータンパク質である第2のタンパク質が第1のタンパク質の自由端側から固定端側に向かう滑り運動を生じさせることができる。こうした態様は、本組成物による集合体構造の収縮に好適である。第1のタンパク質のマイナス端が微小キャリアに固定されるとき、第2のタンパク質が第1のタンパク質の固定端から自由端に向かう滑り運動を生じさせることができる。こうした態様は、本組成物による集合体構造の膨張に好適である。
【0043】
こうした第1のタンパク質の極性を考慮して微小キャリアに第1のタンパク質を配向固定するには、第1のタンパク質が種類が考慮される。例えば、第1のタンパク質がアクチンフィラメントであるとき、微小キャリアの表面にアクチンフィラメントのプラス端と特異的に結合する第3のタンパク質を介して微小キャリア表面に固定される。こうしたタンパク質としては、アクチン調節タンパク質の一種であるゲルソリンを用いることができる。アクチン調節タンパク質ゲルソリンは、アクチン線維の切断(Severing)、およびその末端の保護(Capping)という、2つのアクチン重合調節機能を持つタンパク質である。例えば、ゲルソリンをあらかじめ微小キャリア表面に固定しておき、こうした状態でアクチンフィラメントを供給してゲルソリンとアクチンフィラメントを会合させて、所定の条件を付与すると、ゲルソリンはアクチンフィラメントのプラス端側を切断しその端部をキャップする。ゲルソリンが微小キャリア表面に固定されているため、結果として、プラス端が微小キャリア表面に固定されることになる。また、第1のタンパク質が微小管であるとき、同様の第3のタンパク質として、微小キャリアの表面に微小管の一方の端と特異的に結合するγ−チューブリン(リングコンプレックス)を用いることができる。
【0044】
(第2のユニット)
第2のユニットは、第1のタンパク質に対して滑り運動を発現する第2のタンパク質を2以上有することができる。第2のタンパク質を2以上有することで、異なる第1のユニットの第1のタンパク質が、第2のユニットを介して連結された構造を有する集合体を得ることができる。すなわち、2以上の第2のタンパク質と会合して、第1のユニットとともに集合体構造を形成することができ、滑り運動を生じさせることができる。
【0045】
第2のタンパク質は、第1のタンパク質に対して滑り運動を発現するタンパク質であれば特に限定されない。第1のタンパク質がレールとなるタンパク質であるとき、第2のタンパク質は、モータータンパク質となる。こうした第2のタンパク質としてはアクチンフィラメントに対するモータータンパク質であるミオシン、ミオシンフィラメント、微小管のモータータンパク質であるキネシンやダイニンが挙げられる。
【0046】
第2のユニットは、こうした第2のタンパク質を2つ以上備えている。第2のユニットは、両端部にそれぞれミオシンヘッドを有するように会合したミオシンフィラメントの会合体が好ましい。また、2以上の第2のタンパク質が適当なキャリア、例えば、上記したような微小キャリアに固定されたものであってもよい。微小キャリアに固定する場合の固定手段や固定態様は特に限定されない。2以上の第2のタンパク質が固定されていれば、第1のユニットとの三次元ネットワーク構造の形成が容易になる。
【0047】
以上のような第1のユニット及び第2のユニットには、必要に応じ、アクチンやミオシン等のレールタンパク質とモータータンパク質以外に、各種アクチンフィラメント結合タンパク質、アクチン調節タンパク質などを備えていてもよい。例えば、トロポミオシン、フィンブリン、α−アクチニン、フィラミン、ゲルゾリン、スペクトリンなどを備えることもできる。
【0048】
本組成物は、第1のユニットと第2のユニットを含有するが、これらを含有し、これらが一定の会合体を形成するとき、滑り運動を生じ、かつ当該運動に基づく運動を外部に出力できる構造を有する集合体を形成できる。当該集合体は、水性媒体を包含したゲル状体であることが好ましい。ゲル状体とするには、第1のユニットと第2のユニットとが会合する会合体自体の構造によって水性媒体を包含してゲル状体となっていてもよいし、適当なゲル化剤によりゲル状体となっていてもよい。ゲル化剤による場合は、本組成物による集合体による運動を妨げない弾性等を有している必要がある。本組成物による集合体がゲル状体のような固形物体を形成することで、滑り運動を外部に出力しやすい形態とすることができる。特に、本組成物が第1のユニットとして複数の好ましくは多数の第1のタンパク質が固定された微小キャリアを含有するとき、ゲル化しやすい三次元ネットワーク構造体を形成することができる。なお、ゲル状体を形成するとき、内包される水性媒体は、水のほか、タンパク質の活性を妨げない程度の塩濃度、pHを有している。水性媒体に必要に応じ、高分子材料、界面活性剤及び溶剤等を含むこともできる。
【0049】
本組成物は、また、後述するように、アクチュエーター等として利用することから、ゲル状体形成時におけるゲル強度、弾性及び粘性等を制御するために必要な添加剤を含んでいてもよい。こうした添加剤としては、高分子材料などの有機材料、無機材料の微粒子、有機溶剤、界面活性剤等が挙げられる。また、ゲル化剤自体を含んでいてもよい。
【0050】
本明細書に開示される組成物の他の一つの形態は、光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生じる光応答性成分を含有する光応答性材料を、少なくとも表面に有する微小キャリアと、前記微小キャリアの表面に一端が固定され、他端が前記微小キャリア表面から外方を指向する2以上の第1のタンパク質と、を含有することができる。こうした組成物は、上記した第2のユニットを含有しないが、第2のユニットと接触されることで、第1のユニットと第2のユニットとの会合体を形成でき、結果として、滑り運動を生じさせたとき、それに基づく運動を外部出力することができる。
【0051】
(組成物の製造方法)
本明細書に開示される組成物の製造方法は、液状媒体中で、微小キャリアの表面に一端が固定された1又は2以上の第1のタンパク質を有する第1のユニットと、第1のタンパク質に対して滑り運動を発現する第2のタンパク質を2以上有する第2のユニットと、を接触させる工程を備えることができる。本明細書に開示される組成物の製造方法によれば、容易に第1のユニットと第2のユニットとを会合させて滑り運動により運動を外部に出力できる集合体としての組成物を得ることができる。
【0052】
第1のユニットは、すでに説明した方法によって取得することができる。第2のユニットは、例えば、第2のタンパク質であるミオシンフィラメントの会合体であってもよいし、微小キャリアに対して第2のタンパク質を固定したものであってもよい。第1のユニットと第2のユニットとを接触する条件は、特に限定されないが、アクチンフィラメントなどの第1のタンパク質とミオシンフィラメントなどの第2のタンパク質とが自己集合可能な条件であればよい。アクチンフィラメントとミオシンフィラメントとは、水溶液中で例えば、自己集合してアクトミオシンを形成することが知られている。したがって、水、及び第1のタンパク質及び第2のタンパク質を変性させない公知の緩衝液であれば、これらを接触させたとき、会合体となった本組成物を容易に得ることができる。
【0053】
(デバイス)
本明細書に開示されるデバイスは、第1のユニット及び第2のユニットを含んで会合状態、特にゲル状体の組成物を含み、組成物に対して1又は2以上の化合物を供給することにより駆動されるデバイスとすることができる。本組成物を会合状態とすることで、組成は、滑り運動を生じさせたとき、集合体に滑り運動に基づく運動を誘起させることができる。第1のタンパク質及び第2のタンパク質としてアクチン−ミオシン相互作用による滑り運動を利用するとき、化合物としては、ATPやCaged-ATPなどの誘導体が挙げられる。
【0054】
こうしたデバイスは、アクチュエーターとして利用できる。本デバイスは、ゲル状体がアクチュエーターとなることから、ソフトアクチュエーターとして機能する。したがって、人工筋肉としても利用できる。また、こうしたデバイスは、三次元表面を有する微小キャリアをコロイド粒子とみなすことで、調光デバイスとして利用できる。すなわち、微小キャリアの表面に固定化した第1のタンパク質等によって周期構造を作製できるとともに、第1のタンパク質と第2のタンパク質との間の滑る運動を誘起することでコロイド粒子とみなすことのできる微小キャリア間距離を任意に制御できる。この結果、デバイスは、制御光波長を任意に変化させられる調光デバイスとして利用可能となる。例えば、赤外線の透過と反射とを外部刺激により制御可能な赤外線反射膜などの調光デバイスとして利用可能となる。本デバイスが調光デバイスを用途とするとき、微小キャリアの材料は特に限定されないが、タンパク質の固定化の観点からは、少なくともその表層に光応答性材料を有することが好ましく、なかでも、コロイド粒子の作製の容易さや光学的に透明性が高いことから、高分子材料やカルコゲナイトガラス等を好ましく用いることができる。
【0055】
本明細書の開示によれば、こうしたデバイスにATPなどの化合物を供給して、運動を出力させるデバイスの駆動方法も提供される。
【0056】
(タンパク質の力学的特性の評価のためのキット及び評価方法)
本明細書の開示によれば、タンパク質の力学的特性の評価キットであって、三次元表面を有する微小キャリアと、微小キャリアの表面に一端が固定された第1の比験タンパク質と、を有する第1のユニットを有する、キットが提供される。本キットによれば、第1の比験タンパク質を評価対象とし、第1のユニットに、第1の比験タンパク質に対して滑り運動を発現可能な第2のタンパク質を2以上有する第2のユニットを供給して、これらを会合して集合体とさせた上、ATP等の滑り運動発現のための化合物を供給することで第1の比験タンパク質の滑り運動の発現能、発現形態、発現量等についての評価を行うことができる。さらに、第1の比験タンパク質の第2のタンパク質と組み合わせたときの、集合体としての運動の出力能、出力形態、出力量や等についての評価を行うことができる。
【0057】
また、本明細書の開示によれば、三次元表面を有する微小キャリアと、微小キャリアの表面に一端が固定された第1の比験タンパク質と、を有する第1のユニットと、この第1の比験タンパク質に対して滑り運動を発現可能な第2の比験タンパク質を2以上有する第2のユニットと、を有する、タンパク質の力学的特性の評価キットも提供される。本キットは、第1の比験タンパク質と第2の比験タンパク質を評価対象とし、これらの比験タンパク質によって発現される滑り運動の発現能等、ひいては集合体として運動の出力能、出力形態及び出力量を評価することができる。
【0058】
さらに、本明細書の開示によれば、三次元表面を有する微小キャリアと、微小キャリアの表面に一端が固定され、滑り運動の発現に関与する第1のタンパク質と、を有する第1のユニットを有する、タンパク質の力学的特定の評価キットも提供される。本キットは、第2のタンパク質を比験タンパク質としており、第1のユニットに対して、第2の比験タンパク質を2以上有する第2のユニットを供給することで、第2の比験タンパク質の第1のタンパク質に対する滑り運動発現能、発現形態、発現量等についての力学的評価を行うことができる。さらに、集合体としての運動の出力能等についても評価することができる。
【0059】
さらにまた、本明細書の開示によれば、タンパク質の力学的特性の評価方法であって、本明細書に開示されるキットを用いて、キット中の比験タンパク質による滑り運動を生じさせて前記滑り運動を検出する工程、を備える方法が提供される。本評価方法においては、前記検出工程は、微小キャリアを捕捉可能な光ピンセットを用いる工程とすることができる。光ピンセットによれば、微小キャリアを容易に捕捉でき、滑り運動を容易にかつ精度よく検出できる。
【0060】
本キット及び評価方法によれば、比験タンパク質について、レールタンパク質及び/又はモータータンパク質としての力学的特性、さらには集合体としての力学的特性を評価することができる。本キット及び評価方法によれば、第1のユニットと第2のユニットとの会合体を利用して複雑な構造体の構築を要することなく力学的特性を評価するものであるため、新規に取得したタンパク質につきその力学的特性を簡易にかつ再現性よく評価することができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0062】
(アソポリマーフィルムへのゲルソリンの光固定及びアクチンフィラメントとの反応の確認)
(1)アゾポリマースライドの作製
光応答性材料として、以下の式で表される、アゾ色素を有するアクリル系アゾポリマー(重量平均分子量41300、数平均分子量22800)を用いた。本ポリマーをピリジンに所定量溶解し、スピンコーターにてガラス基板上に所定回転数でコーティングを行いフィルム化した。なお、膜厚は約40nmであった。
【0063】
【化1】

【0064】
(2)蛍光標識アクチンフィラメントの作製
AlexaFluor647蛍光色素で標識されたG-actin(G−アクチン)(Actin from rabbit muscle,AlexaFluor647、Invitrogen社製、A34051)をG-buffer (General actin buffer) (以下、G-バッファ)(Tris-HCl buffer (和光純薬、207-15141)(5mM)、CaCl2(0.2mM)、Dithiothreitol(DTT)(和光純薬、592-03951)(1mM))で1mg/mlになるように調製した。この溶液にKClを100mMの濃度となるように加え室温で4時間保持した。さらに、Phal1oidin(Invitrogen社、P3457)をG-アクチンと等モル量となるように添加したものを、4℃の冷蔵庫に一晩保管して重合した。次に、重合したアクチンフィラメントを超遠心機による精製を行った。精製はアクチンフィラメントを重合した溶液に、100mMのKClを含むG-バッファを加えて軽く撹拝し、5倍に希釈した。超遠心機はベックマン多機能超遠心機(Beckman社、OptimaTMXL-90 Ultracentrifuge)を使用し、ローターはType50.4Tiを用いた。この溶液を28000rpm、4℃で1時間遠心沈降したところ、容器の底にペレットが得られた。上澄み液を除去し、100mMのKClを含むG-bufferを加えて再度除去し、容器壁の不純物を除いた。最後に100mMのKClを含むG-bufferを適量加えた後、ピペットの先でペレットを押し潰すように撹搾して、精製したアクチンフィラメント溶液を得た。タンパク質濃度は吸収スペクトル測定(NanoDrop社製、ND-1000)で測定した。
【0065】
(3)基板上へのゲルソリンの光固定化とアクチンフィラメントの付着
(1)で作製したアゾポリマースライド(計4枚)上にCover Well(商標)Perfusion chamber(Grace BioLabs社、PC8R-0.5)(以下、パーフージョンチャンバーA)を装着した。これにゲルソリン(Gelsolin, HumanPlasma、Cytoskeleton社、HPG5-B)を、反応バッファ(50mM Tris pH7.6、0.1mM CaCl2、0.1mM MgCl2、30mM NaCl、1mM DTT)で、各種濃度(0、0.5、1、3、5、10、30、50μg/m1)に希釈した溶液を、各濃度に対してそれぞれセル4個に約35μ1ずつ注入し、溶液が乾燥しないように、片面が透明のアクリル板でできたチャンバー(TeleChem社Hybddization Casette)中に保持し、Lumifix(青色LEDアレイ、睦コーポレーション社、波長470nm、強度約10mW/cm2)を用いた光照射を30分間行った。その後反応バッファでセル内の溶液を35μ1ずつ3回置換することで洗浄を行った。BSA溶液(1mg/mlの濃度となるように反応バッファに溶解した)で、各セル内を35μ1ずつ3回置換した後、チャンバー中でLumifixによる光照射を10分間行った。反応バッファでセル内の溶液を35μ1ずつ3回置換することで洗浄を行った後、アクチンフィラメントを反応バッファで4種類の濃度(50、100、200、300μg/ml)に希釈した溶液をゲルソリンの各光固定化濃度それぞれ4個のセル35μlずつ2回注入した後、暗所で乾燥しないように30分反応させた。その後、G-バッファで各セル内を35μ1ずつ2回置換して洗浄し、G-バッファ溶液中でパーフージョンチャンバーAを外した後、ローテーター(目盛:0.5)で3分洗浄し、MilliQで軽く流して、N2吹き付けによる乾燥を行った。
【0066】
(4)アゾスライド表面のアクチンフィラメント付着量の測定
蛍光検出は共焦点レーザー顕微鏡(アフィメトリクス社:428 Array Scanner)を用いて行った。解析は付属ソフトImageneVer.4、2を用いた。結果を図3に示す。図3に示すように、ゲルソリンの光固定化濃度と、反応させるアクチンフィラメントの濃度との間で良好な相関関係が得られた。F-アクチンの付着量はゲルソリンの光固定化濃度が3μg/mlまでは低いが濃度が高くなるに従い増加しており、30μg/mlで最大となった。しかし、50μg/mlでは逆に付着量の低下がみられた。一方、反応させるアクチンフィラメントの濃度については濃度が高くなるに従い付着量が増加していく傾向がみられたが、200μg/m1周辺で飽和することがわかった。以上の結果から、アゾポリマー表面へのアクチンフィラメントの付着は、アゾポリマーに固定化したゲルソリンとの反応によるものであり、表面のゲルソリンの光固定化濃度との間に相関性があることが支持された。
【実施例2】
【0067】
(アクチンフィラメントの配向制御の確認)
(1)アゾポリマーカバーガラスの作製
ガラス基板として、カバーガラス(松浪Neo 24x60mm)の表面を3−アミノプロピルエトキシシラン(APS,東京化成)でコート処理を施したものを用いた以外は、アゾポリマースライドの作製方法と同様のプロセスで行った。
【0068】
(2)2種類の蛍光色素で標識したアクチンフィラメントの作製
AlexaFluor488蛍光色素で標識されたG−アクチン(Actin from rabbit muscle,AlexaFluor647、Invitrogen社製、A34051)を用いて蛍光標識アクチンフィラメントの作製を行い、50μg/mlの濃度に調整した。この溶液にAlexaFluor647蛍光色素で標識されたG−アクチンを30μg/mlの濃度になるように加えて、KCl濃度が100mMになるように調整した後、加えたAlexaFluor647蛍光色素で標識されたG−アクチンと等モル量になるようにファロイディンを添加した。4℃の冷蔵庫に一晩保管して重合することで2種類の蛍光色素で標識したアクチンフィラメント(マイナス端がAlexaFluor488で標識され、プラス端がAlexaFluor647で標識されている。)を作製した。
【0069】
(3)配向固定基板の作製
アゾポリマースライドガラス上にCover Well(商標)パーフージョンチャンバー(Grace BioLabs社、PC4L-0.5)(パーフージョンチャンバーB)を装着した。これに反応バッファで1μg/mlに希釈したゲルソリン溶液を、約70μ1注入し、乾燥しないようにパーフージョンチャンバーB中で、Lumifixによる光照射を30分間行った。その後反応バッファでセル内の溶液を70μ1ずつ3回置換することで洗浄を行った。BSA溶液(1mg/mlの濃度となるように反応バッファに溶解した)で、セル内を70μ1ずつ3回置換した後、再度、チャンバー中でLumifixによる光照射を10分間行った。反応バッファでセル内の溶液を70μ1ずつ3回置換することで洗浄を行った後、反応バッファで30μg/mlに希釈したアクチンフィラメントを注入した後、暗所で乾燥しないように30分間反応させた。パーフージョンチャンバーBを装着した状態で、基板をDIPコーターにセットし、G−バッファを入れたビーカーに浸漬した。溶液中でパーフージョンチャンバーを静かに外し、DIPコーターにより20μm/sの速度で引き上げた。この方法(DIP法)によれば、引き上げ時に生じるせん断力を利用して引き上げ方向に沿って、アクチンフィラメントを固定することができる。
【0070】
(配向固定したアクチンフィラメントの観察)
作製した基板を共焦点レーザー顕微鏡システム(Nikon社、DIGITAL ECLIPSE C1)に載せて、アゾポリマー表面に焦点を合わせた。励起光は488nm及び640nmのレーザー光源を使用した。アクチンフィラメントの両端の蛍光色素の方向の比率を調べた結果を図4に示す。また、その観察像を図5に示す。これらの結果から、ゲルソリンを利用してアクチンフィラメントを結合させることで、アクチンフィラメントの極性配向を制御できていることがわかった。
【実施例3】
【0071】
(アゾポリマー微小キャリアを用いた星型構造体の作製)
(1)アゾポリマー微小球の作製
アゾ色素を有するアクリル系アゾポリマー(重量平均分子量41300、数平均分子量22800)を用いた。テフロンコートしたスターラーチップを入れたサンプル瓶(容量:9ml、内径:18mm、開口部の内径:10mm)に、2mgのアゾポリマーと4mlのテトラヒドロフラン(THF)を加え、完
全に溶解した。そこに、溶液を撹拝しながら、lmlのイオン交換水を1ml/分の速度で滴下した。滴下終了後撹拝を止め、ドラフト中に静置し室温、常圧下でTHFを自然乾燥させた。ほぽすべてのTHFが蒸発するには、72時問必要であった。得られた分散溶液中の微粒子を、走査型電子顕微鏡(明石製作所、SIGMA-V)を用いてSEM観察を行った。観察の結果、アゾポリマー微粒子の平均粒径が約4μmであることがわかった。
【0072】
(2)アゾポリマー微小球へのゲルソリンの光固定化およびアクチンフィラメントの結合
アッセイバッファを以下の通り作製した。200μ1の1M HEPES Buffer Solution(和光純薬、345-06681)、100μ1の2.5M KC1、50μ1の1M MgC12、100μ1の100mMDTTを混合し、ミリQ水で合計10mLとした。
【0073】
500μ1のエッペンチューブに20μ1のアゾポリマー微小球の溶液を取り、190μ1の反応バッファを加えて軽くvoltex(商標)で混合した。これを冷却遠心機(eppendorf社、5417R)で3000rpm、4℃で5分間遠心を行い、アゾポリマー微小球を沈降した。上澄みを200μ1除去した後、反応バッファを180μ1加えて軽くvoltexで混合した。ここに400μg/mlに調整したゲルソリン溶液を10μl加えて軽くvoltexで混合した後、実施例1と同様にしてLumifixで光照射を30分間行った。その後、冷却遠心機で3000rpm、4℃で5分間遠心を行い、アゾポリマー微小球を沈降した後、上澄みを190μ1除去した。次にBSAを1mg/mlの濃度で溶解した反応バッファ溶液を190μ1加えて軽く撹拝した後、実施例1と同様にしてLumifixで光照射を10分間行った。冷却遠心機で3000rpm、4℃で5分間遠心を行い、アゾポリマー微小球を沈降後、上澄みを190μ1除去した。ここに反応バッファを80μ1加え、さらに1mg/mlの蛍光標識アクチンフィラメントを10μ1加えて、軽く撹拌、混合した後、室温、暗所で30分間反応させた。冷却遠心機で3000rpm、4℃で5分間遠心して、アゾポリマー微小球を沈降した。この上澄み液を除去後、反応バッファを加えて軽く撹拌・混合後遠心するプロセスを複数回行い、アゾポリマー微小球と結合していないアクチンフィラメントを除き、アクチンフィラメントとを結合させたアゾポリマー微小球を得た。
【0074】
(星型構造体の観察)
カバーガラス(松浪Neo 24mm x 24mm)の両端に両面テープ(3M社)を貼り付けた。上記カバーガラスをカバーガラス(松浪Neo 24 mm x 60mm)上に貼り付け、フローチャンバーを作製した。フローチャンバーの片側の開放端に、20μ1のBSA溶液(1mg/mlの濃度となるようにアッセイバッファに溶解した)をのせ、毛細管現象によりチャンバー内に浸透するのを待った。フローチャンバーを傾けて、上側の開放端に50μ1のアッセイバッファを滴下し、チャンバー内に浸透させ、反対側の開放端から出てくる溶液をろ紙で吸い取った。この操作により、ガラスの表面をBSAでブロッキングを行い、微小球やアクチンフィラメントが非特異的吸着をするのを防ぐようにした。次いで、フローチャンバーを傾けて、上側の開放端に作製した星型構造体を含む溶液20μ1を滴下し、チャンバー内に浸透させた。反対側の開放端から出てくる溶液をろ紙で吸い取った。顕微鏡システム(Nikon社、倒立型顕微鏡、ECLIPSE TE2000-U)にフローチャンバーをのせて焦点を合わせた。蛍光顕微鏡カメラ(浜松ホトニクス社、EM-CCDカメラ、ImagEM C9lOO-13)を使用し、画像取得ソフトは同社のHard Disk Recording software(HDR)を使用した。観察像を図6に示す。図6(a)に示すように、アゾポリマー微小球の表面から、アクチンフィラメントが放射状に結合している様子が観察され、星型構造体が得られたことを確認できた。なお、ゲルソリンを光固定しない以外は、実施例と同様に操作した微小球については、アクチンフィラメントは観察できなかった(図6(b))。
【実施例4】
【0075】
(星型構造体とミオシンミニフィラメントとの複合体作製および収縮運動の確認)
(1)ミオシンミニフィラメントの作製
イミダゾール系バッファを以下の通り作製した。200μ1の1Mイミダゾール(和光純薬、091-00012)、100μ1の2.5M KCl、40μ1の1M MgCl2、100μ1の100mM DTTを混合し、ミリQ水で合計10mLとした。500μ1のエッペンドルフチューブに190μ1のイミダゾール系バッファを入れた。ここに市販のMyosin(コスモバイオ、PZMMW20000(24mg/ml))10μ1を加えて、ピペットの先で撹拌した後、氷上で20分程度静置した。冷却遠心機で5000rpm、4℃で30分間遠心を行い、上澄み液100μ1を採取した。タンパク質濃度を吸収スペクトルで測定したところ、遠心前では約lmg/m1の溶液であったが、遠心後エッペンドルフチューブの底に白い沈殿物が生じ、上澄み液において約0.2 mg/mlのミオシンミニフィラメント溶液を得た。
【0076】
(2)複合体作製及び収縮運動の確認
作製したアクチンフィラメントを結合したアゾポリマービーズ溶液100μ1をエッペンドルフチューブにとり、ここにミオシンミニフィラメント溶液を2μ1ずつ加えてピペットの先で軽く撹拌した。6〜8μ1加えたところで溶液中に均一に分散していた微小球が、凝集体になっているのを確認できた。カバーガラス(松浪Neo 24mm x 60mm)上にパーフージョンチャンバーAを装着した。ここにBSA溶液(1mg/mlの濃度となるようにイミダゾール系バッファに溶解したもの)を注入し、5分間BSAブロッキングした後、イミダゾール系バッファで置換した後、作製した複合体溶液を注液した。顕微鏡システム(Nikon社、倒立型顕微鏡、ECLIPSE TE2000-U)にフローチャンバーをのせて焦点を合わせた。蛍光顕微鏡カメラ(浜松ホトニクス社、EM-CCDDカメラ、ImagEM C9100-13)を使用し、画像取得ソフトは同社のHDRを使用した。光源は弱い透過光を用いた。約16mMにイミダゾール系バッファで希釈したATP(コスモバイオ、BSAO4001、100mM Stock Solution)溶液1μlをパーフージョンチャンバーAの穴から注入した。ATP添加後の微小球の観察をステージ温度30℃で行った。結果を図7に示す。
【0077】
図7に示すように、観察の結果、ATPを添加することにより明らかに微小球同士が収縮し、微小球間の距離が縮まっていく様子が観察された。このことは、アゾポリマー微小球に結合したアクチンフィラメントが、ミオシンミニフィラメントと相互作用可能な状態で結合され
ており、さらにアクチンフィラメントの極性が制御されていることにより、ミオシンミニフィラメントがアクチンフィラメントの自由端側からアゾポリマー微小球上の固定された端部に向かって滑り運動を発現することにより、複合体構造の収縮運動が誘起されることを支持した。
【実施例5】
【0078】
(アゾポリマー微粒子の抗体固定特性の確認)
アゾポリマー微粒子の抗体固定特性を、既存のタンパク質固定用微粒子であるポリスチレン微粒子と比較した。
【0079】
[アゾポリマー微粒子(Azo微粒子)]
実施例3で作製したアゾポリマー微粒子を用いた。微粒子の平均粒径は3.9μm、粒径の標準偏差は0.76μmであった。水分散液のアゾポリマー濃度は、2mg/mlであった。
[ポリスチレン微粒子(PS微粒子)]
ポリスチレン微粒子(PS微粒子)はPolysciences,Inc,社製のPolybeadPolystyreneMicrospheres(2.5%Solids-Latex)を使用した。微粒子の粒径は3.0μmで、濃度は26,3mg/ml(水分散液)であった。
[抗体]
微粒子に固定る抗体および抗原抗体反応用の抗原として、以下の2種類の抗体を使用した。
(1)抗ヤギーウサギ抗体(anti-goat-IgG)
Anti-IgG(H+L), Goat, Rabbit-Poly、Bethyl Laboratories,Inc,製A50-100Aのlmg/ml PBS溶液
(2)Cy5標識ヤギ抗体(Cy5-goat-IgG)
Anti-IgG(Fc), Mouse, Goat-Po1y, Cy5、CHEMICON Intemat cm a1,Inc.製AP127S のlmg/ml MilliQ溶液
【0080】
(1)微粒子のCy5蛍光強度測定
松浪硝子工業製のNEOカバーグラス(24mm×60mm、CO24601)に、角カバーグラス(20mm×20mm、CO22221)を厚みが約80μmの両面テープを用いて貼り付け、セルを作製した。セル内に準備した各微粒子の分散液を20μ1程度注入し、微粒子がガラス表面に接触して動かなくなるまで5分程度静置した。セルを、浜松ホトニクス製の蛍光顕微鏡(ORCA-1394)にセットし、100倍の対物レンズを用いて、微粒子のCy5蛍光像を撮影した。得られた観察像をImage J(フリーソフト)を用いて解析し、各微粒子のCy5蛍光強度の平均値を測定した。ここでは、微粒子を複数個測定しそれらの平均値と標準偏差を算出した。
【0081】
(2)抗体固定量の比較
Azo微粒子とPS微粒子の抗体固定量を比較するために、蛍光標識した抗体を用いてそれぞれの微粒子に対して以下のプロトコールに従い抗体固定実験を行った。蛍光標識した抗体として、Cy5-goat-IgGを使用し、抗体固定量を評価した。図8に微粒子のCy5蛍光強度の平均値と標準偏差のグラフを示す。図8に示すように、Azo微粒子の蛍光強度は、PS微粒子の約1.8倍であり、Azo微粒子はPS微粒子に比べ、より多くの抗体を固定できることがわかった。プロトコールを以下に示す。
【0082】
[プロトコール]
1.微粒子分散液と抗体溶液の混合
500μ1の透明マイクロチューブに、微粒子濃度が100μg/m1、Cy5-goat-IgG濃度が100μg/m1のPBS分散液を100μ1作製した。
2.微粒子への抗体の固定
(1)Azo微粒子への光固定
微粒子分散液をマイクロチューブに入れた状態で、マイクロチューブ越しに青色LED(パワー密度:約20mW/cm2)の光を1時間照射した。Azo微粒子が光照射中に沈殿するので、20分ごとに撹拝して再分散させた。
(2)PS微粒子への抗体の吸着
微粒子分散液を室温、暗所で1時間静置した。PS微粒子が沈殿するので、20分ごとに撹拝して再分散させた。
3.洗浄
マイクロチューブを遠心分離機(エッペンドルフ製、5417R、F45-30-11)にセットし、5000rpmで5分間遠心分離し、微粒子を沈殿させた。上澄み液を90μ1取り除いた後、0.01%のTween20(非イオン性界面活性剤)を含んだPBS(0.Ol%TPBS)を90μ1加えて、微粒子を分散させた。これを合計4回繰り返した。
4.蛍光強度測定
洗浄した微粒子のCy5蛍光強度を測定することにより、Cy5-goat-IgGの固定量を評価した。
【0083】
(3)抗体活性の比較
Azo微粒子およびPS微粒子に固定された抗体の活性を評価するため、抗体を光固定し、蛍光標識した抗原との抗原抗体反応を以下のプロトコールに従い行った。ここでは、抗体としてanti-goat IgG、抗原としてCy5-goat-IgGを使用した。微粒子のCy5蛍光強度の平均値と標準偏差のグラフを図9に示す。図9に示すように、いずれの微粒子に固定されたanti-goat IgGも活性を有しており、Cy5-goat IgGと反応していることがわかった。また、Azo微粒子の蛍光強度は、PS微粒子の約3倍であり、Azo微粒子は固定化量が多いほか、固定化量を差を超えて良好な抗体活性を示すことがわかった。以下にプロトコールを示す。
【0084】
[プロトコール]
1.微粒子分散液と抗体溶液の混合
500μ1の透明マイクロチューブに、微粒子濃度が100μg/ml、anti-goat-IgG濃度が100μg/m1のPBS分散液を100μ1作製した。
2.微粒子への抗体の固定
固定化量比較時のプロトコールと同様に操作した。
3.洗浄
固定化量比較時のプロトコールと同様に操作した。
4.BSAブロッキング
5000rpmで5分間遠心分離して微粒子を沈殿させた。上澄み液を90μ1取り除いた後、1%BSAのPBS溶液を90μ1加え撹拌した。室温、暗所で30分間静置した後、上記と同様な手法により洗浄を行った。本実施例では、BSAブロッキング処理を行った試料と行っていない試料を作製した。
5.抗原抗体反応
各試料に、Cy5-goat-IgG濃度が10μg/m1になるようにCy5-goat IgG溶液を加えて撹拌した。室温、暗所で30分間静置して、抗原抗体反応を行った。
6.洗浄
固定化量比較時のプロトコールと同様に操作した。
7.蛍光強度測定
洗浄した微粒子のCy5蛍光強度を測定することにより、微粒子上での抗原抗体反応を評価した。
【0085】
以上のように、アゾポリマー微粒子は、ポリスチレン微粒子に比べ抗体固定量が多く、さらに固定化された抗体の活性の比較から、アゾポリマー微粒子上に固定化された抗体の安定性も高いという結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元表面を有する微小キャリアと、前記微小キャリアの表面に一端が固定された1又は2以上の第1のタンパク質と、を有する第1のユニットと、
前記第1のタンパク質に対して滑り運動を発現する第2のタンパク質を2以上有する第2のユニットと、
を含有する、組成物。
【請求項2】
前記滑り運動は、前記第2のタンパク質が前記第1のタンパク質の自由端側から固定端側に向かう滑り運動である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
2以上の前記第1のタンパク質の他端は前記微小キャリアの外側を指向している、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
異なる前記第1のユニットの前記第1のタンパク質が、前記第2のユニットを介して相互に連結された構造を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記第1のユニットは、3以上の前記第1のタンパク質が固定された前記微小キャリアを含有し、複数の前記第1のユニットが前記第2のユニットを介して連結した3次元ネットワーク構造を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記第2のユニットは、2以上の前記第2のタンパク質が固定された微小キャリアを含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記第1のタンパク質は、アクチンフィラメント及び微小管を構成するタンパク質から選択される1種又は2種以上であって、前記第2のタンパク質は、前記第1のタンパク質がアクチンフィラメントを構成するタンパク質であるとき、ミオシン及びミオシンフィラメントから選択される1種又は2種以上であり、前記第1のタンパク質が微小管を構成するタンパク質であるとき、前記第2のタンパク質はキネシン及びダイニンから選択される1種又は2種以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記第1のタンパク質はアクチンフィラメントであり、前記微小キャリアの表面に前記アクチンフィラメントのプラス端と特異的に結合する第3のタンパク質を介して前記微小キャリア表面に固定されている、請求項1〜7の記載の組成物。
【請求項9】
前記第3のタンパク質はゲルソリンである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記微小キャリアが以下の(1)〜(4)からなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1〜9のいずれかに記載の組成物。
(1)少なくとも、金属、金属酸化物、磁性体、半導体及びセラミックスからなる群から選択される1種又は2種以上からなる微粒子を含む無機材料粒子
(2)プラスチック粒子を含有する有機材料粒子
(3)予め高分子量の有機分子が結合された前記(1)又は(2)の微粒子。
(4)脂質二分子膜からなる、球状、管状又は平面状の微粒子。
【請求項11】
前記微小キャリアは、光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生じる光応答性成分を含有する光応答性材料を有する、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
前記微小キャリアがアゾベンゼン骨格を含む高分子材料を含有する、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
水分を含有するゲル状体である、請求項1〜12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生じる光応答性成分を含有する光応答性材料を、少なくとも表面に有する微小キャリアと、
前記微小キャリアの表面に一端が固定され、他端が前記微小キャリア表面から外方を指向する2以上の第1のタンパク質と、
を含有する、組成物。
【請求項15】
前記第1のタンパク質は、アクチンフィラメント及び微小管を構成するタンパク質から選択される1種又は2種以上である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記第1のタンパク質はアクチンフィラメントであり、前記微小キャリアの表面に前記アクチンフィラメントのプラス端と特異的に結合するアクチンフィラメント特異的結合タンパク質を介して、前記第1のタンパク質が固定されている、請求項14又は15に記載の組成物。
【請求項17】
前記アクチンフィラメント特異的結合タンパク質はゲルソリンである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれかに記載の組成物の製造方法であって、
液状媒体中で、前記第1のユニットと前記第2のユニットとを接触させる工程、を備える、製造方法。
【請求項19】
請求項1〜13のいずれかに記載の組成物を含み、前記組成物に対して1又は2以上の化合物を供給することにより駆動される、デバイス。
【請求項20】
前記化合物は、ATP又はCaged-ATPである、請求項19に記載のデバイス。
【請求項21】
人工筋肉である、請求項19又は20に記載のデバイス。
【請求項22】
調光デバイスである、請求項19又は20に記載のデバイス。
【請求項23】
タンパク質の力学的特性の評価キットであって、
三次元表面を有する微小キャリアと、微小キャリアの表面に一端が固定された第1の比験タンパク質と、を有する第1のユニットを有する、キット。
【請求項24】
さらに、前記第1の比験タンパク質に対して滑り運動を発現可能な第2の比験タンパク質を2以上有する第2のユニットと、を有する、請求項23に記載のキット。
【請求項25】
タンパク質の力学的特定の評価キットであって、
三次元表面を有する微小キャリアと、微小キャリアの表面に一端が固定され、滑り運動の発現に関与する第1のタンパク質と、を有する第1のユニットを有する、キット。
【請求項26】
タンパク質の力学的特性の評価方法であって、
請求項23〜25のいずれかに記載のキットを用いて、前記キット中のタンパク質による滑り運動を生じさせて前記滑り運動を検出する工程、を備える方法。
【請求項27】
前記検出工程は、微小キャリアを捕捉可能な光ピンセットを用いる工程である、請求項26に記載の方法。

【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−178692(P2011−178692A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42871(P2010−42871)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】